2019年9月18日水曜日

三者センターと夏の学校

微分形式の夏からの続き)

当時は(1970年代後半),原子核三者若手夏の学校を運営するために,各大学が分担して三者センター,素粒子準備校,原子核準備校,高エネルギー準備校の4つの役割を割り当てられていた。特に三者センターは会場関係の手配と各パートの調整など最も仕事が多くて大変なため,どの大学もできれば避けたいといった雰囲気が濃厚なのであった。1976年の野沢温泉村の次の夏の学校は,阪大の原子核理論・実験関係のグループが協力してこれを担うことになった。たぶん,野沢温泉村の夏の学校か,あるいは秋の学会でこれを決めたのだと思うが,紆余曲折の末,森田研究室の先輩の西村道明さん(1976年当時D1,後に京セラ)がえいやっと引き受けることを決断したようだ。

1977年の夏の学校は長野県の戸隠中社の民宿群で開かれた。三者センターは民宿きのしたにおかれて,運営に当たる阪大のメンバーはきのしたに集結して宿泊したのだが,下っ端のわれわれM2以下は,何人かずつまとまって周辺の民宿に分散させられた。北大原子核理論の大久保政俊さんと同宿になり,昨年の緊張とはうってかわって,わいわい騒いで楽しんだのだった。

講義や研究会にはちょっと顔を出しただけで,三者センター本部の雑用をして遊んでいたが,買物でおつりを間違えるなど,ろくな役にも立たない学生だった。原子核三者若手の運営でも活躍されていた名大の西岡英寿さん(後に甲南大学,1994年に夭逝)が,奥さんとランニングしていた姿を覚えている。夜,阪大の若手たちで花火だか盆踊りだかを見に行った帰りに,田中万博君(後にKEK)がスターウォーズのこてこての勧善懲悪がおもしろいのであると熱弁を振るっていたのが印象深い。最終日には,原子核実験の先輩の中山信太郎さん(後に徳島大学)と村岡研で同級の佐藤秀明君が民宿きのしたの前庭で,なにやら祭りの後でといった雰囲気でたそがれた会話を交わしていたのだった。

2019年9月17日火曜日

微分形式の夏

わけあって,しばらく微分形式の勉強をしている。

今から43年前の夏。M1だったころ,その年の原子核三者若手夏の学校が,野沢温泉村で開かれた。先輩につれられて夏の学校が何かもわからないまま,草津白根山を観光した後,暗くなってから現地に到着した。各大学の院生たちはばらばらに民宿に割り当てられているので,先輩たちとも離れてポツンと取り残された。原子核実験の先輩の前田和茂さん(東北大学)と同宿で,前田さんは友達の沖花彰さん(京都大学)と良く話していた。その関係で,沖花さんに夜の外湯めぐりにつれていってもらった。後に京都教育大学に勤めるようになった沖花さんはそのことは全く覚えていないとのことだった。

その野沢温泉村のある日の午後,研究会がおわって宿の2階でごろごろしていたら,森田研の同級生の小林正博君が鹿児島大学の素粒子をやっているM1のヒゲのお兄さんと何やら話している。ヒゲのお兄さんは,フランダースの微分形式の理論を読んでいて,これはすごいというようなことをさかんにアピールしていた。当時からあまり勉強していなかった自分は,別にベクトル解析で十分だろうと聞き流していた。しかし,中島慧さんの共変解析力学の定式化の話を目にするにつれ,これはちょっと重要かもしれないと思い,死ぬまでには少しだけ理解したいと考えている。

この夏の学校には,東大有馬研の助手だった久保寺国晴さんが原子核パートの講師として招かれていた。自分たちの研究と関係があったCVCの話や,SCCの現状などを興味深く聞いた。ある日の午後は,講義のない休養日だった。野沢温泉村のプールには原子核素粒子高エネルギーの院生たちが涼を求めて集まっていた。飛び込みプールには10mの飛び込み台もあった。地元の高飛び込みの選手の指導の下,度胸試しで院生の何人かが低いほうから順にチャレンジしていたが,久保寺さんはみごとに10mの高さから足をそろえてきれいに鉛直方向に入水した。

