10月23日の日本外国特派員協会の記者会見において,菅首相により日本学術会議会員への任命を拒否された6名がそろって意見表明を行った。記者会見に参加したのは芦名定道・京都大教授(宗教学),岡田正則・早稲田大教授(行政法学),及びオンラインで,小沢隆一・東京慈恵会医科大教授(憲法学),松宮孝明・立命館大教授(刑事法学)。また,宇野重規・東京大教授(政治思想史)と加藤陽子・東京大教授(日本近代史)はメッセージで意見を明らかにした。
加藤陽子さんのメッセージは東京新聞の記事になっているが,これを引用しておく。
今回の任命拒否を受けて感じたのは第1に,2011年施行の公文書管理法制定まで有識者として関係してきた人間として,法解釈の変更なしには行えない違法な決定を菅義偉首相がなぜ行ったのか,意思決定の背景を説明できる決裁文書があるのか、政府側に尋ねてみたい。
任命拒否の背景を考える際に留意すべきなのは,拒否された6人全員が学術会議第1部(人文・社会科学)の会員候補だったこと。日本の科学技術の生き残りをかけるため1995年に制定された重要な法律に科学技術基本法というものがあるが,この法は今年25年ぶりに抜本的に改正され「科学技術・イノベーション基本法」となった。改正前の法律では「人文・社会科学」は,科学技術振興策の対象ではなかった。つまり法律から除外されていた分野だった。しかし,新法では人文・社会科学に関係する科学技術を法の対象に含めることになった。
世の中のSNS上では「役に立たない学問分野の人間が切られた」との冷笑的な評価があったが,真の事態は全く逆で,人文・社会科学の領域が,新たに科学技術政策の対象に入ったことを受けて,政府側が改めてこの領域の人選に強い関心を抱く動機づけを得たことが事の核心にあると,私は歴史家として考える。新法の下では,内閣府の下に「科学技術・イノベーション推進事務局」が司令塔として新設されるという。自然科学に加えて,人文・社会科学も「資金を得る引き換えに政府の政策的な介入」を受ける事態が生まれる。
日本の現在の状況は,科学力の低下,データ囲い込み競争の激化,気候変動を受け「人文・社会科学の知も融合した総合知」を掲げざるを得ない緊急事態にあり,ならば,その領域の学術会議会員に対して,政府側の意向に従順でない人々をあらかじめ切っておく事態が進行したと思う。
「科学技術」という日本語は,意外にも新しい言葉であり,1940年8月,総力戦のために科学技術を総動員した際に用いられ始めた言葉だった。このたび,政府は「科学技術・イノベーション」という新しい言葉を創ったが,国民からの負託がない,官僚による科学への統制と支配は国民の幸福を増進する道ではない。私は学問の自律的な成長と発展こそが,日本の文化と科学の発展をもたらすと信じている。
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