2022年7月12日火曜日

参院選(2022)の結果

投票日2日前の安倍晋三の暗殺事件は,マスメディアで増幅・浄化されて有権者の投票行動に一定程度の影響を及ぼしたようだが,ビッグウェーブではなかった。淡々と事前予想通りの自民・公明・維新の大勝となった。

・憲法改正のための2/3を越えたということが強調されていたが,そもそも,国民民主党が寝返った選挙前からその状況は大きく変わっていない。参議院総議席数の2/3である164人を余裕で越える180人程度(さらに隠れ改憲派と無所属が加わる)はいる。ウダウダいっている公明党がブレーキにならないのは安全保障法制のときと同じだろう。

・マスコミに焚きつけられて野党共闘を放棄した立憲民主党が大敗することは火をみるより明らかだった。新潟の森ゆう子も山梨も岩手も落としてしまった(小沢系の完全凋落)。対統一教会のキーパーソンの有田芳生も欠くことになる。立憲民主党だけでなく,日本共産党の比例区得票率もどんどん下降している。この結果,大門実紀史(1956-)が落選してしまった。東京選挙区の山添拓(1984-)はセーフだったけれど。

日本維新の会は,比例区で自民の4割をこえる票を集め議席を倍増した。不幸中の幸いは,東京,京都,福岡,愛知,広島,埼玉の各選挙区での進出を阻止できたことだ。安倍効果で維新から自民にシフトしたのかもしれない。松井と吉村が来月にトップを下りるというのが不気味な動きだ。これで前原と融合して保守二大政党を目指すというのは悪夢だ。

社会民主党福島瑞穂(1955-)はかろうじで滑り込み,政党要件は確保された。れいわ新選組はブームが去って伸び悩んでいるが,これが,NHK党や参政党の健闘とリンクしているのかどうかはわからない。NHK党がYouTuberのガ—シーを立てて,でたらめな宣伝を繰り返していたが,選挙ウォッチャーのちだいさんによれば,それが世の中の多数派に受け入れられている(おもしろければよいという)常識らしい。

・問題は,柳田さんも警告してくれていた参政党だ(それまでは泡沫政党だと誤認していた)。排外主義右翼+トンデモオーガニック信仰(有機農法・反ワクチン)のソフト非主流右翼路線で,十分に資金投入されて組織的かつ合理的な選挙活動を展開した結果,比例区得票率3%で1議席を確保し,あっというまに政党要件を満たしてしまった。

・宮田輝や高橋圭三からはじまるタレント候補は,アナウンサー/キャスター候補からはじまり,スポーツ選手候補や元アイドル候補を経由して。漫画家/YouTuber 候補へと進化していくのだろうか。

投票率 54.7%→48.8%→52.1%
議席数 総数 242→245→248

     2/3  162→164→164    比例区政党得票率
    自民 124→113→119 (+6)  自民   35.9→ 35.4→  34.4 (1826万=18)
    公明   25→  28→  27 (-1)   公明   13.5→ 13.1→  11.7 (  618万= 6)
    維新   13→  16→  21 (+6)  維新     9.2→   9.8→  14.8 (  785万= 8)
    N国  0→ 1→  2 (+1)    N国     0→   2.0→    2.4 (  125万= 1)
    参政  0→ 0→  1 (+1)    参政     0→      0→    3.3 (  177万= 1)
    国民   23→  21→  10 (-2*)  国民   (21.0)→   7.0→   6.0 (  316万= 3)
    立憲   24→  32→  39 (-6*)  立憲   (21.0)→ 15.8→ 12.8 (  677万= 6)
    社民  2→ 2→  1  (±0)    社民     2.7→   2.1→   2.4 (  126万= 1)
    共産   14→  13→  11 (-2)    共産   10.7→   9.0→   6.8 (  362万= 3)
    れいわ 1→ 2→  5 (+3)     れいわ (1.9)→   4.6→   4.4 (  232万= 2)
    無所属  12→  17→  12 (-3)
    欠員  4→ 0→  0
    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
    改憲派 162+α → 179+β → 180+γ

2022年7月11日月曜日

テロリズムの定義

7月8日,週刊誌でスキャンダルが暴露された候補者がいる長野選挙区での応援を急遽取りやめて,それほど接戦が伝えられているわけでもない,政調会長高市早苗の地元奈良選挙区へ遊説にきた安倍晋三(1954-2022)が,近鉄大和西大寺駅前の演説会場で銃撃され心肺停止状態となった。その後,平城宮跡からドクターヘリで救急搬送され,5時間後に奈良県立医大附属病院で失血死した。地元のニュースにはついつい反応してしまう。

安倍晋三は自分よりちょうど1歳下で,誕生日も1日違いなので,どうも自分と性格が似ているように思えてならない。困ったものだ。NHKをはじめとしてマスコミは安倍の所業の負の側面には一言も触れず,その「功績(今でも異論があり歴史の評価に堪えられない)」をこれでもかと褒め称えることに終始していて気が滅入る。しかも喪服モードだよ。中曽根康弘(1918-2019)や石原慎太郎(1932-2022)のときよりたちが悪いかもしれない。

1980年の参議院選挙中に首相の大平正芳(1910-1980)が亡くなった。このとき自民党が大勝したように,今回も(そうではなくても自民・公明・維新が優勢だと伝えられている)同じ轍を踏みそうである。安倍晋三は,生前だけでなく死後にも日本社会に大きなダメージを与えるのか。希望が不在のパンドラの箱(希望カードは野党解体に使われてしまった)が開いてしまった。「安倍さんの悲願の憲法改正と防衛費倍増を!」というスローガンが目に浮かぶ。

マスコミや政治家の定型的なコメントでは,「このテロは言論の自由に対する挑戦だ」というような表現が使われている。しかし,これまで奈良県警から断片的に漏れてくる情報では,政治的なテロではないし,言論封殺を狙ったものでもない。政治家に対する暴力の連鎖がテロを誘導するといえばそうだろうし,宗教団体に対する局所テロとはいえるのかもしれないが。

2017年の逢坂誠二(1959-)の国会での質問主意書によれば,日本の法律上のテロリズムの定義は次のようなものである。

警察庁組織令第三十九条では、テロリズムの定義として、「テロリズム(広く恐怖又は不安を抱かせることによりその目的を達成することを意図して行われる政治上その他の主義主張に基づく暴力主義的破壊活動をいう。)」と規定されている。

特定秘密の保護に関する法律第十二条第二項では、テロリズムの定義として、「テロリズム(政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう。)」と規定されている。

容疑者が犯罪の動機としたのが「安倍と宗教団体との密接な関係が原因であり,安倍の政治信条への恨みからではない」からだとすれば,社会に不安若しくは恐怖を与える目的がないことは明らかなように(現時点では)思える。

トロツキズムテロリズムヘイトクライムなどの言葉が意味をずらして,レッテリングに使われることには注意が必要だ。言論封殺が好きなのは,憲法改正で基本的人権の剥奪を目論んだ(でいる最中の)自民党右派の皆さんのはずなのに,安倍の死を逆手にとって,民主主義を守れというあやしげな選挙前キャンペーンを振りまいている。

P. S. まだ事件の全体像がはっきりしていない中,選挙前の7月9日のNHKスペシャルで「安倍元首相 銃撃事件の衝撃」が放送された。Twitterでは,選挙前に他にやることがあるだろうと非難轟々だった。これまでの映像材料をかき集めてざっくりと編集しただけの番組に,御厨貴(1951-)をよんできて,暴力で言論がゆがめられてはいけないとしゃべらせていた。今回の事件の本質の一つであるカルトと政治の関係にはまったく迫れていない。


写真:J. W. ウォーターハウスのパンドラ(Wikipediaから引用)

[1]「宗教団体の名前を伏せる」「各局揃って喪服」……「安倍元首相銃撃事件」テレビ報道への4つの“違和感”(鎮目博道)

[2]アベさんに対する銃撃について思うこと(小出裕章)

2022年7月10日日曜日

参院選の投票率

三春充希(1988-)は,高卒認定試験から東大に入学し,大学院で天体物理を専門とした。ちくま新書の「武器としての世論調査」の著者であり,未来選挙プロジェクトの代表である。

政党支持率の推移を調査して,継続的にfacebookに公開している。また,選挙期間中は,各メディアによる全候補者の情勢を集約して提供している。彼が,衆議院選挙や参議院選挙の投票率の傾向を分析したのが,ちくまwebの特集『武器としての世論調査』リターンズ−2022年参院選編−の記事になっていた[1][2][3]。

最近の国政選挙の投票率を分析して,(1) 最低水準の維持(1990年まで),(2) 投票率の崩壊(1990~1996年頃),(3) 長期低落傾向(2000年頃~)の3つのフェーズに分けた。さらに,(2) の1990年代の投票率の崩壊が都市部で起こっていることを示した。その原因の一つは1994年の衆議院における小選挙区比例代表並立制の導入だ。

それだけでは長期低落傾向は説明できず,バブル崩壊後に投票率も崩壊していることから,ロストジェネレーション就職氷河期の世代(1993-2005年卒=1970-1980年生まれ)以降が政治の空白域を産み出して,それが世代進行しているとした。新聞・テレビからも離れていく世代の政治意識はどのように構築されるのだろうか。

図1:参院選の投票率の推移(ちくまwebから引用)

図2:年代別の政党支持率(ちくまwebから引用)

[1]「今」にいたる世論(三春充希)
[2]野党共闘はどこへ(三春充希)
[3]投票率の底から(三春充希)

2022年7月9日土曜日

KCN 光1G

フレッツ光 vs eo光 からの続き

あっというまに,9ヶ月過ぎていた。マンションの春の理事会で,KCNのインターネットが光に 切り替わるというアナウンスがあり,5月ごろに受付が始まった。早速申し込んだところ,6月に訪問調査があり,7月8日に開通することになった。

これまでは,TVの共聴同軸ラインから分配したものをモデム経由で無線ルータ(AirMac)に繋いでいた。今回は,NTTの電話線の配管に光ファイバーを通して,電話線の出口あたりからONUに入って無線ルータに繋げることになる。そこで,AirMacの設置場所も電話機の位置に移動するわけで,やや面倒なことになったのだが,ONUはとてもコンパクトだったので,壁に取り付けるまでもなかった。

光ファイバーの引き込みとONUへの接続に1時間ほどかかって作業が終り,KCNさんの端末では接続が確認された。ただし,クレームを避けるためか,速度測定はしてくれなかった。

入線担当グループはMacの設定についてはちょっと不安があるようで,KCNの別担当が工事終了後にくることになっていた。それまでに,自分でAirMacに結線して確認したところ,特別な設定なしに問題なく繋がった。肝腎の回線速度だけれど,下りが150Mbps,上りが100Mbpsくらいだ。下りは多少改善された程度だが,上りは20倍程度になったので,zoom会議も安心だ。

KCNの設定担当者がきても特にすることはなく,専用端末を有線でつないで,下り180Mbpsと上り210Mbpsでていますということで終了した。AirMacもかなり古いWifiルーターなので,これを取り換えてもいいかと考えていたが,有線でこの程度ならばあまり御利益はない。

ベストエフォートだし,月々の回線料も安くなったので,まあよしとしよう。問題は夜間の混雑時にどうなるかだ。うちが,マンション内の光回線引き込み工事第1号だったので,今週くらいはまだましかも(P. S. とりあえず夜間のスピードダウンは解消された)。


図:メカニカルストライプの構造(FUJIKURAから引用)


