2023年9月30日土曜日

万博会場

最近,ChatGPTの調子があまりすぐれなかったので,Plusプログラムからは離脱したところだ。その代替として使っているのがPaLM2を用いたGoogle Bard である。ウェブブラウザにGoogle Chromeを使えば,Google検索でAI Chatモードを使えるとはいうのだが,これもなんだかイマイチだった。

そのBardに次の万博会場候補地に関する質問をしてみた。
Q:2025年の国際博覧会の大阪府内の候補地が夢洲を含めて7箇所あったそうですが,それはどこですか。

A:2025年の国際博覧会の大阪府内の候補地は、以下の7箇所です。
 ・彩都東部+万博記念公園(茨木市・大阪市)
 ・服部緑地(豊中市)
 ・花博記念公園鶴見緑地(大阪市)
 ・舞洲(大阪市此花区)
 ・大泉緑地(堺市)
 ・りんくう公園+りんくうタウン(泉佐野市・大阪市)
 ・夢洲(大阪市此花区)
2015年7月28日の検討会第4回会合では、上記7箇所が例示されました。その後、2016年5月の報道によると、候補地に夢洲も追加されました。最終的に、2025年の国際博覧会の開催地は、夢洲に決定しました。
ChatGPTだといきなり拒否される質問だが,下線部を除いてほぼ正しい答えをしてくれた。2015年に設置された大阪府の国際博覧会大阪誘致構想検討会第4回7月28日の会議で夢洲を除いた6箇所が検討されたのだ。議事録をみても全体に何だかやる気のなさがただよっている。

その後,IRを睨んだ大阪維新の推しで,地盤にも交通にも問題を抱えた夢洲が候補地に登場して選ばれた。それが今日の万博準備の遅れにつながっている。吉村知事は国に責任を丸投げして今にも逃げ出しそうだ。国が必死にテコ入れを図っているので多分何とかなるのだろう。まあ,最初からこの時代にこの場所で万博なんかを構想するなということだけど。


写真:夢洲の大阪・関西万博会場の雄姿(EXPO2025基本計画から引用)

2023年9月29日金曜日

再処理工場

福島第一原子力発電所からのALPS処理水の海洋放出を科学的に正当化する議論で出てくるのが,海外の原子力施設から放出されるトリチウムはもっと量が多いというのがある。

沸騰水型(BWR) < 加圧水型(PWR) < 重水炉(CANDU) < 再処理工場 の順にトリチウム放出量は多くなっている。2018年に閉鎖された英国のセラフィールド再処理工場で1500兆Bq/年(4.3gT2),現在も稼働中のフランスのラ・アーグ再処理工場では1.4京Bq/年(38gT2)も放出している。福島第1原発の22兆Bq/年の600倍を超える。

日本の六ヶ所再処理工場はもう潰れていたのかと思ったら,まだ続いていた(2024年上期竣工予定)。使用済み核燃料ウランを年間 800 t 処理することを目指している。高速増殖炉もんじゅが2016年に廃炉となり,そもそも核燃料サイクルがサイクルしないのだけれど。新型転換炉ふげんも2003年に運転が終了し廃炉作業中なので,MOX燃料を作ったとしてもプルサーマルで使いきれるのか,あるいはたんに,各原発の使用済み核燃料プールを空にすることが目的なのか。

六ヶ所再処理工場は,2006年度から2008年度にかけてアクティブ試験(試運転)を行い,トリチウムを太平洋に700兆Bq/年大気中に6.5兆Bq/年放出している。福島第1原発の比ではない。しかも,本格稼働した後の推定放出量は,トリチウム(海洋1.8京Bq/年,大気1900兆Bq/年),ヨウ素129が(海洋430億Bq/年,大気110億Bq/年)になるという。何だか気が遠くなりそうだ。今回はその露払い作戦に過ぎないのか?


図:六ヶ所村にある原子燃料サイクル施設日本原燃から引用)


2023年9月28日木曜日

理系五割

シンギュラリティサロンオンラインで「「理系を5割に」の衝撃。「分離融合の時代」は来るのか?」のタイトルで水野義之さんの話があった。

例によって,水野さんの蘊蓄オンパレードから始まるが,結論は大学における理系3割と文系7割の割合を逆転させよというものだった。一番気になったのは,理系を工学部と理学部だけに限定して定義しているように聞こえたところ。学校基本調査によれば,農学・保健・家政の一部も含めて学部学生の35%(男子39%,女子31%)が理系ということになる。

そもそもこの「理系を5割に」というスローガンは,内閣官房の教育未来創造会議によるものだ。2022年5月の「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について(第一次提言)」は次のように述べている。
例えば、現行の数理・データサイエンス・AI の習得目標に加えて、理工系分野の学問を専攻する女子学生の割合を7%から男子学生と同等の 28%程度に高めていくことや、成長分野への転換と併せて学生が複数専攻などにより文理の枠を超えた学修に取り組むことができる環境を整えることを前提とした上で、現在 35%にとどまっている自然科学(理系)分野の学問を専攻 する学生の割合について OECD 諸国で最も高い水準である5割程度を目指すなど、
まあ,そういうことです。OECD諸国は4割前後,最高が英国の45%,フランスは31%なので,全然無理する必要はないはずが,これでさらに混乱が加速しそうな雰囲気がただよう。教育未来創造会議第一次提言のポイントはわかりやすく整理されているが,全12ページのうち7ページが委員の人物紹介になっている。


図:2022年度大学学部の分野別在籍学生数


2023年9月27日水曜日

トリチウム(2)

トリチウム(1)からの続き

トリチウムについて,あるいはヨウ素129について,あちこちに書き散らかしている。このため,どこに何があるのかもよくわからない状態で困っている。そこで少しまとめておく。(1EBq = 100京Bq = 2.77kgT,  ∵1molT = 6.02×10^23×0.693/(12.3*3.15*10^7) = 1.08×10^15Bq)

