2022年9月8日木曜日

教育データ利活用ロードマップ

学習eポータル & 教育ダッシュボード からの続き

2022年1月に,デジタル庁,総務省,文部科学省,経済産業省によって,教育データ利活用ロードマップがつくられた。公表時に炎上したらしく(もう忘れている),中室牧子が弁明していた。

あらためてロードマップを眺めてみると,どうもすっきりしないのだった。理念が明確でないままに,細かなことを書き込みすぎていてちょっと食傷気味となる。さらに,この大きな利権めがけて,総務省や経済産業省まで手を突っ込んできているので,これが混乱に更に拍車がかかる。

わかりやすかったのは,ロードマップの2022年迄の短期目標の部分だ。

・教育現場を対象にした調査や手続が原則オンライン化
・事務等の原則デジタル化など,校務のデジタル化を進め,学校の負担を軽減
・インフラ面での阻害要因(例:ネットワーク環境)の解消
・教育データの基本項目(全国共通の主体情報)が標準化

ここまではよい。その後はログ収集やPDS(Personal Data Service?)が中心テーマとなって,とにかくデータを標準化して蓄積すればよいという思いが先走りすぎている。この情報の網によって個人(児童・生徒・保護者・教員)はあるいは学校はがんじがらめに搦め捕られそうだ。あるいは,どうせ中途半端なシステムができるので,心配しなくていいということか。

2022年9月7日水曜日

教育ダッシュボード

教育データ標準からの続き

豊福晋平さんが,ダッシュボードという言葉をちらっと口走っていた。何のことかと調べてみた。

ダッシュボードとは,自動車は飛行機の計器盤のことであり,システムの刻々と変化する状態を一目で把握できるもののことだ。これをメタファーとしたビジネス管理ツールが登場して進化していくことになる。

それをさらに学校教育の分野に転用したものが,教育ダッシュボードである。以前は学習カルテや学習ポートフォリオというコンセプトで,個人ごとの学習記録をデジタル化して集約しよう流れがあった。

実のところ,大阪教育大学に導入された電子ポートフォリオは,学生の学びの様子を把握して指導することにはほとんど役立たなかった。それは,大学評価のための実績(エビデンス)を作文するというその一点だけで価値がある取り組みだった。いまはどうか知りませんが。

そのダッシュボードの活用例を探していて,真っ先に飛び込んで来たのが大阪市の取り組みだ。大阪市における次世代学校 支援事業の中心にあるのがダッシュボードで,校務系データと学習系データを組み合わせて分析した結果を一画面に可視化するというものだ。説明は,生活指導系の事例に重きが置かれていた。

それを真似たのが,東京都だ。東京都教育委員会と慶應義塾大学SFC研究所との教育ダッシュボード開発に伴う共同研究に関する協定が締結されている。これに関する情報が請求によって公開されていた。あらら,中室牧子じゃないか。非認知情報アンケートとあれやこれやを結びつけようとしていた。

共通するのは,成績などの定量化が可能な従来型の情報ではなく,生活態度や非学習行動など把握しにくい部分を可視化しようというものだ。まあ,保健室を訪れた回数はわかるわね。

2022年9月6日火曜日

学習eポータル

教育データ標準からの続き

教育データの標準化の具体的な活用イメージとして,文部科学省CBTシステム(MEXCBT: Computer Based Testing)を含む学習eポータル があげられている。

MEXCBTは,児童生徒がコンピュータからオンラインで問題演習ができるシステムだ。家庭からも学校からも使え,選択問題や短答式問題は自動採点される。システムの開発は文部科学省が事業者連合コンソーシアムに委託していてすでにプロトタイプが稼働している。

MEXCBT用の問題は,国や地方自治体などの公的機関が作成したものを使う。教師が指定した問題を児童生徒が解いて,その結果は自分と教師が確認できて,フィードバックする。子どもが自分で勝手に問題を選んで自由に学びを進めていくようにはできていないのかもしれない。

さて,その学習eポータルだ。日本の初等中等教育に適した共通の学習管理機能を備えたソフトウェアシステムであり,(1) 学習(学習リソース)の窓口機能,(2) 連携のハブ機能(シングルサインオン),(3) MEXCBTへのアクセス機能,の3つの機能を果たすことになる。

いまは亡きインターネットと教育(1996-2002)や教育情報ナショナルセンター(NICER: 2001-2011)の考え方をリニューアルして再現したものだ。前者は自分の個人的な取り組みを越えられなかったので仕方がないが,文部科学省が国立教育政策研究所を使って鳴り物入りで立ち上げた教育情報ナショナルセンターがあっという間につぶれてしまったのは残念だった(再立ち上げも失敗)。

そのデータは,GENES 全国学習情報データベース(学習ソフトウェア情報研究センター)と教育の情報化支援サイトNICER-DB(パナソニック教育財団検索システム研究会)に引き継がれることになっていたが,前者は廃虚と化し,後者に至ってはドメインがマイナー業者に乗っ取られてしまった。

さて,この度の学習eポータルはその轍を踏まずに離陸することができるのだろうか。昔,芳賀さんといっしょに活動していた内田洋行の伊藤博康さんがリーダーとなって,一般社団法人ICT CONNECT 21の学習eポータルSWGが取り組んでいるので,まあ前回よりはましなのかもしれない。

学習 e ポータルの仕様は、検討と実 証を繰り返しながら、学習 e ポータル標準モデルとしてまとめられる。MEXCBT は国が開発、 運営を担うのに対し、学習 e ポータルは複数の民間企業が標準モデルに基づいて開発、提供し、小中高校などの教育機関がその中から選択して利用することを想定している

なるほど,そういうことか。さらに,MEXCBTとの連携は必須要件だが,デジタル教科書やデジタル教材との連携は推奨となっている。しかしながら,LRS(Learning Record Store)学習履歴は必須とされているのだった。各社が開発して提供する学習eポータルはなんらかの形で認証されることになるのだろうか?

