2022年7月14日木曜日

世界人口デー

人類減少からの続き

7月11日は国連が定めた世界人口デーだ。日経の夕刊と朝刊に渡って世界人口の記事が掲載されていた。ひとつは,今年の11月に世界人口が80億人に達するということ。もうひとつは,世界人口の増加率が1%を割り込んで(中国も2022年に人口減に転じている)おり,2086年には,ピークの104億人になってその後は減少に転ずるということだった。

1970年代に世界の人口爆発が問題だとされたときに,様々な刷り込みを受けた世代なので,感慨も一入だ。最近の世界人口の変化は,10億人(1804),20億人(1927),30億人(1960),40億人(1974),50億人(1987),60億人(1999),70億人(2011),80億人(2022),90億人(2040),104億人(2086* peak),となっている。自分が生まれてから死ぬまでに世界人口が約3倍になっているということか。

東アジアの人口増加が終って,南アジア(インド)が主役になる時代がきた。そして,その次にはアフリカが待っている。

[1]World Populaton Clock
[2]World Population by Year

2022年7月13日水曜日

カルト

NHKのニュースもひどいことになっているが,民放のテレビの情報番組では,コメンテーターが一斉に統一教会(世界平和統一家庭連合)と安倍あるいは自民党は関係がない(あるいはあっても問題がない)のだというデマゴーグを振りまいているらしい。相変わらずの政権与党翼賛しぐさを隠そうともしない。

7月11日の午後に,世界平和統一家庭連合(統一教会)会長の田中富広(1956-)が東京都内で記者会見した。これにより,警察発表やマスコミの報道で伝えられていた,安倍暗殺事件の引き金となった宗教団体というのが,統一教会であることが確定した。テレビでは落ち着いた丁寧な説明をそのまま流していたので,日本中がほとんど洗脳されそうになっていた。

これに対抗する言論はなかなか広がらない。唯一,弁護士の紀藤正樹(1960-,阪大法学部)が,統一教会の被害者などの救済に当たる全国霊感商法対策弁護士連絡会のメンバーとしてモーニングショーで熱弁を振るっていたらしい。その連絡会の記者会見の様子を見ることができる。昔は,各大学に統一教会傘下の原理研究会があって,これが非常に危険な存在であるということは常識だったが,いまはそうでない(反例はあるが)。

公安調査庁の年報に登場するのは,日本共産党とオウム真理教だ。オウム真理教のインパクトによって,統一教会の印象が薄れたのか。そうではない。自民党の宗教右派にしっかり食い込んだ統一教会は,政治的な影響力を発揮して,2015年,下村博文(1954-)が文部大臣(文化庁が宗教法人を管轄)のときに,その大きな被害から悪名が浸透してしまった宗教法人,統一教会(世界基督教統一神霊協会)の名称を,世界平和統一家庭連合に変えるのを認めてしまったことが大きな要素だ。

反社会的集団カルトとしての統一教会については,やや日刊カルト新聞主筆の鈴木エイトが古くから取材を進めている。その一部は,いまは無きハーバービジネスオンラインのアーカイブでみられる。(日本共産党以外で)国会で統一教会の問題を指摘した一人が,1998年に参議院議員となった中村敦夫(1940-)だったと当時政策担当秘書だった田中信一郎が話していた。

P. S. カルトの定義(菅野完):(構成員に強い影響を確立して)教団内外で人権の抑圧や犯罪行為をしている団体。∴統一教会はカルト。では,ヤクザとカルトの違いは何か。だから宗教学者たちは,カルトという言葉を学術用語としては忌避するわけか。

2022年7月12日火曜日

参院選(2022)の結果

投票日2日前の安倍晋三の暗殺事件は,マスメディアで増幅・浄化されて有権者の投票行動に一定程度の影響を及ぼしたようだが,ビッグウェーブではなかった。淡々と事前予想通りの自民・公明・維新の大勝となった。

・憲法改正のための2/3を越えたということが強調されていたが,そもそも,国民民主党が寝返った選挙前からその状況は大きく変わっていない。参議院総議席数の2/3である164人を余裕で越える180人程度(さらに隠れ改憲派と無所属が加わる)はいる。ウダウダいっている公明党がブレーキにならないのは安全保障法制のときと同じだろう。

・マスコミに焚きつけられて野党共闘を放棄した立憲民主党が大敗することは火をみるより明らかだった。新潟の森ゆう子も山梨も岩手も落としてしまった(小沢系の完全凋落)。対統一教会のキーパーソンの有田芳生も欠くことになる。立憲民主党だけでなく,日本共産党の比例区得票率もどんどん下降している。この結果,大門実紀史(1956-)が落選してしまった。東京選挙区の山添拓(1984-)はセーフだったけれど。

日本維新の会は,比例区で自民の4割をこえる票を集め議席を倍増した。不幸中の幸いは,東京,京都,福岡,愛知,広島,埼玉の各選挙区での進出を阻止できたことだ。安倍効果で維新から自民にシフトしたのかもしれない。松井と吉村が来月にトップを下りるというのが不気味な動きだ。これで前原と融合して保守二大政党を目指すというのは悪夢だ。

社会民主党福島瑞穂(1955-)はかろうじで滑り込み,政党要件は確保された。れいわ新選組はブームが去って伸び悩んでいるが,これが,NHK党や参政党の健闘とリンクしているのかどうかはわからない。NHK党がYouTuberのガ—シーを立てて,でたらめな宣伝を繰り返していたが,選挙ウォッチャーのちだいさんによれば,それが世の中の多数派に受け入れられている(おもしろければよいという)常識らしい。

・問題は,柳田さんも警告してくれていた参政党だ(それまでは泡沫政党だと誤認していた)。排外主義右翼+トンデモオーガニック信仰(有機農法・反ワクチン)のソフト非主流右翼路線で,十分に資金投入されて組織的かつ合理的な選挙活動を展開した結果,比例区得票率3%で1議席を確保し,あっというまに政党要件を満たしてしまった。

