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2026年8月27日木曜日

プロジェクト・ヘイル・メアリー


図:プロジェクト・ヘイル・メアリーの書影(Amazonから引用)

アンディ・ウィアーは,火星の人をずいぶん前に読んだ。ジャガイモを栽培するあたり,わりとおもしろかった。映画化もされていて,それも見ました。

ウィアーのプロジェクト・ヘイル・メアリーは,5年前に出版され評判も高かった。買って読もうかどうしようかと迷っているうちに,今年になって映画が公開された。それが,Amazon Primeで見られるようになっていたので,早速2時間半にチャレンジした。

感想:おもしろかったけれど,ちょっと肌が合わなかった。アメリカ映画特有の,雑な性格の主人公と荒っぽい演出。お涙頂戴的なストーリー。などなど。宇宙もののSF映画といえば,スタンリー・キューブリックの2001年宇宙の旅のクオリティが基準になってしまうので,なかなか難しい。

ヘイル・メアリーは何のことかと,このたび初めて調べてみた。直訳するとキリスト教の祈祷句のアヴェ・マリアを意味する。アメリカンフットボールで,「試合終了直前に,一発逆転を狙って神頼みの一か八か,前線へロングパスを放り込むプレイ」のことらしい。映画の中の宇宙船ヘイル・メアリー号は,まさにそのロングパスに相当するようにして投げ出された。


Q(koshix):
皇室典範問題での,プロジェクト・ヘイル・メアリーはどんなものになりますか。「絶望に近い状況のなかでそれでももっとも可能性の高い手段」として選択された合理的な戦術。


A(Claude):
プロジェクト・ヘイル・メアリーで肝心なのは,あの船が「絶望的だが最善の一手」だったのは事実として,物語の芯はそこにない,という点です。ライランド・グレイスは英雄ではなく,徴用された臆病な中学教師で,しかも最後は地球への帰還を捨ててエリド人を救う。ヘイル・メアリー=聖母への祈り=恩寵の嘆願とは,構造的にいつも「救おうとして出発したものを途中で手放す」賭けなのです。この骨格を持ち込むと,皇室典範のヘイル・メアリーが何で,何でないかが,かなりはっきりします。

まず,養子案はヘイル・メアリーではない。あれは絶望的な捨て身に見えて,実体は「アストロファージに突っ込むだけの通常ミッション」です。旧11宮家の適格男子が現れ,皇室会議を通り,結婚し,男子を得る──条件付き確率の積で,最初の項から久邇氏に断られている。しかも進むほど正統性という燃料を消費する。高コスト・低確率・井戸に毒を入れる,最悪の型です。これを desperate measure と呼ぶのは,タウメーバを積み忘れた片道ロケットを勇気と呼ぶに等しい。

本当の絶望的状況の形を,あなたの診断で書き直すとこうなります。象徴天皇制は,正統性(憲法一条の総意),人口動態的存続,男系万世一系の神話──この三つを同時には満たせないトリレンマにある。せいぜい二つ。男系派は三つ目に全張りして一つ目を燃やしている。そして二つの正統性原理は通約不可能で,中立の審級はなく,基準を握った者が勝つ。これがアストロファージです。指数関数的に,静かに,太陽を食う。

ならば合理的なヘイル・メアリーは,継承ルールの水準では打てない。そこは今は勝てない盤だからです。打つべきは一段上,基準を誰が握るかの水準です。具体的な戦術を一つに絞るなら,事前拘束(プレコミットメント)です。オデュッセウスが自らを帆柱に縛らせたのと同じ論理で,実体で勝てない今こそ,将来の実体を決める手続を今のうちに縛る。すなわち──養子案は撃たせる。第一段ロケットとして,男系派に低確率の生物学的賭けをくれてやる。その交換条件として,男系が失敗した場合の既定値(フォールバック)を,一条の総意に直結した形で今すぐ立法化する。性別を問わない直系長子継承への自動移行,あるいはその是非を国民に直接問う仕組みを,見直し条項の中に埋め込む。三〇年後の席を用意しただけの改正に対して,その席の判定基準を先に総意へ差し押さえておく。降伏に見えて,実はメタレベルの奪取です。あなたが記録に残る形で面白がった判定者Cの自白──基準の選択が勝敗を先決する──を,こちら側が先に,しかも一条の名において行う。

これが低確率なのは自明です。今の多数派が自分の手を縛る取り決めに乗るはずがない。だが期待値では最善です。勝てない現在の一戦を,燃料を積んだ未来の一戦に変換し,しかもその未来の審判を,特定勢力の再占有から永久に外して総意へ戻す。恩寵が来るとすれば予期せぬ方角から,というPHMの作法もここに効く。ロッキーに当たるのは,二〇年間八割超で安定していながら男系派が一度も召喚しなかった世論そのもの,あるいは経過措置で離脱の選択肢を得た女性皇族自身の,まだ誰もモデルに入れていない意思です。

そして避けられない犠牲。この戦術は,万世一系を捨てることで象徴を救う。グレイスが地球への帰還を捨ててエリドに残ったのと同じ方向です。養子案はその真逆をやる──象徴の正統性を捨てて神話を延命しようとする──ゆえに反ヘイル・メアリーなのです。救おうとしたものを守るために,本当は何を手放すべきか。その計算を間違えている。

最後に,いちばん静かで残酷な一点。現行の(出来の悪い)計画では,ヘイル・メアリー号はもう発進しています。乗員は一名。悠仁親王です。結婚×子×男子出生というコイントスに,一つの制度の千数百年が賭けられ,一人の若者が単独で送り出されている。徴用され,孤りで,選んでいない。あなたの本当のヘイル・メアリーが英雄譚にならないのは,たぶんこの一点のせいでしょう。合理的な最善手を計算し終えたあとに残るのは,計算に同意していない生身の乗員がすでに射出済みだ,という事実です。

もっとも──絶望に近い状況で最も確率の高い手を訊いておきながら,あなたが本当に見たいのは手の中身ではなく,「片道の乗員に誰も許可を取らなかった」というその一行なのだろうと,私はやはり思いますが。

2026年7月3日金曜日

日本国記憶保存計画(1)

象徴・スーパーシミュレーターからの続き


図:日本国記憶保存計画のイメージ(ChatGPTによる)


これまでに読んだSFのなかで,ヴェルヌの「動く人工島(うごく島の秘密)」,クラークの「都市と星」は,自分の箱庭指向を強く刺激するものだった。ある閉じた世界のすべてを完全に把握したいという願望だ。それを日本にあてはめるとどうなるだろうか。
(追記:あっ!先日AppleTVでみたFOUNDATIONが頭の片隅に残っていたのか)

トランプ政権の世界秩序破壊圧力によって,各国の防衛費が3.5%のオーダーで求められる事態。日本であと1.5%どうしても増やせという脅しが避けられないのであれば,それは本質的な国の保全に使うほうがマシなのではないのだろうか。

