2023年6月26日月曜日

通俗道徳と日本資本主義


日本会議の研究でおなじみ,天理市出身の菅野完(1974-)が,FaceBookおよびYouTubeで展開していた論(1:08:30あたり->)が腑に落ちた。

その趣旨は次のようなものだ。欧米ではプロテスタンティズムが資本主義を産み出したが,日本では江戸時代に上方で商品経済の勃興とともに発生した通俗道徳がその後の資本主義発展に大きな役割を果たした。

通俗道徳というのは,「勤勉・倹約・礼儀・孝行などの道徳的規範を履行していれば富や幸福が訪れる」というものだ。それ以前は「全ては前世の宿業」という仏教的な因縁思想が主流だった。通俗道徳により,成功している人=道徳的規範を履行した人,不幸な人=道徳的規範の履行に欠損がある人,という認知が進むことになる。

ある人が不幸な場合,その原因は本人の道徳的瑕疵に着せられ,社会構造への批判的検討や歴史的経緯に対する考察は入りえない。不幸な人が告発する行為は,礼儀という徳目違反と見なされて,さらに不道徳ポイントが追加される。それだけでなく,成功者がこの不道徳事例を見逃すことによる減点をさけるために,不幸な告発者への道徳的批判に邁進することになる。

このような通俗道徳の土壌の上には「人権」や「権利」などの意識は芽生えようがない。欧米(プロテスタンティズム)では全ての人が神との平等な契約にさらされており,これによって人権意識が育まれたのとは大きな違いがある。

そのため,日本の資本主義は欧米のそれとは異なり,人権という片方の車輪を欠いたまま成長してしまったというわけだ。1945年の敗戦で,脱輪はいったん解消されたが,その後75年経過して再び脱輪の道を進んでいる。実際,女性差別,外国人差別,LGBTQ差別,などは放置されたまま,いや悪化の一途を辿っている。これが菅野完の論のあらすじだった。

結論:通俗道徳論 ≒ 自己責任論 ≒ 日本型新自由主義(自民党・維新支持者の論理)
noiehoieさんには「通俗道徳の倫理と資本主義の精神」という新書をはやく書いてほしい。


2023年6月25日日曜日

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神

1972年,大学に入りたてのころは知的好奇心のポテンシャルにあふれていた。梅棹忠夫岩波新書青版の知的生産の技術に影響されていた頃だ。毎年100冊近い本(まあ半分以上文庫のSFや小説なのだが)を読んで,京大式カードにチャレンジし(1週間で挫折),NHKの生物工学の講座を視聴し(基礎工に潜ったほうがはやい),街を歩いた。

岩波書店の「図書」も新刊本の情報収集のために購読していた。年100円?と安かった。面倒だったので封筒に100円玉を入れて送ったら,郵便局から突き返されてきた。その図書に岩波の文化講演会の案内が載っていた。

京都の国際会議場だかどこかで夕方から無料で開催されるものに,分子生物学の渡辺格(1916-2007)など3名の話があるというのでとんでいった。渡辺先生の話はそれほどインパクトがなくてやや期待外れだった(というか話の内容を理解できなかったのかもしれない)が,その後にでてきた,大塚久雄(1907-1996)が印象的だった。周囲を圧倒する雰囲気の隻腕の老紳士で,マックス・ヴェーバーとマルクスの話だったような気がする(こちらのほうも話の内容は頭に入らなかった)。

さて,その大塚久雄先生が訳したマックス・ヴェーバー(1864-1920)のプロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(1904)である。学生のころ人文社会科学の中で一番関心のあったのは社会学だったけれど,正統的で本格的なものにはまったく手が伸びず,見田宗介や井上俊など周辺の甘いお菓子のような本ばかり読んでいた。

でこのたび,ChatGPTのお力をかりて俄勉強してみるが,上記にリンクしたWikipediaの方がより具体的で丁寧な説明がわかりやすかった。

Q:User
マックス・ヴェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」で展開される論理の筋道をなるべく分かりやすく解きほぐして説明してください。

A:ChatGPT
マックス・ヴェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」は、西欧の経済的成功とプロテスタントの宗教倫理の関係性についての社会学的研究です。

ヴェーバーの主張は、プロテスタンティズム(特にカルヴァン派)の倫理観が、現代の資本主義の精神を醸成し、助けたというものです。

以下に、ヴェーバーの主要な論点をいくつか列挙します:

職業倫理(Calling):プロテスタンティズム(特にカルヴァン派)では、一人ひとりが神から職業(calling)を与えられ、それを全うすることが信仰の一環とされます。つまり、労働はただの生計を立てる手段ではなく、神への奉仕として理解されました。これは、労働を倫理的価値として捉え、経済活動を奨励する強力な推進力となりました。

予定説と成功の証:カルヴァン派の特徴的な教義である予定説は、神がすでに誰が救われ、誰が避けられるかを決定しているとするものです。しかし、この運命は誰にもわからない。したがって、信者は自分が選ばれた者であると信じる確証を求めました。ここで、経済的成功がその確証として捉えられるようになりました。

禁欲主義と資本蓄積:プロテスタンティズムは節制と自己規制を強調し、贅沢や浪費に対して否定的な態度をとりました。したがって、信者は労働を通じて得た利益を再投資し、資本を蓄積する傾向がありました。これが、資本主義の発展を推進しました。

このように、ヴェーバーはプロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神がどのように関連しているかを論じています。彼の見解には議論の余地がありますが、宗教的価値観が経済行動や社会的変化にどのように影響を与え得るかを示す一例として引用されます。彼の視点から見れば、プロテスタンティズムの宗教的倫理は、労働の倫理的価値を高め、経済的成功を信仰の証と捉え、さらに生活の節制を奨励することにより、資本主義の発展を促進しました。

