ラベル 読書 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 読書 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2024年6月3日月曜日

心の社会:ミンスキー

ChatGPT-4oを使ってファスト読書ができるかどうか実験してみた。
題材として,人工知能を理解するための古典文献中の第一である,人工知能の父マービン・ミンスキー(1927-2016)の「心の社会」を選んだ。安西祐一郎(1946-)訳の1990年の初版574ページは,自分の本棚で積ん読状態で冬眠されていらっしゃった。

Q(koshix):
マーヴィン・ミンスキーの「心の社会」で主張されていることを詳しく説明してください。

A(GPT-4o)
マーヴィン・ミンスキーの著書「心の社会」(The Society of Mind)は、人工知能と人間の認知科学に関する彼の理論を述べた重要な作品です。この本では、心がどのように機能するのか、特に知能がどのように生じるのかについての革新的な視点が提供されています。ミンスキーは、心を一つの単一のエンティティとして見るのではなく、複数の小さなエージェントの集合体として捉えます。以下に、彼の主張を詳しく説明します。

1.心はエージェントの社会である
ミンスキーは、心は多数の簡単なエージェント(彼はこれを「エージェント」と呼びます)の集まりであると主張します。各エージェントは単純な機能を持っており、それ自体は知能を持たないが、これらが連携して働くことで複雑な知的行動が生まれるとします。この考え方は、心を理解するためにそれを分解し、各部分の相互作用を研究するというアプローチを示唆しています。

2.レイヤード構造と階層的な制御
ミンスキーは、心の構造を複数のレイヤーに分けて説明します。各レイヤーは異なる種類のエージェントで構成されており、それぞれが特定のタスクを担当しています。これにより、単純なタスクから複雑な認知タスクまでを処理する能力が生まれます。例えば、低レベルのエージェントは基本的な感覚処理を行い、高レベルのエージェントは抽象的な思考や計画を担当します。

3.エージェント間の競争と協力
ミンスキーは、エージェント間の関係が重要であると強調します。エージェントは時には競争し、時には協力することで最適な解決策を見つけ出します。この競争と協力のダイナミクスが、柔軟で適応的な知能を生み出す鍵とされています。

4.学習と適応
エージェントは静的な存在ではなく、経験を通じて学習し、適応します。ミンスキーは、知識の獲得と使用がどのようにエージェントの行動に影響を与えるかを詳細に述べています。特に、問題解決や新しい状況に対応するための適応メカニズムが強調されています。

5.心の社会モデルの応用
ミンスキーの理論は、人工知能の設計や人間の知能の理解に幅広く応用されています。このモデルは、知能が単一のアルゴリズムやプロセスではなく、複数の相互作用するプロセスの結果であることを示しています。これにより、より複雑で柔軟なAIシステムの開発が可能になります。

6.批判と影響
「心の社会」モデルは、その独創性と包括性から大きな影響を与えましたが、同時に批判も受けました。一部の批評家は、エージェント間の相互作用の具体的なメカニズムや、どのようにして統一された意識や自己が生じるのかについての説明が不足していると指摘しました。それでも、この理論は人工知能研究における重要な枠組みとなっています。

ミンスキーの「心の社会」は、人間の知能と人工知能の両方を理解するための新しい視点を提供するものであり、現代の認知科学やAI研究においてもなお重要な影響を持ち続けています。 
 
Q(koshix):
心を構成するエージェントにどんなものがあるか,またその相互関係がどうなっているかをできるだけ分かりやすく全て列挙してください。

A(GPT-4o):
マーヴィン・ミンスキーの「心の社会」において、心を構成するエージェントは非常に多様で、各エージェントが特定の機能を果たすために存在しています。以下に、いくつかの主要なエージェントの種類とその相互関係をわかりやすく説明します。

エージェントの種類

感覚エージェント (Sensory Agents)
役割: 外部環境からの情報を収集し、それを処理して内部に伝える。
例: 視覚エージェント、聴覚エージェント、触覚エージェントなど。

運動エージェント (Motor Agents)
役割: 行動を実行し、身体の動きを制御する。
例: 手を動かすエージェント、歩くエージェント、話すエージェントなど。

記憶エージェント (Memory Agents)
役割: 経験や知識を保存し、それを必要に応じて取り出す。
例: 短期記憶エージェント、長期記憶エージェント、エピソード記憶エージェントなど。

感情エージェント (Emotion Agents)
役割: 感情を生成し、他のエージェントの活動に影響を与える。
例: 喜びエージェント、悲しみエージェント、恐怖エージェントなど。

思考エージェント (Thinking Agents)
役割: 問題解決、意思決定、推論を行う。
例: 論理エージェント、計画エージェント、推論エージェントなど。

社会的エージェント (Social Agents)
役割: 他者との相互作用を管理し、社会的な行動を制御する。
例: 共感エージェント、コミュニケーションエージェント、協力エージェントなど。

エージェント間の相互関係

協力 (Cooperation)
例: 感覚エージェントが視覚情報を収集し、それを記憶エージェントに送って過去の経験と照らし合わせ、運動エージェントに適切な行動を指示する。

競争 (Competition)
例: 異なる解決策を提案する思考エージェントが競い合い、最も適切な解決策が選ばれるプロセス。

連携 (Coordination)
例: 感情エージェントが恐怖を感じると、運動エージェントに逃走行動を起こすように指示し、同時に思考エージェントが危険の評価を行う。

抑制と強化 (Inhibition and Facilitation)
例: 感情エージェントが怒りを感じると、抑制エージェントがその感情を制御し、社会的エージェントが適切な反応を見つける。

フィードバックループ (Feedback Loops)
例: 運動エージェントが行動を実行し、その結果が感覚エージェントを通じてフィードバックされ、記憶エージェントと思考エージェントがその情報を使って次の行動を調整する。

具体的な例

コップを持ち上げる動作:
視覚エージェントがコップを見つける。
記憶エージェントが過去の経験を基に最適な持ち上げ方を提供する。
運動エージェントが手を動かし、コップを持ち上げる。
フィードバックループにより、感覚エージェントが持ち上げた後の重さやバランスを確認し、必要なら運動エージェントに調整を指示する。