・宮田輝や高橋圭三からはじまるタレント候補は,アナウンサー/キャスター候補からはじまり,スポーツ選手候補や元アイドル候補を経由して。漫画家/YouTuber 候補へと進化していくのだろうか。

投票率 54.7%→48.8%→52.1%
議席数 総数 242→245→248

     2/3  162→164→164    比例区政党得票率
    自民 124→113→119 (+6)  自民   35.9→ 35.4→  34.4 (1826万=18)
    公明   25→  28→  27 (-1)   公明   13.5→ 13.1→  11.7 (  618万= 6)
    維新   13→  16→  21 (+6)  維新     9.2→   9.8→  14.8 (  785万= 8)
    N国  0→ 1→  2 (+1)    N国     0→   2.0→    2.4 (  125万= 1)
    参政  0→ 0→  1 (+1)    参政     0→      0→    3.3 (  177万= 1)
    国民   23→  21→  10 (-2*)  国民   (21.0)→   7.0→   6.0 (  316万= 3)
    立憲   24→  32→  39 (-6*)  立憲   (21.0)→ 15.8→ 12.8 (  677万= 6)
    社民  2→ 2→  1  (±0)    社民     2.7→   2.1→   2.4 (  126万= 1)
    共産   14→  13→  11 (-2)    共産   10.7→   9.0→   6.8 (  362万= 3)
    れいわ 1→ 2→  5 (+3)     れいわ (1.9)→   4.6→   4.4 (  232万= 2)
    無所属  12→  17→  12 (-3)
    欠員  4→ 0→  0
    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
    改憲派 162+α → 179+β → 180+γ

2022年7月11日月曜日

テロリズムの定義

7月8日,週刊誌でスキャンダルが暴露された候補者がいる長野選挙区での応援を急遽取りやめて,それほど接戦が伝えられているわけでもない,政調会長高市早苗の地元奈良選挙区へ遊説にきた安倍晋三(1954-2022)が,近鉄大和西大寺駅前の演説会場で銃撃され心肺停止状態となった。その後,平城宮跡からドクターヘリで救急搬送され,5時間後に奈良県立医大附属病院で失血死した。地元のニュースにはついつい反応してしまう。

安倍晋三は自分よりちょうど1歳下で,誕生日も1日違いなので,どうも自分と性格が似ているように思えてならない。困ったものだ。NHKをはじめとしてマスコミは安倍の所業の負の側面には一言も触れず,その「功績(今でも異論があり歴史の評価に堪えられない)」をこれでもかと褒め称えることに終始していて気が滅入る。しかも喪服モードだよ。中曽根康弘(1918-2019)や石原慎太郎(1932-2022)のときよりたちが悪いかもしれない。

1980年の参議院選挙中に首相の大平正芳(1910-1980)が亡くなった。このとき自民党が大勝したように,今回も(そうではなくても自民・公明・維新が優勢だと伝えられている)同じ轍を踏みそうである。安倍晋三は,生前だけでなく死後にも日本社会に大きなダメージを与えるのか。希望が不在のパンドラの箱(希望カードは野党解体に使われてしまった)が開いてしまった。「安倍さんの悲願の憲法改正と防衛費倍増を!」というスローガンが目に浮かぶ。

マスコミや政治家の定型的なコメントでは,「このテロは言論の自由に対する挑戦だ」というような表現が使われている。しかし,これまで奈良県警から断片的に漏れてくる情報では,政治的なテロではないし,言論封殺を狙ったものでもない。政治家に対する暴力の連鎖がテロを誘導するといえばそうだろうし,宗教団体に対する局所テロとはいえるのかもしれないが。

2017年の逢坂誠二(1959-)の国会での質問主意書によれば,日本の法律上のテロリズムの定義は次のようなものである。

警察庁組織令第三十九条では、テロリズムの定義として、「テロリズム(広く恐怖又は不安を抱かせることによりその目的を達成することを意図して行われる政治上その他の主義主張に基づく暴力主義的破壊活動をいう。)」と規定されている。

特定秘密の保護に関する法律第十二条第二項では、テロリズムの定義として、「テロリズム(政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう。)」と規定されている。

容疑者が犯罪の動機としたのが「安倍と宗教団体との密接な関係が原因であり,安倍の政治信条への恨みからではない」からだとすれば,社会に不安若しくは恐怖を与える目的がないことは明らかなように(現時点では)思える。

トロツキズムテロリズムヘイトクライムなどの言葉が意味をずらして,レッテリングに使われることには注意が必要だ。言論封殺が好きなのは,憲法改正で基本的人権の剥奪を目論んだ(でいる最中の)自民党右派の皆さんのはずなのに,安倍の死を逆手にとって,民主主義を守れというあやしげな選挙前キャンペーンを振りまいている。

P. S. まだ事件の全体像がはっきりしていない中,選挙前の7月9日のNHKスペシャルで「安倍元首相 銃撃事件の衝撃」が放送された。Twitterでは,選挙前に他にやることがあるだろうと非難轟々だった。これまでの映像材料をかき集めてざっくりと編集しただけの番組に,御厨貴(1951-)をよんできて,暴力で言論がゆがめられてはいけないとしゃべらせていた。今回の事件の本質の一つであるカルトと政治の関係にはまったく迫れていない。


写真:J. W. ウォーターハウスのパンドラ(Wikipediaから引用)

[1]「宗教団体の名前を伏せる」「各局揃って喪服」……「安倍元首相銃撃事件」テレビ報道への4つの“違和感”(鎮目博道)

[2]アベさんに対する銃撃について思うこと(小出裕章)

2022年7月10日日曜日

参院選の投票率

三春充希(1988-)は,高卒認定試験から東大に入学し,大学院で天体物理を専門とした。ちくま新書の「武器としての世論調査」の著者であり,未来選挙プロジェクトの代表である。

政党支持率の推移を調査して,継続的にfacebookに公開している。また,選挙期間中は,各メディアによる全候補者の情勢を集約して提供している。彼が,衆議院選挙や参議院選挙の投票率の傾向を分析したのが,ちくまwebの特集『武器としての世論調査』リターンズ−2022年参院選編−の記事になっていた[1][2][3]。

