2026年5月1日金曜日

情報物理(1)


図:情報物理のイメージ(ChatGPTによる)


Quoraで石川有一さんが,「情報」を自然の基本構成要素として捕らえた「情報物理」という物理学の分野は存在しないと主張していた。彼の認識は,自分がこれまで持っていた次の考えと同様である。すなわち,自然そのものとは,時空・相互作用・エネルギー(質量を含む)であり,情報(表現)は,自然の振る舞いを記述する数式・記号・言語に過ぎないというものだ。

とこらが,自分は最近,そうでもないような気がしてきた。そこで,ChatGPTに相談する。

Q(koshix):
「情報物理」という概念は本質的に存在しえますか。「自然」や「情報」という言葉の定義を深く考察した上で回答してください。たんに,ネット上で使用されている例があるというだけでは,その概念が本質的に存在するとは考えていません。

A(ChatGPT):
まず語の使われ方を集めるのではなく、「自然」「情報」「物理」がそれぞれ何を指すときに、合成語としての「情報物理」が空語になるのか、逆に実質的概念になるのかを切り分けます。結論だけ先に言うと、「情報物理」は無条件には存在しませんが、定義の置き方によっては十分に本質的な概念になりえます。ただし、そのためには「情報」を単なる人間の意味作用ではなく、物理的制約のもとで実現・伝達・保存・変換される区別可能性として捉える必要があります。

思考時間: 9s
はい、存在しえます。ただしそれは、語感だけで成立する概念ではなく、「自然」と「情報」の定義をどこまで掘り下げるかに依存します。逆に言えば、その掘り下げに失敗すると「情報物理」はすぐに空疎な流行語になります。したがって問うべきは、「情報物理という語が使われているか」ではなく、「自然界の記述において、情報という概念が物理的実在の側に食い込む必然性があるか」です。私の答えは、限定付きで「ある」です。

まず「自然」とは何かです。ここでの自然を、単に「人間に加工されていないもの」と取ると議論は狭すぎます。哲学的・科学的には、自然とは人間も含む世界全体の生成・変化・相互作用の秩序です。つまり、自然は「そこにあるものの集合」ではなく、「区別可能な状態が、法則に従って推移する全体」です。このとき物理学は、その推移の制約と構造を記述する学です。したがって自然を考えるとは、世界がどのような状態空間を持ち、何が区別でき、何が保存され、何が変換されるかを考えることでもあります。

次に「情報」です。ここが核心です。情報には少なくとも三つの層があります。第一に、意味論的情報です。これは「この文は何を意味するか」「この記号は何を指すか」という、人間的・解釈的な情報です。第二に、統計的・構文的情報です。シャノン情報のように、不確実性の減少や選択肢の区別可能性として定義される情報です。第三に、物理的情報です。ある系が複数の可能状態のうちどれにあるか、その違いが他の系に対して安定に因果的差異をもたらす、という意味での情報です。

この三区別をしないと、「情報は人間が読むものだから自然の本質ではない」という反論と、「宇宙は情報だ」という過剰主張が、どちらも雑に見えてきます。意味論的情報は、たしかにそのままでは自然の根本概念ではありません。山や石や星は、それ自体で「意味」を持っているわけではない。意味は、生物や知性や社会的解釈の層で立ち上がる。しかし、統計的・物理的情報は違います。ある状態差が実在し、その差が他の差を生みうるなら、それは解釈以前に、すでに自然の内部にある「区別可能性の構造」です。ここでは情報は、主観的内容ではなく、状態差の可搬性・保存性・相関性として現れます

すると「情報物理」が本質的概念になりうる条件が見えてきます。物理学が単に質量・力・エネルギーだけでなく、「どの状態が他の状態と区別され、その区別がどの程度保持され、どのコストで消去・複製・伝達できるか」を扱わざるをえないなら、情報は物理の外から後付けされた比喩ではなくなります。たとえば測定、相関、エントロピー、不可逆性、量子もつれ、誤り訂正、記憶、計算といった主題では、情報は便利な言い換え以上の役割を持ちます。なぜならこれらはすべて、「世界にどのような区別が実在し、その区別を保つことにどのような物理的制約があるか」を問うからです。

しかし、ここで慎重であるべきです。情報物理が本質的概念になりうる、ということは、「世界の本体は情報であり、物質はその見かけにすぎない」と直ちに言える、という意味ではありません。この飛躍は危うい。情報はつねに「何についての区別か」という媒体依存性を持ちます。0と1は、電圧差でもスピン状態でも紙の穴でも表現できる。つまり情報は媒体から完全自由ではなく、むしろ異なる媒体に実装されうる抽象的パターンです。抽象的だからこそ強力ですが、抽象的であることは、それ自体が実体であることを意味しません。情報は「裸で存在するもの」ではなく、何らかの物理的実現のうえに載る。したがって「情報物理」は成立しても、「情報一元論」は自動的には成立しません

