2021年11月16日火曜日

taknal

 NHKの夕方の定番,ニュースほっと関西を見ていたら,大阪ガスの人が開発したスマホ用アプリが紹介されていた。taknalというものだ。「ユーザー同士がすれ違うことで,お互いがオススメする本が交換されるアプリです」ということだが,SNS機能はあえてつけていない。

本屋がまだ健在だったころ,しかもその本屋に通うことができていたころは,新しい本との出会いは毎日のようにあった。今では,インターネットで検索できるとはいうものの,残念ながら,インターネットの検索では思いがけない出会いを得ることが難しい。あくまでも自分の関心空間の近傍でしか探索が進まない。

そこで,スマートフォンの位置情報と,ユーザーのおすすめ情報を掛け合わせて,偶然の出会いを演出したのがこのアプリである。ユーザの情報は100字以内の感想文しか交換されないので(もちろんソーシャルセキュリティホールは色々と作れるだろう),比較的安心して利用できそうだ。

が,残念ながらアプリのバク出しが不十分なのか,iPhone SE2(iOS 14.8)では,自分のおすすめ本を登録できなかった。また,自宅に閉じこもっていると,位置情報による発見の確率も低いままで止まってしまうのも仕方がない。


図:taknalアプリアイコンのイメージ(taknalホームページから引用)

P. S. なお,taknalという名称は「読みたくなる」からきている。やっぱり使えなかった

2021年11月15日月曜日

ピクミンブルーム

日本でテレビ放送が始まった 1953年の生まれなので,テレビ環境には十分適応している。ラジオはどうかというと,遅ればせながら高校生から大学生にかけて深夜放送を聞いて育った。もちろん小学生時代の貸本屋から始まって漫画雑誌も大丈夫。コンピュータが登場するのは大人になってからだったが,これもなんとかクリアできた。

ところが,残念ながら自分が適応できなかった種目がある。コンピュータゲームだ。そのはしりのアーケードゲームは1979年に大流行したスペースインベーダー。柳田さん夫妻が新婚旅行でハマったやつだ。喫茶店のようなところで何回か遊んだことはあるが,はまるにはほど遠かった。

やがて,1983年の任天堂ファミリーコンピュータを嚆矢に,次々と家庭用ゲーム機が登場する。残念ながら,結婚してそろそろ子供ができようかという頃であり,全く興味も関心もなかった。子供たちが成長する過程でも,ゲーム機の類を買い与える機会はなかった。1996年のたまごっちをのぞいては。自宅には,PC-9801があり,後にはMacBookなども使えたのだけれど,ポストペットで遊ぶ程度だった。

やがて,スマートフォンの時代になり,子供から強く勧められて,コロプラ(コロニーな生活☆プラス)を始めた。位置情報ゲームとよばれるジャンルのはしりだ。これは10年経った今も愛用している。その後,ギークの間で流行るイングレスを生み出したNIANTICが2016年にポケモンGOを産み出し,これは1〜2年楽しんだ。

この間,ジャンルとしてのアクションゲーム,ロールプレイングゲーム,シミュレーションゲーム,アドベンチャーゲーム,スポーツゲーム,レースゲーム,音楽ゲームなどは全くの未踏の地として残ってしまった。残念なことである。

PC-9801が登場したころに,ASCIIかOhPCに掲載されていたフライトシュミレータの機械語のプログラムを2ページびっしり必死で打ち込んだ。モノクロ線画で,5MHzの8086(128kBRAM)上で動作するコックピットがすぐクラッシュしていた時代から,はや40年になる。

さて,最近ピクミンブルーム(NIANTIC 任天堂)の宣伝に騙されて,これをiPhoneにインストールした。11月1日公開のところを11月6日にスタートしたので,珍しく早い対応だった。散歩の歩数がゲームのポイントに直結するスマートフォン向けARアプリなので,老人には相応しいものかもしれない。


写真:ピクミンブルームのスナップショット

2021年11月14日日曜日

ゆきだるさん

 「ゆきだるさん」で検索しても,その語源や出典が判然としない。ワンピースに「雪だるさん」が出てきているようだが,これなのか。自分が子供のころはなかったので,最近発明されたような気もする。

プログラミングの練習として,「ゆきだるさん」を描画するProcessingのコードが落ちていたので,写経してみた。

size(600, 600);
background(200, 200, 200);

strokeWeight(4);
stroke(60, 60, 60);
ellipse(300, 200, 150, 150);
ellipse(300, 380, 240, 240);
rect(-10, 480, 610, 480);

fill(0, 0, 0);
arc(270, 200, 20, 30, -0.6, 5);
arc(330, 200, 20, 30, -0.6, 5);

fill(255, 0, 0);
quad(280, 130, 370, 170, 390, 90, 320, 60);

strokeWeight(10);
stroke(144, 64, 36);
line(220, 330, 160, 240);
line(380, 330, 450, 240);


図:Processingによる「ゆきだるさん」

2021年11月13日土曜日

準衛星

準衛星とは,小惑星のうち,ある惑星を周回している衛星のように見えるもの。衛星と準衛星の区別は,惑星の重力圏にあるかどうかで判定され,ヒル圏の内側ならば衛星であり,外側ならば準衛星となる。

ヒル圏(ヒル半径)は,質量の大きな天体$M_1$と小さな天体$M_2$が,距離$r$で周回している時に,非常に軽い天体$m$が天体$M_2$からヒル半径$a (a \ll r)$の距離にあるとして,この$a$に対する条件から決まるものだ。

