2021年3月11日木曜日

被写界深度

 被写界深度(Depth of Field)について,良くわかっていなかったので調べてみた。単なる幾何光学の練習問題だったので,大学入試問題に使えるかもしれない。

カメラのレンズ系を焦点距離 $f$ の1枚の薄い凸レンズで近似する。レンズの中心を原点Oとする。レンズの回転対称軸を $x$ 軸にとってカメラの撮像素子方向を正にとる。原点から $x$ 軸上の撮影対象までの距離を $b$,撮影対象が結像する撮像素子面までの距離を $a$ とする。このとき,次の関係が成り立つ。

\begin{equation} \dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{b} = \dfrac{1}{f} \end{equation}

ところで,撮影対象の前後から出た光は,撮像素子面では厳密には結像しないが,実際にはセンサーの画素サイズ分の誤差  $\varepsilon$ が許容される。撮像素子面上で,フルサイズセンサー(35mm)なら $\varepsilon = 1/30$ mm,APS-Cやマイクロフォーサーズなら $\varepsilon = 1/60$ mm の範囲は結像したものとみなすことができる。このとき $x$ 軸上では,焦点深度 $\delta = {\rm F} \varepsilon$ の許容幅があることになる。ただし絞り値(F値)は F= 焦点距離/有効口径である。

そこで,$a_{\pm}=a \pm \delta$ を結像位置とする,撮影対象の $x$ 軸上の点を $b_{\mp}$ と表すと,次式が成り立つ。

\begin{equation} \begin{aligned} \dfrac{1}{a_{-}} + \dfrac{1}{b_{+}} = \dfrac{1}{f} \\  \dfrac{1}{a_{+}} + \dfrac{1}{b_{-}} =  \dfrac{1}{f} \end{aligned} \end{equation}

(1)(2)式から $f$ を消去すると次式が得られる。

\begin{equation} \begin{aligned} \dfrac{1}{b_{+}} - \dfrac{1}{b} = \dfrac{1}{a} - \dfrac{1}{a_{-}} \\   \dfrac{1}{b_{-}} - \dfrac{1}{b} = - \dfrac{1}{a_{+}} + \dfrac{1}{a} \end{aligned} \end{equation}

ここで,$a \gg \delta$ と近似し,(1)式を用いて,$\dfrac{1}{a} = \dfrac{b-f}{bf}$ とすると,

\begin{equation} \dfrac{1}{b_{\pm}} = \dfrac{1}{b} \mp \dfrac{\delta}{a^2} = \dfrac{1}{b} \mp \delta \bigl( \dfrac{b-f}{bf} \bigr)^2 \end{equation}

これから,$b_{\pm}$ は次のように求まる。最後の近似は,$b \gg f$とした場合である。

\begin{equation} \dfrac{b_{\pm}}{b} = \dfrac{1}{1 \mp \dfrac{\delta}{b} \bigl( \dfrac{b-f}{f} \bigr)^2 } \sim  \dfrac{1}{1 \mp \delta b / f^2 }  = \dfrac{1}{1 \mp {\rm F} \varepsilon b / f^2 }  \end{equation}

これによって,対象物が撮像素子面で結像することのできる領域とF値の関係がわかる。なお,$f = 50$ mm ,$b = 10$ m, $\varepsilon = 1/60$ mm,F=4とすると,$ {\rm F} \varepsilon b / f^2 = 0.27$となることから,$b_{-}= 7.9$ m,$b_{+}= 13.7$mとなり,手前側には2.1 m 奥側には3.7 m の範囲で合焦する。

図 被写界深度の説明図


2021年3月10日水曜日

F値・シャッター速度・ISO感度

 カメラが趣味ではないので,その技術的な基礎知識もほとんどなかった。最近,YouTubeに浸かっているので,耳学問のやや怪しくて不正確な知識が蓄積してきた。

F値は,焦点距離を有効口径で割ったものであり,この値が小さい方が明るいということはわかっていたが,その基準は人間の眼らしい。F値はこの基準値から√2倍の系列で慣用的な値が定まっている。つまり,F=1.4, 2.0, 2.8, 4.0, 5.6, 8.0, 11, 16, 22 などである。F値が一段階大きくなると,有効口径が1/√2になるので,面積は半分になるため,受光部に到達する光量も半分になって暗くなる。なお,F値が大きいと被写界深度が狭くなり,ボケの範囲が大きくなる。

シャッター速度は,受光部を光に暴露する時間であり,1, 2, 4, 8, 15, 30, 60, 125, 250, 500, 1000 (/秒)などとなっている。本来はこれも2の倍数の系列であるため,1, 2, 4, 8, 16, 32, 64, 128, 256, 512, 1024 (/秒)となるはずだが,歴史的な経緯で,上記の値が用いられているようだ。シャッター速度が2倍になれば,受光部に到達する光量は半分になって暗くなる。なお,シャッター速度が60/秒以下のように遅くなれば,ブレが目立つことになる。

ISO感度は,もともとはフィルムの感度であり,普段遣いのカメラではISO100(ASA100とよんでいた記憶があるけれど)のフィルムを使っていた。いまでは,受光部のMOSセンサーの増幅感度を表すものであり,100, 200, 400, 800, 1600, 3200, 6400, 12800, 25600 などと,これも2の倍数の系列で感度を指定している。ISO感度が倍になれば,受光量が半分でも同じ明るさで記録される。ただし,ISO感度が高くなるということは,少ない光を電気的に増幅するわけだから,ノイズが増えることになる。

ISO感度を固定した場合,シャッター速度とF値の自乗の積が一定の組が同じ明るさを与えることになる。

この過程で,マイクロフォーサーズは4/3型センサー(フォーサーズ)のミラーレスの規格であって,レンズのマウント規格もフォーサーズの一眼レフとは異なっているということを学んだ。

2021年3月9日火曜日

月ヶ瀬梅林

 奈良に住んで30年になるが,月ヶ瀬梅林に行ったことがなかった。毎日のようにテレビで宣伝しているので,片道60分のドライブで月ヶ瀬梅林を訪れた。売店の手前の駐車場に停めて坂道を登ると,そのあたりに梅のスポットが広がっている。最初に気がついたのが金沢との関わりである。月ヶ瀬の尾山天神社と前田家の間の因縁についての立て札があったが,いまひとつ事情が飲み込めなかった。

1919年(大正8年)に史跡名勝天然記念物保護法が制定され,1922年(大正11年)の最初の名勝指定11件に選ばれたものに,兼六園(金沢),平等院庭園(京都),奈良公園(奈良)などと並んで月ヶ瀬梅林(奈良)が含まれていた。これだけでも因縁めいたものを感じるが,さらに名張ライオンズクラブの森島さんによれば,次のような伝承があるらしい。

 石川県の尾山神社と月ヶ瀬村との関係は、伊賀市古山の史跡研究家吉住勘之(よしずみさだゆき)さんが、歴史資料として残してありました。 本稿は前田利家伝承を介しての大和国添上郡月ヶ瀬村(現・奈良市月ヶ瀬村)と近世金沢(現・金沢市)の地名に関する伝承資料であります。 加賀前田百万石、利家候の祖父・前田蔵人利成(まえだくらんどとししげ)幼名長五郎は、大阪近くの戦いで敗戦し、月ヶ瀬村真福寺の北の大矢家に逃げてきた。その後、村の女松本みのと婚して三学院に住まれた。それから何年かが過ぎ、北陸の森常恒(もりじょうこう)に仕官して、加賀に移ることとなります。ここで、妻はなを迎えて前田利昌を生み、金沢地に築城して、父の出世の守り神月ヶ瀬にある尾山天神を分神し、尾山に天神さん(菅原道真)を祭り、城山を尾山と名づけました。 金沢の地名は、中世末賊民とされた「金屋」によって発見されたもので、地名の由緒は「金洗沢」「金堀沢」であったことは周知のとおりであります。 金屋は一向宗門徒であったことから、「金沢」は早くから石山本願寺など畿内に知られていました。「金沢御堂」「金沢御坊」「金沢寺内町」がこれであります。前田利家は、一向宗門徒により命名された金沢の地名を嫌い、尾山城・尾山町と改めました。前田利家の家紋梅鉢は、月ヶ瀬村尾山の松本家の家紋と同じでありまた、奈良市月ヶ瀬村尾山は、昔から梅林の地で有名であります。

類似した別の伝説もある。月ヶ瀬梅林公園の中には白加賀がたくさん咲いていた。


写真:月ヶ瀬梅林の梅と加賀前田家関係の説明(2021.3.9)

[1]大正末期から昭和初期における名勝保護と公園事業をめぐる議論(赤坂信)

[2]金沢尾山と月ヶ瀬村尾山の地名に関わる伝承資料の紹介(森島國久)

2021年3月8日月曜日

因果と相関(2)

因果と相関(1)からの続き

 2つの時間的な事象A(過去)と事象B(未来)があって,AがBの原因であるといえるのはどのような場合だろうか。また,AとBに相関があるというのはどうやって判定できるのか。