地球上のトリチウム
 自然生成量 大気上層で宇宙線が生成:7.2京Bq/年(200gT/年)
 原発生成量 気圏放出:1.2京Bq/年(32gT/年) 水圏放出:1.6京Bq/年(44gT/年)
 核実験起源 1950-60年代:1.9垓Bq(530kgT)→ 2021:2000京Bq(55kgT)
 全存在量  自然生成との平衡量:130京Bq(3.6kgT)・・・7/{1-e(-0.693/12.3)} 
       核実験・原発起源等:5200京Bq(140kgT)

水圏のトリチウム
 排出基準 6万Bq/L
 海洋測定濃度 〜1Bq/L
 降水測定濃度 〜0.5Bq/L 降水総量 (日本全国 223兆Bq/年)
 飲料水規制基準 100Bq/L(EU),1万Bq/L(WHO)
 
大気中のトリチウム
 規制基準  5Bq/L
 測定濃度 HTO 〜10mBq/㎥

福島第1原発からのトリチウム(事故前)
 原子炉中の総量 3400兆Bq(9.4gT ≒ 63gHTO) → 1〜2割が海洋放出
 海洋放出実績 2.2兆Bq/年 (日本全国 380兆Bq/年)
 大気放出実績 1.5兆Bq/年 (日本全国 260兆Bq/年・・・推定値)

福島第1原発からのトリチウム(今後)
 第1原発サイト総量  2600兆Bq(7.2gT)
 汚染水タンク中の総量 830兆Bq(2.3gT ≒ 15gHTO)
 サブドレン放出濃度 660Bq/L(平均)〜1100Bq/L(最大)
 海洋放出基準 1500Bq/L (22兆ベクレル/年)
 大気放出基準 5Bq/L (なし)


[1]トリチウムの性質について(案)(多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会事務局)
[5]トリチウムの環境動態(百島則幸)
[6]環境水の中のトリチウム(宮本霧子)
[8]トリチウムの物性等について他(経済産業省資料)
[9]トリチウム分析法(文部科学省原子力安全課防災環境対策室)
 

2023年9月26日火曜日

iPhone15

9月13日にAppleからiPhone15シリーズとAppleWatchの発表があった。

Apple Eventのビデオは,飯村正彦さんの風に揺れる洗濯物のパンツのイメージから始まった。なんだろうと思っていると,途中でMother Natureが登場する小芝居があって,それもスルーすると見るべきところはあまりなかった。

仕方がないので,YouTubeで情報収集する。外部インターフェイスがLightningからUSB-Cに変わったというポイント以外の大きな特徴がよくわからないままだった。ましてやAppleWatchはまだ機能が完全ではない健康デバイスという位置づけから変化していない。YouTubeではガジェット系の皆さんが予約争奪戦に走っていた。まあそれが仕事なので引きずられてはいけない。

散歩の時にiPhoneズームがあると遠くの鳥を撮るときに少しだけ楽しいかもしれない。しかし,そのためにわざわざiPhone Pro Maxを買う気にはならない。そもそもアベノミクス円安のせいで値段が高すぎる。最新機種のドル建て価格が一定なのにも関わらず,円価格の上昇が数年続いている。

2020年7月にiPhone SE2を買ってから3年経過しているが,まだ十分働いているので,買い替えは等分先のことになりそうだ。2026年にはサポートが切れるので,それまでには何とかするのか。発売当初の2-3年は毎年機種更新していたが,これから死ぬまでに機種更新するのは残り1,2回ということか。

念のために,iPhone15とSE2の機能を比べてみたのが次の表だ。
iPhone15       iPhoneSE      
2023 Sep       2020 Apr      
139,800円        69,800円      

A16 Bionic       A13 Bionic     
3.5GHz          2.66GHz       
6コアCPU        6コアCPU      
5コアGPU        4コアGPU      
16コアNE        8コアNE       
256GB         128GB        

6.1インチOLED     4.7インチLCD    
2556×1179ピクセル    1334×759ピクセル  
460dpi          326dpi  
2,000,000:1       1,400:1       
1000ニト       625ニト       

48MPメイン|超広角   12MPシングル    
12MPフロント     7MPフロント     
ズーム .5× 1× 2×    ズーム 1×      

USB-C/USB2      Lightning/USB2   
FaceID        TouchID       
5G          4G/LTE       
BlueTooth5.3       BlueTooth5.0    
MagSafe        —         

20時間ビデオ     13時間ビデオ    
80時間オーディオ   40時間オーディオ  
147.6×71.6×7.8      138.4×67.3×7.3  
171g         148g        

少なくとも,この近所に5Gの電波が届くまではいらないかな。 


写真:iPhone15青 Appleのサイトより引用

2023年9月25日月曜日

水蒸気放出(3)

水蒸気放出(2)からの続き

今年の夏は例年以上に暑かった。ベランダの亀の水換え用に置いてある黒いプラスチックバケツの水も数日で何cmか蒸発しているようだった。そこで,福島第一原子力発電所にたまっている汚染水タンクも,フタを取ればトリチウム水HTOが自然に蒸発するのではないかと考えた。雨の日に水が溜まるのを防ぐため,各タンクには大きな黒い傘を設置しておくと晴の日には上昇気流で風を起せて一石二鳥だ。

このためには,水面から自然蒸発する水の量を評価する必要がある。調べてみると,水蒸気放出(1)で示したように,たかだか 0.2mm/day である。タンクの平均サイズが直径12m,高さ12mの円柱状だとすると,フタをとった場合のタンク1基の水面積は100㎡である。タンクが1000基あれば,総面積は10^5㎡,これが0.2mm/dayで減るので,蒸発する水は20㎥/日となる。一日に発生する汚染水が 90㎥-60㎥なので,これではとても無理だ。

次に考えたのが,霧だ。中谷芙二子さんごめんなさい。霧のいけうちのカタログでは,例えば(BIMV8022)1ノズルで20ミクロンの微霧を20L/時で放出できそうだ。2流体方式なので,空気が15㎥/時で同時に放出される。現在のタンクで空になったものを用意して,内円周上に100ノズル取り付けると,1タンクで,微霧状のトリチウム水の2㎥/時と空気が1500㎥/時,同時に放出される

