2019年11月30日土曜日

楕円軌道と内心の軌跡

楕円の軌跡は焦点からの線分の長さの和が一定という条件で描くことができる。楕円の長半径を$a$,短半径を$b$,焦点の座標を${\rm O}_1=(-c,0)$,${\rm O}_2=(c,0)$,楕円上の点Pの座標を$(x,y)$とする。例えば,$\ell_1={\rm O}_1{\rm P}$,$\ell_2={\rm O}_2{\rm P}$として,$\ell_1+\ell_2=2 a$と一定となる。

このとき,三角形${\rm O}_1{\rm O}_2 P$の内心(内接円の中心)Qの軌跡はどんな図形を描くだろうか。twitterでアニメーションをみかけたが,楕円に見えたので確かめてみよう。点Pは次の楕円の方程式の上を動く。
\begin{equation}
\dfrac{x^2}{a^2} + \dfrac{y^2}{b^2} = 1 \quad a^2=b^2+c^2
\end{equation}
このとき,$\ell_1, \ell_2$を求めてみる。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\ell_1 &= \sqrt{ (x+c)^2 + y^2 } = \sqrt{(x+c)^2 + b^2 (1 - (x/a)^2 ) }\\
&= \sqrt{(x+c)^2 + (1-c^2/a^2) (a^2 - x^2) } = a + \dfrac{c x}{a}\\
\ell_2 &= \sqrt{ (x-c)^2 + y^2 } = \sqrt{(x-c)^2 + b^2 (1 - (x/a)^2 ) } \\
&= \sqrt{(x-c)^2 + (1-c^2/a^2) (a^2 - x^2) } = a - \dfrac{c x}{a}
\end{aligned}
\end{equation}
次に,内心Qの座標を,$(p,q)$とする。$q$は内接円の半径と等しい。三角形の内接円の半径$r$は,三角形の面積$S$と$2S=(\ell_1+\ell_2+2c) r$の関係がある。ヘロンの公式より,
\begin{equation}
\begin{aligned}
s &= (\ell_1+\ell_2+2c)/2 = a+c \\
S &=\sqrt{s(s-2c)(s-\ell_1)(s-\ell_2)}=\sqrt{(a+c)(a-c)(c - c x/a)(c + c x/a)}\\
\therefore q &= r= \dfrac{S}{a+c}=c\sqrt{\frac{a-c}{a+c}(1-x^2/a^2)}= \dfrac{c y}{b}\sqrt{\frac{a-c}{a+c}}\equiv  \dfrac{c\ y\ \varepsilon}{b}
\end{aligned}
\end{equation}
また,角${\rm PO_1 O_2}=\phi$,角${\rm PO_2 O_1}=\theta$とすると,余弦定理から,
\begin{equation}
\begin{aligned}
\cos\phi = \dfrac{\ell_1^2+(2c)^2-\ell_2^2}{4\ell_1 c}=\dfrac{x+c}{\ell_1}\\
\cos\theta = \dfrac{\ell_2^2+(2c)^2-\ell_1^2}{4\ell_1 c}=\dfrac{c-x}{\ell_2}
\end{aligned}
\end{equation}
内心の性質から,角${\rm QO_1 O_2}=\phi/2$,角${\rm QO_2 O_1}=\theta/2$であり,半角の公式から,
\begin{equation}
\begin{aligned}
\tan{\frac{\phi}{2}} &=\sqrt{\dfrac{1-\cos\phi}{1+\cos\phi}} =\sqrt{\dfrac{\ell_1-(x+c)}{\ell_1+(x+c)} }\\
&=\sqrt{\dfrac{a+cx/a-(x+c)}{a+cx/a+(x+c)}} = \varepsilon \sqrt{\dfrac{a-x}{a+x}}\\
\tan{\frac{\theta}{2}} &=\sqrt{\dfrac{1-\cos\theta}{1+\cos\theta}}=\sqrt{\dfrac{\ell_2-(c-x)}{\ell_2+(c-x)} }\\
&=\sqrt{\dfrac{a-cx/a-(c-x)}{a-cx/a+(c-x)}} = \varepsilon \sqrt{\dfrac{a+x}{a-x}}\\
\end{aligned}
\end{equation}
${\rm O_1}$から角度$\phi/2$で望む内心Qのy座標が,${\rm O_2}$から角度$\theta/2$で望むものと等しいことから,
\begin{equation}
\begin{aligned}
(p+c) \tan \dfrac{\phi}{2} &= (c-p) \tan \dfrac{\theta}{2} \\
p \bigl( \tan \dfrac{\phi}{2} +  \tan \dfrac{\theta}{2} \bigr) &= c \bigl(  \tan \dfrac{\theta}{2} - \tan \dfrac{\phi}{2} \bigr) \\
p \varepsilon \Bigl( \sqrt{\dfrac{a-x}{a+x}} + \sqrt{\dfrac{a+x}{a-x}} \Bigr)
& = c \varepsilon  \Bigl( \sqrt{\dfrac{a+x}{a-x}} - \sqrt{\frac{a-x}{a+x}} \Bigr) \\
2 a p \varepsilon &= 2 x c \varepsilon\\
\therefore p &= \dfrac{c}{a} x
\end{aligned}
\end{equation}
これから,内心Qの満足する軌跡の方程式は,Pが描く楕円の軌跡の式を用いて以下のように求まった。
\begin{equation}
\dfrac{p^2}{c^2} + \dfrac{q^2}{(c \varepsilon)^2} = 1
\end{equation}

図 楕円の軌跡(青)と内心の軌跡(赤)