最近の国政選挙の投票率を分析して,(1) 最低水準の維持(1990年まで),(2) 投票率の崩壊(1990~1996年頃),(3) 長期低落傾向(2000年頃~)の3つのフェーズに分けた。さらに,(2) の1990年代の投票率の崩壊が都市部で起こっていることを示した。その原因の一つは1994年の衆議院における小選挙区比例代表並立制の導入だ。

それだけでは長期低落傾向は説明できず,バブル崩壊後に投票率も崩壊していることから,ロストジェネレーション就職氷河期の世代(1993-2005年卒=1970-1980年生まれ)以降が政治の空白域を産み出して,それが世代進行しているとした。新聞・テレビからも離れていく世代の政治意識はどのように構築されるのだろうか。

図1:参院選の投票率の推移(ちくまwebから引用)

図2:年代別の政党支持率(ちくまwebから引用)

[1]「今」にいたる世論(三春充希)
[2]野党共闘はどこへ(三春充希)
[3]投票率の底から(三春充希)

2022年7月9日土曜日

KCN 光1G

フレッツ光 vs eo光 からの続き

あっというまに,9ヶ月過ぎていた。マンションの春の理事会で,KCNのインターネットが光に 切り替わるというアナウンスがあり,5月ごろに受付が始まった。早速申し込んだところ,6月に訪問調査があり,7月8日に開通することになった。

これまでは,TVの共聴同軸ラインから分配したものをモデム経由で無線ルータ(AirMac)に繋いでいた。今回は,NTTの電話線の配管に光ファイバーを通して,電話線の出口あたりからONUに入って無線ルータに繋げることになる。そこで,AirMacの設置場所も電話機の位置に移動するわけで,やや面倒なことになったのだが,ONUはとてもコンパクトだったので,壁に取り付けるまでもなかった。

光ファイバーの引き込みとONUへの接続に1時間ほどかかって作業が終り,KCNさんの端末では接続が確認された。ただし,クレームを避けるためか,速度測定はしてくれなかった。

入線担当グループはMacの設定についてはちょっと不安があるようで,KCNの別担当が工事終了後にくることになっていた。それまでに,自分でAirMacに結線して確認したところ,特別な設定なしに問題なく繋がった。肝腎の回線速度だけれど,下りが150Mbps,上りが100Mbpsくらいだ。下りは多少改善された程度だが,上りは20倍程度になったので,zoom会議も安心だ。

KCNの設定担当者がきても特にすることはなく,専用端末を有線でつないで,下り180Mbpsと上り210Mbpsでていますということで終了した。AirMacもかなり古いWifiルーターなので,これを取り換えてもいいかと考えていたが,有線でこの程度ならばあまり御利益はない。

ベストエフォートだし,月々の回線料も安くなったので,まあよしとしよう。問題は夜間の混雑時にどうなるかだ。うちが,マンション内の光回線引き込み工事第1号だったので,今週くらいはまだましかも(P. S. とりあえず夜間のスピードダウンは解消された)。


図:メカニカルストライプの構造(FUJIKURAから引用)


P. S. (7/13/2022 10:00)  ONUから直接Ethernetで接続しようとしてうまくいかず。手動でIPアドレスなどを設定したが端末のネットワーク設定でグリーンランプまでいくがだめ。PPPoEで繋げとかあるけれど,PPPoEはサポートしていないという記述もあり,ONU側はそもそもルータが繋がることしか想定していないのか。そういえば,AirMacの有線ポートが3つあったので試してみると,下り450Mbps,上り380Mbpsを出していた。問題はAirMacの無線の規格が遅いということか。

P. P. S.  たぶん,手元のAirMac(TImeCapsule 802.11n 2nd)は,2009年の2TBモデルではないか。つまり,802.11 a/b/g/n に対応している。いまどきのWiFi-5 802.11acとかWiFi-6 802.11ax 対応にすればもう少し改善されるかもしれない。

2022年7月8日金曜日

latexdiff

latexdiffは,texファイルの差分表示ソフトだ。

latexdiff main1.tex main2.tex > diff.tex
pdflatex diff.tex


下の例題に対する結果は次のようになる。
% main1.tex
\documentclass{article}
\title{ld}
\author{me}
\date{July 2021}
\begin{document}
\maketitle
\section{Introduction}
zzz
\end{document}

% main2.tex
\documentclass{article}
\title{latexdiff}
\author{me\and you}
\date{July 2021}
\begin{document}
\maketitle
\section{Introduction}
zzz zzz
\section{Section}
zzz
\end{document}

図:latexdiffの出力サンプル


2022年7月7日木曜日

最密球充填

フィールズ賞は,4年に一度開催される国際数学者会議(ICM)で,顕著な業績を上げた40歳以下の数学者(2-4名)に与えられる賞だ。初回は1936年だが,第2回の1950年から4年周期が始まっている。

受賞者の日本人は,小平邦彦(1954年),広中平祐(1970年),森重文(1990年)の三人。2014年にイランのマリアル・ミリザハニ(1977-2017)が女性として初めての受賞者となったが,若くしてガんで亡くなっている。2022年の今回,ウクライナのマリナ・ヴィヤゾフスカ(1984-)が二人目の女性受賞者となった。

彼女の業績は,最密球充填に関わるものだ。空間に規則的に球を配置するときの密度の最大値がわかっているものは,1次元(100%),2次元($\frac{\pi}{\sqrt{12}}=0.9068$),3次元($\frac{\pi}{\sqrt{18}}=0.7404$),8次元($\frac{\pi^4}{384}=0.2536$),24次元($\frac{\pi^12}{12!}=0.001929$)だけである。2017年にヴィヤゾフスカは,単独で8次元の問題を,これを応用して連名で24次元の問題を解決した。

