2021年8月31日火曜日

RIAA

 アメリカレコード協会(RIAA)のセールスデータベースによると,この50年の音楽のメディア別の売上高は次のようなグラフで表される。


自分がレコードを買うようになったのは中学2年(1967)の頃からである。そのころは,45回転のシングル(ドーナツ盤)や33回転のEPあるいはLPなどのレコード若しくはカーステレオ用のカセットのようなメディアしかなかった。1970年代には以前ほどではなかったけれど,妹の下宿に導入されたSONYのステレオコンポでLPを聞く時代が続いていた。

1980年代になって結婚したときにもまだCDは登場していなかった。SONYがCDを開発したというニュースが大学の研究室で話題になったときも,大塚さんはこれは普及しないだろうと予測していた。いやそんなことはないだろうと思っていたが案の定あっというまにCDの時代がやってきた。

1990年代になるとCDもレンタルに頼るだけで買わなくなってしまうのだが,そうこうしているうちに2000年代になって,iPodiTunesストアが登場したので早速飛びついた。これで録音された音楽の状況が全く変わってしまい,やがてCDも衰退への道を進み始める。一方,アメリカの状況をみれば,ここ数年で音楽はサブスクリプションで聴くというスタイルに完全に移行してしまっている。でも自分はちょっとそれにはついていけないかな・・・

どうしても必要な音楽はいまでもCDを購入/レンタルして,iTunesストアからダウンロードしている。サブスクリプションのかわりはYouTubeであり,1960〜70年代の懐かしのアーティストを古びた映像つきで視聴するようになった。

2021年8月30日月曜日

リスキリング

 リスキリング(reskilling)という言葉を聞いたとき,リスクマネジメントの変種かと思った。放送大学の奈良先生は,リスクマネジメントの次の宣伝ワードとしてレジリエンスを採用してがんばっているようだ。

そのリスキングは,たぶんリクルートが経産省に売り込んだ宣伝ワードである。「新しい職業に就くために,あるいは,今の職業で必 要とされるスキルの大幅な変化に適応するために, 必要なスキルを獲得する/させること」なのだ。

これが,DX(デジタルトランスフォーメーション)とセットの詰め合わせ商品になっているのではないか。こうしてコンサル屋や広告屋や教材屋がますます儲かるということになるのだけれど,実質的なリスキリングはたぶん進まないのではないかと想像している。

あるいは,学校教育へのリスキリングの適用がプログラミング教育なのかもしれない。

[1]リスキリング デジタル時代の人材戦略(20202021

2021年8月29日日曜日

人新世

たまに本屋にいくたびに, 斎藤幸平人新世の「資本論」(集英社新書)を買おうかどうしようかと迷っているうちに30万部を超えていた。とりあえず,youtubeの対談で予習しているけれど。

その「人新世(Anthropocene)」は「じんしんせい」と読んでいたけれど,斎藤は「ひとしんせい」と発音していた。地質年代に関する概念であり,大気科学者のパウル・クルッツェンらが 2000年にAnthropocene(ギリシャ語に由来し「人間の新たな時代」の意)として提唱したものだ。

地質時代の区分は,動物化石を基に分類されていて,生物の大量絶滅が古生代,中生代,新生代を分けている。新生代は古第三紀(6600万年前〜),新第三紀(2303万年前〜),第四紀(258万年前〜)から成り,人類登場以降の第四紀は更新世(258万年前〜)と完新世(1万1千7百年前〜)に分かれる。

人新世は,人間の経済活動が地球の環境に不可逆な影響を与えうること,人間の活動が地球という惑星の上にすむ他の種や人間自身の生存に,またひいては惑星そのものの存続に影響を与えるということで定義されたものだ。その始まりについては,産業革命の18世紀後半,放射性降下物の1945年,化石燃料が急増した1950年などのいくつかの立場がある。

人間が生み出したもので地球環境全体に深刻な影響しているものは,(1) 人工放射性物質,(2) 環境化学物質(気体),(3) 環境化学物質(薬品,合成樹脂)などがある。いまは,CO2に焦点があたっているが,二酸化炭素にせよメタンにせよ本来地球上に存在していたものである。しかし,半減期が非常に長い人工放射性物質や分解されない合成樹脂(マイクロプラスティック)は,人類以前には存在していなかったものなのでそちらの方が心配なのだった。

図:地質系統・年代の日本語記述(日本地質学会より)


2021年8月28日土曜日

空気感染

 日本の新型コロナ感染症対策がみごとに失敗している件。これまで,厚生労働省の医系技官やネット上の医療系クラスターによって,1) PCR検査は感染を拡大するからなるべく避けるべきという抑制論,2) コロナは空気感染しない=飛沫感染論が跋扈してきた。

ようやくこれに対する揺り戻しがはじまった。一つは,科学社会学系の東北大学の本堂毅さんとKEKの平田光司さんが世話人となった最新の知見に基づいたコロナ感染症対策を求める科学者の緊急声明である。例のごとく3行で要約すると

「新型コロナウイルス感染拡大を受け,政府や一部医学関係者から「策が尽きた」との声が聞こえている。早期発見と隔離やワクチンなど有効な施策がないとの意見には同意できない。未だ様々な方法が残されており,それらによる感染拡大の阻止は可能である」