2019年9月16日月曜日

天河大辨財天社

敬老の日の休日なので(実は連日休日なのだ),道の駅吉野路黒滝でおいしい蕎麦(深山そば)を売っているというので,ドライブに出かけたところ,道の駅は入場待ちの行列ができており,10分さきの天川村まで足を伸ばした。

まずは,大峰本宮の天河神社に向った。天河伝説殺人事件は読んだことも映画を見たこともないのだけれど,当時のCMのせいか印象に残っていたので,天河神社の存在はよく認識していた。ところが,妻はそれ何知らないという。そうではなくて,途中に案内があった,丹生川上神社のほうが圧倒的に有名だと主張する。自分はそれ何知らない状態である。調べてみると天河神社は郷社であり,丹生川上神社は旧官幣大社であった。あらら。しかも丹生川上神社の上社はダムに水没させたという。いいのか水神を守る神社にそんなことして。罰があたるぞ。

その後,天川村に1つしかない信号機の横のかどや食堂に入ってアマゴ塩焼き定食とアマゴ甘露煮定食(両方とも安くておいしい)を食べて,これまたすぐ向いの土産物屋の小路の駅「てん」でアマゴの甘露煮をお土産に買った。かどや食堂の亭主夫妻のイラスト入りである。なお,帰りによった道の駅黒滝の深山そばは,人気のため売り切れてしまっていた。



写真:天河神社(撮影 2019.9.16)


2019年9月15日日曜日

iPhone11によせて

石川県立小松高等学校出身の田端信太郎さんが,インターネット個人番組のタバラジで,iPhone11の話をしていた。そう,スマートフォンは完全にコモディティ化したということが再確認された2019年9月10日のApple Special Eventだったね,ということである。要点は,カメラ3つつけて何がうれしいの?2007年のあの感動はどこにいった。しかしそれがすべての製品の必然的運命。次のわくわくさんはなんだろう。以上が内容のまとめであり,1Tweetで表現できそうであるが,ほとんど同意なのだった。

2019年9月14日土曜日

関東大震災とジェノサイド

法被婆酢泥が迫る今日この頃。

東京オリンピック2020は,旭日旗を振り回すだけでなく,無意味なかき氷ばらまきまで行うことになりそうな始末。目も当てられない。毎年9月1日に東京で開かれている関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典に3年連続で追悼文を送らずして虐殺否定論者を支援している小池百合子東京都知事は,橋本聖子五輪担当相と口をそろえてオリンピックへの旭日旗の持ち込みを推奨している。

千葉の台風15号停電断水被害を見聞きするにつけ,あらためて関東大震災のときのことを学ばなければと痛感する。加藤直樹(鹿島拾市)の「九月,東京の路上で―1923年関東大震災 ジェノサイドの残響」は,外山恒一がどこかで書いていたからだろうか,買って読んだのだけれど,もうひとつピンと来なかった。

内閣府の防災情報のページには,「災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 平成18年7月1923 関東大震災」があるので,とりあえず,第4章 混乱による被害の拡大の「第1節 流言蜚語と都市」と「第2節 殺傷事件の発生」を読めとどこかにあったような気もしたが,これでは全く不十分なのだと思われる。2003年の日弁連の勧告書「資料 関東大震災人権救済申立事件調査報告書」なども。

[1]関東大震災時の朝鮮人虐殺について参考となる資料・書籍やサイト一覧

2019年9月13日金曜日

奈良公園バスターミナル

奈良公園バスターミナルは,奈良県庁前での観光バスの乗降にともなう交通渋滞を解消するために,奈良県が45億円をかけて県庁横の空き地を整備し,2019年4月13日にオープンした。パーク&ライドの仕組みとあわせて,奈良公園ゾーンへの観光バスやマイカー流入の抑制を図るという趣旨だったが,バスターミナルの利用が当初の予想の半分程度にとどまっている。