そのヒル半径 $a$ の位置にある小天体$m$には,天体$M_2$からの重力と,$M_2$に固定された$M_1$の周りの回転系における遠心力が$m$に加わるとして足したものが,天体$M_1$からの重力と釣り合うという条件から求める。

$\dfrac{G M_1 m}{(r-a)^2} = \dfrac{G M_2 m}{a^2}  + m (r-a) \omega^2 , \ \ \ \omega = \sqrt{\dfrac{G M_1}{r^3}}$

この式で,$\dfrac{1}{(r-a)^2} \simeq \dfrac{1}{r^2}(1+\dfrac{2 a}{r})$と近似すれば,$\dfrac{3 a^3}{r^3} = \dfrac{M_2}{M_1}$が得られ,ヒル半径は,$a=r \sqrt[3]{\dfrac{M_2}{3 M_1}}$と求まる。

大陽質量を $M_1=2 \times 10^{30} {\rm kg}$,地球質量を $M_2=6 \times 10^{24} {\rm kg}$,地球の公転軌道半径を $r = 1.5 \times 10^{11} {\rm m}$ とすると,ヒル半径は $a=1.5 \times 10^9 {\rm m}$となり,月の公転半径の約4倍になる。

地球の準衛星の1つ((469219) 2016 HO3)が月のかけらではないかというアリゾナ大学の論文のが今日のポイントだ。2024年の打ち上げが計画されている中国の小惑星探査機鄭和がサンプルリターンに成功すればこの問題を検証することができるかもしれない。


図:2016HO3 の軌道(NASAから引用)

2021年11月12日金曜日

神戸:西東三鬼

対面授業が始まってくれたおかげで,電車の中で読書する時間が戻ってきた。

西東三鬼(1900-1962)の神戸・続神戸を読了。これは,昔,NHKのドラマ人間模様で見た「冬の桃」(1977,脚本:早坂暁,演出:深町幸男,全7回)の原作である。早坂=深町コンビといえば,夢千代日記(1981)も新婚当時よく見ていたが,それと同じフレーバーの名作だった。

冬の桃は1977年の放送だったが,M2の頃に見ていたのではないかもしれない。とすると総合テレビで夜9:00に再放送された1990年だろうか。小林桂樹の渋い演技や,時々挟まる西東三鬼の俳句が,戦時中の神戸の怪しいホテル人々の様子と相まってとても印象的だった。

小説(著者はフィクションではないと書いている)の方も,小説より奇なりのエピソードが積み重ねられる。歯科医の著者が,弾圧によって俳句から距離を置いた,戦中戦後の生活模様が描かれる。

その後,1948年には山口誓子(1901-1994)を主宰とする雑誌「天狼」の編集にあたる。名前は耳にしたことがある雑誌だが,創刊時は奈良県丹波市町(現天理市)の養徳社から出版されている。西東三鬼が編集に携わっていた頃は先鋭的だったのが,後に微温的な雑誌になってしまったとのこと。

養徳社は,天理時報社の出版部門が1944年に株式会社として独立したもので,現在は,天理教関係の一般雑誌などを出版している(天理時報社=印刷会社には,個人の名刺を印刷してもらったことがある)。天理教の出版物といえば,天理道友社だが,こちらは宗教法人格を持っている。


写真:西東三鬼(津山市西東三鬼賞のページより引用)

[1]第三俳句集 今日(西東三鬼,青空文庫)
[2]西東三鬼賞(津山市)

2021年11月11日木曜日

接種済証ケース

 天理市から新型コロナウイルスワクチンの接種済証ケースを送ってきた。色々と気がつく市長さんである。もちろん,本来ならば接種済証明アプリがあれば良いのだけれど,COCOAで懲りたのか,新たな利権構造ができていないのか。地域独自のものはあるようだが全国版がない模様で,厚生労働省もやる気なし。

調べてみると,民間ベースのワクパスというのがある。いいのだけれど,これが乱立したら真正性をどうやって保証するのだろうか?ちょっと試してみると,登録がうまく進行しない。アイコンのデザインもイマイチなのでもう少し様子を見たほうがいい。


写真:天理市の接種済証ケース(2021.11.11撮影)

2021年11月10日水曜日

忌日

 11月10日は特異日だ。母と祖母二人(父の義母と実母)の命日が重なっている。したがって,我が家の女性陣は,特に注意して過ごさなければならない日になっている。

朝の散歩で,らじるらじるから今日は何の日というのが流れてくる。それによると,11月10日は,2009年に森繁久彌,2012年に森光子,2014年に高倉健が亡くなった日らしい。まあ,それはどうでもいいのだけれど・・・


2021年11月9日火曜日

フェルミ分布

 $N$個の粒子系の全エネルギーを$E$とする。$i$番目の箱には,$g_i$個の 区別できない状態 があり,1粒子エネルギー$u_i$を持つ$n_i$個の粒子がこれらの状態に配置されている。ただし,$i=(1,...,M)$とする。各粒子は区別できず,$g_i$個の状態には 1個まで入ることができる。Maxwell=Boltzmann分布の場合と同様の式で,このエネルギー分配の場合の数の対数$\log W$の極値問題を考えればよい。

粒子の区別がないので,その個数だけに着目しなければならない。$i$番目の箱に,$g_i$通りの状態があって,$n_i$個の粒子を配置する場合の数$W_i$を考える。