現在のALPS処理水タンクから選んで密集しないように20タンク程度配置すれば,トリチウム水40㎥/時,空気30,000㎥/時が放出可能になる。各タンクの底部にはファンを設置して適当な速度で微霧を上方に流して拡散すればよい。素人目に設備費は,当初見積もられたボイラー式水蒸気放出(350億)の数%以内で収まるような気がする。運営費もわずかな電気代だけだ。たぶん周辺のトリチウム測定用設備費の方が高額だ。

微霧が滞留せずに素早く水蒸気になって拡散してくれるかどうかが問題だ。もちろん条件によるが,20-30ミクロン程度のものだと10秒のオーダーで蒸発しそうだ[1]。

そうなると問題は放射能の濃度だけ。20タンクのALPS処理後のトリチウム水の放射能濃度が,現在の水準14万Bq/Lと同じだと仮定する。夜を除いた1日を12時間として,微霧となるのはトリチウム水480㎥/日,空気36万㎥/日であり,放射能は6.7×10^10 Bq/日。雨日を除いた1年を300日として,20兆Bq/年の放出が可能になる。このときの水蒸気を含む放出空気の放射能は,20万 Bq/㎥となる。つまり,このミスト方式(微霧方式)水蒸気放出で海水放出と同程度のトリチウム放出処理ができるということだ。

排水のトリチウム濃度は6万Bq/Lという基準(ALPS処理水に対しては1500Bq/Lとした)があるが,気体については放出基準がなく,環境基準としての5Bq/L = 5000 Bq/㎥ だけになる。したがって,20万Bq/㎥のトリチウム水蒸気が放出後,敷地外に出るまでに40倍に拡散されれば,この環境基準は満たされる。

福島第一原子力発電所の敷地面積は350万㎡あって,タンク総面積は10万㎡程度(隙間を含めれば20万㎡程度か),今回の20タンクの面積は0.2万㎡だ。風向きさえ問題なければ敷地内での40倍拡散は十分いけそうな気はする。ただし,大気トリチウム濃度観測点は周辺にたくさん設ける必要があるだろう。

いまからでも方針を変えてはいかがでしょうか。

(注)タンクはもともと常に空にしてあるので,微霧生成装置の運用を停止している雨の日に水がたまってもそのまま排出してしまえばよい。射影半径6mの黒い傘はいらなくなった。仮に周辺地域における環境測定関係の設備費が海水放出の場合の50億から倍の100億になったとしても,トータルコストは十分安く実現できそうな気がする。2年もあれば実証実験も可能だろう。

(余)[6]の19pによれば,福島第一原発では,事故前(2010 年度実績)に2.2兆 Bq/年の海洋放出,1.5兆 Bq/年の水蒸気放出の実績が,福島第二原発からは,事故前に1.6兆 Bq/年の海洋放出,1.9兆 Bq/年の水蒸気放出の実績がある。この水蒸気放出は,使用済核燃料プール等から自然に蒸発した水蒸気に含まれるトリチウムが換気に伴 い大気に排出されるものだ。


図:ミスト方式(微霧方式)水蒸気放出タンクの構造案


[3]トリチウム水タスクフォース(汚染水対策処理委員会,2014.3.26)
[4]トリチウム水の処分に係る各選択肢の検討(汚染水対策処理委員会事務局,2015.6.5)



2023年9月24日日曜日

水蒸気放出(2)

水蒸気放出(1)からの続き

2020年に経済産業省の多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会は,ALPS処理水の5つの処分方法から,実績があり技術的に可能である現実的な選択肢として,水蒸気放出海洋放出をあげている。

はっきりした結論は文面にはないが,まとめには海洋放出のほうがよいというニュアンスがにじみ出ていた。海洋放出は91ヶ月,34億円,400㎡水蒸気放出は120ヶ月,349億円,2000㎡という比較がなされた。

なお,実際にスタートした海洋放出では放水トンネル関連設備に350億円必要となり,さらに漁業被害対応基金が800億円ほど追加になった。また海洋放出の期間も30-40年が見込まれることになる。ほとんど話が違うの世界ではないか。

2021年には,海洋放出が原案として確定していた[3]。水蒸気放出を排除したのは,影響が広範囲に及び,検証も難しいというような理由付けだった。なお,スリーマイルアイランド原子力発電所事故の水蒸気放出の実績は,8700トンのトリチウム水(24兆ベクレル)を2年間でボイラーで蒸発させたというものだ。検討のため参考にされたのはこの方式だが,自分にはボイラーで過熱して蒸気にするというのはかなり抵抗がある。

中国とロシアが海洋放出実施前の7月,日本政府に水蒸気放出を提案していたというニュースも流れた。大気中の放射性物質のモニタリングが海洋よりも難しいという理由で提案を拒否し,海洋放出に至った。向こうが容認する水蒸気放出ならば,水産物禁輸には至らなかったのかもしれない。

(付)フランスのラ・アーグ再処理工場からの年間トリチウム放出は,液体で1.6京ベクレル,気体で70兆ベクレルである。トリチウム水蒸気では,スルーマイルアイランドの6倍に達する。これは勝手に漏れてくるものかもしれない。

[2]アルプス処理水の処分(経済産業省)
[2]大気中トリチウム濃度の変遷と化学形態別測定(宇田達彦,田中将裕)
[]

2023年9月23日土曜日

水蒸気放出(1)

福島第一原子力発電所からのALPS処理水放出の代替案として,水蒸気放出の可能性があった。これを議論する前提として,福島県浪江の気候を調べた。このために,GPT-4,Bard,Perplexity,Bing,に尋ねるといずれもそれらしい答えが返ってきた。思わず,この4つのデータを平均して使おうかと思ったが,しばし思いとどまった。

正しいデータは,気象庁にあった。過去の気象データ検索の中に,各地のデータや平年値(過去三十年間の平均値)がおさめられている。浪江(福島県) 平年値(年・月ごとの値)は次のようになった。ただし,浪江のように湿度データがない地点もある。そこで,同じ,福島県浜通りの南側にある小名浜のデータで代替する。

これらのデータを使うと水面からの水蒸気の蒸発速度(mm/day)を求めることができる計算サイトがいくつかある。必要なインプットは,気温(℃),相対湿度(%),気圧(hPa->1013.25hPa),液温(℃),風速(m/s),水面の代表的な長さ(m->10m) である。