3次元の問題の証明は,ケプラー予想とよばれ,17世紀のヨハネス・ケプラーの時代から考えられてきた。1998年に,トーマス・ヘイルズが解決したが,250ページの手稿と10万個の線形計画問題を解くコードとデータ3ギガバイトを必要とした。その後,コンピュータによる形式的証明を援用して証明を完全なものにした。一方,ヴィヤゾフスカの論文は,普通の理系の大学生でも読めそうな式を20ページほど並べるだけでこれを解決してしまった。


写真:新潮文庫のケプラー予想の書影(Amazonから引用)

[1]8次元と24次元の球充填問題の解決(tsujimotter)

2022年7月6日水曜日

まひるの月を追いかけて:恩田陸

昔,最も多いときは,年に100冊近く本や雑誌を買っていたかもしれない。ところが,最近,ほとんど本を買わなくなってしまった。通勤帰りに毎日本屋に立ち寄る習慣がなくなったせいだが,そもそも行動範囲内から書店がどんどん消えていることも原因だ。

諸般の事情で少し空き時間があったので,久しぶりに近鉄八木店のジュンク堂書店に立ち寄ると,宮部みゆき(1960-)の文庫新刊「まひるの月をおいかけて」が平積みされていた。手に取って中をパラパラみると,奈良県のあちこちを回る話で,天理という字が目に入ったので思わず買ってしまい,並み居る未読書を差し置いてさっそく読了した。

主人公らは,東京−橿原神宮前駅−橿原神宮−藤原京−今井町−明日香−亀石−橘寺−石舞台−天理駅−山辺の道−長岳寺−大神神社−近鉄奈良駅−奈良公園−新薬師寺−白毫寺−東大寺−法隆寺−中宮寺−飛鳥駅−橘寺と巡り,それにつれて物語が転回していく。

実体験にもとづくような文章だったので,たぶん,宮部みゆきもこのルートを辿ったのだな。天理駅前のビジネスホテルと焼き肉屋はどこだろう。とあらためて本をよく見ると,著者は宮部みゆきではなく,恩田陸(1964-)だった。しかも新刊ではなく,2007年が文庫1刷(単行本は2003年)だ。写真で見る二人の顔形はなんとなく似ているような気がするし,文春文庫の黄色い背表紙をみて条件反射的に宮部みゆきにアサインされていたようだ。奈良のご当地ものということで,書店で平積みされていただけだった。

宮部みゆきは何冊も読んだが,恩田陸は映画化された「夜のピクニック」を始めほとんど読んでいない。ハヤカワSFシリーズということもあって「ロミオとロミオは永遠に」はたぶん買ったような気がするが,期待外れだったので処分してしまった。


写真:まひるの月を追いかけての書影(amazonから引用)

2022年7月5日火曜日

てらまちや風心庵

 日経朝刊の文化欄をみていたら,「かなざわ風鈴」という言葉が目に入った。著者は金沢工業大学の土田義郎先生で,環境心理,サウンドスケープの専門家だ。音が出る玩具や雑貨の収集をはじめていたが,2013年に正方形の紙を組み合わせたかなざわ風鈴を考案した。

2017年には,寺町の町家再生プロジェクトの一環として,古民家を再生したゲストハウス「てらまちや風心庵」をオープンしており,そこで収集した風鈴が展示されている。地図でしらべると,昔,大叔父の越桐與三次郎さん(あじちのおじさん)が住んでいた家の近くだった。数年前に亡くなった母が入院していた石田病院からも近く,新規開店した中華料理屋に入ったが,その数軒となりだ。

1棟貸しで,1泊平日6400円~(5名利用の1名),休前日7949円~(5名利用の1名),風鈴制作・灯り制作1名1600円なのでなかなかリーズナブルかもしれない。


写真:かなざわ風鈴(金沢旅物語から引用)

2022年7月4日月曜日

KDDIの通信障害

 7月2日午前1時35分からau携帯電話などKDDIの回線に通信障害が発生して,最大3900万ユーザに影響が及んだ。障害発生から62時間後の7月4日午後15時00分ごろに全国でほぼ回復したが(輻輳制御を終了した),全面的復旧のアナウンスは7月5日の夕方になりそうだ。

2018年12月6日にソフトバンクの4GLTEで通信障害が発生したときは3000万ユーザに影響があり,障害継続時間は4時間半程度だった。だから,iPhoneがつながらなくて困ったという記憶があまりない(このblogを始める2日前のことだから記録がないだけか)。

KDDIの社長と専務による説明記者会見が,事象収束前の7月3日に実施され,2時間のYouTubeライブとしてアップロードされていた。高橋誠(1961-,横浜国立大工学部金属工学科)KDDI代表取締役社長,吉村和幸(1965-,東京工業大工学部情報工学科)KDDI取締役執行役員専務・技術統括本部長の二人が質問に回答していた。この会見における回答者の質の高さや誠実さについて,ネットでの評判は非常に良かった。

いくつか,気がついたこと

(1) NHK,朝日新聞など主要メディア記者の質問力回答理解力はかなり低い。
(2) 日経コンピュータ,日経BP,一部フリーランスの質問は非常に的確である。
(3) 音声通話用のVoLTE交換機に繋がれたルータを旧から新に切り替えたところ,音声通話に不具合が発生し(ソフトウェア上の問題),ルータを切り戻したが輻輳がはじまった。
(4) この輻輳が,加入者データベースの更新に影響してデータの不整合が生じた。
(5) VoLTE交換機/ルータは全国18台の1台に障害(→ 6台切り離し,9台で運用可能な容量)。協調運用しているので影響が広がったかもしれないが,詳細は分析中。
(6) iOSでは音声がつながらなくてもデータ通信はOKだったが,アンドロイドでは音声がつながらないとデータ通信も接続できない仕様のものが多かったようだ。
(7) 5GやIoTの設備導入が進行していることとは直接関係がない。

なお,データ通信ができても2段階認証でSMSからパスコードを入力しなければならないサービスが多く,VoLTE側が使えないことで結局ダメということが多々あったらしい。