中央集権的なデータセンターモデルから,複数のポータルが統一規格のもとに連携するモデルに進化しているが,それでも話は面倒にみえる。やはり,パーソナルAIアシスタントを子ども・保護者・教師一人一人が所有して,必要な情報や協働はこのAIアシスタントが探し出して持ってくれるというシステムを目指したほうがいいのかもしれない。GIGAの次のステージだ。

[1]学習eポータル標準モデル(2022.2.22,Ver. 2.00,ICT CONNECT 21 学習 e ポータル サブワーキンググループ)
[2]文部科学省CBTシステム運用支援サイト(文部科学省)
[3]子どもの学び応援サイト−学習支援コンテンツポータルサイト(文部科学省)
[4]STEAM ライブラリー(経済産業省・未来の教室プロジェクト
[5]EdTEchライブラリー(経済産業省・未来の教室プロジェクト
[6]学習eポータルまとめサイト(ICT CONNECT 21)

2022年9月5日月曜日

教育データ標準

GIGAスクール構想からの続き 

まず復習。GIGAスクール構想とは,2019年から文部科学省が取り組んでいる施策である。GIGAはGlobal and Innovation Gateway for All の略であり,全国の児童・生徒に一人一台のコンピュータと高速ネットワークを整備しようというものである。2021年3月には,全自治体の96%以上で整備が終っており,いちおう小中学生一人一台という目的が完了したということらしい。

高等学校については,2022年度中に1学年は100%,2024年度までに高校生一人一台を実現する目標となっていて,すでに半数の府県では100%が達成されている。まあ,小中学校も含めてそれらがうまく機能しているかどうかはまた別の話。

これは25年前の100校プロジェクトを嚆矢とした学校へのインターネット導入の動きに匹敵する大きな変化には違いない。ようやくあのころの理想が具体化できる条件が整いつつあるということか。

ところで,この構想を支えるために,教育データの標準化が取り上げられている。教育データを,(1) 主体情報(児童生徒・教職員・学校の各属性等の基本情報),(2) 内容情報(学習内容の情報),(3) 活動情報(生活活動,学習活動,指導活動などの情報)に区分する。これらをすべて網羅的に扱うわけでなく,データの相互運用性を図るという観点で全国的に統一が必要なものに限り,その使用を強制せず,政策的に誘導するというものだ。

教育データ標準として,すでに次のようなものが定められている。学校コード,教育委員会コード,学習指導要領コード。学校は,位置情報(緯度・経度・標高)や時間情報(開設年月,統合年月,廃止年月)がほしいところだ。教育委員会には事務局の住所・連絡先すらない。学習指導要領コードは,NDCとの対応があれば・・・というか,知識を網羅的にコード化することはそもそも可能なのだろうか。普遍性に欠ける学習指導要領の文章を切り出してコード化するというのはどうにも気持ちが悪い話である。

[1]StuDX Style(文部科学省)GIGAスクール構想の実践事例

2022年9月4日日曜日

Stable Diffusion

画像生成AI(4)からの続き

画像生成AIで,いま一番ホットな Stable Diffusionの特徴は,オープンソースであり,誰でもが自分のローカル環境にこのAIアプリケーションを導入できるというところだ。

以前から,ネット上には環境構築手順がいろいろと投稿されているが,ゲーミングPCの高いGPUスペックがないと使い物にならないというのが定説だった。

MacBook M1環境での報告がないわけではなかったが,python環境のためにAacondaがどうとか(以前複数のバージョンのanacondaを入れて往生した),ややこしいことこの上なく,それも人によって説明がマチマチなので閉口していた。

この度公開された手順は大変スッキリしていて簡単だった。さっそく手元のMacBook Air M1で試してみることにする。環境構築は何の問題もなくパスした。huggingface.co からのモデルの取得には,アカウントの作成が必要で,GitHubのそれと途中で混乱してあわてたけれど,4GBのデータ取得も数分もかからなかった。

見本にしたがってリンゴの絵を出してみたところ,7分程度で完了した。途中でメモリを使い切っているという警告が出たので,あれこれのバックグラウンドで立ち上がっていたアプリは全部シャットダウンした。
ローカル環境構築
% git clone -b apple-silicon-mps-support https://github.com/bfirsh/stable-diffusion.git
% cd stable-diffusion
stable-diffusion % mkdir -p models/ldm/stable-diffusion-v1/
stable-diffusion % python3 -m pip install virtualenv
stable-diffusion % python3 -m virtualenv venv
stable-diffusion % source venv/bin/activate
(venv) stable-diffusion % pip install -r requirements.txt

モデルの取得
https://huggingface.co/CompVis/stable-diffusion-v-1-4-original
% mv /Downloads/sd-v1-4.ckpt stable-diffusion/models/ldm/stable-diffusion-v1/model.ckpt

見本の出力
(venv) stable-diffusion % python scripts/txt2img.py --prompt "a red juicy apple floating in outer space, like a planet" --n_samples 1 --n_iter 1 --plms

(venv) stable-diffusion % mv outputs/txt2img-samples/grid-0000.png ~/Desktop/grid-0009.png

安全装置の場所
(venv) stable_diffusion % pwd
stable-diffusion/venv/lib/python3.10/site-packages/diffusers/pipelines/stable_diffusion
(venv) stable_diffusion % vi safety_checker.py

プロンプトは,"a turtle and a pigeon are fighting on the sunny veranda under the blue sky"として,
1枚の画像生成に3分ほどかかる。n_samplesパラメタを増やすと異常終了し,iterationパラメタをさわると複数画像が生成された。ときどき,リックロールGive You Up)イメージがでる。


写真:ローカルにインストールしたStable Fusionの20回の出力から選んだ2点

2022年9月3日土曜日

UML

中学生もUML(Unified Modeling Language,統一モデリング言語)を学ぶ時代だというのであわてて追いかけてみる。なんだか統一ばやりの今日この頃。

UMLは,1997年ごろからOMGによって管理されるようになったモデリング言語である。プログラミングの手前で,問題とする対象や過程の構造や処理フローなどを整理して可視化する機能を持っている。何種類かのダイアグラムに分類されているが,そのうちのアクティビティ図が従来のフローチャートに概ね対応する。

いろいろツールはあるようだが,PlantUMLというテキストベースでダイアグラムを作成するツールが便利そうだ。brew install graphviz と brew install plantuml で必要なソフトをインストールする。hoge.umlというUMLファイルをつくって。plantuml hoge.uml とすれば hoge.png というUML図が得られる。よくある見本は次のようなものだ。


図:UMLのシーケンス図のサンプル

最近のバージョンでは,モノトーン表示になっているが,skin rose とすると以前のカラリングで表示することができる。 この図を出力するためのumlファイルは次のようなものだ。

@startuml

skin rose

title PC入出力シーケンス
header テストシーケンス
footer ページ %page% / %lastpage%

actor ユーザ
box PC
participant USB
participant CPU
participant ディスプレイアダプタ
end box

alt キーボード
ユーザ -> USB : キー入力
else マウス
ユーザ -> USB : マウス入力
end
USB -> CPU : 入力データ
activate CPU
note over CPU : 処理中
CPU -> ディスプレイアダプタ : 表示データ
deactivate CPU

participant ディスプレイ
ディスプレイアダプタ -> ディスプレイ : 表示データ
ディスプレイ -> ユーザ : 表示

@enduml
[1]PlantUML概要

2022年9月2日金曜日

プログラミング教育(3)

プログラミング教育(2)からの続き

高等学校に情報という教科が新設されたのは,平成10年(1998年)告示の学習指導要領からだった。これを受けて2003年度から高等学校での必履修科目の情報の授業が始まった。