ということで,妻と早速現地調査に赴いた。確かにターミナルは混雑しておらず,市の中心部にたいへんここち良い空間が創出されていた。お店の数もかなり限定されていて,どちらかというとイベントや屋上から奈良の緑に触れるための公共施設といった趣ののんびりした奈良的雰囲気でいっぱいだった。あっ,平城宮跡歴史公園鍵・唐古遺跡史跡公園飛鳥歴史公園などもそうだが,この手のパターンの空間が奈良には多いわ。維新に牛耳られた大阪が公共空間である公園を潰しながら商業化を図っているベクトルとはあきらかに違う。

 

写真:奈良公園バスターミナル(2019.9.12撮影)

2019年9月12日木曜日

五劫院

五劫院は奈良市北御門町にある華厳宗の寺院。東大寺復興の勧進で有名な重源(1121-1206)が開山した。重要文化財の五劫思惟阿弥陀仏坐像が本尊となっている。今日は特別に拝観させていただいた。

この五劫思惟阿弥陀仏は螺髪が伸びるままにまかせ,アフロヘアーのようになっているのが特徴である。昔の笑福亭鶴瓶というか最近のチコちゃんというか。毎年夏に特別開帳されているが,それ以外のときは予約すれば見ることができる場合もある。

なお,形は東大寺傘下の華厳宗であるが,実質は阿弥陀仏をお祭りしている浄土宗だそうだ。法然の名前が行事予定にあった。


 

写真:五劫院(2019.9.12)

2019年9月11日水曜日

千葉県台風15号被害

首都圏でこれだけ大きな被害が発生しているが,官邸もマスコミも無視しているかのよう。情報はTwitterだけか。と思ったが,いちおう発信される情報がゼロというわけではなかった。

[1]内閣府:防災情報のページ
[2]国土交通省:災害・防災情報
[3]経済産業省:安全・安心カテゴリー
[4]総務省消防庁:災害情報
[5]千葉市:台風15号の影響による各種情報
[6]千葉県:防災ポータルサイト
[7]NHK:気象・災害ニュース千葉県災害関連情報(NHK少しがんばった)
追伸
[8]防災科学技術研究所:令和元年梅雨期・台風期クライシスレスポンス



2019年9月10日火曜日

盗まれた街

内閣改造のあまりのひどさと,お友達で何が悪いと堂々と開き直るNHKの岩田の話をきいていて,頭がくらくらしてきた。アベちゃんお気に入り極右日本会議統一教会オールスター悪夢内閣。萩生田・衛藤・江藤・高市・西村・小泉・菅原・武田・・・。

昨日のWOWOWの秋のサスペンス月間でやっていた「インべージョン」の原作はジャック・フィニィの「盗まれた街(The Body Snacher 2007)」だ。ハヤカワ・SF・シリーズ(銀背)のトップなので,名前は十分頭にしみ込んでいるが,未読だった。ニコール・キッドマンが主演で母と息子の物語に翻案され,なにやらスプラッター成分もみられる仕上がりだったので,原作の持っている静な恐怖(らしい)とはややかけ離れていたのかもしれない。なお,2007年公開なので,iPhoneはまだ登場していなかった。

この国ももう盗まれてしまっているのだろうか。

2019年9月9日月曜日

徴用工の定義をめぐって

今回の日韓問題の発端となる徴用工という用語の定義について。昨年11月の安倍首相の国会答弁それ自身が不正確な理解(事実誤認)に基づいている可能性があることを,東京大学総合文化研究科地域文化専攻研究の外村大教授が指摘している。他にも論点整理のための貴重な研究ノートがpdfで公開されている。

2018年11月13日 軍需会社法等で「徴用とみなす」ことについて
2018年11月10日 11月1日首相答弁への疑問―日本政府の戦時労務動員政策理解をめぐって
2018年11月10日 「徴用工」の用語は間違いか? 適切か?