日本ではこのような障害が,2年に1度程度発生しているけれど,公衆電話の撤去には歯止めが必要かもしれない。あるいは,このような障害時に,緊急番号だけは加入者データベースの認証なしでアクセスできる(ただしユーザのログは確保する)ということは可能なのだろうか。

P. S. 7月5日 15:00 24時間トラフィックが先週と同水準であり,完全復旧が宣言された。
P. P. S.  7月5日の2回目の技術担当責任者2名の記者会見では,ローミングの可能性についての質問が多かった。検討中とのこと。総務省はKDDI苛める前にその音頭をとったらどうか。

2022年7月3日日曜日

⊃ ∪ ∩ ⊂ 

連日の熱暑で,干からびかけた奈良公園の鹿がラクダにみえる今日この頃。

WOWOWでデューン砂の惑星の特集をやっていた。原作はフランク・ハーバート(1920-1986)の1965年の作品だ。フランク・ハーバートといえば21世紀潜水艦だったので,ハヤカワ文庫で最初に出版された1973年ごろはまったく関心がなかった。手元にある古書は1982年発行の12刷だったので,たぶん1980年代の中ごろに購入している。読後感は最高で,マイベスト20には確実に入る一冊だ。

特集では,1984年のデヴィッド・リンチ(1946-)監督の「デューン/砂の惑星」,2013年のドキュメンタリー「ホドロフスキーのDUNE」,2021年のドゥニ・ヴィルヌーヴ(1967-)監督の「DUNE/デューン 砂の惑星」が放映された。デヴィッド・リンチ版は日曜洋画劇場でみており,ななかな良かったという印象的がある。このころにハヤカワ文庫版を買ったのかもしれない。

アカデミー賞6部門を受賞した2021年版(2部作の前半だった)は,たしかに美しいのだけれど,デヴィッド・リンチ版の怪しいおどろおどろしさがなく,完全除菌されたような印象だ。キャストも1984年版のほうがよかった。もちろん,1984年版のSFXなど今からみればとても残念な状態ではあった。

WOWOWの特集の中で一番よかったのは,チリに生まれたロシア系ユダヤ人アレハンドロ・ホドロフスキー(1929-)のDUNEだった。1975年にDUNEの制作に着手し,最高のスタッフと出演者を集めながら,

メカデザインにSF画家のクリス・フォス,クリーチャーとキャラクターのデザインと絵コンテにバンド・デシネのカリスマ作家メビウス,特撮担当にダン・オバノン,悪役ハルコンネン男爵の城のデザインにH・R・ギーガーを起用。キャストもハルコンネン役にオーソン・ウェルズ,皇帝役にはサルバドール・ダリ,他にもミック・ジャガーやデビッド・キャラダインなどがキャスティングされた。また,音楽をピンク・フロイドやマグマが製作するなど,各界から一流のメンバーが集められた(Wikipedia から引用)。

1年余りで挫折してしまう。その理由は,ホドロフスキーのシュールレアリスムの芸術性がハリウッドに恐怖心を抱かせたということらしい。プロモーション用の分厚い絵コンテ・デザイン集が若干部印刷されて関係者に配布されていた。古本で出てないか探してみたところ,クリスティーのオークションで,3億ドルの値段がついたらしい。チーン。

ホドロフスキーのDUNEは未完に終ったが,そのスタッフやイメージは,その後のSF映画に多大な影響を及ぼしている。まさに,ホドロフスキーのDUNEで改変された,主人公が死んでもその意識が普遍的に実在化するというストーリーをなぞったものになっていた。


写真:JodorowskyのDUNE デザイン・絵コンテ集/3億ドル(Gigazineから引用)

2022年7月2日土曜日

ζ(2)

リーマンゼータ関数 $\zeta (s) = \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^s}$は,その零点となる$s$が負の偶数と,実部が1/2の複素数に限られるというリーマン予想に結びつく重要な関数であり,数理物理学の難しい議論だけでなく,統計力学の入り口のあたりにも少しだけ登場する。

自由電子気体やデバイ模型のあたりの積分の計算に必要となるのが,$\zeta(2)$や$\zeta(4)$の値だ。ただし,時間がもったいないので,結果だけ与えて終りたくなる。簡単な導出法は,$\sin x $ の級数展開によるもので,バーゼル問題を最初に解いたオイラーの方法だ。

$\sin x = x \Bigl( 1 - \dfrac{x^2}{3!} + \dfrac{x^4}{5!} -\dfrac{x^6}{7!} \cdots \Bigr) = x \ \Pi_{n=1}^\infty  \Bigl( 1- \dfrac{x^2}{n^2 \pi^2} \Bigr)$

ここで,両辺の$\ x^{2n}\ $の係数を比較すると,$\zeta(2n)\ $の値が求まる。例えば,$n=1\ $の場合,$-\frac{1}{6} = - \frac{1}{\pi^2} \Sigma_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2}\ $,すなわち,$\zeta(2) = \frac{\pi^2}{6}$であり,これがバーゼル問題の解であった。

$a_n=\frac{1}{\pi^2 n^2}$とおいて,$\zeta(4)$と$\zeta(6)$の場合を考えてみたい。$\theta_{ij}=1\ {\rm if}\ i<j \quad {\rm otherwise}\ =0$,$\theta_{ijk} = 1 \ {\rm if}\ i<j<k \quad {\rm otherwise}\ =0$として,対称和の一般的な分解方法を考える。

n=2の場合:

$\Sigma_{ij} a_i a_j = \Sigma_{ij} a_i a_j (\delta_{ij} + \theta_{ij}+\theta_{ji}) =  \Sigma_{ij} a_i a_j (\delta_{ij} + 2 \theta_{ij}) $

$+\frac{1}{5!} = \Sigma_{i<j} a_i a_j = \Sigma_{ij} a_i a_j  \theta_{ij}= \Sigma_{ij} a_i a_j  (1-\delta_{ij}) /2 = ( ( \Sigma a_i) ^2 - \Sigma a_i^2 ) /2 $

