著者は英国のSF作家のチャールズ・ストロス(1964-)だ。量子論を用いたハードスペースオペラが作風らしい。シンギュラリティ・スカイ,アイアン・サンライズ,コンクリート・ジャングル,アッチェレランドなど早川書房から翻訳が出ているがどれも未読である。Amazonの書評だとかなり癖がありそうな様子だ。
さて,問題の記事の方だ。ビリオネアとはイーロン・マスク(1971-, Tesla, Space X),ジェフ・ベゾス(1964-, Amazon),ピーター・ティール(1967-, PayPal),マーク・ザッカーバーグ(1984-, Meta),マーク・アンドリーセン(1971-, Netscape)らを指している。
これらのハイテク企業の創業者や投資家たちは,火星の植民地化,スペース・コロニー,人工知能,延命,メタバースなどを実現すべく彼らの膨大なリソースを投じようとしている。これは,彼らが30-50年前に読んだ古き時代のSFの影響を受けているためだという主張だ。
その主張を適確に表現しているのが,マーク・アンドリーセンの「The Techno-Optimist Manifesto」だ。それはClaudeに読ませて要約させた。
このマニフェストは、技術とその可能性を受け入れ、人類の問題を解決し、人々の生活を改善することを熱烈に主張しています。主なポイントは以下の通りです。・技術は数百年にわたり進歩を推進し、社会を向上させてきた。最近のテックへの反発後、イノベーションを再び称えるべきだ。・市場と資本主義は、技術の利点を広めることを可能にする。AI、バイオテクノロジー、量子コンピューティングなどは更なるブレークスルーを起こすだろう。・気候変動、疾病、貧困などの課題には、技術的解決策が存在する。イノベーションを通じてこれらを克服できることに楽観的であるべきだ。・企業と政府は、R&Dへの投資を促進し、起業家精神を奨励するべきだ。これにより、ソリューションの加速が図れる。・利益と社会福祉の間に矛盾はない。資本主義的生産は社会プログラムの費用を支払う富を生む。・知的対抗勢力は、実際には技術が人生を改善しているにも関わらず、技術の脅威を広めている。彼らのアイデアに反論し、イノベーションの積極的な側面を訴えるべきだ。・全体として、問題を解決し、人間の可能性を最大限に引き出すために、技術の進歩に対する楽観的なビジョンを受け入れることを主張している。
規制のない資本主義だけによる,純粋で技術的カオスの未来を求める奇妙な加速主義哲学の推進をよびかけている。危ない危ない。
もともとSFは体制側の思想と親和性が高い部分を持ってきた。ジョン・W・キャンベル(1910-1971)やロバート・A・ハインライン(1907-1988)は右派として良く知られていたし,日本でも石原藤夫(1933-)や豊田有恒(1938-2023)はかなり右寄りだった。もちろん,ジェイムズ・G・バラード(1930-2009)や小松左京(1931-2011)は戦中の荒波を被って大きな影響を受けているし,既存の制度や社会システムへの斜め45度からの批評の視点を提供してきたのも確かだ。それでも,バブルの80年代以降は,メディアの主流として体制的な冷笑主義の温床となっていたと思えてしまう。
ストロスは次のようにいう。
・ジョン・キャンベルらSF界の右派は、人種差別、性差別、反共主義などの思想を推進した。アイン・ランド(1905-1982)の客観主義も資本主義と親和性が高い。・ロシアの宇宙主義は、スペース移住、不死、スーパーヒューマン、シンギュラリティなど、TESCREALの思想に大きな影響を与えた。・宇宙主義は、惑星移住や銀河系植民地化などの宿命論的目標を提示し、企業家に自己利益の追求を正当化している。・SF作家はエンターテインメント作品を提供する者であり、正確な未来予測は偶発的なものにすぎない。作品は以前の作品からの偏見の影響を大きく受ける。・SFは科学的方法に従って発展していない。商業的人気を追求する中で、過去の作品の思想(エリート主義、人種差別、優生思想など)を無自覚に受け継いできた。
もちろんそうでない素晴らしい作品が沢山あることも事実だが,SFが,宗教のような現実逃避成分を含んでいることも確かだ。
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