2019年11月29日金曜日

公転速度と公転周期

万有引力定数は,G=6.7 × 10^-11 m ^3 kg^-1 s^-2 である。高等学校の物理の教科書にのっているように,質量 M kg の天体の周りを質量 m kg の天体が速さ v m/s の速度で半径 R m の等速円運動するとき,$ \dfrac{G M m }{R^2} = \dfrac{m v^2}{R}$ から,$ v= \sqrt{\dfrac{GM}{R}} $,周期は$ T = \dfrac{2 \pi R }{v}$であった。これで,ブラックホール(BH)のまわりの"惑星"の公転速度と公転周期が求まる。だからどうしたといわれても。

地球−月(M = 6.0 × 10^24 kg, R = 3.8 × 10^8 m)→(v= 1 km/s, T= 0.76 y)
太陽−地球(M = 2.0 × 10^30 kg, R = 1.5 × 10^11 m)→(v= 30 km/s, T= 1.0 y)
銀河中心-太陽(M = 2.2 × 10^41 kg,R= 2.6 × 10^20 m)→(v= 240 km/s, T= 2.0 × 10^8 y)
BH−"惑星"(M = 8.2 × 10^36 kg,R = 1.0 ×10^17 m)→(v=74 km/s, T=2.7 × 10^5 y)

[1]国立天文台,最新の観測による銀河中心〜太陽系の距離や回転速度を発表
[2]超大質量ブラックホール(Wikipedia)

2019年11月28日木曜日

ブラックホールの周りの惑星

物理ではなかなかびっくりする話がない。いや,あるのだが,驚嘆するためにはそれなりの基礎知識が必要なのでたいへんだ。数学でもそうかもしれない。その意味では望月新一さんのIUTはとても大きなトピックだった。一方,天文学では結構な頻度で,驚きのニュースが飛び込んでくるような気がする。最近のそれは,ブラックホールの周りの惑星だ

ブラックホールの周りには降着円盤があることは,福江先生の得意分野でもあるので知っていた。そこに原始太陽系の形成モデルのシミュレーションを適用すると,銀河中心にあるような太陽の1000万倍の質量を持つ巨大ブラックホールのまわりのミクロな塵から,数億年をかけて,ブラックホール中心から10光年ほどのところに,地球質量の10倍程度の惑星が1万個以上形成されるというものだ。となりの惑星との距離は0.1光年のオーダーかな。生命が誕生するような熱源は確保できるのだろうか。SF作家の夢が広がるだろうか。

[1]K. Wada, Y. Tsukamoto and E. Kokubo,  Planet Formation around Supermassive Black Holes in the Active Galactic Nuclei(2019.11.26)

2019年11月27日水曜日

児童生徒1人1台PC

11月13日の経済財政諮問会議で,経済対策(未来投資)として義務教育の児童生徒1人1台のPCを配備するという考えが示された。経済再生担当大臣の西村康稔は,1995年から1997年にかけて通産省からの出向で石川県の商工課長を務めていた。そのころ父が亡くなり,葬儀後の挨拶で県庁もまわった際に名刺だけを置いてきた。西村は2003年に衆議院議員になったが,その前後からしばらく後援会からの案内が届いていたことがあった。選挙区は離れているのであまり効果はないと思うのだが,とりあえず関西圏なので。

さて,児童生徒1人1台PCに話を戻す。これが,小学校5年生から中学3年生までとなると,小学校 5, 6 年が 213万人程度,中学校1, 2, 3 年が 322万人なので,合計540万人。現在あるPCの普及率は 5.4 人に1台なので,人数として現有のもので必要数の 19% 程度がカバーされているとするなら,540万 × 81%で 440万台新たに必要になる(現有機器がデスクトップならばもっと必要かもしれない)。1台10万円として,4400億円だ(いつまでに実行するのだろう?)。その後,更新を続けるとすれば,毎年数百億円が必要になる。で,これを学校で管理できるのだろうか。活用できるのだろうか。どこかでBOYDにスライドできるのだろうか。謎は深まるが,あまりまともな制度設計がされることは期待できないように思う。

P. S. 読売新聞によると,2022年までに小5〜中3,2024年までに小1〜小4という説もあるようだ。

P. P. S. 12/3 PISA2018結果発表を前に,日経新聞によると2023年が目標年度であり,5000億円を児童生徒1人1台のPCまたはタブレットにつっこむそうだ。初年度は1500億円とか。南無阿弥陀仏。

2019年11月26日火曜日

山羊問題

山羊問題(Goat Problem)は次のような問題である。中心A,半径$r=1$の草の生えた円形の土地Sがある。その周の1点Oから長さ$a$のヒモにつながれた山羊を放し飼いにすると,Sのうち,半径$a$のOを中心とし半径$a$の円内の草が食べられてしまう。その面積がSの半分になるようなヒモの長さ$a$はいくらか?図形はOAを結ぶ線に対称なので,半分だけ考えてみよう。


図 山羊問題

山羊が食べた草地の面積は,扇型O-BP+扇型A-OP-三角形AOPであり,これが$\pi r^2/4$になればよい。角POA=$\phi$とすると,角PAO=$\pi-2\phi$である。これを式で表すと,
\begin{equation}
\begin{aligned}
\dfrac{\pi r^2}{4} &= \dfrac{r^2}{2}(\pi - 2 \phi) + \dfrac{a^2}{2} \phi - \dfrac{r^2}{2} \sin 2 \phi \\
a &= 2 r \cos \phi
\end{aligned}
\end{equation}
したがって,
\begin{equation}
4 \phi \cos^2 \phi = \sin 2 \phi +2 \phi -\dfrac{\pi}{2}
\end{equation}
これをMathematicaで解くと,$a/r = 1.15873$となった。
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In[1]:= Clear[x]; sol1 = FindRoot[4 Cos[x]^2  x == Sin[2 x] + 2 x - Pi/2, {x, 1}]; x = x /. sol1
Out[1]= 0.952848
In[2]:= a = 2 Cos[x]
Out[2]= 1.15873
In[3]:= Clear[x]; sol2 = FindRoot[Sqrt[1 - (x - 1)^2] == Sqrt[a^2 - x^2], {x, 1}]; b = x /. sol2
Out[3]= 0.671326
In[4]:= c = NIntegrate[Sqrt[1 - (x - 1)^2], {x, 0, b}] + NIntegrate[Sqrt[a^2 - x^2], {x, b, a}]
Out[4]= 0.785398

