ミューオンの異常磁気能率(1)からの続き
微視的な粒子(電子,陽子など)の多くはそれぞれが小さな磁石の性質を持っている。この磁石の強さを粒子の磁気能率とよんでいる。粒子の磁気能率は粒子の持つ電荷(電磁相互作用の源)に由来し,古典物理学でいえば,電荷を持つ粒子が回転することにともなう円電流によって磁気能率が生ずるというアナロジーで考えるとわかりやすい。そこでは,粒子の回転運動における角運動量と磁気能率が比例することになる。この比例定数で単位を取り除いたものをg因子とよぶ。回転運動のうち粒子の自転に対応するものがスピン(スピン角運動量)である。
電子のスピンに対しては g ≒ 2 であることが理論的にわかっている。電子に対する相対論的な運動方程式である電磁場中のディラック方程式を非相対論的に近似して磁場に比例する項を見ると,スピン角運動量と磁気能率の間の関係が求まり,この場合は厳密に g = 2 となる。ところが,場の量子論では粒子の生成消滅を許すため,真空中に電子-陽電子などの仮想粒子のペアが絶えず発生したり消滅したりすることから,g = 2 から少しだけ値がずれることになる。これが,異常磁気能率とよばれる項であり,朝永振一郎の量子電磁力学で初めて理論的に説明された。
電子の異常磁気能率については実験値と理論値が非常に高い精度で一致したため,量子電磁気学の驚異的な成果として認められることになった。ところが,電子とほぼ同じ性質を持ち,質量だけが約200倍重い素粒子であるミューオンの異常磁気能率については,まだ決着していなかった。今日はここまで。
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