2023年7月2日日曜日

雨宮処凛


菅野完の論は,日本の現在の思想状況というか,差別的な態度が根強く蔓延って弱者を圧迫している現状を良く説明するものだと思える。

通俗道徳論≒自己責任論≒新自由主義という近似式から,1945年にリセットされた日本の資本主義が,人権という車輪を欠いたまま曲がって走り続け,その結果,自民党や日本維新の会が力を持っている現状もある程度は納得できる(アメリカによる日本支配の構図との関係がどうなっているかはちょっと・・・)。

もう一つ気になったのは,最近の日本維新の会の著しい成長の原因は何かという時間スケールの問題については,必ずしも満足行く答えを与えていないということだ。そんなとき,マガジン9の「なぜ維新なのかについてのロスジェネ的考察」で,雨宮処凛(1975-)が別の角度から議論していた。"自分の力で" がんばって要約すると次のようなものだ。
○日本維新の会への支持が広がっている。それはなぜか。
○特に「ロスジェネ世代の維新支持」という現象を考察する。
○40代以下の世代(ロスジェネ〜ゆとり・さとり〜)は「経営者マインドや為政者マインドをナチュラルに搭載している」例え,末端労働者であっても。
○彼ら世代には,労働組合や労働運動より「いつか一発逆転すること」の方がずっとずっとリアリティがあるから。
○この世代=雨宮は「自由な時代だから,人は可能性に満ちている。夢をかなえろチャレンジしろ。」という脅迫的な圧力にさらされてきた。
○そのロールモデルは,ホリエモン,ひろゆき,ZOZO前澤やユーチューバ−など,全員トリッキーな一発逆転系自己責任論者である。
○我々はずっと政治にDVを受けている。優しいふりをした人に裏切られるより,最初からひどいとわかってる人の方がまだましという気持ちになる。それは究極の消去法であり,唯一できる無意識の自己防衛だ。
○維新は確実に「どうせ世の中も人間もロクなもんじゃない」ということを体現している。そこが「現実がわかっているリアリスト」とある種の人々には見えてしまう。だからこそ,個別議員の犯罪歴などがこれほど暴かれてもほぼノーダメージという状態に繋がっている。
○我々は理想を語る人がマヌケにしか見えないという世界に住んでいる。現実がひどければひどいほど意地悪そうな人が支持を集め、理想を語る人が嘘つきの詐欺師にしか見えない地獄のような逆説にどうしたら対抗できるのか。

ロスジェネ世代の一発逆転のロールモデルであるYouTuberは,通俗的道徳規範の体現者≒禁欲的なジャパニーズプロテスタントではない。そうではあっても,自己責任論者の一種には違いないわけで,新自由主義との相性は抜群だ。

2023年7月1日土曜日

ロスジェネ世代

ロスジェネ世代という表現がよく用いられるので,この記事で勉強した。しかし,あまりしっくりしないので,GPT-4にきいたりWikipediaで調べた結果,日本におけるジェネレーションについてはおおむね次のようにまとめられそうだ。もちろん年代は厳密なものではない。


1.団塊世代(1947年〜1949年生):第二次世界大戦後のベビーブームにより生まれた世代。経済成長を経験し日本の復興を支えた。

2.(しらけ世代)(1950年〜1964年生):1955年〜1964年生には新人類という名前があるらしいが,1950年〜1954年の我々の世代にはまともな名前がないのだ。第Ⅰ期学習指導要領(規準化+道徳)の世代

3.バブル世代(1965年〜1970年生):バブル経済が最高潮に達した時期に大人になった。そのため、バブル経済の恩恵を受けて育った世代ともいえる。第Ⅱ期学習指導要領(現代化)の世代

4.団塊ジュニア世代(1971年〜1974年生):団塊世代の子供たちにあたる。親の団塊世代が生んだ豊かな時代を享受したが,バブル崩壊の就職氷河期と重なることになった。第Ⅲ期学習指導要領(ゆとりの始まり)の世代

5.就職氷河期世代・ロスジェネ世代(1975年〜1985年生):就職氷河期(バブル崩壊後の厳しい雇用環境)に直面した。そのため以後も経済的に困難な状況に置かれたものが多い。第Ⅲ〜Ⅵ期学習指導要領(プレゆとり)の世代

6.ゆとり世代さとり世代(1986年〜1999年生):学校での競争が緩やかになり,生活ペースが自由になるゆとり教育方針のもとで育った。物欲や出世欲が薄く,現状に満足しているとされる。第Ⅳ・Ⅴ期学習指導要領(ゆとり→生きる力)の世代

7.Z世代(2000年〜2011年生):デジタルネイティブと呼ばれ,インターネットやスマートフォンなどのテクノロジーと共に成長。オンライン上でのコミュニケーションに長け,多様性を尊重する傾向がある。第Ⅵ期学習指導要領(脱ゆとり)の世代

8.α世代(2012年生〜):Z世代以降のテクノロジーを完全に体験して育つ最初の世代。詳細な特性はまだ明確には定まっていない。第Ⅶ期学習指導要領(学び方)の世代


以下の図では,各世代が10歳のときの対応する学習指導要領が並行してわかるようにした欄と,20歳のときの経済状況のイメージをつかむための欄を加えたものを示した。



図:日本の世代と学習指導要領の対比

2023年6月30日金曜日

ヒトは衰退するのか

6月26日の日経朝刊1面トップの記事のタイトルが「ヒトは衰退するのか」だった。テクノ新世 岐路に立つ人類という特集記事の初回なのだ。来月から購読料が値上げされる日経の気分はほとんどSFになっている。他の全国紙ではなかなか考えにくい取り扱いかもしれない。

一つはAIによって,人間の仕事(欧米の場合)の4分の1が自動化されるという話である。これは,ゴールドマン・サックスの2023年3-4月のレポートに基づいているのだけれど,彼らは"Generative AI could raise global GDP by 7%"というタイトルをつけていて,受け取り方や強調の仕方が違う。

もう一つが,地球上の人工物の総重量が生物のそれを越えたというものである。これはワイツマン科学研究所の2020年のnature論文からきているので,早速調べてみたところ原論文が見つかった。なんとなく機械やプラスチックの総量が生き物を越えたのかというイメージだったけれど,そういうわけでもない。