In[5]:= g1 = Plot[{Sqrt[a^2 - x^2], Sqrt[1 - (x - 1)^2],
   Sqrt[a^2 - b^2]/b x, -Sqrt[a^2 - b^2]/(a - b) (x - a), -Sqrt[a^2 - b^2]/(1 - b) (x - 1)}, {x, 0, 2},
  AspectRatio -> Automatic, PlotStyle -> {, , Dashed, Dashed, Dotted}, PlotRange -> {0, 1.2}]
In[6]:= g2 = Graphics[{Text[O, {0.05, 0.03}], Text[A, {0.95, 0.03}],
   Text[B, {1.20, 0.03}], Text[P, {0.69, 1.0}]}];
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2019年11月25日月曜日

パラメータ励振(5)

(パラメータ励振(4)からの続き)

\begin{equation}
\begin{aligned}
\ddot{x}+\dfrac{g-\ddot{\ell}}{\ell}x &= 0\\
\ell &= \ell_0(1-\epsilon \cos(\omega t + \delta))\\
g/\ell_0 &= \omega_0^2\\
\end{aligned}
\end{equation}
このブランコのモデルで,エネルギーが励振項から供給される様子を調べてみる。
微分方程式を変形すると次のようになる。
\begin{equation}
\ddot{x}+\omega_0^2 x = - \epsilon(\omega_0^2-\omega^2) \cos (\omega t + \delta ) x
\end{equation}
$\dot{x}$を微分方程式の両辺にかけると,
\begin{equation}
\dot{x} \ddot{x}+\omega_0^2 \dot{x} x = - \epsilon(\omega_0^2-\omega^2) \cos (\omega t + \delta ) \dot{x} x
\end{equation}
したがって,
\begin{equation}
\dfrac{d}{dt} (\dot{x}^2+\omega_0^2  x^2 )  = - \epsilon(\omega_0^2-\omega^2) \cos (\omega t + \delta ) \dot{x} x \equiv {\rm R}
\end{equation}
つまり,左辺は運動エネルギー+位置エネルギーの微分となるため,右辺がこれに対するエネルギーソースの働きをしている。そこで,右辺Rの符号を調べる。

ここで,$\omega=2\omega_0, \lambda = \dfrac{-3\epsilon \omega_0^2}{4\pi} < 0$とする。また,$\delta =(0, \pi/2, \pi, 3\pi/2)$に対して,$\varphi = (\pi/4, \pi/2, \pi/4, 0)$に注意する。
\begin{equation}
\begin{aligned}
x &= C_1 e^{\lambda t} \cos(\omega_0 t + \varphi) + C_2 e^{-\lambda t} \sin (\omega_0 t + \varphi)\\
\dot{x} &= \lambda \{ C_1 e^{\lambda t} \cos(\omega_0 t + \varphi) - C_2 e^{-\lambda t} \sin (\omega_0 t + \varphi) \} \\
&+\omega_0 \{ -C_1 e^{\lambda t} \sin(\omega_0 t + \varphi) + C_2 e^{-\lambda t} \cos (\omega_0 t + \varphi) \}
\end{aligned}
\end{equation}
初期条件として,$x(0)=c >0, \dot{x}(0)=0$とする。
\begin{equation}
\begin{aligned}
c &= C_1  \cos \varphi + C_2 \sin \varphi\\
0 &= \lambda \{ C_1 \cos \varphi - C_2 \sin \varphi \} \\
&+\omega_0 \{ -C_1 \sin \varphi + C_2 \cos \varphi \}
\end{aligned}
\end{equation}
これを解いて,
\begin{equation}
\begin{aligned}
C_1 &= c \dfrac{\lambda \sin \varphi - \omega_0 \cos \varphi}{\lambda \sin 2\varphi -\omega_0}\\
C_2 &= c \dfrac{\lambda \cos \varphi - \omega_0 \sin \varphi}{\lambda \sin 2\varphi -\omega_0}
\end{aligned}
\end{equation}
近似解は,$x(t)=c cos(\omega_0 t)$であるから,$\dot{x} \ x = -\dfrac{c^2}{2} \sin(2\omega_0 t) $ である。したがって,$\delta=\pi/2の場合$
\begin{equation}
{\rm R}= \epsilon(\omega_0^2-\omega^2) \cos (2\omega_0 t + \delta ) \dfrac{c^2}{2} \sin(2 \omega_0 t) = \dfrac{3 \omega_0^2 c^2}{2} \sin^2 (2\omega_0 t) > 0
\end{equation}
となって,エネルギーが増加することがわかる。また,$\delta = 3\pi/2$では符号が逆転する。


2019年11月24日日曜日

パラメータ励振(4)