そのころ,まだ大阪教育大学に在籍していた田中博之さんに誘われて,日本文教出版の教科情報の教科書編集に参画することになった。関西大学総合情報学部の水越敏行先生をトップに,新潟大学の生田孝至先生,水越先生の弟子の黒上晴夫さん(阪大オケでチェロをやっていた)などにひきいられた20名ほどのチームだった。慶応義塾幼稚舎の田邊則彦さんの引きで,看板には村井純さんも据えられた。

田中博之さんは,その後いろいろあって編集チームをやめ,大阪教育大学から早稲田大学の教職大学院に移った。1998年指導要領では,情報A(入門),情報B(理系),情報C(文系)の3つの選択科目が設定されており,関西大学の江澤義典先生,富山大学の黒田卓さんら数名による情報Bチームに配属された。情報Bチームは次の学習指導要領改訂で情報の科学チームに再編され,辰己丈夫さんなども加わって Javascript 路線を進むことになる。なお,自分も本業が忙しくなったので,2012年ごろには水越先生にお願いして抜けさせてもらった。

全く新しい科目が立ち上げられたということで,手探りで教科書づくりがすすんでいくのだが,プログラミングは教科「情報」の中心に据えないというのが共通了解事項であった。当時の大学では,コンピュータ教育=プログラミング教育という暗黙の刷り込みがあったので,なかなか大きな発想の転換であり,メディア教育を専門とする水越先生はこの点を強調していた。

そしていま,再びプログラミング教育に重点が移ってきたのだが,高等学校の学習指導要領では小学校や中学校のようなことはなく,これまでとあまり変わらないようなニュアンスになっている。2020年学習指導要領の必履修科目の情報Iと選択科目の情報IIと解説編では次の程度である。小学生,中学生,高校生に渡るプログラミング教育の積み上げについて検討された雰囲気があまり感じられないのはなぜ。
情報Ⅰ
(3)コンピュータとプログラミング
ア(イ)アルゴリズムを表現する手段,プログラミングによって
コンピュータや情報通信ネットワークを活用する方法について
理解し技能を身に付けること。
イ(イ)目的に応じたアルゴリズムを考え適切な方法で表現し,
プログラミングによりコンピュータや情報通信ネットワークを
活用するとともに,その過程を評価し改善すること。

情報Ⅱ
(4)情報システムとプログラミング
ア(ウ)情報システムを構成するプログラムを制作する方法について
理解し技能を身に付けること。
イ(ウ)情報システムを構成するプログラムを制作し,その過程を
評価し改善すること。

例えば,グループで掲示板システムを構成するプログラムを制作する学習を
取り上げ,サーバ側のプログラムについて適切なプログラミング言語の選択,
設計段階で作成した設計書に基づくプログラムの制作を扱う。その際,
自分が制作したプログラムと他のメンバーが制作したプログラムの統合,
テスト,デバッグ,制作の過程を含めた評価と改善について扱う。なお,
プログラムを制作しやすくするために組み込み関数やあらかじめ用意した
関数などを示し,これらを利用するようにすることも考えられる。

[1]高等学校学習指導要領解説 情報編(平成30年告示,文部科学省)
[2]高等学校情報科に関する特設ページ(文部科学省)
[3]プログラミング教育実践ガイド(文部科学省)
[4]高等学校普通科の教科「情報」の変遷と課題(川瀬綾子,北克一)
[5]高等学校共通教科情報科の知識体系に関する一考察(電気通信大学 赤澤紀子他)

2022年9月1日木曜日

プログラミング教育(2)

プログラミング教育(1)からの続き

IT革命第1波が来ていた1998年告示の学習指導要領では,中学校の技術・家庭の技術分野の内容が,A 技術とものづくりとB 情報とコンピュータの2項目に整理された。つまり内容の50%がICTということだ。ところが,2007年告示では,揺り戻しが起こり,A 材料と加工に関する技術,B エネルギー変換に関する技術,C 生物育成に関する技術,D 情報に関する技術,になった。情報とコンピュータの内容は30%程度になってしまった。2016年告示の学習指導要領にもこれが引き継がれたままだ。

その直近の中学校技術・家庭学習指導要領の解説編をみると,プログラミングに関しては次の記述がある。とっても高度な内容になっている。

D 情報の技術

(2)生活や社会における問題を,ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによって解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

(3)生活や社会における問題を,計測・制御のプログラミングによって解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

計測・制御の方はこれまでもあったが,ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングってどうするのだろうか。しかも,次の補足説明が入っている。

なお,課題の解決策を構想する際には,自分の考えを整理し,よりよい発想を 生み出せるよう,アクティビティ図のような統一モデリング言語等を適切に用い ることについて指導する。

えーっ,中学生からUMLをやるんですか・・・もうフローチャートの時代は終ったのか。

具体的にはどんなプログラム言語で実施するのかを調べてみたら,ここにあった[1]。基本は,小学校でも使われているScratchだ。Scratch 1.4では,Meshというネットワーク上の端末間の情報交換の機能があるので,ネットワークを利用した双方向という条件を満たせる。後はよくわからないマイナーなプログラム言語や環境がわさわさと湧いていた。

[1]中学校技術・家庭科(技術分野)内容「D 情報の技術」研修用教材(文部科学省)
[2]PIC GUI Programming Environment(鳴門教育大学 菊池章)
[3]Studuino(Artec)
[4]Scratch1.4(MIT,Meshが使える)
[5]ねそプロ岩手県一関市立花泉中学校 奥田昌夫)
[6]なでしこ(kujirahand)
[7]Leaflet(埼玉大学 谷謙二,Javascript Web地図サービスライブラリ)
[9]拡張AIブロック(TECH PARK)
[10]ピョンキー(Scratch互換,Mesh対応)
[11]ドリトルではじめるプログラミング(大阪電気通信大学兼宗研究室)
[16]中学校プログラミング教育の実態調査(日本産業技術教育学会)


2022年8月31日水曜日

プログラミング教育(1)

これまでも小学校におけるプログラミング教育への違和感を述べてきた。

  コンピューテーショナル・シンキング(4)