$n_i$個の粒子とスリットをセットにしたものと,残りの$g_i-n_i$個の状態のスリットを混ぜて並べ,区別できない同種のパターンの数で割ることにすると,$W_i=C_{n_i}^{n_i+g_i-1}=\frac{g_i!}{n_i! (g_i-n_i)!}$とすればよい。

スターリングの公式を適用すると,$\log W = \sum_{i=1}^M \log W_i = \sum_{i=1}^M (g_i\log g_i-g_i -n_i \log n_i +n_i -(g_i-n_i) \log (g_i-n_i) +g_i -n_i)$。これから,$\delta \log W = (\log(g_i-n_i) -\log n_i ) dn_i$となる。

また,粒子数とエネルギーの制約条件をラグランジュ未定乗数法で取り込めば,

$\delta \{ \log W +\alpha (N-\sum_{i=1}^M n_i) + \beta (E - \sum_{i=1}^M u_i n_i) \} = 0$より,$\sum_{i=1}^M(\log(g_i-n_i)-\log n_i -\alpha -\beta u_i)dn_i = 0$。したがって,$\log(g_i-n_i)-\log n_i -\alpha -\beta u_i = 0$

より,$\frac{g_i-n_i}{n_i}=e^{\alpha + \beta u_i}$であり,状態の占有率は$f_i=\dfrac{n_i}{g_i}= \dfrac{1}{e^{\alpha + \beta u_i}+1} = \dfrac{1}{e^{\frac{u_i-\mu}{k_B T}}+1}$となる。

2021年11月8日月曜日

伝書鳩

 日曜日の朝,ベランダにハトがいた。ヒヨドリやその仲間はときどきやってきて手すりに留まっているが,人の気配がするとすぐに逃げてしまう。家の近所はスズメやカラスだけでなく,セキレイやツグミ,池や田んぼにシロサギ,アオサギ,カモなどをたくさん見かける環境だ。

マンションには時々厄介なカワラバト(ドバト)が増える年があって,捕獲駆除サービスをお願いすることもある。ところが,このハトは逃げないのである。よく見ると赤と白の脚輪が左右にあり,何やら文字や数字が書かれている。近寄って写真を撮っても平気で餌になる金木犀の花びらをついばんでいた。

調べてみると,伝書鳩(レース鳩)のようだ。日本伝書鳩協会日本鳩レース協会があって,それぞれ固有の番号をつけている。家に来たハトはどうやら伝書鳩協会山口県周南支部の所属らしい。白い脚輪には連絡先が書いてあるのだけれど,汚れが固着している上にハトが逃げるので読み取れない。

伝書鳩協会のページには,迷い鳩の対処方法が書いてあった。どうしましょうどうしましょうと困っているうちに,夕方にはどこかに行ってしまったので,めでたしめでたしとなった。

月曜日の朝,ベランダにハトが帰ってきた。流石に居付かれると困るので,東京の伝書鳩協会本部に電話してみた。どうやらハトを捕獲してその番号を確認しないことには次の手順に進めないらしい。ハトは賢いし素早いので,カメのような爺さんには簡単に捕まらないのである。

何度も失敗を重ねた末に,ベランダに落ちている草の実などを食べているところを背後から掴むことに成功した。早速,脚輪の番号を確認してもらうと,山口県の飼い主の電話番号が判明したので連絡してみた。滋賀県琵琶湖畔からのレースで迷ったものらしい。調べてみると今年の春にも坂本発の400kmレースがあった。平均分速300mで,20-21時間かけて400km離れた自宅まで帰るものらしく,36羽放って2羽しか帰還していない。おいおい。

どうやら京都の支部(都クラブ)の人が取りに来てくれるらしいが,それまで米粒でもやっといてくださいとのリクエストだった。

P. S. 道に迷ったとかで,夜7時過ぎに取りに来られた。協会の規約ということで,お礼をいただく。やはり長距離のレースでは多くのハトが戻ってこないようで,こういうのはレアケースとのこと。山口県までは郵便局のハト専用パッケージで返送されるらしい。


写真:日曜日のハト(赤が協会脚輪,白が個人脚輪)

2021年11月7日日曜日

ボース分布

ボルツマン分布からの続き 

$N$個の粒子系の全エネルギーを$E$とする。$i$番目の箱には,$g_i$個の区別できない状態があり,1粒子エネルギー$u_i$を持つ$n_i$個の粒子がこれらの状態に配置されている。ただし,$i=(1,...,M)$とする。各粒子は区別できず,$g_i$個の状態には何個でも入ることができる。Maxwell=Boltzmann分布の場合と同様の式で,このエネルギー分配の場合の数の対数$\log W$の極値問題を考えればよい。

粒子の区別がないので,その個数だけに着目しなければならない。$i$番目の箱に,$g_i$通りの状態があって,$n_i$個の粒子を配置する場合の数$W_i$を考える。

$g_i-1$個の状態のスリットと$n_i$個の粒子を混ぜて並べ,区別できない同種のパターンの数で割ることにすると,$W_i=C_{n_i}^{n_i+g_i-1}=\frac{(n_i+g_i-1)!}{n_i! (g_i-1)!}$とすればよい。

スターリングの公式を適用すると,$\log W = \sum_{i=1}^M \log W_i = \sum_{i=1}^M ((n_i+g_i)\log (n_i+g_i)-(n_i+g_i) -n_i \log n_i +n_i -g_i \log g_i +g_i)$。これから,$\delta \log W = (\log(n_i+g_i) -\log n_i ) dn_i$となる。\\