2019年9月8日日曜日

OECD国際成人力調査

早川タダノリさんの『「日本スゴイ」のディストピア―戦時下自画自賛の系譜』ではないけれど,このところ,日本すごい番組が巷にあふれている。あるネトウヨの方が,大人の学力は日本が世界一だとおっしゃってて,本当かと思い調べてみた。

確かに,OECD国際成人力調査PIACC:ピアック)の結果が2013年に報告されていた。OECD加盟国等24か国・地域が参加し,16歳~65歳までの男女個人の「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」及び調査対象者の背景(年齢,性別,学歴,職歴など)を調査したものである。調査目的は,成人のスキルの社会経済への影響や,スキルの向上に対する教育訓練制度の効果などを検証し,各国における学校教育や職業訓練など人材育成政策の参考となる知見を得ることのようだ。

その結果,日本の順位は,読解力1位,数的思考力1位,ITを活用した問題解決能力10位であった。2021-2022年には第2サイクルの調査が始まる予定である。

一方,2004年度の科学技術白書では,科学技術基礎概念の理解度の国際比較調査の結果が示されていた。日本,米国やEUなど西欧の17カ国が対象であり,日本は13位であった。

2019年9月7日土曜日

日韓関係の悪化を招いた責任

外務省に25年勤め,東大教養学部に出向した後,日本大学法学部教授,明治学院大学国際学部教授,広島市立大学広島平和研究所所長などを歴任した浅井基文さんのブログ「21世紀の日本と国際社会」は貴重な論考の集まりだ。

2019年8月25日の記事「引きこもり国家」へと進む日本(ハンギョレ文章)が「世に倦む日々」で紹介され一部で話題になった。「今日の日韓関係の悪化を招いた責任は全的に安倍政権にあることについての私の理解をお話しします」ということで,明解に今の状況を分析している。一読の価値がある。

P. S.  田中宏和の「世に倦む日々」は毀誉褒貶も激しいのだけれど,ときどきは新鮮な切り口を見せてくれる。9月4日の「開戦と戦時」にはドキッとした。



2019年9月6日金曜日

徴用工判決をめぐって

2018年の11月5日に「元徴用工の韓国大法院判決に対する弁護士有志声明」が出されている。

その内容は,いたってシンプルであり納得できるものだ。
1 元徴用工問題の本質は人権問題である
2 日韓請求権協定により個人請求権は消滅していない
3 被害者個人の救済を重視する国際人権法の進展に沿った判決である
4 日韓両国が相互に非難しあうのではなく,本判決を機に根本的な解決を行うべきである

しかし,日本中の多くの人々は政府の説明(国どうしの約束は守らなければならない)のほうを支持しているようだ。

2019年9月5日木曜日

旭日旗舞う東京五輪

オリンピックや万博に血道をあげるよりも,東日本大震災・原発被害からの復興や急速に劣化しつつある生活・国土インフラ補修のほうがよほど重要だと思っていた。そのオリンピックの方は,招致汚職と猛暑の危険とボランティア搾取と大腸菌まみれの海と次々とケチがついてきたが,日本オリンピック委員会(JOC)の非公開を経由してとうとう旭日旗での応援を認めるというところにまで到達したようだ。

日韓関係の悪化のエピソードとしての旭日旗自衛艦の拒否問題は,今年の5月に外務省と防衛省によるプロパガンダ強化へとつながった。官僚たちはみごとに東アジアの歴史問題を「旭日旗の歴史」問題と,どうでもよい「旭日旗のデザイン」問題と,関係ない「満艦飾の定義」問題にすりかえた(防衛官僚の方がやや賢くない印象がある)。これらを背景として,どうしようもないJOCは新しい結論を導いたようだ。

FIFAのこれまでの経緯などからしても,オリンピック競技場への旭日旗の導入にこれっぽっちも賛成する根拠は出てこない。しかし,まじめな青少年諸君とその延長線上にあるマスコミの皆さんは外務省の説明をみて納得するものと想像される。