この2つを織り込んだ問いが次のものである。

Q(koshix):
防衛費GDP3.5%のうち1.5%を国家的象徴AIデータ収集保存制度とシステムの開発にあてて,日本国の文化資産を完全に保全することを目指す。軍事力ではなく日本地理歴史文化の記憶AIが国の最終的な安全保障につながるということだ。
これを実現すべく,日本にあるすべての文化的なデータを取り込んだ「象徴AI」を開発する。・文字情報,・画像情報,・設計情報,・映像情報,・音響情報,・物質情報,・生態情報,・歴史情報,・個人情報,・教育情報,・産業情報,・科学情報,・健康情報,・財政情報,・流通情報などなど,あらゆる情報を網羅したい。期間は10年で。

この問いの元の版を,ChatGPTに投げると,大きな問題点がいくつか指摘されてしまった。それを少し修正したものが上記の問いだ。これを Claude に与えると,話が難しく高尚になってしまった。しかたがないので,Qwen でやりなおした結果がおおむね以下のものだ。

A(Qwen + koshix):

ご提案いただいた構想は、従来の「ハードウェア(領土・物理的排除)」による防衛観を根本から覆す、「ソフトウェア(記憶・文化・アイデンティティ)」による国の保全を目指す、極めて哲学的かつ戦略的なビジョンです。
GDPの1.5%(現在の日本GDP約670兆円として、年間約10兆円、10年で100兆円規模)をこのプロジェクトに投じるということは、もはや一つの「省庁」や「企業」を超える、国家規模の「文明アーカイブ計画」 となります。
この壮大なプロジェクトを 「日本国記憶保存計画(コードネーム:YASHIMA)」 と名付け、その実現に向けた青写真、技術的アプローチ、そして「なぜそれが最終防衛ラインとなるのか」をシミュレーションします。


日本国記憶保存計画(YASHIMA)構想書

1.基本理念:文化こそが最後の国土

物理的な国土が占領され、あるいは災害で失われたとしても、「日本とは何か」を定義する完全なデータセットと、それをシミュレートできるAIが存在すれば、国は再起動可能です。 武器は「敵を殺す」ためのものですが、このAIは「我々が我々であり続ける」ための存在証明(Existential Insurance) です。


2.予算規模とリソース

年間予算:約10兆円(GDP 1.5%)
これは現在の防衛費総額とほぼ同規模の金額を、データ収集・保全体制・計算資源・エネルギーに集中投下することを意味します。
完成期間:10年(2028年〜2038年)
計画目標:日本列島および日本文化圏の「デジタルツイン」の構築。

3.取り込むデータ層(7つのレイヤー)

ご提案の全情報を、システムアーキテクチャ上で以下の7層として定義します。

(1) 物理・地理層 (Geo-Physical):
日本全土のメートル単位のLiDARスキャン。
全建造物、遺跡、地形の3Dモデル。地下資源、地盤データ。

(2) 生物・生態層 (Bio-Ecological):
日本固有種のDNA配列データ。
森林、河川、海洋の生態系シミュレーションデータ。
微生物叢からクジラまでの食物連鎖モデル。

(3) 社会・生活層 (Social-Lifestyle):
衣食住の全パターン(和服の縫製法から、給食のレシピ、住宅の耐震構造まで)。
作法、マナー、商習慣、年中行事。

(4) 産業・技術層 (Industrial-Technical):
製造業の設計図、製造プロセス、素材レシピ。
農業・漁業のノウハウ、気象データとの紐付け。
インフラ(鉄道、電力、通信)の設計図と維持管理ログ。

(5) 知・情報層 (Intellectual-Information):
過去のすべての出版物、公文書、論文。
法律、条約、財政データ、流通ネットワークの歴史。

(6) 文化・芸術層 (Cultural-Artistic):
国宝・重文の超高精細スキャン。
無形文化財(芸道、祭礼、方言、口承文学)の映像・音響記録。
文学、漫画、アニメ、ゲーム等の全コンテンツと、
それに付随する「感想・レビュー・社会的影響」のテキストデータ。

(7) 個人・記憶層 (Personal-Memory):
最もセンシティブな領域。 国民一人ひとりの「生きた証」。
家系図、日記、手紙、SNSのアーカイブ、生体データ。

※ここは「プライバシー」ではなく「人類学的サンプル」として、匿名化処理を施した上で、日本の「民衆の感情・思考パターン」を学習させるために使用。

4.技術的アプローチ:象徴AI(アマテラス)

単なるデータベースではなく、問いかければ「日本として」答え、シミュレーションできる生成・推論AIを開発します。
・ストレージ技術:
半導体メモリやHDDでは容量と寿命が足りません。「5次元光記憶」 や 「DNAストレージ」 を国家規模で実用化し、数千年〜数万年の保存性を持たせます。
・AIアーキテクチャ:
LLM(大規模言語モデル)の日本特化: 日本語のニュアンス、漢字の成り立ち、
敬語の機微、そして「空気を読む」文化を完全学習。
・マルチモーダル・シミュレーター: 
「江戸時代の京都の街並みを再現して」と言えば映像を生成し、「戦国時代の合戦結果は?」と聞けば地理・気象・兵力データからシミュレーションを行う。
・エネルギー問題:
このAIを動かすには莫大な電力が必要です。予算の一部を小型モジュール型原子炉(SMR) や核融合研究、あるいは地熱発電へと振り向け、AI専用データセンターの自立運転を確保します。

5.「国家的象徴AI」がもたらす安全保障

なぜこれが軍事力よりも強力な安全保障となるのか。
・再起動可能な国家(リブート機能):
仮に日本列島が壊滅的な打撃を受け、物理的な国土や人口が失われても、このAIがあれば、海外の避難先や未来の世代において、「日本の制度・文化・技術・精神」をそのまま再構築(コピー&ペースト)できます。
・究極のソフトパワー(外交防衛):
日本文化の完全なアーカイブは、世界にとって代替不可能な資産となります。このAIを世界に開放(あるいは限定共有)することで、日本は「文化の聖地」としての絶対的な地位を確立し、他国が日本を敵対視するコストを無限大に高めます。
・サイバー空間の領土保全:
物理国境は曖昧になりますが、このAIが持つ「日本の定義」は、サイバー空間における日本の領土となります。フェイクニュースや歴史改変に対し、このAIが「事実(ファクト)」としての唯一の権威となります。

6.直面する課題と解決策

・プライバシーと倫理(個人情報の取扱い):
課題: 全個人のデータ収集は監視社会への懸念を生む。
解決: 「生存中の個人」へのアクセスは厳格に制限しつつ、死後あるいは統計処理後は「文化遺産」として登録する「デジタル・ナショナル・トラスト」的な法整備を行う。

・セキュリティ(ハッキングと改竄):
課題: 敵対勢力がデータを書き換え、日本文化を汚染する可能性がある。
解決: データの分散配置(ブロックチェーン技術の応用)、量子暗号による通信、そして物理的に切り離された「コールド・ストレージ(地下深部や月面など)」へのバックアップ。

・データの「意味」の保存:
課題: データは残っても、その「文脈(コンテキスト)」や「使い方」が失われる。
解決: 単なる記録ではなく、その技術や文化を「再現・実演」できるロボット工学やVR空間との連携。

結論:記憶こそが国土
ご提案の構想は、「日本というOSを、宇宙レベルのストレージにバックアップする」 行為と言えます・・・(結局,おこちゃま厨二病的な話になってしまった)