またつぎの3点を提案している。

A)ウイルス対応マスク装着についての市民への速やかな周知と必要な制度的措置

B)熱交換換気装置や空気清浄機,フィルター等の正しい選択と有効な活用についての行政の理解と市民一般への十分な周知

C)効果の科学的証明には時間を要するため,最新の知見から有効と予想できる対策は,中立的組織による効果の検証を平行しつつ,公平性や安全性に配慮して実施する

Scienceの論文 [1] でも空気感染の定義が再検討されて,COVID-19における空気感染=エアロゾル感染を再認識することの重要性が指摘されている。

今後の展望:病原体の空気感染は,これまで十分に評価されていませんでした。その理由のほとんどは,エアロゾルの空気中での挙動に関する理解が不十分であったことと,少なくとも部分的には,極めて重要な観察結果が誤って伝えられていたことによります。飛沫感染や付着物による感染の証拠がないことや,エアロゾルによる多くの呼吸器系ウイルスの感染の証拠がますます強くなっていることを考えると,空気感染はこれまで認識されていたよりもはるかに広く行われていることを認識しなければなりません。SARS-CoV-2の感染について分かったことは,すべての呼吸器系感染症においてエアロゾルによる感染経路を再評価する必要があるということです。換気,気流,空気ろ過,紫外線消毒,マスクの装着など,近距離と遠距離の両方でエアロゾルの透過を緩和するための予防措置を講じなければならない。これらの対策は、現在のパンデミックを終わらせ、将来のパンデミックを防ぐための重要な手段である。

図:空気感染に関する論文[1]より引用

また,PCR検査抑制論への反論については朴勝俊先生の [3] が詳しい。

[1]Airborne transmission of respiratory viruses
[2]FAQs on Protecting Yourself from COVID-19 Aerosol Transmission
[3]クロス表とベイズの公式に基づく新型コロナPCR検査抑制論の検討(朴勝俊)
[4]PCR検査抑制論の年譜と語録(伊賀治)
[5]東京と日本の現状と今後(2021/8/28)(牧野淳一郎)
[6]人命尊重のコロナ政策最優先への根本的転換を(世界平和アピール七人委員会)

2021年8月27日金曜日

稼げる大学

日本学術会議に取って代わろうとしている総合科学技術・イノベーション会議の第56回本会議が8月26日に開催された。その議事は,大学改革の方向性について(世界と伍するトップ研究大学の在り方について,地域中核大学の在り方について)である。

なぜかマスコミ(時事通信)は,「稼げる大学」へ外部の知恵導入という見出しで報道していた。案の定,ネット上では批判殺到である。ただ,会議の配布資料をみると稼げる大学という直接的表現はないにせよ,一方で外部の知恵どころの話でもない

諸外国の大学は,長期の成長(次世代の研究や若手研究者へ投資)が大前提

1 意思決定:長期に渡って一貫した成長戦略を実施できるよう,大学の長ではなく,ステークホルダ ーを入れた合議体が最終意思決定

2 大学の長:自律的な活動により,成長を達成できるマネジメントを実現 → 学内外から経営的資質を踏まえて合議体が選考・監督

3 執行機関:規模の成長や専門性に対応できるよう,大学の長を支える経営幹部の充実 →教学担当役員や事業財務担当役員を配置し,責任体制を明確化

「世界と伍する研究大学」に求められるコミットメント(成長と改革にコミットした数大学を支援

1 ミッションの見直し(人類経済社会への貢献)= 研究力の飛躍的伸長

2 潤沢な外部資金の確保と毎年 3% 以上の事業成長 

3 成長を可能にするガバナンスシステムの導入 最高意思決定機関としての合議体設置/学長の経営資質を重視/学長を支える経営幹部の充実 

国立大学の法人化以降,日本の大学のパフォーマンスが海外の大学に比べて圧倒的に遅れてしまったのは,ガバナンス改革と「選択と集中」政策によるものだというのが, 多くの関係者や識者の分析するところだ。しかしながら,この国は大学ファンドを導入した上で,更なる権力集中と大学選抜を進めようとしている。

P. S. この結論は,今年3月に開催された第1回世界と伍する研究大学専門調査会で出てしまっている。資料では各分野の国別論文ランキングで日本の大学が2004年以降急速にランクダウンしていることを象徴的にとりあげている。これはほぼ国立大学法人化の副作用であることがわかっているが,現状についての分析や反省なしにいきなり英米の大学システムを参照してそれにむけて舵を切ってしまっている。

2021年8月26日木曜日

長文要約AI

どんな文章でもAIが3行で要約する」という謳い文句の長文要約AI ELYZA DIGEST が,東大の松尾研のあたりで開発され公開されている。

佐藤さんからベータ崩壊の論文(Beta-decay formulas revisited (I): Gamow–Teller and spin-dipole contributions to allowed and first-forbidden transitions)を送ってもらったので,早速試してみる。

もとの論文の概要をDeepLにかけたものがこれ。

実用的な計算方法として、核のβ崩壊率の公式を提案する。崩壊率は、レプトン電流密度とハドロン電流密度の積で決まる。広く使われている公式は、原子核内の低エネルギーレプトンの波動関数が、s波とp波の波動関数に対して、それぞれ定数と半径に対する線形でよく近似できるという事実に基づいている。しかし、ディラック方程式を数値的に解くと、Zが大きい重い原子核では、このような単純な近似からの逸脱が明らかになることがわかりました。私たちが提案する公式では、ニュートリノの波動関数は平面波として正確に扱い、電子の波動関数は積分方程式を繰り返し解くことで得られるため、近似波動関数の不確かさをコントロールすることができます。前進次数近似では、従来のものと同等の式が得られ、崩壊率を過大評価してしまいます。我々は、次の次数の式が、核エネルギー密度汎関数法によって得られた微視的な遷移密度と同様に、概略的な遷移密度に対する正確な結果をよく再現することを示した。

それをElyza Digestにかけたものがこれ。

実用的な計算方法として、核のΒ崩壊率の公式を提案する。崩壊率はレプトン電流密度とハドロン電流密度の積で決まる。前進次数近似では、従来のものと同等の式が得られ崩壊率を過大評価する。

