タイトルは,「映画はアリスから始まった(Be Natural: The Untold Story of Alice Guy-Blaché)」主人公のアリス・ギイ(1873-1968)は,フランス人,映画史上初の女性映画監督,脚本家,映画プロデューサーである。いや,トーマス・エジソンやリュミエール兄弟と並んで,映画産業や映画表現の基礎をプロデューサや監督として作った人だった。
兄と父を亡くして姉二人が嫁いだ後,アリス・ギイは,母との生活を支えるために,タイピングと速記を学んで,写真会社の社長代理のレオン・ゴーモンの秘書に採用される。彼は,リュミエール兄弟からシネマトグラフという新しい発明の上映会に招待された。この,1895年3月の世界初の映画の上映会に,アリスも出席したのだ。
レオンは,1895年に映写機を販売するL ゴーモン社を設立した。映写機のデモンストレーションのため,アリスは,それまでの実写映画ではない,世界初の物語映画である「キャベツ畑の妖精たち」を撮影した。やがてL ゴーモン社は映画制作にも本格的に乗り出し,彼女がゴーモン社の映画制作部門の責任者となる。その後,アリス・ギイは1000本もの映画を監督・制作することになる。
写真:映画撮影ロケ中のアリス・ギイ(BE NATURAL から引用)
アリスは,1907年の結婚後,1910年にアメリカに渡り,映画制作のSolax スタジオを夫とともに立ち上げた。Solaxが1912年にニュージャージー州のフォートリーに新しいスタジオを建ててから,その一帯は映画産業の一大集積地となった。
夫のハーバートが,Solaxとは別の映画会社を設立してから,二人の関係は悪化し,株で失敗したハーバートの会社の倒産,さらに1921年のSolaxの倒産の後,アリスが映画を監督・制作することはなかった。そして,映画史の中からアリスの名前が消えてしまう。彼女の業績が再評価されるのは,1970年代以降のことになる。
リアルな会話をうまくコラージュして,謎解きを進めて行くクールな表現が際立っていた。アリス・ギイの晩年のインタビュー映像も挟まれていて,非常に貴重な映像に仕上がっている。過去のサイレント時代の映画の撮影場所を訪ねて,現在の場所に重ねる表現も秀逸だった。名前を消されてしまったアリス・ギイが,次第にその価値を取り戻していく過程もドキュメンタリーの骨格をなしていた。
P. S. ドキュメンタリーの原題のBE NATURAL はSolaxの新スタジオに掲げられていたアリスのスローガンであり,俳優に自然な演技を求めたものだった。
[1]BE NATURAL: The Untold Story of Alice Guy-Blaché(YouTube)
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