しかし、これは一方的な因果関係を示しているわけではありません。ヴェーバー自身も、プロテスタンティズムが唯一の要因、または必ずしも資本主義の発展につながるとは主張していません。むしろ、彼の主張は、これら二つの発展が互いに影響を与え、形成し合ったというものです。このような視点は、経済、宗教、文化などのさまざまな要素がどのように相互作用するかを理解するための重要な枠組みを提供します。 


写真:マックス・ヴェーバー(Wikipediaより引用)

Q:User
2. 予定説と成功の証:の部分のロジックがわかりにくいです。『禁欲的プロテスタンティズムは、「利潤の肯定」と「利潤の追求の正当化」を生み出した。つまり、金儲けに正当性を与えたのである。』の理由をもう少し詳しく説明してください。

A:ChatGPT
マックス・ヴェーバーの理論における「予定説と成功の証」について、より詳細に説明します。

カルヴァン派プロテスタンティズムには、「予定説」という重要な教義があります。これは、神がすでに誰が永遠の救済を受けるか(選ばれた者)を決めている、という信念です。しかし、誰が選ばれた者なのか、また、自分自身が選ばれた者なのかを知ることはできません。この不確実性は、信者にとって大きな不安を生じさせることとなります。

ヴェーバーは、このような信者が自身が選ばれている(つまり、神によって救済が約束されている)確証を求めるために、自らの職業に励み、経済的な成功を追求したと主張します。経済的成功は、自身が選ばれた者であるという"証拠"または"確証"と捉えられたのです。つまり、成功は神からの恵みの証となり、これが利潤追求の正当化につながります。

この理論は、「禁欲的プロテスタンティズムは、利潤の肯定と利潤の追求の正当化を生み出した」という結論に結びつきます。具体的には、信者は自身の労働と経済的成功を神聖な使命と捉え、それを通じて神の意志を具現化するものと理解しました。これにより、一見すると物質的で世俗的な活動である「金儲け」にも、神聖な価値が見出され、正当化されたのです。

2023年6月24日土曜日

大学の英語教育はいらない?

大学にもう英語教育はいらない」というのは,立命館大学生命科学部で英語教育を担当している山中司さんが2017年に執筆した論文のタイトルだ。

ChatGPTのインパクトを一番切実に受け止めているのが,大学の英語教育のコミュニティだ。各大学から出ている生成AI使用ガイドラインだが,これを3月の段階で日本で最初に発出したのが東京外国語大学でありその内容も秀逸だった。

山中さんは,2022年度秋学期から立命館大学の必修英語科目に翻訳ツール(みらい翻訳)を導入し試験運用を始めている。さらに,授業におけるChatGPTの活用もニュースに取り上げられ,英語教育とAIに関してはトップランナーである。

さてその論文だが,17ページあったので要約をGPT-4 & プラグインにお願いした。ChatWithPDF はファイル読み込みに失敗し,AskYourPDFもLinkReaderも,どうもイマイチの結果しか出してこない。最近,GPT-4の調子はよくないのかもしれない。

しかたがないので,自分で読んでまとめる必要がある。これがまた面倒で仕方がない。AIによってすごい勢いで人間(自分)の退化が促されていることを実感する。これが人類に対するAIの脅威の最大のものだ。そもそも老人の読む力が筋力に比例して落ちているのだった。

○本論文は,大学教育の未来の一つの極としての「英語教育解体論」を語る。
○大学設置基準の大綱化で科目設定が各大学の判断に任されているにも関わらず全ての大学では,「外国語科目」として「英語」が必修化されている。
○AIにより,音声認識や自動翻訳の技術,AIによる4技能の活用が十分実用的になり,(1) 英語教員が不要,(2) 英語教育が不要,(3) 英語学習が不要 になる。
○この状況は英語教育への企業参入を容易にし,市場原理で大学の外国語教育≡教員が駆逐される可能性がある。これらが「強い解体論」と呼ばれる外在的要因である。
○哲学における「言語論的転回」でコミュニケーション=言語(言語至上主義)と捉えられていたのが,複合メディア・表現へのアクセスが容易になり逆転し始めた。
○英語教育=第二言語習得=応用言語学が,確たる方法論と統一理論を持たず解体しつつある分野になった。
○英語が世界言語であることから,言語寛容性がもとめられ規範性を失っている。これらが「弱い解体論」とよばれる内在的要因である。

ということで,ChatGPTが登場する前夜から英語教育は危機に瀕していたことがわかる。




2023年6月23日金曜日

生成AI利用の基本方針


一部の大学は別として,多くの大学で今一つ十分な検討がされていないような気がする。生成系AIの利用上の注意文書のことだ。本来は大学としての基本方針を確立し,それに基づいて,教職員向け(教育・研究・事務)と学生向け(学習)の具体的なガイドラインを2本作るという構造になるべきだろう。

せめて,ChatGPTにたたき台を出してもらってから,考えればよかったのではないだろうか。例えば,以下のようにそれらしい基本方針がでてくるのに。リテラシーがないままに,自分たちは知っているという雰囲気のガイドラインを出しているわけで。

生成系AI利用の基本方針(GPT-4からの提案)

1. オープン性と透明性
我々の大学はオープンで透明な利用を推進します。AIの利用の過程と結果は、利用者が学び、理解し、さらにはその適用を改善するための知識を共有することを可能にするべきです。

2. 教育的な目的
AIの利用は教育的な目的を優先するべきです。研究、学習、そして教育的な探求が主な利用目的となります。

3. 倫理と責任
AIの利用は常に倫理的な枠組みの中で行われるべきであり、利用者はその使用について全面的な責任を負うべきです。これには、潜在的なバイアス、データの使用、AIの出力への理解と扱いについての考慮が含まれます。

4. データのプライバシー
AIの利用はプライバシーを尊重するべきです。敏感なデータを扱う場合や、特定の個人が識別可能な状況では、データの匿名化や適切な扱いが行われるべきです。

5. コラボレーションと共有
我々の大学は、AIの成功した利用事例と失敗事例の共有を推奨します。これにより、一人一人の学習が共同体全体の知識に反映され、全体として前進することができます。