特に,小学校学習指導要領の解説編にある下記の「プログラミング的思考」がどうにも気持ち悪いのだ。

また,子供たちが将来どのような職業に就くとしても時代を越えて普遍的に求められる「プログラミング的思考」(自分が意図する一連の活動を実現するために,どのような動きの組合せが必要であり,一つ一つの動きに対応した記号を,どのように組み合わせたらいいのか,記号の組合せをどのように改善していけば,より意図した活動に近づくのか,といったことを論理的に考えていく力)を育むため,小学校においては,児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動を計画的に実施することとしている。その際,小学校段階において学習活動としてプログラミングに取り組むねらいは,プログラミング言語を覚えたり,プログラミングの技能を習得したりといったことではなく,論理的思考力を育むとともに,プログラムの働きやよさ,情報社会がコンピュータをはじめとする情報技術によって支えられていることなどに気付き,身近な問題の解決に主体的に取り組む態度やコンピュータ等を上手に活用してよりよい社会を築いていこうとする態度などを育むこと,さらに,教科等で学ぶ知識及び技能等をより確実に身に付けさせることにある。
いろいろな論点はあるけれど,AI応用アプリケーションがICT環境活用の中心になろうという時代に,(1) 手続き型プログラミングの想定が透けて見える「プログラミング的思考」という怪しい概念を振りかざしていること,(2) たぶんこのプログラミング教育では身につかない「論理的思考力」をゴールとすること,等への拒否反応が先にきてしまうのだ。

そこで,久しぶりに小学校のプログラミング教育でよく用いられているScratchをのぞいて見た。なんだがすごく進化していた。プログラム開発環境画面の左下のボタンを押すと,拡張機能が選択される。その項目は,音楽,ペン,ビデオモーション,音声合成,翻訳,Makey Makey,micro:bit,LEGO MINDSTROMS EV3,KEGO BOOST,LEGO Education WeDo 2.0,Go Direct Force & Accelerationというもので,おもわずワクワクしてくる。

小学校プログラミング教育をバカにしていてごめんなさい。これを学習指導要領のように捉えてはいけなかった。コンピュータを単なる情報受像機定型業務処理機としてではなく,IoTを含む情報創造機として使うための第1歩だった。プログラミング思考なんて実はどうでもよかったのだ。

そして,大規模言語モデル+ディープラーニングを背景とした新しいAIのトレンドは,この情報創造の意味合いそれ自身を大きく変えてしまうことになるかもしれない。


2022年8月30日火曜日

遠山プランから20年

自由民主党清和政策研究会の,森政権(2000-2001)と小泉政権(2001-2006)によって日本は転落への道をたどりはじめたといえるのかもしれない。安倍政権(2006-2007, 2012-2020)からの事態はこれにとどめを刺している。

遠山敦子は,小泉政権の文部科学大臣であり,初等中等教育ではゆとり教育からの脱却,高等教育ではいわゆる遠山プラン(2001)という新自由主義的大学改革プランを打ち出した。

そこでは,(1) 国立大学の再編・統合を大胆に進める。(2) 国立大学に民間的発想の経営手法を導入する。(3) 大学に第三者評価による競争原理を導入する。の三原則が示された。これによって,教員養成単科大学はおおいに振り回されて右往左往することになる。2004年には国立大学が法人化され,さらに混乱に拍車がかかった。現在もこの方向性での「改革」が継続強化されている。

この結果,日本の国立大学は疲弊の一途をたどることになる。その証拠の一例として学術論文のTop 10% 引用数の世界ランキングがある。文部科学省の科学技術・政策研究所(NISTEP)が最近まとめた科学技術指標2022では,日本がランキングの12位にまで落ち込んだことが示された。

2年ごとに報告されている科学研究のベンチマーキング2021では,2018年までの移動平均値が示されている。2003年以降,学術論文のTop 10% 引用数は着実に順位を下げ続け,今回さらにワンランクダウンしたということになる。


図:遠山プラン・国立大学法人化以降の日本の凋落指標(NISTEPから引用)

2022年8月29日月曜日

情報検索から情報生成へ

1ヶ月半前の話題だけれど,GPT-3という大規模言語モデル(Large Language Model)に対して,自分自身に関する学術論文を書くようプロンプト入力して出力された論文が,査読にかかり出版されたらしい。

GPT-3については,2年ほど前にもこのブログで GPT-3というタイトルの記事を書いた。出版された論文は,open science のHALアーカイブにある Can GPT-3 write an academic paper on itself, with minimal human input? であり,共著者のトップに,Gpt Generative Pretrained Transformer, としてAIの名前がのっている。

論文は,GPT-3が書いた部分と,青字の注釈枠内に人間の研究者が入力したプロンプト構文とコメントが付加された複合的構造になっている。GPT-3が自分自身で書いたGPT-3を対象とする論文の結論は次のようなものだ。

Conclusion

It is clear that GPT-3 has the potential to write for an academic paper about itself. However, there are some limitations to consider. First, GPT-3 may not be able to capture all of the nuances and subtleties of human language. Second, GPT-3 may not be able to generate new ideas or perspectives that humans could bring to the table. Overall, however, GPT-3 seems like a promising tool for academic writing.

これに対して,人間の共著研究者がつけた青字枠のプロンプトとパラメータとコメントがこちら。

 Prompt: Write a conclusion section about letting GPT-3 write for an academic paper about itself.

Temperature: 0.77 / Maximum length 458 / Top P 0.9 / Frequency Penalty 0.95 / Presence Penalty 0.95 / Best of n=5 / Second prompt output chosen, first output similar but incomplete sentence.

As we did very little to train the model, the outcome was not, contrary to GPT-3s own assessment, well done. The article lacked depth, references and adequate self analysis. It did however demonstrate that with manipulation, training and specific prompts, one could write an adequate academic paper using only the predictive nature of GPT-3.

GPT-3(AI) は自分の書いた論文?を自画自賛しているが,共著研究者(人間)の評価によれば学生のレポートの域をでないものである。しかし,これができるということは,大学の学部教育レベルのレポートはすべてAIに代行させることが可能だ


大学の授業で課せられるレポートを,インターネット上のテキストの切り張りで作って提出するという事例が横行しているらしい。引用ルールに則っていれば問題ないが,場合によっては丸ごとコピーして使うケースも(卒論レベルになれば代行業者という手もあるが)。

これに対抗するために多くの大学では,テキストのコピー部分を発見するツールが導入されている。大阪教育大学でも,Turnitin Feedback Studio という剽窃チェックツールがあって,何度も利用説明会が開催されている。自分は,これはそもそも出題側の問題だと思っていて,馬鹿馬鹿しいので使ったことはない。

今後,プロンプト職人の技でAI≒機械学習システムにレポート生成・下書き作成を頼むことが容易になれば,これを人間が書いたレポートと区別することは原理的に難しいような気がする。この話題をとりあげた番組 [1] では,松田卓也先生が,英語を母語としない研究者の書く英文論文のプロトタイピングには使えるかもしれないと話していた。まあそれだけならば,DeepLを使えば済むような気もする。