「事象」が正確に定義されたものとして,特殊相対性理論では4次元時空(ミンコフスキー空間)上の世界点のことであり,確率論では標本空間上の1つの要素のことである。

一般に「事象」とは,観察しうる形をとって現れる事柄,出来事のことである。事象が生起する時点とは,事象を担う系の状態が変化した時点とし,そこでのこの系の状態変化が事象に対応すると考える

事象Aと事象Bの連関(相関や因果があるとかないとか)についていう場合,(1) 2つの事象が同じ系で生起する,(2) 2つの事象はある系とその部分系で生起する,(3) 2つの事象が独立した系で生起する,の3つの場合に分類される。

事象についての物理的な制約の1つが特殊相対性理論の制約である。事象Aと事象Bが因果関係であるためには,2つの事象に対応する4次元時空の世界点を結ぶ4元ベクトルが時間的であることが必要だ。

この世界のすべての事象は一回性のものであると仮定する。その孤立した事象が他に類似な事象を持たない場合に,相関や因果を議論できるだろうか。

変化に着目している状態以外の情報を捨象した類似事象の集合を考える。この事象群について,事象群{A}と呼ばれる状態変化に対して常に事象群{B}とよばれる事象変化が対応するとき,これは相関関係とよべるか。


2021年3月7日日曜日

因果と相関(1)

日経朝刊の科学欄で,コロナ政策の意思決定に関わる記事で,次のような解説コラムがあった。

因果関係と相関関係  人の行動は読めず

 事象Aと事象Bの間に原因と結果のつながりがある関係を因果関係と呼ぶ。これに対し,相関関係は一方が変化すると,もう一方も変化する関係のことを指す。Aの値が大きくなるにつれBの値も大きくなる場合が「正の相関」,逆にBの値が小さくなる場合が「負の相関」とする。因果関係があれば相関関係もあるが,その反対は必ずしも成り立つわけではない。

 科学の世界では主に観察によって相関関係を導き出し,その後,仮説と実験による立証を繰り返して因果関係を突き止めていく。ただ,経済にしろ,コロナ対策にしろ,人の行動によっても結果が左右される事象について,因果関係を割り出すのは困難とされる。

因果関係は,昨日の決定論にも関わる重要キーワードだが,最近ずっと引っかかっている。 谷村さんは,相対論的な因果律を除いてあっさりと物理における因果関係を放棄した。因果関係というのは人間の作る物語に過ぎない。それはそれでほとんど同意できるのだが,まだ言語化はできていない何かが残っている。

物理学において因果関係を使う説明がどこまで許容されるのかという問題は,物理教育学会の変位電流をめぐる議論でも未解決のまま残っている。また,コロナ感染症の抑制や少人数学級制導入の効果に関する政策的選択肢の問題など,常に因果と相関の話がついてまわる。その道の人々は統計的因果推論で解決しているというのかもしれないが,まだ自分では理解できていない。

 

2021年3月6日土曜日

2つの決定論

シンギュラリティサロン@SpringXの,哲学の決定論 vs 物理学の決定論:機械は自由意志を持てるか?をYouTube Liveで視聴した。法政大学の木島泰三さんと名古屋大学の谷村省吾さんが,哲学と物理学の立場から決定論や自由意志の問題について,それぞれの考えを述べていた。ふたりとも非常にわかりやすいプレゼンテーションをしていて,ただ,木島さんの「自由意志の向こう側:決定論をめぐる哲学史」の紹介は,こちらの処理能力不足で完全にフォローはできなかったのが残念だった。

谷村さんの主張は明快で,物理学における因果という表現を非常に抑制的に使うべきだという主張であり,これはよくわかった。ただ,木島さんの哲学的な決定論や非決定論との関係については十分噛み合った議論はできなかったのかもしれない。

2021年3月5日金曜日

篠田桃紅

 3月1日に107歳で亡くなった篠田桃紅(1913-2021)が篠田正浩(1931-)の従姉だったとは知らなかった。そして,1969年に公開された篠田正浩の心中天網島には,篠田桃紅の書が使われていたとのこと。

映画「心中天網島」は米島君に勧められ,たぶん大学に入ってから大阪で見たのではないか。冒頭の文楽の黒子が走るシーンから非常に印象的で引き込まれた。その後,文楽鑑賞が趣味になって,文楽の舞台でも何度も見ることになるとは,当時は思いもよらなかった。

[1]映画「心中天網島」と文楽問題(尾形修一)

[2]映画「心中天網島」(Staff Blog)

[3]篠田正浩 河原者ノススメ 死穢と修羅の記憶(松岡正剛)

2021年3月4日木曜日

要求要件

コンパクトデジカメの要求要件を考えてみた。たぶん,CANONの PowerShot G7X MarkIII が一番近いかもしれない。質量は電池込みで304gだ。

撮像素子のサイズは1型,画素数は2000万くらいである。レンズは,35mmフィルム換算の焦点距離が24mm-100mm(実際は8.8mm-36.8mm)で開放 F 値が1.8-2.8 である。ズーム倍率の4.2とは100/24のことだろうか。焦点距離の比率が,フルサイズと1型のセンサー対角長の比率43.2/15.9=2.72ということかな。などなど基本知識がないので,埋もれている知識を発見しつつ解読している。F値はレンズの焦点距離を有効口径で割ったものなので,24mmの広角端では,8.8/x=1.8より有効口径が4.89mm,100mmの望遠端では,36.8/x=2.8より有効口径が13.1mmということか?よくわからない。絞りはF11までとあるので,有効口径が0.80mm〜3.34mmまで絞れるということか。

ファインダーがなくて3.0型TFT液晶モニター・タッチパネルは上に180度下に45度傾く。これで十分。バリアングルというのはもっと自由度が高いものを指すのかもしれない。HDMI端子,外部マイク端子があって,外部電源からの給電はUSB電源アタプタを使えば可能である。HDMIではどの状態のときに何が出力されるかは押さえておく必要がある。ストロボは必要ないような気もするが,iPhoneでもついているくらいなのでいいのかも。NDフィルターもついている。これは有り難いのかもしれない。

データタイプがMP4のところがよいと思った。SONYやLUMIXでは,なんだか別の独自フォーマットなのである。しかし,iMovieをみるとたいていのデジタルカメラのフォーマットには対応しているので,これはこれで問題ないのかもしれない。WifiとBluetoohにも対応しているがどこまで意味があるのかはよくわからない。

YouTubeをみるとPS G7X M3のオートフォーカスの精度やスピードがSONYのRX100M7などに比べてかなり劣るとされていた。ただし,2019年の10月のファームウェアアップデートによってこれはほぼ解消されているようだ。SONYは他の機種も含めAFでは非常に定評がある。ただし,メニューなどのユーザーインターフェイスはぼろくそにいわれている。これは,LUMIXの方がましらしい。CANONがどうかはわからない。

ということで,もう少し望遠性能があってもよいけれど,とりあえずはこれで要求要件が概ね満たされているようにも思う。なお,対抗機種のRX100M7はPS G7XM3の1.5倍以上の価格である。

2021年3月3日水曜日

撮像素子

 YouTubeをみていると,Vlog 撮影のためのカメラの話題に事欠かない。そこでいつの間にか門前の小僧状態になりつつある。ただ,自分はカメラ沼にははまらないと思う。散財系の人々のようにお金が循環しないのでそもそも無理なのだ。

それでもVloggerになってみようかと思わないこともない。SONYのZV-1がVLOGCAMとして宣伝されているので,いろいろ調べてみると微妙に不満な点が目立つ。そのため,LUMIXはどうか,CANONではなどとなり,コンパクトなミラーレス1眼までいく。しかしそれでは携帯性に欠けるということになってぐるぐる回って切りがない。

とりあえず,撮像素子(CCDセンサーではなくMOSセンサー)について少し学んだのでまとめておく。以下のうち,フルサイズとAPS-Cと4/3(フォーサーズ)がミラーレス1眼レフカメラに対応する。なお,1型は対角1インチを表すわけではない。またAPS-CにはNIKON-SONYのものではなく,CANONの(22.3 × 14.9 26.8 )も存在しているらしい。

  名称   横mm縦mm 対角mm 横縦比

(1) フルサイズ 36.0 × 24.0 43.2  3:2

(2) APS-C   23.6 × 15.8 28.4  3:2

(3) 4/3型     17.3 × 13.0 21.6  4:3

(4) 1型     13.2 ×   8.8 15.9  3:2

(5) 1/1.7型      7.5 ×    5.6 9.36  4:3

(6) 1/2.3型   6.2 ×    4.6 7.72  4:3

(7) 1/3型      4.8 ×    3.6 6.00  4:3


2021年3月2日火曜日

石原裕次郎

 録画されていた「黒部の太陽 完全版(日活1968)」をみた。石原プロモーション三船プロダクション劇団民藝とのことで,往年の名優がたくさん顔をならべていた。まあ,結局,石原裕次郎と三船敏郎と樫山文枝と辰巳柳太郎と加藤武で話が進むわけだった。宇野重吉+寺尾聰がちょっと気になったけれど。そんなわけで(どんなわけだ),スタッフロールのキャスト一覧はフラットなあいうえお順になっていた。人間ドラマ的な掘り下げは今ひとつ微妙だったとしても,水が溢れるトンネル工事シーンはそれなりの迫力があった。