6. 継続的な学習と適応
AIとその利用は進化し続けます。そのため、我々の大学は継続的な学習、適応、そしてAIの利用の改善を推進します。

7. アクセシビリティ
我々の大学は、全ての学生、教員、職員がAIを公平に利用できることを保証します。そのために、我々は必要なリソースと教育を提供します。

日本の大学の注意文書に欠けているのが ,1,5,7あたりだ。2が妥当なのかどうかはよくわからない。

2023年6月22日木曜日

大学教育とChatGPT(10)

大学教育とChatGPT(9)からの続き

私立大学情報教育協会(JUCE)が生成系AI使用ガイドラインを出していたので,他の学会や国大協の会長談話と併せてまとめておく。

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4月25日,人工知能学会としての大規模生成モデルに対してのメッセージ
一般社団法人 人工知能学会 会長 津本周作/倫理委員会

5月1日,生成AIの利用ガイドライン
日本ディープラーニング協会

5月29日,生成 AI の利活用に関する国立大学協会会長コメント
国立大学協会会長 永田恭介

5月31日,生成系 AI 使用ガイドライン
公益社団法人私立大学情報教育協会
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今週は,他のアーカイブを参考にして落ち穂拾いに努めたところ,結構な見落としがあった。あとは,横浜国立大学が受験生向けの注意を出していたのがめずらしかった。生成系AIを駆使して願書等を作成するような学生は真っ先に入学させればいいように思うのだが,気のせいかもしれない。

文科省の学校向けガイドライン案がリークされていたけれど,この小中高ガイドラインに振り舞わされる大学もでてきそうな勢いだ。『指針案は「生成AIを使いこなす力を育てる姿勢が重要」としつつ、著作権侵害や批判的思考、創造性への影響といった懸念やリスクもあると指摘』。批判的思考や創造性を収奪しながらそれを是とする空気を作ってきたのは誰・・・いまさら感がただよう。

6月6日
Chat GPT等の生成AIの利用について
昭和大学 学長 久光正

6月9日
ChatGPT等の生成系AIの利用について
育英大学

6月13日
ChatGPT等の生成人工知能(生成AI)利用に関する留意事項等について
多摩大学

6月13日
大学における Chat GPT 等 AI の活用に関する指針
日本赤十字九州国際看護大学

6月14日
生成系AIの取り扱いに関して
関西医科大学 学長 木梨達雄

6月14日
ChatGPT等の生成AIの使用に関する留意事項
沖縄国際大学 学長 前津榮健

6月14日
生成AI(ChatGPT等)に関する注意事項
近畿大学 経営学部長 安酸建二

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6月15日
生成AI(Generative AI)の利用に関する本学の考え方について
横浜国立大学 副学長(教育担当) 髙木まさき・副学長(研究・情報担当) 四方順司

6月15日
ChatGPT等の生成系AIに関する本学での対応について
実践女子大学 学長 難波雅紀

6月15日
生成系AIに関する本学の基本方針
四天王寺大学 学長 須原祥二

6月16日
生成系AI(人工知能:Artificial Intelligence)に関する本学の考え方と留意点
十文字学園女子大学 教育担当副学長 安達一寿

6月16日
学生による生成系AIの利用における注意点について
日本医療科学大学 学長・教務部長

6月16日
ChatGPT等の生成系AIの利用に関する注意喚起
敦賀市立看護大学 学長 内布敦子

6月19日
授業などにおけるChatGPTなどの生成AIの利用について
福井大学 理事(教育,評価担当)/副学長・データ科学・AI教育研究センター長

6月19日
生成系AIの学習・研究活動への利用について
山梨英和大学 学長 朴憲郁

6月20日
ChatGPT等の生成系AI(人工知能) 利用について
静岡県立大学 副学長(全学教務委員長) 今井康之・学生部長 細川光洋

6月20日
宮崎大学における生成系AIの利用にかかる留意事項について
宮崎大学長 鮫島浩
宮崎大学における生成系 AI の学習上の利用についての考え

6月20日
生成AIを活用するための基本方針
徳島大学長 河村保彦

6月21日
生成系AIの使用に関する注意について
名古屋経済大学 学長 佐分晴夫
6月21日
東洋学園大学 ChatGPTなどの生成AIへの本学の考え方
東洋学園大学学長 辻中豊
6月21日
本学におけるChatGPT等の生成系AIツールの利用について
神戸学院大学 学長 中村恵
6月21日
酪農学園大学における ChatGPT 等の生成系 AI 利用に関する留意事項について
酪農学園大学 学長 岩野英知
https://www.rakuno.ac.jp/archives/28167.html

 

2023年6月21日水曜日

メディアリテラシー教育の原理

法政大学の坂本旬さんが,アメリカの National Association for Media Literacy Education (NAMLE)が出している,Core Principles of Media Literacy (2023) 和訳して紹介していた。

そこで,自分でも試してみる。もちろん下請け(DeepLとかChatGPTとか)に任せるわけだけれど。結局,両者をミックスして人間の手を入れないとだめだった。
1. メディアリテラシーの概念を拡大する。それは全てのメディア形態を含み,意識的なメディアの消費者と創作者を育成するために複数のリテラシーを統合するものである。

2. すべての人が,自分の背景,知識,スキル,信念を用いてメディア体験から意味を創り出すことができる学習者であると想定する。

3. 好奇心,柔軟な思考,自己反省的な探求を優先する教育方法を推進する。ただし,理性,論理,証拠を重視することを踏まえながら。

4. 学習者が,絶えず変化するメディアの風景を通じて体験,創造,共有するメッセージについて,積極的な問い掛け,反省,批判的思考を行うことを奨励する。

5. 学習者に対して,統合的で,学際的で,対話的で,年齢と発達段階に適したスキル向上の機会が継続的に必要であるようにする。

6. 個々の人々がメディアを作成し共有する際に多くの倫理的責任を果たす,参加型のメディア文化の発展を支援する。

7. メディア機関は社会化,商業,変化の担い手として機能する文化的および商業的な存在であると認識する。

8. 公共の福祉のための健全なメディア環境は,メディアおよび技術関連企業,政府,市民間での共有の責任であると主張する。

9. メディア産業の社会における役割についての批判的な探求を重視する。メディア産業が,権力の仕組みにどのように影響を与え,また影響を受けているかを含め,公平性,包括性,社会正義,持続可能性に影響を与えるものだから。