会話をする:
聴覚エージェントが相手の言葉を聞き取る。
思考エージェントがその意味を解釈し、適切な応答を考える。
記憶エージェントが過去の会話や知識を参考にする。
社会的エージェントが応答のトーンや態度を決定する。
運動エージェントが言葉を発し、顔の表情を制御する。

ミンスキーの理論は、これらのエージェントが相互に作用し合うことで、人間の心の複雑な機能を生み出すというものです。この視点は、AIやロボティクスの設計においても有益であり、複雑なシステムをより効率的に設計するための基盤となっています。

 

Q(koshix):
意識を担うエージェントはありますか

A(GPT-4o):
マーヴィン・ミンスキーの「心の社会」において、意識そのものを単独で担う特定のエージェントが存在するという考え方はされていません。むしろ、意識は複数のエージェントの相互作用と協調から生じる現象であるとされています。以下に、意識に関連するエージェントの役割やその相互関係をわかりやすく説明します。

意識に関連するエージェント

注意エージェント (Attention Agents)
役割: 特定の情報や出来事に対して注意を集中させる。意識の焦点を決定し、重要な情報を他のエージェントに伝える。
例: 視覚注意エージェント、聴覚注意エージェント。

記憶エージェント (Memory Agents)
役割: 過去の経験や知識を保存し、必要に応じて取り出す。意識に関連する情報の背景知識を提供する。
例: 短期記憶エージェント、長期記憶エージェント。

自己モニタリングエージェント (Self-Monitoring Agents)
役割: 自己の状態や行動を監視し、自己認識を持つ。意識の一部として、自己と他者の区別を行う。
例: 身体感覚モニタリングエージェント、感情モニタリングエージェント。

意思決定エージェント (Decision-Making Agents)
役割: 得られた情報を基に行動を決定する。意識的な選択と行動を支える。
例: 計画エージェント、選択エージェント。

社会的エージェント (Social Agents)
役割: 他者との相互作用を管理し、社会的な意識を形成する。共感やコミュニケーションに関連する。
例: 共感エージェント、コミュニケーションエージェント。 
 
エージェント間の相互関係
意識はこれらのエージェントの複雑な相互作用によって形成されます。以下に、その具体的なプロセスを説明します。

注意の集中と情報の選別
注意エージェントが特定の刺激や情報に集中し、それを他のエージェントに伝達します。これにより、意識の焦点が決まります。

記憶との連携
記憶エージェントが関連する過去の経験や知識を提供し、現在の状況を理解するための背景情報を提供します。

自己モニタリングと自己認識
自己モニタリングエージェントが現在の状態や行動を監視し、自己の一貫性を保つ役割を果たします。これにより、自己と他者の区別がつけられます。

意思決定と行動選択
意思決定エージェントが得られた情報を基に、意識的な選択と行動を行います。このプロセスは、意識的な意思決定の核心部分となります。

社会的相互作用
社会的エージェントが他者との相互作用を管理し、社会的な意識を形成します。これにより、意識は個人的なものだけでなく、社会的な文脈でも機能します。

結論
ミンスキーの理論によれば、意識は単一のエージェントによって生じるものではなく、複数のエージェントが協力し合い、相互に作用することで生まれる現象です。これらのエージェントが連携し、情報を交換し合うことで、複雑で高度な意識が形成されるのです。この視点は、意識を理解するための新しい枠組みを提供し、人工知能の研究にも大きな影響を与えています。

なかなかもっともらしい答えが得られた。ところで,ここで安心してはいけない。この結果を,正確性が売りの生成AIであるPerplexityに与えて,正しいかどうか聞いてみたところ,テキストが大きすぎではねられた。仕方がないので,次に評判が良いGemini 1.5Proに入れてみる。こちらは,入力トークンバッファに十分余裕がある。


Q(koshi):
以下の対話で事実とは異なっている部分や不正確な部分を指摘してください

A(Gemini 1.5Pro):
全体的に、ミンスキーの「心の社会」の要約としては悪くないですが、いくつか事実と異なる部分や不正確な部分があります。

事実と異なる部分・不正確な部分

エージェントの種類と役割
対話では、感覚、運動、記憶、感情、思考、社会など、エージェントの種類を具体的に列挙していますが、ミンスキー自身は著書で、特定の種類のエージェントを定義していません。ミンスキーは、エージェントは多種多様で、その機能は状況や組み合わせによって変化すると述べています。
エージェント間の関係
協力、競争、連携、抑制と強化、フィードバックループといった関係性は、ミンスキーの理論と一致しています。しかし、対話ではこれらの関係が固定的なものとして説明されている印象を受けます。実際には、エージェント間の関係はより流動的で、状況に応じて動的に変化します。
意識に関する説明
ミンスキーは特定のエージェントが意識を担うとは述べていません。意識は、エージェントの相互作用から創発的に生まれるものとして捉えられています。
対話では、注意、自己モニタリング、意思決定といった機能を持つエージェントが意識に関連するとされていますが、ミンスキー自身は、これらの機能を実現するエージェントの具体的な構造については深く言及していません。

ミンスキーは、「心の社会」の中で意識の問題を取り上げていますが、完全な解答を与えているわけではありません。

改善点

・エージェントの種類を具体的に列挙するのではなく、「ミンスキーは特定の種類のエージェントを定義せず、多種多様なエージェントが存在すると述べています」と説明する方が正確です。
・エージェント間の関係は、固定的なものではなく、状況に応じて動的に変化することを強調する必要があります。
・意識については、「ミンスキーは、意識は特定のエージェントが担うのではなく、エージェントの相互作用から創発的に生まれると考えている」と説明し、具体的なエージェントの構造や機能に言及することは避けるべきです。

その他

対話では、ミンスキーの「心の社会」をかなり簡略化して説明しています。より深く理解するためには、実際に著書を読むことをお勧めします。

さらにこれをChatGPT-4oに入れてみたが,まあ,それで喧嘩に発展するようなことはなかった。一方,実際の本を書棚から取り出してきて目次を眺めてみると,GPT-4oの説明とはかなり違った印象を持ったのも事実である。そこで,GPT-4oは目次を知っているのかどうか聞いてみた。

Q(koshix):
マーヴィン・ミンスキーの「心の社会」の目次を列挙することはできますか?日本語に直してください

A(GPT-4o):
マーヴィン・ミンスキーの「心の社会」(The Society of Mind)は270の独立したエッセイで構成されており、それらは30の章に分かれています。以下は、その目次の日本語訳です:

