2019年6月25日に,文部科学省は「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」を公表した。普通ならば,何らかの検討組織を編成して,文部科学大臣が諮問するような形を取りそうなものだ。ここでは,2018年11月に提出された「柴山・学びの革新プラン」というスケッチを踏まえて,文部科学省初等中等教育局に「学びの先端技術活用推進室」を新設している。そして,よく分からないブラックボックスで「地方自治体、事業者,研究者等の知見を有する関係者と意見交換」した結果として,3ヶ月で中間まとめ,半年で最終まとめを公表している。また,具体的な政策に落とし込む詰めの作業には今年いっぱいかかるようだ。(P. S. ただちに,先端技術・教育ビッグデータ利活用推進本部を設けて,そこで作業することになったのか)
以下,だらだらとした感想。
【1】社会構造や雇用環境の変化に対応する教育として,「子供の多様化に向き合った公正に個別最適化した学び」が必要だとしている。一歩間違うとかなり危険なものになりそうだが,そのあたりの重要な原理的な問題点にはあまり触れられることもなく,とりあえず結論を目指して突っ走ったような印象を受ける。
【2】上記目的ののために,ICT 環境を基盤とした先端技術や教育ビッグデータの活用が必要であるとしている。個別の学びのためにセンシング技術が重要だということで,日本中の子供たちに脳波や運動測定のためのヘッドギアか腕輪がつけられそうな勢いかと思ったが,説明の例としては発話と視線のデータ取得があげられている。
【3】EBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング)がということばが説明なしに使われているのかと思ったがこれは自分の勘違い。要は教育ビッグデータを収集・分析したいということだ。誰が。ベネッセですか。
【4】ビッグデータ化に関連して,学習指導要領のコード化によるデータの標準化のイメージが示されていた。教育コンテンツ一般とすると範囲が広すぎるけれど,学習指導要領は有限だからなんとかなるのか。探究学習などで指導要領から外れるコンテンツはどうするのかしら。あるいは旧NICER(現在はGENESなのかNICERDBなのか)の二の舞いとか。
【5】SINETを初等中等教育に開放するといっても,結局教育委員会単位で束ねてつなぎ込むわけで。クラウドを推進するのであれば,各学校が独立にプロバイダーに直接つなぐ予算をつけるほうがよくないか。
【6】おまけとして,校務の効率化のため遠隔技術を活用した研修や会議を進めるとある。かつてのメディア教育開発センターの衛星通信システムSCSでは国立大学全体をカバーするような運用会議を実施していたけれど,あっという間に廃止されてしまった。
【7】結局,これらを実現するための学校ICT環境の整備+個人向け端末(私費)への誘導で,大手ベンダーやら内田洋行やらもろもろの企業に商機を与えるのが主目的なのかもしれない。
【8】従来取り散らかしながら進められてきた,あるいは進めようとして障害にぶつかっていたICT政策をてんこ盛りにしているような気がする。それもこれも,経産省フレーバに満ちあふれる官邸への対抗意識に満ちた忖度の結晶。
結論:教育ビッグデータは,EBPMによる予算獲得のための擬似餌の可能性が高い。十分に検討や設計がされておらず,これで収益を得る企業や組織は非常に限定される。ICT環境の基盤整備が本命で(受益企業などが圧倒的に増える),このブレークスルーのためにさまざまな要素を盛り込んだと思われる。あるいは,その構造全体を擬似餌とみれば,子どもたちが1人1端末を自由に学校で使う世界への第一歩をめざしているという,超希望的観測も成り立たないとはいえない。これまでの歴史をみれば,文部科学省が鳴り物入りで政策的に進めようとすることは,たいていつまづいたり大きな副作用を生ずるのだけれど。
(教育ビッグデータ(2)に続く)
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