10. 個人が,民主主義社会の中で,情報を得,反省し,関与し,社会的責任を負う参加者となるよう支援する。




2023年6月20日火曜日

ローラー式すべり台(2)

ローラー式すべり台(1)からの続き

さて,ローラ式すべり台において,雨粒のように速度の2乗に比例する抵抗が働く理由である。これを牧野さんにならってローラーの回転エネルギーへの損失からくるとしてみよう。

村田さんらの論文では,実験データとして次の情報が与えられている。ローラ式すべり台の直線部分7.5m,角度13度,直径18mm の軸受け付きアルミ棒・25mm 間隔 とある。アルミ棒はたぶんアルミパイプだと思うが,厚みや長さや質量などの情報はなかった。

これから,回転アルミパイプの外径$R$は9mm で間隔$d$は25mm となる。仮に厚みを5mm とするとアルミパイプの内径$R'$は4mmである。アルミパイプの軸回りの慣性能率$I$は,その質量を$M$として,$I=(R^2+R'^2)/2 \cdot M$ となる。よくある力学の演習問題だ。

終端速度$v$に達すると,すべり台を滑る位置エネルギーがすべてローラーの回転エネルギーに転化される。あるいはこの際に損失を伴うかもしれない。短時間$\Delta t$の間に物体が角度 $\theta$のすべり台を$v \Delta t$だけ滑り落ちるとする。その際の位置エネルギー変化は$\Delta U = m g v \Delta t \sin \theta$ となる。

一つのローラユニットの幅は$d$なので,この間に通過するユニット数 $n$は,$n=\frac{v \Delta t }{d}$となる。また,1ユニットのローラが受け取るエネルギー$\Delta L$は,$\Delta L = \frac{1}{2} I \omega^2 $となる。ただし,$\omega = \frac{v}{R}$は,ローラーの回転角速度である。これから,$\Delta L = \frac{I v^2}{2 R^2} $となる。

$\Delta U =  n \Delta L$から $v \Delta t$を消去すると,$m g \sin \theta =\frac{1}{d} \cdot \frac{I v^2}{2 R^2} $となる。
$\therefore  v = \sqrt{\dfrac{4 g \sin \theta \  R^2 d }{(R^2+R'^2) M}} \cdot \sqrt{m}$
ここで,$M$はアルミパイプの質量。アルミパイプの長さを60cm ,$R'$=4mmとすると,$M$=0.33kgとなる。これらを代入すると, $v=0.74 \sqrt{m}$ となる。

牧野さんの前半の値とほぼ整合するというか,真似しただけなのであたりまえなのだった。


図:アルミパイプ内径の関数としての係数と質量(直線は係数の実験値)

2023年6月19日月曜日

ローラー式すべり台(1)

カーリングの原理(1)からの続き

カーリングの原理で有名になった立教大学の村田次郎さんが,第2段としてすべり台の滑降時間に関する論文を書いた。しばらく前にマスコミでも話題になっていた。

問題意識は次のようなものだ。自由落下する物体の落下時間はその物体の質量によらない。摩擦のない斜面を滑降する場合も同様だ。ガリレオが長い斜面を作って実験したやつだ。ところが,実際のすべり台では大人と子供で滑る時間がちがう。重い人ほど速いらしいのだ。これはなぜか。

重いものが速く落ちる現象は実は良く知られている。雨だ。大きな雨粒ほど速く落ちる。これは大学の物理の授業で良く取り上げる,速度に依存する抵抗が働いているときの終端速度の問題だ。慣性抵抗が働く場合,終端速度 $v$ は次式 $k\,v^2=m\, g$ を満たすので,$v= \sqrt{g/k \cdot m}$となって,雨粒の質量$m$の平方根に比例する。

村田さんとその卒論学生の塩田君は,学生の探究実験としてこれをとりあげて,丁寧に工夫された実験と測定を行っている。これを分析した神戸大学の牧野淳一郎さんによると,ローラー式すべり台の場合も終端速度の平方根に比例するとのことで,ローラーの回転にエネルギーが散逸するとしてほぼ説明できるという新たな解釈を行った。

面白い話なので,自分でも計算してみることにする。まず,終端速度$v$と質量$m$の関係だ。村田チームは,動摩擦係数$\mu$を経由させながら,終端速度$v$の一次に比例する動摩擦係数$\mu = K v$を導入し,終端速度を$v=\frac{\tan \theta}{K}$ としている。ここで$\theta$はすべり台の斜度である。物理教育 Vol. 71 No.2 95-100 (2023) に投稿された「すべり台の動摩擦係数の実測研究」の図5 に $K$と$m$の関係があって,単調現象の質量依存性を指摘するにとどまっている。牧野さんはこの図から,終端速度$v$の質量依存性を $v=0.58 \sqrt{m}$ とした。

さて,図を読み取ると,資料{A,B,C,D}に対して,質量は$m$={1.0,2.2,4.2,6.2}であり,パラメタは$K$={0.395,0.255,0.175,0.145}となった。斜度の実測値を入れた終端速度の式,$v=\frac{\tan 13^\circ}{K}$にあてはめると,$v$={0.582, 0.902, 1.314, 1.586}となる。これを最も良く再現するのは $v \propto m^{1/1.8}$の場合であり,$v \propto m$ではなく,$v \propto m^{1/2}$のモデルの妥当性を示している。村田さんの論文の図から得られたのは,$v = 0.62 \sqrt{m}$であり,牧野さんの値より少しだけ大きくなった。