P. S. (7/13/2022 10:00)  ONUから直接Ethernetで接続しようとしてうまくいかず。手動でIPアドレスなどを設定したが端末のネットワーク設定でグリーンランプまでいくがだめ。PPPoEで繋げとかあるけれど,PPPoEはサポートしていないという記述もあり,ONU側はそもそもルータが繋がることしか想定していないのか。そういえば,AirMacの有線ポートが3つあったので試してみると,下り450Mbps,上り380Mbpsを出していた。問題はAirMacの無線の規格が遅いということか。

P. P. S.  たぶん,手元のAirMac(TImeCapsule 802.11n 2nd)は,2009年の2TBモデルではないか。つまり,802.11 a/b/g/n に対応している。いまどきのWiFi-5 802.11acとかWiFi-6 802.11ax 対応にすればもう少し改善されるかもしれない。

2022年7月8日金曜日

latexdiff

latexdiffは,texファイルの差分表示ソフトだ。

latexdiff main1.tex main2.tex > diff.tex
pdflatex diff.tex


下の例題に対する結果は次のようになる。
% main1.tex
\documentclass{article}
\title{ld}
\author{me}
\date{July 2021}
\begin{document}
\maketitle
\section{Introduction}
zzz
\end{document}

% main2.tex
\documentclass{article}
\title{latexdiff}
\author{me\and you}
\date{July 2021}
\begin{document}
\maketitle
\section{Introduction}
zzz zzz
\section{Section}
zzz
\end{document}

図:latexdiffの出力サンプル


2022年7月7日木曜日

最密球充填

フィールズ賞は,4年に一度開催される国際数学者会議(ICM)で,顕著な業績を上げた40歳以下の数学者(2-4名)に与えられる賞だ。初回は1936年だが,第2回の1950年から4年周期が始まっている。

受賞者の日本人は,小平邦彦(1954年),広中平祐(1970年),森重文(1990年)の三人。2014年にイランのマリアル・ミリザハニ(1977-2017)が女性として初めての受賞者となったが,若くしてガんで亡くなっている。2022年の今回,ウクライナのマリナ・ヴィヤゾフスカ(1984-)が二人目の女性受賞者となった。

彼女の業績は,最密球充填に関わるものだ。空間に規則的に球を配置するときの密度の最大値がわかっているものは,1次元(100%),2次元($\frac{\pi}{\sqrt{12}}=0.9068$),3次元($\frac{\pi}{\sqrt{18}}=0.7404$),8次元($\frac{\pi^4}{384}=0.2536$),24次元($\frac{\pi^12}{12!}=0.001929$)だけである。2017年にヴィヤゾフスカは,単独で8次元の問題を,これを応用して連名で24次元の問題を解決した。

3次元の問題の証明は,ケプラー予想とよばれ,17世紀のヨハネス・ケプラーの時代から考えられてきた。1998年に,トーマス・ヘイルズが解決したが,250ページの手稿と10万個の線形計画問題を解くコードとデータ3ギガバイトを必要とした。その後,コンピュータによる形式的証明を援用して証明を完全なものにした。一方,ヴィヤゾフスカの論文は,普通の理系の大学生でも読めそうな式を20ページほど並べるだけでこれを解決してしまった。


写真:新潮文庫のケプラー予想の書影(Amazonから引用)

[1]8次元と24次元の球充填問題の解決(tsujimotter)

2022年7月6日水曜日

まひるの月を追いかけて:恩田陸

昔,最も多いときは,年に100冊近く本や雑誌を買っていたかもしれない。ところが,最近,ほとんど本を買わなくなってしまった。通勤帰りに毎日本屋に立ち寄る習慣がなくなったせいだが,そもそも行動範囲内から書店がどんどん消えていることも原因だ。

諸般の事情で少し空き時間があったので,久しぶりに近鉄八木店のジュンク堂書店に立ち寄ると,宮部みゆき(1960-)の文庫新刊「まひるの月をおいかけて」が平積みされていた。手に取って中をパラパラみると,奈良県のあちこちを回る話で,天理という字が目に入ったので思わず買ってしまい,並み居る未読書を差し置いてさっそく読了した。

主人公らは,東京−橿原神宮前駅−橿原神宮−藤原京−今井町−明日香−亀石−橘寺−石舞台−天理駅−山辺の道−長岳寺−大神神社−近鉄奈良駅−奈良公園−新薬師寺−白毫寺−東大寺−法隆寺−中宮寺−飛鳥駅−橘寺と巡り,それにつれて物語が転回していく。

実体験にもとづくような文章だったので,たぶん,宮部みゆきもこのルートを辿ったのだな。天理駅前のビジネスホテルと焼き肉屋はどこだろう。とあらためて本をよく見ると,著者は宮部みゆきではなく,恩田陸(1964-)だった。しかも新刊ではなく,2007年が文庫1刷(単行本は2003年)だ。写真で見る二人の顔形はなんとなく似ているような気がするし,文春文庫の黄色い背表紙をみて条件反射的に宮部みゆきにアサインされていたようだ。奈良のご当地ものということで,書店で平積みされていただけだった。

宮部みゆきは何冊も読んだが,恩田陸は映画化された「夜のピクニック」を始めほとんど読んでいない。ハヤカワSFシリーズということもあって「ロミオとロミオは永遠に」はたぶん買ったような気がするが,期待外れだったので処分してしまった。


写真:まひるの月を追いかけての書影(amazonから引用)

2022年7月5日火曜日

てらまちや風心庵

 日経朝刊の文化欄をみていたら,「かなざわ風鈴」という言葉が目に入った。著者は金沢工業大学の土田義郎先生で,環境心理,サウンドスケープの専門家だ。音が出る玩具や雑貨の収集をはじめていたが,2013年に正方形の紙を組み合わせたかなざわ風鈴を考案した。

2017年には,寺町の町家再生プロジェクトの一環として,古民家を再生したゲストハウス「てらまちや風心庵」をオープンしており,そこで収集した風鈴が展示されている。地図でしらべると,昔,大叔父の越桐與三次郎さん(あじちのおじさん)が住んでいた家の近くだった。数年前に亡くなった母が入院していた石田病院からも近く,新規開店した中華料理屋に入ったが,その数軒となりだ。

1棟貸しで,1泊平日6400円~(5名利用の1名),休前日7949円~(5名利用の1名),風鈴制作・灯り制作1名1600円なのでなかなかリーズナブルかもしれない。


写真:かなざわ風鈴(金沢旅物語から引用)

2022年7月4日月曜日

KDDIの通信障害

 7月2日午前1時35分からau携帯電話などKDDIの回線に通信障害が発生して,最大3900万ユーザに影響が及んだ。障害発生から62時間後の7月4日午後15時00分ごろに全国でほぼ回復したが(輻輳制御を終了した),全面的復旧のアナウンスは7月5日の夕方になりそうだ。

2018年12月6日にソフトバンクの4GLTEで通信障害が発生したときは3000万ユーザに影響があり,障害継続時間は4時間半程度だった。だから,iPhoneがつながらなくて困ったという記憶があまりない(このblogを始める2日前のことだから記録がないだけか)。

KDDIの社長と専務による説明記者会見が,事象収束前の7月3日に実施され,2時間のYouTubeライブとしてアップロードされていた。高橋誠(1961-,横浜国立大工学部金属工学科)KDDI代表取締役社長,吉村和幸(1965-,東京工業大工学部情報工学科)KDDI取締役執行役員専務・技術統括本部長の二人が質問に回答していた。この会見における回答者の質の高さや誠実さについて,ネットでの評判は非常に良かった。

いくつか,気がついたこと

(1) NHK,朝日新聞など主要メディア記者の質問力回答理解力はかなり低い。
(2) 日経コンピュータ,日経BP,一部フリーランスの質問は非常に的確である。
(3) 音声通話用のVoLTE交換機に繋がれたルータを旧から新に切り替えたところ,音声通話に不具合が発生し(ソフトウェア上の問題),ルータを切り戻したが輻輳がはじまった。
(4) この輻輳が,加入者データベースの更新に影響してデータの不整合が生じた。
(5) VoLTE交換機/ルータは全国18台の1台に障害(→ 6台切り離し,9台で運用可能な容量)。協調運用しているので影響が広がったかもしれないが,詳細は分析中。
(6) iOSでは音声がつながらなくてもデータ通信はOKだったが,アンドロイドでは音声がつながらないとデータ通信も接続できない仕様のものが多かったようだ。
(7) 5GやIoTの設備導入が進行していることとは直接関係がない。

なお,データ通信ができても2段階認証でSMSからパスコードを入力しなければならないサービスが多く,VoLTE側が使えないことで結局ダメということが多々あったらしい。

日本ではこのような障害が,2年に1度程度発生しているけれど,公衆電話の撤去には歯止めが必要かもしれない。あるいは,このような障害時に,緊急番号だけは加入者データベースの認証なしでアクセスできる(ただしユーザのログは確保する)ということは可能なのだろうか。

P. S. 7月5日 15:00 24時間トラフィックが先週と同水準であり,完全復旧が宣言された。
P. P. S.  7月5日の2回目の技術担当責任者2名の記者会見では,ローミングの可能性についての質問が多かった。検討中とのこと。総務省はKDDI苛める前にその音頭をとったらどうか。

2022年7月3日日曜日

⊃ ∪ ∩ ⊂ 

連日の熱暑で,干からびかけた奈良公園の鹿がラクダにみえる今日この頃。

WOWOWでデューン砂の惑星の特集をやっていた。原作はフランク・ハーバート(1920-1986)の1965年の作品だ。フランク・ハーバートといえば21世紀潜水艦だったので,ハヤカワ文庫で最初に出版された1973年ごろはまったく関心がなかった。手元にある古書は1982年発行の12刷だったので,たぶん1980年代の中ごろに購入している。読後感は最高で,マイベスト20には確実に入る一冊だ。

特集では,1984年のデヴィッド・リンチ(1946-)監督の「デューン/砂の惑星」,2013年のドキュメンタリー「ホドロフスキーのDUNE」,2021年のドゥニ・ヴィルヌーヴ(1967-)監督の「DUNE/デューン 砂の惑星」が放映された。デヴィッド・リンチ版は日曜洋画劇場でみており,ななかな良かったという印象的がある。このころにハヤカワ文庫版を買ったのかもしれない。

アカデミー賞6部門を受賞した2021年版(2部作の前半だった)は,たしかに美しいのだけれど,デヴィッド・リンチ版の怪しいおどろおどろしさがなく,完全除菌されたような印象だ。キャストも1984年版のほうがよかった。もちろん,1984年版のSFXなど今からみればとても残念な状態ではあった。

WOWOWの特集の中で一番よかったのは,チリに生まれたロシア系ユダヤ人アレハンドロ・ホドロフスキー(1929-)のDUNEだった。1975年にDUNEの制作に着手し,最高のスタッフと出演者を集めながら,

メカデザインにSF画家のクリス・フォス,クリーチャーとキャラクターのデザインと絵コンテにバンド・デシネのカリスマ作家メビウス,特撮担当にダン・オバノン,悪役ハルコンネン男爵の城のデザインにH・R・ギーガーを起用。キャストもハルコンネン役にオーソン・ウェルズ,皇帝役にはサルバドール・ダリ,他にもミック・ジャガーやデビッド・キャラダインなどがキャスティングされた。また,音楽をピンク・フロイドやマグマが製作するなど,各界から一流のメンバーが集められた(Wikipedia から引用)。