以下のブランコのモデルに対する解析的な近似解を考える。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\ddot{x}+\dfrac{g-\ddot{\ell}}{\ell}x &= 0\\
\ell &= \ell_0(1-\epsilon \cos(\omega t + \delta))\\
g/\ell_0 &= \omega_0^2\\
\end{aligned}
\end{equation}
もとの微分方程式を $x(t), y(t)$ の1階連立微分方程式の形に表す。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\dot{x} &= y\\
\dot{y} &= -\{\omega_0^2+\epsilon(\omega_0^2-\omega^2)\ \cos(\omega t + \delta)\}\ x
\end{aligned}
\end{equation}
ここで,$x=a(t) \cos (\omega_0 t + \phi(t)), y= -a \omega_0 \sin (\omega_0 t + \phi(t))$とおいて,
上の連立微分方程式を$a(t), \phi(t) $の連立微分方程式に書き直す。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\dot{a} \cos (\omega_0 t + \phi) -a \dot{\phi} \sin (\omega_0 t + \phi) &= 0\\
\dot{a} \sin (\omega_0 t + \phi) +a \dot{\phi} \cos (\omega_0 t + \phi) &= \dfrac{ \epsilon(\omega_0^2-\omega^2)}{\omega_0}\ \cos(\omega t + \delta) a \cos(\omega_0 t + \phi )\\
\end{aligned}
\end{equation}
整理すると次のような2式となる。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\dot{a} &= \dfrac{ \epsilon(\omega_0^2-\omega^2)}{2\omega_0}\
\cos(\omega t + \delta) \sin(2 \omega_0 t + 2 \phi ) \ a \\
\dot{\phi} &= \dfrac{ \epsilon(\omega_0^2-\omega^2)}{2\omega_0}\
\cos(\omega t + \delta) \{ 1 + \cos(2 \omega_0 t + 2 \phi ) \} \\
\end{aligned}
\end{equation}
ここで,$\omega = 2 \omega_0$とし,$a(t),\phi(t)$の時間変化が緩いとして上式の右辺を$t=0$から周期$T=2 \pi/\omega$まで時間で積分した量を周期で割った量で置き換える。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\dot{a}  &= \dfrac{\omega}{2\pi} \int_0^{2\pi/\omega} \dfrac{\epsilon (\omega_0^2-\omega^2)}{2 \omega_0} \cos(\omega t + \delta) \sin(2 \omega_0 t + 2 \phi ) \ a dt\\
\dot{\phi} &=  \dfrac{\omega}{2\pi} \int_0^{2\pi/\omega} \dfrac{\epsilon (\omega_0^2-\omega^2)}{2 \omega_0} \cos(\omega t + \delta) \{ 1 + \cos(2 \omega_0 t + 2 \phi ) \} dt
\end{aligned}
\end{equation}
このようにして平均化された$\dot{a},\dot{\phi}$に対して次式が成り立つ。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\lambda &= \dfrac{\omega}{2\pi}\dfrac{\epsilon (\omega_0^2-\omega^2)}{4 \omega_0}\\
\dot{a} &= - \lambda \sin (\delta - 2 \phi) \ a \\
\dot{\phi} &= \lambda \cos (\delta - 2 \phi) \\
\end{aligned}
\end{equation}
さらに,$u=a \cos \phi, v= a \sin \phi$と置き上式を代入して加法定理を用い,さらに整理すると,
\begin{equation}
\begin{aligned}
\dot{u} &= \dot{a} \cos \phi - a \dot{\phi} \sin \phi = -\lambda a \sin (\delta - \phi)
= -\lambda (u \sin \delta - v \cos \delta)\\
\dot{v} &= \dot{a} \sin \phi + a \dot{\phi} \cos \phi = \lambda a \cos (\delta - \phi)
= \lambda (u \cos \delta + v \sin \delta)
\end{aligned}
\end{equation}
結局,
\begin{equation}
\dfrac{d}{dt}\begin{pmatrix} u \\ v \end{pmatrix}
= \lambda \begin{pmatrix} - \sin \delta & \cos \delta \\ \cos \delta & \sin \delta \end{pmatrix} \begin{pmatrix} u \\ v \end{pmatrix}
\end{equation}
さらに,$(u,v)=(A,B)e^{p \lambda t}$と置くと,
\begin{equation}
\begin{pmatrix} p+ \sin \delta & -\cos \delta \\ -\cos \delta & p-\sin \delta \end{pmatrix} \begin{pmatrix} A \\ B \end{pmatrix}=0
\end{equation}
自明でない解を持つ条件から,$p^2-\sin^2 \delta -\cos^2 \delta =0$より,$p=\pm 1$
$p=1$の場合
\begin{equation}
(1+\sin \delta)A -\cos\delta B=0 \quad \therefore (A,B)=(\sqrt{\dfrac{1-\sin \delta}{2}}, \sqrt{\dfrac{1+\sin \delta}{2}})\\
a=e^{\lambda t}, \quad \cos\phi = \sqrt{\dfrac{1-\sin \delta}{2}}, \quad \sin \phi = \sqrt{\dfrac{1+\sin \delta}{2}}
\end{equation}
$p=-1$の場合
\begin{equation}
(-1+\sin \delta)A -\cos\delta B=0 \quad \therefore (A,B)=(\sqrt{\dfrac{1+\sin \delta}{2}},
-\sqrt{\dfrac{1-\sin \delta}{2}})\\
a=e^{-\lambda t}, \quad \cos\phi = \sqrt{\dfrac{1+\sin \delta}{2}}, \quad \sin \phi =
 -\sqrt{\dfrac{1-\sin \delta}{2}}
\end{equation}
したがって,$x=a \cos (\omega_0 t + \phi)$の一般解は,2つのモードの重ね合わせとして表現される。
\begin{equation}
x(t)=\ell(t) \theta(t) =  C_1 e^{\lambda t} \cos (\omega_0 t+ \varphi)
+ C_2 e^{-\lambda t} \sin (\omega_0 t+ \varphi)\\
\varphi = \tan^{-1}\sqrt{\dfrac{1+\sin \delta}{1-\sin \delta}}
\end{equation}
$\omega = 2\omega_0$としたので,$\lambda = -\dfrac{3 \epsilon \omega_0^2}{4 \pi} < 0$である。$\delta=\pi/2$の場合,指数関数的に増大する項は,$C_2 e^{-\lambda t} \cos(\omega_0 t)$という形になる。