図:地球上の人工物の総重量と生物の総重量(Elhacham et. al. より引用)

上の図が日経朝刊で引用されたものだが,バイオマスの値は乾燥重量であった,人工物は,コンクリート,骨材,レンガ,アスファルトがほとんどを占め,これに金属とプラスティックが続く。下の図では,水を含んだバイオマスの重量の値も示されている,これならば,2037年くらいになる。また,廃棄物がグレーで示されている。こちらもかなりの値になる。

人為的な気候変動説については必ずしも十分には信用できなかったが,これを見ると考えが変わるかもしれない。

2023年6月29日木曜日

大学教育とChatGPT(11)

大学教育とChatGPT(10)からの続き

各大学では,FDやセミナーなどで生成系AIについて取り上げる例が増えている。国立情報学研究所が開催している教育機関DXシンポジウムのシリーズでも,最近の話題の中心は生成系AIだ。大学からの生成系AIの利用に関する注意のほうはまだ続いている。

一方,組織としてこの問題に真正面から積極的に取り組んでいるところはそれほど多くない。例えば,立命館大学の生命科学部の英語授業の取り組みであり,武蔵野美術大学×AIピカソ,AI絵画AWARD である。AI Picassoを使うことで,著作権問題がクリアされるようだ。これは誰でも応募できるということか。新手の受験生募集作戦かもしれない。

森木銀河さんは,生成AIの台頭に応対する大学組織の動向として,テキストの分析をおこなっている。これは5月27日にJAIR(日本IR協会)の研究会で発表されている。
6月20日
ChatGPT 学生向けメッセージ
神戸常盤大学
https://www.kobe-tokiwa.ac.jp/univ/news/79d167af9c48840589cbe01f5c49663d03ef3211.pdf

6月20日
生成系 AI の利用について
畿央大学 教育推進室長 冬木正彦
https://www.kio.ac.jp/wpmlmain/wp-content/uploads/2023/06/AI_20230620.pdf

6月22日
ChatGPT 等の生成系 AI の授業における 利用について
北陸大学教務部長 杉森公一
https://www.hokuriku-u.ac.jp/sptopics/202306221427.html

6月22日
生成系人工知能について~実践的思考力を高めるために~
ルーテル学院大学 学長 石居基夫
https://www.luther.ac.jp/college/president.html#生成系人工知能について

6月23日
生成系AIに関する学生向けガイドライン
麗澤大学副学長(教育担当) 渡邊信・情報教育センター長 吉田健一郎・データサイエンス教育センター長 小塩篤史
https://www.reitaku-u.ac.jp/news/research/1776803/

6月23日
東邦大学における生成系AI の利用に関する方針
東邦大学 学長 高松研
https://www.toho-u.ac.jp/upnews/2023/20230623_1_AI.html

6月23日
生成系AI(ChatGPT、Bing AI、Bard等)の利用に関する留意事項
愛知工科大学 学長 大西正敏
https://www.aut.ac.jp/outline/policy/#anchor04

6月23日
生成AIツールに対する基本的考え方
法政大学 教育開発支援機構 教育開発・学習支援センター
https://www.hoseikyoiku.jp/lf/project/view.php?c=topics_view&pk=1687401621

6月26日
ChatGPT等の生成系AIの利用について
大阪人間科学大学 学長 井上博司
https://www.ohs.ac.jp/fiscal/2023/6573/

6月27日
本学におけるChatGPT等の生成系AIの利用における注意点について
福岡教育大学 学長 飯田慎司
https://www.fukuoka-edu.ac.jp/information/u28vtn00000012lz.html

2023年6月28日水曜日

モバイルICOCA

ついこの間,ICOCAからスマートICOCAに引っ越したばかりなのに,もうモバイルICOCAがiPhoneに対応してしまった。

Suicaは以前からモバイル対応だったのでうらやましかったが,ICOCAも3月のAndroid端末に続いてようやくiOSまで順番が回ってきた。夕方のニュースで見かけて早速トライしたら皆が殺到していた。少しだけ待たされたが,案内行列に並んでいたらしばらくしてOKとの通知があった。

iOSのウォレットを開いて,追加の+メニューから交通系カードを選ぶと,トップにICOCAがでてきたので,SMART ICOCAカードを取り出してiPhoneをかざすだけだ。情報の転送が必要だからだろうか,普通のICカードでの読み取りに比べるとちょっと時間がかかる。

ICOCAアプリのインストールに誘導されたので,こちらもインストールしたけれど,役割分担が今一よくわかっていない。とにかく,ICOCAアプリは使えるようになり待望のオンラインチャージも可能になった。チャージ上限は2万円というのも確認できた。ところで,旧のモバイルICOCAカードのほうはそのまま使えるのだろうか。WESTER アプリで残高確認すると,一応残っているのだ。どういうこと?

検索してもあまり要領を得ない。世界はどんどん複雑になっていって,年寄りはついていくのが大変になる。これに新幹線のスマートEXを組み合わせて使うことになったらどうしようかと思うのだけれど,もう東京に通うこともなくなったので,心配御無用であった。


写真:引き続き使えるのかどうかよくわからなくなった SMART ICOCA

追伸:JRおでかけネットをちゃんと読むと,移行後のICOCAは使えなくなるので破棄せよとのことだった。

推察:夕方にApple Payの障害で,モバイルSUICAが使えなくなっていた。たぶん,アクセスが集中したICOCAのせいではないかと睨んでいるのだがどうだろう。

付録:モバイルICOCAはAndroid用の名前であって iPhoneのそれは ICOCA  Pay らしい。

2023年6月27日火曜日

安丸良夫

通俗道徳と日本資本主義からの続き

菅野完の話は,安丸良夫(1934-2016)の民衆思想史に基づいたものだ。歴史学者というと頭に思い浮かぶのは網野善彦(1928-2004)で,安丸良夫は聞いたこともなかった。

岩波講座の日本歴史はこれまでに5次にわたって出版されているが,その第4次シリーズ(1993-1995)の編集委員が,朝尾直弘・網野善彦・石井進・鹿野政直・早川庄八・安丸良夫だった。なお,第5次シリーズ(2013-2015)の編集委員は,大津透・桜井英治・藤井譲治・吉田裕・李成市であり,こちらで聞いたことがあるのは吉田裕(1954-)くらいか。