1年余りで挫折してしまう。その理由は,ホドロフスキーのシュールレアリスムの芸術性がハリウッドに恐怖心を抱かせたということらしい。プロモーション用の分厚い絵コンテ・デザイン集が若干部印刷されて関係者に配布されていた。古本で出てないか探してみたところ,クリスティーのオークションで,3億ドルの値段がついたらしい。チーン。

ホドロフスキーのDUNEは未完に終ったが,そのスタッフやイメージは,その後のSF映画に多大な影響を及ぼしている。まさに,ホドロフスキーのDUNEで改変された,主人公が死んでもその意識が普遍的に実在化するというストーリーをなぞったものになっていた。


写真:JodorowskyのDUNE デザイン・絵コンテ集/3億ドル(Gigazineから引用)

2022年7月2日土曜日

ζ(2)

リーマンゼータ関数 $\zeta (s) = \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^s}$は,その零点となる$s$が負の偶数と,実部が1/2の複素数に限られるというリーマン予想に結びつく重要な関数であり,数理物理学の難しい議論だけでなく,統計力学の入り口のあたりにも少しだけ登場する。

自由電子気体やデバイ模型のあたりの積分の計算に必要となるのが,$\zeta(2)$や$\zeta(4)$の値だ。ただし,時間がもったいないので,結果だけ与えて終りたくなる。簡単な導出法は,$\sin x $ の級数展開によるもので,バーゼル問題を最初に解いたオイラーの方法だ。

$\sin x = x \Bigl( 1 - \dfrac{x^2}{3!} + \dfrac{x^4}{5!} -\dfrac{x^6}{7!} \cdots \Bigr) = x \ \Pi_{n=1}^\infty  \Bigl( 1- \dfrac{x^2}{n^2 \pi^2} \Bigr)$

ここで,両辺の$\ x^{2n}\ $の係数を比較すると,$\zeta(2n)\ $の値が求まる。例えば,$n=1\ $の場合,$-\frac{1}{6} = - \frac{1}{\pi^2} \Sigma_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2}\ $,すなわち,$\zeta(2) = \frac{\pi^2}{6}$であり,これがバーゼル問題の解であった。

$a_n=\frac{1}{\pi^2 n^2}$とおいて,$\zeta(4)$と$\zeta(6)$の場合を考えてみたい。$\theta_{ij}=1\ {\rm if}\ i<j \quad {\rm otherwise}\ =0$,$\theta_{ijk} = 1 \ {\rm if}\ i<j<k \quad {\rm otherwise}\ =0$として,対称和の一般的な分解方法を考える。

n=2の場合:

$\Sigma_{ij} a_i a_j = \Sigma_{ij} a_i a_j (\delta_{ij} + \theta_{ij}+\theta_{ji}) =  \Sigma_{ij} a_i a_j (\delta_{ij} + 2 \theta_{ij}) $

$+\frac{1}{5!} = \Sigma_{i<j} a_i a_j = \Sigma_{ij} a_i a_j  \theta_{ij}= \Sigma_{ij} a_i a_j  (1-\delta_{ij}) /2 = ( ( \Sigma a_i) ^2 - \Sigma a_i^2 ) /2 $

$\therefore \zeta(4)/\pi^4 = \Sigma a_i^2 = (\frac{1}{6})^2 - \frac{1}{60} = \frac{1}{90}$

n=3の場合:

$\Sigma_{ijk} a_i a_j a_k= \Sigma_{ij} a_i a_j a_k (\delta_{ijk} + 6 \theta_{ijk}+ 3 \theta_{ij}\delta_{jk} + 3 \delta_{ij}\theta_{jk}) $

$-\frac{1}{7!} = -\Sigma_{i<j<k} a_i a_j a_k = -\Sigma_{ijk} a_i a_j  a_k \theta_{ijk} = -\Sigma_{ijk} a_i a_j  a_k \bigl( 1-\delta_{ijk}-3 \theta_{ij}\delta_{jk} - 3 \delta_{ij}\theta_{jk} \bigr ) /6 \\ = -\Bigl ( (\Sigma a_i)^3 -\Sigma a_i^3 - 3 \bigl\{ (\Sigma a_i)(\Sigma a_i^2)-\Sigma a_i^3 \bigr \} \Bigr )/6 $

$\therefore \zeta(6)/\pi^6 = \Sigma a_i^3 = \Bigl ( \frac{6}{7!} - (\frac{1}{6})^3   + 3 \frac{1}{6 \cdot 90} \Bigr ) / 2= \frac{1}{945}$

付録:

$X=(\Sigma a_i) (\Sigma a_i^2) = \Sigma_{ij} a_i a_j^2 = \Sigma_{ij} a_i a_j^2 (\delta_{ij} + \theta_{ij} + \theta_{ji}) = \Sigma a_i^2 + \Sigma_{i<j} a_i a_j^2 + \Sigma_{i<j} a_i^2 a_j $

$Y=\Sigma a_i a_j a_k (\theta_{ij}\delta_{jk} + \delta_{ij} \theta_{jk}) = \Sigma_{i<j} a_i a_j^2 + \Sigma_{i<j} a_i^2 a_j$

$\therefore X - \Sigma a_i^2 =Y$

2022年7月1日金曜日

教養強化合宿(4)

教養強化合宿(3)からの続き 

恒例の外山恒一教養強化合宿第22回(6/24-7/3)が開催中である。いつの間に22回になった。ナンバリングルールがよくわからないぞ。

北大,千葉工大,早大2,ICU2,愛知淑徳大,龍谷大,阪大,九州工大,放送大,浪人の12名が結集。教養チェックは次の通りだった。

遅刻者1名を除くイマドキの意識高すぎる系学生11名中,管野スガを知ってた人0,中野正剛0,鶴見済4,植垣康博0,会田誠7,榎美紗子0,高野実1,野村秋介0,家永三郎1,鴻上尚史4,津田大介11,宮崎学3,湯浅誠5,小林よしのり9,山下洋輔0,ジョーン・バエズ0,トリスタン・ツァラ5,ジョルジュ・ソレル4,林彪2。

山下洋輔とジョーンバエズはいったいどうなっているのだ。自分が知らなかったのは,管野スガ鶴見済ジョルジュ・ソレル。「完全自殺マニュアル」という書名は聞いたことあったけど。

ついでに3・11以降の諸氏についても訊いた。そこそこ意識高いはずの若人11人中,白井聡を知ってた人7,斎藤幸平7,野間易通1,ミサオ・レッドウルフ0,奥田愛基1,ろくでなし子9,坂口恭平9,菅野完2,清義明0,木下ちがや0,雨宮処凛7,松本哉1,東浩紀&山本太郎はさっすが11,某Fラン政治学者1。

ミサオ・レッドウルフ坂口恭平は知らなかった。誰それ。 

2022年6月30日木曜日

全国ハザードマップ

NHK全国ハザードマップが公開されている。

洪水や土砂災害の危険性が全国の市町村の地図上に表現されているものだ。天理市のハザードマップも印刷物として配布されていたが,それに相当する。自宅の周りは,洪水による浸水の恐れはなさそうだけれど,数百メートル先には危険地帯が迫っている。

NHKのハザードマップは,全国の市町村ごとのデータを統合して,任意の場所について一つのインターフェースでリスクを調べることを可能にしたものだ。これがなかなか大変な作業だったということが,34テラバイトのデータと格闘して「全国ハザードマップ」を公開した理由という記事になっている。

なぜ34TBも必要なのと普通は考える。例えば,面積が60 ㎢ の天理市のハザードマップのpdfファイルは7枚,15MBある。37万㎢の日本全体にスケールするには6000倍すればよく,必要なファイルサイズは90GBだ。34TB/90GB =300倍ほど過大になっている(様々な情報を格納するためのベクターデータなら1桁余分に必要かもしれないが,2桁ではないだろう)。

災害に遭遇するのは,自分が住んでいる市町村に居る場合とは限らないから,いつでも,どこでも,誰でもが簡単に全国のハザード情報を検索できるシステムの必要性や重要性は言を待たない。実際,国土交通省には重ねるハザードマップというシステムは存在している。しかし,掲載されている河川数が水防法で規定されている2200河川の43%にすぎない(これに限らず,憲法改正によって危険な緊急事態条項の導入に血道を上げる前にやるべきことが山積している日本なのだった)。

そこで,NHKががんばって,1800の地方自治体に電話をかけてデータを集めたところ,外注した成果物がpdfファイルのみで元のデジタルデータがないとか,データの格納ファイルが整理されていないとか,関係ないデータが山のように混入しているとか,そもそもデータ形式が統一されていないとか。それが34TBのデータであり,これから散々苦労して必要な情報を蒸留して作り上げたのがNHK全国ハザードマップだった。この涙なくして語れない的な読み物を一読することをお薦めする。

デジタル庁がやるべきなのは,あるいは,災害出動に価値のある自衛隊の防衛予算をまわすべきなのは,こんなところからだと思われる。


図:NHK全国ハザードマップのイメージ

P. S. NHK全国ハザードマップは期間限定の試験的デジタルコンテンツとある。もったいないので,国土交通省で引き継いだらいいのに。

[1]ハザードマップポータルサイト(国土交通省)

2022年6月29日水曜日

信貴山朝護孫子寺

摂州合邦辻からの続き

今年は寅年なので,信貴山朝護孫子寺に注目が集まっているはずだ。信貴山登るなら今年がいいねということで,自宅から西に15km,車で30分のところにある信貴山寺に行ってきた。

実は,これは初めてではなくて2回目である。1回目は大学2年のゴールデンウィークだった。八尾(志紀)の柳田さんの家にお泊まりで行ったメンバーは誰だったか,楠本さんの他,藤原さんもいたかなあ。講義ノートを販売する作戦の倫理的問題について議論が巡らされたときだ。

次の日に恩智駅からいけば近いよということで,楠本君と二人で信貴山に上ることになった。信貴山寺は,恩智駅からほぼ東に5kmにある。Googleマップで道を確認して見たがみあたらない。しかし,ちゃんとハイキングコースがあって,2-3時間ほど歩くと迷わずにお寺まで到達できた。そのころにも大きな寅があったのだろうか,全く印象には残っていない。

さて,今回は,入り口の大寅(電動らしい)で記念撮影したあと,成福院,玉蔵院,本堂(戒壇巡り),千手院とまわったが,信貴山観光センターも霊宝館も臨時休業で,信貴山縁起絵巻(複製)も拝観できなかった。境内の電気工事のせいだ。戒壇巡りもコーナーの非常灯が消灯しているので,気をつけるように注意された。

本堂拝観の後,時間が余ったので信貴山城趾まで登ることにする。出発点から頂上まで560m20分と書いてあるけれど,両手に竹杖の高齢者夫婦にはその倍の時間がかかってフラフラになる。残念ながら力尽きて松永屋敷跡まではたどり着けなかった。

587年7月3日,聖徳太子が物部守屋を討伐したのを機に創建し,毘沙門天=多聞天を本尊とする信貴山寺だが,境内は鳥居だらけだった。真言宗でも高野山とはちょっと空気が違う。毘沙門天が戦いの神になったのは,仏教に取り込まれた後であり,そもそもは,「五穀豊穣,商売繁盛,家内安全,長命長寿,立身出世」という現世利益を授ける七福神の一柱なので,信貴山寺の売り出し方は本来の姿なのだろう。



写真:信貴山朝護孫子寺(撮影 2022.6.28)