1.心の社会
2.エージェントとエージェンシー
3.K-ライン
4.エージェントの原則
5.心と脳
6.常識
7.思考の言語
8.見ることと想像すること
9.学習と記憶
10.心の構築
11.意識
12.反省的思考
13.問題解決
14.自己認識
15.考えることと説明すること
16.感情
17.動機と目標
18.否定的思考の力
19.自己
20.成長
21.幼児期
22.子供の心
23.学習と理解
24.知識の本質
25.創造的思考
26.高次の思考
27.脳の専門化
28.心の統一
29.心の限界
30.心の未来

この目次は、ミンスキーが心を「エージェント」という単純な部分の相互作用から成り立つ複雑な社会として描いた方法を反映しています。彼のアプローチは、知能の多様性と複雑さを強調し、単一の原理や単純なシステムではなく、多様なプロセスと目的を持つエージェントの集まりが心を形成するという考え方を示しています​​​​。

この目次は完全なハルシネーションである。30章と270のエッセイというのはほぼあっている。なぜ,こうなったかというと,GPT-4oがインターネット上で検索して得られた資料に問題がある。一つは,Internet Archiveの該当部分であり,ここにはオープンな本文テキストはない。もう一つは,Tom Rochetteというひとの読書メモである。そこには原本の目次はない。たぶんこれを用いたので誤った結果が出てきたのだ。

なお,元慶応義塾長の安西先生訳の「心の社会」の正しい目次は次のとおりです。
1.心の社会
2.全体と部分
3.争いと妥協
4.自己(以下,自己が太字になっている)
5.個性
6.洞察と内省(ここにB-脳がでてくる)
7.問題と目標
8.記憶の理論(ここにK-ラインがでてくる)
9.要約すること
10.パパートの原理
11.空間の形
12.意味の学習
13.見ることと信じること
14.定式化のし直し
15.意識と記憶
16.感情
17.発達
18.推論
19.言葉と考え
20.文脈とあいまいさ
21.トランスフレーム(以下トランスが太字に)
22.表現
23.比較
24.フレーム
25.フレームアレイ
26.言語フレーム
27.検閲エージェントと冗談
28.心と世界
29.思考の領域
30.心の中のモデル



図:マーヴィン・ミンスキーの「心の社会」を適確に表現するイメージ


2024年5月31日金曜日

無書店自治体

本屋が消えるからの続き

4月から,NHKの午後のニュースの後に,NHKみみより!解説というニュース解説がはじまった。そこで,無書店自治体の話題が取上げられていた。下図は2022年のデータだが,2023年の新しい結果が紹介された。無書店自治体の割合が,全国で27.7%,ワースト3県では,沖縄県56.1%,長野県53.2%,奈良県51.3%というもので,前回とそれほど変わっていない。

全国の書店数(10598)を人口(1億2581万人)で割った1万人当たりの平均書店数は,0.87/万人である。奈良県の平均書店数は0.92/万人なので,それほど悪くない。平均書店数/万人は全国でそれほど大きく変わらないのだけれど,人口の少ない無書店自治体数があることよって,書店格差は強調されて見える。まあ実際にも近くに本屋がないわけだから,それはそれで困るのだ。

天理市の人口は,6.7万人なので,全国平均の書店数水準ならば,5.8店ということになる。実際の書店数がどうなっているかというと,8店舗見つかった。天理教の専門書店があるのでちょっとだけ上積みされている。
・TSUTAYA WAY書店天理店(田井庄町481−5)
・未来屋書店 天理店(東井戸堂町381 イオンタウン)
・ヤマト屋書店(別所町80−6)
・おやさと書店 三島店・Books道友(三島町432−1)
・おみちの書籍 天理書房(川原城町306−1)
・海老山書店(川原城町72)
・西廼書店(柳本町1255)
・大塚書籍文具店(櫟本町2423−1)


図:本屋さんが減っている(週刊学ぼう産経新聞から引用)

[1]増える「無書店自治体」各地の対応は?(NHKみみより!解説)
[3]日本の書店数(出版科学研究所)
[4]出版物の売り場毎の販売額推移をさぐる(2023年版)(Yahoo! ニュース)
[6]書店をめぐる現在(柴野京子)


2024年5月1日水曜日

皆勤の徒:酉島伝法

大森望(1961-)の解説はけっこう信頼している。以前,日経新聞で酉島伝法(Torishima Dempow,1970-)を滅法褒めていた。

早速,短編集の「皆勤の徒」をkindleで購入した。ついでに,皆勤の徒の設定資料集「隔世遺傳」もあわせてゲットする。

いきなり,隷重類(れいちょうるい),香水(ようすい),製臓物(せいぞうぶつ),念菌(ねんきん)と,漢字とよみがなと意味の混濁がはじまって,未来世界の蟹工船的な状況が描写されていく。

なんだこれ。短編集の中の4作品,皆勤の徒,洞の街,泥海の浮き城,百似隊商と,これまでのSFでもお目にかかったことのない世界が新しい言葉で展開される。英語や彿語にも翻訳されている。全滅領域のジェフ・ヴァンダーミアによれば(大森望訳),
わお。酉島伝法の『皆勤の徒』はすごいぞ。画期的な作品だ。おそらく、この十年で初めての、百パーセント独創的なSFだろう」と絶賛し、以下のように評している。「『流刑地』と『変身』のカフカが、フィリップ・K・ディックとスティパン・チャップマンとレオノーラ・キャリントンの霊を呼び出して、不気味な地球生物学と遠未来とブラザーズ・クエイをミックスしたコンテクストに放り込んだら?(中略)アンジェラ・カーターがシュールリアリズムに手綱をつけて、プロットのあるストーリーをぎりぎり語れるようにしたのと同様、酉島は、異形の未来に移植されたこの地球で、人間の奇天烈な生態と有機体の奇天烈なライフサイクルをどうにか物語として成立させている。つまり、おそろしく風変わりで先鋭的ではあっても、本書は実験的ではない。実験的な部分があるとすれば、それは、ライフサイクルや生物組織をプロットに組み込む、そのやりかたにある」
自分の感想は,筒井康隆の幻想の未来+ブライアン・オールディスの地球の長い午後+フランク・ハーバートのDUNE+・・・。主題として「宇宙」「意識」「生命」「進化」「情報」「ナノテク」「AI」がてんこ盛りで近江町市場の2700円海鮮丼状態だった。