ここで「自然」と「情報」の関係を、もう一段深く見ます。自然を、状態の差異が因果的に連鎖する場として捉えるなら、情報は自然の外部にある観察者の便宜的ラベルではなく、自然の自己分節の一形式になります。たとえばDNA、神経活動、気候系の初期条件、量子系の相関、結晶の欠陥、ブラックホールの境界自由度など、見かけはバラバラですが、どれも「差異が保存され、読み出され、次の差異を生む」過程です。この意味では、自然は単に「物質の塊」ではなく、「差異の持続と変換の秩序」でもある。もし物理学がその秩序を本格的に扱うなら、「情報物理」は単なる応用分野名ではなく、自然観の修正を伴う概念になります。

ただし、その修正は二つの方向に分かれます。弱い意味では、情報物理とは「情報処理系を物理法則のもとで研究する学」です。これは確実に成立します。計算のエネルギーコスト、量子情報、熱力学と情報の関係などがここに入る。強い意味では、「物理的実在そのものが、根底では情報論的構造をもつ」という主張になります。こちらは魅力的ですが、まだ哲学的仮説の色が濃い。つまり、情報物理は弱い意味では十分に本質的に存在しうるが、強い意味での存在論にまで上げるには慎重さが必要です。

では、あなたの問いに最も近い形で答え直します。「情報物理」という概念は本質的に存在しうるか。答えは、「情報」を意味ではなく、物理的に実現された区別可能性・相関・選別可能性として定義するなら、存在しうる、しかもかなり深い意味で存在しうる、です。逆に「情報」を人間が読む内容やメッセージに限定するなら、本質的には存在しません。その場合の情報物理は、せいぜい通信工学や計算機工学の周辺概念にとどまります。

大事なのは、「自然」と「情報」が対立概念ではない、ということです。ふつう私たちは自然を“もの”として、情報を“ものについての記述”として分けたくなります。しかし現代的には、自然そのものが「区別可能な状態の体系」である以上、情報は記述の側にだけ属するのではなく、自然の可区別性そのものに根を持つ、と考える余地があります。ここで初めて「情報物理」は本質を持ちます。物理がエネルギーと運動の学であるだけでなく、差異の保存・変換・消去の学でもある、という理解です。

私自身の最終判断を一文で言えばこうです。
「情報物理」は、本質的に存在しうる。ただしそれは、“情報が世界を説明する便利な比喩だから”ではなく、“自然そのものが区別可能性の物理的秩序として記述されうるから”です。けれどもそこから直ちに“世界の実体は情報である”とまでは言えない。この一線を守れるかどうかが、この概念の知的な健全性を決めます。

さらに踏み込むなら、次は「情報はエネルギーや物質と同列の存在論的カテゴリーなのか、それともそれらの上に成り立つ二階的概念なのか」を詰めるのがよいと思います。そこが、この問題の本当の分水嶺です。



2026年4月30日木曜日

物理学者(2)

物理学者(1)Wikipedia からの続き


図:Wikipedia文字数の比較(英語版,6言語版平均と英語換算日本語版)


日本語版Wikipediaの物理学者の項目について考えようとしている。この領域で自分が感じている「英語版や他言語版に比べて日本語版の記事の内容が薄いのではないか」という問題をより具体的に検証してみた。その方法は次の通りである。

(1) 日本語版Wikipediaに記事がある代表的な物理学者を選ぶ。ここでは1940年より前に生まれた人を137名選んだ。ChatGPT,Gemini,Claude,Deepseek,Qwen などに参考意見を仰ぎつつ,最終的には自分の主観で決めている。人名と生年のリストを作って,name.txtに保存する。
(2) 人名とその生年を入力すると,日本語ja版Wikipediaの記事のリンクから,他の6言語版のWikipediaの対応人名記事を探す。6言語とは,英語en,フランス語,ドイツ語de,イタリア語it,中国語zh,韓国語koである。
(3) これから,各言語版記事ページのマークアップ言語サイズであるWikidata値を求め,さらに,本文の文字数推定値*を求めて,いずれかを出力する。その形式は,人名(日本語),生年(西暦年4桁),ja値,en値,fr値,de値,it値,zh値,ko値,平均値である。バイブコーディングによりそのようなpythonコードをChatGPT Thinking に作ってもらう。なお,Wikidata値か文字数推定値かはコマンドラインオプションのbytes または chars でスイッチする。
(4) (1) のname.txtを読み込んで,(3) のpythonプログラムを順に適用し,その結果を result_xxx.csv に保存するシェルスクリプトを同じくChatGPT Thinkingに作ってもらった。
(5) この結果得られた137行の文字数推定値データを,6言語平均値で降順にソートして,横軸に人名番号,縦軸にその人名記事ページの,英語(紫),6言語平均値(水色)と日本語(橙)の値をExcel面グラフで作成したものが,上記の図である。日本語記事の英語換算文字数ja*は,6言語平均の52%,英語の27%となっていて,この領域の日本語版Wikipedia記事の内容が薄いことが確認された