[1]志貴山縁起上(国立国会図書館デジタルコレクション)
[2]志貴山縁起中(国立国会図書館デジタルコレクション) 
[3]志貴山縁起下(国立国会図書館デジタルコレクション)

2022年6月28日火曜日

みんなの自動翻訳

DeepL翻訳からの続き

自動翻訳はDeepLで間に合ってます。といいたいところなのだが,一番の問題は,韓国語がないところかもしれない。無料版なので,1回に5000字までという制限はあるけれど,いまのところ,英文ニュース記事を読む際の支援ツールとして使っているので,それほど問題ではない。

情報通信研究機構(NICT)のみんなの自動翻訳@TexTraもなかなかよいという噂が伝わってきたので試してみた。韓国語も訳せるので韓国ドラマを安心してみることができる・・・というわけにはいかない。多機能なのを表に出しすぎているので,ちょっと使いにくい印象がある。Safariではデフォルトの表示が必ずしも整っていないのも気になる。

ユーザインタフェイスはそうだとして,実際に訳文を比較するとどうなるだろうか。

原文(WikipediaのQuantum THermodynamicsから)

Quantum thermodynamics[1][2] is the study of the relations between two independent physical theories: thermodynamics and quantum mechanics. The two independent theories address the physical phenomena of light and matter. In 1905, Albert Einstein argued that the requirement of consistency between thermodynamics and electromagnetism[3] leads to the conclusion that light is quantized obtaining the relation 

E=h\nu . This paper is the dawn of quantum theory. In a few decades quantum theory became established with an independent set of rules.[4] Currently quantum thermodynamics addresses the emergence of thermodynamic laws from quantum mechanics. It differs from quantum statistical mechanics in the emphasis on dynamical processes out of equilibrium. In addition, there is a quest for the theory to be relevant for a single individual quantum system.

TexTra

量子熱力学[1][2]は、熱力学と量子力学という2つの独立した物理理論の間の関係を研究する学問です。2つの独立した理論は、光と物質の物理現象を扱っています。1905年にアルバート・アインシュタインは、熱力学と電磁気学の一貫性が必要であると[3]、光はその関係を得て量子化されるという結論が導かれると論じました。E=h\nu。

この論文は量子論の夜明けです。数十年のうちに、量子論は独立した規則によって確立されました。[4]現在、量子熱力学は量子力学からの熱力学法則の出現を取り上げています。量子統計力学とは異なり、平衡から外れた動的過程に重点が置かれています。さらに、単一の個々の量子系に関連する理論を探求しています。

DeepL

量子熱力学[1][2]は、熱力学と量子力学という2つの独立した物理理論の関係を研究する学問である。2つの独立した理論は、光と物質という物理現象を扱っている。1905年、アルバート・アインシュタインは、熱力学と電磁気学の整合性[3]が必要であることから、光は量子化され、次の関係式が成り立つと主張した。E=h</nu。

この論文は、量子論の黎明期を告げるものです。現在、量子熱力学は、量子力学から熱力学的法則を生み出すことを目的としています[4]。量子統計力学との違いは、平衡状態から外れた動的な過程に重点を置いている点です。さらに、単一の個々の量子系に関連する理論の探求がある。

こうして,比べるとDeepLもやや微妙なところがあるが,訳文は全体としてややこなれている。まあ一長一短というところかもしれない。みんなで使えばより精度は高くなると思うが,まだまだ知名度が低いし,あまり宣伝もしていないようだ。

 [1]みんなの自動翻訳@KI(個人版)(川村インターナショナル・プロの個人翻訳者向け商用利用可能ライセンス)

[2]みんなの自動翻訳 質問・要望一覧

2022年6月27日月曜日

太陽フレア

 NHKニュースで太陽フレアの危機が取り上げられていた。

なんでも,2025年は太陽活動が活発になり,太陽フレアが2週間続き,ケータイも繋がらなくて大変なことになるという説だった。なんとなく胡散臭かったので確認してみる。

太陽活動は11年周期で変動しているが,その本質は,太陽の自転による磁場の22年周期変動である。11年で太陽極磁場のNSが逆転するが,絶対値を考えると活動値(黒点数,太陽フレア頻度,太陽放射量)の周期は11年ということになる。活動期には,黒点数や太陽フレア頻度が増加し,太陽放射も0.1%程度強くなる。

1843年にドイツの天文学者シュワーベによって,太陽活動周期(黒点周期)が発見され,スイスの天文学者ウォルフの研究から1755-1766年が第1周期とされた。最近のピーク年と周期番号を並べると,1981年(第21周期),1992年(第22周期),2003年(第23周期),2014年(第24周期),2025年(第25周期)となるので,2025年という時期は正しそうだ。

ただし,フレア頻度は活動極小期に比べて1桁増えるが,爆発の大きさ自体は周期と直接関係しない。

ところで,近年の太陽活動をみると,22周期,23周期,24周期と次第に活動が衰えており,黒点数も近年になく減少している。大規模太陽フレアも24周期にはほとんど発生していない。それでは,このたび25周期の危険性に警鐘を鳴らしている根拠はなんなのだろうか。

ニュースになったのは,6月21日に,総務省の宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会報告書を公表したからだ。そこでは,一般的な太陽活動への監視態勢や対応体制の構築ポリシーについて議論すると同時に,100年に一度の大きな太陽フレアがあったときにどんな影響が考えられるかを評価(シミュレーション)したものだった。

つまり,2025年の太陽フレア予報に重点があったわけではなかったのだ。ニュースの取り上げ方と受け止め方は本当に難しい。ましてや,忖度まみれの政治経済関係のニュースはどうなのだろうか。情報系の人たちはメディアリテラシーと簡単にいうけれど,結局,個別分野の知識に基づきながら,事実とデータを積み上げ読み解いて分析することでしか,相対的に正しい事実には接近できない。


図:22〜24周期までの黒点数の変動(Wikipediaより引用)

2022年6月26日日曜日

テトラ中性子核

中性子と陽子の束縛系は重陽子(重水素の原子核)であり,スピン1,アイソスピン0で,テンソル力を含む核力により相対運動はS波とD波が混じった状態である。中性子2個の状態で空間部分がS波の状態は,スピン0,アイソスピン1であり,テンソル力部分の寄与もなく束縛状態は存在しない。

中性子の数が膨大になれば重力によって束縛することができ,中性子星として存在することは確かめられている。一方,中性子3個や4個の原子核が束縛状態として存在するかどうかは昔から問題だった。3中性子系の話題はみたことがあったが,4中性子系は考えたこともなかった。

理化学研究所下浦さんらの国際共同研究チームが,4中性子系に共鳴状態があることを実験的に確かめた。理研の重イオン加速器施設(RIビームファクトリ:RIBF)で生成したヘリウム8(ヘリウム4+4中性子)に陽子をぶつけて,ヘリウム4だけをたたき出すという手法(8He(p,p4He)4n)で,そのエネルギーを測定した。これからピーク位置2.37MeV,幅1.75MeVの4中性子系(テトラ中性子核)の共鳴状態のピークが発見された。


図:テトラ中性子核の共鳴状態(理研のプレスリリースから引用)

2022年6月25日土曜日

我が心はICにあらず

 ギフテッドからの続き

遠い親戚の鈴木晶さんのことを調べていたら,彼が,高橋たか子(1932-2013)に弟子入りしていたとある。学生時代に小説を見せたところ「小説になっていないとして翻訳を勧められ,高橋と共訳をしたりするうちに秘書的存在になった」。たか子が亡くなったときに喪主を務めた鈴木晶は「たか子の40年来の弟子で,たか子の生前から高橋家の鎌倉の自邸(黒川紀章設計)に妻子と暮らし,和巳・たか子両名の著作権代理人を務めた」とある。なお,高橋和巳と高橋たか子の著作権は,2013年に日本近代文学館に遺贈されている。

高橋たか子の小説は全く読んだことがないが,高橋和巳(1931-1971)の小説は,新潮文庫でひととおり読んだ。あんなに並んでいた高橋和巳の文庫本が,書店の棚にみつからなくなって久しいが,最近は河出文庫に少し戻ってきたかもしれない。小松左京(1931-2011)の親友だった高橋和巳への入り口は「わが解体」だったが,暗く観念的な小説群の中で一番おもしろかったのは「邪宗門」だった。現代人の必読書ですね。

高橋和巳の「我が心は石にあらず」を(冷笑的に)もじったのが,小田嶋隆(1956-2022)の「我が心はICにあらず」だ。1980年代にマイナーなパソコン雑誌に連載されたテクニカルエッセイで,ほとんど読んだことはなかったが,そのタイトルと著者名だけはしっかり刻印された。

小田嶋隆のエッセイやTwitterを読むようになったのは最近の話である。日経ビジネスに連載された「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明は,著者の絶妙な挿し絵と,着眼点と,アイロニーにあふれた表現で,躊躇いを含んだ権力批判を毎回読むのが楽しみだった。2020年9月以前の記事はオープン・アクセスである。古くからの読者で,オダジマは政治的な話題を取り上げるのでいやになったという感想を持つ冷笑派が多く見受けられるが,それはあなたたちの方が間違っている。

その小田嶋隆が6月24日に亡くなってしまった。友人の町山智弘(1962-)は,宝島社時代の小田嶋隆の著書の編集担当だった。こうして,自民+公明+維新が笑う様が透けて見える参議院選挙の季節が回っていく。


写真:1950年代後半の高橋たか子と高橋和巳(朝日新聞から引用)

[1]高橋和巳50回忌(2021.5.3 Gonのあれこれ)

2022年6月24日金曜日

沖縄「慰霊の日」

 6月23日は,沖縄戦(1945.3.26-1945.9.7)から77年目(ななじゅうしちねんめ)を迎える「慰霊の日」だった。NHKでは左手に情緒的で反戦的なエピソードを積み上げつつ,右手では"防衛費"の増額と憲法の"改正"があたかも既定路線であって,なんの問題もないかのような印象操作を続けている。

さて,6月23日という日付は,なんとなく,沖縄戦で米軍が勝ち日本軍が負けた日なのかと思いこんでいたが,そんな単純なことでもなかった。沖縄戦を戦った第32軍の司令官の牛島満(1887-1945)と参謀の長勇(1895-1945)が自決して,日本軍の組織的な戦闘ができなくなった日だった。降伏の手続きを経なかったので掃討戦は継続し,6月23日以降にも多くの人命が失われた。7月2日には,連合国軍が終了宣言を出したものの,降伏調印式が行われたのは9月7日だった。

昭和19年の沖縄の人口は59万人,昭和21年には51万人に減っている。沖縄県による沖縄戦戦没者の推計によれば,全戦没者20万人(平和の礎には24万人が刻まれる),軍人軍属9.4万,一般県民9.4万,米軍1.3万とある。沖縄出身の軍人軍属と県民を合わせれば,12.2万人であり,県民全体の1/4近くに達している。


1977年夏の米島君との沖縄旅行については少し書いた。民宿に一泊した次の日に,南部戦跡をめぐるバスツアーに参加した。途中で,日本軍の地下壕の跡に立ち寄ったのだが,それが,豊見城市の旧海軍指令壕だった。ここでも6月13日に海軍司令官の大田実が自決している。その後ひめゆりの塔に向かったはずだがあまりはっきりおぼえていない。

金沢の卯辰山には,殉難豊川女子挺身隊の像がある。高校相撲大会の応援のときに,それをみながら米島君が,日本でミュージカルをつくるならばテーマはひめゆりの塔だと力説していた。そのとき自分はピンと来ていなかったが,数年後にはいっしょに沖縄を訪れることになった。