[1]2019.5.13,外務省 旭日旗
[2]2019.5.24,防衛省 自衛隊の旗と満艦飾について (自衛艦旗について
[3]2018.7.1,セネガル戦でまたも「旭日旗」。日本代表を応援するのに旭日旗を出すべきではないこれだけの理由
[4]2017.4.27,旭日旗はなぜサッカースタジアムで禁止なのか? 関係ない日本側の主張、知るべき国際ルール
[5]2013.7.30,なぜ韓国サポーターは政治的な横断幕を掲げ、旭日旗に反発するのか?
[6]FIFA Stadium Safety and Security Regulations 

2019年9月4日水曜日

ネイピア数と素数

天才数学少女?からの続き)

ネイピア数を10進法で表現し,小数点以下650桁までとったものから2.7を減じたものを整数とみなした数が素数になるという話について。なぜ,最初の2桁を除いたものなのだろうか。その他ではどうなるのだろうか。そこで,上の桁から順に取り除いて整数化したもののうちはじめて素数が現れる小数点以下桁数を探してみた。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
N[E, 20]
2.7182818284590452354

g1[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 2*10^(k + 1))]]
g2[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 27*10^k)]]
g3[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 271*10^(k - 1))]]
g4[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 2718*10^(k - 2))]]
g5[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 27182*10^(k - 3))]]
g6[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 271828*10^(k - 4))]]
g7[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 2718281*10^(k - 5))]]
g8[k_] := PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 27182818*10^(k - 6))]]
g9[k_] :=
 PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 271828182*10^(k - 7))]]
g10[k_] :=
 PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 2718281828*10^(k - 8))]]
g11[k_] :=
 PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 27182818284*10^(k - 9))]]
g12[k_] :=
 PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 271828182845*10^(k - 10))]]
g13[k_] :=
 PrimeQ[Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 2718281828459*10^(k - 11))]]

 {g1[1], g2[649], g3[26], g4[3], g5[25], g6[34], g7[18],  g8[7], g9[273], g10[44], g11[10], g12[16], g13[16]}

 {True, True, True, True, True, True, True, True, True, True, True, True, True}
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

最後の数字はgi[k]のテーブルを目の子で作って探した結果だけを書いたものであり,2桁の2.7を差し引いた場合が,他の場合に比べて際立っていることがわかる。が,それほど意味はない。

【付録】なお,素数定理とネイピア数には関係があるらしい。
f[n_] := Apply[LCM, Range[n]]^(1.0/n)
a = Table[f[i], {i, 1, 10000}]; b=Table[f[i],{i,1,100000}];
ListPlot[a]
ListPlot[b]



図 nまでの数の最小公倍数のn乗根の収束性


2019年9月3日火曜日

様々な反応

天才数学少女?からの続き)

SNSはすごいいきおいで情報を消費していく。それによって,様々なことがらが大きく拡大されたり変形されたりしていく。情報空間の幾何学が実感として必要になるゆえんだ。例えば,仙台の高校生が,いきなりアメリカ在住の日本人高校生になっていた。

昨日の記事についてはいくつかの反応に分かれる。
(1) フェイク説,(2) 懐疑説,(3) 倫理説,(4) 静観説,(5) 支援説,

すのうさんのブログの開始時期と記事日時の不整合にかみついた人もいた。本人は,2019年2月にbloggerからの移転ではじめますと書いてある。ただ,ブログビジネスと書いているところに引っかかるかもしれない。フェイク説のはっきりした根拠はまだ寄せられていない。

懐疑説の代表的なものは,数学デー運営の鯵坂もっちょさん。彼のブログであるアジマティックスはたいへん面白い話題でいっぱいだ。そこには2019年1月の記事「連分数展開について考えてたらやばい式が出てきてやばい」で例の√3や√45の連分数平方根の導出に到った経緯などが詳しく書かれている。これをパクられたのではないかと彼が想像してもおかしくはない。また,素数大富豪の記事があり,5桁程度の素数には熟達しているひとがいても違和感を感じないのかもしれない。