βがBになっているのはよいとして,まあこんなものか。DeepLのいう前進次数近似というのは," The leading-order approximation" のことなので,これはちょっと仕方ないかもしれない。


写真:ELYZA DIGESTのウェブサイトから


2021年8月25日水曜日

LeftValues

 「LeftValuesとは、8valuesから着想を得た,左派・左翼向け政治診断です。左派のなかでも,あなたがどのような価値観をもっているのか診断します。 右寄りの方は正しい結果が得られませんので,ご注意ください」なので,早速試してみよう。

ちなみに,8valuesは日本語化されていないのに,LeftValuesは各国語対応になっている。72問あり,{つよく同意する,同意する,どちらでもない/わからない,同意しない,全く同意しない}の5択となっている。

診断結果は次の7主軸で分析される。自分の結果を括弧内に示す。

革命 vs. 改革 (中立:48.5%-51.5%)

「革命」のスコアが高い方は、大衆の反乱を通じた、より劇的で急進的な資本主義体制の転覆を支持する傾向にあります。「改革」のスコアが高い方は、自由民主制など、資本主義の枠組みの中で段階的に変化を導入することで社会主義に到達することを好む傾向にあります。

科学 vs. 空想 (科学主義寄り:62.5%-37.5%)

「科学」のスコアが高い方は、弁証法的唯物論に沿ったマルクス主義的な社会分析を支持ないしはこれに賛同する傾向があります。「空想」のスコアが高い方は、理想主義に基づいた社会の分析を信じ、唯物論的なアプローチを否定する傾向があります。

集権 vs. 分権 (かなり分権派:20.0%-80.0%)

「集権」のスコアが高い方は、非常に強い権力をもった国が統制し、計画して運営する経済を支持する傾向が強いです。「分権」のスコアが高い方は、通常より局所的な単位で計画される、分権化した経済体制を支持する傾向にあります。

国際主義 vs. 一国主義 (中立:50.0%-50.0%)

「国際主義」のスコアが高い方は、国際社会主義運動の実現に賛同する傾向にあります。多くの場合、最終的に国境の廃止を求めることも多いです。一方、「一国主義」寄りの方は、既存の国境内において社会主義を実現することを優先し、社会主義共和政体の形成には否定的な態度を取る傾向にあります。

政党 vs. 組合 (中立:42.3%-57.7%)

「政党」のスコアが高い方は、政党を基盤に用いた社会主義運動を求める傾向にあります。「組合」のスコアが高い方は、労働組合やその他の大衆による組織を基盤に用いることを好む傾向にあります。ただし、政党に賛成であることは、必ずしも組合による運動に対して否定的であることを意味しません。逆もしかりです。あなたがどちらを好む傾向にあるかをこの軸は示しています。

産業vs.自然 (中立:51.4%-48.6%)

「産業」のスコアがより高い方は、環境保護よりも生産性や自給自足を優先する傾向にあります。「自然」のスコアがより高い方は、自然保護のための規制を積極的に行う、環境志向の経済を支持する傾向にあります。

保守 vs. 進歩 (革新派:35.3%-64.7%)

「保守」のスコアがより高い方は、保守的な政策や価値観を好む傾向にあります。一方、「進歩」のスコアが高い方は、社会を革新させようとする政策や価値観を支持する傾向にあります。

で,まとめると「中道マルクス主義」という結果だ。

中道マルクス主義(Centrist Marxism)は社会と経済についてマルクス主義的見解を採用する一方で、革命と改革主義については中立的立場を取る、マルクス主義の一形態です。 中道マルクス主義者の多くは、他のマルクス主義者よりナショナリズム寄りの立場を取ることもあります。

なお,市場無政府主義: 96.7%,左翼ナショナリズム: 94.7%,無政府共産主義: 93.5%と,距離が近い。また,エコ・マルクス主義: 42.6%,左派共産主義: 40.6%,空想的社会主義: 35.1%,マルクス・レーニン主義: 0% とは距離が遠い。マルクスの「共産党宣言」とかエンゲルスの「空想から科学へ(高校の時に本屋でみつけてSFの入門書かと思っていたが,どうも目次がそれらしくなくて焦った奴だ)」の入門書程度の予備知識は必要かもしれない。

2021年8月24日火曜日

フィボナッチ数列と1/89

不思議な式をみかけたのでメモ。小数点以下の数字の並びがフィボナッチ数列になっている有理数のこと。

$ \dfrac{1}{89}  = 0.0112359550... \\ = 0.01 + 0.001 + 0.0002 + 0.00003 + 0.000005 + 0.0000008 + 0.00000013 + ... \\ = \dfrac{1}{10^2} + \dfrac{1}{10^3} + \dfrac{2}{10^4} + \dfrac{3}{10^5}  + \dfrac{5}{10^6} + \dfrac{8}{10^7} + \dfrac{13}{10^8} + ... $

そこで,フィボナッチ数列を$F_i \ (F_0=0,F_1=1, F_2=1, F_{i+1}=F_{i}+F_{i-1}: i\ge1)$として,次の和$S$を定義する。$\displaystyle S = \sum_{i=1}^{\infty} \dfrac{F_i}{10^{i+1}}$

このとき,$\displaystyle S=\sum_{i=1}^{\infty} \dfrac{F_i}{10^{i+1}} = \sum_{i=2}^{\infty} \dfrac{F_{i-1}}{10^i},10 S = \sum_{i=1}^{\infty} \dfrac{F_i}{10^i}$ である。

$\displaystyle \therefore 100S = \sum_{i=1}^{\infty} \dfrac{F_i}{10^{i-1}} = F_1 + \sum_{i=1}^{\infty} \dfrac{F_{i+1}}{10^i} = F_1 + \sum_{i=1}^{\infty} \dfrac{F_i + F_{i-1}}{10^i}  = F_1 + 10 S + S$

これから $S = \dfrac{1}{89}$がでてくる。

[1]1/89がフィボナッチ数列を表すのはなぜですか?

