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2022年4月23日土曜日

原子の寿命

現代物理学の導入部分で, 古典物理学(ニュートン力学+マクスウェル電磁気学)では原子の安定性が説明できないことがひとつの鍵になる。このためには,加速度運動する電子が電磁波を放出することを示す必要がある。ところが,加速荷電粒子からの電磁波の放出は,電磁気学で学ぶ最終コーナーであり,そこまで到達しない場合が多い。

お茶の水女子大学の理学部3年次編入試験では,この部分が次元解析で説明されていた。最初に,陽子(+e)の周りを円運動している電子(e)の位置エネルギーV(r)を無限遠点を基準として求める。ただし,rは陽子から電子までの距離。クーロン定数はk=14πε0とするので,V(r)=ke2r

次に,この非相対論的な運動をしている電子(速度 v,質量 me)の全エネルギー E を求めると E=12mv2ke2r。なお,円運動の向心力=クーロン力から,mev2r=ke2r2 を用いると,E=k2e2r であり,加速度は a=v2r=ke2mer2 

加速度運動する電子から単位時間に放出される電磁波のエネルギー S [kgm2s3]を,次元解析によって表わす。電子の加速度 a [ms2],微細構造定数 α を使って e2 k=αc [kgm3s2] ,光速度 c [ms1] を用いると,Sαca2c3 となる。以下では数係数を1とする。

円運動する電子が単位時間に失うエネルギーは,dEdt=ke22˙rr2=αc2˙rr2。これが上記のSと等しいことから,αc2˙rr2=αca2c3,つまり,˙r=2r2a2c3

ここで,ac=αcmecr2 なので,r2˙r=2(αcmec2)2c 

初期状態で半径r0の原子が電磁波を放出して半径0になるまでの時間をτとすると,

0r0r2dr=τ02(αcmec2)2c dt から,

r303=2(αcmec2)2cτ

τ=r306c(mec2αc)2

r0=1010[m]α=1137c=197×1015[MeVm]mec2=0.5[MeV]c=3×108[ms1] を代入すると,τ=6.7×1011[s]となる。

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