いずれにせよ,インターネット空間では,情報検索から情報生成へと時代の大きな変化の流れが生じているらしい [2]。


画像:阿弥陀経の極楽の一節を入力したmemeplex.app

極樂國土 七重欄楯 七重羅網 七重行樹 皆是四寶 周帀圍繞 是故彼國 名曰極樂 有七寶池 八功德水 充滿其中 池底純以 金沙布地 四邊階道 金銀瑠璃 玻瓈合成 上有樓閣 亦以金銀瑠璃 玻瓈硨磲 赤珠碼碯 而嚴飾之 池中蓮華 大如車輪 青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色白光 微妙香潔 舍利弗 極樂國土 成就如是 功德莊嚴

In the land of bliss, there are seven rafters, seven nets, seven walking trees, all surrounded by the four jewels. There are seven precious pools filled with the eight virtuous waters. And there was a tower decorated with gold and silver, and glass, and silver, and glass, and aluminum, and agate, and red pearls. 
The lotus in the pond is as large as a wheel, green and blue, yellow and yellow, red and red, white and white, and of a subtle fragrance, Shakyamuni.  The Land of Ultimate Bliss is a place of great virtue


[1]GPT-3がGPT-3について論文を書いた~学術誌に投稿され現在査読中らしい(シンギュラリティサロン・オンライン)

[2]緊急対談!今AI業界に何が起きてるのか?!shi3zさんに聞いてみた! スペシャルゲスト:西川善司(shi3z & drikin のAIドリフト)

[3]MidjourneyやDreamStudioなどの画像生成AIの仕組みについて(IT navi)

[4]創るためのAI 機械と創造性のはてしない物語 (徳井直生)

2022年8月28日日曜日

画像生成AI(4)

画像生成AI(3)からの続き 

最近の,画像生成AIブームについては,note深津貴之(fladdict)さん世界変革の前夜は思ったより静か)や,ギリア清水亮さんStableDiffusionを使った新しいAI作画サービスを作りました。日本語でOK。無料です)などのIT業界の牽引者の注目を集めている。

この波がどこまで広がるかは,気になるところである。いずれにせよ,大規模言語モデルを背景としたAI系の新しい仕組みは今後されに浸透してゆくことは間違いない。これが,OSの標準機能に噛んでいけば,すべてのアプリケーションでAIの仕組みを使った機能が加わる。すなわち,新しいコンテンツの創造が,適切な対話型インターフェース(最低限のプロンプト・エンジニアリング)によって簡単に実現することになる。

(1) 祐筆:タイトルと趣旨を入れるだけで,自動的に,イラスト入りレポートやエッセイや広告コピーや文学作品を生成する機能を持つワードプロセッサ。
(2) 主計:データの要件と目的を入れるだけで,必要なデータを検索して取り込み,これを分析した結果を生成する機能を持つ表計算ソフト。
(3) 算法:入力と出力の集合の定義と関係を入れるだけで,自動的に数理モデリングの手法を選択して結果を最適な表現形態で表わして説明する統合数学ソフト。
(4) 藝術:着想を入力することで,器楽,声楽,効果音,絵画,写真,イラスト,マンガ,アニメ,立体,動画を自動生成する表現支援ソフト。
(5) 森羅:対象(自然現象,生物,鉱物・地形,人工物・商品,建築・構築物,テキスト・画像断片,人物)を撮影すると,詳細情報を説明する検索ソフト。
(6) 執事:予約や買物や連絡を代行して調整するアシスタント。
(7) 師範:自分の学びたい内容について助言するアシスタント。
このあたりが,近未来のパーソナルコンピュータ(=デジタルアシスタント)が持っている7つの基本アプリケーションのイメージになる(ディープラーニングAIや巨大言語モデルと直接関係しないものも含まれているような・・・)。256GB/8TB M7 MacHeadset Air とかで実現できていれば,すぐにも買いたいけれど,それまで生きていられるかしら。

話を戻すと,Stable Diffusionをベースにして清水さんが作った日本語アプリが Memeplex(α版)である。プロンプトの日本語は英語に変換されて Stable Diffusion 1.4に投げられ,結果は512x512の画像としてユーザごとの領域に出力される。入力の際に,画風指定,スタイル指定,作家指定が,ドロップボックスで設定できるが,もちろん,プロンプト枠に手入力しても構わない。待ち行列で順に処理されるが,その待ち行列の中身が公開されているのがおもしろい(その後これは見えなくなった)。


画像:memeplexに「西方極楽浄土 → western paradise」を入力した結果…orz


2022年8月27日土曜日

画像生成AI(3)

 画像生成AI(2)からの続き

シンギュラリティサロン・オンラインで,松田卓也先生が Stable Diffusion倫理問題を取り上げていた。もとネタは,TechCrunchの "This startup is setting a DALL-E 2-like AI free, consequences be damned" である。

Latent Diffusion Modelなどを使った画像生成AIでは,素人が簡単なフレーズの組み合わせを入れるだけで,非常に高いクオリティの絵画,写真,デザインなどの画像を生成することができる。絵画から写真への変革に匹敵する革命的な事態が生じている。

DALL-E2などでは厳密なキーワード制限によって,倫理的に問題を生じるような画像の生成を抑制している。例えば,有名人の顔写真をつかったフェイク画像,戦争や動乱あるいは人種差別などを誘導するフェイク画像,ポルノグラフィなどなどである。

もちろんAI登場以前であっても,フェイク画像生成は可能だったが,それはそれなりのIT技術が必要とする。しかし,画像生成AIの登場によってその閾値は圧倒的に下がってしまった。

しかも,Stable DiffusionをサポートしているStability.AIというスタートアップは,OpenなAI技術を開放して誰でもが自由に使えるようにすることを目的としており,その一環として,Stable Diffusionもオープンソース化されて,誰でもが自由に自分のPCにインストールできる面倒だがApple Silicon のMacBook Proでも可能らしい)。

画像生成AIが動画生成AIにまで進化した段階でさらに深刻な事態が発生しかねない。知り合いの顔写真が手に入れば簡単にフェイクポルノ動画が作れてしまうようなものだから。


画像:Stable Diffusion Demoから
( golden daibutsu todaiji nara night fire wakakusa-yama nigatsudo omizutori deer )

2022年8月26日金曜日

画像生成AI(2)

画像生成AI(1)からの続き

YouTuberのMattVideoProによれば,現時点でも20以上の画像生成AIサービスが立ち上がっている(下記リスト参照)。たぶん今年の最も重要なトレンドの一つだ。前回は,CrAIyonを試してみた。日本では,Midjouneyが流行っている。