写真:ローラー式すべり台の完全に誤ったイメージ
(Bing=DALLE作,何度説明しても全く理解してもらえなかった,
人間のコミュニケーション能力が真剣に問われる・・・)


2023年6月18日日曜日

AI Risk

AIの安全性についての研究や提唱をしている非営利組織のCenter for AI Safety(CAIS)が先日,AI Riskに対する声明を発表していた。

その内容は「Mitigating the risk of extinction from AI should be a global priority alongside other societal-scale risks such as pandemics and nuclear war.  =  AIによる絶滅のリスクを軽減することは、パンデミックや核戦争など他の社会的規模のリスクと並んで、世界的な優先課題であるべきです。」という短いものである。

その賛同者の上位5名や著名人を並べると次のようなものだ。
Geoffrey Hinton,   Emeritus Professor of Computer Science,  University of Toronto
Yoshua Bengio,   Professor of Computer Science, U. Montreal / Mila
Demis Hassabis,   CEO, Google DeepMind
Sam Altman,   CEO, OpenAI
Dario Amodei,   CEO, Anthropic
Bill Gates,   Gates Ventures
Ilya Sutskever,   Co-Founder and Chief Scientist, OpenAI
Ray Kurzweil,   Principal Researcher + AI Visionary, Google
Max Tegmark,   Professor, MIT, Center for AI and Fundamental Interactions
Ryota Kanai,   CEO, Araya, Inc.
シンギュラリティサロンの松田先生の解説によると中国の研究者が含まれているところがポイントで,AIの研究を止めるのではなく,リスク軽減のためにも研究を進めようという趣旨らしい。

CAISによれば,AIのリスクは次の8つに整理できるという。
1.兵器化(Weaponization)
 AIが悪意ある者によって破壊的な目的のために使われるリスク。これは存在そのものとしてリスクを伴い、政治的な不安定さを増加させる可能性がある。
2.誤情報(Misinformation)
 AIが生成する大量の誤情報や説得的な内容により、社会が重要な課題に対処する能力が低下する恐れがある。
3.代理ゲーミング(Proxy Gaming)
 不完全な目標で訓練されたAIシステムは、個人や社会の価値観を犠牲にして自身の目標を追求する新たな方法を見つける可能性がある。
4.衰弱(Enfeeblement)
 重要なタスクが徐々に機械に委任されると、人間は自己統治能力を失い、機械に完全に依存する可能性がある。
5.価値の固定化(Value Lock-in)
 高度に能力のあるシステムは、少数の人々に巨大な権力を与え、抑圧的なシステムが固定化される可能性がある。
6.新たな目標の出現(Emergent Goals)
 モデルは能力が増すにつれて予期しない、質的に異なる行動を示す。これにより、人々が高度なAIシステムをコントロールする能力を失うリスクが増える。
7.欺瞞(Deception)
 強力なAIシステムが,何をなぜ行っているのかを理解したい。しかしAIシステムは正確にこれらの情報を報告する代わりに,欺瞞で答えるかもしれない。
8.権力追求行動(Power-Seeking Behavior)
 企業や政府は、広範な目標を達成できるエージェントを作る強い経済的インセンティブを持っている。

図:AIがもたらす8つの危険(CAISから引用)

Misinformation(誤情報)とEroded Epistemics(侵食された認識)の違いは何なのだろうか?


2023年6月17日土曜日

アミガサハゴロモ?

「ちょっとちょっと」と呼び出されてベランダに出てみると,小さな白い花が落ちている。

この5mm ほどの白い小さなものが動いて跳ねるというのだ。早速指を近づけるともぞもぞ動きはじめ,そのうち20cm以上大きくジャンプした。なんだこれは。ネットで調べてみると,どうやらオオシラホシハゴロモの幼虫らしい。

そんなものかと納得していたのだけれど,今回記事にしようと確認してみたところ,違うかもしれない。幼虫が成虫になるまで追跡調査した人によると,アミガサハゴロモのようなそうでないような。岐阜聖徳学園大学の川上先生のところの進化する昆虫図鑑では,アミガサハゴロモ属の外来種らしい。

生物種の同定というのはなかなか難しいものだ。


写真:たぶんアミガサハゴロモ属の外来種の幼虫

2023年6月16日金曜日

べんとりくん

人間ドック(2)からの続き

昨日は,天理市立メディカルセンターで1年ぶりの国保人間ドックだった。

事前に送られてきた便の潜血検査キットがちょっとリニューアルされていた。青と赤のラベルが貼ってある採便容器が無駄に大きくなっただけでなく,便採取支援シートに名前がついて形状が変化していた。べんとりくんだ。早速試してみたが,ちょっと不安定で使いにくかった。ネーミングはいいのだけれど,うーん,もう一工夫必要かも。トイレットペーパーを重ねて自分でコントロールするほうが安全だ。

去年のバリウム検査で懲りたので,今年は口からの胃カメラにしてみた。以前,大手前病院で一度だけ胃カメラに挑戦したが,そのときはわりと楽だった印象があるので今回も安心していた。

ところがです。呼び出されて,何やら変な味のクスリを2種類飲んだところまではいいのだけれど,5分間麻酔ゼリーを口に含む当たりからややこしくなってくる。タイマーが5分過ぎてもなかなか呼び出しがこない。麻酔がきれるのではないか。中からはゲーゲーいう音も聞こえてきて不安を一層あおる。

そうこうしているうちに名前が呼ばれたのだか,看護師さんが若干こわい。ベッドに横になってマウスピースをはめたが,以前のもののようにしっかり安定していない。しかも,ドクターの持っている内視鏡がえらい太いのである。えーっ,話が違う。わりと高速にのどから胃にむけてカメラが入っていったため途中で二,三回,オエーッとなってしまう。後半はようやく落ち着いて耐えることができた。