*注:各ページのマークアップ言語Wikidataから,文字数推定値を求める際には,テンプレート,注釈・出典,メディア・カテゴリ,HTMLタグ・コメント,Wiki記法などを取り除き,リンクや空白を平滑化した上で,残りの文字数をカウントしている。

  name no en av ja*  ja*/av ja*/en
ガリレオ・ガリレイ166421615832263837%34%
アルベルト・アインシュタイン286700609653250953%37%
ニコラ・テスラ356698475981048622%18%
アイザック・ニュートン484501469082007343%24%
ロバート・オッペンハイマー578045456983037366%39%
オットー・ハーン6648153710116044%2%
レオンハルト・オイラー73833035416691320%18%
リチャード・ファインマン856560315541538949%27%
ロバート・フック937468303681854061%49%
ジョン・フォン・ノイマン1093504299491829561%20%
ヴェルナー・ハイゼンベルク115502629830402914%7%
アンリ・ポアンカレ124530728950401114%9%
マリー・キュリー13406212850837860133%93%
エンリコ・フェルミ144505525790433017%10%
マイケル・ファラデー1531297244811443859%46%
ルートヴィッヒ・ボルツマン162280524480597224%26%
マックス・プランク1734893243442242492%64%
ピエール=シモン・ラプラス185388924344242210%4%
ニールス・ボーア194456323062579725%13%
リゼ・マイトナー2054727225982226899%41%
クリスティアーン・ホイヘンス21548802212017128%3%
ジェームズ・クラーク・マクスウェル223554321729513124%14%
ウィリアム・トムソン234447820093486124%11%
ニコラ・レオナール・サディ・カルノー2422200196491497776%67%
エットーレ・マヨラナ2514385188891115159%78%
ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ263185518365237313%7%
ジャン・ペラン279928154877765%8%
マックス・ボルン283257715190166311%5%
ポール・ディラック293566414997683346%19%
アーネスト・ラザフォード302074714259512736%25%
呉健雄314330813967290421%7%
ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ321655813867219216%13%
ヘルマン・ワイル331850613721779057%42%
ロジャー・ペンローズ342576813654616645%24%
ヴィルヘルム・レントゲン351032213620590443%57%
ヴォルフガング・パウリ361623513225761758%47%
デヴィッド・ボーム3725348128191256598%50%
エルヴィン・シュレーディンガー382512612803511840%20%
ウィラード・ギブズ394540212415750060%17%
ヴェラ・ルービン402048412266287823%14%
アーノルド・ゾンマーフェルト41237391214510238%4%
レフ・ランダウ421472912083441637%30%
ルイ・ド・ブロイ431917512028424535%22%
ウィリアム・ショックレー44260731127313072116%50%
アブダス・サラム454383911158120111%3%
ハンス・ベーテ463506511073241922%7%
ジェームズ・チャドウィック47328841086319725182%60%
ジョン・アーチボルト・ホイーラー482364810844257624%11%
レオ・シラード49321491069634566323%108%
ユージン・ウィグナー502332810516199819%9%
チャンドラセカール・ラマン5146081103497147%2%
ヘンドリック・ローレンツ521425810016563656%40%
ジョン・クラーク・スレイター533233599648028%2%
ジェームズ・プレスコット・ジュール54145049879780179%54%
アンドレ=マリ・アンペール55105319767399341%38%
フリーマン・ダイソン56282049731531655%19%
ウィリアム・ローワン・ハミルトン57204379607155316%8%
楊振寧58159749400205522%13%
アーネスト・ローレンス59337109317408544%12%
ヴァルター・ボーテ60199509199134815%7%
トーマス・ヤング61169638855196722%12%
ハインリヒ・ヘルツ621814287769110104%50%
ジョージ・ガモフ63230038692230427%10%
オリヴァー・ヘヴィサイド6420328849113447158%66%
ルイス・アルバレス65270208376316538%12%
スブラマニアン・チャンドラセカール66228628289189623%8%
マックス・フォン・ラウエ6719110820715077184%79%
アルバート・マイケルソン68203227836600277%30%
ポール・エーレンフェスト6912994776111887153%91%