参考文献
[1]対話・非線形振動楽しい物理ノート KENZOU
[2]Parametirc Oscillator(Wikipedia en:)

2019年11月23日土曜日

パラメータ励振(3)

ブランコのモデルでは,重心の位置が振動の両端で最も高くなるのが良いのだと思い込んでいた。そのため,前回のモデルでは,$\epsilon=a/\ell_0 > 0$として,$\ell=\ell_0 (1-\epsilon \cos \omega t)$と考えた。つまり,$t=0$と$t=2\pi/\omega$で,$\ell=\ell_0 (1-\epsilon)$と重心が高くなり,$t=\pi/\omega$で,$\ell=\ell_0 (1+\epsilon)$と重心が低くなるわけだ。

しかし,どうやらそうではなかった。$\ell=\ell_0 (1-\epsilon \cos (\omega t + \pi/2))$のときに,最も励振が大きくなるのだ。前半の1/4周期に重心の落ちる速度が正,後半の1/4周期に重心の落ちる速度が負になるような運動の場合で,こちらの方が実際のブランコの漕ぎ方に直感的に一致しているような気がする。

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d = Pi/2; e = 0.05; w0 = Pi; w = 2 w0;
Table[sol[i] = NDSolve[{x''[t] +
       2 e w Sin[w t + d*i] /(1 - e Cos[w  t + d*i]) x'[t] +
       w0^2/(1 - e Cos[w t + d*i]) x[t] == 0, x[0] == 0.1,
     x'[0] == 0}, x, {t, 0, 150}], {i, 0, 3}];
f[i_, t_] := x[t] /. sol[i][[1]]
Plot[Evaluate@Table[f[i, t], {i, 0, 3}], {t, 0, 10},
PlotRange -> {-0.4, 0.4}, PlotStyle -> {Red, Gray, Blue, Black}]
#
# 振幅をPi/4に強調した重心の軌跡
g1=ParametricPlot[ Evaluate@Table[{(1 - e Cos[w  t + d0*i]) Cos[w0 t], -(1 - e Cos[w  t + d0*i]) Sin[w0 t]}, {i, 0, 3}], {t, 0, 2 Pi/w}, PlotStyle -> {Red, Gray, Blue, Black},
  PlotRange -> {{-0.8, 0.8}, {-1.2, 0}}]
g2 = Plot[-Abs[x], {x, -1/Sqrt[2], 1/Sqrt[2]},   PlotRange -> {{-0.8, 0.8}, {-1.2, 0}}]
Show[g1,g2]
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 図 パラメタ励振(支点と重心の距離は $\ell_0(1-\epsilon \cos (2 \omega_0 t + d)$ )

図 パラメタ励振(位相d = 0赤,Pi/2灰,Pi青,3Pi/2黒)


2019年11月22日金曜日

パラメータ励振(2)

ブランコのパラメータ励振単振子モデルをMathematicaで解いてみる。
$\epsilon = a / \ell_0$は,重心の上下振幅$a$ともとの振り子の長さ$\ell_0$の比であり,$\omega_0= \sqrt{g/\ell_0}$は重心が動かない場合の振り子の固有角振動数だ。
\begin{equation*}
\ddot{\phi} + \epsilon \sin \omega t \ \dot{\phi}  + \omega_0^2 (1+\epsilon \cos\omega t) \phi = 0
\end{equation*}
重心の上下振動の振動数を振り子の振動数の2倍にしたときに励振が起こる。
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e = 0.05; w0 = 3; w = 2 w0;
sol = NDSolve[{x''[t] + 2 e w Sin[w t] x'[t] 
    + w0^2 (1 + e Cos[w t]) x[t] == 0,
    x[0] == 0.1, x'[0] == 0}, x, {t, 0, 30}];
f[t_] := x[t] /. sol[[1]]
Plot[f[t], {t, 0, 20}]
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図 パラメータ励振の数値計算例

2019年11月21日木曜日

パラメータ励振(1)

物理Ⅲの授業は来週中間テストでいよいよ後半戦に向う。テーマは振動と波動で,小形正男さんの裳華房の振動・波動をテキストにしている。第5章の減衰振動と強制振動のところだ。小学校5年生の振り子の単元でもブランコを説明に遣うが,ここでも強制振動の説明にブランコをイメージしてもらう。ところが他人に押してもらわない自分で漕ぐブランコは,パラメータ励振で説明しなければならない。

ブランコのモデルとしてひもの長さが与えられた時間の関数として変化する単振り子を考える。運動を記述する変数として,鉛直方向からの振り子のなす角度を $\phi(t)$ とする。支点のまわりの角運動量は,$L=m\ell ^2 \dot{\phi}$ であり,支点のまわりの重力のモーメントは $N=-mg\sin \phi$  から,運動方程式$\dfrac{d}{dt}L=N$ は,$m \dfrac{d}{dt}(\ell^2 \phi) = -m g \sin \phi$ となり,微小振動を仮定して整理すると,$\ddot{\phi} + 2\dfrac{\dot{\ell}}{\ell}\dot{\phi} + \dfrac{g}{m} \phi = 0$ を得る。