写真:創元SF文庫「皆勤の徒」の書影


[2]棺詰工場のシーラカンス(酉島伝法)


2024年4月30日火曜日

四天王寺古本市

NHKの日曜昼のニュースでは,ゴールデンウィーク中に大阪の四天王寺の境内で催されている古本市が取り上げられていた。40万冊ほど出展されているらしい。

そんなわけで,急遽大和路線で大阪に向かうことになった。昔はこのようにたまーに古本市にでかけることがあった。京都ならば,京都古書研究会が,下鴨神社境内や,京みやこメッセや,百万遍知恩寺などで春秋に大規模な古本市を開いている。大阪では,大阪古書研究会が,天神橋の大阪天満宮の境内で開催している。

四天王寺の主催者は関西古書研究会だ。以前,大阪環状線の大正駅だったか芦原橋の前の広場の古本市にも一度行ったがあれは何だったのだろう。他には,神戸の三ノ宮や,東京の神田でも古書祭り的な催しがあった。そもそも大学時代には,頻繁に大阪の梅田や日本橋近辺をうろついていたし,定期的に東京の神田古本街巡りをしていたのだ。

さて,久々の古本市だが,寄る年波には勝てず,小一時間ほどで根をあげてしまった。昔に比べて,それほど本の傾向や量が変わっているわけではない。こちらのアンテナが古くなっているからかもしれない。岩波文庫や講談社学術文庫などがかなりまとまっているのが目に付いた。岩波の古典文学大系も沢山積まれていた。あと,レコードやDVDやCDなども。理系の本は相変わらず見当たらないないが,とくに生物・地学系以外は絶滅状態だった。

値段は,100円均一だとか,1冊200円3冊500円などと定型化している。本はネットで買うようになり,書店も古書店も数は減っている。最近は古本もほとんど新刊と区別せずにアマゾンに頼っている。それでも,見当たらない本は,古本市でと思うこともある。ところが,いかんせんSN比が悪すぎて,情報発見にものすごくエネルギーを使うため,老人には厳しい話になってくる。


写真:四天王寺境内の古本市の白いテント(撮影:2024.4.28)



図:本部で配布される案内図


2024年4月6日土曜日

言壺:神林長平

海外SF作家からの続き

自分が読んでいる海外SF作家について並べてみると,ほとんどが自分より年上の作家である。まあ,最近はあまり新しい本を買っていないからでもある。日本の作家でもほぼ同じことがいえるかもしれない。

神林長平(1953-)は,自分と同じ歳の作家だけれどもこれまで全く読んだことがなかった。というかあまり読む気もしなかった。たまたま,ハヤカワ文庫JAの「言壺」という短編集を手に取ってみると,はじめて面白そうだと思った。

1988年から1994年に出版されたものなので,まだインターネットが商用化される前の作品だ。ところが,そのごのネットメディアの特徴をうまく予言している。ワーカムというのは,ほとんどテキスト生成AIのことを表わしている。おもしろかったのは,「栽培文」だ。言葉が文字を失って植物という実体によって蓄積,伝達される世界を表わしている。


写真:ハヤカワ文庫「言壺」の書影

2022年12月15日木曜日

本は消えるか?

本屋が消えるからの続き

日本の書店数が減少を続け,2045年にはなくなりそうだという話だったが,それは本の購買ルートが書店からアマゾンなどのオンラインサービスに変わっているだけで,本自体はこれまでのように売れていると考えてよいのだろうか。

そこで,日本の出版物の販売額を調べてみた。出版科学研究所は,出版物の取り次ぎ商社大手のトーハン(旧名:東京出版販売株式会社)が1956年に設立し,その後,公共性を担保するために,社団法人全国出版協会に委譲されたものだ。日本の出版業界の売り上げは1996年まで上り調子できたが,消費税の5%への増税を契機に減少の一途をたどっている。それが,次の図の日本の出版販売額の推移でわかる。


図:日本の出版販売額の推移(出版科学研究所から引用)

この25年の雑誌と書籍の販売額の減少傾向を外挿すると(−580億円/年),シンギュラリティの2045年にゼロになる。もっとも,書籍だけをみればあと40年の猶予があるし,電子書籍が急に立ち上がっているので,心配することはないのかもしれない。このデータからも,従来のような書店が消えゆくことは間違いない。

では,図書館はどうなるのだろうか。あの忌まわしいCCC(ツタヤ)に侵食されない公共施設としての矜持を保つことができれば,これまでに蓄積された書籍のアーカイブとして,あるいは電子書籍に対応することで,さらには最新の仮想空間へのアクセスポイントとして生き延びてほしい。

2022年12月14日水曜日

本屋が消える

日経の夕刊の社会面に,「書店のない市町村26%に 店舗10年で3割減 文化発信の場,消失に懸念」という記事があった。出版文化産業振興財団の調査なのだが,そのもとになっているのは,日本出版インフラセンターのデータらしい。

書店ゼロの市町村の割合のワースト3は,沖縄県(56.1%),長野県(51.9%),奈良県(51.3%)だ。確かにまわりの書店がどんどん減っているという実感と一致している。近くに残された書店の一つ,近鉄八木店6階の丸善ジュンク堂が最近改装されてかなり広くなったという話だった。しかし実際には,従来の書店の主要部が拡張された文房具コーナーに置き換わってしまい,児童書部分が少し広くなっただけ。なお,人口1万人当たりの書店数ベスト3は,石川県(1.34),福井県(1.30),香川県(1.16)だ(全国平均は,0.78)。

その日本出版インフラセンターのデータによれば,日本の書店の総店舗数は,2011年に17,000あったものが,2021年に12,000と10年で5000軒減った。このペースが続けば,2045年に日本の書店数は0になる。なお,新聞の発行部数は1997年に5770万部でピークアウトし,つるべ落としの勢いで減少中である。こちらも2045年には0になりそうだ。自分の娘達も紙の新聞は購読していない。そんなわけで,2045年のシンギュラリティは,活字文化の消滅を包含することになる。