黒部の太陽の公開当時は中学三年であり,映画館で見ることはなかった。高校三年のときに同じ石原プロ制作,石原裕次郎主演で同様のフレーバーを持つ映画「甦る大地(松竹1971)」の方を見た記憶がある。こちらは鹿島コンビナート開発をめぐる物語だったが,茨城県の農工両全プロモーション的な色彩もあって盛り上がらず,かなり期待はずれで終わってしまった。

石原裕次郎が出てくる映画で観たことがあるものがもうひとつ。「素晴らしきヒコーキ野郎(1965)」だ。小学校六年なので,父親に連れて行ってもらったのだと思われる。映画自身はとても面白かったが,石原裕次郎は映画開始後,あっというまに事故で墜落して飛行機レースから脱落したのでほとんど出番がなかったのだった。

2021年3月1日月曜日

松山智一

 NHKの日曜美術館「クラスター2020 ~NY美術家 松山智一の戦い~」で,松山智一が取り上げられていた。同じNHKのザ・ヒューマン「届けなければアートはゴミだ NY美術家 松山智一」の映像を多少編集したものがベースになっていた。ニューヨークのブルックリンで10名のスタッフを抱え,月700万円のオフィスを借りてスタジオを運営している。

中国人財閥美術コレクターの劉益謙・王薇夫妻が運営する上海の龍美術館西岸館で昨年の11月から今年の1月にかけて個展が開かれた。引き続き,龍美術館重慶館でも開催されるようだ。また,明治神宮の創建100年を記念する神宮の森芸術祝祭の屋外彫刻展に作品を出展している。

松山が2018年に東京のルミネで開いた個展「Same Same, Different」のインタビューじゃなくて,プロデューサーの橘康仁との公開対話で,自分の制作手法を美術のマッシュアップであると語っていた。1976年に岐阜の高山に生まれ,8歳から12歳をアメリカの西海岸で過ごし,大学は東京の上智大学経済学部を終えて,同時多発テロの2ヶ月後の2002年に26歳でニューヨークに渡たり,そこから商業デザインを学び始めた。それらの経験をもとに,日本の伝統文化や現代のポップカルチャーなど様々な引き出しを備えてそれをカラフルで精緻な彼の作品にマッシュアップしているのである。

頭に浮かんだのが「21世紀の若冲」だった。残念ながらこの言葉は初出ではなく,辻惟雄と山下裕二が2009年のユリイカ11月号の若冲特集で,「21世紀の若冲--書き換えられる日本美術史」という論文を書いていた。しかし,彼が描いたニューヨーク,ソーホーのバワリー壁画伊藤若冲の樹花鳥獣図屏風を連想させた。また,コロナ禍の中で10名のスタッフと仕上げた33枚の抽象画パネルは,抽象化された動植綵絵だった。

[1]コロナでニューヨークの5名のスタッフが帰国したMATSUYAMA STUDIOはスタッフを募集していた

[2]松山は東京のギャラリー KOTARO NUKAGAの所属アーティストにもなっている。

2021年2月28日日曜日

因果の花

今日は,シンギュラリティサロンによるオンラインシンポジウム#46で,渡辺正峰(まさたか)さんの「意識を科学のまな板にのせる―20年後の意識のアップロードに向けて―」が13:30-17:00まであった。基調講演が長引いたので,パネルディスカッションは省略されたが,視聴者からのZoomによる質問などもあって,興味深く聞いた。

渡辺正峰さんの中公新書2460「脳の意識 機械の意識 脳神経科学の挑戦」は購入して読んでいたが,おおよそそれに沿った話をされた。従来読み込めていなかった部分が整理されてありがたかった。情報側からの客観的アプローチでなく,脳神経科学側からの主観的アプローチでループを切断して意識を科学として扱うという方法論は面白かった。

そこでも,因果というキーワードがでてきたのだが,因果と相関の関係については,決定論的世界観でも確率論的世界観でも十分に自分で納得する理解ができていない。しかし,因果は日常的にはなんの問題もなく理解されている。世阿弥のいう「花」は「情報」のことではないかと昨日思いついた。そうすると「因果の花」はいったい何を意味することになるだろう。

風姿花伝の第七別紙口伝の第七段から因果の花について引用する。

一 因果の花を知ること 極めなるべし 一切みな因果なり 初心よりの芸能の数々は因なり 能を究め名を得ることは果なり しかれば稽古するところの因おろそかなれば果をはたすことも難し これをよくよく知るべし

 また時分をもおそるべし 去年盛りあらば今年の花なかるべきことを知るべし 時の間にも男時・女時とてあるべし いかにするとも能によき時あればかならず悪きことまたあるべし これ力なき因果なり 

 これを心得てさのみ大事になからん時の申楽には立会勝負にそれほど我意執を起こさず骨をも折らず勝負に負くるとも心にかけず手をたばいてすくなすくなと能をすれば見物衆もこれはいか様なるぞと思ひさめたるところに大事の申楽の日てだてを変へて得手の能をして精励をいだせばこれまら見る人の思ひのほかなる心いでくれば肝要の立会大事の勝負にさだめて勝つことあり これめづらしき大用なり このほど悪かりつる因果にまた善きなり

2021年2月27日土曜日

秘すれば花

風姿花伝からの続き

「秘すれば花なり」は,風姿花伝の第七別紙口伝の六段目にある(全十段)。以下引用。

一 秘する花を知ること 秘すれば花なり 秘せずば花なるべからずとなり この分目を知ること肝要の花なり 抑一切の事諸道芸においてその家々に秘事と申すは秘するによりて大用あるが故なり 然れば秘事といふことをあらはせばさせることにてもなきものなり これを させる事にてもなし といふ人はいまだ秘事といふことの大用知らぬが故なり

 先づこの花の口伝におきてもただ めづらしき花ぞ と皆人知るならば さてはめづらしき事あるべし と思ひまうけたらん見物衆の前にてはたとひめづらしき事をするとも見手の心にめづらしき感はあるべからず 見る人の為花ぞとも知らでこそ仕手の花にはなるべけれ されば見る人はただ 思ひの外におもしろき上手 とばかり見て これは花ぞ とも知らぬが仕手の花なり さるほどに人の心に思ひもよらぬ感をもよほす手立これ花なり

 たとへば弓矢の道の手立にも名将の案謀にて思ひの外なる手立に強敵にも勝つことあり これ負くるかたの目にはめづらしき理にばかされて破らるるにてはあらずや これ一切の諸道芸において勝負に勝つ理なり かやうの手立もこと落居して かかる謀事よ と知りぬればその後はたやすけれどもいまだ知らざりつる故に敗くるなり さるほどに秘事とて一つをばわが家に残すなり ここをもて知るべし たとへあらはさずとも かかる秘事を知れる人よ とも人には知られまじきなり 人に心を知られぬれば敵人油断せずして用心をもてば却て敵に心をつくる相なり 敵方用心をせぬときはこなたの勝つことなほたやすかるべし 人に油断をさせて勝つことを得るはめづらしき理の大用なるにてはあらずや さるほどにわが家の秘事とて人に知らせぬをもて生涯の主になる花とす 秘すれば花 秘せねば花なるべからず

問題は,その「花」は何を意味するのかということなのだけれど,これについては,この別紙口伝の第一段にある。
一 この口伝に花を知ること まづ仮令花の咲くを見て万に花とたとへ始めしことわりをわきまふべし そもそも花といふに万木千草において四季をりふしに咲くものなればその時を得て珍しきゆゑにもてあそぶなり 申楽も人の心にめづらしきと知るところすなはちおもしろき心なり 花とおもしろきとめづらしきとこれ三つは同じ心なり いづれの花か散らで残るべき 散るゆゑによりて咲くころあればめづらしきなり 能も住するところなきをまづ花と知るべし 住せずして余の風体に移ればめづらしきなり
世阿弥は,四季に咲く花がどのように認識されているかを分析した結果,「その時を得て珍しきゆゑにもて遊ぶなり」という本質を掴みだしている。そして,申楽が人の心にめづらしきと知るところすなはちおもしろき心を誘起することから,花=おもしろき=めづらしきの三位一体説が導かれる。

(注)前回の参考資料の「日本古典文学摘集 風姿花伝」には欠落があった。肝腎の「花とおもしろきとめづらしきとこれ三つは同じ心なり」が抜けていた。国立国会図書館のデジタルデータベースの花伝書はどれもまだ非公開状態だし,この国にはまともな古典のデジタル・アーカイブがないのかしら。

2021年2月26日金曜日

六十六(2)

 令制国の六十六カ国に関連するものとして,六十六部(六部)がある。よりていねいにいえば,六十六部廻国聖。人々の喜捨を受けながら六十六令制国を廻り,各地の有力社寺(一之宮,国分寺,その他)に写経した法華経を奉納する民間宗教者だ。中世からはじまり,明治政府が1871年(明治4年)に平民が六十六部と称して米銭などの施しを乞う行為を一切禁止するまで続いた。現在の御朱印の起源とも考えられているのか。