水温が気温と一致している場合と,水温が気温より5度高い場合を次の表に示す。

 気温湿度 *風速晴日 ≧40%蒸発量 蒸発量+
1月2.2582.022.50.150.30
2月2.7592.020.60.160.31
3月5.7622.219.50.190.38
4月10.7682.117.90.220.43
5月15.5761.816.50.220.51
6月18.8831.511.70.170.50
7月22.6861.311.40.170.53
8月24.0841.414.90.220.62
9月20.6801.412.20.220.56
10月15.1751.414.90.190.45
11月9.7691.619.10.170.38
12月4.7621.821.00.170.32
全体12.7721.7201.90.190.45

年平均しても,それぞれ 0.19mm/dayと0.45mm//day程度だった。実際には,もう少し大きいかもしれない。[1]によれば,福島の緯度 37.3度にある湖だと750mm/year ≒ 2mm/day 程度にはなるようなので。続く・・・。

[1]湖面や海面の蒸発(近藤純正)
[2]こぼれた水は何時間で乾くか(化学工学資料,伊東章)

2023年9月22日金曜日

フィンランドの教育(2)

フィンランドの教育(1)からの続き

有馬さんが国立大学法人化にゴーを出した1998年の学習指導要領(「生きる力」と基礎基本)が,ゆとり教育のピークだった。

2000年,2003年,2006年のOECD生徒の学習到達度調査(PISA)では,日本の読解力が急速にランクを下げていた。2003年PISA調査の結果から,学習意識や学校外での学習時間が低水準であること,学習離れ,習熟度の低い層の増加,学力格差などの課題が浮き彫りになった(PISAショック)。

これによって,2008年の学習指導要領(「生きる力」と思考力・判断力・表現力の育成)では揺り戻しが発生し,授業時数が10%増やされた。

このころ,PISAの読解力,数学リテラシー,科学リテラシーで上位を占めていたフィンランドが日本の改革のモデルとされ,多くの教育関係者がフィンランドを訪問していた。フィンランドは,教員の質も高く,修士課程の修了が必要とされていたことも,後に民主党政権時の教職大学院の制度設計に影響を及ぼした。

当時の自分は,人口規模が500万人のフィンランドの制度をそのまま日本に適応するのは難しいのではないかとやや冷ややかに横目で眺めていた。

フィンランドと日本のPISA順位を並べてみたのが次の図だ。横軸の1-7は2000年から3年ごとに2018年までのPISA調査に対応している。


図:PISA国際順位の推移(2000-2018,フィンランドと日本)

東アジア地域の新規参入などで,両国とも順位を下げた部分もあるが。フィンランドの数学リテラシーが顕著にランクを落としているのが目に付く。また日本の読解力は一時盛り返したが,再びランクを落としている。まあ,ともにパッとしなくなったのだ。

フィンランド幻想が消えたとはいえ,そこまで貶さなくてもいいのにとは思う。

2023年9月21日木曜日

フィンランドの教育(1)

フィンランドの教育・文化省が, 現状をレビューした報告を2023年1月に出していて,その英文要約を見ることができる。これをChatGPTで更に要約して,DeepLで翻訳したものを次に示す。

フィンランドの教育・文化省は、フィンランドの教育・文化セクターの過去数十年の変遷に焦点を当てた初の「ビルドゥング・レビュー」を発表した。主なポイントは以下の通り:

歴史的概観: 1950年代から1990年代初頭にかけて、フィンランドの教育部門は大きな成長を遂げた。総合学校、高等教育の改革、高等教育の拡大により、より多くのフィンランド人が教育を受けられるようになった。1990年代初頭には、図書館や芸術機関のネットワークも充実した。

1990年代の課題1990年代には教育資金が削減され、若者の教育レベルの上昇が止まり、学習成果が低下した。図書館もまた、様々な芸術分野への助成が減少し、利用者の減少という課題に直面した。

最近の動き: 2010年代半ば以降、就学前義務教育が導入され、義務教育が延長された。特にコロナウイルス危機の際には、高等教育の機会も拡大した。2030年までに研究開発資金を増強する必要性についてはコンセンサスが得られている。

学習成果フィンランドでは2000年代前半、特に読解力と数学の学習成果が急速に低下した。しかし、国際比較では、フィンランドの学生の成績は依然として良好である。社会的背景や性別による学習成果の格差が拡大している。

教育レベル: フィンランド国民の教育レベルは低下しており、1978年生まれは最も教育水準が高い。しかし、最近の傾向では、より若い年齢層がこのレベルを上回る可能性がある。

教職: フィンランドの教職は年々尊敬を集めており、フィンランドの教育制度の学術的教育と国際的評価が重要な役割を果たしている。

研究開発: 研究者の数は、特に企業部門で急増している。大学も研究範囲を広げている。

公共図書館: 1990年代には公共図書館への資金援助が減少し、図書購入の減少や貸出者数の減少につながった。

文化・芸術: 文化分野は、雇用の減少など困難に直面している。しかし、映画など様々な芸術の観客は増加している。

スポーツ: 成人のスポーツ参加率は依然として高いが、学童の有酸素運動能力は低下している。自治体によるスポーツ施設の建設は、年々変動している。

学資援助: 学生支援:1990年代の不況以降、学生支援にかかる費用は減少している。

これが,いまさらながらネットで取り上げられて(フィンランド教育は失敗だったとフィンランド政府が公式に認めました), フィンランド教育をディスる輪が広がっている。まあ,こういう自己分析ができるだけよいと思う。日本の文部科学省や政府は自分の政策が間違っていたとは絶対に認めないだろう。

[1]OECD生徒の学習到達度調査(PISA)(国立教育政策研究所)

2023年9月20日水曜日

古稀

Wikipediaによれば,
唐の詩人杜甫の詩・曲江(きょっこう)「酒債(しゅさい)は尋常行く処(ところ)に有り 人生七十古来稀なり」(酒代の付けは私が普通行く所には、どこにでもある(しかし)七十年生きる人は古くから稀である)が典拠。
杜甫(712-770)が47歳のときに詠んだ七言律詩「曲江」の全文は 次の通り 
朝 回 日 日 典 春 衣
毎 日 江 頭 尽 酔 帰
酒 債 尋 常 行 処 有
人 生 七 十 古 来 稀
穿 花 蛱 蝶 深 深 見
点 水 蜻 蜓 款 款 飛
伝 語 風 光 共 流 転
暫 時 相 賞 莫 相 違