$\therefore \zeta(4)/\pi^4 = \Sigma a_i^2 = (\frac{1}{6})^2 - \frac{1}{60} = \frac{1}{90}$

n=3の場合:

$\Sigma_{ijk} a_i a_j a_k= \Sigma_{ij} a_i a_j a_k (\delta_{ijk} + 6 \theta_{ijk}+ 3 \theta_{ij}\delta_{jk} + 3 \delta_{ij}\theta_{jk}) $

$-\frac{1}{7!} = -\Sigma_{i<j<k} a_i a_j a_k = -\Sigma_{ijk} a_i a_j  a_k \theta_{ijk} = -\Sigma_{ijk} a_i a_j  a_k \bigl( 1-\delta_{ijk}-3 \theta_{ij}\delta_{jk} - 3 \delta_{ij}\theta_{jk} \bigr ) /6 \\ = -\Bigl ( (\Sigma a_i)^3 -\Sigma a_i^3 - 3 \bigl\{ (\Sigma a_i)(\Sigma a_i^2)-\Sigma a_i^3 \bigr \} \Bigr )/6 $

$\therefore \zeta(6)/\pi^6 = \Sigma a_i^3 = \Bigl ( \frac{6}{7!} - (\frac{1}{6})^3   + 3 \frac{1}{6 \cdot 90} \Bigr ) / 2= \frac{1}{945}$

付録:

$X=(\Sigma a_i) (\Sigma a_i^2) = \Sigma_{ij} a_i a_j^2 = \Sigma_{ij} a_i a_j^2 (\delta_{ij} + \theta_{ij} + \theta_{ji}) = \Sigma a_i^2 + \Sigma_{i<j} a_i a_j^2 + \Sigma_{i<j} a_i^2 a_j $

$Y=\Sigma a_i a_j a_k (\theta_{ij}\delta_{jk} + \delta_{ij} \theta_{jk}) = \Sigma_{i<j} a_i a_j^2 + \Sigma_{i<j} a_i^2 a_j$

$\therefore X - \Sigma a_i^2 =Y$

2022年7月1日金曜日

教養強化合宿(4)

教養強化合宿(3)からの続き 

恒例の外山恒一教養強化合宿第22回(6/24-7/3)が開催中である。いつの間に22回になった。ナンバリングルールがよくわからないぞ。

北大,千葉工大,早大2,ICU2,愛知淑徳大,龍谷大,阪大,九州工大,放送大,浪人の12名が結集。教養チェックは次の通りだった。

遅刻者1名を除くイマドキの意識高すぎる系学生11名中,管野スガを知ってた人0,中野正剛0,鶴見済4,植垣康博0,会田誠7,榎美紗子0,高野実1,野村秋介0,家永三郎1,鴻上尚史4,津田大介11,宮崎学3,湯浅誠5,小林よしのり9,山下洋輔0,ジョーン・バエズ0,トリスタン・ツァラ5,ジョルジュ・ソレル4,林彪2。

山下洋輔とジョーンバエズはいったいどうなっているのだ。自分が知らなかったのは,管野スガ鶴見済ジョルジュ・ソレル。「完全自殺マニュアル」という書名は聞いたことあったけど。

ついでに3・11以降の諸氏についても訊いた。そこそこ意識高いはずの若人11人中,白井聡を知ってた人7,斎藤幸平7,野間易通1,ミサオ・レッドウルフ0,奥田愛基1,ろくでなし子9,坂口恭平9,菅野完2,清義明0,木下ちがや0,雨宮処凛7,松本哉1,東浩紀&山本太郎はさっすが11,某Fラン政治学者1。

ミサオ・レッドウルフ坂口恭平は知らなかった。誰それ。 

2022年6月30日木曜日

全国ハザードマップ

NHK全国ハザードマップが公開されている。

洪水や土砂災害の危険性が全国の市町村の地図上に表現されているものだ。天理市のハザードマップも印刷物として配布されていたが,それに相当する。自宅の周りは,洪水による浸水の恐れはなさそうだけれど,数百メートル先には危険地帯が迫っている。

NHKのハザードマップは,全国の市町村ごとのデータを統合して,任意の場所について一つのインターフェースでリスクを調べることを可能にしたものだ。これがなかなか大変な作業だったということが,34テラバイトのデータと格闘して「全国ハザードマップ」を公開した理由という記事になっている。

なぜ34TBも必要なのと普通は考える。例えば,面積が60 ㎢ の天理市のハザードマップのpdfファイルは7枚,15MBある。37万㎢の日本全体にスケールするには6000倍すればよく,必要なファイルサイズは90GBだ。34TB/90GB =300倍ほど過大になっている(様々な情報を格納するためのベクターデータなら1桁余分に必要かもしれないが,2桁ではないだろう)。

災害に遭遇するのは,自分が住んでいる市町村に居る場合とは限らないから,いつでも,どこでも,誰でもが簡単に全国のハザード情報を検索できるシステムの必要性や重要性は言を待たない。実際,国土交通省には重ねるハザードマップというシステムは存在している。しかし,掲載されている河川数が水防法で規定されている2200河川の43%にすぎない(これに限らず,憲法改正によって危険な緊急事態条項の導入に血道を上げる前にやるべきことが山積している日本なのだった)。

そこで,NHKががんばって,1800の地方自治体に電話をかけてデータを集めたところ,外注した成果物がpdfファイルのみで元のデジタルデータがないとか,データの格納ファイルが整理されていないとか,関係ないデータが山のように混入しているとか,そもそもデータ形式が統一されていないとか。それが34TBのデータであり,これから散々苦労して必要な情報を蒸留して作り上げたのがNHK全国ハザードマップだった。この涙なくして語れない的な読み物を一読することをお薦めする。

デジタル庁がやるべきなのは,あるいは,災害出動に価値のある自衛隊の防衛予算をまわすべきなのは,こんなところからだと思われる。


図:NHK全国ハザードマップのイメージ

P. S. NHK全国ハザードマップは期間限定の試験的デジタルコンテンツとある。もったいないので,国土交通省で引き継いだらいいのに。

[1]ハザードマップポータルサイト(国土交通省)

