今年のノーベル物理学賞が,Syukuro Manabe(米),Klaus Hasselmann(独),Giorgio Parisi(伊)の3名に決まり,ニュースは予想通り(米国籍でも)日本人の眞鍋淑郎さん(1931-)の話題で集中している。NHKでは,最近心配されている日本の科学技術力の低下と結びつけつつ,それを跳ね飛ばす成果だ的なストーリーを組み立てていた。米国で研究基盤を築いた人が1960年代後半に成し遂げたことを,現在の日本と結ぶのはかなり無理筋だと思うけど。
で,あらためてノーベル賞のページを見てびっくりした。全体が環境問題の話なのかと思っていたら,なんとG. Parisi(1948-)が入っている。いや統計物理学が専門でなくても,Parisi-Wuの確率過程量子化は目にしている(スピングラスのレプリカ対称性の破れの方は知らなかった)。なんだこの組み合わせは,と思ってよく見れば,"for groundbreaking contributions to our understanding of complex systems" となっている。小林・益川・南部のときもちょっと驚いたがその比ではない。
複雑系といえば大気運動に端を発するローレンツアトラクタがカオスの先駆けのように扱われているのでまああながちおかしくないのかもしれない。選考委員会による受賞理由説明は次のような組み立てになっていた。
FOR GROUNDBREAKING CONTRIBUTIONS TO OUR UNDERSTANDING OF COMPLEX PHYSICAL SYSTEMS
I. INTRODUCTION (1.5p)
A. Instability and nonlinearity underlie multiscale complexity and stochasticity
B. Stochasticity and Disorder Imply Predictability
II. CLIMATE PHYSICS: BACKGROUND AND HISTORY (0.5p)
III. DEVELOPMENT OF MODEL HIERARCHIES (5.5p)
A. Energy balance models
B. Generalized Deterministic Energy Balance Models (EBMs)
C. The Emergence of Numerical Climate Models
D. Stochastic Theories
IV. USING OBSERVATIONS TO TEST MODELS (1p)
A. Fingerprinting
V. THE VASTNESS OF THE LANDSCAPE OF DISORDER (2.5p)
A. Replicas, Spin Glasses and Frustration.
B. Solving the Replica Symmetry Breaking Problem
C. Applications and Implications
VI. SUMMARY
賞金の1/2を占めるParisiについては 2.5p程度の控え目な記述だった。やはり物理学に基づくシミュレーションとはいえ,気象学(地球科学)の人達が物理学賞に入るというのは結構インパクトが 大きいので丁寧な説明が必要だったのだろうか。IPCCについての言及も当然あるが,2013年のものであり,今年示された人為的気候変動の確立ということが大きく影響したわけでもないかもしれないが。
図:真鍋淑郎の気候モデル(ノーベル財団より引用)