春の衣を質入するのだからどの季節かと思えば,花に蝶が飛ぶ春だった。この詩の時代は盛唐(710-766),日本の奈良時代である。曲江は長安の東南隅に作られた池で現在は一面の畑というのは昔の話。

還暦は満60歳数えで61歳の祝いだが,古稀は満69歳,数えで70歳に対応する。で,本日9月20日空の日)で満70歳の自分にとっては古稀が終る日になる。しばらく前から気分はずっと70歳だったのでそれはそれでよし。


写真:曲江池遺跡公園(Trip.comから引用) 

2023年9月19日火曜日

テクタイト

隕石(小惑星)の衝突といえば,6600万年前にメキシコ湾ユカタン半島にチュチュラブクレータを作った10-15km級の衝突が思い浮かぶ。恐竜絶滅の原因ではないかとされているものだ。1908年のツングースカ大爆発も,50-60m級の隕石衝突が原因だとされ,また,2013年のチェリャビンスク隕石は,10m級の隕石である。


問題のテクタイトである。NHKのコズミックフロントの「ロスト・クレーター79万年前の天体衝突」で取り上げられていた。テクタイトとは,高速で衝突した巨大な隕石のエネルギーで蒸発帰化した地表の石や砂が上空で急冷して固まった天然ガラス(数cmの円形や水滴上のもの等)が広範囲に飛散したものである。

ただし,これが実際に見つかっている例は,北米(チェサピーク湾,3400万年前,隕石直径 数km),ヨーロッパ(ドイツ・チェコ,1400万年前,隕石直径 1.5km),アフリカ(コートジボアール,100万年前),アジア・オーストラリア(ラオス,79万年前,隕石直径 2km)の4つだけである。

最初の3つは,衝突の際にできたクレーターが見つかっているが,アジア・オーストラリアに広く分布したテクタイトの原因である衝突クレーターが未発見だった。それを探るというのが番組の趣旨で,国際研究チームに日本の千葉工業大学の地球学研究センターの多田隆治,多田賢弘チーム(80万年前に東南アジアで起きた小天体衝突の位置、規模、様式特定と環境への影響評価:科研費国際共同研究強化B)が参加していた。

その結果,衝突地点がラオスのボーラウェン高原にあって,新しい溶岩堆積層に覆われたものと考えられるようになった。この79万年前の衝突により,地域的な生物絶滅(急減少)が起こったらしい。ジャワ原人の絶滅にも影響しているとか。


写真:テクタイト(Wikipediaから引用)

千葉工大の地球学研究センターのページには松井孝典(まついたかふみ)さんが,センター所長として載っていた。彼は,2020年には4年間の任期で千葉工大の学長にも就任していたが,2023年2月に亡くなっていた。そのあたりのコメントくらいあってもよかったのに。千葉工大の次期学長は伊藤譲一だった。

2023年9月18日月曜日

開放型イヤフォン


先日のあさイチで,開放型イヤホン(ながら聴きイヤホン)が取り上げられていた。博多大吉先生が感動していた。そういえば,8ヶ月前の昔,NTTの技術でオープンイヤー型イヤホンができそうだという記事をみていたのをすっかり忘れていた。いつの間にか,それらしい何かが製品化されてテレビで紹介されていた。

カナル型やインナーイヤー型のように耳にイヤホンを入れるのではなく,小型スピーカを耳道の外側において,外部への音漏れを防ぎながら,外音を自然に聴きつつ,イヤホンの音も聞こえるというものだ。家人から話を聞いていないと叱られることもなく,宅急便や電話への対応も可能になる。

調べてみると,NTTはだめだったけれど,いくつかの代表的な機種がみつかった。
JVC Kenwood nearphone 11,775
16mmドライバ,本体7時間+ケース10時間,BT5.1

ambie sound earcuffs 15,339
?ドライバ,本体6時間+ケース12時間,BT5.2

OneOdeo OpenRock Pro 16,890
16.2mmドライバ,本体19時間+ケース46時間,BT5.2

SONY RingBuds 18,717
12mmドライバ,本体5.5時間+ケース12時間,BT5.2,マルチポイント

Oladance Wearable Stereo 20,980
16.5mmドライバ,本体10時間 | 16時間,BT5.2

Cleer ARC 22,800
16.2mmドライバ,本体7時間+ケース11時間,BT5.0 
Shokz OpenFit 24,880
?mmドライバ,本体7時間+ケース28時間,BT5.2 
Oladance OWS Pro 34,800
23*10mmドライバ,本体16時間+ケース42時間,BT5.3,マルチポイント

値段的に,JVCがいいかと思ったが,音質はいいが接点不良などの問題がありそうだ。SONYは,マルチポイントでBlueToothが接続できるメリットはあるが,普通のイアホンの真ん中に穴が空いてるだけなのでイマイチ。OpenRockはやや評判が悪い。CleerARCは2がクラウドファンディングしていて,これが製品化されればよいとの説も。

結局,Oldanceが良さそうなのだけれど,2万円もする。Oladance OWS Pro はさらにすごそうだが3万円を越える。ならば思い切って整備済品のAirPods Pro(第2世代)USB-Cを選びたい。ノイズキャンセリングも外部音取り込みも可能なのだ。問題は耳の負担感だけ。

なんだかんだいって,多少不便だとしても有線のEarPods(2,780円)が一番コストパフォーマンスが高い。外音取り込みが必要ならば片耳外せば良いし。マルチポイント接続が必要なら,2つあるEarPodsを片耳づつ別のソースにつないで聴けば良いという,たいへん貧乏性の結論に落ち着きそうだ。


写真:Oladance のOWS Proの機能(アマゾンから引用)

2023年9月17日日曜日

樹氷の世界

霧の彫刻からの続き

自然を見る眼が親愛の情を失えば,相手も決してその本性を明かさないものである。

これは中谷宇吉郎(1900-1962)の随筆集「樹氷の世界(甲鳥書店,1943)」に掲載されていて,NHKの日曜美術館天にささげる霧 霧の彫刻家・中谷芙二子」のテーマとして紹介されたフレーズだった。