また,粒子数とエネルギーの制約条件をラグランジュ未定乗数法で取り込めば,

$\delta \{ \log W +\alpha (N-\sum_{i=1}^M n_i) + \beta (E - \sum_{i=1}^M u_i n_i) \} = 0$より,$\sum_{i=1}^M(\log(n_i+g_i)-\log n_i -\alpha -\beta u_i)dn_i = 0$。したがって,$\log(n_i+g_i)-\log n_i -\alpha -\beta u_i = 0$

より,$\frac{n_i+g_i}{n_i}=e^{\alpha + \beta u_i}$であり,状態の占有率は$f_i=\dfrac{n_i}{g_i}= \dfrac{1}{e^{\alpha + \beta u_i}-1} = \dfrac{1}{e^{\frac{u_i-\mu}{k_B T}}-1}$となる。

2021年11月6日土曜日

白骨の御文

本願寺第八代の 蓮如上人(1415-1499)が,布教のために教義を手紙の形で書いたものが御文(御文章)である。小学校6年の修学旅行は東尋坊へのバス旅行だった。その途中で蓮如の北陸布教の中心地であった吉崎御坊に立ち寄っている。金沢も浄土真宗(一向宗)の重要な活動地域の一つだったので,蓮如に関わる事跡には事欠かない。

さて,法事では,終盤に御文の中でも有名な白骨の御文を読み上げられることが多い。なんだかよくわからないお経(阿弥陀経,無量寿経,観無量寿経)や正信偈の後にこれが来ると,何回も耳にしているうちになんとなく意味というか雰囲気がわかってくる。

真宗大谷派では,以下のような文節の区切りの最後の一字を下げて読み上げることになっていた(浄土真宗本願寺派の御文章のyoutubeを見るとやはりちょっと違うようだ)。

夫(それ),人間の浮生(ふしょう)なる相をつらつら観ずるに↓,おほよそ,はかなきものはこの世の始中終(しちゅうじゅう)↓,まぼろしのごとくなる一期(いちご)なり↓。

さればいまだ萬歳(まんざい)の人身(にんじん)ノうけたりとゆう事をきかず↓。一生すぎやすし↓。いまにいたツてたれか百年の形躰(ぎょうたい)をたもつべきや↓。我やさき人やさき↓,きょうともしらずあすともしらず↓,おくれさきだつ人は↓,もとのしずく,すえの露よりもしげしといえり↓。

されば朝(あした)には紅顔あツて↓夕(ゆうべ)には白骨となれる身なり↓。すでに,無常の風きたりぬれば↓,すなわちふたつのまなこたちまちにとじ↓,ひとつのいきながくたえぬれば↓,紅顔むなしく変じて↓,桃李(とうり)のよそおいをうしないぬるときは↓,六親眷属(ろくしんけんぞく)あつまツてなげきかなしめども↓,更にその甲斐あるべからず↓。

さてしもあるべき事ならねばとて↓,野外(やがい)に送ツて夜半(よわ)のけむりとなしはてぬれば↓,ただ白骨のみぞのこれり↓。あわれといふも中々おろかなり↓。されば,人間のはかなき事は↓,老少不定(ろうしょうふじょう)のさかいなれば↓,たれの人も早く後生(ごしょう)の一大事を心にかけて↓,阿弥陀佛トふかくたのみまいらせて↓,念彿もうすべきーものなり。 あなかしこ,あなかしこ。

2021年11月5日金曜日

ボルツマン分布

図:ボルツマン分布のイメージ

$N$個の粒子系の全エネルギーを$E$とする。$i$番目の箱には,$g_i$個の区別できる状態があり,1粒子エネルギー$u_i$を持つ$n_i$個の粒子がこれらの状態に配置されている。ただし,$i=(1,...,M)$とする。各粒子は区別できるとして,$g_i$個の状態には粒子がいくつでも入ることができる。このエネルギー分配の場合の数$W$($W$自身は非常に大きな数なので,その対数$\log W$で考える)が最大になるのはどのような粒子配置$\{ n_i / g_i \}$のときかという問題を考える。この条件を式で表すと,

$\displaystyle \delta \log W = \sum_{i=1}^M \frac{\partial \log W}{\partial n_i} \delta n_i = 0, \ \  \sum_{i=1}^M n_i = N\  (\sum_{i=1}^M \delta n_i = 0), \ \  \sum_{i=1}^M u_i n_i=E\ (\sum_{i=1}^M u_i \delta n_i = 0)$

1番目の箱に$N$個の粒子から取り出した$n_1$個の粒子を入れて,$g_1$個の状態に配置する場合の数は,$W_1=C_{n_1}^N g_1^{n_1}$である。続いて,2番目の箱に残りの$N-n_1$個の粒子から取り出した$n_2$個の粒子を入れて,$g_2$個の状態に配置する場合の数は,$W_2=C_{n_2}^{N-n_1} g_2^{n_2}$となる。従って,$i$番目の箱$g_i$に$n_i$個の粒子を入れて配置する場合の数は,$W_i=C_{n_i}^{N-\sum_{k=1}^{i-1}n_k} g_i^{n_i}$となる。これを続けると,最終的な場合の数は,各箱の場合の数$W_i$の積で,$W=\prod_{i=1}^M W_i = \dfrac{N!g_1^{n_1} g_2^{n_2} \cdots g_M^{n_M}}{n_1! n_2! \cdots n_M!}$となる。