[2]小数点以下にフィボナッチ数列が出現する有理数



2021年8月23日月曜日

人類減少

 日本経済新聞が大げさなタイトルをつけて,本日の1面トップと2面コラムと6面の特集面を使って,21世紀の後半には世界人口が減少するという予測記事を出していた。

記事のもとになっているのはワシントン大学医学部の保健指標評価研究所(The Institute for Health Metrics and Evaluation:IHME)の2020年7月14日の論文Fertility, mortality, migration, and population scenarios for 195 countries and territories from 2017 to 2100: a forecasting analysis for the Global Burden of Disease Study である。

うーん,なんで1年遅れの情報を今ごろに出しているのだろうか。1年かけて「人口と世界」という連載特集を組んでいくための準備をしていたのかもしれない。重要な話だとは思うが・・・

IHMEはコロナ感染症の予測にも力を入れているが,日本の感染状況の予測はぶれがおおきくてこれまでも必ずしも当たっていないのだ。まあ,日本の統計が壊滅状態であることも一因かもしれないが,これならばコロラド先生牧野さんの方がよっぽど正確なのである。

ワシントン大学グループの予測は,国連の中位予測と下位予測の間に含まれている。世界人口は,2067年に97億人でピークとなり,2100年には87億人まで減少する。日本の人口はこの段階で半減し5900万人になっている。

1972年にローマクラブの報告を見て以来,世界人口は指数関数的な爆発をしていて,どうなるのだろうという頭しかなかったが,ついに減少が予測されるところまできていたのだった。そもそも近年は指数関数的な振る舞いをしていないのだった。

国連統計にある世界人口の対数をとって時間に対して直線になっていれば指数関数滴増加である。1950年から2020年までの70年のデータを使って計算してみた。1950年から1960年までは,世界人口は年率1.8%で増加しているが,2000年から2010年までは,年率が1.1%に減少している。というわけで人類の人口の指数関数的増加は終焉を迎えていたのだった。



図:世界人口の対数の推移(10^10が100億人)
(直線は1950-1960年が指数関的増加として外挿したもの)

[1]国際連合(UN)World Population Prospects の使い方(総務省統計局)

2021年8月22日日曜日

教養強化合宿(2)

  外山恒一の第15.5回「教養強化合宿」,今夏は希望者が多くて2回目を実施している。この度も首都圏や関西圏の大学生が15名集まった。またまた,恒例の合宿初日交流会の余興の教養チェックの結果(遅刻2名をのぞく13名)が報告されているので確認してみる。

「山本義隆を知ってた人3,栗本慎一郎2,広瀬隆1,宅八郎5,つかこうへい4,谷川雁3,岡林信康1,堤清二1,竹中労2,奥田愛基4,樺美智子3,埴谷雄高5,松本治一郎2,網野善彦2,平田オリザ11,永山則夫3,椛島有三2,マルコム・マクラレン1,ヒューイ・ニュートン0,フランシス・フクヤマ8」

自分の場合:マルコム・マクラレンとブラック・パンサーのヒューイ・ニュートンは知らなかった。

それにしても岡林信康は1なのか・・・埴谷雄高が意外に多いのはなぜ?

2021年8月21日土曜日

金沢美術工芸大学

山下洋輔(1942-)の祖父,山下啓次郎(1868-1931)が設計した明治の五大監獄の一つが金沢監獄である。金沢美術工芸大学が金沢監獄の跡地にあった金沢刑務所の小立野の現在地に移転したのが1972年なので,ちょうど大学進学で金沢を離れたころだ。そんなこともあって,金沢美術工芸大学のキャンパスを訪れる機会はなかった。

金沢美術工芸大学が輩出したゲーム・アニメ・漫画関係者といえば,宮本茂,細田守,米林昌宏,東村あきこなど,錚錚たるメンバーがそろっている。その金沢美術工芸大学が,2023年度を目処として,金沢大学の工学部の跡地に移転するらしい。その隣で,2022年度に開館するのがが新しい石川県立図書館だ。

1972年の移転前の金沢美術工芸大学は,本多町の赤レンガの校舎であり,今は石川県立歴史博物館になっている。となりの石川県立美術館国立工芸館とともに,本多の森公園の一角をしめている。この赤レンガの校舎で写生大会があったような気がするが,それは妹達の写生大会の記憶が転移しただけかもしれない。


写真:赤レンガ校舎跡地(金沢美術工芸大学同窓会facebookから引用)

2021年8月20日金曜日

KEK50周年

KEK(高エネルギー加速器研究機構)50周年を迎えた。1971年4月に前身のKEK(高エネルギー物理学研究所)が筑波学園研究都市の北端でスタートしてから50年たった2021年4月には,各種記念行事の先頭を切ってKEK50周年記念オープニングセレモニーが開催されている。

高エネルギー物理学研究所(KEK)には一度だけいったことがある。設置されてから5年目の1976年3月に8GeVの陽子シンクロトロンが運転を開始した(12月に12GeVに増強)ので,たぶんその少し前の建設中のころだったと思う。大学3年の秋か4年の春に物理学科のクラス(40名)が,全国の物理の研究所を回るという研修旅行が杉本健三先生(1923-2012)によって企画されて,ほぼ全員が参加した。