最初は,この出典がわからず,Googleで検索しても全く見つからない。一方,青空文庫には中谷宇吉郎の随筆などが240編ほど収録されている。これを順番に調べるのは大変だ。wgetで自動ダウンロードしようとしたら,ファイル構造が単純でないため挫折した。

そこで,ChatGPTのAdvanced Data Analysis(旧 Code Interpreter)の助けを借りることにした。ところがこの子は,ファイルは受け付けるが,ウェブにはアクセスできない。尋ねてみると,中谷宇吉郎のそのデータは持っているというので,20編ずつ探してもらった。3ブロック目でヒットして,その答えは「自然の法則」というタイトルだという。しかしこれは実在しない。

そこで,GoogleのBardのほうに問い合わせた。こちらは手早く自信満々で「はい、わかります。随筆集「雪の結晶」の中の該当する随筆のタイトルは「雪の結晶と私」です」との回答があった。が,これも実在しない。どいつもこいつも役に立たない。

神田敏晶さんが,$20/月もかかる ChatGPT-Plusの解約をすすめていたので,早速これに従うことにする。


その後,人力でようやくさきほどの情報「樹氷の世界」までたどりついた。この本の著作権は切れていて,国立国会図書館のデジタルアーカイブに存在していることが分かった。この随筆集には,17編の記事があって,順番に読んでみたが見つからない。なんのことはない,403pにある後書きの部分にあるのだった。

P. S. 終戦の2年半前に出版されたもので,著者の様々な葛藤があらわれている随筆集だった。





[1]中谷宇吉郎 近代日本人の肖像(国立国会図書館)
[2]中谷宇吉郎教授の逝去を悼む(北海道大学理学部物理学教室)
[3]中谷宇吉郎先生のご業績とお人柄(若濱五郎 1927-2021)
[4]北大における雪氷学(北大百年史,黒岩大介)
[5]低温科学研究所(北大百年史,部局史)
[6]岩波映画製作所(1949年の中谷プロダクションがその前身)
[8]中谷宇吉郎記念財団(代表理事 中谷芙二子)
[9]氷雪物理学(対馬勝年)




2023年9月16日土曜日

霧の彫刻

NHKの日曜美術館で,中谷芙二子(1933-)の霧の彫刻が取り上げられていた。

90歳の中谷芙二子は,雪の結晶,人工雪の研究で有名な中谷宇吉郎(1900-1962)の二女として札幌に生まれた。当時北海道大学教授になったばかりの中谷宇吉郎は,石川県加賀市片山津町の出身で,小松中学,第四高等学校から東京大学理学部物理学科に進み,寺田寅彦(1878-1935)に師事した。三姉妹の母の静子(1910-1986)も金沢出身だった。長女の咲子(1932-)が地質学者,番組の最後にも登場した三女の三代子がピアニスト(1944-)でともにアメリカ在住だ。甥の中谷健太郎(1934-)が由布院温泉の亀の井別荘を経営している。


芙二子は,高校卒業後に父の仕事の関係で渡米し,ノースウェスタン大学美術科を1957年に卒業している。1966年には,Experiments in Arts and Technology (E. A. T. ) のメンバーとなった。E. A. T. の活動の最高峰として,大阪万博1970のペプシ館がある。ここで芙二子は霧の彫刻によってパビリオンを覆うことに成功した。これは,16ミクロンのノズルの前に針をおいて,70気圧で噴射される水を砕き,20〜30ミクロンの霧粒として噴射するものであった。

1970年7月に訪れた大阪万博では,最初の夜に赤く照らされて工事中のデザインだった横尾忠則のせんい館の夜の外観は見たが,エキスポランド側にあった霧に包まれたペプシ館には行かなかった。


中谷芙二子の考えを要約すると次のようなものであった。
霧の彫刻は,純水で作られた大量の霧を発生させて,環境と人間のインタラクションを楽しむ芸術だ。霧の中に入ることで,人は視覚だけでなく,全感覚を通して環境を知覚することになる。それは,不可視である大気が呼吸する様子を人が知覚することを助ける。またこれにより人の行動自身も影響されることになる。自然を美の対象と考えてはいけない。それは,人それぞれが自分の方法で発見する自然との関係の中に生まれてくるものだ。
番組は,日本各地での取り組み,とくに田中泯とコラボレートした舞踊と霧のパフォーマンスを中心に話が展開した。加賀市にある中谷宇吉郎雪の科学館にも常設の霧の彫刻「グリーンランド氷河の原」があり,グリーンランド(中谷宇吉郎が調査でよく通っていた)から氷河の堆積石を60トン(環境大臣と交渉してゲットした)を日本に運んで厚さ15cmに敷き詰めた空間に霧を流していた。


写真:中谷宇吉郎雪の科学館にある霧の彫刻(グリーンランド氷河の原)


[1]霧の抵抗 中谷芙二子(水戸芸術館)
[3]アーティスト・中谷芙二子のふたつの顔飯田豊評「霧の抵抗 中谷芙二子」(美術手帖)

2023年9月15日金曜日

成層圏飛行

NHKのコズミックフロント関係の話題が続く。

9月7日に放映されたのが「天空の果てへ 有人気球・成層圏飛行への挑戦」だった。ヘリウム気球を使った有人成層圏飛行の実現を目的とする岩谷技研の1年半の取り組みが丁寧に紹介されていた。ほとんど会社の宣伝番組になっていたけど。なお,有人ではなく成層圏や中間圏での高高度気球での撮影をするスポーツは,スペースバルーンとよばれている。

図:地球大気の鉛直構造(高卒資格.comから引用)

北海道の株式会社岩谷技研は,2012年に個人として初めて33kmの高度からの撮影に成功した岩谷圭介(北海道大学工学部知能工学科卒)が,2016年に設立した旅客技術開発会社である。その目的は,高高度ガス気球並びに旅行用気密キャビンを設計/開発/製造し,気球による宇宙遊覧フライトを実現する,となっている。現在の資本金は3500万円で,従業員が48人だ。