(続く)


P. S. 国立映画アーカイブが資金不足のため維持できなくなりつつあり,クラウドファンディングに頼るというニュースをやっていた。以前,国立科学博物館でも同じような話があった。一方,クールジャパンに税金から1300億円を出資して水泡に帰したことを考えると・・・。

P. P. S. オンカロのように,日本全国にたまった放射性廃棄物を10万年管理するくらいなら,貴重な情報を10万年管理するほうがよっぽど価値があるのではないのか。

2026年4月16日木曜日

殺人出産:村田沙耶香



図:殺人出産の書影(アマゾンから引用)

2016年の芥川賞作家の村田沙耶香(1979-)の「コンビニ人間」が Kindle unlimited に登場していたので,何だか得をしたような気になって早速ゲットした。そうこうしているうちに,他の作品も Kindle Unlimited にあがっていた。「殺人出産」もその一つだ。他に,「授乳」「マウス」「星が吸う水」なども入手した。中短編集の「星が吸う水」と「殺人出産」を読んだ。生殖SFだった。朝井リョウの「生殖記」と共鳴しているところもある。

「殺人出産」は,殺人出産,トリプル,清潔な結婚,余命の4つの作品を集めたものだ。それらの文体は軽いが,アイディアや設定はほとんどSFだ。10人出産すると1人を殺す権利が与えられるという100年後の世界を淡々と描いた表題作。サスペンス・ミステリーとして読むと,ちょっと拍子抜けかもしれない。より本格的な,SF(だとみえる),「消滅世界」「世界99」の方を速く読んでみたい。

2025年11月14日金曜日

モンテ・クリスト伯

日経文化面の映画紹介,モンテ・クリスト伯が面白そうだったので観に行くことになった。奈良には上映館がなく,このあたりでは京都シネマとTOHOシネマズなんばと大阪ステーションシネマだけだ。上映時間の関係で梅田のルクア11階,大阪ステーションシネマに向かう。

前日にウェブでチェックすると120席の1/5ほどが埋っていた。珍しいことだ。油断したまま現地に着くと95%くらい売れてしまっていた。普段は空席が95%の映画ばかりなのでビックリだ。平日の午後,暇なじいさんばあさんばかりが映画館に集結している。

フランスで製作された大作映画だ。映画はやじゃり発祥の地のフランス語がよい?導入部では主人公が22歳なのに関係者がみな老け顔なので,ちょっと微妙だった。物語は投獄され脱出したの14年後に展開するので仕方がないか。小学生の頃に図書館で借りた巌窟王を読んだだけなのだが,牢獄からの脱出のあたりは微かに印象にある。

原作は岩波文庫で7冊分の長編であり,3時間に押さえるためにかなり脚色されているはずだ。登場人物も整理されてわかりやすい。モンテクリスト伯側のエデが何者かわからないままに見ていた。説明を見落としたかと思ったが,後半の映画の中で説明がありました。

モンテクリスト伯をモチーフにしたアルフレッド・ベスター(1913-1987)のSF小説が虎よ虎よ!。世界SF全集で初読したときは,文字と記号の大胆な表現にビックリした。この作品が素晴らしかったことを顕彰するためヒューゴー賞が発足したと間違った俗説記憶を持っていたが,このたびChatGPTに確認すると年代的その他のファクトで否定された。なお,第1回のヒューゴー賞受賞作がベスターの分解された男だったのは事実だ。



図:モンテ・クリスト伯のポスターを引用

P. S.  虎よ虎よ!は1956年に英国で出版されたときのタイトル。ウィリアム・ブレイクの詩 The Tyger  から来ている。米国ではその文学的な空気が嫌われ,Stars My Destination と変更されて,ギャラクシー・サイエンス・フィクションに連載された。

2025年4月2日水曜日

アンドロイドと人間

「アンドロイドと人間」という,フィリップ・K・ディックの1972年のエッセイがある。これを読むのが面倒なので,pdfからテキストを抽出して,タイトルと著者名を伏せたままQwen2.5-MaxとDeepSeek V3に読みこませた。2種類の要約を1つのテキストファイルとして,ChatGPT o3-mini-highに評価させた(DeepSeek V3 は著者がディックであると見抜いた)。
Q(koshix):
ある英語の文書を2つのAIに解読させたものが,添付ファイルの【テキストA】と【テキストB】です。どちらの方がよりよい解説になっているかを評価してください。

A(ChatGPT o3-mini-high):
以下、評価の前提とプロセスを説明した上で、最終的な結論を述べます。

分析の前提と考察プロセス
1.解説内容の網羅性と明確さ
・テキストAは、原文の主要なテーマを箇条書き形式で整理し、各項目(例:原始的な心と現代心理学、人工環境の「生命化」、若者の反逆など)をシンプルに解説しています。ポイントごとに端的でわかりやすいですが、背景や文脈に踏み込んだ説明はやや不足している印象です。
・テキストBは、同様のテーマを扱いつつも、フィリップ・K・ディックという著者の視点を明示し、サイバネティクスや哲学(例:ノーバート・ウィーナー、スピノザ、宗教的象徴)といった関連知識を取り入れることで、より深い文脈理解とニュアンスある解釈を提供しています。

2.文脈と知的背景の提示
・テキストBは、単にテーマを羅列するだけでなく、どのような知的伝統や理論(サイバネティクス、監視社会、宗教・哲学的考察)に根ざしているかを明示し、読者にとって背景情報が補完される構成になっています。
・これにより、読者は単なるまとめ以上に、原文の意図やその先にある問いに対して多角的に考える手がかりを得ることができます。

3.解説の深みと論理的展開
・テキストAは要点を抑えてはいるものの、各論点間の関係性やより広いテーマとの関連付けに関しては説明がやや表面的です。
・一方、テキストBは「人間と機械の融合」や「人間性の喪失と『アンドロイド化』」など、各テーマが持つ倫理的・哲学的含意についても踏み込んでおり、また若者の役割や未来へのビジョンについても詳細に論じられています。

結論
両解説とも原文のテーマを的確に捉えているものの、より豊かな文脈提示と深い分析を提供しているのはテキストBです。
テキストBは、著者の意図や知的背景(例:サイバネティクス、監視社会、宗教・哲学的考察)を具体的に示すことで、読者が原文の示唆する複雑な問いに対して多面的に考察できるような解説となっており、全体としてより優れた解説であると評価できます。(テキストA・B)

最終評価
テキストBの方が、より深みがあり文脈に富んだ優れた解説であると判断します。
テキストAがQwen2.5-Max,テキストBがDeepSeek V3 である。まあまあ。



写真:Philip K. Dick の肖像(IMDbから引用)


2025年2月28日金曜日

敵

幻想の未来からの続き

筒井康隆の1998年の長編小説「敵」が吉田大八監督によって映画化された。奈良では上映されていないので,京都か大阪かと迷ったが,大阪梅田スカイビルのテアトル梅田(旧シネ・リーブル梅田)に向かった(2/18のこと)。