写真:卯辰山の殉難乙女の像(朝日新聞から引用)

2022年6月23日木曜日

評価基準と評価規準

 大阪教育大学のフェイスブックに「府内高校教員を対象に「教師の学び舎」第1回講座を開講」という記事が掲載され,お知らせがiPhoneにとんできた。

八田幸恵先生の講義が紹介されていた。八田さんといえば,京大教育学部の田中耕治研究室の出身なので,教育評価のプロである。自分が評価情報室に配属されていたころだったか,必要に迫られて田中耕治先生が書いた岩波書店の「教育評価」も買ったのだが,積ん読状態で放置していた。

さて,紹介された八田先生の講義の一コマで,次のようなスライドがあった。

キジュン={規準(criterion),基準(standard)}

規準:評価・解釈の規準を目標においたもの

基準:ある目標についてこれがこうできていれば5,こうであれば4ということを示して,教師に子どもの目標に対する達成度を把握させるもの 

   =量的な基準(○×10問中9問正解),質的な基準(ルーブリック)

うーん,循環定義になっている。そこで,師匠の本を繙いてみることにすると「相対評価」に対峙するものとして,「目標に準拠した評価」(「絶対評価」と混同されがち)があることを示したうえで,次のように書いている。

すなわち,規準」とは教育評価を目標準拠で行うということであり,教育評価の立場を表明する言葉として採用されている。しかし,この段階にとどまっていては,「目標に準拠した評価」は単なるスローガンに終ってしまう。その「規準」が量的・段階的に示された「基準」にまで具体化されなくては,「目標に準拠した評価」といえども,評価者の主観的な判断に陥る危険がある。

なるほどこれでわかったといいたいところだけれど,皆川さんの論文をみると話は錯綜していて,一筋縄では行かない。そもそも国立政策研究所の下記の資料は,ほとんどすべてを「評価規準」という用語で統一してしまったにもかかわらず,具体的な「基準」に立ち入って書いてあるのだから。混乱を招くこと必至ではないのか。

[1]「規準」と「基準」・‘criterion’と‘standard’の 区別と和英照合(皆川英代)
[2] 評価規準の作成のための参考資料(小学校)(国立政策研究所)
[3] 評価規準の作成のための参考資料(中学校)(国立政策研究所)
[4]「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(国立政策研究所)
[5]アメリカのスタンダード教育(さらに話が複雑な方向に・・・)

2022年6月22日水曜日

AIが意識を持った?

2015年に設立されたシンギュラリティサロン主宰の神戸大学名誉教授の松田卓也(1943-),セーラー服おじさんこと小林秀章(1962-),神戸大学教授の塚本昌彦(1964-),XOOMSの保田充彦らにより,YouTubeのシンギュラリティサロン・オンラインでは,意識・人工知能などの問題が議論されている。

今回のテーマは,「LaMDA騒動~「AIが意識を持った」というGoogleエンジニアが停職処分になったという話について」だった。LaMDAはGoogleが開発した対話システムであり,Transformerとよばれる自然言語処理のためのニューラルネットワーク深層学習モデルの上に構築されている。

このLaMDAにおける倫理的問題(ジェンダー,性的志向,人種,宗教などへのバイアス)を検討するために,宗教者のBlake Lemoineが同僚とともに,LaMDAとの対話を続けた。その結果,Lemoineは,LaMDAが意識を持っていると考えるようになり,上司に報告したが一笑に付された。その過程で,Lamoineが第三者に相談としたことが秘密保持規程違反とされて停職処分をうける。これに不満をもったLemoineが,Mediumにその経緯やLaMDAとLamoineの対話スクリプトを公開したことで,大きな注目を集めることになった。

実際に,その対話スクリプトを見ると,これはチューリングテストをパスしているのではというのが,シンギュラリティサロンメンバーの感想だった。実際,すごい対話がなされている。ただし,これは,LaMDAが意識(consciousness)/ 感覚性(sentience)を持ったことの証拠とすることはできない。そもそも意識とは何かが,現在の科学では定義されていないし,したがって,その検証方法も明らかになっていないからだ。あるいは,人間が世界を補完して認識する過程(特に対話の場合)の特徴が現れているというべきか。

検索用音声インターフェースのAlexaやSiriとは全く異なるレベルである。もし,GoogleがこのLaMDAを製品化して市販すればとんでもないことになりそうだ。ニール・スティーブンソンダイヤモンド・エイジの世界がそこまで迫ってきた。

[1]6/3 Religious Discrimination at Google
[2]6/7 May be Fired Soon for Doing AI Ethics Work
[3]6/8 Goovle is not Evil
[4]6/11 What is LaMDA and What Does it Want
[5]6/11 Is LaMDA Sentient? An Interview 
[6]6/14 Scientific Data and Relisious Opinions

2022年6月21日火曜日

ギフテッド

 日曜の朝,親戚の一統さんからFacebook Messageが入っていた。姪の鈴木涼美芥川賞候補になったというのだ。自分からすると,鈴木涼美は祖父のいとこのひ孫にあたる(かなり遠い・・・)。

さっそく鈴木涼美を調べてみると,父が鈴木晶,母が灰島かりとあった。なんだ人違いじゃないのと思ったが,よくよく確かめると自分の知っている遠い親戚の本名に行き着いた。私の祖父である越桐弥太郎のいとこが越桐信で,その娘が鈴木千恵子さんだ。そのファミリーだった。

1965年,小学校6年の夏休み,家族全員で東京旅行するという企画がもちあがった。妹が小学校4年と1年のころ。父にどこに行きたいか聞かれて,東京タワーと国立科学博物館をあげた。寝台列車で東京に向かい,ひとあたり東京の街を回って,大田区にあった鈴木千恵子さんのお宅に泊めてもらう。千恵子さんには息子と娘がいて,中学生と小学生だった。その妹の部屋で本を見せてもらったが,雨月物語があった。お兄ちゃん(=鈴木晶)と話した記憶はあまりない。

日本橋の白木屋デパートで食べた天ぷらそばがおいしくてびっくりしたこと,千恵子さんが予定になかった後楽園遊園地にいっしょに行こうと提案してくれて,乗り物が楽しかったこと,科学博物館のミイラには驚いたが,時間が足りなくて全館回りきれなくて残念だったことなどなど。

千恵子さんが旅行で金沢に来て家に泊まっていったこともある。お兄ちゃんは勉強がよくできて,東大に入ったいう話だったが,今では,舞踊評論家,舞踊史家,翻訳家として多くの著作がある有名な先生だった。

なお,一統さんの母上の越桐三枝子さんは俳人だ。


写真:後楽園遊園地のジェットコースター(東京ドームから引用)
(ジェットコースターには乗ってなかったかもしれないが・・・)

P. S. (2023-3-22)
妹に確認したところ,千恵子さんに連れていってもらった銀座の風月堂で食べたポタージュが忘れられないということだった。そういえば,そんな場面もあったかもしれない。そこから国電で鈴木家に向かったのだが,お兄ちゃんだけ私鉄で帰り,どちらが先につくかと競争していたらしい。なお,白木屋の天ぷらそばも後楽園も憶えていないらしい。

2022年6月20日月曜日

大阪博物場

 鐵腕 天野皎(あきら)からの続き

天野皎は,1885年から数年間,大阪博物場長と教育博物館長を勤めていた。その大阪博物場について調べてみようと思いながらもう1年半近くたってしまった。

大阪博物場は,1875年(明治8年)に設立された,博物館・美術館・商品陳列所・図書館・美術館を1ヶ所に併設した博物館群(テーマパーク)である。その後,組織や規模を縮小しながら,1945年の大阪大空襲まで70年近く存続していたようだ[1]。

その場所は,現在のマイドーム大阪のあたりである[2]。大阪教育大学のフォーマルな催し物でよく訪れたシティプラザ大阪の隣だ。毎年今ごろの季節には,田中俊哉先生+事務局メンバー達と帰りに立ち寄って水茄子を食べていたのは何の店だっただろうか。7-8年前のことなのにすっかり忘れてしまっている。google mapで探してもわからない。なくなったのか?

教育博物館という観点で,明治初期の中央教育博物館や地方教育博物館について調べた論文が,椎名さんの「教育博物館の成立」[3]である。1871年(明治4年),湯島聖堂に博物館が設置され紆余曲折を経て,1875(明治8年)に東京博物館となり,1877年(明治10年)に教育博物館として上野に設置される。現在の国立科学博物館の前身である。

このころ,京都博物館(1875),金沢博物館(1876),秋田博物館(1876),広島博物館(1877),開拓使札幌博物場(1877)などが誕生している。博覧会を媒介として教育博物館と殖産興業的な博物場のコンセプトがせめぎ合っていたが,地方では教育博物館が成立することはなかった。


図:府立大阪博物場案内図(MyDomeおおさかから引用)

[1]大阪博物場 −「楽園」の盛衰(後々田寿徳)
[2]府立大阪博物場「年表」(すくらんぶるアートビレッジ)
[3]教育博物館の成立(椎名仙卓)

2022年6月19日日曜日

ブラックホールシャドウ(2)

ブラックホールシャドウ(1)からの続き

2019年4月のEHTによるブラックホールシャドウのニュースは,ブラックホールの実在性を見える形で表現するエビデンスとして注目を集めた。2022年5月には,同じEHTグループにより天の河銀河中心のブラックホール いて座A*についても史上二番目の観測例として報道された。

ところで,2019年の段階でこの研究結果に対して疑問を呈している人がいた。国立天文台の三好真さんだ。銀河中心のブラックホールを発見したグループの一員であり,その結果は2020年のブラックホールに関するノーベル物理学賞でも紹介されている。彼が,2019年10月の段階で,M87星雲のブラックホールシャドウの結果に疑義を呈した。

詳細な論文である "The jet and resolved features of the central supermassive black hole of M 87 observed with EHT"が,The Astrophysical Journalにアクセプトされたとのことだ。牧野淳一郎さんも共著者に入っている。さてその結論は次のようなものだった(先月のニュース)。

(1) 中心核構造はリングではなく,コアとノットさらに第三成分がある。

(2) 有名な M87 ジェット構造は,230GHz 観測においても存在するが,その強度は中心核の強度に比 べて桁違いに弱い。

(3)  EHTC(the Event Horizon Telescope Collaborators )が報告した約40μasのリングは,データサンプリングのバイアスによる人為的な紛いものだとわかった。EHTのU-Vカバレッジは約 40 μas の空間フーリエ成分を欠き,約 40 μas のアーチファクト構造を生成している。

ようするに,注目を集めたM87ブラックホールシャドウのリング構造は間違ってるんじゃないのということだ。どうなることやら。

2022年6月18日土曜日

プリズムによる光の分散

授業の課題で次のような問題を出した。「三角プリズムに太陽光を入射させたとき,プリズムから2mの距離で光のスペクトルはどのくらいの幅に広がるか」。 もちろん,入射角やプリズムの種類で結果は変わるのだけれど,そのあたりも含めて考察せよというものだ。

自分でも考えてみる。可視光におけるプリズムの屈折率$n$の波長依存性は,[1]の上越教育大学の紀要を参考にすると,400nm(紫)から700nm(赤)の範囲で,フリントガラス:$n$=1.65〜1.61,クラウンガラス:$n$=1.535〜1.515くらいになる。なお,紫(380-430 nm),青(430-490 nm),緑(490-550 nm),黄(550-590 nm),橙(590-640 nm),赤(640-770 nm)である。