今回登場したのが,Stable Diffusionとこれを利用したサービスのDream Studio (beta) である。その紹介はこのへんにある

1. Google Imagen/Parti (Unreleased) https://parti.research.google/
2. Open AI Dall-E 2 (Closed Beta) https://openai.com/dall-e-2/
3. Stable Diffusion (Free to use) https://huggingface.co/spaces/stabilityai/stable-diffusion
4. Simulacrabot (Closed Alpha) https://stability.ai/simulacrabot/terms-of-use
5. Midjourney (Free Trial, paid access) https://www.midjourney.com/app/
6. Shonenkov AI (Free to Use) https://t.me/shonenkovAI (JOIN MY DISCORD FOR LINK)
7. Meta Make-A-Scene (very Closed Beta) https://about.fb.com/news/2022/07/metas-new-ai-research-8. tool-turns-ideas-into-art/
9. Microsoft VQ Diffusion (Free to use) https://replicate.com/cjwbw/vq-diffusion
10. Deep AI Text to Image (Free Access) https://deepai.org/machine-learning-model/text2img
11. MindsEye beta (by multimodal.art) (Free to use) https://colab.research.google.com/drive/1cg0LZ5OfN9LAIB37Xq49as0fSJxcKtC5
12. CrAIyon (Free to use) https://www.craiyon.com/
13. Min-dalle (Free & Paid) https://replicate.com/kuprel/min-dalle
14. Dall E Flow (Free to use) https://github.com/jina-ai/dalle-flow
15. Wombo (Free & Paid) https://app.wombo.art/
16. Laion AI Erlich (Free & Paid) https://replicate.com/laion-ai/erlich
17. Latent Diffusion (Free to use) https://huggingface.co/spaces/multimodalart/latentdiffusion
18. Glid-3-xl (Free & Paid) https://replicate.com/jack000/glid-3-xl
19. Night Cafe (Free & Paid) https://creator.nightcafe.studio/explore
20. Disco Diffusion (Free & Paid) https://colab.research.google.com/github/alembics/disco-diffusion/blob/main/Disco_Diffusion.ipynb
21. Cog View 2 (Free & Paid) https://replicate.com/thudm/cogview2
22. Pixray (Free & Paid) https://replicate.com/pixray/text2image
23.Hot Pot AI (free & Paid) https://hotpot.ai/art-maker
24. Nvidia gaugan2 (Free to Use) http://gaugan.org/gaugan2/
話題のStable Diffusionをはじめ,Diffusionという言葉がよくみられるのは,これらのシステムが,Latent Diffusion Model(潜在拡散モデル)を使っているからだ。それは,与えられた画像にガウスノイズを徐々に追加して完全なノイズになるまで破壊し,ニューラルネットワークにその逆転プロセスを学習させたものだからだ。これに適当なテキストとの関連付けを行うことでノイズから画像を生成することができるらしい。

このとき,適切なキーワードの集合をどうやって準備するかが,目的とする画像を完成に近づけるかの鍵となる。そこで,すぐれた技術を持つ人がプロンプト職人,その技術がプロンプト・エンジニアリングとよばれる。

プロンプト・エンジニアリングは,画像生成AIだけでなく,自然言語による質問応答や文書生成などができるAIがよってたつところの巨大言語モデル(GPTなど)の流行にも対応している。

さて,Stable Diffusionのデモを試してみたところ,今日は混雑していてだめだった。昨日確かめた例が下にある。ほとんどトライアンドエラーを繰り返していないので,そんな精緻な結果は得られていない。なお,Dream Studioにお金を払えばより短時間で制限なく利用できるはずだ。


画像:Stable Diffusion のデモに次のプロンプトを与えた結果
(cosmic giant bronze female buddha in the todaiji temple 
and bunch of deer in the nara park photorealistic)

画像の次は,音声,3Dイメージ,動画と続いていくとしたらなんということだろうか。素人がキラーAIアプリケーションを自由に使いこなせる時代の幕開けとなるのか。


2022年8月25日木曜日

崩壊系列

放射性元素崩壊系列は,質量数Aと原子番号Zを2軸とするダイヤグラムで表現されることが多い。一方,放射性元素の影響を特徴づけるのは,放出されるα線やβ線のエネルギーと,崩壊定数すなわち半減期である。

そこで,質量数Aと半減期 T (秒)の常用対数を2軸とするダイヤグラムで表わすとどうなるかを調べてみた。なお,複数の崩壊経路があるばあいは,分岐比の大きな方だけをたどっているが,半減期は両方の分岐を合わせたものを採用している。

放射性元素の崩壊系列は,質量数A=4n+mとして4系列に分類される。

青:4n+0:トリウム系列   232Th(141億年)→[α6β4]→208Pb(安定)42.6MeV

灰:4n+1:ネプツニウム系列 237Np(214万年)→[α8β4]→205Tl(安定)66.8MeV

赤:4n+2:ウラン系列    238U(45億年)→[α8β6]→206Pb(安定)51.7MeV

緑:4n+3:アクチニウム系列 235U(7億年)→[α7β4]→207Pb(安定)46.4MeV



図:崩壊系列における対数半減期と質量数(右→左へ遷移)

a = 3.1557*10^7; d = 24*3600.; h = 3600.; m = 60.;
s = 1.; ms = 10^-3; us = 10^-6; ns = 10^-9;
c[0] = Blue; c[1] = Gray; c[2] = Red; c[3] = Green;

r[0] = {{232, 1.405*10^10 a}, {228 + 0.2, 5.75 a}, {228, 6.15 h},
{228 - 0.2, 1.9116 a}, {224, 3.6319 d}, {220, 55.6 s},
{216, 0.145 s}, {212 + 0.2, 10.64 h}, {212, 60.55 m},
{212 - 0.2, 299. ns}, {208, 10^20 a}};

r[1] = {{237, 2.144*10^6 a}, {233 + 0.2, 26.967 d},
{233 - 0.2, 1.592 *10^5 a}, {229, 7340 a}, {225 + 0.2, 14.9 d},
{225 - 0.2, 10.0 d}, {221, 4.9 m}, {217, 32.3 ms},
{213 + 0.2, 45.59 m}, {213 - 0.2, 3.65 us}, {209 + 0.2, 3.253 h},
{209 - 0.2, 1.9*10^19 a}, {205, 10^20 a}};

r[2] = {{238, 4.468*10^9 a}, {234 + 0.2, 24.10 d}, {234, 1.17 m},
{234 - 0.2, 2.455*10^5 a}, {230, 7.538*10^4 a}, {226, 1600 a},
{222, 3.8235 d}, {218, 3.098 m}, {214 + 0.2, 26.8 m}, {214, 19.9 m},
{214 - 0.2, 164.3 us}, {210 + 0.3, 1.3 m}, {210 + 0.15, 22.20 a},
{210 - 0.15, 5.012 d}, {210 - 0.3, 138.376 d}, {206, 10^20 a}};

r[3] = {{235, 7.038*10^8 a}, {231 + 0.2, 25.52 h}, 
{231 - 0.2, 32760 a}, {227 + 0.2, 21.773 a}, {227 - 0.2, 18.72 d}, {223, 11.435 d}, {219, 3.96 s}, {215, 1.781 ms}, {211 + 0.2, 36.1 m},
{211 - 0.2, 2.14 m}, {207 + 0.2, 4.77 m}, {207 - 0.2, 10^20 a}};