例えば,$\ell(t) = \ell_0 - a \cos \omega t$ に対して,この方程式が簡単に解ければ,初等的な力学の教科書に例題としてどんどん載せればいいようなものだけれど,そうは問屋が卸さないのだった。ちなみにこの場合の近似運動方程式は,$\epsilon = a / \ell_0$,$\omega_0
= \sqrt{g/\ell}$として,次のようになる。
\begin{equation*}
\ddot{\phi} + \epsilon \sin \omega t \ \dot{\phi}  + \omega_0^2 (1+\epsilon \cos\omega t) \phi = 0
\end{equation*}


2019年11月20日水曜日

眉村卓

11月3日に眉村卓が亡くなった。中学生のころからSFを意識して読み始めるようになった。その当時の日本のSF作家では,小松左京筒井康隆星新一に次いで読んでいたのが眉村卓かもしれない。阪大経済学部で柔道部というところにもちょっと引っ掛かったかもしれない。眉村の作品で書棚に並んでいるものを調べてみた。燃える傾斜(ハヤカワ文庫),準B級市民(ハヤカワSFシリーズ),万国博がやってくる(ハヤカワSFシリーズ),幻影の構成(世界SF文学全集),EXPO87(日ハヤカワ文庫),滅びざるもの(徳間文庫),消滅の光輪(ハヤカワ文庫),司政官全短編(創元文庫)などであり,1960年から70年代にかけての作品に集中している。

眉村卓といえばインサイダー文学論だ。コリン・ウィルソンのアウトサイダーは大学に入ってから非常に興味深く読んだ。ただ,この実存主義的なアウトサイダーとインサイダー文学論のインサイダーはベクトルの向きが正反対というわけではないかもしれない。それでもSF読者としては,アウトサイダーという立場がなぜかしっくり来ることが多い。そう,自分が普通の人類と違っていたらどうだろうというあの感覚だ。

インサイダー文学論は,SFの対象として,そのようなアウトサイダー的傾向に親和的な層だけではなく,社会組織の中で歯車として生きているインサイダー層にフォーカスするような作品が必要であるという眉村自身の創作の立場を説明するものだ。それは初期作品にも見られたし,中期から後期にかけての司政官シリーズで端的に表現されていたのだと思う。

[1]私の失敗「眉村卓さん」(産経新聞文化部)
[2]眉村卓『司政官 全短編』あとがき(2008年1月)
[3]眉村卓『消滅の光輪』あとがき(2008年7月)
[4]眉村卓「霧を行く」(橄欖追放,東郷雄二)


2019年11月19日火曜日

スピン

日本の主な国語辞典のスピンの項目には,まだスピン(パブリック・リレーションズ)としての語意が載っていない。英語版のWikipediaでは,Spin(Propaganda)となっていて,日本でよく用いられるスピン報道とは若干ニュアンスが違うような気もする。

マスコミは基本的に読者の目を引いてメディアへのアクセスを増やし,広告の獲得や購買につながるニュースを仕立てている。その事情を熟知していて,かつ,自由に情報発信を制御できる政府は,あたかも自然現象のようにニュースを作ることができるかもしれない。

[1]「桜を見る会」と芸能報道から考える「結果スピン」の効能(荻上チキ)


2019年11月18日月曜日

公共財としての教育ビッグデータ(2)

例えば,JAPAN e-Portfolio は関連大学が構成員となる一般社団法人教育情報管理機構が運用主体となっている。その会員についてのページを見ると,正会員は大学である。国立大学が6法人,公立大学が3法人,私立大学が18法人となっている。賛助会員には教育産業の企業が名を連ねている。ベネッセが含まれる特別賛助会員が4社,指定賛助会員が4社,賛助会員が1社である。年会費300万円特別賛助会員の説明は以下の通り。
当該会員が運営する学習支援システム事業,ポートフォリオ事業,SNS事業,データベース事業等これらに類する事業において取得したデータ又は本機構が運営する高大接続ポータルサイト「JAPAN e-Portfolio」(以下、「JeP」という。)が所有するデータ等,JePに連携し,蓄積した情報を活用して事業を行う会員が支払う会費
*『「JAPAN e-Portfolio」(以下、「JeP」という。)が所有するデータ等」』とは「JAPAN e-Portfolio」の入力項目などシステム本体の情報を指します。生徒が「JAPAN e-Portforio」に入力し,蓄積された個人情報は,一切共有されることはありません。
ベネッセの個人情報漏れが起こったときには,これでもうおしまいだなと思ったのだが,あっという間に,復活を果たしただけでなく,ありとあらゆる教育公共事業案件に首を突っ込み,この優位性を背景に各学校への攻勢を強めている。これまでは,全国学力テストだったが,これに加えて,大学入試共通テストや,高校生のポートフォリオなど膨大なデータを手中に収めようとしている。このままでいけば文部科学省は民営化されて,ベネッセに取って代わられる日も近い。


2019年11月17日日曜日

公共財としての教育ビッグデータ(1)

日経朝刊で,公正取引委員会の杉本和行委員長が,「医療や金融分野などのビッグデータは多くの事業者が利用可能な「公共財」になりうるとの考え方を示した」。ここには教育分野が含まれていないが,まさに公共財として位置づけて,広く公開と流通を図ることが必要な部分は含まれているはずだ。もちろん,個人情報の機微に関る部分も多いため,その取り扱いにも注意は必要だが,それは医療や金融でも同じことだ。

数年前から清和会・政府の進めている教育政策の特徴は,一つには右翼的イデオロギー貫徹による教育支配であり,もう一つが,公共財としての教育を売り払う利権支配である。そして,その矛盾が噴出したのが,森友・加計・大学入試問題だ。巷では,モリ・カケ・サクラとして安倍の不正をあげつらっているが,本当にこわいのは,もてあそばれている日本の教育システムの破壊ではないのか。