図1:書店数と総坪数(ガベージニュースから引用)
店舗当たりの坪数は増加し新設店舗の大型化が進む


図2:新聞発行部数(ガーベージニュースから引用)


2022年11月5日土曜日

戦争と人間(3)

戦争と人間(2)からの続き

山本薩夫監督(1910-1983,両親は小松市出身,山本三兄弟は甥)の「戦争と人間」三部作は,なんとなく消化不良のノモンハン事件までで終ってしまった。なお,ノモンハン事件は,中公文庫「失敗の本質−日本軍の組織的研究」の「一章 失敗の事例研究」の6件のうち,真っ先に取り上げられてた。

よく考えると,原作は五味川純平(1916-1995)の小説なので続きがあるかもしれないと調べてみた。三一新書,後に光文社文庫から出版されていた。Kindle版は今もあるのだけれど,文庫版のほうは古書で1冊数万円の値がついているものもある。

古書店など探していると,メルカリに「戦争と人間(三一新書全18冊揃い)」が3000円で出品されていたので,早速注文してみた。12巻の劫火の狩人第四部までが映画の三部作に対応しているようで,その後の話は13巻から18巻まで続くことになる。

五味川純平といえば「人間の條件」なのだが,こちらの方はテレビの昼のメロドラマ帯で断片的にみたような気がするけれど,軍隊の横暴さ残酷さは同じように描かれていたとしても,違う作品だったのかもしれない。

P. S. 仲代達矢ではなく加藤剛のイメージだったが,「テレビドラマ版の人間の條件」確かにありました。昼帯ではなかったけれど,1962年10月から1963年4月までの放映だ(小学校3年生のころか)。

2022年8月20日土曜日

玉川児童百科大辞典

 個人送信(2)からの続き

国立国会図書館デジタルコレクションの「個人向けデジタル資料送信サービス」の対象に,玉川大学出版部玉川児童百科大辞典があげられていた。そういえば,1冊持っていたと確認してみたら,玉川新百科1の数学の巻だった。

これは,昭和45年(1970年)9月10日に発行された学習百科シリーズの1冊だ。玉川児童百科大辞典の系列のシリーズで,対象読者は中学生や高校生だ。数学でいえばほぼ高等学校までの内容がカバーされていて,最後の現代数学の章で,記号論理学やカントールの集合論,抽象代数学などがほんの少しだけ含まれている。

この本を買ってもらったのは,高校生の時だった。本屋で見かけてどうしようと迷っていたのを憶えていたのか,ある日父親が買ってきた。小学校の時は,父には毎日のように本屋に連れていってもらって,沢山の本や図鑑を買ってもらった。やがて中学校になると,自分一人で本屋に行くようになり,主にSFやブルーバックスなどをあさっていた。

高校に入ってからは,父に本を買ってもらう機会はほとんどなくなっていたが若干の例外があった。この本とハヤカワSFシリーズ銀背のアイザック・アシモフの「銀河帝国衰亡史(記憶の中では金背になっていた)」,そして,ヴァージニア・ウルフの「灯台へ(To The Lighthouse)」(英語本)を買ってきたのが印象的だった。アシモフの方はわかるのだけれど,何故ヴァージニア・ウルフだったのかはいまでも謎だ。



写真:ハヤカワSFシリーズ「銀河帝国衰亡史」の書影
付録:玉川新百科(玉川大学出版部・誠文堂新光社)全10巻の内容
 1 数学
 2 物理1
 3 物理2
 4 化学1
 5 化学2
 6 天文・気象
 7 地球・海洋・地質・鉱物
 8 生物学
 9 動物
10 植物

2022年7月6日水曜日

まひるの月を追いかけて:恩田陸

昔,最も多いときは,年に100冊近く本や雑誌を買っていたかもしれない。ところが,最近,ほとんど本を買わなくなってしまった。通勤帰りに毎日本屋に立ち寄る習慣がなくなったせいだが,そもそも行動範囲内から書店がどんどん消えていることも原因だ。

諸般の事情で少し空き時間があったので,久しぶりに近鉄八木店のジュンク堂書店に立ち寄ると,宮部みゆき(1960-)の文庫新刊「まひるの月をおいかけて」が平積みされていた。手に取って中をパラパラみると,奈良県のあちこちを回る話で,天理という字が目に入ったので思わず買ってしまい,並み居る未読書を差し置いてさっそく読了した。

主人公らは,東京−橿原神宮前駅−橿原神宮−藤原京−今井町−明日香−亀石−橘寺−石舞台−天理駅−山辺の道−長岳寺−大神神社−近鉄奈良駅−奈良公園−新薬師寺−白毫寺−東大寺−法隆寺−中宮寺−飛鳥駅−橘寺と巡り,それにつれて物語が転回していく。

実体験にもとづくような文章だったので,たぶん,宮部みゆきもこのルートを辿ったのだな。天理駅前のビジネスホテルと焼き肉屋はどこだろう。とあらためて本をよく見ると,著者は宮部みゆきではなく,恩田陸(1964-)だった。しかも新刊ではなく,2007年が文庫1刷(単行本は2003年)だ。写真で見る二人の顔形はなんとなく似ているような気がするし,文春文庫の黄色い背表紙をみて条件反射的に宮部みゆきにアサインされていたようだ。奈良のご当地ものということで,書店で平積みされていただけだった。

宮部みゆきは何冊も読んだが,恩田陸は映画化された「夜のピクニック」を始めほとんど読んでいない。ハヤカワSFシリーズということもあって「ロミオとロミオは永遠に」はたぶん買ったような気がするが,期待外れだったので処分してしまった。


写真:まひるの月を追いかけての書影(amazonから引用)

2022年4月21日木曜日

渦 妹背山婦女庭訓 魂結び:大島真寿美

 最近,読書のスピードが極めて遅くなっている。本日,ようやく大島真寿美の「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」を読了した。2019年の第161回直木賞受賞作品だ。

もうすこし,重くて硬い作品かと予想して読みはじめると,意外に軽い文章だったので,始めのうちは少し慣れなかった。やがて,近松半二の物語についていくことができるようになった。この作品は操り浄瑠璃の竹本座の座付作者である近松半二(1725-1783)をテーマに選んだところが鍵だったと思う。

