次世代知能科学研究センターがオンラインの連続シンポジウムを開催していて,その第11回が「共進化する物理学と人工知能の現在」というテーマだった。樺島祥介,大槻東巳,小林研介,村尾美緒,橋本幸士というメンバーで,2時間40分(20分×5+60分)の内容がYouTubeで公開されている。
物理学の分野でも,深層学習(DL)=AI に関連した研究は最近さかんに行われている。その典型的な例が,物質の実験データをディープニューラルネット(DNN)に学習させた上で,任意の物質における物理量をシュレーディンガー方程式を解かずに予測するというものだ。
ニューラルネットワークの万能近似定理によって,ニューラルネットワークは任意の関数を表現することが可能だということがわかっている。その意味では,このブラックボックスが正しい理論値を与えるのはよいとして,それは科学的な説明になっているのかというわけだ。シンポジウムではこの点を巡るやりとりがあった。
それは,科学的な説明とは何か,わかるとは何かという問題に発展する。物理屋は現象をできるだけ少数の簡単な方程式で表わすことができるとうれしいかもしれない。しかし,農業の分野でも医学でもあるいは工場の生産現場でも,科学的な説明のないブラックボックス的な技術が成功している例は枚挙にいとまない。つまり,物理屋の見方は特殊なのでないかというわけだ。
コンピュータの発達によって,解析的な解が求まらない微分方程式でも,計算機を使えば任意精度で確実に解を得ることができるようになり,微分方程式を解くという概念が変わってしまった。同じように,理論だとかわかるということの意味が変わりつつあるのかもしれない。
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