2018年12月16日日曜日

原子モデルとプランク定数

2018-12-14「アルトゥル・エーリヒ・ハース」からの続き


 1913年にボーアの原子モデルが発表される以前。1910年にハースがプランク定数と原子半径を結びつける正しい式を提案していた。両者の違いについて整理してみる。

ハースは,プランクの作用量子$h$の物理的意味を原子の構造に求め,$h$を原子の大きさによって根拠づけようとした。トムソンの原子モデルから出発すると,電子が半径$a$の一様に分布した正電荷の表面を回転しているときが全エネルギーが最大である。このときの原子(振動子)のエネルギーがプランクの$h\nu$であるとして,初めてボーア半径の正しい式を導いた(対応するエネルギーの表式は正しくない)。

ボーアは,ラザフォードの原子モデルに対して,その大きさを決める特徴的な長さを与えると同時に線スペクトルを説明しようとした。プランクの振動子のエネルギー$nh\nu$に現れる振動数$\nu$と原子の回転振動数$\omega$を結びつける複数の仮定が共にボーア半径の式とリッツの結合則を与えることを示した。原子には定常状態(及び安定な基底状態)が存在するとして,状態間の遷移によって光子の放出吸収を理解したことが革新的であった。

\begin{equation*}
\begin{array}{ccc}
\hline
 & Haas & Bohr \\
\hline
モデル & トムソン原子モデル  &  ラザフォード原子モデル\\
電子に働く力 & F=-\dfrac{e^2 r}{a^3} & F = -\dfrac{e^2}{r^2}\\
ポテンシャル & V=\dfrac{e^2 r^2}{2 a^3} & V=-\dfrac{e^2}{r}\\
エネルギー基準点  & r=0 & r=\infty\\
運動エネルギー & T=\dfrac{1}{2}m v^2 &  T=\dfrac{1}{2}m v^2\\
速度vと振動数\omega^{1)} & v=2\pi r \omega &  v=2\pi r \omega\\ 
古典運動方程式^{2)} & ma(2\pi\omega)^2=\dfrac{e^2}{a^2} &  mr(2\pi\omega)^2=\dfrac{e^2}{r^2}\\
振動子(原子)の振動数 & \omega=\dfrac{1}{2\pi}\sqrt{\dfrac{e^2}{m a^3}} 
& \omega=\dfrac{1}{2\pi}\sqrt{\dfrac{e^2}{m r^3}}\\
全エネルギー(T+V) & E=\dfrac{e^2}{a} & E=-\dfrac{e^2}{2 r}\\
プランク定数との関係^{3)} &  E=h\omega & E=-\dfrac{n}{2} h \omega\\
\\
プランク定数の表式 & h=2\pi e\sqrt{ma}  &  h=\dfrac{2\pi e}{n}\sqrt{m r_n}\\
原子半径の表式 & a=\dfrac{h^2}{4\pi^2 me^2} & r_n=\dfrac{n^2h^2}{4\pi^2 me^2} \\
エネルギーの表式 & E=\dfrac{4\pi^2me^4}{h^2} & E_n=-\dfrac{2\pi^2me^4}{n^2 h^2} \\
\hline
\end{array}
\end{equation*}
1) 電子の回転振動数を$\omega$ とした。角振動数ではない。
2) Haasでは以下$r=a$の正電荷表面の軌道で考える。
3) ボーアは放出される光の振動数$\nu$が電子の基底状態の回転振動数$\omega$の1/2であると仮定して,光子のエネルギー$nh\nu$と原子の全エネルギー$E$を等置した。


2018-12-17「ジョン・ウィリアム・ニコルソン」に続く

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