物語としては,やや物足りなかった。250年前に近松半二は,日高川入相花王(1759),奥州安達原(1762),本朝廿四孝(1766),傾城阿波の鳴門(1768),近江源氏先陣館(1769),妹背山婦女庭訓(1771),新版歌祭文(1780),伊賀越道中双六(1783)と,現在でも頻繁に上演されている,三大名作と近松の世話物以外の主要な浄瑠璃を次々と産み出した。それにも関わらず,操り浄瑠璃が歌舞伎に破れていくところが最も印象に残ったところだ。

もう一つは,妹背山婦女庭訓の主要登場人物のお三輪をふくめて,登場する女性陣がしなやかな強さをもっているところか。半二の妻はお佐久で,娘はおきみなのだが,これがどのようにして伊賀越道中双六の作者として名を連ねた近松加作につながっていくのかいかないのかは,次作の「結 妹背山婦女庭訓 波模様」を待たなければならないのか。

岡本綺堂の戯曲「近松半二の死」は青空文庫でも読める小編だが,そこでは祇園町の娘お作が加作につながることが暗示されている。


写真:大島真寿美の渦の書影(amazonnより引用)


2021年11月27日土曜日

21世紀への旅行

1960年代前半,自分が子供のころは日本の高度経済成長の時代と重なっていて,未来への夢や希望が色濃く感じられたものだ。やがて,万博が終わりオイルショックや不況を迎える1970年代にはその反動からか「モーレツからビューティフルへ」というCMが流れ,地球の寒冷化が話題になる短調の時代だった。

1962年(小学校3年のころ)に刊行された読売新聞科学報道本部と手塚治虫による「21世紀への旅行」は,鉄腕アトムのノンフィクション版のような趣があって,むさぼるように読んだものだ。

リアルな社会予想に基づく未来の世界のイメージは,小学館の科学図説シリーズの「未来の世界」でも読むことができた。まあ,台風の進路をコントロールするとか,原爆で運河を掘るとか,ベーリング海峡をつないでダムにするというたいそうな話も満載。

その科学図説シリーズは,ちょっと大人びたデザインで文字による情報量の多い図鑑であり,これも何冊か買ってもらって愛読した。たぶん太字のものは持っていたはずだがこの記憶にも若干微妙なところがある。

1) 動物の世界 (科学図説シリーズ ; 1) / 高島春雄, 今泉吉典 著[他] (小学館, 1960)
2) 昆虫と植物 (科学図説シリーズ ; 2) / 古川晴男, 矢島稔 著[] (小学館, 1962)
3) 生命のふしぎ (科学図説シリーズ ; 3) / 八杉竜一, 大滝哲也, 日高敏隆 著[他] (小学館, 1961)
4) 人類の誕生 (科学図説シリーズ ; 4) / 石田英一郎, 寺田和夫 著[他] (小学館, 1960)
5) 人体のすべて (科学図説シリーズ ; 5) / 岡本彰祐, 岡本歌子 著[他] (小学館, 1964)
6) 宇宙のすがた (科学図説シリーズ ; 6) / 畑中武夫 等著[他] (小学館, 1960)
7) 地球の科学 (科学図説シリーズ ; 7) / 畠山久尚 等著[他] (小学館, 1962)
8) 宇宙旅行 (科学図説シリーズ ; 8) / 原田三夫 著[他] (小学館, 1961)
9) 数の世界 (科学図説シリーズ ; 9) / 矢野健太郎 著[他] (小学館, 1963)
10) エネルギーと原子力 (科学図説シリーズ ; 10) / 崎川範行, 遠藤一夫, 島田豊治 著[他] (小学館, 1962)
11) 科学の歴史 (科学図説シリーズ ; 11) / 菅井準一 等著[他] (小学館, 1961)
12) 未来の世界 (科学図説シリーズ ; 12) / 高木純一, 岸田純之助 著[他] (小学館, 1963)


写真:21世紀への旅行の書影(復刻版しかみつからなかった)

2021年11月19日金曜日

少年少女ものがたり百科

偕成社の「少年少女ものがたり百科」のシリーズは,子供の頃に何冊か買ってもらった。調べてみると次のリストのようなタイトルが並んでいる。出版されたのが,1961年から1963年ということは,自分が小学校2年から4年のころにかけてだ。

当時は,夕方になると毎日のように父親に本屋(十一屋のヨコノ書店)に連れて行ってもらったので,本を買ってもらう機会も多かった。太字の本は家にあって読んだ記憶がある。下線の本は,もしかしたらあったかもしれないし,なかったかもしれない,というわけで60年前の記憶のほぼ50%くらいは不確かで怪しいのだった。

三石巌さんの「発明とくふうの光」はアマゾンの中古書で 12,990円もする。


写真:発明とくふうの光の書影(amazonから引用)

1) 日本のふしぎ (少年少女ものがたり百科 ; 1) / 宮下正美 著[他] (偕成社, 1961)
2) 世界のふしぎ (少年少女ものがたり百科 ; 2) / 中山光義 著[他] (偕成社, 1961)
3) 発明とくふうの光 (少年少女ものがたり百科 ; 3) / 三石巌 著[他] (偕成社, 1961)
4) 十二人の探検家 (少年少女ものがたり百科 ; 4) / 野田開作 著[他] (偕成社, 1961)
5) 星と伝説 (少年少女ものがたり百科 ; 5) / 野尻抱影 著[他] (偕成社, 1961)
6) 日本の英雄 (少年少女ものがたり百科 ; 6) / 中沢巠夫 著[他] (偕成社, 1961)
7) 世界の英雄 (少年少女ものがたり百科 ; 7) / 浅野晃 著[他] (偕成社, 1961)
8) 偉人の光 (少年少女ものがたり百科 ; 8) / 久保喬 著[他] (偕成社, 1961)
9) 宇宙のふしぎ (少年少女ものがたり百科 ; 9) / 日下実男 著[他] (偕成社, 1962)
10) 数のふしぎ・形のなぞ (少年少女ものがたり百科 ; 10) / 宮下正美 著[他] (偕成社, 1962)
11) 日本の伝説 (少年少女ものがたり百科 ; 11) / 山本和夫 著[他] (偕成社, 1962)
12) 世界の伝説 (少年少女ものがたり百科 ; 12) / 小出正吾 著[他] (偕成社, 1962)
13) 偉人の少年時代 (少年少女ものがたり百科 ; 13) / 二反長半 著[他] (偕成社, 1962)
14) 日本一・世界一 (少年少女ものがたり百科 ; 14) / 中山光義 著[他] (偕成社, 1962)
15) 動物のふしぎ (少年少女ものがたり百科 ; 15) / 小林清之介 著[他] (偕成社, 1962)
16) 植物のふしぎ (少年少女ものがたり百科 ; 16) / 真船和夫 著[他] (偕成社, 1962)
17) 日本歴史のひかり (少年少女ものがたり百科 ; 17) / 中沢巠夫 著[他] (偕成社, 1962)
18) 世界歴史のひかり (少年少女ものがたり百科 ; 18) / 浅野晃 著[他] (偕成社, 1962)
19) 理科のふしぎ (少年少女ものがたり百科 ; 19) / 三石巌 著[他] (偕成社, 1963)
20) 世界のオリンピック (少年少女ものがたり百科 ; 20) / 大島鎌吉 著[他] (偕成社, 1963)
21) 日本をめぐる (少年少女ものがたり百科 ; 21) / 本木修次 著[他] (偕成社, 1963)
22) 世界をめぐる (少年少女ものがたり百科 ; 22) / 飛田正夫 著[他] (偕成社, 1963)