娘夫婦が以前住んでいた千葉県流山市には六部廻国の記念石塔である六部尊があった。

[1]近世六十六部廻国聖日記 ―安房国長狭郡平塚村高梨吉左衛門の記録から ―

[2]六十六部廻国とその巡礼地(小嶋博巳)

[3]「六十六部」とは何か(徳島県立博物館)

[4]御朱印の起源 ―六十六部(古今御朱印研究室)

[5]日本廻国六十六部と四国遍路 ―浄慶の納経帳から ―(稲田道彦)

[6]近世末期、御室配下の六十六部集団について (小嶋博巳)

[7]明治初年の六十六部の本山問題(小嶋博巳)

2021年2月25日木曜日

六十六(1)

風姿花伝の序には,「聖徳太子秦河勝に仰せて且は天下安全の為且は諸人快楽の為六十六番の遊宴をなして 申楽 と号せしより」 と申楽の由来が書かれており,第四神祇の節にはより詳しく記されている。それで,面霊気という妖怪も登場するくらいだ。

その六十六番という数はどこからきたのか。祇園祭の起源における鉾の数と紐付いていた令制国の数なのかと考えたくなる。しかし,聖徳太子(厩戸王)の皇太子在位は593-622年であり,令制国の確定は,大化の改新(乙巳の変)645年から大宝律令701年の間らしいので関係はないように思える。

令制国一覧によれば,壱岐と対馬を嶋として除くと以下のように六十六カ国になる。(大国; 上国; 中国; 小国の順),(畿内近国中国遠国の色分け)

畿内(5):大和・河内; 山城・摂津; *; 和泉。

東海道(15):伊勢武蔵・上総・下総・常陸; 尾張・三河遠江・駿河・甲斐相模; 安房; 志摩・伊賀伊豆

東山道(8):近江上野・陸奥; 美濃信濃下野・出羽; *; 飛騨

北陸道(7):越前; 加賀・越中越後; 若狭能登佐渡; *。

山陰道(8):*; 丹波・但馬・因幡伯耆・出雲; 丹後石見; 隠岐

山陽道(8):播磨; 美作・備前; 備中・備後安芸・周防長門; *。

南海道(6):*; 紀伊阿波・讃岐伊予; 土佐; 淡路

西海道(11): 肥後; 筑前・筑後・豊前・豊後・肥前; 日向・大隅・薩摩; (壱岐・対馬)

2021年2月24日水曜日

風姿花伝

近鉄橿原線結崎駅まで数駅の地から

 風姿花伝 世阿弥

 夫れ申楽延年の事態その源を尋ぬるに或は仏在所よりおこり或は神代より伝はるといへども時移り代へだたりぬればその風を学ぶ力及びがたし 近頃万人のもてあそぶところは推古天皇の御宇に聖徳太子秦河勝に仰せて且は天下安全の為且は諸人快楽の為六十六番の遊宴をなして 申楽 と号せしより以来代々の人風月の景を仮りてこのあそびの中だちとせり その後かの河勝の遠孫この芸を相続ぎて春日日吉の神職たり 仍て和州江州の輩両社の神事に従うこと今に盛なり

 されば古きを学び新を賞する中にも全く風流をよこしまにすることなかれ ただ言葉賤しからずして姿幽玄ならんを 承けたる達人 とは申すべきか 先づこの道にいたらんと思はん者は非道を行ずべからず 但し歌道は風月延年のかざりなれば尤もこれを用ふべし 凡そ若年より以来見聞き及ぶところの稽古の条々大概注し置くところなり

 一 好色 博奕 大酒 三の重戎これ古人の掟なり。

 一 稽古は強かれ 靜識はなかれ

 となり

[1]日本古典文学摘集 風姿花伝

[2]文系の雑学・豆知識 風姿花伝

2021年2月23日火曜日

流体抵抗力(3)

 流体抵抗力(2)からの続き

次に,速度の1次と2次に比例する流体抵抗力が働く時の球体(半径 $a$,質量 $m$)の鉛直方向の運動を解析的に解いてみる。運動方程式は次の形を仮定する。

\begin{equation*} m \dfrac{ d^2 x }{ d t^2} = - m g - m \gamma \dfrac{ d x }{ d t } \mp m \beta \, ( \dfrac{ d x }{ d t } )^2 \end{equation*}

鉛直上方を正とした$x$軸をとると,速度の2次の項の複号は負が上昇に,正が下降に対応する。両辺を$m$でわって,$ v = \dfrac{ d x }{ d t }$ とおくと次式を得る。

\begin{equation*} \dfrac{ d v }{ d t} = - g - \gamma v  \mp  \beta \, v^2 \end{equation*}

以下では自由落下の場合を考える。このときの終端速度は,$v_T =  ( \gamma - \sqrt{\gamma^2 + 4 \beta g} ) / 2 \beta  $ となり,$v_T \lt v \le 0$ が満たされる。ここで,$ u = v - \gamma / 2 \beta $ とおいて,微分方程式を変形すると,

\begin{equation*} \dfrac{ d u }{ d t} = \beta u ^2 - \dfrac{\gamma^2 + 4 \beta g}{4 \beta} = \beta (u - \alpha )^2  \end{equation*}

ただし,$ \alpha = \dfrac{\sqrt{\gamma^2 + 4 \beta g} }{2 \beta} $ としており,自由落下時には,$ - \alpha \lt u \le -\gamma / 2\beta $ が満たされる。したがって,両辺を時間で積分すると,

\begin{equation*} \int \dfrac{ d u }{ (\alpha - u) (u + \alpha)} = - \int \beta dt  \end{equation*}

\begin{equation*} \log \dfrac{  u + \alpha }{ \alpha - u } = - \beta t + C  \end{equation*}

\begin{equation*}  \dfrac{  u + \alpha }{ \alpha - u } = A e^{- \beta t} \end{equation*}

\begin{equation*} u = \alpha \dfrac{A e^{- \beta t} - 1 }{A e^{- \beta t} + 1} \end{equation*}

\begin{equation*} v = \dfrac{\gamma}{2\beta} + \alpha \dfrac{A e^{- \beta t} - 1 }{A e^{- \beta t} + 1} \end{equation*}

初期条件として,$ t=0 $ で $ v=0 $とすれば,$A=\dfrac{2 \alpha \beta - \gamma}{2 \alpha \beta + \gamma}$ である。

なお,空気中のピンポン玉では,$\gamma = 6 \pi \eta a / m = 2.51 \times 10^{-3} \, /{\rm s} $,$\beta = \frac{1}{2}  C_{\rm D} \rho \,\pi a^2 / m = 1.23 \times 10^{-1} / {\rm m}$,$\alpha = \dfrac{\sqrt{\gamma^2+4 \beta g }}{2 \beta} = 8.93 \, {\rm m / s}$,$\dfrac{\gamma}{2 \beta} = 1.02 \times 10^{-2} \, {\rm m / s}$ などとなる。


図 鉛直投げ上げの頂点付近での加速度変化(横軸は球体の速度)



2021年2月22日月曜日

流体抵抗力(2)

 流体抵抗力(1)からの続き

藤原邦男先生の「物理学序論としての力学」の§3.4 流体中を落下する球状物体では,空気中で1cmの球体が受ける流体抵抗力は慣性力が主役を演じるとある。また,その慣性力として, $ f_{\rm I}   = \dfrac{1}{4} \rho \, \pi a^2 \, v^2 $ の形が与えられている。一方,Whiteの$C_{\rm D}$ を用いれば,流体抵抗力は $ F(v) = \dfrac{1}{2} \Bigl( \dfrac{24}{Re} + \dfrac{6}{1 + \sqrt{Re}} + 0.4 \Bigr) \rho \, \pi a^2 \,v^2 $ となる。そこで,この両者を球体の速度の関数として比較してみた。以下の図で青が$f_{\rm I}$,オレンジが $F(v)$である。



図1 $C_{\rm D}$の速度依存性(2 < $ v $ < 10)


図2 $C_{\rm D}$の速度依存性(0.1 < $ v $ < 2)


図3 $C_{\rm D}$の速度依存性(0 < $ v $ < 0.1)

このグラフを描くにあたって採用した値は次のとおりである。空気の密度 $\rho = 1.2\, {\rm kg / m}^3$,空気の粘性係数 $\eta = 1.8 \times 10^{-5}\, {\rm kg / m \cdot s } $,球の半径 $ a = 2 \times 10^{-2}\, {\rm m}$,級の断面積は $ \pi a^2 = 1.26 \, \times 10^{-3} {\rm m}^2 $,球の質量は使わないが,$m = 2.7 \times 10^{-3} {\rm kg} $,したがって,レイノルズ数は $ Re = \dfrac{\rho 2a v}{\eta} = 2.67 \times 10^3 v $。


2021年2月21日日曜日

流体抵抗力(1)