安丸良夫は,富山県東礪波郡高瀬村(現在の南砺市森清)の出身なのだが,これはわが家のルーツがある越中桐の木村(南砺市桐木)や松の木村(南砺市松木)から6kmほど東にある。安丸の通った福野高校は5km東だ。真宗篤信地帯の農村出身であることが,その後の彼の思想に大きな影響を与えたとのこと。

1953年に京大文学部に入学し,大学院生のときにアルバイトで大本出口なお(1837-1918)のおふでさきの解読作業に携わる。1965の「日本の近代化と民衆思想」で彼の理論が展開された。戦後日本の啓蒙主義的な時代思潮のなかで前近代的・封建的などとされて来た「通俗道徳」(勤勉、倹約、孝行、正直などの民衆的な日常道徳)が,じつは民衆の自己規律と自己鍛錬の様式であり,それを通じて膨大な人間的エネルギーが発揮され,近代化していく日本社会を基底部で支えた,というものだ(マックス・ヴェーバーのプロ倫を想像すると理解しやすい)。

「歴史をおしすすめる根源的な活動力は民衆自身だ」という主張は,様々な批判や反発を招いたようだが,それに対する安丸の見解は参考文献の[1] [2] にみられる。民衆というキーワードを強調しなければ,菅野完の通俗道徳≒自己責任論≒新自由主義にすんなりつながるのだけれど。

[1]「民衆思想史」の立場(安丸良夫)
[2]「民衆史」と戦後歴史学(安丸良夫)

2023年6月26日月曜日

通俗道徳と日本資本主義


日本会議の研究でおなじみ,天理市出身の菅野完(1974-)が,FaceBookおよびYouTubeで展開していた論(1:08:30あたり->)が腑に落ちた。

その趣旨は次のようなものだ。欧米ではプロテスタンティズムが資本主義を産み出したが,日本では江戸時代に上方で商品経済の勃興とともに発生した通俗道徳がその後の資本主義発展に大きな役割を果たした。

通俗道徳というのは,「勤勉・倹約・礼儀・孝行などの道徳的規範を履行していれば富や幸福が訪れる」というものだ。それ以前は「全ては前世の宿業」という仏教的な因縁思想が主流だった。通俗道徳により,成功している人=道徳的規範を履行した人,不幸な人=道徳的規範の履行に欠損がある人,という認知が進むことになる。

ある人が不幸な場合,その原因は本人の道徳的瑕疵に着せられ,社会構造への批判的検討や歴史的経緯に対する考察は入りえない。不幸な人が告発する行為は,礼儀という徳目違反と見なされて,さらに不道徳ポイントが追加される。それだけでなく,成功者がこの不道徳事例を見逃すことによる減点をさけるために,不幸な告発者への道徳的批判に邁進することになる。

このような通俗道徳の土壌の上には「人権」や「権利」などの意識は芽生えようがない。欧米(プロテスタンティズム)では全ての人が神との平等な契約にさらされており,これによって人権意識が育まれたのとは大きな違いがある。

そのため,日本の資本主義は欧米のそれとは異なり,人権という片方の車輪を欠いたまま成長してしまったというわけだ。1945年の敗戦で,脱輪はいったん解消されたが,その後75年経過して再び脱輪の道を進んでいる。実際,女性差別,外国人差別,LGBTQ差別,などは放置されたまま,いや悪化の一途を辿っている。これが菅野完の論のあらすじだった。

結論:通俗道徳論 ≒ 自己責任論 ≒ 日本型新自由主義(自民党・維新支持者の論理)
noiehoieさんには「通俗道徳の倫理と資本主義の精神」という新書をはやく書いてほしい。


2023年6月25日日曜日

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神

1972年,大学に入りたてのころは知的好奇心のポテンシャルにあふれていた。梅棹忠夫岩波新書青版の知的生産の技術に影響されていた頃だ。毎年100冊近い本(まあ半分以上文庫のSFや小説なのだが)を読んで,京大式カードにチャレンジし(1週間で挫折),NHKの生物工学の講座を視聴し(基礎工に潜ったほうがはやい),街を歩いた。

岩波書店の「図書」も新刊本の情報収集のために購読していた。年100円?と安かった。面倒だったので封筒に100円玉を入れて送ったら,郵便局から突き返されてきた。その図書に岩波の文化講演会の案内が載っていた。

京都の国際会議場だかどこかで夕方から無料で開催されるものに,分子生物学の渡辺格(1916-2007)など3名の話があるというのでとんでいった。渡辺先生の話はそれほどインパクトがなくてやや期待外れだった(というか話の内容を理解できなかったのかもしれない)が,その後にでてきた,大塚久雄(1907-1996)が印象的だった。周囲を圧倒する雰囲気の隻腕の老紳士で,マックス・ヴェーバーとマルクスの話だったような気がする(こちらのほうも話の内容は頭に入らなかった)。

さて,その大塚久雄先生が訳したマックス・ヴェーバー(1864-1920)のプロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(1904)である。学生のころ人文社会科学の中で一番関心のあったのは社会学だったけれど,正統的で本格的なものにはまったく手が伸びず,見田宗介や井上俊など周辺の甘いお菓子のような本ばかり読んでいた。

でこのたび,ChatGPTのお力をかりて俄勉強してみるが,上記にリンクしたWikipediaの方がより具体的で丁寧な説明がわかりやすかった。

Q:User
マックス・ヴェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」で展開される論理の筋道をなるべく分かりやすく解きほぐして説明してください。

A:ChatGPT
マックス・ヴェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」は、西欧の経済的成功とプロテスタントの宗教倫理の関係性についての社会学的研究です。

ヴェーバーの主張は、プロテスタンティズム(特にカルヴァン派)の倫理観が、現代の資本主義の精神を醸成し、助けたというものです。

以下に、ヴェーバーの主要な論点をいくつか列挙します:

職業倫理(Calling):プロテスタンティズム(特にカルヴァン派)では、一人ひとりが神から職業(calling)を与えられ、それを全うすることが信仰の一環とされます。つまり、労働はただの生計を立てる手段ではなく、神への奉仕として理解されました。これは、労働を倫理的価値として捉え、経済活動を奨励する強力な推進力となりました。