2021年11月18日木曜日

お化け煙突

 NHKの映像の世紀プレミアムの再放送,第15回の「東京 夢と幻想の1964年」では,オリンピック前後の東京の様子が映し出されていた。もちろんオリンピックの話題が中心なのが,その前後には意外な都市の表情があった。

1つは,当時の東京が非常に汚かったということだ。家庭のゴミはその辺の道路や川に無造作に捨てられて,街中に腐臭が漂っているようだ。また,血液銀行という名の売血制度があった時代でもあり,日銭を稼ぐための建設労働者が行列していた。その中で,首都高速道路が建設され,東海道新幹線が開業している。

エピソードの一つにお化け煙突の解体というのがあった。隅田川沿いの足立区にあった東京電力の千住火力発電所の4本の煙突のことだ。もちろん現物を見たことはないが,子供のころから知っていた。

それは,偕成社の少年少女ものがたり百科(10)「数のふしぎ・形のなぞ」で取り上げられていたからだ。お化け煙突は,4本の煙突が2本づつ平行に配置されていて,見る方向によって,1本,2本,3本,4本に見えるというものだ。

この他にも,曽呂利新左衛門の褒美の話(等比数列の和),地球の鉢巻の話(円周と半径の関係),一億まで数えるのにかかる時間の話,ガウスのレンガ積みの話(等差数列の和),アルキメデスの原理の話,パスカルの三角形の内角の和の話などが印象深かった。

1962年の出版で,小学校低学年で買ってもらったお気に入りの本の一つで何度も何度も繰り返して読んでいた。


写真:「数のふしぎ・形のなぞ」の書影(日本の古本屋から引用)

2021年11月17日水曜日

オカジマサエ

 非常勤の授業からの帰り。今日はたまたま家人の用務先が大学の近くだったので,車でピックアップしてもらい,どこかで昼食をとることになった。

選んだのが,広陵町のCafe OMO屋。着いてみれば,田んぼの中にある昔の紡績工場の跡を改装した渋い建物だった。平日にも関わらず駐車場はほぼ満杯であり,店の入口で20分くらい待ってからようやく席につくと周りは若い人ばかりだ。

ランチの牛すじ煮込みカレーを食べながら隣の席の女性グループを見ると,いつの間にかワークショップが始まっていた。そういえば,待ち席の壁に,ひらがな絵本の原画が並んでいたのを思い出した。その作者本人が,絵本のイラストの切り抜きを小さなフレームにコラージュするコツを指導しているのだった。

食後のコーヒーを飲み終わって帰ろうとしたら,出口のあたりでオカジマサエさんが描いた絵本「いいもんみーつけた」を販売している。著者のサインがもらえるとあったので,早速,ワークショップの手を止めてお願いしてみたところ,快く孫のすーちゃん宛のサインをしていただいた。

オカジマサエさんの,声がとびだすひらがな絵本「あいうえお」は,現在た行まできている。帰って,Cafe OMO屋のことを調べていたら,今年の12月26日で閉店になるようだ。残念。


写真:オカジマサエの絵本「いいもんみーつけた」の書影(2021.11.17撮影)

2021年11月16日火曜日

taknal

 NHKの夕方の定番,ニュースほっと関西を見ていたら,大阪ガスの人が開発したスマホ用アプリが紹介されていた。taknalというものだ。「ユーザー同士がすれ違うことで,お互いがオススメする本が交換されるアプリです」ということだが,SNS機能はあえてつけていない。

本屋がまだ健在だったころ,しかもその本屋に通うことができていたころは,新しい本との出会いは毎日のようにあった。今では,インターネットで検索できるとはいうものの,残念ながら,インターネットの検索では思いがけない出会いを得ることが難しい。あくまでも自分の関心空間の近傍でしか探索が進まない。

そこで,スマートフォンの位置情報と,ユーザーのおすすめ情報を掛け合わせて,偶然の出会いを演出したのがこのアプリである。ユーザの情報は100字以内の感想文しか交換されないので(もちろんソーシャルセキュリティホールは色々と作れるだろう),比較的安心して利用できそうだ。

が,残念ながらアプリのバク出しが不十分なのか,iPhone SE2(iOS 14.8)では,自分のおすすめ本を登録できなかった。また,自宅に閉じこもっていると,位置情報による発見の確率も低いままで止まってしまうのも仕方がない。


図:taknalアプリアイコンのイメージ(taknalホームページから引用)

P. S. なお,taknalという名称は「読みたくなる」からきている。やっぱり使えなかった

2021年11月12日金曜日

神戸:西東三鬼

対面授業が始まってくれたおかげで,電車の中で読書する時間が戻ってきた。

西東三鬼(1900-1962)の神戸・続神戸を読了。これは,昔,NHKのドラマ人間模様で見た「冬の桃」(1977,脚本:早坂暁,演出:深町幸男,全7回)の原作である。早坂=深町コンビといえば,夢千代日記(1981)も新婚当時よく見ていたが,それと同じフレーバーの名作だった。