岡山という地域をベースにしたベネッセ加計学園グループの深い結びつきについては,いろいろとネット上に情報が流れているが,そこに様々な公益法人や文部科学省からの天下りなどが絡み合い,複雑な病巣を構成している。そこに巣食う企業人や大学人や官僚崩れが,トップダウンの準公的な諮問会議や私的なワーキンググループを隠れみのに互いの利権を貪りながら,十分に吟味されておらず,当事者や専門家を排除した政策を立案している。

[1]教育情報管理機構JAPAN e-Portfolioの実施大学の団体+特定賛助会員など)
[2]進学基準機構佐藤禎一が理事長のベネッセ系一般財団法人)
[3]学力評価研究機構(ベネッセグループの株式会社)
[4]福武教育文化振興財団(ベネッセグループの公益財団法人)
[5]高校生のための学びの基礎診断(文部科学省)

2019年11月16日土曜日

米山保三郎

日経朝刊の連載小説が伊集院静の道草先生だ。最初はフォローしていなかったが,漱石の話だったことに気づき時々読んでいる。夏目金之助(1867-1916)の大学予備門(第一高等中学校)での友人として金沢出身の米山保三郎(1869-1897)がでてきた。金沢といえば宇ノ気町出身の西田幾多郎(1870-1945)も同時代の空気を吸っている。

米山保三郎については,Yahoo!知恵袋に北國・富山新聞の情報として,生没年と生誕地が野町2丁目であること,父が加賀藩の算用侍であったことなどが記されていた。東京帝大の哲学科で学び,かなりの秀才だったようだ。「吾輩は猫である」では米山をモデルとした天然居士=曾呂崎が登場している。米山は実際に天然居士という号を持っている。米山の助言によって金之助=漱石が建築ではなく文学を目指すことになった。
まだ子供のとき,財産がなかったので,一人で食わなければならないという事は知っていました。忙がしくなく時間づくめでなくて飯が食えるという事について非常に考えました。しかし立派な技術を持ってさえいれば,変人でも頑固でも人が頼むだろうと思いました。佐々木東洋という医者があります。この医者が大へんな変人で,患者をまるで玩具か人形のように扱う,愛嬌のない人です。それではやらないかといえば不思議なほどはやって,門前市をなす有様です。あんな無愛想な人があれだけはやるのはやはり技術があるからだと思いました。それだから建築家になったら,私も門前市をなすだろうと思いました。丁度ちょうどそれは高等学校時分の事で,親友に米山保三郎という人があって,この人は夭折しましたが,この人が私に説諭しました。セント・ポールズのような家は我国にははやらない。下らない家を建てるより文学者になれといいました。当人が文学者になれといったのはよほどの自信があったからでしょう。私はそれで建築家になる事をふっつり思い止まりました。私の考は金をとって,門前市をなして,頑固で,変人で,というのでしたけれども,米山は私よりは大変えらいような気がした。二人くらべると私が如何にも小ぽけなように思われたので,今までの考をやめてしまったのです。そして文学者になりました。(夏目漱石「無題」,大正三年一月十七日東京高等工業学校において
[1]落第(夏目漱石,青空文庫)
[2]無題(夏目漱石,青空文庫)
[3]処女作追懐談(夏目漱石,青空文庫)
[4]明治二十四,五年頃の東京文科大学選科(西田幾多郎,青空文庫)
[5]漱石と自分(狩野亨吉,青空文庫)
[6]吾輩は猫である(夏目漱石,青空文庫)
[7]漱石の悼む大怪物(かわうそ亭)
[8]漱石とメリメ : 『吾輩は猫である』における『カルメン』の水浴(高木雅恵)
[9]漱石覚え書補篇(柴田宵曲)


(写真:夏目漱石と米山保三郎,熊本市広報記事「漱石とくまもと」より引用)




2019年11月15日金曜日

東大寺七重塔

奈良東大寺の創建当時,東西に七重塔があったようだ。最近の東塔の発掘調査でも東塔を囲む回廊の東門の跡が見つかっている。塔の高さは70mとも100mともいわれており,東大寺はその再建を目標としているとのこと。ほんとですか。

日本で一番高い木造の塔は,54.8mの東寺の五重の塔だ。世界で一番高い木造建築物は,58.5mのカナダのブリティッシュコロンビア大学の学生寮だ。70mとか100mは可能なのだろうか?建築基準法上は燃えなければ可能みたい

その東大寺の七重塔は,1970年の大阪万博の際に古河グループの古河パビリオンとして復元されたことがある。ただしこれは木造ではなくプレハブ構造で1年で作ったようだ。その際に作られた七重塔相輪のレプリカは,東大寺大仏殿の横に設置されている。

金沢から大阪まで,雷鳥の臨時特急に乗って万博に行ったのは高校2年の夏休みだった。が,古河パビリオンにはあまり印象がない。岡本太郎のデザインで,小松左京のコンセプトによる内部展示を楽しみにしていただけにちょっと期待外れだった70mの太陽の塔には登ったけれど。


2019年11月14日木曜日

哲学 v.s. 物理学

勁草書房の〈現在〉という謎:時間の空間化批判(森田邦久編著)における哲学者と物理学者の論争は,場外にまで発展した。

第4章 客観的現在と心身相関の同時性[青山拓央
 コメント:哲学者に考えてもらいたいこと[谷村省吾
 リプライ:まず問いの共有を[青山拓央]

第5章 時間に「始まり」はあるか――哲学的探究[森田邦久
 コメント:物理学者が哲学者の時間論を読むとこうなる[谷村省吾]
 リプライ:哲学者も物理学を無視しない――形而上学と物理学の関係性[森田邦久]

これを受けて,名古屋大学の谷村省吾は,『〈現在〉という謎』をめぐる議論 のページで,『一物理学者が観た哲学』 2019年11月6日公開 PDFファイル 総ページ数 110
(書籍『〈現在〉という謎―時間の空間化批判』への補足ノート 増補版)を書いた。