自然数$n$の階乗$n!$の対数$\log n!$についてのスターリングの公式は,$n!=n \log n -n \ (n \gg 1)$であるから,これを用いて $\log W$を表すと,$\log W = N \log N - N +\sum_{i=1}^M (n_i \log g_i - n_i \log n_i - n_i )$。そこで,$\delta \log n_i = \frac{1}{n_i} \delta n_i$を用いると,$\delta \log W = \sum_{i=1}^M (\log g_i - \log n_i)\ \delta n_i$となる。

ところで,$n_i$は独立ではなくて制約条件がついている。これを簡単に処理するためにラグランジュの未定乗数法を用いれば,$n_i$を独立変数のように扱うことができる。$\alpha$と$\beta$を,それぞれ粒子数一定,エネルギー一定の制約条件に対応する2つの未定乗数として,

$\delta \{ \log W + \alpha (N-\sum_{i=1}^M n_i) + \beta (E-\sum_{i=1}^M u_i n_i) \}=0$, $\sum_{i=1}^M (\log g_i -\log n_i - \alpha - \beta u_i) \delta n_i = 0$。$\delta n_i$は独立にとってよいので,$\log g_i-\log n_i - \alpha - \beta u_i=0$であり,$n_i = g_i e^{-\alpha} e^{-\beta u_i}$となる。

ここで,状態の占有率$f_i$は,$f_i=\frac{n_i}{g_i}=\frac{1}{e^{\alpha + \beta u_i}}$となる。この$\alpha,\ \beta$は,統計力学的なエントロピーと熱力学的なエントロピーの関係式から定まる。すなわち,$S=k_B \log W, dS = k_B\ d\log W = k_B \sum_{i=1}^M \log \frac{g_i}{n_i} d n_i = k_B  \sum_{i=1}^M (\alpha + \beta u_i) d n_i$

$\therefore dS= k_B (\alpha dN + \beta dU) = -\mu \frac{dN}{T} + \frac{dU}{T}$から,$\alpha = -\frac{\mu}{k_B T},\ \beta = \frac{1}{k_B T}$であり,$f_i = e^{-\frac{u_i - \mu}{k_B T}}$となる。

2021年11月4日木曜日

TikZの反復と分岐

数理的なモデルと関連した 図を書くのにPowerPointはちょっと使いにくい。MathematicaJuliaでも表現力の自由度が足りない。そこで,PGF/TikZの登場となる。その機能を十分に生かそうとすると,TikZ環境でのプログラミングが必要であり,変数の処理や反復・分岐などが求められる。

PGF/TikZについては,Tantauの1300pを超えるマニュアルがあるのだけれど,これがまた詳しすぎて読みにくい。そんなわけで,日本語の適当な解説書を探すのだけれどこれがまたないのだった。そんなわけで,ボルツマン分布の概念図を作図しようとしていきなりつまづいた。

反復の方は\foreachを使うというところまではいいのだが,これに条件分岐を入れるとなんだかやヤコしい。しかも,堪え性のない老人は,最近の大学生のように真面目に調べずにネット情報を漁ってつまみ食いしようとするものだから,訳がわからない状態になるのであった。

小学生からのプログラミング教育は,いっそのことLaTeX+PGF/TikZにしたらいいのではないかとしみじみ思う今日この頃です。Pictogrammingと合体できないものか。まあグダグダ言いながらなんとか,解決方法の1つが見つかった。

/begin{tikzpicture}
\draw[step=2, dotted] (0,0) grid (13,2);
\foreach \x [count=\i]in {1,3,...,13}
{
\draw (\x,-0.5) node{\$(n_\i,u_\i)\$};
\foreach \y in {1,...,8}
\pgfmathsetmacro{\col}{ifthenelse(rnd*8 > \y,"white",ifthenelse(rnd*8 <\y,"gray","white"))}
\draw[fill,\col] (\x+rnd*1.6-0.8, rnd*1.6+0.2) circle(0.05);
}
\end{tikzpicture}

少し違うタイプの問題が出ても対応できる自信はまったくない,勉強不足なのであった。


図:TikZの例,\foreachとifthenelseとrndを組み合わせたもの


2021年11月3日水曜日

平均自由行程(3)

平均自由行程(2)からの続き

2種類の気体分子A(密度$\rho_{\rm A}$,質量  $m_{\rm A}$,速度 $\bm{v}_{\rm A}$)と気体分子B(密度$\rho_{\rm B}$,質量$m_{\rm B}$,速度 $\bm{v}_{\rm B}$)からなる温度$T$の気体中の分子の平均自由行程を考える。両分子の衝突断面積を$\sigma_{\rm AB}$とし,それぞれはマクスウエル分布$F_{\rm A}(\bm{v}_{\rm A}),\  F_{\rm B}(\bm{v}_{\rm B}) $に従って運動しているとする。

つまり,単位体積中で,速度$\bm{v}_{\rm K} \sim \bm{v}_{\rm K}+d\bm{v}_{\rm K}$にある${\rm K}$種の分子の数は,$dn_{\bm K}= \rho_{\rm K} F(\bm{v}_{\rm K}) d\bm{v}_{\rm K} = \rho_{\rm K} \Bigl( \frac{m_{\rm K}}{2\pi k_B T} \Bigr)^{3/2} \exp (-\frac{m_{\rm K} \bm{v}_{\rm K}^2}{2 k_B T}) d\bm{v}_{\rm K} $となる。