ヘリウムを惜しげもなくふんだんに使って(いるように見えた)気球にかかわる様々な実験を堅実に繰り返しているところに驚いた。社長はじめ若い社員達が多くのの特許を取得しながら一歩づつ着実に目標に向かっていた。48名の人件費を賄うだけの収益があるのか,他人事ながら心配になった。

同様のベンチャー企業に,茨城県のスペース・バルーン株式会社がある。こちらの方は2020年に設立され,資本金500万円で従業員7名だ。ホームページはとても綺麗にデザインされていて,会社の目標も宇宙旅行に限定されず様々な応用分野を想定している。


うまくいけば,数百万円程度で2時間上昇+1時間滞在+1時間下降のNear Space(宇宙空間への入口)の旅=成層圏飛行が実現できるかもしれないがどうだろう。なんとなく,アーサー・C・クラーク楽園の泉(こちらは軌道エレベータの話だが)を思い出す。


2023年9月14日木曜日

大学ポートレート

国際卓越研究大学からの続き

生成系AIによる調べものが挫折すると,原点のインターネット検索に戻ることになる。もちろん,各大学にアクセスして調べればいいのだが,各大学の情報構造がまちまちなので,これがとてつもなく面倒な話だ。

そんなとき,大学ポートレートというサイトに行き当たった。独立行政法人大学改革支援・学位授与機構が運営している。が,運営先を微妙に隠そうとしている。面倒なやつだ。

これを見ると,各大学の基本情報が同じ形式で整理されているので,目的が達成できそうだった。残念ながら,職員数と財務情報=大学予算規模が欠けている。そう,教員数は懇切丁寧に示しながら,職員数がいまひとつ分かりにくい大学が多かった。

不良老人の常で,こういう場合は早速クレ—ムを入れるのだった。

大学ポートレートの情報,大変参考になります。

現在,基本情報として,大学名,本部所在地,設立年(設置認可年),大学の連絡先(代表番号、メールアドレスなど)大学の種類,総学生数(学部),総学生数(大学院),総教員数(本務者)の8項目があげられています。

要望:
(1)総職員数,(2)大学の予算規模(≒損益計算書の経常収益または経常支出に対応するもの)の2項目を基本情報として追加していただけないでしょうか。

理由;
(1)大学の教育や運営には教員だけでなく,職員や支援スタッフがどれだけ充実しているかというのがますます重要な情報になっています。

(2)大学ファンドの運用規模が,各大学の予算規模と比べてどの程度のオーダーであり,日本の高等教育がどうなるかの全体像を理解するには,各大学の予算規模を基本情報として把握する必要があります。大学ポートレートの目的は必ずしも受験生だけのものでなく,広く国民が高等教育の在り方を理解するためのものだと思いますので,こうした情報は基本情報になると考えられます。

会社規模のイメージをつかむには,資本金,従業員数,売上高,純利益などを見ますね。どうぞよろしくお願いします。

追伸:対話型の生成AIの能力がもう少し向上すれば,このような手間は不要になるのですが,試してみたところ,あまりうまくいきませんでした。


要望への返事は返さないそうなので,暖簾に腕押し以外の何ものでもない。


と思っていたら,早速ていねいな御返事をいただいた。結論を要約すると以下のようになる。こちらの要望とは若干ズレているが,お忙しいところどうもありがとうございました。
(1)総職員数について
 大学改革支援・学位授与機構でまとめております「大学基本情報」にデータがございます。https://portal.niad.ac.jp/ptrt/table.html
(2)大学の予算規模について
 大学ポートレートの「基本情報」ページの一番下に、「財務諸表等」の項目があり、各大学法人ウェブサイトでの該当ページへのリンクを掲載しております。

2023年9月13日水曜日

国際卓越研究大学

どうする大学からの続き

9月1日,東北大学がはじめての国際卓越研究大学の認定候補に選ばれた。

平成に入って(1989)バブルが崩壊(1992)し,阪神・淡路大震災(1995)があり,有馬さんがその道を開いた(1999)国立大学の法人化(2004)がスタートした。バブル崩壊後の30年で大学は疲弊し,日本の研究力は地に落ちつつあるとの認識が広がりつつある[1][2]。

そこで登場したのが,日本学術会議ではなく内閣府の総合科学技術・イノベーション会議だ。政府が大学予算を絞ってきたのが問題ではあるが,日本にも米国のトップ大学のような基金があれば大学は活性化できるというロジックで,2020年12月に閣議決定されたのが次の方向性である。
10 兆円規模の大学ファンドを創設し、その運用益を活用することにより、世界に比肩するレベルの研究開発を行う大学の共用施設やデータ連携基盤の整備、博士課程学生などの若手人材育成等を推進することで、我が国のイノベーション・エコシステムを構築する。
その基本的な考え方が定められ[3],具体化策は,法改正により科学技術振興機構の新しい役割として追加された[4]。ますます大学の選択と集中が加速され,金融資本だけが繁栄するというスバラシイ施策だ。

10兆円基金の年間運用益を3000億円と見込み,最終的にはこれで4-6大学を支援することになりそうなので,1大学平均500-700億円というところか。科研費の年間予算規模が2500億円なので,運用が成功すれば科研費総額を5大学だけに配るというような凄まじい話だ。


これに10大学(早稲田,東京科学,名古屋,京都,東京,東京理科,筑波,九州,東北,大阪)が応募した。大手の大学で申請しなかったのは,慶応義塾大学と北海道大学だった。その中から,東北大学,東京大学,京都大学が現地調査の対象として絞り込まれたというニュースを聞いたとき,てっきりこの三大学で決まったものだと思っていた。

ところがフタを開けてびっくり,東北大学1校だけが選ばれて,2024年度から支援を受ける候補になった。東北大学の計画書(の中のKPI)をみて,こんな絵空事で通るのかと奥村先生が憤っていた。25年間続けて,論文数が年率5.2%で増加し,そのうちTOP10%論文数が9.2%で増加するというのだから。

各大学の予算と今回の大学ファンドのオーダーを比較しようとして,大学名,予算規模,教職員数,学生院生数のリストをつくるようにChatGPTに頼んだところ,大学ファンドの話を持ち出しただけで全く役に立たなかった。むしろBardがのぞみの形を出力してくれたのだが,チェックすると数値は出鱈目だった。しかたがないので,人力で対応した。