有力なブロガー(いや物理学者だ),野尻さん,田崎さんなどは,未成年に対するパトロネージの話を公開のSNSで行っていることに強く警告をうながしている。それはそのとおりなのだが。でも,すのうさんの衝撃はそれほど大きかったのだということかもしれない(また,1月からはMichigan State University へ移るので)。一方,仙台在住の小波さんや大隅さんは注意しながらも支援説に傾いているようにみえる。ここは千葉逸人さんのコメントをもらいたいところだ。

P. S.(09/05/2019)小波さんがきっかけとなって拡散したこの話題は,結局,9/5にすのうさんの休筆で幕を閉じることになった。フェイク説や懐疑説をみるに,本邦のデルクイを打つエネルギーの大きさと,貴重な情報の取り扱いの難しさをあらためて感じてしまう。


2019年9月2日月曜日

天才数学少女?

小波さんのフェイスブック経由で,東北の天才数学少女の話題が飛び込んできた。詳しくは,東北大学の材料科学高等研究所の数学連携グループ(ビールの千葉逸人さんが教授で在席)に所属している助教の高橋悠樹さんのブログ「すのうの部屋」の2019年7月のところにある。

ラマヌジャン(1887-1920)のように数が見える16歳の高校生だ。数学は得意でないが,数の不思議な関係を直感的に幻視する能力があるらしい。すのうさんが,週1回数学の勉強を指導しているときに,その能力に気付いたそうだ。例えば,5桁の素数で特定のパターンを持つものを指定したところ,5分くらい考えて10個の素数を示したが,後で確認するとそれは正しかったことが確認されたとのこと。

具体的には5桁で,上から2桁目が1,4桁目が3となるもののうち1桁目が1となるものを10個選び出したということである。Mathematicaで確認すると確かに正しいことがわかる。
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In[1]:=  a = Table[Prime[k], {k, 1335, 1439}]

Out[1]=  {10993, 11003, 11027, 11047, 11057, 11059, 11069, 11071, 11083, \
11087, 11093, 11113, 11117, 11119, 11131, 11149, 11159, 11161, 11171, \
11173, 11177, 11197, 11213, 11239, 11243, 11251, 11257, 11261, 11273, \
11279, 11287, 11299, 11311, 11317, 11321, 11329, 11351, 11353, 11369, \
11383, 11393, 11399, 11411, 11423, 11437, 11443, 11447, 11467, 11471, \
11483, 11489, 11491, 11497, 11503, 11519, 11527, 11549, 11551, 11579, \
11587, 11593, 11597, 11617, 11621, 11633, 11657, 11677, 11681, 11689, \
11699, 11701, 11717, 11719, 11731, 11743, 11777, 11779, 11783, 11789, \
11801, 11807, 11813, 11821, 11827, 11831, 11833, 11839, 11863, 11867, \
11887, 11897, 11903, 11909, 11923, 11927, 11933, 11939, 11941, 11953, \
11959, 11969, 11971, 11981, 11987, 12007}

In[2]:=  Select[a, Mod[Floor[#/10], 10] == 3 &]

Out[2]=  {11131, 11239, 11437, 11633, 11731, 11831, 11833, 11839, 11933, 11939}
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さらに,ネイピア数から2.7を引いた数字の小数点以下650桁分を整数と見なしたときにこれが素数であることが,下記のFacebookの記事にみられた。なお,650桁未満のカットオフに対して素数はあらわれない。また次に素数となるのは小数点以下2650桁分である。
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In[3]:=  f[k_] := Do[m = Floor[(N[E, k + 3]*10^(k + 1) - 27*10^k)];Print[m]; Print[PrimeQ[m]], 1]

In[4]:= f[649]

 1828182845904523536028747135266249775724709369995957496696762772407663035354759457138217852516642742746639193200305992181741359662904357290033429526059563073813232862794349076323382988075319525101901157383418793070215408914993488416750924476146066808226480016847741185374234544243710753907774499206955170276183860626133138458300075204493382656029760673711320070932870912744374704723069697720931014169283681902551510865746377211125238978442505695369677078544996996794686445490598793163688923009879312773617821542499922957635148220826989519366803318252886939849646510582093923982948879332036250944311730123819706841614039701983767932068328237646480429