そこで,上記の速度空間にある分子の衝突回数は,相対速度を$\bm{u}=\bm{v}_{\rm A}-\bm{v}_{\rm B}$として,$dZ_{\rm AB} = \sigma_{\rm AB} |\bm{u}| dn_{\bm A} dn_{\bm B}$となる。そこで,単位体積,単位時間当たりの全衝突回数は,$Z_{\rm AB} = \int d n_{\rm A}  \int d n_{\rm B}  \ \sigma_{\rm AB} |\bm{u}| $となる。

次に,衝突する各分子の速度$\bm{v}_{\rm A},\ \bm{v}_{\rm B}$を相対速度$\bm{u}$と重心速度$\bm{V}$で表す。重心速度は,$\bm{V}=\frac{m_{\rm A} \bm{v}_{\rm A}+ m_{\rm B} \bm{v}_{\rm B}}{m_{\rm A}+m_{\rm B}}= \frac{m_{\rm A} \bm{v}_{\rm A}+ m_{\rm B} \bm{v}_{\rm B}}{M}$であり,$\bm{v}_{\rm A}=\bm{V}+\frac{m_{\rm B}}{M}\bm{u},\ \bm{v}_{\rm B}=\bm{V}-\frac{m_{\rm A}}{M}\bm{u}$となる。ただし衝突する2分子の全質量は,$M=m_{\rm A}+m_{\rm B}$であり,換算質量 を$\mu = \frac{m_{\rm A} m_{\rm B}}{M}$とする。

このとき,速度空間での積分は,$\int d \bm{v}_{\rm A} \int d \bm{v}_{\rm B} = \int d \bm{V} \int d \bm{u}$であり,衝突する2分子の運動エネルギーの和も重心運動と相対運動に分離される,$\frac{1}{2}(m_{\rm A}\bm{v}_{\rm A}^2 + m_{\rm B}\bm{v}_{\rm B}^2) = \frac{1}{2}( M\bm{V}^2 + \mu \bm{u}^2)$

そこで,単位体積・単位時間当たりの2種の分子の全衝突回数を,重心・相対座標で表すと,$z_{\rm AB} = \rho_{\rm A} \rho_{\rm B} \sigma_{\rm AB} \Bigl( \frac{m_{\rm A}}{2\pi k_B T} \cdot \frac{m_{\rm B}}{2\pi k_B T} \Bigr)^{3/2} \int d\bm{V} \int d\bm{u}  |\bm{u}| \exp (-\frac{M \bm{V}^2}{2 k_B T}) \exp (-\frac{\mu \bm{u}^2}{2 k_B T})  \\ = \rho_{\rm A} \rho_{\rm B} \sigma_{\rm AB} \Bigl( \frac{M}{2\pi k_B T}  \Bigr)^{3/2}  \int  d\bm{V} \exp (-\frac{\mu \bm{V}^2}{2 k_B T}) \cdot \Bigl( \frac{\mu}{2\pi k_B T}  \Bigr)^{3/2}  \int d\bm{u}  |\bm{u}|  \exp (-\frac{\mu \bm{u}^2}{2 k_B T})$ となる。

$\therefore z_{\rm AB} = \rho_{\rm A} \rho_{\rm B} \sigma_{\rm AB} \Bigl( \frac{\mu}{2\pi k_B T}  \Bigr)^{3/2} 4\pi \int_0^\infty u^3 \exp (-\frac{\mu \bm{u}^2}{2 k_B T}) du = \rho_{\rm A} \rho_{\rm B} \sigma_{\rm AB} \sqrt{\frac{8 k_B T}{\mu \pi}} $

そこで,ある1つのA分子がB分子と単位時間に衝突する回数は,$z_{\rm A(\rm B)}=n_{\rm B} \sigma_{AB} \sqrt{\dfrac{8 k_B T}{\pi \mu}}$

また,A分子=B分子として,ある1つのA分子が他のA分子と単位時間に衝突する回数は,換算質量が $\mu = m_{\rm A}/2$となって,$z_{\rm A}= \rho_{\rm A} \sigma_{AA} \sqrt{\dfrac{16 k_B T}{\pi m_{\rm A}}} = \rho_{\rm A} \sigma_{AA} \sqrt{2} \Bigl( \dfrac{2}{\sqrt{\pi}} \sqrt{\dfrac{2 k_B T}{m_{\rm A}}} \Bigr) = \rho_{\rm A} \sigma_{AA} \sqrt{2} \langle v_{\rm A} \rangle$

したがって,平均自由行程は$\lambda=\dfrac{\langle v_{\rm A} \rangle}{z_A} = \dfrac{1}{\sqrt{2} \rho_{\rm A} \sigma_{\rm AA}}$となり,$\sqrt{2}$が現れる。


2021年11月2日火曜日

錦秋文楽公演2021(2)

 錦秋文楽公演2021(1)からの続き

久しぶりに1日3部通して観劇の日(11:00-20:00)。10月31日が初日で,2日目の月曜日は平日なのでお客さんは少ない。二,三割くらいの入りだろうか。それにしては座席の割り振りがよろしくなく疎密のアンバランスが気になる。ウェブ上の予約システムを改修するだけの予算がないのだろう。

定年後は以前のように国立文楽劇場の定期公演をぜんぶ見るということは無くなったが,コロナのせいでさらに足が遠のいていた。今回は,まだ見ていない段のある蘆屋道満大内鑑ひらかな盛衰記の組み合わせが良かったので,早速予約したのだ。しかし,三分の一くらいは夢うつつだった。