順位 大学名 予算(億)  科研費(億)    教職員数 院生・学生数
1 東京大学    2,538  211        11,547  27,368
2 慶應義塾大学   2,791  36            4,247  33,052
3 京都大学    1,839  141         5,553  22,295
4 大阪大学    1,602  101         5,058  20,969
5 東北大学       1,532  101         6,398  17,591
6 早稲田大学      1,022  27            3,209  47,127
7 九州大学    1,358  69            4,572  18,560
8 筑波大学    1,123  43            4,627  16,507
9 東京科学大学  1,176  117           4,824  13,429
10 名古屋大学   1,289  78            3,207  15,902
11 北海道大学   1,077  60            3,920  17,541
12 東京理科大学  535   11            1,501  19,768
極めて局所に投入される大学ファンドの運用益は,各大学の予算規模の20%とか25%に相当するので,なんだかむちゃくちゃなことになりそうだ。どうして,こんなに荒っぽい政策しか考えつかないのだろうか。文部科学省のNISTEPは遅ればせながらややまともな分析をしているのだけど[1] ,時既に遅しということか。

*科研費は12大学・機関(-東京理科大+理化学研究所)で936億円(全体の40%程度)を占める。

[1]我が国の研究力の動向(文部科学省科学技術・学術政策研究所,2023.4)
[2]大学の研究力強化に向けて(文部科学省大学研究力強化室)
[3]世界と伍する研究大学の実現に向けた大学ファンドの資金運用の基本的な考え方(総合科学技術・イノベーション会議,2021.8)
[4]大学ファンドについて(科学技術振興機構)

2023年9月12日火曜日

どうする大学

NHK大河ドラマ「どうする家康」は,評判もずっとイマイチで,最初のうちはあまり見る気もしなかった。ところが,武田信玄が出てきて瀬名と信康が自害するあたりから,次第に面白くなってきた。本能寺の変の直前の信長への接待から,秀吉の台頭,石川数正の出奔や朝日姫の輿入れなど,最近は毎週目が離せない。


9/10のNHK日曜討論が「どうする"研究力低下"これからの日本の大学」だった。法事で外出していたため,録画したものをみた。放送直後から,Twitterで番組の感想を検索していたが,ほとんどその論調は同じだった。政府審議会の証券アナリストはわかっていない,選択と集中がこの危機を招いた,出席の大学関係者はがんばっていた,というものだった。

Twitterでおなじみ病理医の榎木英介科学・政策と社会研究室 代表理事),K2Kニュートリノ実験出身の横山広美(東京大学IPMU副機構長),KEK理事でリサーチアドミニストレーション協会副会長の高橋真木子(金沢工業大学教授),経済財政諮問会議初の民間女性有識者中空麻奈(BNPパリパ証券,アナリスト)というなかなか良いメンバーだった。野依良治が出てこなくてよかった。

さすがNHKなので,朝まで生テレビや維新の記者会見とは違って落ち着いて話が進む。中空麻奈もそこまでヒールに徹していたわけではないし,横山さんや榎木さんも控えめだ。高橋さんは,榎木さんらの主張に共感しながらも,研究機関としてのマネジメントをどうするかという立場で話していた。

まあ,バブル崩壊後の国家予算の逼迫に対応しようとした日本政府の政策の方向(国立大学の法人化と資源の選択と集中)が間違っていたわけだ。2000年のインターネット革命後の社会の変化スピードのために被害は拡大してしまい(研究人材の雇用不安定化,基盤的な大学運営費の縮減による機能喪失),焦れば焦るほど大学が危機的な状況に追い込まれている。これに少子化の波が加わる(以前は2018年問題といわれていたがまだズルズルと続いている)。


2023年9月11日月曜日

放出総量

告示濃度比総和からの続き

第一は、処理水放出しなくても海に流出している放射性物質がおそらく事故以前の福島第一の年間放出管理目標値である2200億ベクレル/年くらいあって、これを減らすことが絶対的に重要だけど、そもそもこういう放出があること自体に国も東電も一切触れないのが問題、ということ。
トリチウムの事故以前の福島第一の年間放出管理目標値は22兆ベクレル/年(実績2.2兆ベクレル/年)だというのは,どこにでも書いてあるが,2200億ベクレル/年は探してもなかなか見当たらない。

ようやく,10年前のページ3.11東日本大震災後の日本に手がかりがあった。しかし原文のリンクを辿った経済産業省からは消されており,waybackmachineでかろうじて過去の記録がわかった。平成23年度原子力施設における放射性廃棄物の管理状況及び放射線業務従事者の線量管理状況について(経済産業省・原子力保安院)。なんとかしてほしい。

これによれば,事故前の福島第一原子力発電所の放射性液体廃棄物(3Hを除く)の年間放出管理値が,2.2E+11Bqとなっている(気体では希ガス 8.8E+15 Bq,ヨウ素131 4.8E+11 Bq)。原子炉7基の柏崎刈羽原子力発電所についで全国2番目に大きなレベルに設定されていた。

その上で,きちんとした計算がされていたのは【資料】ALPS処理水の海洋放出 「放出総量」(伊賀治)だ。それによると,トリチウムの22兆ベクレル/年を排出基準 1500Bq/Lでわった,希釈後アルプス処理水の年間放出可能量は,1467万t/年となる。

これにタンクJ1-C群の2次処理後の確認試験結果,C-14: 13Bq/L,Co60: 0.31Bq/L,Sr90: 0.35Bq/L,Y90: 0.35Bq/L,Tc99: 0.73Bq/L,Sb125: 0.11Bq/L,I129: 2.1Bq/L,Cs137: 0.45Bq/L をかけて,2倍して(希釈用の海水も同じ濃度で汚染されていると仮定)加えると,トリチウム以外の8核種の放射能の合計は,5100億Bq/年となっている。

告示濃度比総和は1に抑えられていて,現在の基準は満たしているとはいえるが,過去の自分たち自身の設定目標管理値は越えている。トリチウム排出についてはそれに従っているにも係わらず。だめだこりゃ。