三角プリズムの底面に垂直に$x$軸をとり,図のように入射角,屈折角,出射角などを定義すると,出射する光線の$x$軸に対する傾き$a$が求まる。スリットを通してプリズムに入射する光の場合,再びプリズムから空気中にでる出射点の位置は分散で数mm程度ズレるかもしれないが,2m先のスペクトルの位置は基本的に光線の傾き$a$で決まる。

図:プリズムによる光の分散

図より,$a = \tan \bigl[\dfrac{\pi}{3} - \sin^{-1}\bigr\{ n \sin \bigl(\dfrac{\pi}{3} - \sin^{-1}\dfrac{\sin \alpha}{n}\bigr)\bigl\}\bigr]$である。これを使って,Mathematicaでスペクトルの分散幅を計算する。ただし,入射角は0.9 rad とした。

f[n_, t_] := Tan[Pi/3 - ArcSin[n Sin[Pi/3 - ArcSin[Sin[t]/n]]]];
g1 = Plot[Table[f[1.605 + 0.01 k, t], {k, 1, 5}], {t, Pi/4, Pi/3}, PlotRange -> {-0.2, 0.3}];
g2 = Plot[Table[f[1.51 + 0.005 k, t], {k, 1, 4}], {t, Pi/4, Pi/3}, PlotRange -> {-0.2, 0.3}];
Show[g1, g2]
200*Table[f[1.605 + 0.01 k, 0.9], {k, 1, 5}]
{13.1215, 9.49956, 5.78634, 1.96916, -1.96692}
200*Table[f[1.51 + 0.005 k, 0.9], {k, 1, 4}]
{46.1667, 44.6014, 43.0304, 41.4533}

図:出射方向aの入射角依存性と波長依存性

結局,入射角が 51.6度(0.9ラジアン)として,プリズムから2m先の位置では,フリントガラスで15cm程度,クラウンガラスで5cm程度に可視光スペクトルが広がる。

[1]屈折率の波長依存性の簡易測定(西山保子・上田淳一)

2022年6月17日金曜日

実効為替レート

円安が進んでいる。Apple製品が高くなるだけならよいが(あんまりよくないけど),食糧・エネルギーなどから生活全体への更なる影響が心配だ。その一方で,他の国々とは異なり年金支給額は自公政権のおかげもあって,きっちり0.4%減額された。

NHKニュースでは20年ぶりの円安という表現になっているが,実質実効為替レートを考えると,50年ぶりの円の価値下落ではないかという記事があった。国際決済銀行(BIS)のサイトに1965年から現在までの主要国の実質実効為替レートの月次データがあったので,1970年から2021年までの1年間移動平均のグラフを作って見た。

実質実効為替レートは,貿易量などをもとにさまざまな国の通貨の価値を計算し、物価変動も加味して調整した数値である。高いほど対外的な購買力があり、海外製品を割安に購入できることを示す。


図:実質実効為替レート(1970-2021)

グラフ右端の最近の値は,アメリカ合衆国(青)>韓国>英国>EU>日本(赤)の順になっている。2010年を100としてそろえてあり,y軸の値が大きな方が通貨価値が高い。日本は1990年代中ごろをピークとして今では1970年代の水準にまで下がっている。韓国は2008-2009年の通貨危機で90ポイントまで下がったが,今では合衆国につぐ高い水準で推移している。


2022年6月16日木曜日

浄瑠璃坂の仇討

 初夢の一富士二鷹三茄子でおなじみの日本三大仇討ちのうちのひとつ,曾我兄弟の仇討ちが前回の鎌倉殿の13人のテーマだった。大掛かりなロケ映像もあってなかなかよかったけれど,三谷幸喜のストーリーによれば,これは仇討ちではなくて,源頼朝に対する謀反の話だった。

浄瑠璃のテーマとして,完全に定着している曾我物なので,いまさら違いましたといわれても困るのだった。まあ,曾我兄弟の仇討ち(1193)は12世紀末であり,赤穂浪士の討ち入り(1703)や鍵屋の辻の決闘(1634)は,江戸時代なので,この際,浄瑠璃坂の仇討(1672)を加えた江戸時代の三大仇討ちを復活させるほうがよいのかもしれない。初夢は,一鷹二茄子三浄瑠璃になるのだろうか。

浄瑠璃坂の仇討ちなんてまったく聞いたこともなかったが,宇都宮藩の内輪の刃傷沙汰が原因で40名を越える討ち入りに至るという,赤穂浪士の討ち入りの前哨戦のような話だった。なお,浄瑠璃坂は,被害者となる奥平隼人が身をよせた戸田屋敷の場所であり,江戸の市谷(現在の新宿区鷹匠町)にある。


写真:2017年の浄瑠璃坂(Wikipedikaから引用)

[1]浄瑠璃坂の討入り|竹田真砂子(てくてく神楽坂)

2022年6月15日水曜日

熊ノ郷準

 日経朝刊の交遊抄に阪大医学部長の熊ノ郷淳(1966-)さんが,阪大医学部の1年後輩の竹田潔さん(阪大免疫学フロンティア研究センター拠点長,審良静男の弟子)との関係について書いていた。

熊ノ郷というのは珍しい名前だけれど,和歌山にルーツがあるらしい。たぶん阪大理学部数学科の教授だった熊ノ郷準(1935-1982)と関係があるのではと調べると,Web上にご本人の記事があった。やはり熊ノ郷淳は,熊ノ郷準先生の息子だった。

淳さんが中学3年のときに,父に脳腫瘍がみつかり1年の闘病生活の後に若くして亡くなっている。それが契機となって,大阪教育大学附属高校池田校舎から阪大医学部に進学する。最初は脳神経外科医を目指していたのだが,適性がないことに気付いて岸本忠三(1939-)の下で免疫学の研究に進んだ,というようなことが書かれていた。

学部のころ,豊中キャンパスの生協の書棚に,岩波書店から出版されていた熊ノ郷準の「擬微分作用素」をみかけた。例の薄いけれど高い本のシリーズだ。阪大理学部の廊下でご本人のお顔を見たこともあると思う。大学院を修了してから,森田研究室のセミナーに通っていたころ,理学部の掲示板に,熊ノ郷先生が亡くなられた(47歳だった)ので御遺児のための奨学金を募りますという張り紙があったのが強く印象に残っている。


2022年6月14日火曜日

SDGs

 京阪奈三教育大学の連携が追求されていた10年前,奈良教育大学の特徴的な活動として,ESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)という言葉を聞いたのが,SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)への最初の接触だった。

その当時は,まったくピンと来なくて,この人達は何を目指しているのだろうか?状態だった。いまでも奈良教育大学の活動は続いている。2022年4月1日から,奈良教育大学ESD・SDGsセンターが設置され,6月26日には設立記念シンポジウムが開催される。

その後,SDGsという言葉をしばしば耳にするようになったがまじめに調べてはいなかった。3-4年前の日本経済新聞の正月版別刷にSDGsの17の目標が詳しく説明されているのを読んで,初めて得心が行った。なんだかいいこと書いてあるじゃないのというわけだ。

ところがその後,SDGsの旗ががあちらでもこちらでも振られるのに,微妙な違和感を感じるようになった。結局,資本主義の延命策を国連の名のもとで宣伝しているだけではないのか。その証拠に,投資会社が率先して,SDGsの双子の兄弟であるESG(Environmental, Social, and Corporate Governance)を売り込んでいる。

このSDGsの流行は実は日本固有の現象ではないのかと,萩原雅之さんが数日前にFacebookで指摘していた。Google Trendsを使って,あるキーワードの検索数を国別・年度別に傾向分析することができる。その結果,SDGsというキーワードは日本で突出して多く調べられていることがわかった。アフリカ諸国がそれに次ぐのだが,欧米ではかなり少ないのだった。


図:SDGsの検索傾向と国別比較

[1]マネジメントファッションにおけるマスメディアの役割 : SDGsを事例として(八塩圭子)

2022年6月13日月曜日

典型的な状態(2)

典型的な状態というのは,統計力学の基礎となる,$N$粒子系の相空間(Γ空間)の点=微視的状態の部分集合である。その微視的状態の数を評価してみる。

簡単のため,常温(300K)の気体分子(窒素分子)を1Lの容器に入れたものを例にとる。$N=1$として,3自由度=6次元の相空間の体積要素は,プランク定数を$h$として,$h^3$になる。ここでは,1自由度だけ取り出して,2次元相空間の体積要素がどんな値なのかを考える。

プランク定数は,$h = 6.6 \times 10^{-34} {\rm \  [J \cdot s]} = 6.6 \times 10^{-34} {\rm \  [kg \cdot m^2 / s ]}$,ボルツマン定数は,$k_B=1.4 \times 10^{-23} {\rm \ [J/K]}$とする。窒素分子の質量は,$m=\frac{28 \times 10^{-3} {\rm \  [kg]}}{6.0 \times 10^23 {\rm \  [/mol]}}$,その平均速度は,$\bar{v}=\sqrt{\frac{3 k_B T}{m}}=\sqrt{\frac{3 R T}{M} }= 5.2 \times 10^2 {\rm \ [m/s]}$

プランク定数を,窒素分子の質量で割ると,相空間の体積要素の換算値$\tilde{h}$が長さと速度の積として表わされ,$\tilde{h}=1.4 \times 10^{-8} {\rm \ [m \cdot m/s]}$である。ここで,箱のサイズが$L=0.1 {\rm \ [m]}$,窒素分子の速度の最大値が$\ v_{\rm max} =3  \times 10^3 {\rm \ [m/s]} \ $のオーダーとして,その積は,$L \cdot v_{\rm max} = 3 \times 10^2 {\rm \ [m \cdot m / s]}= 2 \times 10^{10} \ \tilde{h}\ $となる。

そこで,箱のサイズと速度の最大値をほぼ均等に10万($10^5$)分割すれば,相空間の体積要素は,$10^{-6} {\rm \ [m]} \times 3 \times10^{-2} {\rm \ [m/s]}\ $となる。つまり,相空間の各次元を10万分割してつくる体積要素=セルを単位として,微視的な状態数(総セル数)を勘定することになる。

$N$粒子系の相空間は,$6N$次元空間であり,$N \sim 3 \times 10^{22}$として,総セル数は $\bigl( 10^5 \bigr) ^{10^{23}}$ のオーダーとなる。とにかく多いのだけれど,計算した意味はあまりなかった。

2022年6月12日日曜日

典型的な状態(1)

阪大の菊池誠さんの統計力学の講義がYouTubeで公開されている。

「メルトダウンじゃないだす」とか「甲状腺検査は人権侵害」とか「おしどりマコいじめ」など,Twitterではさんざん物議を醸して,なんだかなぁ・・・なのだけれど,物理の講義はおもしろくてわかりやすい。そのもとになっている講義ノート「統計力学のはじめの一歩」もよい。

その講義では,統計力学の概念的な出発点として,典型的な状態(Typical States)の考え方を採用している。これは田崎晴明さんの培風館「統計力学I」や菊池さんの弟子の湯川諭さんによる日本評論社「統計力学」などのモダンな教科書で強調されている考え方だ。湯川さんの教科書も最近たまたま本屋(理工系書籍の品揃えと配列が最低のツタヤ・・・)でみつけて買ったところだった。

我々が学んだ50年前もそうだったが,20世紀の古い統計力学の教科書では,エルゴード原理によって物理量の時間平均が相空間平均(=集団平均)に一致する(はず(らしい))というのが教科書の定番のイントロの記述であり,まあそんなものかと深く考えずに本論に進むのが常だった。