このような研修旅行は,それまではなかったもので,どうもできが悪いクラスに刺激を与えるべく発案されたのかもしれない。名大プラズマ研,東大物性研,東大核研,高エネルギー研,ソニー中央研(盛田昭夫が社長の時代だ)をまわって横浜で解散した。

杉本先生らが引率し,各研究所で重要な役割を果たしていた阪大物理の先輩方が暖かく迎えてくれた。核研の古い宿舎で一泊(この朝食がたいへん貧しかった),できたての筑波大学の新しい寮で一泊(この朝食が最高においしかった)という2泊3日の行程である。

筑波の夕食後のミーティングで,原子力発電の安全性をめぐって,先生方と一部学生の間で険悪なやりとりがなされるなど,なかなか刺激的なツアーだった。東大核研では藤原さんと近所のパチンコ屋に繰り出して,初めての勝利を獲得したのが印象深い。

このツアーで一番すごかったのがKEK(高エネルギー研)の加速器群であった。750keVのコッククロフト・ウォルトン,20MeVリニアック,500MeVブースターシンクロトロンなどをみたけれど,肝腎の主リングの12GeV陽子シンクロトロンのトンネルはみていないかもしれない。


写真1:コッククロフト・ウォルトン(KEKギャラリーより引用)


写真2:20MeVリニアック(KEKギャラリーより引用)

2021年8月19日木曜日

arxiv30周年

 物理学分野のプレプリントアーカイブとして,1991年,マンハッタン計画で有名なロスアラモス国立研究所に,LANL-perprint サーバが立ち上がった。これを引き継いで1999年から現在に至るまでコーネル大学が運営しているarxivプレプリントアーカイブの前身だ。

スタート当時は,素粒子(高エネルギー)・原子核物理が中心だったが,いまでは,Physics,  Mathematics,Computer Science,Quantitative Biology,Quantitative Finance,Statistics,Electrical Engineering and Systems Science,Economics の広い分野にわたっている。

LANL-preprintサーバがスタートしたのは,インターネットが使えるようになってまもない頃でもあり,京都大学の基礎物理学研究所にミラーサーバが置かれて,トラフィック軽減のためにそちらを利用するよう誘導されていた時代だ。その後,京都大学ではリソースを割くことが困難になって2015年に廃止された。しかし,中国・ドイツ・インド・スペインにはいまでもミラーサーバーが運用されている。

arxivに残っている最も初期の論文を探してみたが,1991年8月14日の Exact Black String Solutions in Three Dimensions,James H. Horne, Gary T. Horowitz あたりだろうか。結局,これが普及するころには物理から物理教育にシフトしていたので,投稿者として利用することはなかった。今でも,物理のまとまったレビューや入門テキストを得るためによくアクセスしている。

プレプリントサーバ/リポジトリのarxivはオープンサイエンスの典型的な成功例であり,bioRxivmedRxivChemRxiv や PsyArXiv など,他分野へも波及している。

図:arxiv 30周年のロゴマーク

2021年8月18日水曜日

twitter13周年

 2008年の8月11日に最初のiPhoneを購入した。当時はアプリの数も少なかったので,なんとなく日本語絡みのするNatsuLionを何だかわからずにインストールした。それがtwitterクライアントアプリだったわけだが,そのtwitterというコンセプトがそもそも理解できなかった。よくわからないまま,恐る恐る試してみたのが次の例。ちょうど今から13年前のことだ。twitter社からのAnniversaryバッジのアナウンスがあったので気がついた。


図1:はじめてのtweet(twilogから)

2010年,電子教科書=デジタル教科書談義が盛り上がった頃にtwitterに参入して日常的に使うようになった。かつてnetnews fjの時のようにはまってしまい,一日のかなりの時間を情報インプットに費やしているが,アウトプットの方はほとんど低空飛行でリツイートするだけの日々である。


図2:tweetの統計情報(twilogから)

2021年8月17日火曜日

大阪七墓巡り

 大阪の千日前や梅田に大きな墓地があったというのは聞いたことがある(昨年,梅田墓跡で1500体の人骨が見つかっている)。15年ほど前に大阪市内の高校での模擬授業の後,阿倍野の大きな霊園(大阪市設南霊園)の横を車で送ってもらった。天王寺駅からすぐ近くにこんな大きな墓地があったのか。

江戸時代の初め,大坂夏の陣のあとに整理された大阪七墓とよばれる墓地をお盆の期間に巡るという風習があると知って調べてみた。梅田墓地,南浜墓地(浜墓地),葭原墓地,蒲生墓地(野田墓地),小橋墓地,千日墓地(千日前墓地),飛田墓地(鳶田墓地)の7ヶ所であり,現在も墓地になっているところとそうでないところがある。


図:大阪七墓の位置(湯川敏男[1]より引用)

かつての大坂の町は,現在の環状線内の半分ほどの大坂三郷(天満組,北組,南組)とよばれる行政区から成り立ち,大阪七墓はそれを囲むように配置されている。

[1]大阪七墓「今と昔」巡り(湯川敏男)
[2]賀古教信七墓廻(近松門左衛門)
[3]大阪七墓巡り復活プロジェクト(むつさとし)

2021年8月16日月曜日

(夏休み 7)

「亀泳ぐ手足ばらばらの涼しさよ」 (鈴木貞雄 1942-)

2021年8月15日日曜日

(夏休み 6)

「コロナ禍に放鳩中止原爆忌」 (をにく 1953-)