Do[{q[i] = 
Transpose[{Transpose[r[i]][[1]], Log10[Transpose[r[i]][[2]]]}],
g[i] = ListPlot[q[i], PlotStyle -> {PointSize[Large], c[i]}],
f[i] = ListPlot[q[i], Joined -> True, PlotStyle -> c[i]]},
{i, 0, 3}];

Show[Table[{g[i], f[i]}, {i, 0, 3}], PlotRange -> {{205, 240},
{-10, 30}}, Frame -> True, GridLines -> Automatic]

グラフを作図するため,到達点の安定な同位元素の寿命として,10^20年を入れた。ネプツニウム系列の最後から2番目には,半減期が1.9×10^19年(宇宙年齢の10億倍)のビスマス209がある。2003年まではこれは最も重い安定同位元素だと認識されていた。

全体の傾向はなくて半減期はバラついているのかと思ったが,実際にはすべての系列に共通して,長寿命から大きな谷を経由して再び長寿命(安定)に向かうカーブを描いている。これは原子核構造の大域的性質に関係あるのかもしれない。知らんけど。

2022年8月24日水曜日

ファシズムの初期兆候

アメリカ・ワシントンD.C.にあるアメリカ合衆国ホロコースト記念博物館の"Early Warning Signs of Fascism"と題された展示ポスターに掲げられているファシズムの初期兆候の14項目は以下のとおりである。 
01.  強力かつ継続的なナショナリズム(Powerful and Continuing Nationalism)
02.  人権の蔑視(Disdain for Human Rights)
03.  団結させるための敵の設定(Identification of Enemies as a Unifying Cause)
04.  軍事の最優先(Supremacy of the Military)
05.  はびこる性差別(Rampant Sexism)
06.  支配されたマスメディア(Controlled Mass Media)
07.  国家安全保障への執着(Obsession with National Security)
08.  宗教と政治の結合(Religion and Government Intertwined) 
09.  企業の力の保護(Corporate Power Protected)
10.  労働者の抑圧(Labor Power Suppressed)
11.  知性や芸術の蔑視(Disdain for Intellectuals and the Arts)
12.  刑罰強化への執着(Obsession with Crime and Punishment)
13.  身びいきや汚職の蔓延(Rampant Cronyism and Corruption)
14.  不正な選挙(Fraudulent Elections)
ワシントン・マンスリーの2017年1月の記事(The 12 Early Warning Signs of Fascism)では,上記のうち04と14を除いた12項目が,トランプ政権にあてはまる兆候だとしている。安倍政権以降の自公政権+維新についても同様かもしれない。その項目の多くが統一教会,日本会議,神道政治連盟などの活動と共鳴しているように見える。

2022年8月23日火曜日

SIDRモデル(2)

 SIDRモデル(1)からの続き

牧野さんの例では,感染期間/免疫消失期間が1/100 と小さくなる場合が示されていた。そこで,これに対応するケースの計算をしてみた。

R = 5; \[Gamma] = 13; \[Beta] = R/\[Gamma]; \[Alpha] = 130*10;
sol = NDSolve[{
x'[t] == \[Beta] x[t] (1 - x[t] - y[t] - z[t]) - x[t]/\[Gamma],
y'[t] == 0.9987*x[t]/\[Gamma] - y[t]/\[Alpha],
z'[t] == 0.0013*x[t]/\[Gamma],
x[0] == 0.01, y[0] == 0, z[0] == 0}, {x, y, z}, {t, 0, 3000}];
fx[t_] := x[t] /. sol[[1, 1]]
fy[t_] := y[t] /. sol[[1, 2]]
fz[t_] := z[t] /. sol[[1, 3]]
Plot[fx[t], {t, 0, 3000}, PlotRange -> {0, 0.5}]
Plot[fz[t], {t, 0, 3000}, PlotRange -> {0, 0.01}]
基本再生産数と免疫消失期間を前回のそれぞれ2.5倍,10倍にしている。
この結果,定常状態における全人口に対する感染者割合は0.77%,一日当たり死亡数は,97人/日となる。年間死亡数は3.5万人なので,季節性インフルエンザの3.5倍程度に収まることになる。


図1:SIDRモデルにおける感染者割合の推移


図2:SIDRモデルにおける累計死亡数の推移

(注)西浦さんの公式だと,$\frac{1-1/R}{1+\alpha / \gamma}\cdot \frac{n}{\gamma} =100$人/日となるので,上記の結果とよく対応している。

2022年8月22日月曜日

SIDRモデル(1)

 エンデミックからの続き (参考:感染症の数理シミュレーション(2)

西浦博さんが紹介している既知のSIRSモデルは,年齢構造や平均余命まで考慮した精緻なモデルだが,一般ピープルがその振る舞いを試してみるには大層なので,単純なSIDRモデルを考えてみた。本質的に,牧野淳一郎さんが最近計算したモデルと等価であり,念のため死亡者数をちょっと取り出しただけだ。

図1:SIDRの概念図

$\dfrac{du_1}{dt} = -\beta \dfrac{ u_1 \cdot u_2}{n} + \dfrac{u_3}{\alpha}$
$\dfrac{du_2}{dt} = \beta \dfrac{ u_1 \cdot u_2}{n} -\dfrac{u_2}{\gamma_1} -\dfrac{u_2}{\gamma_2}$
$\dfrac{du_3}{dt} = \dfrac{u_2}{\gamma_1} -\dfrac{u_3}{\alpha}$
$\dfrac{du_4}{dt} = \dfrac{u_2}{\gamma_2}$

ここで,$u_1+u_2+u_3+u_4=n$は定数で,全国民数である。また,$\alpha$が免疫保持期間(day),$\gamma$は感染期間(day)である。CFRを$c$とすると,$\frac{1}{\gamma}=\frac{1}{\gamma_1} + \frac{1}{\gamma_2}$が成り立ち,$\frac{1}{\gamma_1}=\frac{1-c}{\gamma},\frac{1}{\gamma_2}=\frac{c}{\gamma}$である。

微分方程式の両辺を$n$で割って,$x=\frac{u_2}{n},y=\frac{u_3}{n},z=\frac{u_4}{n}$とする。また,$s=\frac{u_1}{n}$を,$s=1-(x+y+z)$で消去すると次の3変数の微分方程式系が得られる。

$\dfrac{d x}{dt} = \beta (1-x-y-z)\ x -\dfrac{x}{\gamma}$
$\dfrac{d y}{dt} = \dfrac{(1-c)\ x}{\gamma} -\dfrac{y}{\alpha}$
$\dfrac{d z}{dt} = \dfrac{ c\ x}{\gamma}$