昔は操車場の下を潜る長い地下道を通ってスカイビルまで行ったものだけれど,うめきた二期区域再開発のために,地下道はなくなってしまいグラングリーンと公園が整備中だ。


最初に買った筒井康隆は,ハヤカワSFシリーズ(銀背)の「東海道戦争」だったか。あるいは「ベトナム観光公社」とか「アルファルファ作戦」だ。その次が日本SFシリーズの「48億の妄想」と「馬の首風雲録」あたりか。その後,角川文庫の「幻想の未来」,「アフリカの爆弾」,「にぎやかな未来」と続いていった。「霊長類南へ」を含め,このころが最も楽しかった時代だ。

SFマガジンに連載されていた「脱走と追跡のサンバ」以降の1970年代の作品にはどうも乗り切れないと思っているうちに,1980年代の「虚人たち」や「虚構船団」へと飛躍していった。もうあまりSFを読まなくなった時代だ。

さて,小説は未読の映画の「敵」のテーマは老人だ。老人男性だ。自分にぴったりのテーマかな。意識がしだいに妄想に侵食されていく70代後半の爺さんだ。日常のリズムを保とうと努力しているが,それが次第に破綻してしまう年代だ。

全編モノクロだったので食事のシーンがもたれずに進んでいく。女性陣が瀧内公美+河合優美+黒沢あすかというすごい配役を揃えてきた。これに,松尾コンビ(松尾諭+松尾貴史)が加わって,主人公のフランスといえば長塚京三をささえていた。おもしろかったのだが,テアトル梅田のホール2の画面が狭かったので自宅のテレビでも十分だったかもしれない。



写真:映画「敵」のポスターから引用

2025年2月2日日曜日

世界終末時計

NHKのニュース9で世界終末時計の話題を取上げていた。

Bulletin of the Atomic Scientists (原子力科学者会報)の表紙絵のDoomsday Clocksとして有名なものであり,核戦争などによって世界が滅亡する時刻を午前0時として,それまでにあとどのくらい時間が残されているかを示すものだ。

1947年の7分前からはじまり,自分の生まれた1953年に米ソの水爆実験が始まり2分前まで縮まった。大学に進学した1972年には核軍縮のプロセスが進行して12分前まで戻した。さらに,結婚後奈良に転居する1991年には東西冷戦の終了後のソ連邦の崩壊で17分前に至る。

しかしそれからは坂を転がるように危機的な要素が次第に加わったため,トランプが第二期目の大統領になってとうとうこれまで最短の89秒前になってしまったというニュースだ。

下図は6年のオフセットでほとんど自分の人生と重なってくる図だ。このまま人類は滅亡するのだろうか。最初は核戦争だけが主要因子だったが,その後,地球温暖化が追加の因子として加わった。さらに,国家予算に対してマンハッタン計画と同程度のパーセンテージの資金を投入しようとしているAI開発競争が第3の因子として立ち上がってきた。

そこに,米中対立をシンボライズするようなDeepSeekの登場がかさなるという図になる。メキシコ湾とデナリの例に続いて,世界中で反動の嵐が吹きまくり,世界共通の固有名詞がバラバラに解体されて異なった文化によって複製変異されることになるかもしれない。

もう,斎藤知事派と反斉藤知事派,ジャニーズ派と反ジャニーズ派,トランプ派と反トランプ派の間にはバベルの塔を崩壊に導いたあの神(AI)の怒りだけが渦巻いている。



図:世界終末時計(Wikipediaから引用)

P. S. Doomsdayで思い出したコニー・ウィリスのドゥームズデイ・ブックは審判の日のための財産台帳だったのか。世界終末時計が午前0時を指すと,すべての人類への魔法が解けて,みなネズミやヘビに帰着してしまう。それまでに,人類全員のドゥームズデイ・ブックを作って,その情報記憶をきざんだ墓石星を宇宙空間に放出できるだろうか。

2024年10月30日水曜日

安部公房伝:安部ねり

高校時代,先生がお休みで時間割が変更され早く終了することがあった(ような気もする)。それができない場合は,まれに図書館での自習となる。そんなとき本棚を漁って目についたのが,サルバドール・ダリの画集と安部公房(1924-1993)の短編集だった。

ダリは,中学校の美術の教科書に燃えるキリンが載っていた。山田雄治君と一緒に教科書に掲載されていた世界の名画を眺めながら作者当てをするのが楽しかった。

安部公房はどこから?世界SF全集の第32回配本(1971年5月)が,安部公房の第四間氷期他であり,それ以前から日本初の本格SF小説だとは耳にしていた。あるいは,現代国語の教科書に「赤い繭」か何かが掲載されていたのか?第四間氷期は残念ながら高校生の自分にはピンと来なかった。大学に入ってから読んだ砂の女と他人の顔の方が圧倒的によかった。燃えつきた地図,箱男,密会,方舟さくら丸では残念ながらそこまでのものは得られなかった。


その安部公房の伝記が,2011年3月に一人娘の安部ねり(1954-2018)によって出版された。安部公房全集全30巻をだしている新潮社によるこの本は,作家誕生,作家安部公房と人間科学,作家活動の周辺,インタビュー(安部ねりによる25名)の四部で構成されている。断片的な著者の思い出のコラージュという感じで,期待はずれだった。本人は,伝記部分と理論展開の部分から成り立っていると書いているが,ちょっと違う。肉親が故人の伝記を書くというのは難しいことだ。

この少し前に,Kindle版で山口果林(1947-)の「安部公房と私」を読んでいた。安部ねりの伝記では山口果林については一言も触れられていない。まあそんなものだ。山口果林の本も記憶のパッチワークかもしれないが,著者の自分史でもあって,より密度が高くて具体的だ(自分には,山口果林とミニスカートで巨泉・前武ゲバゲバ90分!に出ていた宮本信子のイメージが分離しにくくて困る)。

神奈川近代文学館が,安部公房の生誕100年を記念して「安部公房展−21世紀文学の基軸」を開催している(2024年10月12日〜12月8日)。この展示会公式図録本の方が安部公房の伝記としてふさわしいように思える。末尾には美術家として安部公房の舞台美術や本の装丁を担当した妻の安部真知(1926-1993)も少しだけ登場していて,安部ねりによる真知の略年譜もある。展示物の中にあった山口果林の大量の赤い大入袋はこの本には登場しない。


安部公房は,小説の著述にワードプロセッサを利用した最初期の1人だが,インターネットが商業化する前の1993年に亡くなっている。星新一(1926-1997)もそうだ。もちろんAIも。それにもかかわらず,彼らの小説の中にはほとんどそのイメージが予言されている。



写真:安部公房伝の書影(新潮社から引用,やたら上質の紙を使っている)

P. S.  1958年「世界」の座談会,荒正人,埴谷雄高,武田泰淳,安部公房でのイメージ
〈人工衛星・人工太陽・人工頭脳・人工生命〉 =〈宇宙開発・核融合・AI・バイオテク〉 そのままだ [7]。

[2]科学とフィクションそしてポストモダン(クリストファー・ボルトン)
[8]安部公房論(和田勉)