予定説と成功の証:カルヴァン派の特徴的な教義である予定説は、神がすでに誰が救われ、誰が避けられるかを決定しているとするものです。しかし、この運命は誰にもわからない。したがって、信者は自分が選ばれた者であると信じる確証を求めました。ここで、経済的成功がその確証として捉えられるようになりました。

禁欲主義と資本蓄積:プロテスタンティズムは節制と自己規制を強調し、贅沢や浪費に対して否定的な態度をとりました。したがって、信者は労働を通じて得た利益を再投資し、資本を蓄積する傾向がありました。これが、資本主義の発展を推進しました。

このように、ヴェーバーはプロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神がどのように関連しているかを論じています。彼の見解には議論の余地がありますが、宗教的価値観が経済行動や社会的変化にどのように影響を与え得るかを示す一例として引用されます。彼の視点から見れば、プロテスタンティズムの宗教的倫理は、労働の倫理的価値を高め、経済的成功を信仰の証と捉え、さらに生活の節制を奨励することにより、資本主義の発展を促進しました。

しかし、これは一方的な因果関係を示しているわけではありません。ヴェーバー自身も、プロテスタンティズムが唯一の要因、または必ずしも資本主義の発展につながるとは主張していません。むしろ、彼の主張は、これら二つの発展が互いに影響を与え、形成し合ったというものです。このような視点は、経済、宗教、文化などのさまざまな要素がどのように相互作用するかを理解するための重要な枠組みを提供します。 


写真:マックス・ヴェーバー(Wikipediaより引用)

Q:User
2. 予定説と成功の証:の部分のロジックがわかりにくいです。『禁欲的プロテスタンティズムは、「利潤の肯定」と「利潤の追求の正当化」を生み出した。つまり、金儲けに正当性を与えたのである。』の理由をもう少し詳しく説明してください。

A:ChatGPT
マックス・ヴェーバーの理論における「予定説と成功の証」について、より詳細に説明します。

カルヴァン派プロテスタンティズムには、「予定説」という重要な教義があります。これは、神がすでに誰が永遠の救済を受けるか(選ばれた者)を決めている、という信念です。しかし、誰が選ばれた者なのか、また、自分自身が選ばれた者なのかを知ることはできません。この不確実性は、信者にとって大きな不安を生じさせることとなります。

ヴェーバーは、このような信者が自身が選ばれている(つまり、神によって救済が約束されている)確証を求めるために、自らの職業に励み、経済的な成功を追求したと主張します。経済的成功は、自身が選ばれた者であるという"証拠"または"確証"と捉えられたのです。つまり、成功は神からの恵みの証となり、これが利潤追求の正当化につながります。

この理論は、「禁欲的プロテスタンティズムは、利潤の肯定と利潤の追求の正当化を生み出した」という結論に結びつきます。具体的には、信者は自身の労働と経済的成功を神聖な使命と捉え、それを通じて神の意志を具現化するものと理解しました。これにより、一見すると物質的で世俗的な活動である「金儲け」にも、神聖な価値が見出され、正当化されたのです。

2023年6月24日土曜日

大学の英語教育はいらない?

大学にもう英語教育はいらない」というのは,立命館大学生命科学部で英語教育を担当している山中司さんが2017年に執筆した論文のタイトルだ。

ChatGPTのインパクトを一番切実に受け止めているのが,大学の英語教育のコミュニティだ。各大学から出ている生成AI使用ガイドラインだが,これを3月の段階で日本で最初に発出したのが東京外国語大学でありその内容も秀逸だった。

山中さんは,2022年度秋学期から立命館大学の必修英語科目に翻訳ツール(みらい翻訳)を導入し試験運用を始めている。さらに,授業におけるChatGPTの活用もニュースに取り上げられ,英語教育とAIに関してはトップランナーである。

さてその論文だが,17ページあったので要約をGPT-4 & プラグインにお願いした。ChatWithPDF はファイル読み込みに失敗し,AskYourPDFもLinkReaderも,どうもイマイチの結果しか出してこない。最近,GPT-4の調子はよくないのかもしれない。

しかたがないので,自分で読んでまとめる必要がある。これがまた面倒で仕方がない。AIによってすごい勢いで人間(自分)の退化が促されていることを実感する。これが人類に対するAIの脅威の最大のものだ。そもそも老人の読む力が筋力に比例して落ちているのだった。

○本論文は,大学教育の未来の一つの極としての「英語教育解体論」を語る。
○大学設置基準の大綱化で科目設定が各大学の判断に任されているにも関わらず全ての大学では,「外国語科目」として「英語」が必修化されている。
○AIにより,音声認識や自動翻訳の技術,AIによる4技能の活用が十分実用的になり,(1) 英語教員が不要,(2) 英語教育が不要,(3) 英語学習が不要 になる。
○この状況は英語教育への企業参入を容易にし,市場原理で大学の外国語教育≡教員が駆逐される可能性がある。これらが「強い解体論」と呼ばれる外在的要因である。
○哲学における「言語論的転回」でコミュニケーション=言語(言語至上主義)と捉えられていたのが,複合メディア・表現へのアクセスが容易になり逆転し始めた。
○英語教育=第二言語習得=応用言語学が,確たる方法論と統一理論を持たず解体しつつある分野になった。
○英語が世界言語であることから,言語寛容性がもとめられ規範性を失っている。これらが「弱い解体論」とよばれる内在的要因である。

ということで,ChatGPTが登場する前夜から英語教育は危機に瀕していたことがわかる。




2023年6月23日金曜日

生成系AI利用の基本方針


一部の大学は別として,多くの大学で今一つ十分な検討がされていないような気がする。生成系AIの利用上の注意文書のことだ。本来は大学としての基本方針を確立し,それに基づいて,教職員向け(教育・研究・事務)と学生向け(学習)の具体的なガイドラインを2本作るという構造になるべきだろう。

せめて,ChatGPTにたたき台を出してもらってから,考えればよかったのではないだろうか。例えば,以下のようにそれらしい基本方針がでてくるのに。リテラシーがないままに,自分たちは知っているという雰囲気のガイドラインを出しているわけで。

生成系AI利用の基本方針(GPT-4からの提案)