 空気中を運動する球状の物体に働く抵抗力を考える。球体の速度 $v$ における流体抵抗力を $ F(v) = \dfrac{1}{2} C_{\rm D} \, \rho A v^2 $ とする。ただし, 空気の密度を$\rho$,球の断面積を$A=\pi R^2$,抵抗係数を $C_{\rm D} $とおいた。

この抵抗係数 $C_{\rm D} $は レイノルズ数 $Re$の関数としていくつかの式で表される。一つは,F. M. White の Viscous Fluid Flow の (3-225) 式で,球体の流体抵抗力がレイノルズ数の関数として次式で与えられている。

\begin{equation*} C_{\rm D}  \approx \dfrac{24}{Re} +  \dfrac{6}{1+\sqrt{Re}} + 0.4 \quad \quad 0 \le Re \le 2 \times 10^5 \end{equation*}

もう一つは,エアロゾルペディアの流体抵抗力のページにあるものだ。

\begin{equation*} C_{\rm D}  = \dfrac{24}{Re} \hspace{6cm} 0 \le Re \lt 0.1 \end{equation*} \begin{equation*} C_{\rm D}  = \dfrac{24}{Re} \Big( 1 + \dfrac{3}{16}Re + \dfrac{9}{160} Re^2 \log(2 Re) \Big) \quad \quad 0.1 \lt Re \lt 2 \end{equation*} \begin{equation*} C_{\rm D}  = \dfrac{24}{Re} \Big( 1 + 0.15 Re^{0.687} \Big) \hspace{3cm} 2 \lt Re \lt 500 \end{equation*} \begin{equation*} C_{\rm D}  = 0.44 \hspace{5cm} 500 \lt Re \lt 2\times 10^5 \end{equation*}

なお,レイノルズ数は,慣性力と粘性力の比を表す無次元量であり,流体中を運動する球体の半径を$a$とすると,$Re=\dfrac{\rho 2a v}{\eta}$ ただし,$\eta$は粘性係数である。

2021年2月20日土曜日

金沢景観五十年のあゆみ

 第7回金沢の景観を考える市民会議〜みんなで描く景観のミライ〜のオンライン中継を途中からみた。金沢工業大学の水野一郎先生(谷口吉郎・吉生記念金沢建築館館長)の基調講演『「令和」の時代へ継承し,そして創出し続ける,金沢の景観』は,昭和40年頃からはじまった景観保全についての市民の取り組みの重要性をわかりやすく説明していた。例えば,ひがし茶屋街の木虫籠(きむすこ)と呼ばれる格子がそのまま保存されていることを強調されていた。他の伝統的景観を売り物にしている地域では,高山も倉敷も白川郷もすべて通りに面したところがお土産物屋の店頭になっているが,金沢ではそうでないというところが非常に貴重であるとの指摘だった。

金沢の都心部は公園と緑と文化施設で構成されている。1970年代に,兼六園の近くに新しく建てられた「旅館さいとう」が物議を醸したことがある。周辺とは違和感のある若草色の奇抜なデザインの建物で,旅館名の大胆なひらがなも気になった記憶がある。やがて,いつの間にかこれはなくなっていた。水野さんはこの事例の具体には触れなかったが,金沢では景観を壊す建物の禁止ではなく,景観を良くする建物を推奨する方向を選んだということだ。全国的にも非常に早い時期から43年にも渡って金沢都市美文化賞によって景観を良くする建物の表彰をつづけている。

歴史的・地理的な背景を持つ文化的景観を守り育てるために,金沢市は昭和43年(1968)に,全国に先駆けて「伝統.環境保存条例」を制定している。この条例制定50周年を記念して,2018年には「金沢景観五十年のあゆみ」という記念冊子が刊行されている。

写真:金沢景観五十年のあゆみ表紙(pdf版より引用)

[1]金沢旅物語(かなざわ修学旅行ガイド)


2021年2月19日金曜日

認識論的解釈

 量子力学の認識論解釈という言葉をはじめて見たのは,東北大学の堀田昌寛さんの「量子力学と時空の物理」だった。堀田さんはこの言葉は,現代的なコペンハーゲン解釈と同じだと言っているので,何か新しいことが付け加わったわけではないはずなのだけれど,どうしても認識論的解釈というワードは自分の腑に落ちてこない。

キーワードを "量子力学" "認識論的解釈" としてグーグル検索してみると,19件しか見つからず,その大半は堀田さんと科学哲学の人々なので,これが標準的な用語として普及するには至っていないのだと思う。

英語で,"quantum mechanics" "epistemic interpretation" とすると,4,430件であり,これを "Copenhagen interpretation" にすると 180,000件となる。"Many worlds interprttation" では,132,000件だった。まだ,"epistemic interpretation" は完全な市民権を獲得していないのかもしれない。なお,この "epistemic interpretation" が堀田さんの説明のように,現代的コペンハーゲン解釈と等置できるのかどうかわよくわからない。

例えば,I. A. Helland の "An epistemic interpretation and foundation of quantum theory" (arXiv:1905.06592)の概要は,次のようなことになっている。

量子力学の解釈問題は,アインシュタインとボーアの論争が始まってこのかたずっと議論されてきた。この論文では,統計的推論の理論のアイディアを使う量子論の新しい基礎の提案について述べている。このアプローチは直感的な基盤を持つといえる。すなわち,物理系の量子状態は,ある条件のもとで,次のものと1対1対応する。自然に対する具体的な質問及びこの質問にはっきりした答えを与えること。この基礎は観測者に依存する認識論的な解釈を意味するが,すべての観測者がある変数の観測結果について一致すれば客観的な世界が回復される。この論文は,認識論的過程についての著者の本の一部のサーベイを含み,同時に,その本の議論の一部の議論をより厳密化している。量子力学の解釈問題をさらに発展させるには,関心のある物理学者の協力が必要だ。


2021年2月18日木曜日

大江賢次

 鐵腕 天野皎(あきら)からの続き

大江賢次(1905.9.20-1987.2.1)は,鳥取県出身の小説家。自分と誕生日が同じで,ちょうど48歳年長だ。大江は「絶唱」の著者であり,妻のおおえひで(1912-1996)も児童文学作家だ。

なぜ,ここに辿り着いたかと云うと,ご子息の大江希望さんの「き坊のノート」がきっかけだ。そこには非常に興味深い研究ノートが22編公開されている。その中の「大臺原紀行」の作者である天野皎について が,先日の教育掛図の鐵腕 天野皎(あきら)を調べる中で見つかった。

それで,「きー坊」とは誰かを手繰っていくと,絶唱の大江賢次につながった。絶唱は映画では見ておらず,テレビの連載ドラマを見たような微かな記憶があった。が,そのイメージが舟木一夫と和泉雅子になっているので,人間の記憶はまったくあてにならないのだった。そういえば,このころに山本耕一と小林千登勢がでてくるTVメロドラマもあったような気がしたが,残念ながらこれも擬記憶のようだ。

2021年2月17日水曜日

ワクチン接種の謎

 今日から,日本でのCOVID-19のワクチン接種が始まった。米国のファイザー社とドイツのバイオンテックによるもので,医療従事者約4万人を対象とした先行接種だ。

さて,NHKの2月15日のニュースによれば,「アメリカの製薬大手・ファイザーが開発した新型コロナウイルスのワクチンについて,1つの容器(vial)で想定していた6回の接種が、用意した注射器では5回しか接種できないことが明らかになり,大阪の大手医療機器メーカーでは、6回の接種ができる特殊な注射器の増産に向けて体制の整備を急いでいます。」とのことだ。

ところで,ファイザー・バイオンテックのワクチンの容器(vial)の写真をインターネット上で確認することができる。そして,その容器には次のラベルが表示されている。


写真:ファイザー・バイオンテックのCOVID-19ワクチン容器(Wikimediaより)

Pfizer-BioNTech COVID-19
After dilution, vial contains 5 doeses at 0.3 ml.
For intramuscular use. Contains no preservative.
For use under Emergency Use Authrization.
DILUTE BEFORE USE.
Discard 6 hours after dilution
when stored at 2 to 25C(25 to 77F)
Dulution date and time:

「1つの容器で希釈後に 0.3mL × 5 回分の接種量が含まれている」とある。6回とは書いていない。たぶん通常型の注射器を前提として,接種可能な最低限の分量を書いているのだろう。NHK の報道とは異なり6回は想定されていない

今から2ヶ月前,2020年の12月16日頃から,この話の雲行きが怪しくなってきた。POLITICOの記事 "FDA says Pfizer vaccine vials hold extra doses, expanding supply" には次のようにある。

米国の薬剤師たちが,ファイザーが指示する5回/容器より最大40%多くの接種量(6-7回/容器)が確保できるのではないかと指摘したのだ。これは,ワクチンの不足がいわれている中では非常に大きな問題となる。一方で,ファイザーのラベルの指示は5回だったから,余分を捨てることに違和感があったのだろう(なお,米国では薬剤師がライセンスをとってワクチン接種をすることができるようだ)。