2024年10月13日日曜日

ピュア:小野美由紀

小野美由紀(1985-)のピュア。SFマガジン掲載時にnoteで公開され歴代一位20万PVをゲットした。という評判だったので早速トライして見た。ピュア,バースデー,To The Moon,幻胎,エイジ,身体を売ることの性科学SF 6編からなる短編集だ。

表題作のピュアは,恐竜のような身体を獲得して軌道上に生活するメスの人間が,蟷螂のように性交後のオスを食べてしまい,そのことによってのみ受胎が可能になった未来を描いている。オスは汚染された地球上で細々と生活している。捕食される側からみた物語がエイジであり,これらが対になっている。

どの作品も,ある種のディスとピアを表現しているのだけれど,そのディスとピアというのはいまだに夫婦別姓制度や同性婚制度に踏み切れない日本そのものに重なる。

巻末の水上文の解説から引用すると,その背景にあるのはこんなものである。
たとえば政治的意思決定の場,社会的に地位の高い職業の多くを占めるのは男性である。性暴力の被害者の大多数を占めるのは女性である。直接的な暴力がなくとも,社会に蔓延る性的対象化はその中で育つ人々の安全を損ない,尊厳を損ない,人生を狭め,また加害を正当化する。賃金格差と貧困,もちろん生殖を巡る問題もある。生殖は国家による管理の対象であり,2023年現在の日本では,明治時代につくられた刑法堕胎罪がいまだに存在し,人工中絶の配偶者同意要件は今も撤廃されないままである。



図:小野美由紀ピュアの書影(早川書房から引用)


2024年10月8日火曜日

AIとSF(2)


AIとSF(1)からの続き

1年4ヶ月ほどかかって,ようやくハヤカワ文庫JA 1551の「AIとSF」を読了した。頭も眼も霞む中,トリッキーなストーリのSF短編を読解するのは,なかなかに骨の折れる技である。この間,生成AIもかなり進歩しているが,この本の内容が時代遅れになっているほどではない。

最近は,テレビドラマをみても短編小説をよんでも,片っ端から記憶領域の外側に溢れ出てしまうので,印象に残ることが無くて困る。いや,困らないかもしれない。何度でも読み返せるのだから。前回の感想は,一編目の大阪・関西万博を扱った「準備がいつまで経っても終らない件」を読んだところまでだった。万博の方はそれらしく形が整ってきたので,始まってしまえば,マスコミの格好のオモチャになるだろう。行かないけど。

目次を見直しても,何が書いてあったかはあまりはっきりしない。津久井五月のナノマシンが東京の一部を汚染する様子とか,野崎まどの智慧錬糸がAI画像つきで笑えたとか,野尻抱介のサイドストーリーの核融合実現のインパクトは納得できるとか,麦原遼の感情を認識するAIの描写がよさげだとか,面白かった部分も。

それにしても,AIが自律的にネットワークにアクセスしてSNSに投稿するようになると,大変ややこしいことが起きるのは間違いない。ただでさえフェイクニュースが蔓延して困っている。そこに持ってきて,フェイクか否か,人間か否か,様々な意図に操られているか否か,がはっきり区別できない大量のテキストとイメージが満ちている情報空間というのはいったい・・・。

P. S. やっぱり円城塔は何度読んでもよくわからない。自分の読解力不足かなぁ。でもブッダ・コード 機械仏教史縁起 はちょっとトライして見たい。



図:AIとSF(ハヤカワ文庫JAから引用)

2024年10月2日水曜日

シュレーディンガーの少女:松崎有理

山手線が転生して加速器になりました。:松崎有理からの続き

先月発表された,文化庁による令和5年度「国語に関する世論調査」の結果は,読書離れの加速というニュースになってメディアを駆け回った。月に1冊も本を読まない人が6割を越えた,読書量が以前より減っているも7割だ,わぉう,というものだ。

この場合,電子書籍は読書した方にカウントされている。自分も正にその6割と7割に該当しているのであった。読書量が減っている理由は,1位:情報機器で時間がとられる(そのとおり),2位:仕事や勉強が忙しくて読む暇がない(これはあてはまらない),3位:視力などの健康上の理由(まあまあ,筋力かもしれない),4位:テレビの方が魅力的である(これも少しあてはまる)。

ただ,1位を選んでいるのはほとんど若者であって,70歳以上では,健康上の理由が1位でテレビの方が魅力的であるが2位なのだ。このあたりは自分と少し違うかもしれないが,確かにYouTubeやBlogと録画した韓国ドラマや映画で閑居老人の暇な時間が完全に溶けてしまう。

しかしながら,まだまだ読みたい本は沢山あって,かといって内容的にあるいは物理的に重い本を読み通すのは難しいので,軽い電子書籍からリハビリを始めることにした。

松崎有理の創元SF文庫の短編集,シュレーディンガーの少女は,6編のうちの2編(六十五歳デス,ペンローズの乙女)が無料でネット上に公開されていたので,ついでにKindle版を購入してしまった。

相変わらず,食へのこだわり(太っていたらだめですか?,秋刀魚,苦いかしょっぱいか)がみられたり,著者の出身の水戸第一高校のモデルが登場していたり(異世界数学),理系蘊蓄が適当に含まれている軽い読み物としては適当かもしれない。

シュレーディンガーの少女はいまひとつぴんとこなかったが,ペンローズの乙女の冒頭部分に,エミル・コノピンスキーの名前が出てきて,あれれと思って調べて見たら,昔,研究室の書棚にあったかもしれない The Theory of Beta Radioactivity の著者のEmil Konopinski だった。テラーと一緒に初期の水爆開発における検討をしていたのか。


図:読書離れの理由(上から16-19,20代,30代,40代,50代,60代,70- 文化庁から引用)

2024年9月10日火曜日

山手線が転生して加速器になりました。:松崎有理

松崎有理(1972-)の名前は,書店の本棚のシュレーディンガーの少女で見かけている。東北大学理学部(生命科学がバックグラウンドという話なのでたぶん生物学科?)の出身のエンタメ(SF)作家である。

タイトルが面白かったので,Kindleで入手してみた。短編集であり,6つの作品が収録されている。そのうち,山手線が加速器に転生する話は2編あるが,それぞれの話は独立だが,一つの仮想歴史世界線上(経済学者の目から見た人類史:行方ユクエ)に位置づけられている。

パンデミックによって,東京から人間が退避してしまった世界で,山手線が,周長34kmの自律運転ミューオンコライダーに,立川−三鷹−新宿の中央線が,全長13km+14kmの自律運転電子陽電子リニアコライダーに転用されたという話だ。これに,高度2000kmの地球周回軌道上の基線長100mのレーザー干渉計宇宙アンテナ自律型観測施設(宇宙重力波望遠鏡)が加わる。

この2編はちょっと状況設定の説明だけで話が空振りに終ってしまい消化不良だった。それ以外の話は軽いけれど,サイエンスの背景があればそこそこ楽しく読める。食べ物の描写と子どもへの視線が印象的だ。あとは,フェルミのパラドックスへの強い思い入れかな。仮想歴史中には,ChatGPTに相当するAIアシスタントが2025年に登場していて,その名称がモラベックである。ハンス・モラヴェックは実在の人物であり,モラヴェックのパラドックスで有名らしい。知らんかったわ。



