2019年5月14日火曜日

重力界

電磁気学の勉強をしていて,なかなか良い本が見つからない。静電場をクーロンの法則から始めるるところは問題ないが,静磁場の場合にこれをビオ・サバールの法則と対応させるのはどうも気に入らない。そういう意味では,まずアンペールの法則をもってきた前野昌弘さんの「よくわかる電磁気学」や高橋和孝さんの「電磁気学基礎」,独自路線で進む岡部洋一さんの「電磁気学」がありがたい。

さて,岡部先生のテキストでは,導入部分に次の話題がある。
「電磁気学(electro-magnetism)は電荷(electric charge)同士に働く力と、磁石(magnet)の磁極(magnetic pole)同士に働く力の解析から形成されていった。前者は電場(electric field)、後者は磁場(magnetic field)である。また合わせて電磁場(electro-magnetic field)という。なお、これらは物理系の呼び方であって、工学系では電界(electric field)、磁界(magnetic field)、電磁界(electro-magnetic field)という。私は工学系なので、電界・磁界と呼びたいところであるが、個人的趣味によって電場・磁場を用いる。分野によって用語が異なるは不幸なことであるが、分野ごとに長い歴史を背負っているので、簡単には統一できないのが実状である。」
高等学校の教科書では,電場・磁場と電界・磁界は併記され,我々が作る問題では,必ず電場・磁場を使うようにしていた。ところで,工学系の人は,重力場を重力界とよぶのだろうか?どうやらそうではないようだ。重力界を google やCiNii で検索してみると次のことがわかった。

(1) 「重力界と電磁気界の完全統一理論: 進化したアインシュタインの等価性理論」などのような怪しい物理学の関連書では使われることがある。また,こうしたフレーバーを持つ文芸作品(ライトノベル,SF)にも影響しているようだ。

(2) 日本物理教育学会では,1983年の物理教育委員会の物理教育用語集最終報告で,当分の間使ってもよい用語とされた(物理教育 1983 年 31 巻 3 号 p. 132-157)。
 重力場,〈重力界〉  gravitational field

(3) 古い時代の方々で若干の使用例がみられた。
・柏木聞吉(東京学芸大学附属高等学校):高校生のための「相対性理論」
物理教育学会誌第11巻第3号 93-99(1963)
・オットー・シュピィクラー:エジプトの天びんにおける平衡状態の決定
計量史研究 第1巻第2号 59-63 (1979) (これは翻訳者の用語選択の問題だ)
・松下重悳(まつしたしげのり 1936-):ヒモ理論(うつせみ 2004年12月5日)

松下さんは,日本のコンピュータのパイオニア70名にも選ばれている元東芝の技術者であり,1995年から現在まで,毎月1回のペースで続いている随筆シリーズ「うつせみ」が何だか面白い。インターネットマイニングの醍醐味はこうした珍しい原石を発掘することである。

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