写真:べんとりくんと採便容器(撮影 2023.6.12)

2023年6月15日木曜日

大学教育とChatGPT(9)

大学教育とChatGPT(8)からの続き

まだ大学からのアナウンスが続いている。ChatGPTへの怖れからくる反応のようにも思える。機密情報(そんなもの学生が持ってるのか)や個人情報の漏洩も著作権の侵害も,SNSなどのほうが実質的に影響は大きいはずだ。生成系AIに限らずインターネットのサービスには様々な落とし穴があるにもかかわらず,生成系AI固有の問題点が沢山あるかのように強調されている。

東京都教育委員会は,都立学校宛に生成AIの利用に関する注意喚起を通知した。都立学校だから小中は含まれていないのか。でも児童や生徒にという表現もあるのでどうなっているのかはっきりしない(例外的な都立小学校1校と都立中学校5校はある)。具体例として (1) 日記や読書感想文,(2)プログラミング,(3) 校内コンテスト用のポスターの作成 などがあげられているらしい。

そうか,日記も書けて写真や絵も付けることができるなら生成系AIは夏休み最強のツールではないか。仮想日記コンテストをやればいいのに。一番ビックリするような仮想絵日記作品を選ぶコンテスト。生成系AIの使い方にかなり習熟するはずだ。子どもだと下手にAIに頼らない方がすごい結果がでるかもしれないけど。

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ChatGPT/生成AIへの対応を表明した国内の大学一覧(森木銀河)

生成系AIガイドライン(奥村晴彦)

生成系AIに対する各大学の見解や指針など(坂根弦太)

生成系AIに関する留意事項など(越桐國雄)

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6月7日
生成系 AI の適切な利用についての学長メッセージ
東京医療保健大学 学長 亀山周二
https://www.thcu.ac.jp/uploads/posts/2597/file.pdf

6月8日
ChatGPTをはじめとする生成系AIの利用に関して
藤女子大学 学長

6月8日
ChatGPT等の生成系AIに関する基本方針について
桃山学院大学 学長 中野瑞彦

6月8日
生成系AIに関する学長メッセージ
東北学院大学 学長 大西晴樹

6月8日
ChatGPT等の生成AI利用に関する本学の方針と留意事項
新潟医療福祉大学 副学長(教育担当) 大山峰生・研究科長 佐藤大輔

6月8日
チャットGPTなどの生成系AIの利用について
名古屋学院大学 学長

6月8日
生成系 AI (人工知能)の 利用 について (方針)
愛知学院大学 学長 引田弘道

6月9日
ChatGPT等の生成系AIの利用について
琉球大学 理事(教育・学習支援)・副学長

6月9日
対話型生成系AIの使用について
昭和女子大学 学長 金尾朗

6月12日
ChatGPT などの⼈⼯知能の講義・実習における活⽤について(4月10日)
九州大学 教育担当理事 園⽥佳巨

6月12日
本学におけるChatGPT等の生成系AIの使用に関する取扱いについて
共立女子大学 学長 川久保清

6月12日
Chat GPT等の生成系AIの利用に関する学生向け指針
新潟リハビリテーション大学長 山村千絵

6月13日
ChatGPT等(生成系AI)への対応について
愛知淑徳大学 学長 島田修三

6月14日
レポート・論文執筆等の学修における生成系 AI の利用について
奈良県立大学 教務委員会

6月14日
生成系AI(ChatGPT、Bing AI等)の使用に関する留意事項について
鳴門教育大学 学長 佐古秀一

2023年6月14日水曜日

鏡の中のミステリー

暇な老人はテレビをつけっぱなしにすることが多い。韓国ドラマを見終わって番組がつまらなくなると,放送大学にチャンネルを替えるのが癖になってしまった。先日,それで「鏡の中のミステリー〜なぜ左右が反対に見えるのか?〜」という高野陽太郎先生の番組にあたった。

従来の説として,ファインマンの説と回転説を紹介した後,それらを簡単に否定してしまった。ええっ。そのうえで,多重プロセス理論という自説を展開する。人による左右の反転の認知は,3つの原理によって産み出される3つの減少の複合体だとのこと。その3つの原理は,(1) 視点変換,(2) 表象方向 の乖離,(3) 光学変換 である。

文字の反転は(2)によるもので,鏡の前の人の場合 (1)とは区別されるというのだ。ええっ。トンデモ理論ではないのか。それにしては,森津太子さんが神妙に聞いている。岩波書店からも,「岩波科学ライブラリー 55 鏡の中のミステリー 左右逆転の謎に挑む 鏡に映った自分の顔がなぜ左右逆に見えるのか.これまで誰ひとり解けなかった謎が,ついに解けた。(現在品切れ)」と売り出している。

あたまがクラクラしてきた。もう少し調べてみると,ちゃんと反論している人はいた。その結果,認知科学が2008年に誌上討論を実施している。しかし結論はでていない。岩波と放送大学を握ったほうが勝ちなのだろうか?もう少し勉強してから考えをまとめる。

今のところの自分の考え。「上下対称,左右非対称の生物が鏡に正対したとき,彼らは上下が反転していると認識する可能性があるだろう」「文字を2次元の対象と考えれば,鏡によって反転することはない。反転するのは3次元的な対象に限られる。なお,表裏のある2次元の対象は3次元の対象と同等である」


[1]「小特集 − 鏡映反転」(認知科学,2008)
[2]鏡の世界回答編(多幡達夫,2004)
[3]鏡の中の左利き一物理屋のコメント(吉村浩一|多幡達夫,2004)
[4]鏡像問題(発見の発見ブログ,田中潤一,2007-2019)

2023年6月13日火曜日

AIとSF(1)

久々にジュンク堂書店で本を眺めていたら,ハヤカワ文庫JAで,日本SF作家クラブ編の「AIとSF」という短編集を見つけた。2023年5月25日発行なので,出来立てのほやほやだ。中をざっと見ると,22編のうち知っている作家は8人くらいだ。