1. オープン性と透明性
我々の大学はオープンで透明な利用を推進します。AIの利用の過程と結果は、利用者が学び、理解し、さらにはその適用を改善するための知識を共有することを可能にするべきです。

2. 教育的な目的
AIの利用は教育的な目的を優先するべきです。研究、学習、そして教育的な探求が主な利用目的となります。

3. 倫理と責任
AIの利用は常に倫理的な枠組みの中で行われるべきであり、利用者はその使用について全面的な責任を負うべきです。これには、潜在的なバイアス、データの使用、AIの出力への理解と扱いについての考慮が含まれます。

4. データのプライバシー
AIの利用はプライバシーを尊重するべきです。敏感なデータを扱う場合や、特定の個人が識別可能な状況では、データの匿名化や適切な扱いが行われるべきです。

5. コラボレーションと共有
我々の大学は、AIの成功した利用事例と失敗事例の共有を推奨します。これにより、一人一人の学習が共同体全体の知識に反映され、全体として前進することができます。

6. 継続的な学習と適応
AIとその利用は進化し続けます。そのため、我々の大学は継続的な学習、適応、そしてAIの利用の改善を推進します。

7. アクセシビリティ
我々の大学は、全ての学生、教員、職員がAIを公平に利用できることを保証します。そのために、我々は必要なリソースと教育を提供します。

日本の大学の注意文書に欠けているのが ,1,5,7あたりだ。2が妥当なのかどうかはよくわからない。

2023年6月22日木曜日

大学教育とChatGPT(10)

大学教育とChatGPT(9)からの続き

私立大学情報教育協会(JUCE)が生成系AI使用ガイドラインを出していたので,他の学会や国大協の会長談話と併せてまとめておく。

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4月25日,人工知能学会としての大規模生成モデルに対してのメッセージ
一般社団法人 人工知能学会 会長 津本周作/倫理委員会

5月1日,生成AIの利用ガイドライン
日本ディープラーニング協会

5月29日,生成 AI の利活用に関する国立大学協会会長コメント
国立大学協会会長 永田恭介

5月31日,生成系 AI 使用ガイドライン
公益社団法人私立大学情報教育協会
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今週は,他のアーカイブを参考にして落ち穂拾いに努めたところ,結構な見落としがあった。あとは,横浜国立大学が受験生向けの注意を出していたのがめずらしかった。生成系AIを駆使して願書等を作成するような学生は真っ先に入学させればいいように思うのだが,気のせいかもしれない。

文科省の学校向けガイドライン案がリークされていたけれど,この小中高ガイドラインに振り舞わされる大学もでてきそうな勢いだ。『指針案は「生成AIを使いこなす力を育てる姿勢が重要」としつつ、著作権侵害や批判的思考、創造性への影響といった懸念やリスクもあると指摘』。批判的思考や創造性を収奪しながらそれを是とする空気を作ってきたのは誰・・・いまさら感がただよう。

6月6日
Chat GPT等の生成AIの利用について
昭和大学 学長 久光正

6月9日
ChatGPT等の生成系AIの利用について
育英大学

6月13日
ChatGPT等の生成人工知能(生成AI)利用に関する留意事項等について
多摩大学

6月13日
大学における Chat GPT 等 AI の活用に関する指針
日本赤十字九州国際看護大学

6月14日
生成系AIの取り扱いに関して
関西医科大学 学長 木梨達雄

6月14日
ChatGPT等の生成AIの使用に関する留意事項
沖縄国際大学 学長 前津榮健

6月14日
生成AI(ChatGPT等)に関する注意事項
近畿大学 経営学部長 安酸建二

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6月15日
生成AI(Generative AI)の利用に関する本学の考え方について
横浜国立大学 副学長(教育担当) 髙木まさき・副学長(研究・情報担当) 四方順司

6月15日
ChatGPT等の生成系AIに関する本学での対応について
実践女子大学 学長 難波雅紀

6月15日
生成系AIに関する本学の基本方針
四天王寺大学 学長 須原祥二

6月16日
生成系AI(人工知能:Artificial Intelligence)に関する本学の考え方と留意点
十文字学園女子大学 教育担当副学長 安達一寿

6月16日
学生による生成系AIの利用における注意点について
日本医療科学大学 学長・教務部長

6月16日
ChatGPT等の生成系AIの利用に関する注意喚起
敦賀市立看護大学 学長 内布敦子

6月19日
授業などにおけるChatGPTなどの生成AIの利用について
福井大学 理事(教育,評価担当)/副学長・データ科学・AI教育研究センター長

6月19日
生成系AIの学習・研究活動への利用について
山梨英和大学 学長 朴憲郁

6月20日
ChatGPT等の生成系AI(人工知能) 利用について
静岡県立大学 副学長(全学教務委員長) 今井康之・学生部長 細川光洋

6月20日
宮崎大学における生成系AIの利用にかかる留意事項について
宮崎大学長 鮫島浩
宮崎大学における生成系 AI の学習上の利用についての考え

6月20日
生成AIを活用するための基本方針
徳島大学長 河村保彦

6月21日
生成系AIの使用に関する注意について
名古屋経済大学 学長 佐分晴夫
6月21日
東洋学園大学 ChatGPTなどの生成AIへの本学の考え方
東洋学園大学学長 辻中豊
6月21日
本学におけるChatGPT等の生成系AIツールの利用について
神戸学院大学 学長 中村恵
6月21日
酪農学園大学における ChatGPT 等の生成系 AI 利用に関する留意事項について
酪農学園大学 学長 岩野英知
https://www.rakuno.ac.jp/archives/28167.html

 

2023年6月21日水曜日

メディアリテラシー教育の原理

法政大学の坂本旬さんが,アメリカの National Association for Media Literacy Education (NAMLE)が出している,Core Principles of Media Literacy (2023) 和訳して紹介していた。

そこで,自分でも試してみる。もちろん下請け(DeepLとかChatGPTとか)に任せるわけだけれど。結局,両者をミックスして人間の手を入れないとだめだった。
1. メディアリテラシーの概念を拡大する。それは全てのメディア形態を含み,意識的なメディアの消費者と創作者を育成するために複数のリテラシーを統合するものである。