冬の桃は1977年の放送だったが,M2の頃に見ていたのではないかもしれない。とすると総合テレビで夜9:00に再放送された1990年だろうか。小林桂樹の渋い演技や,時々挟まる西東三鬼の俳句が,戦時中の神戸の怪しいホテル人々の様子と相まってとても印象的だった。

小説(著者はフィクションではないと書いている)の方も,小説より奇なりのエピソードが積み重ねられる。歯科医の著者が,弾圧によって俳句から距離を置いた,戦中戦後の生活模様が描かれる。

その後,1948年には山口誓子(1901-1994)を主宰とする雑誌「天狼」の編集にあたる。名前は耳にしたことがある雑誌だが,創刊時は奈良県丹波市町(現天理市)の養徳社から出版されている。西東三鬼が編集に携わっていた頃は先鋭的だったのが,後に微温的な雑誌になってしまったとのこと。

養徳社は,天理時報社の出版部門が1944年に株式会社として独立したもので,現在は,天理教関係の一般雑誌などを出版している(天理時報社=印刷会社には,個人の名刺を印刷してもらったことがある)。天理教の出版物といえば,天理道友社だが,こちらは宗教法人格を持っている。


写真:西東三鬼(津山市西東三鬼賞のページより引用)

[1]第三俳句集 今日(西東三鬼,青空文庫)
[2]西東三鬼賞(津山市)

2021年10月25日月曜日

光の雨:立松和平

 夜の谷を行く:桐野夏生からの続き

一年かかって,ようやく立松和平光の雨を読了。まとまった時間がないと本が読めないのだが,法事で金沢まで往復したサンダーバードの時間を使うことができた。

狂言回しの周辺ストーリーは本質的なものではないと思うので,そこを批判するのはあまり当たらないのではないか。ただ,勾留中の坂口弘死刑囚の著作からの盗作疑惑を指摘されたため,大幅に改訂して文庫本となっているとのこと。

物語の主人公は,玉井潔(坂口弘 1946.11-)である。彼が80歳になっていて,死刑制度が廃止された2026年という時点に時代設定がなされている(Wikipediaには2030年とあるが,玉井が80歳になったばかりで,55年前の事件というキーワードがあることから2026年と推定できる)。その思い出語りの形で,連合赤軍事件(真岡銃砲店襲撃事件印旛沼事件山岳ベース事件)を中心に事件の概要を肉付けしたストーリが描写されている。

前半を印旛沼事件までに費やしていたが,こちらはよく知らなかった。後半の山岳ベース事件は,朝刊に載った写真が生々しくショッキングだったことを憶えている。早岐やす子(21歳) ,向山茂徳(20歳);尾崎充男(22歳) ,進藤隆三郎(21歳) ,小嶋和子(22歳) ,加藤能敬(22歳) ,遠藤美枝子(25歳) ,行方正時(25歳) ,寺岡恒一(24歳) ,山崎順(21歳) ,山本順一(28歳) ,大槻節子(23歳) ,金子みちよ(24歳) ,山田孝(27歳) の14名を概ねカバーした記述がされていた。

立松和平の湿っぽさが内容にマッチしていたのかもしれないが,あらためて山本直樹のレッドをまとめて読んでみたくなる。


写真:光の雨の書影(Amazonから引用)

[1]連合赤軍事件スクラップブック


2021年9月10日金曜日

ホサナ:町田康

2017年に出版され,2020年に講談社文庫として発刊された町田康の「ホサナ」 を読了した。

解説まで含めて文庫で922pというかなりの大部。最初は「スピンク日記(2011)」などのエッセイに登場する犬の話かと思って油断して読んでいたら,突如,光の柱が現れて主要人物が死んでしまった。なんだこれは。

もちろん,これまでに読んだ「パンク侍,切られて候(2004)」,「告白(2005)」,「宿屋めぐり(2008)」でもかなりぶっとんだ状況は出現するのだけれど。ホサナを読むのは苦にはならなかったが,小説の完成度としてはイマイチだったかもしれない。

そういう意味では,最初からSFとして読めればよかったのだけれど,残念ながらそういう建て付けにはなっていない。たぶん,楳図かずおの「漂流教室」や「14歳」のレベルには到達できていない。比較の対象が間違っているのかもしれないけれど。

次は,「ギケイキ2」を読むのが楽しみだ。

2021年7月15日木曜日

カレル大学

石橋や池田に住んでいたころ,あるいは天王寺に通っていたころは,仕事帰りに本屋に寄るのが日課だった。天理に引っ越してからも,大和八木にはかろうじて本屋らしきものがあったので,毎日新刊をチェックすることができた。

でも本屋の消滅が進み始めたころに定年となったたため,本屋にいくのは2,3ヶ月に1度のペースになってしまった。アマゾンやグーグルでは目的の本を探せるかもしれないが,目的としない本に出会うことができない。ネット上でこれを可能にするにはVRが次の段階まで進化して,アーサー・C・クラーク(1917-2008)のダイアスパーの世界が実現するのを待たなければならない。

そんなとき,YouTubeの読書系チャンネルが未知の本を探すための補完になるかもしれない。ヨビノリたくみと斎藤明里のほんタメをみていたら,【全10冊】小説1000冊読んだ私が最近読んだ本というタイトルで,アンナ・ツィマ(1991-)のシブヤで目覚めてを先月末に紹介していた。そうか,深緑野分によればコニー・ウィリス(1945-)なのか。ますます読んでみたくなる。

そのアンナ・ツィマと訳者の阿部賢一・須藤輝彦を招き,実践女子大学文学部准教授のブルナ・ルカーシュが司会をする特別トーク・イベントがあった。アンナ・ツィマとブルナ・ルカーシュが卒業しているのが,プラハにあるカレル大学だ。1348年創設のドイツ語圏最古の大学である。

カレル大学は知らなかったけれど,ヤン・フス,ニコラ・テスラ,カレル・チャペック,フランツ・カフカ,ミラン・クンデラや,多くのノーベル賞学者を輩出しているヨーロッパの主要大学のひとつだった。アルバート・アインシュタインやエルンスト・マッハもこの大学の教員だった。


写真:歴史地区にある旧校舎=チェコ国立図書館(Wikipediaから引用)