FDA(アメリカ食品薬品局)Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccineに関する資料によれば,-80℃--60℃で輸送保管されたワクチンが冷蔵庫で解凍されると,1つの容器には0.45mLのワクチンが封入されていることになる。これに0.9%の生理食塩水1.8mLを注入して希釈したものから,一人あたり0.3mLの接種を行う。1容器の中身を完全にこれを使うことができれば,7回分は確保できる。しかし,日本の従来型の注射器の構造だと5回分は最低限確保できるいうことだ。ファイザーも当初は従来型の注射器を前提とした上である程度のゆとりを持って作っていたはずだ。

その後,FDAは,5回を越える余剰分の接種は可能であるという声明を出し,いつのまにか,6回接種できるのがデフォルトであるということになってしまった。現在の,CDCの資料FDAの資料では6回と書いてあるのだ(ラベル情報は置き換えよとのこと)。そして日本は,この2ヶ月間に十分な対応ができずに現在に至っているようにみえてしまう(実際はどうかわからない)。そしてマスコミは,基本的な経緯を自力で調査せずに,上っ面の情報を右から左に流しているだけだった。それにしてもなかなか大変面倒な手順であり,現場関係者の努力には頭が下がる。

2021年2月16日火曜日

四半期GDP

 NHKの2月15日のニュースで,2020年度10-12月期のGDP成長率の速報値が報道されていた。前の四半期2020年度7-9月期と比べて,実質年率12.7%の成長ということだった。なんじゃこれ。コロナショックからの立ち直り過程なのでGDPは増えるのが当たり前だから,比較すべきは前四半期ではなくて,前年の同四半期であるべきではないか。あいかわらずNHKの報道はひどい。

と思っていたのだが,ひどいのはNHKだけではなくて,この情報源である内閣府経済社会総合研究所 国民経済計算部の2020 年 10-12 月期GDP速報(1 次速報値) ~ ポイント解説 ~でした。NHKはそれを右から左に垂れ流しているだけ。もっともWeb版では少しアレンジされているので,GDPが伸びているという印象は若干弱めてある。

そもそもGDPには季節要因の周期性もあるはずだ。データは公開されているので自分で確認してみるため,統計表一覧(2020年10-12月期 1次速報値)の実質原系列(CSV形式34kB)のデータを可視化した。


図1 四半期実質GDPの推移(✕10億円)


図2 四半期実質GDPの前年比増減率の推移

リーマンショックの2009-2010年,コロナショックの2020年を除いた時期の前四半期比増減率を平均すると,1-3月期(-2.93%),4-6月期(-2.21%),7-9月期(2.44%),10-12月期(3.62%)というはっきりとした年周期構造がみられた。少なくともこの部分を差し引いて判断する必要がある。

まあ,こんな細かな話はどうでも良くて,中国を含む先進諸国で日本だけがGDPを伸ばしていないことのほうが問題なのかも。

2021年2月15日月曜日

Lost in Math

 サビーネ・ホッセンフェルダー(1976-)の Lost in Math(2018) が,みすず書房から「数学に魅せられて,科学を見失う − 物理学と「美しさ」の罠 − (吉田三知世)」として4月に出版される予定だ。

ホッセンフェルダーは自分のユーチューブチャンネルを持っていて,これが非常にわかりやすい。それはまた今度にしておく。Lost in Math の内容がわからないまま,その目次だけを自己流意訳してイメージを掴んでみた。

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数学に惑わされた物理学

−美は如何にして理論物理を混迷させたか−

Sabine Hossenfelder (Lost in Math: How Beauty Leads Physics Astray, Basic Books, 2018)

序文

第1章 物理学の隠れたルール

私自身が物理学を理解していないことに気付いてから,友人や同僚に相談したところ,混乱しているのは自分だけではないとわかった。その理由を探してみる。

第2章 この素晴らしき世界

過去の物理学者の本をたくさん読んだところ,誰もが美しい理論に魅せられていた。しかし,それらの理論の美しさは時に悪い方向に働くことがある。ある会議で私は,物理学者が科学的方法を捨てようとしているのではないかと心配し始めた。

第3章 同業物理屋の状態

私の受けた10年間の教育を20ページにまとめ、素粒子物理学の栄光の日々を語る。

第4章 ひび割れる物理学の土台

私は,N. Arkani-Hamedに会った。そして,自然はナチュラルでなく,我々の学んだことや自分の考えてきたことはすべてクソであることを受け入れた。

第5章 理想の理論たち

科学の終点を探したが,理論物理学者の想像力は無限大であることを知る。私はオースティンに飛び,S. Weinbergに話をさせて,単に退屈を避けるためだけにどれだけのことをしているのかを悟る。

第6章 量子力学の不可解な理解力

数学と魔法の違いを考えてみた。

第7章 全てを説明する1つの式

自然の法則が美しくないとしても探究を続けている人を求める旅に出た。アリゾナではF. Wilczekが,彼のある小さな理論を教えてくれた。 それからマウイに飛び,G. Lisiの話を聞いた。そして,いくつかの醜い事実(物理学者を含む)を学んだ。

第8章 空間,最後のフロンティア

あるストリング理論家を理解することにほぼ成功した。

第9章 宇宙に存在するもの

我々が発明した新粒子は未だにほとんど発見されていない。その理由(いいわけ)を説明するための様々な方法に感心させられる。

第10章 知識は力なり

みんなが私の話を聞いてくれれば,世界はもっと良い場所になる。

謝辞

参考文献

付録A: 標準模型の粒子

付録B: ナチュラルネスの困難

付録C: あなたが助力できること

注意事項

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写真:LOST IN MATHの書影(amazonから引用)


2021年2月14日日曜日

登録チャンネル(1)

現時点で自分が登録しているユーチューブのチャンネルは約70あるが,その中で比較的よくみているものを再生回数順に並べると以下のようになる。

1. カズチャンネル     ( 8.8億回, 186万人, 2391本, 36.8万回/本
2. 瀬戸弘司        ( 8.8億回, 166万人, 2021本, 43.5万回/本
3. 吉田製作所       ( 2.5億回, 73万人, 369本, 67.8万回/本)
4. megumi sakaue     ( 1.4億回, 21万人,4142本,     3.4万回/本
5. コジコジのオタク文化情報局 (0.74億回, 25万人, 1015本,7.3万回/本)
6. 一月万冊        (0.52億回, 11万人, 4011本, 1.3万回/本)
7. ワタナベカズマサ    (0.43億回, 15万人, 986本, 4.4万回/本)
8. 散財小説ドリキン    (0.31億回, 8.5万人, 1791本, 2.3万回/本)
9. 岡ちゃんnel      (0.14億回, 4.9万人,  326本,   4.3万回/本
10. イチケン      (0.12億回, 14万人,    51本,    23.万回/本

非常に教育的な技術系のイチケンの一本あたり再生回数が意外に多いのが不思議。上位の平均10万回以上再生されているものは,ネタ系に近いフレーバーを持ったもの。1月万冊は一日あたりの公開本数が多すぎることで平均値を下げているのかもしれない。

2021年2月13日土曜日

ラジオの身体

 YouTubeで瀬戸弘司が「ラジオの身体」というワードで語っていた。瀬戸弘司のYouTubeは装飾過多なのでやや苦手だったのだけれど,ドリキンとの対談を見てから若干印象が変わった。瀬戸弘司は福井市出身で,藤島高校を出て東工大に進んだ劇団員だ。ユーチューバとしても2010年から活動している。ちなみに,同じ頃から活動しているユーチューバーのかずさん(カズチャンネル)も福井市在住で散財三兄弟の一角を構成している。

瀬戸弘司が,最近のYouTubeのトレンド変化を特徴づけるキーワードとして使ったのが「ラジオの身体」である。彼が舞台出身であって「舞台の身体」を持っていることに対する比較とした表現だ。ラジオの身体性は,ポッドキャストが2005年に登場してしばらく後,2010年前後に話題になりはじめ,日本のメディア研究者でいえば飯田豊や水越伸なども取り上げている。もちろん,瀬戸の着想はこれらとはまったく独立なものだと思う。

これとは別に,今年になってClubhouseが音のSNSとして流行をはじめた。Clubhouseについては様々な捉え方があるが,その中には音声メディアとしてラジオと比較したものもでてきている。インターネット空間にジャックインしながら生活するという状況を考えたときに,視覚と聴覚がどのようにその時間を専有されつつ,現実世界と切り結んでいくかというのは今後の議論の重要な鍵となるかもしれない。まあ,いきなりgoogle glassというわけには行かなかったわけだけれど。

2021年2月12日金曜日

ライブ・アンダー・ザ・スカイ

 チック・コリアが 79 歳でなくなったというニュースが飛び込んできた。MacBook Proに入っている リターン・トゥ・フォーエヴァーを聴いて追悼している。ライト・アズ・ア・フェザーもある。

1979年の7月25日(水)に大阪の万博記念公園特設屋外会場(エキスポランド側だった)で開催された,ライブ・アンダー・ザ・スカイには,チック・コリアも参加していた。調べたが,東京公演(雨の田園コロシアム)の話はみつかるが,大阪公演の情報はインターネット上にほとんどない。どういうこと。1979年はドクター2年のときで,吹田キャンパスの阪大核物理センターの大型計算機でひと仕事済ませた後の夕方,大切なチケットを手に,一人で歩いて会場に向かった記憶がある。