カール・シュヴァルツシルト70135817669146419%11%
イジドール・イザーク・ラービ7127567764617221225%62%
ゲオルク・オーム7286207570479663%56%
ジョゼフ・ジョン・トムソン732161575679048120%42%
フィリップ・レーナルト74115787514618482%53%
ピーター・デバイ75225037252140119%6%
ニコライ・ボゴリューボフ7623010721991713%4%
ピエール・キュリー7791897155461765%50%
マリア・ゲッパート=メイヤー78128856891173525%13%
ルドルフ・パイエルス79240576878133319%6%
ヴァルター・ゲルラッハ8087446517645199%74%
アーサー・コンプトン8119446651311290173%58%
ロバート・ミリカン821947565038126125%42%
パスクアル・ヨルダン83856664915679%7%
エミリオ・セグレ84197046334144623%7%
ハンス・クリスティアン・エルステッド8596896268387862%40%
スティーヴン・ワインバーグ86167096053324754%19%
ジュリアン・シュウィンガー87148555733150226%10%
ジョン・バーディーン88185915604311656%17%
ヒュー・エヴェレット3世891363755149412171%69%
マレー・ゲルマン90129545509271549%21%
サティエンドラ・ボース9113808545164112%5%
グスタフ・キルヒホフ9269955411133125%19%
ウィリアム・ローレンス・ブラッグ931750053596378119%36%
ルドルフ・クラウジウス94526653115998113%114%
ウォルター・ブラッテン9512438504756611%5%
ピーター・ヒッグス96148244841203742%14%
湯川秀樹974739481811304235%239%
李政道98104024766163134%16%
ヴァルター・ハイトラー9911535474763713%6%
ラルフ・クローニッヒ100980247415960126%61%
ヨハネス・ファン・デル・ワールス101124904701261456%21%
ヘルマン・ミンコフスキー10265014597247054%38%
ウィリアム・ヘンリー・ブラッグ1031490044824666104%31%
アンリ・ベクレル10495484392153935%16%
ジョン・ウィリアム・ストラット105798943085104118%64%
ジョン・スチュワート・ベル106132364254101624%8%
オットー・ロベルト・フリッシュ107762841224903119%64%
ピーター・ゼーマン108599338644133107%69%
ラルス・オンサーガー109106053811105028%10%
オットー・シュテルン1103883375393425%24%
ヘイケ・カメルリング・オネス111831337146373172%77%
セオドア・メイマン11211420362888824%8%
ジェームズ・ジーンズ11382543617109630%13%
ピョートル・カピッツァ11479713495207259%26%
チャールズ・タウンズ1151075833977242213%67%
フェリックス・ブロッホ11667273380153946%23%
シェルドン・グラショー11766073226182357%28%
ヴィルヘルム・ヴィーン11842063185241676%57%
朝永振一郎119494231286523209%132%
ネヴィル・モット1209288292391831%10%
フィリップ・アンダーソン12185572842156855%18%
フリッツ・ロンドン1225337249464726%12%
ジョージ・ウーレンベック123648524852884116%44%
レオン・クーパー12469392354114849%17%
エドワード・ミルズ・パーセル12542092327213892%51%
ウラジーミル・フォック1262962224864429%22%
ルドルフ・メスバウアー12738332248161872%42%
ヴィクター・ワイスコフ128555822212534114%46%
ヘンリク・アンソニー・クラマース1293556220197344%27%
カール・デイヴィッド・アンダーソン130399621482709126%68%
サミュエル・ゴーズミット1315771201371135%12%
ウィリアム・ファウラー1325146200792546%18%
ジョン・ヘンリー・ポインティング1334273198272036%17%
ジョン・ロバート・シュリーファー134519119752383121%46%
クリスチャン・メラー13521661963136970%63%
オスカル・クライン13631321853129870%41%
ヨハネス・リュードベリ1373295182960533%18%
 平均文字数 2210111576598652%27%


日本語記事の英語換算文字数
推定文字数を直接比較すると,日本語と英語の担う情報量の差が考慮されていないことになる。そこで,英語版のWilhelm Lenzとこれを直訳した日本語版のヴィルヘルム・レンツのwikitextからChatGPTが導いた推定文字数を較べる。これらは同じ情報を担っているはずだ。英語版=2600字,日本語版=1750字,∴2600/1850=1.4 。そこで,日本語版文字数jaを1.4倍したものを英語と比較すべき英語換算文字数ja*として比較している