ミクロカノニカル分布について。
小正準集団(ミクロカノニカルアンサンブル)とは,外界から孤立した系の熱平衡状態を記述するための統計集団。考えている孤立系と粒子数($N$),体積($V$)が等しく,エネルギー($E$)がある幅($\delta E$)の範囲で等しい系(コピー)の集団である。その数は,下記で定義される微視的な状態数$W$に等しい。
考えている$\ N\ $粒子系の位相空間($\Gamma\ $空間)とする。1粒子の位相空間($\mu\ $空間)の体積が$h^f$で表わされるとき,$\Gamma\ $空間の細胞$\ d\Gamma\ $における微視的な状態数を$\ dW = \frac{1}{h^{Nf}} d\Gamma = \frac{1}{h^{Nf}} dq_1 \cdots dq_N\ dp_1 \cdots dp_N$とする。これから,$W= \frac{1}{h^{Nf}} \int_{E}^{E+\delta E} dq_1 \cdots dq_N\ dp_1 \cdots dp_N$
等重率の原理は,巨視的に観測される全エネルギーが$E$である小正準集団がすべておなじ重みで確率的な平均操作に寄与するというものである。この確率分布を小正準分布(ミクロカノニカル分布)とよぶ。このとき,ある物理量$A(q_1 \cdots q_N, p_1 \cdots p_N)$において,これを小正準分布を用いてその観測される期待値を求めると次式のようになる。
$\langle A \rangle = \int_{E}^{E+\delta E} A(q_1 \cdots q_N, p_1 \cdots p_N) dq_1 \cdots dq_N\ dp_1 \cdots dp_N / \int_{E}^{E+\delta E} dq_1 \cdots dq_N\ dp_1 \cdots dp_N$
等重率の原理を用いて,$N$粒子系の全位相空間の点を同じ確率で扱う根拠として,かつては,エルゴート定理をその根拠とする教科書が多かった。ところが,田崎晴明さんの統計力学の教科書(2008)でこれを否定してからは,こうした教科書は少なくなった。もっとも,高橋康さんの統計力学入門(1984)には,そのあたりはていねいに書いてあったのだった。
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