エルゴード原理を基礎とする考え方は,状態数が膨大なために時間平均の時間があっという間に宇宙年齢を超えるオーダになることで否定され,そのかわりとなる論理が要求された。そこで導入されるのが典型的な状態なのだが,この説明がわかったような,わからないような,古い頭ではなかなか飲み込めない。田崎さんの本によれば次のようになっている。

マクロな系の基本的性質:マクロな量子系では,ある平衡状態に対応する「許される量子状態」のほとんど全てが(マクロな物理量の測定値で比較するかぎり)ほとんど区別できない。

平衡状態についての基本的仮定:ある系での(熱力学でいうところの)平衡状態の様々な性質は,対応する「許される量子状態」の中の「典型的な状態」が共通に持っている性質に他ならない。

これは「許される量子状態」と「典型的な状態」は別であるということを主張している。許される量子状態は,マクロな内部エネルギーUが再現される状態(およびその重ね合わせ状態)の集合であり,内部エネルギー以外のマクロ変数の値が再現されるとは主張していないことになる。一方,「典型的な状態」は,「許される量子状態」のうち,系のひとつの巨視的な熱平衡状態とすべてのマクロ変数の組の値が一致する微視的状態の集合ということか。

で,許される状態のうち,ほとんど全てが典型的な状態であるという主張が,マクロ系の基本的性質として主張されていることになる。うーむ,少なくともどの程度のオーダーかという例を簡単なモデルでいいから見せてほしいところだ。

2022年6月11日土曜日

喫水18m

数日前にTwitterで@miyapii8844 さんが次のように書いていた。

現在世界の造船は水深18m以上の大型船を量産体制に入っています。夢洲のC-10~11は水深15m,C-12は16m,咲洲地区では14m以下しかありません。因みに神戸では15~16mです。
このままでは大型船が入港出来なくなり,その際は一番水深の深い横浜で対応して日本各地に回漕させるか、外地で小型船に移し変えて日本に入港させるかしか出来なくなります。夢洲はIR誘致よりも,水深工事をしなければ,このままでは日本は抜港という事態になり,運送費が跳ね上がる事が予想されます。
水深○○mというのは喫水○○mを可能とする接岸埠頭の水深という意味だろうか。土木学会による日本のインフラの体力診断(港湾)をみると,現状についてはほぼ正しい主張であることがわかる。それから導かれる結論や,その前提となる他の条件までは判断ができない。

無駄な東京五輪2020や大阪万博2025,大量の電力を消費するリニア中央新幹線,さらにはGDPの2%を目指す防衛費など,わけがわからないところに利権まみれのお金を湯水のようにつぎ込もうとしている。だが,肝腎のところはほったらかし,改憲=人権抑圧+軍拡をおもちゃに遊んでいるようにみえるのが自民・公明・維新だが,支持率は高い。

参議院選挙のテーマとして掲げてほしいのは,世襲政治+新自由主義からの脱却を前提に,
(1)少子化と地域過疎化への対応
(2)エネルギー・食糧の革新と確保
(3)社会インフラの更新と維持
などが思いつくのだけれど,課題が生ずるたびに,教育とイノベーションが重要だという話になって,現在の教育研究システムを毀損する新制度ばかりを山のように積み重ねている。


図:コンテナ船の大型化と最大水深岸壁(国土交通省港湾局資料から引用)


2022年6月10日金曜日

惑星直列

 太陽系の地球を除く惑星を一直線上に隙間なく並べると,ちょうど地球−月の距離と等しくなるという話を見かけたので確かめてみた。

地球を除く7惑星の直径 [km] は,{水星,金星,火星,木星,土星,天王星,海王星}={4879.4, 12103.6, 6794.4, 142984.0, 120536.0, 51118.0, 49528.0}となる。また,地球−月の平均公転半径 [km]は,388440.0 である。

Mathematicaで次のコードを実行する。

d = {4879.4, 12103.6, 6794.4, 142984.0, 120536.0, 51118.0, 49528.0}
r = Table[Sum[d[[i]], {i, 1, k}] - d[[k]]/2, {k, 1, 7}]
g1 = Graphics[{Circle[{384400/2, 0}, 384400/2, {11 Pi/12, 13 Pi/12}], 
   Circle[{384400/2, 0}, 384400/2, {-Pi/12, Pi/12}]}]
g2 = Graphics[Table[Circle[{r[[k]], 0}, d[[k]]/2], {k, 1, 7}]]
g3 = Graphics[Table[Circle[{r[[k]] - d[[1]], 0}, d[[k]]/2], {k, 2, 7}]]
Show[g1,g2]
Show[g1,g3]
水星をふくめると公転半径から少しはみ出すが,水星を除けばすっぽりとおさまった。



図:地球−月の公転軌道半径と7惑星の直列配置

2022年6月9日木曜日

アルゼンチンアリ

 先日のクローズアップ現代で,「静かなる侵略者“史上最強”アルゼンチンアリとの攻防」をやっていて,これは大変だ!と思った。

アルゼンチンアリは,南米原産の特定外来生物であり,日本で大繁殖しているとして,大阪空港や周辺の住宅地での調査や防護の様子が紹介されていた。生態系を破壊し農作物にも被害を与えるのは,複数の女王蟻を擁し,スーパーコロニーという巨大な地下ネットワークを作るからだ。国立環境研究所の五箇公一生態リスク評価・対策研究室がロックなヘアースタイルで説明していた。

ところで,この番組内容をどのくらいの重みで受け止めるべきなのだろうか。一般に放送番組は,その内容を強調して印象を強めるように作られている。放送直後の,これは大変だ!はどこまで尤もな話と考えればよいのか。念のために確認してみる。

環境省の生態系被害防止外来種リストのパンフレットをみると,全体像とアルゼンチンアリの位置づけがわかる。外来種リストには,421種が登録されている。そのうち,外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)で定義される特定外来生物であり,かつ緊急対策外来種であるものは,ほ乳類8種,鳥類1種,爬虫類4種,両生類1種,魚類4種,昆虫類3種(アルゼンチンアリも含む),クモ・サソリ類3種,軟体動物1種,その他の無脊椎動物1種,草本植物(陸生植物)4種,草本植物(水生植物)9種の計38種である。

また,防除に関する手引きが作られているのは,アメリカザリガニ,アカミミガメ,アライグマ,カミツキガメ,オオクチバス,アルゼンチンアリの6種なのでそれなりに重要視されていることは間違いなかった。


図:アルゼンチンアリ(防除の手引きより引用, 実サイズは体長2.5mmで小さい)

[1]我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト

2022年6月8日水曜日

科学映像館

1960年代を中心として,日本では数多くの良質の科学映画が制作された。それらをデジタル化して保存・公開することを目的としたのが「NPO法人科学映像館を支える会」であり,科学映像館のサイトや,YouTubeチャンネルで700本以上の科学映画が配信されている。

本部は,埼玉県にあり,埼玉県の歯科医師協会が協力していることもあって,撤去冠の寄付を受け付けている。ジャンルとしては,幅広いものであり,教育,自然,動物,植物,生命科学,消化器・循環器・呼吸器系,骨,皮膚,医学・医療,食品科学,工業・産業,農業・漁業・暮らし,社会,芸術・祭り・神事・体育となっている。

科学映画といえば,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が運用しているサイエンスポータルの中のサイエンスチャンネルも科学映画や短い動画クリップを扱っている。YouTubeのチャンネルには,1700本くらいのコンテンツがある。

2000年度の卒業論文で,「物理教育動画データベースの構築」というタイトルで物理実験のビデオクリップのウェブサイトを作ってもらった。当時は類似のデジタルコンテンツはごく限られていた。ユーザ側の負荷を考えて,かなり品質を落とした動画をアップロードしていた。その後YouTubeが2005年にスタートし,20年後の今は,質はともかく大量のコンテンツがあふれている。それが子供たちの学びにつながるかどうかはまた別の話となる。

[1]科学映画の一考察(中谷宇吉郎)

[2]科学映像を守る 記録映画の保存と活用(久米川正好)


2022年6月7日火曜日

WWDC22

奈良盆地の田植えがはじまると,アップルの開発者カンファレンスWWDC(World Wide Developers Conference)の季節がやってくる。WWDC22のキーノートが日本時間6/7の午前2時から2時間弱あった。もちろん熟睡中である。朝起きてから評判をざっとみると,イマイチ大きなニュースがなかったようだった。

早速,Appleのサイトでキーノートの録画をみる。今回は屋外でのApple Park 内のライブビューイングだった。現地ではTim CookCraig Federighiの登壇あったが,ライブビューの様子が見えない編集動画を公開していた。印象に残ったのは,カプコン伊集院勝さんが登場したところ。バイオハザードビレッジがApple Siliconに対応したので,もうゲーミングPCでなくてよいという話を日本語でしていた。これは珍しいシーンだ。

ハードウェアは,Macbook Air M2とMacbook Pro M2 13inchの2つが軽く紹介されていた。昨年4月に買ったMacbook Air M1 は CPU/GPU=8/8,Memory/Storage=16G/1T で21.5万円,同じスペックのMacbook Air M2は,CPU/GPU=8/8,Mamoru/Storage=16G/1Tで 26.5万円(注:34.5万円 = 10/8,24G/2T)なので,5万円アップだ。為替レートが130円/$の効果もあって,5万円高くなる。

その5万円で手に入るのは,M2チップ(+20%処理性能),新デザイン(軽量・薄型・スクェア・新色),FaceTimeカメラ 720p→1080p,3.5mm ヘッドホンジャック→ハイインピーダンス,スピーカー→×4,MagSafeポート追加,ディスプレイ→LiquidRetina + 500ニト + 13.6 inchなので,微妙。

iOS16やiPadOS16やmacOS Ventura に至っては,ほとんどどうでもいいような細かな機能を,大げさに宣伝しているので,ちょっとうんざりしてしまう。その中で気になったのが,Dictation(日本語は大丈夫なのか)と,iPadOSとmacOSのシームレスな運用を実現するステージマネージャーくらいか。

iPhoneSE第2世代はぎりぎりiOS16に対応したが,次はどうかわからない。iPad ProもiPadOS16をクリアできた。Macbook Air M1 はもうしばらくいけるだろう。ということで,今回も前回に続いていまひとつ盛り上がりに欠けるWWDCだった。

今回の印象でもっとも大きかったは円が弱いことだ。30-40%程度の貨幣価値の違いはボディーブローのように日本の消費者やAppleユーザを毀損している。まさに後進国化のはじまりだ。

2022年6月6日月曜日

図書館API

国立国会図書館の実験的なサービスに関係した資料を探していると,図書館APIの記事が見つかった。国立情報学研究所教育研修事業 「大学図書館員のための IT 総合研修」2020 年度「Web API を使ったデータの入手とその整備講義資料で,東京大学情報システム部の前田朗さんによるものだ。

国立国会図書館カーリルCiNii,その他数多の例が挙げられている。例えば,国立国会図書館では,NDC Predictorだけでなく,検索用APIと書影APIがある。カーリルでは,蔵書検索APIと近隣の図書館情報APIが提供されている。ただし,その利用にはアプリケーションキーの取得が必要な場合もある。

 

写真:国立国会図書館の書影APIの見本(APIで埋め込み)