V. S. O. P. クインテット(ハービー・ハンコック,フレディ・ハバード,ウェイン・ショーター,ロン・カーター,トニー・ウィリアムス)と,ハービー・ハンコック=チック・コリアのデュオだったはずだ。チック・コリアのピアノも良かったが,その日一番凄かったのは,夕暮れの夏空に吸い込まれていくフレディ・ハバードのトランペットの音だった。

終演後のアンコール時の舞台でチック・コリアが踊っていたのも印象的だった。バスで千里中央・蛍池経由で帰宅した。


2021年2月11日木曜日

工業小学

 天野皎が教職を辞してまもなくの1882年に著した小学校向け教科書の一つに「工業小学(東京 晩翠書楼開板 明15.7)」がある。工業は正式には小学校の教科になっていないので,あくまでも一つの試みだと思う。国立国会図書館のライブラリでデジタル化版が公開されていのは巻一だけであり,巻二と巻三はあちこち探したけれど見つからない。

なにが書いてあるのか知りたかったので,目次と緒言と第一篇工業の総論,第二編原動力を写経してみた。漢字を簡約してカタカナをひらがなに変換しただけだが,読めない字があったので正確ではないかもしれない。それでも明治初期の小学生はこれが読めると想定されていたわけだ。この時期の教科書には句読点がないのが普通なのか。

19世紀末の日本の工業とは,蒸気力・水力などを原動力とした繊維産業と手工業(工業以前かもしれない)だけだった。いまではほとんどが伝統工芸として扱われる分野だ。自分は,1958年の小学校学習指導要領の理科に基づいた教科書で育った世代だが,これも当時の昭和中期の工業(産業)を背景としたかなり具体的な教材から成り立っていたのでどことなく親近感を覚える「工業小学」だった。

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天野皎 著  工業小学  東京 晩翠書楼開板 明15.7
工業小学目次
巻一
 第一編 工業の総論
 第二編 原動力
 第三編 工業制作及び製糸 (繭 糸 等)
 第四編 絹布 (絹 羅 錦 綺 綾 紬 甲斐絹 精好 金襴 緞子 繻子 綸子 縮緬 天鵞絨 □珀 等)
 第五編 綿糸,綿布 (雲齋 飛白 帆木綿 紋羽 唐桟 双子織 花布 寒冷紗 等)
 第六編 麻,麻布 (麻糸 幣 苧 布 飛白 亜麻布 芭蕉布 葛布 等)
 第七編 毛布 (羅紗 アルバカ フラネル 莫大小 等)
 第八編 染料,顔料,漂白剤 (青 黃 赤 紅 緑 紫 格羅爾 加爾基 等)
巻二
 第九編 製紙 (和紙 奉書 美濃紙 洋紙)
 第十編 漆器 (仮漆 ペンキ 等)
 第十一編 蒔絵
 第十二編 陶器 (七宝器 各国陶器 等)
 第十三編 玻瓈 (各色玻瓈 玻瓈器 等)
巻三
 第十四編 玉工 (硯 目鏡 玉 瑪瑙 水晶 珊瑚 金剛石 宝石 等)
 第十五編 彫工 (木偶 石像 玉石 玻瓈 木竹 金 銀 銅 骨 牙)
 第十六編 印刷 (木版 銅版 活版 鉛版 製本 等)
 第十七編 鉄工 (刃物 農具 家具 等)
 第十八編 金銀銅工 (飾屋 時計師 等)
 第十九編 建築 (家屋 橋梁 畳 建具 等)
 第二十編 家具 (桶 膳 椀 等)
 第廿一編 各種製造 (曹達 硫酸 塩 鍍金銀 鉛筆 墨汁 等)

緒言

一 本邦未だ工業書の小学に適当するものあるを見ず然れども工事たる甚浩大なるものにして且難事なれば児童の容易く之を了解すべきものにもあらず故に本書は勉めて其大要を挙ぐ決して高尚の域に渉るに非ず

一 児童の心性各種の作用其身体発育の時機に従ひ強弱一ならず故に本科の如きは其発育の能く此の難事に堪ふるに及びて之を授くべし彼米国の読本の如きも稍く高尚なる各学科を畢へて後之を教ふるの趣向なり児童の薄弱なる知力に難事を授るは猶駑馬に重荷を負はしむるに同じく却て発育を妨害するものなれば教師の尤も恐るべき処なり

一 此書は毎週一二時間位の科程にて三個年に畢るべき見込を以て編集セリ故に一巻を一年に畢へ三巻にして全備せり因て第一年より順次に児童の知力の度に従ひ強弱を量り其難易を斟酌せり是小学科程書を編する一大要訣なればなり

明治十五年三月 編 者 識

工業小学巻之一   天野皎 著

第一編 工業の総論

工業とは広き事にして今日人間の生活する所にて之を言はば衣食住とも皆工業を経ざるものなし衣は始めに糸に続き次に織り或は染め畢りに裁ち縫ひて始めて人の用となる此の用となるまでは幾許の手を経るや細かに之を数えなば指も屈するに遑まあらさるべし食といへども其食ふべきものは工を経ざるも其膳椀鍋釜箸茶碗包刀俎等に至るまで皆工業にあらざるなし又住居は言ふまでもなく悉く工業に非ざるなし

是を以て工業の事たる種々にして一々に之を習ふ能はざれども人として其大要を知らざる可らず工業の巧拙は其国の強弱貧富に拘はるものにして工業の盛大なる国に非ざれば商業も農業も進まず農商共に進まざれは何によりて富を致さんや国富まざれは何によりて海陸の軍備を盛大にするを得んや軍備盛大ならされは外国の侮を受け其人物は欺かはしき恥辱を承り遂には一国の滅亡に及ぶべし工業の関係大なりと云ふべし

工業は斯くまで一国の興敗存すにも係はる程のものなれば容易き事業にはあらじ故に之を習ふにも種々の術を知らざれば成る能はざるなり先第一に数学幾何化学理学画法を学ばざれば何れの工業も学ぶ能はず例へば大工の雨樋を作るに其屋根の面積を積もり其雨の量を測りて大小を定めざれば狭き屋根に大なる樋は空しき費にて広き屋根にて樋の小なる時は溢るるの患あり之を知るは数学なり又堅木細工師の種々の形ちの盆などを造るとき或は五角六角に木を截るは幾何の術に因らざれば精密ならず染工の善き色を染めんと欲するは化学なり種々の雛形を模し或は建築図等を書くは画学なり理学は何れにも広く渉るべき学科なり

工業は何事に因らず人力を省きて其品質を精良にするを第一とす故に此の力を省くに付き種々の工夫あり之を原動といふ原動とは一つの動力を生ずる所にして之を四方に移して人力を省く其種類三ツあり蒸気力水力風力是なり然れども極めて精良なる物に至りては悉く人力にあらざるなし今此の三原動より説き示すべし

第二編 原動力

原動力とは器械を運転するの本にて即ち蒸気水風は之を起すの本なり此の内広く行はるるは蒸気にして之に次くものは水なり風は其力弱けれは十分なる器械等を用うるを得ず水は何処にもあるものならず能く其水利を得ざれば之を使用する能はず若し其水利を得る時は費用少なきを以て甚利益あり蒸気は水風と異にして何処にても其気罐を装置するを得れは其費用の多きも勢ひ之を用うるもの多し又近来石炭瓦斯を以て蒸気に代ふるの発明あり

蒸気の理は甚解し難きものなれは理学器械学等にて能く研究すべし其理たるは水を沸騰して華氏の験温器の二百十二度に昇るときは変して蒸気となる此の蒸気は反発と膨張の性あるものなれは之を凝縮して其反発膨張する時に其力を追々に器械の緒部に伝ふるに過ぎず然れども其器械は大小種々あり又簡易なるものあり極めて繁雑なるものあり

水を以て器械を運転するは古へよりの発明なれとも近来は愈其器械等も精巧になりて紡績織物其外材木を截る等に用う是を水車といふ水車は車の上より水を注き掛くると車の中程に注き掛くると車の下を水の流過するとによりて其力に強弱あり又近来の発明なる渦旋水車といへるは車を平面に置き其車の外面を覆ひ其中に上ヨリ水を注き容るれは車輪に触れて之を運転する仕掛にて其力甚強し近来は追々に此の水車を用ふるものあり此水車は水源さへ高けれは水量多からすして強大の力を生すべし

風車は前にもいへる如く其力弱きを以て十分に器械を運転するの用をなさずといへども其力を多く要せざる所には之を用ゐは費用少なくして利益あるへし是を風車という右に示せる蒸気水車風車等は甚鮮し難き理あれは能く理学等にて研究すべし此の諸原動の力を量るは皆馬力と称して其力の強弱を算す

故に盛大なる器械を運転するには何れも数百馬力のものを用う若し人力にて為す時は千人二千人の職工に非ざれは為す能はざるものも蒸気又は水車等を用うれば僅か数人にて其工事を畢るべし