第一部:「葛の葉子別れの段」の咲寿太夫は高音の発声で言葉もはっきりしていて聞きやすい。奥の竹澤宗助の三味線は丁寧な音がすごいなあ,安心して聞いていられる。道行の「蘭菊の乱れの段」は,狐の葛の葉が踊っているのだけれど,もう一つピンとこないのであった。これもできれば通しに近い構成で見たい。

第二部:ひらかな盛衰記の「逆櫓の段」は何度か見ているけれど,「大津宿屋の段」と「笹引きの段」から「松右衛門内の段」とつながることで,ようやく物語の意味とイメージがわかってきた。子どもの取り違えが起因する話だったのね。靖太夫は残念ながら声が出ていなかった。あるいはそうでなかったのかもしれないけれど,そのころは既にこちらが夢の中だった。一方,呂太夫は今日はよく声が出ていたし,清介の力強いバチ捌きとあいまって,感情表現がなかなか良かった。なお,睦太夫と清志郎も頑張っていたのではないでしょうか。

第三部:「辻法院の段」のようなチャリ場が藤太夫には似合う。さて,「神崎揚屋の段」は今回が初めてだった。千歳太夫と富助という安定したペアのおかげで,勘十郎の梅ヶ枝が苦悩するストーリーに没入することができたけれど,これは大変良かったですね。梶原源太の困ったちゃんの男性像との対比も今風で面白いし。そういえば,「神崎揚屋の段」は橋本治プロデュースの竹本駒之助のDVDを持っていたのだった。


写真:国立文楽劇場錦秋文楽公演2021のポスター



2021年11月1日月曜日

錦秋文楽公演2021(1)

   寝る前のNHK開票速報では,自民党過半数割れか?だったはずなのに,朝起きて11月になると,自民党安定多数,維新4倍に,立憲共産惨敗ということだった。野党共闘は1:1の選挙区では確かに効果を発揮したが,1:1:1の場合はそうではなかった。

維新的なムードは洗脳TVが支配する大阪や関西エリアだけではなく,全国にジワリと浸透している。おまけに国民民主と維新の合同会派話が持ち上がり,こうなると改憲勢力は自民261+公明32+維新41+国民11=345であり,楽々と2/3=315を超えているのだった(もちろん国民民主がなくてもだけれど)。こうなると,立憲民主からぼろぼろと崩れ落ちる層が出てくる。維新のような右翼ポピュリズムに対抗するには,れいわのような左翼ポピュリズムを持ってくるしかないのかも。

制度疲労による日本の没落を埋めるのが,一億総非正規化や,公共資産・サービスの民間・外資への切り売り,これが,改憲後に力をさらに増す差別的な右翼イデオロギーと戦争準備経済に支えながら進行するという目も当てらない状況が出現しそうだ。戦後蓄積してきた経済・文化資産はあっという間に消尽されていく。

金木犀香る晩秋の晴れの日,気落ちしながら,久々に維新政権の下でまだかろうじて開かれている文楽公演へと向かうのだった。街は賑わっており,横断歩道は剥げていなかったがペイントされた幅は狭くなっていたかもしれない。

2021年10月31日日曜日

平均自由行程(2)

 平均自由行程(1)からの続き

クラウジウスは,衝突する気体分子の速度は一定だが,相対速度の方向は一様に分布しているとして,平均自由行程の式を導いている。正確にはその速度分布まで含めた考察が必要になるが,とりあえず方向についての平均を考える。

平均自由行程は,分子の相対速度の大きさ$\langle u \rangle$を単位時間当たりの衝突回数$z$で割ったものであるが,相対速度($\bm{u}=\bm{v}-\bm{v}'$)の大きさの向きによる平均値は次のようになる。

$\langle u \rangle = \dfrac{2\pi \int_0^\pi \sqrt{v^2 + {v'}^2 - 2 v v' \cos \theta }\ sin\theta d\theta}{2\pi \int_0^\pi sin\theta d\theta} = \frac{1}{2} \int_{-1}^1 \sqrt{v^2 + {v'}^2 - 2 v v' t} \ dt $

$\therefore \langle u \rangle = \frac{1}{2} \frac{2}{3} \dfrac{1}{-2 v v'} \Bigl | (v^2+{v'}^2 -2 v v' t)^{3/2} \Bigr |_{-1}^1 = \dfrac{1}{6 v v'} \Bigl\{ |v+v'|^3 - |v-v'|^3 \Bigr\}$

ここで$v=v'$とすれば, $\langle u \rangle = \dfrac{4}{3} v $となり,クラウジウスの平均自由行程は,$\lambda = \dfrac{1}{\frac{4}{3} \rho \sigma }$


2021年10月30日土曜日

マクスウェル分布

平均自由行程の計算にはやはり気体分子速度のマクスウェル分布が必要かもしれない。これは,気体分子運動論でもボルツマン統計正準集団)の一般論からも求められる。ここでは前者についてまとめる。

ある領域内のN個の気体分子が速度 $\bm{v} \sim \bm{v} + d\bm{v}$にある確率を$P(\bm{v})$とし,それが速度分布関数$F(\bm{v})$によって,$P(\bm{v}) = F(\bm{v}) d\bm{v}$ で与えられるとする。このとき,$\int P(\bm{v}) d\bm{v} = 1$であり,物理量 $Q(\bm{v})$の期待値は,$\langle Q \rangle = \int  Q(\bm{v}) P(\bm{v}) d\bm{v} $となる。