最初の作品が長谷敏司(1974-)の「準備がいつまで経っても終らない件」だった。2025年4月13日から開催される大阪・関西万博がテーマなのだけれど,2022年11月末に登場したChatGPTをかなり精密に取り入れた短編に仕上げている。万博への批判的視点も確かでおもしろい。


写真:ハヤカワJA文庫「AIとSF」の書影を引用

2023年6月12日月曜日

IUGC

FeedlyでブログのRSSフィードを読んでいる。登録されているうちのひとつが,弦理論批判で有名なビーター・ウォイトNot Even Wrong だ。

そのタイトルが Zen Unviersity だった。えっ,なんで。ZEN大学というと,ドワンゴと日本財団がつくるというオンライン大学だ。ドワンゴはN高等学校で成功しているので,高等教育まで触手を伸ばしたようだ。

Not Even Wrong でなぜZEN大学をとりあげているかというと,ZEN大学にIUGC(宇宙際幾何学研究センター)が設立されるから。加藤文元さんが所長で,イヴァン・フェセンコを副所長にすえてIUTをテーマとした研究所というところに,ピーター・ウォイトがひっかかったからだ。彼は望月新一さんの宇宙際タイヒミュラー理論をさんざんディスってきた張本人だった。今回も皮肉交じりの嘲笑か。

ZEN大学のニュースはチラッと聞いただけだったが,ドワンゴなので無視していた。改めて,どんな人がスタッフになるのか確認してみた。教員予定者一覧。チェアマン鈴木寛・・・ぬぐぐ。副学長上山信一・・・こりゃあかんわ。東浩紀・・・げげげ(ゲンロンとタッグを組むらしい・・・orz),遠藤諭・・・へにょ,西郷甲矢人・・・おぅ,竹内薫・・・ほゎん,深津貴之・・・れれれ,松尾豊・・・はぁ。

玉石混交わけわかめ状態であった。

2023年6月11日日曜日

インターネットと教育フォーラム(2)

インターネットと教育フォーラム(1)からの続き

6/9-10に,OMMで開催されたNew Education Expo 2023(第28回)の最終セッションに参加してきた。

120人の会場は満員というわけではなかったが,懐かしい顔ぶれが集まった。大教大関係では卒業生の井野君,松本君,片桐先生(仲矢さん?),大阪では,重松先生,野村先生,十河先生,全国から,高橋校長,その息子さん,渡辺さん,中島さん,大倉さん,前田さん,足立さん,幸地さん,竹中さん,宮澤さん,デジタルシティズンシップ関係では,坂本さん,豊福さん,今度さん,林さん,登壇者は,芳賀さん,石原さん(オンライン),影戸さん,三輪さん,大久保さん(NEE副委員長)などなど。

芳賀さんの趣旨説明で始まって,→越桐→石原→影戸→三輪→大久保と続いて70分経過,後半のポイントは,歴史は繰り返えすのか?GIGAスクールはどうなるのか?だった。インターネットと教育の場合,1993年に始まり(千葉大学附属中),1997年がターニングポイント(環境整備から活用方法の追求)で,その後数年の高揚期のあとリバウンドで低迷期に入ったという歴史観にあてはめるとどうなるかという問題意識だった。

残り20分くらいで,あまり掘り下げることはできなかったが,大久保さんのGIGAやそれを取り巻く状況についての認識からくる力強い発言に圧倒された。まさに,選挙に行ってください,民主主義が重要ですということかもしれない。

大阪教育大もそうだが,多くの大学ではBYODになっているので,これをいかに下に拡大していくかという戦略が必要だと自分は思う。まあ,それより先に生成AIの波がやってくるのかもしれないが。


写真:O38セッション終了後の関係者記念写真(2023.6.10)

終了後,バスで内田洋行大阪支店の懇親会会場に移動した。懇親会終了後は皆さんと別れて,卒業生で,神戸親和大学教授の松本宗久先生と居酒屋で久しぶりにお話する。

2023年6月10日土曜日

Apple Vision Pro(1)

2023年6月5日のWWDC23で,Apple Vision Pro という最初の空間コンピュータのモデルが発表された。

事前には,アップルから待望のMRゴーグル(ただし非常に高額)が発表されると思っていたが,アップルの宣伝文句はそうではなかった。
(1) Mac (+マウス):パーソナルコンピューティングの登場
(2) iPhone(+マルチタッチ):モバイルコンピューティングの登場
(3) Vision (+指・声・視線):空間コンピューティングの登場
と位置づけられていた。ユーザインターフェイス的には (1.5) iPod (+クリックホイール)もあった。

3500ドル≒49万円なので,一般消費者向けにすぐ普及するというものではないけれど,企業やソフトウェア開発現場では十分導入可能なものだろう。単なるゴーグルと考えると,Meta Quest 3Pico 4の数倍以上だが,新しいコンピュータと考えれば一応納得できるかもしれない。

なにせ,CPUとしてM2チップを搭載し,これに,前方のメインカメラ2基,下側を見るカメラ4基,赤外線照射器が2基,サイドカメラが2基,ライダースキャナ,TrueDepthカメラ2基,マイク6個,内側には眼を囲むようにLED(アイトラッキング用に目に見えない光のパターンを照射)と赤外線カメラ2基,をコントロールするR1チップが加わるというものだ。虹彩認証が組み込まれ,他社のような操作のためのコントローラはない。

一番ビックリしたのは,Twitterでのうみゆき@AI研究さんの次の記事だった。
Vision Proはアイトラッキングと網膜状態の検出ができる。ハンドトラッキング、身体の揺れ方、声の調子とかも常にデータ収集し続けている。AppleWatchを付けてれば脈拍だって取得できる。AppleのAIモデルはこれらの人体データを総合的に判断して、ユーザが好奇心を感じてるか、怯えているか、そういう精神状態を予測する。