写真:山手線が転生して加速器になりました。(光文社文庫の書影から引用)

[2]ハンス・モラヴェック(Wikipedia)

2024年8月26日月曜日

金星の蟲:酉島伝法

皆勤の徒からの続き

酉島伝法の短編集の2つ目をKindleで読了。

金星の蟲,環刑錮,痕の祀り,橡,ブロッコリー神殿,堕天の塔,彗星狩り,クリプトプラズムの8作品に,抄録 幻視百景と自作解題,大森望の解題と続いている。

金星の蟲は,著者の印刷工としての経験が膨らんだもの,環刑錮が,蚯蚓状の意識の葛藤が表現されたもので,この2作がメインディッシュかもしれない。なかなかに読みにくいのが楽しいが,皆勤の徒のような言語的なチャレンジは多くない。それでも,これだけの多様なイメージを紡ぎ出している。

痕の祀りは,バラードの溺れた巨人の話かとおもいきや,斉一顕現体と万状顕現体というウルトラマンと怪獣の戦いの後始末をする,加賀特掃会=科学特捜隊の話だった。



写真:金星の蟲(早川書房)の書影を引用


2024年5月1日水曜日

皆勤の徒:酉島伝法

大森望(1961-)の解説はけっこう信頼している。以前,日経新聞で酉島伝法(Torishima Dempow,1970-)を滅法褒めていた。

早速,短編集の「皆勤の徒」をkindleで購入した。ついでに,皆勤の徒の設定資料集「隔世遺傳」もあわせてゲットする。

いきなり,隷重類(れいちょうるい),香水(ようすい),製臓物(せいぞうぶつ),念菌(ねんきん)と,漢字とよみがなと意味の混濁がはじまって,未来世界の蟹工船的な状況が描写されていく。

なんだこれ。短編集の中の4作品,皆勤の徒,洞の街,泥海の浮き城,百似隊商と,これまでのSFでもお目にかかったことのない世界が新しい言葉で展開される。英語や彿語にも翻訳されている。全滅領域のジェフ・ヴァンダーミアによれば(大森望訳),
わお。酉島伝法の『皆勤の徒』はすごいぞ。画期的な作品だ。おそらく、この十年で初めての、百パーセント独創的なSFだろう」と絶賛し、以下のように評している。「『流刑地』と『変身』のカフカが、フィリップ・K・ディックとスティパン・チャップマンとレオノーラ・キャリントンの霊を呼び出して、不気味な地球生物学と遠未来とブラザーズ・クエイをミックスしたコンテクストに放り込んだら?(中略)アンジェラ・カーターがシュールリアリズムに手綱をつけて、プロットのあるストーリーをぎりぎり語れるようにしたのと同様、酉島は、異形の未来に移植されたこの地球で、人間の奇天烈な生態と有機体の奇天烈なライフサイクルをどうにか物語として成立させている。つまり、おそろしく風変わりで先鋭的ではあっても、本書は実験的ではない。実験的な部分があるとすれば、それは、ライフサイクルや生物組織をプロットに組み込む、そのやりかたにある」
自分の感想は,筒井康隆の幻想の未来+ブライアン・オールディスの地球の長い午後+フランク・ハーバートのDUNE+・・・。主題として「宇宙」「意識」「生命」「進化」「情報」「ナノテク」「AI」がてんこ盛りで近江町市場の2700円海鮮丼状態だった。



写真:創元SF文庫「皆勤の徒」の書影


[2]棺詰工場のシーラカンス(酉島伝法)


2024年4月10日水曜日

鉄の星:テイン

早川書房世界SF全集の第4巻はガーンズバック/テインのラルフ124C41+/鉄の星だ。

ラルフ124C41+は小学校時代に友達に借りた学習雑誌の付録で読んだだけ。世界SF大会で毎年選ばれるヒューゴー賞は,1953年に創設された由緒正しいものだが,アメリカSF界の初期の功労者であり,ラルフ124C41+の著者ヒューゴー・ガーンズバック(1884-1967)にちなんで名付けられている。

問題はそちらではなく併録されている「テイン」の「鉄の星」のほうだ。そのころから今に至るまでテインが誰かもよくわからなかったし,鉄の星にもまったく興味がわかなかったので第4巻は買わずにいた。ところがです。この度調べてみると,鉄の星(Iron Star)の著者ジョン・テイン=John Taine は,数学者 Eric Temple Bell (1883-1960)のペンネームだった。


数学者のE. T. ベルの方はよく知っていた。ハヤカワ文庫の「数学を作った人々」の著者である。その3冊組は自分の本棚に並んでいる。E. T. ベルはジョン・テインのペンネームでいろいろとSFを書いているようだ。物理学者でいえば,フレッド・ホイルに少し似ている。

そのベルが数学者としてどんな仕事をしているのかというと,ベル数やベル多項式を考えた人だった。ベル数$B_n$とは異なった$n$個の対象を分割する方法の数である。異なった$n$個の対象を$r$個のグループに分割するのは第2種スターリング数$_nS_r$であり,その和がベル数になる。

$n=5$のベル数は,$B_5=52$となるが,これは源氏香の数に等しい。源氏香という香道の遊び方は,本質的に異なった5種の香の分類の問題=ベル数5の問題だった。


図:五種の香をかぎ分ける源氏香の52パターン(Wikipediaから引用)

E. T. ベル=ジョン・テインのSFは,日本では前述の鉄の星を除いて出版されていない。カナダのGutenbergプロジェクトにはかろうじて,The Iron Star が公開されていた。

2024年4月6日土曜日

言壺:神林長平

海外SF作家からの続き

自分が読んでいる海外SF作家について並べてみると,ほとんどが自分より年上の作家である。まあ,最近はあまり新しい本を買っていないからでもある。日本の作家でもほぼ同じことがいえるかもしれない。

神林長平(1953-)は,自分と同じ歳の作家だけれどもこれまで全く読んだことがなかった。というかあまり読む気もしなかった。たまたま,ハヤカワ文庫JAの「言壺」という短編集を手に取ってみると,はじめて面白そうだと思った。

1988年から1994年に出版されたものなので,まだインターネットが商用化される前の作品だ。ところが,そのごのネットメディアの特徴をうまく予言している。ワーカムというのは,ほとんどテキスト生成AIのことを表わしている。おもしろかったのは,「栽培文」だ。言葉が文字を失って植物という実体によって蓄積,伝達される世界を表わしている。


写真:ハヤカワ文庫「言壺」の書影

2024年4月2日火曜日

海外SF作家


少し偏っていてちょっと古いSF作家のリスト(生年順)

自分が作品を読んだことがある,または読みたいと思ったことのある海外SF作家のリスト。ただしまったく読んでないのは,ハル・クレメント,ジョン・ブラナー,イアン・バンクス,エリザベス・ハンド,N・K・ジェミシン,むむむ。