かなり刺激的に哲学者(青山拓央)に喧嘩を売っている。谷村の論点はほぼ理解できる。しかし,谷村と同様に自分にも哲学者の方の言い分はよくわからない。これまでに何冊も科学哲学の本を読んでいるが,哲学者の基本用語がほとんど〈それ〉として理解できないままだ。どうしたものだろうか。

[1]物理学者と哲学者は「時間」を語ってどうすれ違うのか。(重ね描き日記)
[2]哲学者は物理学者の本気の拳をどう受け止めるか…谷村省吾「一物理学者が観た哲学」を読んで(丸山隆一 note)

2019年11月13日水曜日

大学改革の迷走:佐藤郁哉

ちくま新書1451の「大学改革の迷走」を読了した。478ページでかなり分厚い新書本だが2日で読むことができた。ほとんど,自分が体験してきたことと並行しているので,容易に頭に入ったからだ。著者は東北大学の大学院で心理学を専攻した後にシカゴ大学で社会学の Ph. D. を取り,一橋大学の教授から現在は同志社大学の商学部の教授である。社会調査方法論や組織社会学が専門であり,大学改革の真っただ中でのご自分の経験をも踏まえつつ,社会学者らしい視点が随所に見られる。

各章のタイトルではなくサブタイトルとキーワードを並べたほうがその内容が分かる。
第1章 —和製シラバスの呪縛(シラバス,画一化)
第2章 —和製マネジメント・サイクルの幻想(PDCA,経営ごっこ)
第3章 —残念な破滅的誤解から創造的誤解へ(選択と集中,KPI)
第4章 —実質化と形骸化のミスマネジメント・サイクル(慢性改革病,改革ごっこ)
第5章 —大学院拡充政策の破綻と「無責任の体系」(集団無責任体制)
第6章 —改革劇のドラマツルギー(作劇術)を越えて(道徳劇)
第7章 —「大人の事情」を越えて(エビデンス,EBPM,GIGO)

自分も大学の中で,この壮大なインチキを支えて自他を半ば騙しながら改革ごっこの推進側でもがいていた。したがって,あたかも第三者のように大学改革の迷走の犯人・悪者探しをすることはできないはずなのだが,あらゆる場面で道徳劇への参加の誘惑は強い。

5万人の学生調査で問題を抱えたまま,60万人を対象とする調査を繰り返すという話があったが,41万人の全国学習調査のことだろうか。あるいは,大学3年生60万人を対象とした授業評価調査のことだろうか。

2019年11月12日火曜日

桜を見る会

桜を見る会は,例年4月に新宿御苑で行われる内閣総理大臣主催の公的行事である。1700万円の予算を大幅に超過する支出が続いたことが問題視されたかと思ったら,逆に実態を追認して来年度予算を3倍の5700万円にする始末。何年か前に,安倍を批判していた爆笑問題がよばれて安倍と並んでいたときにいやーな感じはしたよね。11月8日の参議院予算委員会での日本共産党の田村智子議員の質疑が注目されている。最初,大手マスコミはほとんど沈黙したままだったが,少しだけ流れが変わったか。これも新しい燃料がなければすぐに沙汰やみになるのだろう。

P. S. 2019.11.13 橋下−NHK−菅 ラインで,燃料を除去(来年度中止)して火消しに走った模様。安倍晋三後援会のホテルニューオータニ前夜祭+富士急行バスツアーの問題も政治資金報告書の問題も何も解決していないはずだけど・・・

P. P. S. 2019.11.15 NHK社会部も結構攻勢をかけていたが,安倍が説明するといっているので(実際,夕刻に記者のぶらさがりで実施),つっぱねるための言い訳の作文ができたのだろう。追求側は証拠が足りず今回も詰めが甘かったということか・・・(今場所の遠藤の相撲みたい)

[1]「桜を見る会」を全部見る!テレ東NEWS:テレビ東京

2019年11月11日月曜日

英語民間試験の国会質疑から


京都工芸繊維大学の羽藤(はとう)由美先生は,京都工芸繊維大学の「大学入試への英語スピーキングテスト導入プロジェクト」のリーダーである。京都工芸繊維大学では,入試改革の一環として,英語スピーキングテスト導入に向けた学際的な研究グループを立ち上げており,国内でも最も先進的な取り組みをしている外国語教育の専門家である。先日の衆議院の文部科学委員会の参考人意見陳述に感銘を受けたので,ここに文字起した。

羽藤由美 参考人(京都工芸繊維大学教授)
意見陳述 11/5 衆議院・文部科学委員会
高大接続改革[英語民間試験]9:08-10:32
英語四技能の育成は重要です。しかし教育のインフラともいえる共通テストを民間に委ねるということは,国にとって重大な判断です。それによって得られるものと失なうものの大きさの比較検討が一切なされていません。
財や名を成した素人が,どこか高いところに集まって,個人的な経験や感想を言いあい,その中で決めた現実味のない教育政策が,推進に無批判に協力するごく少数の研究者や教員を利用する形で,そのまま現場に降りてきます。この現状こそどうぞ改善して下さい。
この国には,英語教育,言語テスト,テスト理論など能力の高い研究者がたくさんいます。教育現場にも地味に研鑽を積み,着実な成果をあげている先生方がいらっしゃいます。どうかその人たちの専門知を結集して,入試に頼らない教育の在り方も含めて,実現可能な最適解を探す努力をして下さい。
今回の検討会議が,そういう会議となるようなご配慮をお願いいたします。
[1]東京大学入学者選抜方法検討ワーキング・グループ答申(2018.07.12)