2. すべての人が,自分の背景,知識,スキル,信念を用いてメディア体験から意味を創り出すことができる学習者であると想定する。

3. 好奇心,柔軟な思考,自己反省的な探求を優先する教育方法を推進する。ただし,理性,論理,証拠を重視することを踏まえながら。

4. 学習者が,絶えず変化するメディアの風景を通じて体験,創造,共有するメッセージについて,積極的な問い掛け,反省,批判的思考を行うことを奨励する。

5. 学習者に対して,統合的で,学際的で,対話的で,年齢と発達段階に適したスキル向上の機会が継続的に必要であるようにする。

6. 個々の人々がメディアを作成し共有する際に多くの倫理的責任を果たす,参加型のメディア文化の発展を支援する。

7. メディア機関は社会化,商業,変化の担い手として機能する文化的および商業的な存在であると認識する。

8. 公共の福祉のための健全なメディア環境は,メディアおよび技術関連企業,政府,市民間での共有の責任であると主張する。

9. メディア産業の社会における役割についての批判的な探求を重視する。メディア産業が,権力の仕組みにどのように影響を与え,また影響を受けているかを含め,公平性,包括性,社会正義,持続可能性に影響を与えるものだから。

10. 個人が,民主主義社会の中で,情報を得,反省し,関与し,社会的責任を負う参加者となるよう支援する。




2023年6月20日火曜日

ローラー式すべり台(2)

ローラー式すべり台(1)からの続き

さて,ローラ式すべり台において,雨粒のように速度の2乗に比例する抵抗が働く理由である。これを牧野さんにならってローラーの回転エネルギーへの損失からくるとしてみよう。

村田さんらの論文では,実験データとして次の情報が与えられている。ローラ式すべり台の直線部分7.5m,角度13度,直径18mm の軸受け付きアルミ棒・25mm 間隔 とある。アルミ棒はたぶんアルミパイプだと思うが,厚みや長さや質量などの情報はなかった。

これから,回転アルミパイプの外径$R$は9mm で間隔$d$は25mm となる。仮に厚みを5mm とするとアルミパイプの内径$R'$は4mmである。アルミパイプの軸回りの慣性能率$I$は,その質量を$M$として,$I=(R^2+R'^2)/2 \cdot M$ となる。よくある力学の演習問題だ。

終端速度$v$に達すると,すべり台を滑る位置エネルギーがすべてローラーの回転エネルギーに転化される。あるいはこの際に損失を伴うかもしれない。短時間$\Delta t$の間に物体が角度 $\theta$のすべり台を$v \Delta t$だけ滑り落ちるとする。その際の位置エネルギー変化は$\Delta U = m g v \Delta t \sin \theta$ となる。

一つのローラユニットの幅は$d$なので,この間に通過するユニット数 $n$は,$n=\frac{v \Delta t }{d}$となる。また,1ユニットのローラが受け取るエネルギー$\Delta L$は,$\Delta L = \frac{1}{2} I \omega^2 $となる。ただし,$\omega = \frac{v}{R}$は,ローラーの回転角速度である。これから,$\Delta L = \frac{I v^2}{2 R^2} $となる。

$\Delta U =  n \Delta L$から $v \Delta t$を消去すると,$m g \sin \theta =\frac{1}{d} \cdot \frac{I v^2}{2 R^2} $となる。
$\therefore  v = \sqrt{\dfrac{4 g \sin \theta \  R^2 d }{(R^2+R'^2) M}} \cdot \sqrt{m}$
ここで,$M$はアルミパイプの質量。アルミパイプの長さを60cm ,$R'$=4mmとすると,$M$=0.33kgとなる。これらを代入すると, $v=0.74 \sqrt{m}$ となる。

牧野さんの前半の値とほぼ整合するというか,真似しただけなのであたりまえなのだった。


図:アルミパイプ内径の関数としての係数と質量(直線は係数の実験値)

2023年6月19日月曜日

ローラー式すべり台(1)

カーリングの原理(1)からの続き

カーリングの原理で有名になった立教大学の村田次郎さんが,第2段としてすべり台の滑降時間に関する論文を書いた。しばらく前にマスコミでも話題になっていた。

問題意識は次のようなものだ。自由落下する物体の落下時間はその物体の質量によらない。摩擦のない斜面を滑降する場合も同様だ。ガリレオが長い斜面を作って実験したやつだ。ところが,実際のすべり台では大人と子供で滑る時間がちがう。重い人ほど速いらしいのだ。これはなぜか。

重いものが速く落ちる現象は実は良く知られている。雨だ。大きな雨粒ほど速く落ちる。これは大学の物理の授業で良く取り上げる,速度に依存する抵抗が働いているときの終端速度の問題だ。慣性抵抗が働く場合,終端速度 $v$ は次式 $k\,v^2=m\, g$ を満たすので,$v= \sqrt{g/k \cdot m}$となって,雨粒の質量$m$の平方根に比例する。

村田さんとその卒論学生の塩田君は,学生の探究実験としてこれをとりあげて,丁寧に工夫された実験と測定を行っている。これを分析した神戸大学の牧野淳一郎さんによると,ローラー式すべり台の場合も終端速度の平方根に比例するとのことで,ローラーの回転にエネルギーが散逸するとしてほぼ説明できるという新たな解釈を行った。

面白い話なので,自分でも計算してみることにする。まず,終端速度$v$と質量$m$の関係だ。村田チームは,動摩擦係数$\mu$を経由させながら,終端速度$v$の一次に比例する動摩擦係数$\mu = K v$を導入し,終端速度を$v=\frac{\tan \theta}{K}$ としている。ここで$\theta$はすべり台の斜度である。物理教育 Vol. 71 No.2 95-100 (2023) に投稿された「すべり台の動摩擦係数の実測研究」の図5 に $K$と$m$の関係があって,単調現象の質量依存性を指摘するにとどまっている。牧野さんはこの図から,終端速度$v$の質量依存性を $v=0.58 \sqrt{m}$ とした。