2021年8月13日金曜日

2021年8月12日木曜日

2021年8月11日水曜日

2021年8月10日火曜日

2021年8月9日月曜日

性格診断テスト

 16Personalities性格診断テスト というちょっとお洒落な性格診断テストを見つけた。

だいたいこういうのは,血液型占い星座占い九星気学と同じように当たる。たぶん,すべての性格診断テストはなんとなく当たっているように感じることが多い。人間のパーソナリティ(人格でなくて性格)は複雑で多面的なものなので,ある性格特徴キーワードが与えられれば,わずかでも重なっているとマッチしたと解釈してしまうのだろう。

この16Personalites性格診断テストは,英国のNERIS Analytics Limited という会社が運営しているようで,無料診断の上にビジネスモデルが展開されているような雰囲気。これはマイヤーズ・ブリッグスタイプ指標(MBTI)というものの亜流らしい。MBTIの界隈には怪しい社団法人や任意団体が跋扈している

さて,3回試してみると次の結果となった。

“仲介者”型の性格(INFP-A)

仲介者型気質の人は,真の理想主義者で,極悪人や最悪の出来事の中にさえも,常にわずかな善を見い出し,物事をより良くするための方法を模索しています。落ち着きがあり控えめで、内気にさえも見られますが,内には激情と情熱があり,まさに光を放つ可能性を秘めています・・・

“建築家”型の性格(INTJ-A)

この上なく孤独,そして最も希少で戦略に長けている性格タイプのひとつで,建築家型の人達自身,これをすべて痛いほど感じています・・・。想像力が豊かな一方で決断力があり,野心に溢れている反面,引っ込み思案で、驚くほど好奇心がありますが,エネルギーを浪費しません。

“提唱者”型の性格(INFJ-A)

提唱者型の人達は非常に希少で,その数は全人口のわずか1%未満ですが,それにもかかわらず,世界にその足跡を残しています・・・生まれながらに理想主義者で道徳感覚がありますが,提唱者型の人達を際立たせているのは,付随する計画型の気質です・・・

うーん,残念ながらあまり当たっていないのかもしれない。 

2021年8月8日日曜日

教養強化合宿(1)

 外山恒一の第15回「教養強化合宿」には,首都圏や関西圏の大学生が15名集まった。これに対して,初日交流会の余興の教養チェックの結果が報告されている。その結果は次のようなものだった。

「唐十郎を知ってた人6,大島渚11,雨宮処凛9,石原莞爾10,山崎博昭0,石牟礼道子6,五木寛之5,仲井戸麗市0,野坂参三1,正力松太郎2,西部邁7,重信房子4,赤尾敏1,山本夜羽音3,菅野完4,江青0,ジョージ・ハリスン7」

自分の場合:仲井戸麗市は名前は耳にしているけどミュージシャンかな程度,忌野清志郎=RCサクセションのCD(COVERS,TREASURE COLLECTION)をダウンロードしている割には認識があまかった。山本夜羽音は名前は知っているだけで,正義の味方なのか悪の使者なのかもわかっていなかった。これも盟友の鹿島拾市=加藤直樹の本(九月、東京の路上で――1923年関東大震災 ジェノサイドの残響)を持っている割にはリンクがつながっていない。

それにしても,江青はゼロなのか・・・

2021年8月7日土曜日

あるいは牡蠣でいっぱいの海

 筒井康隆の「あるいは酒でいっぱいの海」が河出文庫から8/6に再刊されたというシグナルを検知した。もともとは,1979年に集英社文庫から出ていたものだが読んではいない。当時から,そのタイトルは,エイヴラム・デイヴィッドソン(1923-1993)の「あるいは牡蠣でいっぱいの海」をもじっているのだと思っていた。著者は誰だかもよくわかっていなかったが,そのタイトルだけは,そんなわけで長く印象づいていた。

この機会に,読んでいなかった「あるいは牡蠣でいっぱいの海」がないかとネット上で検索したところ,ハヤカワSFシリーズ3079のアイザック・アシモフ編ヒューゴー賞傑作集No. 1に収録されていることがわかった。あれ,それ持ってませんでした?というわけで書棚を探すと確かにあった。なんのことはない,実は既読だったようだ。さっそく再読したところ,やはりほとんど記憶になかった。

その洒落たストーリーは,簡単といえばそうなのだけど,ある意味解釈に困るようなもので,これではちょっと記憶に残らない。エイヴラム・デイヴィッドソンの日本オリジナル短編集どんがらがんが,2005年に河出書房から出版されていて,これも河出文庫に収録されている。若島正さん(昔,おなじ官舎に住んでいた大教大附属高校の英語の先生の旦那さんだ)が新訳しているが,残念なことにタイトルも変えられしまった。

その,エイヴラム・デイヴィッドソンはもともとユダヤ教だったのが,1970年代に天理教に改宗している。えっ,天理教ですか。Tenrikyo: Tenrikyo, Avram Davidson, Fumio Kyuma, Sanae Takaichi, Kiyokuni Katsuo, Bunmei Ibuki, Hakuo Yanagisawa, Nakayama Miki(LLC Books)を読めばそのあたりのことがもう少しわかるのだろうか?