2022年6月29日水曜日

信貴山朝護孫子寺

摂州合邦辻からの続き

今年は寅年なので,信貴山朝護孫子寺に注目が集まっているはずだ。信貴山登るなら今年がいいねということで,自宅から西に15km,車で30分のところにある信貴山寺に行ってきた。

実は,これは初めてではなくて2回目である。1回目は大学2年のゴールデンウィークだった。八尾(志紀)の柳田さんの家にお泊まりで行ったメンバーは誰だったか,楠本さんの他,藤原さんもいたかなあ。講義ノートを販売する作戦の倫理的問題について議論が巡らされたときだ。

次の日に恩智駅からいけば近いよということで,楠本君と二人で信貴山に上ることになった。信貴山寺は,恩智駅からほぼ東に5kmにある。Googleマップで道を確認して見たがみあたらない。しかし,ちゃんとハイキングコースがあって,2-3時間ほど歩くと迷わずにお寺まで到達できた。そのころにも大きな寅があったのだろうか,全く印象には残っていない。

さて,今回は,入り口の大寅(電動らしい)で記念撮影したあと,成福院,玉蔵院,本堂(戒壇巡り),千手院とまわったが,信貴山観光センターも霊宝館も臨時休業で,信貴山縁起絵巻(複製)も拝観できなかった。境内の電気工事のせいだ。戒壇巡りもコーナーの非常灯が消灯しているので,気をつけるように注意された。

本堂拝観の後,時間が余ったので信貴山城趾まで登ることにする。出発点から頂上まで560m20分と書いてあるけれど,両手に竹杖の高齢者夫婦にはその倍の時間がかかってフラフラになる。残念ながら力尽きて松永屋敷跡まではたどり着けなかった。

587年7月3日,聖徳太子が物部守屋を討伐したのを機に創建し,毘沙門天=多聞天を本尊とする信貴山寺だが,境内は鳥居だらけだった。真言宗でも高野山とはちょっと空気が違う。毘沙門天が戦いの神になったのは,仏教に取り込まれた後であり,そもそもは,「五穀豊穣,商売繁盛,家内安全,長命長寿,立身出世」という現世利益を授ける七福神の一柱なので,信貴山寺の売り出し方は本来の姿なのだろう。



写真:信貴山朝護孫子寺(撮影 2022.6.28)

[1]志貴山縁起上(国立国会図書館デジタルコレクション)
[2]志貴山縁起中(国立国会図書館デジタルコレクション) 
[3]志貴山縁起下(国立国会図書館デジタルコレクション)

2022年6月28日火曜日

みんなの自動翻訳

DeepL翻訳からの続き

自動翻訳はDeepLで間に合ってます。といいたいところなのだが,一番の問題は,韓国語がないところかもしれない。無料版なので,1回に5000字までという制限はあるけれど,いまのところ,英文ニュース記事を読む際の支援ツールとして使っているので,それほど問題ではない。

情報通信研究機構(NICT)のみんなの自動翻訳@TexTraもなかなかよいという噂が伝わってきたので試してみた。韓国語も訳せるので韓国ドラマを安心してみることができる・・・というわけにはいかない。多機能なのを表に出しすぎているので,ちょっと使いにくい印象がある。Safariではデフォルトの表示が必ずしも整っていないのも気になる。

ユーザインタフェイスはそうだとして,実際に訳文を比較するとどうなるだろうか。

原文(WikipediaのQuantum THermodynamicsから)

Quantum thermodynamics[1][2] is the study of the relations between two independent physical theories: thermodynamics and quantum mechanics. The two independent theories address the physical phenomena of light and matter. In 1905, Albert Einstein argued that the requirement of consistency between thermodynamics and electromagnetism[3] leads to the conclusion that light is quantized obtaining the relation 

E=h\nu . This paper is the dawn of quantum theory. In a few decades quantum theory became established with an independent set of rules.[4] Currently quantum thermodynamics addresses the emergence of thermodynamic laws from quantum mechanics. It differs from quantum statistical mechanics in the emphasis on dynamical processes out of equilibrium. In addition, there is a quest for the theory to be relevant for a single individual quantum system.

TexTra

量子熱力学[1][2]は、熱力学と量子力学という2つの独立した物理理論の間の関係を研究する学問です。2つの独立した理論は、光と物質の物理現象を扱っています。1905年にアルバート・アインシュタインは、熱力学と電磁気学の一貫性が必要であると[3]、光はその関係を得て量子化されるという結論が導かれると論じました。E=h\nu。

この論文は量子論の夜明けです。数十年のうちに、量子論は独立した規則によって確立されました。[4]現在、量子熱力学は量子力学からの熱力学法則の出現を取り上げています。量子統計力学とは異なり、平衡から外れた動的過程に重点が置かれています。さらに、単一の個々の量子系に関連する理論を探求しています。

DeepL

量子熱力学[1][2]は、熱力学と量子力学という2つの独立した物理理論の関係を研究する学問である。2つの独立した理論は、光と物質という物理現象を扱っている。1905年、アルバート・アインシュタインは、熱力学と電磁気学の整合性[3]が必要であることから、光は量子化され、次の関係式が成り立つと主張した。E=h</nu。

この論文は、量子論の黎明期を告げるものです。現在、量子熱力学は、量子力学から熱力学的法則を生み出すことを目的としています[4]。量子統計力学との違いは、平衡状態から外れた動的な過程に重点を置いている点です。さらに、単一の個々の量子系に関連する理論の探求がある。

こうして,比べるとDeepLもやや微妙なところがあるが,訳文は全体としてややこなれている。まあ一長一短というところかもしれない。みんなで使えばより精度は高くなると思うが,まだまだ知名度が低いし,あまり宣伝もしていないようだ。

 [1]みんなの自動翻訳@KI(個人版)(川村インターナショナル・プロの個人翻訳者向け商用利用可能ライセンス)