さて,図を読み取ると,資料{A,B,C,D}に対して,質量は$m$={1.0,2.2,4.2,6.2}であり,パラメタは$K$={0.395,0.255,0.175,0.145}となった。斜度の実測値を入れた終端速度の式,$v=\frac{\tan 13^\circ}{K}$にあてはめると,$v$={0.582, 0.902, 1.314, 1.586}となる。これを最も良く再現するのは $v \propto m^{1/1.8}$の場合であり,$v \propto m$ではなく,$v \propto m^{1/2}$のモデルの妥当性を示している。村田さんの論文の図から得られたのは,$v = 0.62 \sqrt{m}$であり,牧野さんの値より少しだけ大きくなった。


写真:ローラー式すべり台の完全に誤ったイメージ
(Bing=DALLE作,何度説明しても全く理解してもらえなかった,
人間のコミュニケーション能力が真剣に問われる・・・)


2023年6月18日日曜日

AI Risk

AIの安全性についての研究や提唱をしている非営利組織のCenter for AI Safety(CAIS)が先日,AI Riskに対する声明を発表していた。

その内容は「Mitigating the risk of extinction from AI should be a global priority alongside other societal-scale risks such as pandemics and nuclear war.  =  AIによる絶滅のリスクを軽減することは、パンデミックや核戦争など他の社会的規模のリスクと並んで、世界的な優先課題であるべきです。」という短いものである。

その賛同者の上位5名や著名人を並べると次のようなものだ。
Geoffrey Hinton,   Emeritus Professor of Computer Science,  University of Toronto
Yoshua Bengio,   Professor of Computer Science, U. Montreal / Mila
Demis Hassabis,   CEO, Google DeepMind
Sam Altman,   CEO, OpenAI
Dario Amodei,   CEO, Anthropic
Bill Gates,   Gates Ventures
Ilya Sutskever,   Co-Founder and Chief Scientist, OpenAI
Ray Kurzweil,   Principal Researcher + AI Visionary, Google
Max Tegmark,   Professor, MIT, Center for AI and Fundamental Interactions
Ryota Kanai,   CEO, Araya, Inc.
シンギュラリティサロンの松田先生の解説によると中国の研究者が含まれているところがポイントで,AIの研究を止めるのではなく,リスク軽減のためにも研究を進めようという趣旨らしい。

CAISによれば,AIのリスクは次の8つに整理できるという。
1.兵器化(Weaponization)
 AIが悪意ある者によって破壊的な目的のために使われるリスク。これは存在そのものとしてリスクを伴い、政治的な不安定さを増加させる可能性がある。
2.誤情報(Misinformation)
 AIが生成する大量の誤情報や説得的な内容により、社会が重要な課題に対処する能力が低下する恐れがある。
3.代理ゲーミング(Proxy Gaming)
 不完全な目標で訓練されたAIシステムは、個人や社会の価値観を犠牲にして自身の目標を追求する新たな方法を見つける可能性がある。
4.衰弱(Enfeeblement)
 重要なタスクが徐々に機械に委任されると、人間は自己統治能力を失い、機械に完全に依存する可能性がある。
5.価値の固定化(Value Lock-in)
 高度に能力のあるシステムは、少数の人々に巨大な権力を与え、抑圧的なシステムが固定化される可能性がある。
6.新たな目標の出現(Emergent Goals)
 モデルは能力が増すにつれて予期しない、質的に異なる行動を示す。これにより、人々が高度なAIシステムをコントロールする能力を失うリスクが増える。
7.欺瞞(Deception)
 強力なAIシステムが,何をなぜ行っているのかを理解したい。しかしAIシステムは正確にこれらの情報を報告する代わりに,欺瞞で答えるかもしれない。
8.権力追求行動(Power-Seeking Behavior)
 企業や政府は、広範な目標を達成できるエージェントを作る強い経済的インセンティブを持っている。

図:AIがもたらす8つの危険(CAISから引用)

Misinformation(誤情報)とEroded Epistemics(侵食された認識)の違いは何なのだろうか?


2023年6月17日土曜日

アミガサハゴロモ?

「ちょっとちょっと」と呼び出されてベランダに出てみると,小さな白い花が落ちている。

この5mm ほどの白い小さなものが動いて跳ねるというのだ。早速指を近づけるともぞもぞ動きはじめ,そのうち20cm以上大きくジャンプした。なんだこれは。ネットで調べてみると,どうやらオオシラホシハゴロモの幼虫らしい。

そんなものかと納得していたのだけれど,今回記事にしようと確認してみたところ,違うかもしれない。幼虫が成虫になるまで追跡調査した人によると,アミガサハゴロモのようなそうでないような。岐阜聖徳学園大学の川上先生のところの進化する昆虫図鑑では,アミガサハゴロモ属の外来種らしい。

生物種の同定というのはなかなか難しいものだ。


写真:たぶんアミガサハゴロモ属の外来種の幼虫

2023年6月16日金曜日

べんとりくん

人間ドック(2)からの続き

昨日は,天理市立メディカルセンターで1年ぶりの国保人間ドックだった。

事前に送られてきた便の潜血検査キットがちょっとリニューアルされていた。青と赤のラベルが貼ってある採便容器が無駄に大きくなっただけでなく,便採取支援シートに名前がついて形状が変化していた。べんとりくんだ。早速試してみたが,ちょっと不安定で使いにくかった。ネーミングはいいのだけれど,うーん,もう一工夫必要かも。トイレットペーパーを重ねて自分でコントロールするほうが安全だ。

去年のバリウム検査で懲りたので,今年は口からの胃カメラにしてみた。以前,大手前病院で一度だけ胃カメラに挑戦したが,そのときはわりと楽だった印象があるので今回も安心していた。

ところがです。呼び出されて,何やら変な味のクスリを2種類飲んだところまではいいのだけれど,5分間麻酔ゼリーを口に含む当たりからややこしくなってくる。タイマーが5分過ぎてもなかなか呼び出しがこない。麻酔がきれるのではないか。中からはゲーゲーいう音も聞こえてきて不安を一層あおる。

そうこうしているうちに名前が呼ばれたのだか,看護師さんが若干こわい。ベッドに横になってマウスピースをはめたが,以前のもののようにしっかり安定していない。しかも,ドクターの持っている内視鏡がえらい太いのである。えーっ,話が違う。わりと高速にのどから胃にむけてカメラが入っていったため途中で二,三回,オエーッとなってしまう。後半はようやく落ち着いて耐えることができた。



写真:べんとりくんと採便容器(撮影 2023.6.12)