True
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当該のブログではfakeでないかとのコメントもついているが,すのうさんの話が本当ならば,上記の素数列などはネットには上がってこない種類のものなので,彼女がそれらをネットから探し出して再現しているだけだという主張には根拠がないと思う。

素数を生成する式,それはそれこそ紀元前から現代に至るまで誰1人見つけることの出来ていないもので,だから,そんなものは存在するはずがないとずっと思っていましたが。
正真正銘の天才だと僕が信じる人が「あると確信している」と言っているので,恐らくあるのだろうと今は思っています。
「nのフィールド上にあると仮定した軸を持った螺旋にそれと正反対の回転と角度を持った螺旋を任意の(適当な?)CBRにそって回転させていって,それがハマれば当たり」
彼女がこれを我々凡人が理解できるように説明できるだけの数学の知識を得たとき,世界が震撼するかも知れません。

2019年9月1日日曜日

若槻先生と内山先生

原子核物理(実験)が専門の若槻哲雄先生が,阪大の学長になられたのは,自分が4回生のときだった。原子核物理に関係する授業というと,1回生の原子物理学は杉本健三先生で,3回生の原子核物理学は江尻宏康先生だった。若槻先生の授業があったのかどうかあまりはっきりしない。ただ,学長になられる前にクラスの数名と研究室に押し掛けて,当時の学内問題について意見をしにいったというのか聞きに行ったことがあり,たいへん丁寧に対応していただいた。

学長になられてからだったかどうか。理学部5階の大講義室で全学の学生が要求した集会が開かれて,そこで矢面に立たれたことがある。当時の阪大の諸問題のうちで何をめぐるものだったのかははっきり憶えていない。授業料値上反対闘争は,自分たちが入学した時点で収束しており,筑波大学設置をめぐる反「大学管理法案」闘争やそれに連動した言語文化部設置反対運動も2回生のときに収束している。あるいは,宮山寮廃止やその入退寮権をめぐる問題だったのだろうか。こちらの方はかなり長引いていた。

1960年代後半の大学闘争の大波は引いていたが,まだ学内には崩壊熱が残っている時代だった。その理学部での集会はヘルメット学生やゲバ棒は見られない,いたって穏健なものだったが,会場いっぱいに学生や教職員が集まり,学生からはきつい言葉が飛びかっていたと思う。内山先生を見たのはそのときが最初だった。体格のよい先生が若槻先生の演壇の脇に仁王のように立って学生を睥睨し,なにかあったら容赦しないぞという緊張感がただよっていたが,それでも会場の笑いをとっていたのが内山先生らしかった。

2019年8月31日土曜日

龍雄先生の冒険

昨日注文した「龍雄先生の冒険 回想の内山龍雄:一般ゲージ場理論の創始者(窮理舎)」が早速到着した。1994年に私家版として発行され,25年後に内山研究室ゆかりのひとたちが加筆してできた新版だ。

前半が「先生と犬印の缶づめ」というタイトルで,1-2ページ以内のエピソード80話から成り立っている。後半は「耳に残る先生の怒鳴り声」というタイトルで,内山先生の書かれたいくつかの文章(未完のものを含む)があり,最後に砂川重信先生の「さようなら内山先生」という追悼文がきている。

内山研の人々が著者なので,だいたいはお顔が浮かぶか,お名前を耳にしている。斉藤武先生には3回生の量子力学を講義していただいたし,その演習は今回,直接登場されていない国正東作さんだった。細谷暁夫先生は助手か講師の時代で,声をかけられたこともある。先輩の重本和泰さんは隣の研究室の先輩として存在感を発揮されていた。

内山先生には4回生の時の相対論と素粒子論の授業を担当していただいた。大学院に進学して,自分がD1からD2(1978-1979年度)のときに理学部長を務められ,1980年の3月に停年退官されている。M1のときの修士論文発表会では,内山研のH先輩に大きな雷が落ちるのを目撃していたので,今年はどうなるのかとびくびくものだった。しかし,ちょうど理学部長になる直前でお忙しかったのか,自分の発表のときにはたまたまいらっしゃらなかった。伊達宗行先生のやさしい進行で無事に発表は終了したが,よかったのかわるかったのか。