2021年8月6日金曜日

Google Lens

 Google Lensは,画像認識技術で、ニューラルネットワークを用いた視覚的な解析による画像認識技術であり,対象物の文字を読み取ってテキスト化・読み上げ・翻訳することができる。

Androidアプリだけがあって,iOSでは使えないとばかり思っていたが,iOSではGoogleアプリ内に機能が埋め込まれていた。Googleフォトでも撮影済みの写真に対して使うことができる。

試してみるとなかなか使えそうだけれど,iPhoneのカメラの画角とテキスト範囲の設定がちょっと微妙かもしれない。現在編集中のこの画面を読み取ろうとすると端が欠けてしまう。ちょっと慣れが必要かもしれない。

[1]Google Lens 目の前にあるものを調べる。

2021年8月5日木曜日

パンケーキを毒見する

8/2(月),新たに埼玉県・千葉県・神奈川県・大阪府への緊急事態宣言が発出されるとともに,東京都と沖縄県への宣言が延長された。8/31(火)までだ。一方,同じ期間に北海道・石川県・京都府・兵庫県・福岡県には蔓延防止等重点措置が実施される。さらには,東京オリンピック閉会式で台風9号が接近する8/8(日)には,同じ期限で,福島・茨城・栃木・群馬・静岡・愛知・滋賀・熊本の8県にも蔓延防止等重点措置が追加されるようだ。

それでもオリンピックは続けるのだった。8/24(火)〜9/5(日)のパラリンピックはどうするのか。

そんなわけで,映画館が閉鎖されないうちにということで,朝から新京極三条のMOVIX京都にパンケーキを毒見する(企画制作:河村光庸,監督:内山雄人)を一人で観に行った。30-40人くらいの観客が入り結構にぎわっていた。席は前後も重ならないようにしてほしい。

主戦場と同じように,インタビューの積み重ねが基本となるドキュメンタリーだ。ただ,当事者に近い関係先からはほとんど出演が断られてしまったようで,短期間での制作はたいへんだったと思う。

途中に挿入されるアニメーションや小芝居(博打)やイメージ映像はあまり成功していない(若林良が,印象操作というまったくトンチンカンな見解を披露していたがそうではないだろう)。全体として掘り下げは物足りなかったが,それでもいくつかの新しい知見はあったので,まだ見ていなければ今のうち(下手するとテレビ放映がないかもなので)。

上西充子の国会中継解説はとてもわかりやすくてよかった。これだけで1本ドキュメンタリー映画を作ってもらいたいくらいであり,メディアリテラシーの演習になる。

石破茂村上誠一郎はあたりさわりなかったが,橋本龍太郎の秘書官だった江田憲司が,菅義偉から国会への出馬をサポート・現金付で依頼されたくだりは興味深かった。

○赤旗の編集局にカメラが入り,編集者との話や,小池晃との掛け合いがあったところは,はじめてみる映像でこれは結構貴重なのではないだろうか。

森功の部分はちょっと消化不良であり,前川喜平の話は安倍絡みで既知のことだった。

今回の映画で最も面白かったのは元朝日新聞の鮫島浩の話だった。彼が新米のときに権力者とは誰かと先輩に聞いて,その答えが,経世会,宏池会,外務省,大蔵省,米国,中国だったというもので,そこには清和会はない。彼らは基本的にずっと主流ではなかったのだ。それが,小泉政権や経世会の解体を経て2度の安倍政権とそれにつながる菅政権として権力を掌握したがために,従来の権力(及びその政策)への仕返しをしているという見立てだ。

たぶん,安倍+菅政権時代の事跡を,マスメディアと政治という背景の元に再編したほうがより面白いものになったと思う。上西充子の部分や辻田真佐憲のコメント,赤旗のくだりや最期の古賀茂明の話はそのまま活かせる。あるいは望月衣塑子の部分をより広く掬い,国谷裕子と菅の話,NHK担当課長更迭の話,などなどネタは尽きることがないだろう。


写真:(C) 2021「パンケーキを毒見する」製作委員会のポスターから引用


2021年8月4日水曜日

ポアンカレ賞

ポアンカレ賞は,数理物理学に貢献した科学者を称える賞である。国際数理物理学協会(International Association of Mathematical Physics)が3年ごとに開催している世界数理物理学大会(International Congress on Mathematical Physics)のタイミングで授与している。

過去の主な受賞者(受賞時年齢)をみると,Haag(75),Wightman(75),Thirring(73),Yau(41),Araki(71),Faddeev(72),Witten(55),Sinai(74),Villani(36),Dyson(89),Simon(66),Borodin(40)とそうそうたるメンバーで毎回3-4名選ばれている。

今回2021年,東京大学大学院数理科学研究科の緒方芳子教授が受賞した。その受賞理由は,「オンサーガー相反定理の定式化から,行列積状態の理論や無限量子スピン鎖の対称性で保護されたトポロジカル相の理論への革新的な貢献まで,量子スピン系の数学的理論に関する画期的な研究に対して」ということだ。

田崎晴明さん・立川裕二さんとの共著論文もある。緒方芳子さんは東大の物理出身で,2004年に1次元格子系における非平衡特性(Non-equilibrium properties of one-dimensional lattice systems)で物理の博士号を取得している。海外のポスドクや九州大学の助教を経由して,現在は解析学・作用素環の河東泰之さんの研究グループに所属している(2009年から准教授,2017年から教授)。

2015年度の高校生のための現代数学講座で,「フィボナッチ数列と無理数の有理数による近似」があったので,ひまわりのプログラムをMathematicaでかいてみた。

f[a_] := ListPolarPlot[Table[{2 a Pi n, Sqrt[n]}, {n, 100}], PlotStyle -> PointSize[0.03], ColorFunction -> "Rainbow", ColorFunctionScaling -> True]

図1:f[1.1]の場合

図2:f[(1+Sqrt[5])/2]の場合

2021年8月3日火曜日

不可視化

コンピュータの応用が進むとともに,科学や統計の様々な分野で可視化というタームがはやった。

新型コロナ感染症をめぐっては,マスメディアによって世界中の刺激的な映像場面によって危機が可視化されてきた。また,信頼性にかけるとはいいながら,新規感染者数の日々の推移グラフは目に見えるデータとして機能してきた。