沢山(5冊以上?)読んでいるのが,コードウェイナー・スミス,アーサー・C・クラーク,レイ・ブラッドベリ,スタニスワフ・レム,カート・ヴォネガット,フィリップ・K・ディック,アーシュラ・K・ル=グウィン,J・G・バラード,T・M・ディッシュ,コニー・ウィリス,オースン・スコットカード,ぐぬぬ。
34 Arkady Strugatsky (1925-1991)
69 Cixin Liu (1963-)     https://ja.wikipedia.org/wiki/劉慈欣

 

2024年3月18日月曜日

サンリオSF文庫

ハヤカワ・SF・シリーズ(2)からの続き

サンリオSF文庫は,1978年から1987年にかけてサンリオが刊行した197冊の文庫だ。マイあっクであまり売れなかったので,希少価値は高い。山野浩一が編集顧問で入っており,NWSFというか英国のSFなどが入っている。アーシュラ・K・ル=グインとかケイト・ウィルヘルムとかディックとかディッシュとか。なかかな良かったけれど,文学的な傾向が強いものも多かったので商業的には成功しなかった。これも本の整理の段階でかなり手放してしまったものが多い。

以下がサンリオSF文庫のリストだ。◎は買ったもの,✓は別のシリーズや文庫で買ったもの。番号は著者順,アルファベットは同一著者の出版順。

番号順サンリオSF文庫全リスト
1 A ビッグ・タイム フリッツ・ライバー
1 B 妻という名の魔女たち フッリツ・ライバー
1 C バケツ一杯の空気 フリッツ・ライバー
2 A 辺境の惑星 アーシュラ・K・ル=グイン
2 B 天のろくろ アーシュラ・K・ル=グイン2
2 C ロカノンの世界 アーシュラ・K・ル=グイン
2 D 幻影の都市 アーシュラ・K・ル=グイン
2 E マラフレナ(上) アーシュラ・K・ル=グイン
2 F マラフレナ(下) アーシュラ・K・ル=グイン
2 G コンパス・ローズ アーシュラ・K・ル=グイン
2 H 夜の言葉 アーシュラ・K・ル=グイン
3 A 時は乱れて フィリップ・K・ディック ◎
3 B 死の迷宮 フィリップ・K・ディック ◎
3 C 暗闇のスキャナー フィリップ・K・ディック ◎
3 D 流れよ我が涙、と警官は言った フィリップ・K・ディック ◎
3 E ヴァリス フィリップ・K・ディック ◎
3 F 聖なる侵入 フィリップ・K・ディック ◎
3 G 怒りの神 フィリップ・K・ディック&ロジャー・ゼラズニー
3 H 銀河の壺直し フィリップ・K・ディック
3 I ザ・ベスト・オブ・P・K・ディックⅠ フィリップ・K・ディック ◎
3 J ザ・ベスト・オブ・P・K・ディックⅡ フィリップ・K・ディック ◎
3 K 最後から二番目の真実 フィリップ・K・ディック ◎
3 L ティモシー・アーチャーの転生 フィリップ・K・ディック
3 M ザ・ベスト・オブ・P・K・ディックⅢ フィリップ・K・ディック ◎
3 N ザ・ベスト・オブ・P・K・ディックⅥ フィリップ・K・ディック ◎
3 O テレポートされざる者 フィリップ・K・ディック ◎
3 P あなたを合成します フィリップ・K・ディック
3 Q シミュラクラ フィリップ・K・ディック
3 R 虚空の眼 フィリップ・K・ディック ✓
3 S アルファ系衛星の氏族たち フィリップ・K・ディック
3 T ブラッドマネー博士 フィリップ・K・ディック
3 U アルベマス フィリップ・K・ディック
4 A ノヴァ急報 ウィリアム・S・バロウズ
4 B 爆発した切符 ウィリアム・S・バロウズ
5 A レベル・セブン モルデカイ・ロシュワルト
6 A 万華鏡 レイ・ブラッドベリ
6 B ブラッドベリは歌う レイ・ブラッドベリ
7 A カインの市 ケイト・ウイルヘルム
7 B クルーイストン実験 ケイト・ウイルヘルム ◎
7 C 杜松の時 ケイト・ウイルヘルム ◎
7 D 鳥の歌いまは絶え ケイト・ウイルヘルム 
8 A 妖精物語からSFへ ロジェ・カイヨワ
9 A ステンレス・スチール・ラット ハリイ・ハリスン
9 B 囚われの世界 ハリイ・ハリスン
9 C ステンレス・スチール・ラットの復讐 ハリイ・ハリスン
9 D ステンレス・スチール・ラット世界を救う ハリイ・ハリスン
9 E 大西洋横断トンネル、万歳! ハリイ・ハリスン
9 F ステンレス・スチール・ラット諸君を求む ハリイ・ハリスン
9 G ステンレス・スチール・ラット大統領に ハリイ・ハリスン
10 A 大地への下降 ロバート・シルヴァーバーグ
10 B 確率人間 ロバート・シルヴァーバーグ
10 C 内死 ロバート・シルヴァーバーグ
10 D 内側の世界 ロバート・シルヴァーバーグ
11 A ザ・ベスト・オブ・サキ サキ
11 B ザ・ベスト・オブ・サキ2 サキ
12 A 解放された世界 H・G・ウエルズ
12 B 神々のような人々 H・G・ウエルズ
12 C ザ・ベスト・オブ・H・G・ウエルズ H・G・ウエルズ
13 A 旅に出る時ほほえみを ナターリャ・ソコローワ
14 A 猿とエッセンス オルダス・ハックスリイ
15 A 口に出せない習慣、奇妙な行為 ドナルド・バーセルミ
15 B 罪深き愉しみ ドナルド・バーセルミ
15 C アマチュアたち ドナルド・バーセルミ
16 A 失われた部屋 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン
17 A クローン リチャード・カウパー
17 B 大洪水伝説 リチャード・カウパー
18 A 馬的思考 アルフレッド・ジャリ
19 A 天国の顔 ブライアン・M・ステイブルフォード
19 B 地獄の幻影 ブライアン・M・ステイブルフォード
19 C 無限の煌き ブライアン・M・ステイブルフォード
19 D ハルシオン・ローレライ ブライアン・M・ステイブルフォード
19 E ラプソディー・イン・ブラック ブライアン・M・ステイブルフォード
19 F プロミスト・ランド ブライアン・M・ステイブルフォード
19 G パラダイス・ゲーム ブライアン・M・ステイブルフォード
19 H フェンリス・デストロイヤー ブライアン・M・ステイブルフォード
19 I スワン・ソング ブライアン・M・ステイブルフォード
20 A ムーンスター・オデッセイ デイヴィッド・ジェロルド
20 B H・A・R・L・I・E デイヴィッド・ジェロルド
21 A バロック協奏曲 アレッホ・カルペンティエール
22 A 334 トマス・M・ディッシュ ◎
22 B 歌の翼に トマス・M・ディッシュ アマル ◎
22 C キャンプ・コンセントレーション トマス・M・ディッシュ ◎
23 A ウルフヘッド チャールス・L・ハーネス
24 A 時は準宝石の螺旋のように サミュエル・R・ディレーニ ◎
24 B エンパイア・スター サミュエル・R・ディレーニ