内山先生の大音声はときどき聞こえてきたが,直接お話した機会はごくわずかである。1つは,大学院入試の時で,内山先生,村岡先生のチームの部屋だったか。村岡先生の14Nのスピンと統計の話はちゃんと答えられたが,内山先生の質問はゲージ変換についてだった。電磁場中のシュレーディンガー方程式を書かせ,ゲージ変換でこの方程式がどうなるかを述べよというものだった。ゲージ不変だとは思ったけれども,示すことはできなかった。

もう1回は,附属図書館のアルバイトをしていたときの事件と関係がある。D1のときだったろうか。時間外窓口の担当と図書目録カードの整理が仕事で,週2日ほど夕方2Fのデスクにすわっていた。ある日,係長がトイレに落書きがあるので確認してきてほしいといった。差別問題にかかわるようなものだが,あまり強い印象はない。ただ,不思議だったのが,この落書きをあなたが発見したことにしてほしいといわれたことだ。実際には自分は第一発見者ではなかったが,事情がよく飲み込めずハイハイと返事してそのままにしておいた。1週間ほどしてから,森田先生が学生部屋に来て,内山先生がお呼びだという。なんだろうと思って,内山先生の教授室へ行くとその話だった。なんだかよくわからず狐につままれたようなことで,こちらもハイハイと返事して退室した。

いや,当時はこういう差別落書きが大きな学内問題に発展することは多々あったので,関係者が敏感になっていることは分かっていた。自分は学部生のときにいろいろ騒いでいたので,危ないと思われたのかもしれない。

2019年8月30日金曜日

内山先生の相対論

手元にある岩波全書の「相対性理論(内山龍雄)」は,1977年の出版である。自分がM2の年だ。同じ著者で裳華房の物理学選書の「一般相対性理論」は,1978年だからD1の年。理学部物理学科4回生で受講した内山先生の「相対論」は,特殊相対性理論がテーマだった。毎時間,熟練秘書の辻芳子さん(池田市にあった大教大の官舎近くにお住まいで,後に家族でハワイへ行ったときにもお世話になった)が,教卓にお茶を運んでくる。その後,内山先生がやおら登場してお茶を飲みながらノートなしで,黒板にさらさらと流れるようにゆっくり式を書きながら説明される。一点のよどみもない明確な論理で貫かれた名講義で,聞いているだけで相対論が完全に理解できたような錯覚が得られた。

さて,岩波全書の相対性理論であるが,序の最後で内山龍雄先生は次のように語っている。
たびたび述べるように,説明は平易でも,重要事項はほとんどもれなくとりあげてあるから,本書を読破したなら,相対性理論を理解したという自身をもってさしつかえない。本書は力学(変分原理を含む)と電磁気学の基礎知識さえあれば,必ず理解できる。もし本書を読んでも,これが理解できないようなら,もはや相対性理論を学ぶことはあきらめるべきであろう。
このフレーズは度々あちらこちらで取り上げられ話題になるが,内山先生の講義の受講者としては宜なるかなと思っていた。

しかし今回,これまで未読だった岩波全書後半の一般相対論の部分を読み始めて,この意見を撤回する。内山先生,ちょっと,これだけだと難しくないですか。たぶん「君の勉強不足だろう,わはは」で終了する。122pの接続係数 Γ の定義で,計量テンソルの g の微分は誤植された x でなく,u だと気付くのにしばらく悩み,130pの計量テンソルの性質のところでひっかかった。裳華房の一般相対性理論をみると,ちゃんと導出方法が書いてあったので,問題なく理解できたが,全書版だけこれを推理するのは自分には難しかった。

P. S. 本日は内山先生(1916.8.28-1990.8.30)の命日であり,龍雄先生の冒険(窮理舎)の発売日だった。