この式で$c=0$とすれば,牧野さんの式となる。次のMathematicaコードで検算したところ,彼の結果は再現できた。ここでは,次の値で計算してみる。$R=\beta \gamma =2,\gamma=13,\alpha=130,c=0.0013,x[0]=0.01$

R = 2; \[Gamma] = 13; \[Beta] = R/\[Gamma]; \[Alpha] = 130;
sol = NDSolve[{
x'[t] == \[Beta] x[t] (1 - x[t] - y[t] - z[t]) - x[t]/\[Gamma],
y'[t] == 0.9987 * x[t]/\[Gamma] - y[t]/\[Alpha],
z'[t] == 0.0013 * x[t]/\[Gamma],
x[0] == 0.01, y[0] == 0, z[0] == 0}, {x, y, z}, {t, 0, 1000}]
fx[t_] := x[t] /. sol[[1, 1]]
fy[t_] := y[t] /. sol[[1, 2]]
fz[t_] := z[t] /. sol[[1, 3]]
Plot[fx[t], {t, 0, 1000}, PlotRange -> {0, 0.2}]

その結果は図2のようなものであり,振動の後に平衡状態となり,感染者割合は4.5%に収束する。



図2:SIDRモデルにおける感染者割合の推移

また,400日目を過ぎると,死亡数は図3のように線形で増加するが,このときの1日あたりの死亡者割合は,4.5 x 10^-6 となり,540人/日に相当するので,年間死亡数は19万人に達する。これは季節性インフルエンザの超過死亡数(1万人)の20倍のオーダーである。



図3:SIDRモデルにおける累計死亡数の推移

2022年8月21日日曜日

エンデミック

8月19日, 新型コロナウイルスの全国の新規感染者数が過去最多の26.1万人に達した。医療現場の逼迫状態も進んでいるはずなのに,行動制限が設定されることもなく,手間のかかるHRS-SYS入力による感染者数の全数把握見直しの議論などが先行している(8月2日の専門家有志の提言)。

そういえば,菅政権から岸田政権に替わって,専門家が前面にでて説明することがなくなった。いいような悪いような。もちろん背景では,新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードが週1回の頻度で回っている。

8月18日のアドドバイザリーボードの資料で,京大の西浦博さんが,新型コロナウイルス感染症のエンデミック化についての数理モデル,SIRS(Susceptible-infectious-recovered-susceptible)について検討していた。

エンデミック(地域流行≒風土病)とは,感染症流行の第三段階である。パンデミック(汎発流行=世界流行),エピデミック(流行≒アウトブレイク)の次に来るフェーズだ。ある感染症が一定の地域に一定の罹患率又は一定の季節で日常的に繰り返し発生する状態を表わし,まさにウィズ・コロナに相当する。

SIRSモデルでは,回復者の免疫が一定の時間で切れてしまうために,再び感染可能者に戻ってしまうというものだ。つまり,SIRモデルの回復者$R(t)$のところに,$R(t)$に比例した減衰項が付け加わり,その分が感染可能者 $S(t)$に加わる。

$\dfrac{dS}{dt} = -\beta \cdot S \cdot I + \delta \cdot R $

$\dfrac{dI}{dt} = \beta \cdot S \cdot I - \gamma \cdot I $

$\dfrac{dR}{dt} = \gamma \cdot I - \delta \cdot R$

平衡状態における定常解は,$\frac{dI}{dt} =0,\frac{dR}{dt}=0,N=S+I+R$から求まる。これらから,$N-I-\frac{\gamma}{\delta} I = \frac{\gamma}{\beta N}\cdot N$となるので,

$\dfrac{I}{N}= \dfrac{1-1/R_0}{1+\gamma/\delta}$と平衡状態での全人口に対する感染者割合が求まる。ただし,$R_0=\frac{\beta N}{\gamma}$は基本再生産数である。これが,西浦さんが資料で示した下図に示されている。免疫が半年で切れるとして,全人口の1%〜2%程度が常に感染していることになる(これは,オミクロン株での免疫持続時間3〜4ヶ月と感染者割合2〜8%という英国の観測値と整合している)。



図:アドバイザリーボード西浦博さんの資料から引用

エンデミック(ウィズコロナ)を認めるということは,常に数%の感染者が存在することを容認することになる(季節性インフルエンザの10倍)が,高齢者比率の高い日本では,その死亡リスクが他国にくらべて高いことに十分注意する必要があるというのが結論だった。

仮に,オミクロン株の致命率CFRとして,0.13%(季節性インフルエンザの10〜20倍)を採用し,感染期間を13日とする。平衡状態での感染者割合が2%の場合,全人口に対する1日当たりの死亡者数割合は,0.0013/13*2%=2*10^{-6}となるので,毎日250人程度の死者が出続ける(現在までの新型コロナ感染症死者数のピーク値がずっと続くのがウィズコロナだ)。

2022年8月20日土曜日

玉川児童百科大辞典

 個人送信(2)からの続き

国立国会図書館デジタルコレクションの「個人向けデジタル資料送信サービス」の対象に,玉川大学出版部玉川児童百科大辞典があげられていた。そういえば,1冊持っていたと確認してみたら,玉川新百科1の数学の巻だった。

これは,昭和45年(1970年)9月10日に発行された学習百科シリーズの1冊だ。玉川児童百科大辞典の系列のシリーズで,対象読者は中学生や高校生だ。数学でいえばほぼ高等学校までの内容がカバーされていて,最後の現代数学の章で,記号論理学やカントールの集合論,抽象代数学などがほんの少しだけ含まれている。

この本を買ってもらったのは,高校生の時だった。本屋で見かけてどうしようと迷っていたのを憶えていたのか,ある日父親が買ってきた。小学校の時は,父には毎日のように本屋に連れていってもらって,沢山の本や図鑑を買ってもらった。やがて中学校になると,自分一人で本屋に行くようになり,主にSFやブルーバックスなどをあさっていた。

高校に入ってからは,父に本を買ってもらう機会はほとんどなくなっていたが若干の例外があった。この本とハヤカワSFシリーズ銀背のアイザック・アシモフの「銀河帝国衰亡史(記憶の中では金背になっていた)」,そして,ヴァージニア・ウルフの「灯台へ(To The Lighthouse)」(英語本)を買ってきたのが印象的だった。アシモフの方はわかるのだけれど,何故ヴァージニア・ウルフだったのかはいまでも謎だ。



写真:ハヤカワSFシリーズ「銀河帝国衰亡史」の書影
付録:玉川新百科(玉川大学出版部・誠文堂新光社)全10巻の内容
 1 数学
 2 物理1
 3 物理2
 4 化学1
 5 化学2
 6 天文・気象
 7 地球・海洋・地質・鉱物
 8 生物学
 9 動物
10 植物