2023年6月15日木曜日

大学教育とChatGPT(9)

大学教育とChatGPT(8)からの続き

まだ大学からのアナウンスが続いている。ChatGPTへの怖れからくる反応のようにも思える。機密情報(そんなもの学生が持ってるのか)や個人情報の漏洩も著作権の侵害も,SNSなどのほうが実質的に影響は大きいはずだ。生成系AIに限らずインターネットのサービスには様々な落とし穴があるにもかかわらず,生成系AI固有の問題点が沢山あるかのように強調されている。

東京都教育委員会は,都立学校宛に生成AIの利用に関する注意喚起を通知した。都立学校だから小中は含まれていないのか。でも児童や生徒にという表現もあるのでどうなっているのかはっきりしない(例外的な都立小学校1校と都立中学校5校はある)。具体例として (1) 日記や読書感想文,(2)プログラミング,(3) 校内コンテスト用のポスターの作成 などがあげられているらしい。

そうか,日記も書けて写真や絵も付けることができるなら生成系AIは夏休み最強のツールではないか。仮想日記コンテストをやればいいのに。一番ビックリするような仮想絵日記作品を選ぶコンテスト。生成系AIの使い方にかなり習熟するはずだ。子どもだと下手にAIに頼らない方がすごい結果がでるかもしれないけど。

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ChatGPT/生成AIへの対応を表明した国内の大学一覧(森木銀河)

生成系AIガイドライン(奥村晴彦)

生成系AIに対する各大学の見解や指針など(坂根弦太)

生成系AIに関する留意事項など(越桐國雄)

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6月7日
生成系 AI の適切な利用についての学長メッセージ
東京医療保健大学 学長 亀山周二
https://www.thcu.ac.jp/uploads/posts/2597/file.pdf

6月8日
ChatGPTをはじめとする生成系AIの利用に関して
藤女子大学 学長

6月8日
ChatGPT等の生成系AIに関する基本方針について
桃山学院大学 学長 中野瑞彦

6月8日
生成系AIに関する学長メッセージ
東北学院大学 学長 大西晴樹

6月8日
ChatGPT等の生成AI利用に関する本学の方針と留意事項
新潟医療福祉大学 副学長(教育担当) 大山峰生・研究科長 佐藤大輔

6月8日
チャットGPTなどの生成系AIの利用について
名古屋学院大学 学長

6月8日
生成系 AI (人工知能)の 利用 について (方針)
愛知学院大学 学長 引田弘道

6月9日
ChatGPT等の生成系AIの利用について
琉球大学 理事(教育・学習支援)・副学長

6月9日
対話型生成系AIの使用について
昭和女子大学 学長 金尾朗

6月12日
ChatGPT などの⼈⼯知能の講義・実習における活⽤について(4月10日)
九州大学 教育担当理事 園⽥佳巨

6月12日
本学におけるChatGPT等の生成系AIの使用に関する取扱いについて
共立女子大学 学長 川久保清

6月12日
Chat GPT等の生成系AIの利用に関する学生向け指針
新潟リハビリテーション大学長 山村千絵

6月13日
ChatGPT等(生成系AI)への対応について
愛知淑徳大学 学長 島田修三

6月14日
レポート・論文執筆等の学修における生成系 AI の利用について
奈良県立大学 教務委員会

6月14日
生成系AI(ChatGPT、Bing AI等)の使用に関する留意事項について
鳴門教育大学 学長 佐古秀一

2023年6月14日水曜日

鏡の中のミステリー

暇な老人はテレビをつけっぱなしにすることが多い。韓国ドラマを見終わって番組がつまらなくなると,放送大学にチャンネルを替えるのが癖になってしまった。先日,それで「鏡の中のミステリー〜なぜ左右が反対に見えるのか?〜」という高野陽太郎先生の番組にあたった。

従来の説として,ファインマンの説と回転説を紹介した後,それらを簡単に否定してしまった。ええっ。そのうえで,多重プロセス理論という自説を展開する。人による左右の反転の認知は,3つの原理によって産み出される3つの減少の複合体だとのこと。その3つの原理は,(1) 視点変換,(2) 表象方向 の乖離,(3) 光学変換 である。

文字の反転は(2)によるもので,鏡の前の人の場合 (1)とは区別されるというのだ。ええっ。トンデモ理論ではないのか。それにしては,森津太子さんが神妙に聞いている。岩波書店からも,「岩波科学ライブラリー 55 鏡の中のミステリー 左右逆転の謎に挑む 鏡に映った自分の顔がなぜ左右逆に見えるのか.これまで誰ひとり解けなかった謎が,ついに解けた。(現在品切れ)」と売り出している。

あたまがクラクラしてきた。もう少し調べてみると,ちゃんと反論している人はいた。その結果,認知科学が2008年に誌上討論を実施している。しかし結論はでていない。岩波と放送大学を握ったほうが勝ちなのだろうか?もう少し勉強してから考えをまとめる。

今のところの自分の考え。「上下対称,左右非対称の生物が鏡に正対したとき,彼らは上下が反転していると認識する可能性があるだろう」「文字を2次元の対象と考えれば,鏡によって反転することはない。反転するのは3次元的な対象に限られる。なお,表裏のある2次元の対象は3次元の対象と同等である」


[1]「小特集 − 鏡映反転」(認知科学,2008)
[2]鏡の世界回答編(多幡達夫,2004)
[3]鏡の中の左利き一物理屋のコメント(吉村浩一|多幡達夫,2004)
[4]鏡像問題(発見の発見ブログ,田中潤一,2007-2019)

2023年6月13日火曜日

AIとSF(1)

久々にジュンク堂書店で本を眺めていたら,ハヤカワ文庫JAで,日本SF作家クラブ編の「AIとSF」という短編集を見つけた。2023年5月25日発行なので,出来立てのほやほやだ。中をざっと見ると,22編のうち知っている作家は8人くらいだ。

最初の作品が長谷敏司(1974-)の「準備がいつまで経っても終らない件」だった。2025年4月13日から開催される大阪・関西万博がテーマなのだけれど,2022年11月末に登場したChatGPTをかなり精密に取り入れた短編に仕上げている。万博への批判的視点も確かでおもしろい。


写真:ハヤカワJA文庫「AIとSF」の書影を引用