高校時代に読んだ小松左京の「神への長い道(1967年)」でもう一つ記憶に残った文がある。当時は,素粒子の標準理論が成立する前夜であり,小松左京の頭にあった素粒子といえば,光子,ニュートリノ,荷電レプトン,ハドロン(重粒子+中間子)であったはずだ。その段階で次のような文を書いている。
—物質の相互作用の間に,現在のような量子的関係が発生したのは,彼らにいわせれば,この宇宙に素粒子が生じてからだ,というんだ。われわれのいう,プランク恒数が,非常にマクロな時間の中では,かわってくると考えている—とにかく,その素粒子のスペクトルの中で,安定な素粒子がくみあわさって,原子が生じてくる。—きわめて巨大な量のエネルギーが,きわめて小さな空間に閉じ込められる,という現象が,ここでまた起こる。…彼らは,それが可能になる秘密は,秩序にあると考えている。ある秩序でもって,整理してつめこめば,非常に小さな時空容積内に,非常に巨大な量がつめこめる—この関係は,ずっと高次な情報段階までつづいているというのだ。 (引用:世界SF全集35 日本のSF(短編集)現代編 神への長い道 より)プランク定数をプランク恒数という表現にしているところに1960年代を感じるが,物理の基本法則の成立の中核が秩序=情報(今日の言葉での対応物)と関係しているという説明に何ともいえないセンスを感じる。
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