[2]みんなの自動翻訳 質問・要望一覧

2022年6月27日月曜日

太陽フレア

 NHKニュースで太陽フレアの危機が取り上げられていた。

なんでも,2025年は太陽活動が活発になり,太陽フレアが2週間続き,ケータイも繋がらなくて大変なことになるという説だった。なんとなく胡散臭かったので確認してみる。

太陽活動は11年周期で変動しているが,その本質は,太陽の自転による磁場の22年周期変動である。11年で太陽極磁場のNSが逆転するが,絶対値を考えると活動値(黒点数,太陽フレア頻度,太陽放射量)の周期は11年ということになる。活動期には,黒点数や太陽フレア頻度が増加し,太陽放射も0.1%程度強くなる。

1843年にドイツの天文学者シュワーベによって,太陽活動周期(黒点周期)が発見され,スイスの天文学者ウォルフの研究から1755-1766年が第1周期とされた。最近のピーク年と周期番号を並べると,1981年(第21周期),1992年(第22周期),2003年(第23周期),2014年(第24周期),2025年(第25周期)となるので,2025年という時期は正しそうだ。

ただし,フレア頻度は活動極小期に比べて1桁増えるが,爆発の大きさ自体は周期と直接関係しない。

ところで,近年の太陽活動をみると,22周期,23周期,24周期と次第に活動が衰えており,黒点数も近年になく減少している。大規模太陽フレアも24周期にはほとんど発生していない。それでは,このたび25周期の危険性に警鐘を鳴らしている根拠はなんなのだろうか。

ニュースになったのは,6月21日に,総務省の宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会報告書を公表したからだ。そこでは,一般的な太陽活動への監視態勢や対応体制の構築ポリシーについて議論すると同時に,100年に一度の大きな太陽フレアがあったときにどんな影響が考えられるかを評価(シミュレーション)したものだった。

つまり,2025年の太陽フレア予報に重点があったわけではなかったのだ。ニュースの取り上げ方と受け止め方は本当に難しい。ましてや,忖度まみれの政治経済関係のニュースはどうなのだろうか。情報系の人たちはメディアリテラシーと簡単にいうけれど,結局,個別分野の知識に基づきながら,事実とデータを積み上げ読み解いて分析することでしか,相対的に正しい事実には接近できない。


図:22〜24周期までの黒点数の変動(Wikipediaより引用)

2022年6月26日日曜日

テトラ中性子核

中性子と陽子の束縛系は重陽子(重水素の原子核)であり,スピン1,アイソスピン0で,テンソル力を含む核力により相対運動はS波とD波が混じった状態である。中性子2個の状態で空間部分がS波の状態は,スピン0,アイソスピン1であり,テンソル力部分の寄与もなく束縛状態は存在しない。

中性子の数が膨大になれば重力によって束縛することができ,中性子星として存在することは確かめられている。一方,中性子3個や4個の原子核が束縛状態として存在するかどうかは昔から問題だった。3中性子系の話題はみたことがあったが,4中性子系は考えたこともなかった。

理化学研究所下浦さんらの国際共同研究チームが,4中性子系に共鳴状態があることを実験的に確かめた。理研の重イオン加速器施設(RIビームファクトリ:RIBF)で生成したヘリウム8(ヘリウム4+4中性子)に陽子をぶつけて,ヘリウム4だけをたたき出すという手法(8He(p,p4He)4n)で,そのエネルギーを測定した。これからピーク位置2.37MeV,幅1.75MeVの4中性子系(テトラ中性子核)の共鳴状態のピークが発見された。


図:テトラ中性子核の共鳴状態(理研のプレスリリースから引用)

2022年6月25日土曜日

我が心はICにあらず

 ギフテッドからの続き

遠い親戚の鈴木晶さんのことを調べていたら,彼が,高橋たか子(1932-2013)に弟子入りしていたとある。学生時代に小説を見せたところ「小説になっていないとして翻訳を勧められ,高橋と共訳をしたりするうちに秘書的存在になった」。たか子が亡くなったときに喪主を務めた鈴木晶は「たか子の40年来の弟子で,たか子の生前から高橋家の鎌倉の自邸(黒川紀章設計)に妻子と暮らし,和巳・たか子両名の著作権代理人を務めた」とある。なお,高橋和巳と高橋たか子の著作権は,2013年に日本近代文学館に遺贈されている。

高橋たか子の小説は全く読んだことがないが,高橋和巳(1931-1971)の小説は,新潮文庫でひととおり読んだ。あんなに並んでいた高橋和巳の文庫本が,書店の棚にみつからなくなって久しいが,最近は河出文庫に少し戻ってきたかもしれない。小松左京(1931-2011)の親友だった高橋和巳への入り口は「わが解体」だったが,暗く観念的な小説群の中で一番おもしろかったのは「邪宗門」だった。現代人の必読書ですね。

高橋和巳の「我が心は石にあらず」を(冷笑的に)もじったのが,小田嶋隆(1956-2022)の「我が心はICにあらず」だ。1980年代にマイナーなパソコン雑誌に連載されたテクニカルエッセイで,ほとんど読んだことはなかったが,そのタイトルと著者名だけはしっかり刻印された。

小田嶋隆のエッセイやTwitterを読むようになったのは最近の話である。日経ビジネスに連載された「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明は,著者の絶妙な挿し絵と,着眼点と,アイロニーにあふれた表現で,躊躇いを含んだ権力批判を毎回読むのが楽しみだった。2020年9月以前の記事はオープン・アクセスである。古くからの読者で,オダジマは政治的な話題を取り上げるのでいやになったという感想を持つ冷笑派が多く見受けられるが,それはあなたたちの方が間違っている。

その小田嶋隆が6月24日に亡くなってしまった。友人の町山智弘(1962-)は,宝島社時代の小田嶋隆の著書の編集担当だった。こうして,自民+公明+維新が笑う様が透けて見える参議院選挙の季節が回っていく。


写真:1950年代後半の高橋たか子と高橋和巳(朝日新聞から引用)

[1]高橋和巳50回忌(2021.5.3 Gonのあれこれ)