生殖記はどこかであらすじを見かけて,ちょっと興味があった。なにせ語り手が主人公のお○んち○なのだ。それが kindle unlimited に登場したので早速ゲットした。
語り口は独特だ。これは一人称なのか三人称なのか,どうなのか。非常にクールだけれども主人公の一人称的な気分をほぼ完全にトレースしている。
「尚成はいっつもこうなんです。幼体のころは・・・たくさんの個体で重いものを・・・成体になった今・・・自分が所属している共同体を,皆で"前へ"と運んでいるのが,私から見たヒトの毎日です。」
2022年に杉田水脈総務政務官が「子どもをつくらない同姓カップルは生産性がない」と書いて,総務大臣から撤回と謝罪を指示された。その前年にも簗和生衆議院議員が「性的マイノリティは生物学上『種の保存』に背く」という趣旨の発言をした。これらの事件が固有名詞抜きに示されていて物語の起点を与える。
同性愛個体が,共同体にとってその共同体存立原理である「均衡,維持,拡大,発展,成長」を疎外するものなのか,あるいは資本主義社会において金銭的利益の拡大につながらない個体はどうなのかというのが通底する基本テーマになっている。
重くない軽めの文章とエピソードを重ねながらも著者は一貫してこれらの基本テーマについての思考を繰り返していく。最後は,生殖医療の発展によって体外発生が可能になり,異性愛個体の特権意識が引き剥がされる未来を予感した幸せな主人公の意識で終る。
なかかな久しぶりに面白い本に出会った。イン・ザ・メガチャーチの方にもチャレンジしてみよう。
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