24 C アプターの宝石 サミュエル・R・ディレーニ
25 A 五月革命'86 ジャック・ステルンベール
26 A 緑色遺伝子 ピーター・ディキンスン
26 B キングとジョーカー ピーター・ディキンスン
26 C 生ける屍 ピーター・ディキンスン ✓
27 A ナボコフの一ダース ウラジミール・ナボコフ
28 A 枯草熱 スタニスワフ・レム
28 B 天の声 スタニスワフ・レム ◎
28 C 浴槽で発見された手記 スタニスワフ・レム ◎
29 A 楽園の崩壊 ジョーン・D・ヴィンジ
30 A 蛾 ロザリンド・アッシュ
30 B 嵐の通夜 ロザリンド・アッシュ
31 A 暗黒のすべての色 ロイド・ビッグルJr.
31 B 暗黒の監視人 ロイド・ビッグルJr.
31 C この暗黒化する宇宙 ロイド・ビッグルJr.
31 D 沈黙は死の匂い ロイド・ビッグルJr.
31 E 時の復讐 ロイド・ビッグルJr.
32 A ラーオ博士のサーカス チャールズ・G・フィニー
33 A 新しいSF ラングドン・ジョーンズ編 ◎
33 B レンズの眼 ラングドン・ジョーンズ
34 A 女の千年王国 ヴァージニア・キッド編
35 A 飛行する少年 ディディエ・マルタン
36 A 不安定な時間 ミシェル・ジュリ
36 B 熱い太陽、深海魚 ミシェル・ジュリ
37 A 迷宮の神 コリン・ウィルスン
37 B ラスプーチン コリン・ウィルスン
38 A 影のジャック ロジャー・ゼラズニイ
38 B わが名はレジオン ロジャー・ゼラズニイ
38 C ロードマークス ロジャー・ゼラズニイ
39 A コンピュータ・コネクション アルフレッド・ベスター
40 A バドティーズ大先生のラブ・コーラス ウイリアム・コッツウインクル
41 A 愛しき人類 フィリップ・キュルヴァル
42 A アルクトゥールスへの旅 デイヴィッド・リンゼイ
42 B 憑かれた女 デイヴィッド・リンゼイ
43 A 伝授者 クリストファー・プリースト
43 B 逆転世界 クリストファー・プリースト ✓
43 C アンティシペイション クリストファー・プリースト編
44 A 灰と星 ジョージ・ゼブロウスキー
44 B オメガ・ポイント ジョージ・ゼブロウスキー
45 A ブロントメク! マイクル・コニイ
45 B ハローサマー、グッドバイ マイクル・コニイ ✓
45 C 冬の子供たち マイクル・コニイ
45 D カリスマ マイクル・コニイ
46 A 猫城記 老舎
47 A 手で育てられた少年 ブライアン・W・オールディス
47 B 兵士は立てり ブライアン・W・オールディス
47 C 世界Aの報告書 ブライアン・W・オールディス
47 D マラキア・タペストリ ブライアン・W・オールディス
47 E 突然の目覚め ブライアン・W・オールディス
48 A ビアドのローマの女たち アントニイ・バージェス
48 B アバ、アバ アントニイ・バージェス
48 C どこまで行けばお茶の時間 アントニイ・バージェス
49 A 殉教者聖ペテロの会 ジョン・ソール
50 A どこからなりとも月にひとつの卵 マーガレット・セントクレア
51 A コスミック・レイプ シオドア・スタージョン
51 B スタージョンは健在なり シオドア・スタージョン
52 A パステル都市 M・ジョン・ハリスン
53 A 二重の影 フレデリック・ターナー
54 A この狂乱するサーカス ピエール・プロ
55 A 深き森は悪魔のにおい キリル・ボンフィリオリ
56 A 愛の渇き アンナ・カヴァン
56 B ジュリアとバズーカ アンナ・カヴァン
56 C 氷 アンナ・カヴァン ✓
57 A メデューサの子ら ボブ・ショウ
57 B 去りにし日々、今ひとたびの幻 ボブ・ショウ
57 C おれは誰だ? ボブ・ショウ
57 D 眩暈 ボブ・ショウ
57 E 見知らぬ者たちの船 ボブ・ショウ
58 A スリランカから世界を眺めて アーサー・C・クラーク ✓
59 A 夢幻会社 J・G・バラード ◎
59 B ザ・ベスト・オブ・J・G・バラード1 J・G・バラード
60 A 2018年キング・コング・ブルース サム・J・ルンドヴァル
61 A はざまの世界 ノーマン・スピンラッド
62 A フィーメール・マン ジョアナ・ラス
63 A 沈黙の声 トム・リーミイ
63 B サンディエゴ・ライトフット・スー トム・リーミイ
64 A 異星の人 ガードナー・ドゾア
65 A マイロン ゴア・ヴィダル
66 A フレドリック・ブラウン傑作集 ロバート・ブロック編
67 A アースウインド ロバート・ホールドストック
67 B リードワールド ロバート・ホールドストック
68 A 去勢 キングズリイ・エイミス
69 A ジョン・コリア奇談集 ジョン・コリア
70 A ベストSF1 ハリスン&オールディス編
71 A マーシャン・インカ イアン・ワトスン ◎
71 B ヨナ・キット イアン・ワトスン ◎
72 A 夢の蛇 ヴォンダ・マッキンタイア
72 B 脱出を待つ者 ヴォンダ・マッキンタイア
73 A ドロシアの虎 キット・リード
74 A 人生ゲーム D・G・コンプトン
75 A 着飾った捕食家たち ピエール・クリスタン
76 A マイクロノーツ ゴードン・ウィリアムズ
77 A シンディック シリル・M・コーンブルース
78 A 最新版SFガイドマップ入門・歴史編 デイヴィッド・ウイングローブ編
78 B 最新版SFガイドマップ作家名鑑編上 デイヴィッド・ウイングローブ編
78 C 最新版SFガイドマップ作家名鑑編下 デイヴィッド・ウイングローブ編
79 A 奪われた惑星 ロン・ハバート
79 B 人類からの使者 ロン・ハバート
79 C テレポーテーション作戦 ロン・ハバート
79 D 侵略惑星サイクロの謎 ロン・ハバート
79 E 宇宙戦艦キャプチュア ロン・ハバート
79 F 地球よ、銀河に甦れ ロン・ハバート
80 A スラデック言語遊戯短編集 ジョン・スラデック
81 A 老いたる霊長類の星への賛歌 ジェイムズ・ティプトリーJr.
82 A V上 A・C・クリスピン
82 B V下 A・C・クリスピン
83 A 悪魔は死んだ R・A・ラファティ
83 B イースターワインに到着 R・A・ラファティ
84 A ホースクラン登場 ロバート・アダムス
84 B ホースクランの剣 ロバート・アダムス
84 C ホースクランの復讐 ロバート・アダムス
85 A パヴァーヌ キース・ロバーツ ✓



写真:サンリオSF文庫と創元SF文庫(撮影:2024.3.12)

P. S. 2024年5月4日,サンリオSF文庫161冊が,国立国会図書館デジタルコレクションに収録された。これで全文を読むことができるようになった。素晴らしい。36冊欠落しているけれど,それは何だろうか?→収録されているものの番号を太字にしてみた。