ここで,速度の独立性と等方性を仮定すると,$F(\bm{v}) = f(v_x) f(v_y) f(v_z) = F(v^2)$ となる。すなわち,各成分の速度分布関数は共通の関数形の$f(v_i)$で与えられるとともに,$F(\bm{v})$は,速度ベクトルの二乗 $v^2=v_x^2+v_y^2+v_z^2$の関数となる。

先の式の両辺を$v_x$で微分すると,$F'(v^2) 2v_x = f'(v_x) f(v_y) f(v_z) = \dfrac{f'(v_x) }{f(v_x)} F(v^2)$となる。したがって,$\dfrac{F'(v^2) }{F(v^2)} = \dfrac{f'(v_x) }{2 v_x f(v_x)}=-\alpha$となる。最初の等式の両辺は異なった変数の関数なので,その値は定数でなければならず,それを$-\alpha$とおいた。

この微分方程式を解くと,$F(v^2)=A e^{-\alpha v^2},f(v_x)=A_x e^{-\alpha v_x^2}$となる。規格化のための積分をすると,$4\pi \int_0^\infty A e^{-\alpha v^2} v^2 dv = A\bigl( \dfrac{\pi}{\alpha}\bigr) ^{3/2} =1$となるので,$A=\bigl( \dfrac{\alpha}{\pi} \bigr) ^{3/2}$。したがって,$P(\bm{v}) = \bigl( \dfrac{\alpha}{\pi} \bigr) ^{3/2} e^{-\alpha v^2}$

気体分子の運動エネルギーの平均値が,$\int \dfrac{m v^2}{2} P(\bm{v}) d\bm{v} = \frac{3}{2}k_B T$となることから,$\dfrac{m}{2}\bigl( \dfrac{\alpha}{\pi} \bigr) ^{3/2}\dfrac{3}{2\alpha}\bigl( \dfrac{\pi}{\alpha} \bigr) ^{3/2} = \dfrac{3}{2}k_B T$。したがって,$\alpha = \dfrac{m}{2 k_B T}$であり,$F(v^2) = \Bigl( \dfrac{m}{2\pi k_B T} \Bigr) ^{3/2}  e^{-\frac{m v^2}{2 k_B T}} $

25℃1気圧の窒素気体の平均速度は$\langle v \rangle =\sqrt{\frac{8 k_B T}{\pi m}}= 475 {\rm m/s}$,平均自由行程は$9.3 \times 10^{-8} {\rm m}$である。

図:マクスウェル分布の概形


2021年10月29日金曜日

立体角

 平均自由行程を考えるために色々試行錯誤していたら,立体角の計算が必要になった。球の外側にある点から球を見込む立体角である。図のように,半径$a$の球の中心${\rm Q}$から,$\overline{\rm PQ}=\ell (>a)$の距離に点${\rm P}$をとる。

${\rm P}$から球を見込んだ時の球との接円が$x-y$平面にできるとする。接円と$y$軸の交点を${\rm A, B}$とすると,$\overline{\rm PA} = \overline{\rm PB} = \sqrt{\ell^2-a^2}$となる。

立体角$\Omega$は次の積分で与えられる。$\Omega = \int_0^{2\pi} \int_{\pi/2}^{\pi/2+\alpha} \sin\theta d\theta d\phi = 2\pi [-\cos \theta]_{\pi/2}^{\pi/2 + \alpha} = 2\pi \sin \alpha$ 。ただし,$ \alpha = \angle {\rm QPA}$であり,$\sin \alpha = \frac{a}{\ell}$。


図:球を見込む立体角

2021年10月28日木曜日

平均自由行程(1)

ラジオメーター(2)からの続き

平均自由行程の式は,$\lambda=\dfrac{1}{\sqrt{2} \rho \sigma}$とした,$\rho$は気体分子密度,$\sigma$は気体分子の衝突断面積である。で,$\sqrt{2}$がどこから出てきたのかは,簡単そうな難しそうな話だった。

固定された分子群に平均速度$v$の粒子が進んでいるとき,単位時間当たり,長さ直径$d$の円筒内の分子とは衝突することができる。静止している気体分子密度が$\rho$なので,単位時間当たりの衝突回数は,$n=\rho \pi d^2 v$である。そこで一回当たりに進む距離は,$\dfrac{v}{n}=\dfrac{1}{\rho \pi d^2} = \dfrac{1}{\rho \sigma}$となる。ただし,衝突断面積は $\sigma = \pi d^2$である。

簡単そうな話では次のようになっている。全ての粒子が動いている場合,衝突する2分子の速度ベクトルを$\bm{v}$と$\bm{v}'$とすると,相対速度ベクトルは,$\bm{u}=\bm{v}-\bm{v}'$となり,$u=|\bm{u}|$の平均値を先ほどの$v$に当てはめる必要がある。そこで,$\overline{\bm{u}^2}=\overline{\bm{v}^2}-2\overline{\bm{v}\cdot\bm{v}'}+\overline{\bm{v}'^2}$より,$u^2=v^2+v^2$となる。先ほどの$v$は$u=\sqrt{2} v$に置き換えられるから,$\sqrt{2}$があらわれる。ただし,速度ベクトルの相対的な向きはランダムであるとして,$\overline{\bm{v}\cdot\bm{v}'}$=0を用いた。

実のところはもう少し複雑な計算が必要らしいが,その前提として気体分子速度のマクスウェル・ボルツマン分布が必要なのかどうか。混合気体のマクスウェル・ボルツマン分布はどうなるかなど疑問が続く。

[1]衝突頻度と平均自由行程(山崎勝義)