タベシュの論文のさきほどの引用部分の前段には,コンピューテーショナル・シンキングの定義がある。また,最近の議論と直接関るものとしてしばしば引用される,ジャネット・ウィングの2006年のACM論文(エッセイ)「Computational Thinking」についての言及もある。公立はこだて未来大学の中島秀之によるその日本語訳は,2015年になって「計算論的思考」として情報処理 Vol.56 No.6 に掲載された。また,林向達によって〔学習用翻訳〕計算論的思考として訳された。このページでは「計算論的思考」を用いよう。
タベシュの論文の要約の前段:
計算論的思考は,コンピューターが効果的に実行できるような方法で問題を定式化し,その解決策を表現することに関与する思考プロセスとして定義できる。それは,問題を解決し,システムを設計し,人間の行動を理解する方法であり,コンピューターサイエンスの基本概念に基づいている。今日の世界で繁栄するには,計算論的思考が,人々がものを考え,世界を理解する方法の基本的な部分でなければならない。ジャネット・ウイングは2006年のエッセイで計算論的思考を次のように表現している。
計算論的思考は,児童生徒にとって不可欠であり,K-12カリキュラムの一部である必要があるが,最初にそのルーツとコンテンツ開発の基礎となりうる教育学的モデルを検討する必要がある。
計算論的思考の本質は,心の拡張としてのコンピューターと対話しながら創造し発見できることだ。このような概念は,パパート著書マインドストームで次のように想定されていた。
パパートは,計算の2つの側面に注目した。1つは計算を使用して新しい知識を創造する方法,もう1つはコンピューターを使用して思考を強化し,知識へのアクセスパターンを変更する方法だ。最近では,ウィングが,計算論的思考に修正されたアプローチと新しい注意をもたらした。
ウィングは,計算思考を,読み,書き,および算術と並ぶ,我々みんなの分析能力の基本的なスキルと見なしている。ウィングの論文は,すべての階層のコミュニティ,特にK-12で歓迎された。K-12コミュニティは反応が早く,ティーンエイジャー向けのアプリケーションの開発を開始し,進行中である。パパートの基本的なアイデアにアクセスしながら,計算論的思考を浸透させる手段としての問題解決に進む。
・計算論的思考は計算プロセスの能力と限界の上に成立しているもので,計算の主体が人間であるか機械であるかは問わない。
・計算論的思考は,コンピュータ科学者だけではなく,すべての人にとって基本的な技術である。
・計算論的思考は問題解決,システムのデザイン,そして基本的なコンピュータ科学の概念に基づく人間の理解などを必要とする。
・計算論的思考とは再帰的に考えることであり,並列処理であり,命令をデータとし,データを命令とすることである。
・計算論的思考とは巨大で複雑なタスクに挑戦した り,巨大で複雑なシステムをデザインしたりすると きに,抽象化と分割統治を用いることである。
・計算論的思考とは予防,防御,そして最悪のシナリオからの復帰という観点を持ち,そのために冗長 性,故障封じ込め,誤り訂正などを用いることである。
・計算論的思考はヒューリスティックな推論により解を発見することである。
・計算論的思考は超大量のデータを使って計算を高速化することである。
これすなわち,コンピュータサイエンスの特徴を述べており,それが専門家だけでなくすべての人々にとって重要であるというのが彼女のビジョンである。これが K-12 関係者などコンピュータ教育にかかわる人々にヒットした。そしてその10年後には[3]にあるエッセイを書いている。
[1]コンピューテーショナル・シンキングについて(林向達,2017)
[2]Computational Thinkingに関する言説の動向(林向達,2018)
[3]Computational Thinking, 10 Years Later (Jeannette Wing,2016)
[4]〔学習用翻訳〕計算論的思考,10年後(林向達,2018)
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