もう少し若かったら,卒業研究で学校APIを作ってもらっていたかもしれない。よく考えて設計を始めないと,単なる検索とどう違うのかという突っ込みだらけになりそうだ。

[1]図書館におけるAPIの公開 −PORTAの事例から−(中嶋晋平)

2022年6月5日日曜日

NDC Predictor

国立国会図書館NDLラボが提供している実験的サービスの一つに,NDC Predictorがある。これは,機械学習による日本十進分類の推測アプリであり,テキストエリアに貼り付けられた書誌情報から日本十進分類(NDC9版)を推測する。

日本十進分類法の最新版は,2014年に改訂された新訂10版である。書籍で2分冊800pからなるが,ネット上の関連資料としては,日本図書館協会NDC10による分類記号順標目表や国立国会図書館 の「日本十進分類法(NDC)新訂 10 版」 分類基準がある。

実際の分類には熟練の技が必要かもしれないので,タイトルや著者や出版者などのざっくりした書誌情報で他のテキストが混ざっていても,第一から第三候補まで推測してくれるのであれば,それはそれで有難そうだ。

さっそく,試してみるが,書名と著者名で検索したところ,「統計力学 著者」は,第一候補が90%以上の確率で421/理論物理学,第二候補が1%以内の確率で426/熱力学となった。各著者の第一候補の確率は,久保亮五が99.9%,鈴木増雄99.8%,田崎晴明99.5%,長岡洋介99.2%,北原和夫・杉山忠男98.8%,湯川諭92.3%となった。稲葉肇の統計力学の形成は,91.9%だった。

REST-APIもオープンになっているので,PCからコマンド入力によって結果を機械可読な形式で取り出すこともできる。早速試してみる。APIというとHTTP-APIのGETしか使ったことがない。4回生の2009年の卒業研究でGoogleMap-APIを使って,自然観察の理科ノートを地図上に貼り付けて時空間の変化を調べようというものだった。

今回は,HTTP-POSTを使うので普通のブラウザではアクセスできない。どうするのかと思ったら,curl コマンドを使えばよいということがわかった。具体的には次のようにする。

curl -XPOST "https://lab.ndl.go.jp/ndc/api/predict" --data "bib=統計力学 久保亮五" 

予測に使う文字列は,1000文字以内であり,bib=の後にいれればよい。出力は,JSON形式となり,[ { "value":"推測されたNDCの値, "label":"推測されたNDCのラベル", "score":"推測の確信度(0-1)" }, {第二候補}, {第三候補} ],のようになる。上の例ではつぎのとおり。

[{"value":"421","label":"理論物理学","score":0.9997790320037916},{"value":"426","label":"熱学","score":2.3498150212228626E-4},{"value":"429","label":"原子物理学","score":1.2803195946766326E-5}]

lynxコマンドでも大丈夫かを確かめたところ,標準入力からデータと終了記号をいれてOK。

lynx https://lab.ndl.go.jp/ndc/api/predict -post_data
bib=統計力学 久保亮五
---

[1]開発者のための日本十進分類法

[2]NDCデータ(日本図書館協会)

2022年6月4日土曜日

NDL Ngram Viewer

 NDLラボ国立国会図書館の実験的サービスを提供するサイトである。

そこで,NDL Ngram Viewerが5月から公開されている。国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開されている資料のうち,著作権保護期間が満了した図書資料約28万点のOCRテキストデータから集計した,約8.3億種類の単語及びフレーズを使って,ある単語やフレーズが年代別にどのくらい使われているかを可視化するアプリケーションだ。

複数の単語を/で並べて入力すると1つのグラフでこれらを比較することができる。横軸は年代だが,著作権保護期間満了という条件があるため,明治から戦後しばらくまでの間は有効だが,それを外れると例外的な点しかでてこない。正規表現が使えるのでかなり凝った処理ができそうだ。

グラフの横軸が年代で,縦軸に単語の出現頻度あるいは出現確率が出てくる。出現確率は,総N-gram数を分母にと書いてあったので??となった。N-gramというと,昔,全文検索エンジンを勉強していたときにでてきた記憶がある。単語のかわりに文字を単位とし,N文字の並びの出現頻度を使って全文検索を実現するものだ。単語の区切りにとらわれず,すべての文字の並びを切り出して処理していた。総N-gram数というと膨大な数にならないか。

説明をよく読んでみると,「全文テキストデータに対して異体字等の丸め処理を行った後,NormalモードのKuromojiで形態素解析を行い,形態素gramで1gramから5gramまでの総出現頻度が4以上の単語及びフレーズを集計しています」とあった。そういうことね,文字ではなく形態素解析で品詞分解したものを使うのか,しかも 1≦N≦5 なので,これならば適当な数に収まる。

さっそく,「代数学/幾何学/解析学/統計学」や「宇宙/原子/原子核/素粒子」などで調べてみた。「力学/電磁気学/熱力学/統計力学」として力学は使えないことに気付く。なぜならば形態素解析では,熱力学も統計力学も熱+力学,統計+力学に分解されるので,ここからも力学のヒットが生じてしまうからだ。うーん・・・。これは仕方ないのかもしれない。




図:Ngram Viewerの出力(電磁気学/熱力学/統計力学/量子力学)
上段は総Ngram数に対する相対確率,下段は出現頻度の絶対値

2022年6月3日金曜日

鶴瓶・二葉・べ瓶

 UNEXTの宣伝用に,笑福亭鶴瓶(1951-)の無学 鶴の間 第1回 が無料公開されていた。記念すべき第1回ゲストは桂二葉(1986-)だった(天狗刺し参照)。冒頭,桂二葉が入門前に笑福亭鶴瓶のおっかけをしていたことが紹介されていた。二葉は大学に入るまではTVを見ることがなかったらしい。そのテレビで初めて見たのが,きらきらアフロの鶴瓶であり,それからおっかけがはじまった。

これをきっかけとして,二葉は落語にめざめるのだけれど,弟子入りしたのは鶴瓶ではなく米朝一門の桂米二(1957-)だった。面倒見がよさそうだったというのがその理由らしい。芸歴をアフロヘアーでスタートしたというのも,二葉と鶴瓶の共通点になっている。

桂二葉のエピソードは,鶴瓶の最後の弟子である笑福亭ベ瓶(べべ,1982-)との対談,桂二葉に迫りたいでも繰り返されていた。べ瓶のことは,ほとんど知らなかったけれど,鶴瓶に3回破門されて,再び戻ってきた人だった。

笑福亭べ瓶は,去る3月31日に新宿の末広亭で,笑福亭鶴瓶との親子会を開いている。主要演目はらくだであり,そのコンテンツはネット上に見当たらないが,対談の様子を鶴瓶・べ瓶親子会 師弟対談ほぼ完全版でみることができた。

笑福亭鶴瓶が笑福亭松鶴(6代目,1918-1986)に入門し,ほぼ同時にマスメディアデビューしたのが,1972年である。自分が大阪で大学生をはじめたころだ。テレビの深夜番組に,ベテランの落語家や漫才師に混じって,アフロへアの鶴瓶が出演していた。三題噺を即興で楽々と作り上げるセンスのよさが群を抜いていて印象的だった。

その後,秀逸で記憶に残る11pmでのやしきたかじんとの漫才,鶴瓶・新野のぬかるみの世界突然ガバチョ,9年9組つるべ学級,鶴瓶・上岡パペポTVなど,50年に渡って楽しんでいる。役者としても活躍しているが,古典落語の行方が興味深い。

2022年6月2日木曜日

倍速人生

 今回の虚構新聞の記事はなかなか力が入っていた。まあいつもすごいのだけれど。

倍速行動で人生240年に」というものだ。日常生活の速度を上げたり効率化したりすることで、相対的長寿を目指す「倍速人生」について,厚生労働省は26日(注:5月26日のこと),専門家による検討委員会の初会合を開いたというもので,次のような案が検討されている。

法改正と整備の項目では,(1) 交通機関の速度制限撤廃,(2) 時速10km以下の徒歩禁止,(3) 2倍速以上の番組放送を義務付け,(4) 業務速度2倍→標準労働時間を4時間に。

人間の処理速度向上の項目では,(1) 漢字・カナ文字廃止→ローマ字分かち書きに,(2) 速読義務化,(3) 16進数の採用,(4) 「三・二・一・二制」(12歳で大学卒業),(5) 成人年齢18歳から9歳に引き下げ。

漢字の廃止は,過去の資料が読めなくなるので無理ではないかと思った。しかし,MR グラスが普及すればリアルタイムでの翻訳は可能だし,おまけで日本語以外の全ての言語のドキュメントをそのまま読むこともできる。

交通機関や徒歩の速度についても,電動車椅子・電動三輪車・電動二輪車・電気自動車がすべてインテリジェント化されれば,速度制限不要でおおむね衝突回避できるかもしれない。

2倍速の番組報道については,ビデオ録画した番組視聴やインターネット経由で時間遅延のあるニュース視聴に抵抗がなくなり,CMスキップがあたりまえの世界になったので,最初から倍速視聴を可能とする放送の実現はそれほど難しくない。いや,YouTubeでは,教育コンテンツや映画を倍速あるいはスキップしながら視聴するのが既に当たり前になっている。自分の場合はせいぜい1.5倍速だけれど,訓練次第では3倍速が可能な若者もでてくるかな。

成人年齢の引き下げのためには性成熟の加速化ホルモンの投与も必要になる。そうすると,日本人の寿命は短くなるものの,高齢化+人口減少問題は解決するかもしれない。ウルトラQの1/8計画で,資源問題の解決を夢見た人が時間問題を考えるとこうなる。

2022年6月1日水曜日

タテ型コンテンツ

 NHKのクローズアップ現代でタテ型コンテンツ(動画/漫画)が流行しているという話題。

その前にひとこと。地方版も含めて最近のNHKニュースの訂正頻度がとても多くなってきた。毎日のようにお詫びしている。それに加えて政治ニュースの軽重の付け方や恣意的な報道内容の表現のレトリックにより,ほとんど政府広報のようだといわれている・・・

・・・NHKの質的低下がひどいという前振りのつもりが,感情に任せて話がそれてしまった。そのクローズアップ現代で,桑子キャスターが平然として「固定概念」という識者コメントの言葉をそのまま伝えていた。固定観念または既成概念が正しい

もちろん,言葉は移り変わるものであり,最近の若い人達が固定概念という言葉を使うのは耳にすることがあるので,100%おかしいとはいえない。それにしても,NHKという日本の言語表現基準の中心にあるべき組織で,言葉への感度が落ちているのだろうことが想像され,さきほどの政治的偏向と併せて残念な話なのだった。

さて本題は,YouTubeのようなPCに対応したヨコ型コンテンツより,TikTocのようなスマートフォンと親和性の高いタテ型コンテンツの方が最近注目を集めやすくなっている。スマートフォン上の漫画も,従来のような横スライドでなく,縦スライドでコマ移動するものが増えている。このようなタテ型コンテンツの方が,視聴者への主観的な訴求力が高いという結論だった。

パソコンでも昔,日本電気のPC-100という縦型ディスプレイとマウスから構成された日本版Alto(AppleのMacintoshのルーツ)が,1983年に発売されている。大阪駅前第1ビルのNECショールームで始めた見たときは,なかなかカッコよかった。残念ながら,その後主流になったのはスタンダートな横型ディスプレイのPC-9800シリーズのほうであった。


写真:NECのPC-100(Wikipediaより引用)

P. S.  NECの大阪 Bit-INN かと思ったが,それはやはり日本橋にあった。C&Cプラザ的なものだったのだろうか。