眼球を介在した脳コンピュータインターフェイス。あんな大きなものを頭・顔に付けるというのはどうしても納得できないのだけれども(今でも),もしかするとその先には脳波インターフェイスも視野に入ってくるかもしれない。それでもせいぜい,キャップ型空間コンピュータということで勘弁してほしい。


写真:Apple Vision Pro (バッテリで2時間駆動…orz)(Apple から引用)

追伸:年金生活者にはちょっと買えそうもないデバイスだけれども,新しい種族のコンピュータ & 初の3Dムービーカメラ & 初の3Dテレビ と考えるとどうだろうか。問題は,家族で共用できないこと。装着したまま外出するのはたぶん危険をともなうこと。

2023年6月9日金曜日

大学教育とChatGPT(8)

大学教育とChatGPT(7)からの続き

そろそろ150大学に到達しようとしている。大学の本来の機能から考えれば,ソーシャルメディアの利用ガイドラインよりも,生成系AIへの対応のほうが重要度は高いからかもしれない。非常勤先の大阪教育大学と同志社大学からもそろって具体的注意が発出されていた(同志社大学学長のお気持ちはもっと早かったけど)。

その後,目に付いた大学は次のようなところだ。
・甲南大学:公開後 pdf を不可視にしてしまった。wayback machineで見えたけど
・中央大学:さすが中央大というか留意事項の詳細な規程化を図ってしまった
・四国大学:ChatGPT-4のアカウント(約30)を配布,教職員+学生(教員推薦者)
・大東文化大学:生成系AIガイダンスでアカウントの取得方法まで説明
・長浜バイオ大学:学生への利用の奨励,試験じゃ使えないよねと ^_^;;;

なお,注意喚起が丁寧で分量が多い(10kB以上)の大学は次の通り。
1. 東京大学,2. 武蔵野美術大学,3. 中央大学,4. 東京大学(授業における利用)
5. 東洋大学(坂村健),6. 大阪公立大学(教員向け),7. 早稲田大学,8. 東京外国語大学

(注)奥村晴彦先生が同じようにデータをまとめたエクセル(生成系AIガイドライン)を公開していた。



図:大学における生成系AI注意喚起テキスト量のヒストグラム

5月26日
授業レポート等における生成系 AI への対応について
学習院女子大学 教務部長

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6月1日
生成系AIの利用に関する対応について
中部大学 学長 竹内芳美,教務部長 佐伯守彦

6月1日
ChatGPT等の生成系AIの利用に関する注意喚起
聖学院大学 学長 小池茂子,教務部長 若原幸範

6月1日
生成系AIの使用に関する留意事項について
大阪教育大学 副学長 廣木義久

6月1日
学習における生成AI(ChatGPT、Bard、BingAI等)の使用について
同志社大学 教務部長

6月1日
ChatGPT等の生成系AIの利用について
国学院大学 学長 針本正行

6月1日
授業におけるChatGPT等生成AIの利用方針について
松山大学 学長 新井英夫

6月2日
愛媛大学における生成AIの利活用に関する基本的考え方
愛媛大学 学長 仁科弘重

6月5日
鳥取大学における生成系AIの利用に関する基本方針と注意事項
鳥取大学長 中島廣光

6月6日
中央大学における「生成系AI」についての基本的な考え方
中央大学 学長 河合久
中央大学の教育課程における「生成系AI」利用上の留意事項について

6月6日
ChatGPT等の生成系AIの利用について
大阪産業大学

6月7日
生成AIの利活用について
信州大学理事(情報・DX担当)・副学長 不破泰

6月7日
生成系AI・翻訳AIの利用についての基本方針
公立はこだて未来大学長 鈴木恵二

2023年6月8日木曜日

会話行動に関する調査


シンセティック・メディアについて考えるための,人の情報環境について考えていた。情報通新メディアの利用時間のデータは見つかったので,対面コミュニケーションの時間のデータがないか探してみた。国立国語研究所日常会話コーパスプロジェクトの中に,「一日の会話行動に関する調査報告(2017)」が見つかった。

243人の調査対象に平日2日,休日1日のすべての会話を記録してもらった結果,1日平均の会話数 12.7回,会話時間長 6.2時間,1回の会話時間 29分という結果になった。会話時間の約6時間というのは,情報通信メディアの利用時間約6時間とほぼ同じであった。


図:一日の平均会話の特徴

会話相手の人数がN人の時,自分の発話割合は,1/(N+1)である仮定する。上記の相手人数の割合の加重平均をとれば,(38.3/2+17.9/3+12.5/4+6.6/5+4.3/6+3.2/7+1.9/8+1.5/9+1.1/10+12.7/20)%=32%となる。
したがって,一日の平均会話時間の1/3の2時間は自分が話し,残りの4時間は相手の話を聞いているということになる。

2023年6月7日水曜日

社会生活基本調査

情報通信メディアの利用時間からの続き

さらに,ブラウズしていたら,社会生活基本調査というものに行き着いた。
社会生活基本調査は,統計法に基づく基幹統計調査として,生活時間の配分や余暇時間における主な活動(学習・自己啓発・訓練,ボランティア活動,スポーツ,趣味・娯楽及び旅行・行楽)を調査し,国民の社会生活の実態を明らかにするための基礎資料を得ることを目的として5年ごとに実施しています。

というもので,直近は令和3年(2021年)版だ。詳細行動分類による生活時間に関する結果が昨年の12月に公表されている。ここにスマートフォン・パソコンの使用時間があった。使用者率が65%,平均使用時間(使用者についての)が4.29時間である。この調査は,10歳から75歳以上を対象としているため,情報通信メディアの利用時間(6時間)に比べれば,値が小さくなるのはしかたがない。14歳以下や65歳以上をのぞけば,使用者率78.9%,平均使用時間4.89時間程度にはなるので,6時間にはとどかないがまあ同じオーダにはなっている。

使用者率が78.9%というのは低すぎるような気がするのだけれど・・・。


図:令和3年度社会生活基本調査から