昨日の菅首相のアナウンスは次のような意味らしい(もっとグダグダな表現だったが),

政府は新型コロナウイルスの流行拡大を受けては患者が急増している地域で入院させる基準を引き上げて重症化するリスクの高い患者に限定する方針を示しました。新しく示された方針ではこれまで入院の対象としていた持病などのリスクがある軽症の患者や呼吸困難や肺炎の症状がある中等症患者のうち重症化リスクが低い人を入院の対象から外し基本的に自宅療養にします。自宅療養の患者に対してはオンライン診療やパルスオキシメーターの配布で健康観察を強化します。(テレ東Bizより引用

なんのことはない「医療崩壊」がきているということだ。その現場が,カメラの届かない感染者の私的領域(自宅)へと広く分散されて隠ぺいされることにより,「医療崩壊」は不可視化されることになった。その結果は運が良ければ数ヶ月後に衆議院選挙も終わったあとの祭りの死亡統計でようやく観測されることになる。

結局は,オリンピック報道もその一面だけれど,マスメディアを政府・自民党・財界に完全に牛耳られているという問題なのか。

2021年8月2日月曜日

有効場理論

 有効場理論(Effective Field Theory)といえば,カイラル摂動論(ChPT)が思い浮かび,なんとなくなじめなかった。ところが,自分がなじんでいたベータ崩壊のフェルミ理論(V-A Theory)がそもそもワインバーグ・サラム模型の有効場理論だとあって,いわれてみればそうなのだった。

そのワインバーグの1979年の論文,"Phenomenological Lagrangian, Physica A Vol. 96 (1979) 327-340" が有効場理論の出発点になっているが,残念ながら大学院時代にこの論文を読むことはなかった。そのアイディアの元はジュリアン・シュウインガーにあるらしい。

気になって調べていたら,S. Hartmannの"Effective field theories, reduction and scientific explanation, Studies in History and Philosophy of Modern Physics 32B, 267-304 (2001)" に行きあたった。そのアブストラクトを訳してみる。

有効場理論は、20年近くに渡り量子物理で非常によく使われているツールである。これにはそのもっともな理由がある。有効場理論は,基礎理論と現象論的モデルのそれぞれの欠点を回避しつつ,両者の長所の多くを共有している。例えば,有効場理論は,広範囲の現象をカバーできる柔軟性と,あるエネルギースケールで働く特定のメカニズムを詳細に説明できる具体性を備えている。では、すべての物理学は最終的に有効場理論に収束するのだろうか?この論文では,優れた科学研究は,基礎理論,現象論的モデル,有効場理論の間の実りある相互作用によって特徴づけられると主張する。これらはいずれも,研究過程において適切な機能を持ち,必要不可欠なものだ。これらは互いに補い合い,首尾一貫した方法で結ばれているが,その特徴をやや詳しく説明する。これらを説明するために,原子核物理学と素粒子物理学の事例研究を紹介する。その結果,科学的理論化に関する見解は本質的に多元的であり,還元主義と科学的説明に関する議論に影響を与える。

以前,若松正志さんがクォーク・クラスター模型とメゾン・バリオン模型で重陽子の構造を議論していて,異なったモデルからほとんど同じ結果が得られることを不思議だと話していたのを憶えている。有効場理論と単なる現象論的モデルの違いをもう少し理解したい。

[1]基本法則の場の理論(井沢健一,2001三者若手夏の学校)

2021年8月1日日曜日

人権と多様性

 教養学科が廃止させられ=教育協働学科に改組したときの,教養基礎教育のカリキュラム改正で,流行に便乗してダイバーシティ教育をキーワードの一つにした。まあ,もう一つ何かあったかもしれなけれど,ほとんどそれしかなかった。このとき,大阪教育大学の人権教育の歴史を背景としてという説明を考えていた。あまり強調する機会はなかったかもしれない。

きょうのTwitterで@metsaihmisetさんや@ShinHori1さんが次のように語っている。

Shin Hori :最近は,「権利」「平等」「差別否定」等という"強い"言葉を使いたくないので,「多様性」という"弱い"言葉を使ってごまかしているケースが目立つように思える。

Shin Hori :「多様性を実現するために差別を解消しよう」という訳のわからないことを言ってる人さえいる。差別解消はそれ自体で完結しており,"多様性"のための手段ではない。例えば女声に参政権が付与されたのは,多様性を実現するためではないし,"多様性"という言葉を使う必要さえない。

Albert Rasimus:生まれながらにして人は全て同等の権利(自然権としての人権)を持つため多様性とは無関係に人権は守られるべき権利とされています。結果として多様になるのであって権利が同等だからです。

Albert Rasimus:現行日本国憲法は自然権としての人権を認めていますが自民党はこれを気に入らないので改正したいのです。九条は建前です。危険を煽ることで九条は賛否両論となります。人権を奪いたいと言えば反対されるのは明白だからそちらに目を向けて賛成を増やしたいのです。憲法は人権という観点から見るべきです。

一方で,自分も陥りがちな観点として,生物多様性による環境適応の柔軟性や進化を念頭に,「人間社会においても多様性が実現しているほうが,社会としての安定性や継続性に寄与することが可能だろう」という準(疑似?)科学的な見方がある。

こちらのほうは,いわゆる「新自由主義」と親和性が高く,ともすれば多様性+自由競争という選択が,既存権益の温存につながるという残念な帰結をもたらしてしまう。そんなわけで,多様性の議論には人権というしっかりと地に足のついた観点が欠かせない。

あるいは,多様性=人権に気付いているからこそ,自民党宗教右派は,LGBTに反対し,選択的夫婦別氏制度を拒否し,多様な家族のあり方を否定する。