又人力を省くのみならす器械にて製する物は大小精粗とも一様にして其形ちに長短厚薄なく幾万を製するも差異なし且又人力にては数日を費すものも僅か一二時に成し遂くるの利あり



2021年2月10日水曜日

鐵腕 天野皎(あきら)

 牧野由里さん(美術教育)と有賀暢迪さん(科学史)が,「教育掛図《小学用博物図》の研究 ―天野皎と明治初期大阪の教育・出版文化―」という論文を出していて,有賀さんがTwitterで紹介していた。

天野皎(あきら)(1851-1897)[1]は,博物学を専攻した東京師範学校の一期生として1873年に卒業した。その後,官立の大阪師範学校(1873-1878)の教師となっている。やがて奈良五條師範や兵庫神戸師範の校長を経て,1878年には教育職を辞している。以下,1880年,大阪商法会議所の書記,1881年,大阪府御用掛・大阪測候所長,1885年,府立大阪博物場長および教育博物館長,1891年,大阪朝日新聞社編輯部,1897年,47歳で死去となっている。

天野が著した小学校の教科書や有賀さんらが議論している教育掛図(国立科学博物館で見つかった新出資料)についてはさきほどの論文に譲るとして,大阪つながりで近隣の大学の附属図書館に収集されている資料がないか調べてみた。

1982年に雄松堂書店から復刻された,明治初期教育稀覯書集成 / 唐沢富太郎編集「下等小學教授法略解 乙」と「博物小学金石篇」の2冊が,京都大学,京都教育大学,大阪大学,大阪教育大学,奈良教育大学の各附属図書館に収蔵されていた。CiNiiでは,アマノ・コウとかアマノ・キヨシになっているが違うんじゃないの。さらに,京都大学には,「商法會議所要覽(天野皎編 -- 鹿田靜七,1880)」,「入清日記その他 (鐵腕天野皎著;天野徳三編纂 -- 壺外書屋,1929)」の2冊があった。天野の号が「鐵腕」なのである。

一方,大阪教育大学には先の2冊の他に,「小學博物書天野皎譯 ;動物學第2,動物學第3 -- (天野皎,1877)」「師範學校掛圖童子訓 5巻 /井出猪之助, 天野皎輯 ; 巻之1 - 巻之5(文敬堂, 1875)」の2冊の教育書が所蔵されていた。後者は実際には,巻之2巻之4巻之5だけがあって,これらはデジタル資料として公開されている。

なお,国立国会図書館のNDLオンラインを調べると,こちらには17件の資料がみつかった

[1]「大臺原紀行」の作者である天野 皎あきらについてき坊のノート

【天野皎】(1851~1897)天野氏、名は皎、幼名祐太郎、別に鐵腕と号す、江戸の人、世々徳川幕府に仕ふ、幼より学を好みて業を長谷部甚弥に受け又書法を石川潭香に学ぶ、明治6年東京師範学校を卒業して大阪師範学校本科教師を命ぜらる、後ち奈良県五条師範学校校長・神戸師範学校校長等を歴任し、13年大阪商業会議所書記となる。14年大阪府御用掛となり大阪測候所長・大阪商業講習所長等を兼ね、明治18年「府立大阪博物場長」に専任せらる。是に於て専ら心を美術の奨励に致し、兼ねて薀蓄せる智職を以て「美術館」を創設す。又率先唱導して城南今宮村に「大阪商業倶楽部」の開設を企画する等大に浪華文化の発展に力を尽くせり。24年「大阪朝日新聞」に入りて編輯の事務に従い、25年臨時博覧会事務局監査官となり、26年閣龍世界博覧会事務の為に米国シカゴに赴き其博覧会の審査官に任ぜらる。27年日清戦役の起るや第ニ軍に従うて能く其任務に務む。30年遂に朝日新聞社を辞し、更に日本製鋼株式会社長となり、幾もなく病を獲て武庫郡住吉村の客舎に歿す。人と為り堅忍剛毅博学宏識、能く詩文を属し尤も書法に長ず。殊に美術に関する造詣深く斯道の為に貢献する所蓋し鮮少ならず、嗣子徳三嘗て職を大阪朝日新聞社に奉ぜり。著書:入清日記その他。歿年:明治30年10月16日47歳。(大阪人物誌続編より)

2021年2月9日火曜日

たまごかけごはん

 昨日のNHKの逆転人生で,丹波にある卵かけご飯のお店をはじめた人が紹介されていた。番組中に検索してみると,いくつかそれらしい店があった。こんなとき普通はアクセスが殺到してサーバーがダウンしてしまうところだが,そんなこともなく簡単に閲覧できてしまった。

(1) 但熊卵かけご飯(兵庫県豊岡市但東町)・・・逆転人生の西垣源生さんのお店

(2) たまごかけごはん玉の助(兵庫県篠山市今田町)・・・ウェブサイトがきれい

(3) 食堂かめっち岸田吟香(岡山県美咲町)・・・発案者の生地

そんなわけで今朝の朝食は卵かけご飯になった。


写真:玉の助ホームページより引用(2021.2.10)



2021年2月8日月曜日

角運動量代数(2)

角運動量代数(1)からの続き

Mathematicaの関数には,かなり昔からClebshGordan係数が含まれていた。さすがに素粒子物理を専攻していたウルフラムだと思った。Mathematicaには次の関数が実装されている。

ClebschGordan[{j1,m1},{j2,m2},{j,m}] |jm〉から|j1m1〉|j2m2〉への分解に対する,クレプシュ・ゴルダン係数を与える。
ThreeJSymbol[{j1,m1},{j2,m2},{j3,m3}] ウィグナーの3-jシンボルの値を与える(m1+m2+m3=0)。
SixJSymbol[{j1,j2,j3},{j4,j5,j6}] ラカーの6-jシンボルの値を与える。

Juliaではどうかというと,WingerSymbols.jlというパッケージがあり,以下の関数が使える。
wigner3j(j1,j2,j3,m1,m2,m3=-m1-m2),wigner6j(j1,j2,j3,j4,j5,j6),clebschgordan(j1,m2,j2,m2,j3,m3=m1+m2), racahV(j1,m2,j2,m2,j3,m3=-m1-m2),racahW(j1,j2,J,j3,J12,J23)

いずれにせよ9-j symbolは実装されていないのだった。一方,PythonのSymPyにあるWignerSymbolsには,Wigner 3-j,6-j,9-j,Clebsch-Gordan係数,Racah係数,Gaunt係数が含まれている。Gaunt係数という名前は知らなかったが,換算行列要素の形では頻出する係数だ。それより,JuliaのWignerFamilies.jlというパッケージで,3-j Symbolの配列が計算されてグラフ化されているのが印象的だった。 

using WignerFamilies
# wigner3j for all j fixing j2=100, j3=60, m2=70, m3=-55, m1=-m2-m3
w3j = wigner3j_f(100, 60, 70, -55)
js = collect(eachindex(w3j))
plot(js, w3j.symbols)


図 f(j) = w3j(j,100,60,-15,70,55) (JuliaPackageから引用)


2021年2月7日日曜日

角運動量代数(1)

大学院への進学が決まって,森田正人先生に最初に宿題として出されたのが,Roseの「角運動量の基礎理論(みすず書房)」 を読んでおくことだった。「Clebsh-Gordan係数の一般式を導出する必要がありますか」という質問に対する答えは,「まあできれば・・・」というようなものだったので,できなくてもよいと勝手に解釈してそこはサボることにした。

当時のベータ崩壊やミューオン捕獲の角度相関係数の計算や軽い核の原子核殻模型の計算には,Racah係数やWinger Symbols(3-j係数,6-j係数,9-j係数)が不可避であり,毎日のように戯れていた。

Fortranで自作したプログラムは,整数の階乗や二項係数を予め配列に保存しておいて,COMMON文で必要な関数で呼び出すという古典的な手法を使っていた。弱い相互作用の低エネルギー過程では,原子核反応などと違って,中間状態を含めてもあまり大きな角運動量が登場しないので,それでなんとかなっていた。

1998年のL. Weiの論文,"New formula for 9-j symbols and their direct calculation" (Computers in Physics, Vol. 12, No. 6, 632-634)では,この9-j symbolを高速に計算するアルゴリズムがあるということで読んでみた。なんのことはない,自分が1980年代に作ったコードとまったく同じ方法でしかなかった。6-j symbolの積和の表式を二項係数にまで落とし込んだだけなのだ。

2021年2月6日土曜日

インターネット白書アーカイブズ

 インターネット白書は,インプレスが1996年から発行している年鑑であり,2020年度版で25周年を迎える。

「インターネット白書」は1996年の創刊以来、日本のインターネットの成長や変化を毎年まとめてきたインターネットの書籍年鑑です。内容構成にあたっては、一般財団法人インターネット協会監修のもと専門家による寄稿と、市場動向調査により構成されてきました。現在は、一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)、株式会社日本レジストリサービス(JPRS)も加わり、3団体の協力のもと、「The Internet for Everything」というキャッチフレーズを掲げて、より広範なインターネットの可能性をレポートしています。

これまでのインターネット白書の記事のデジタルデータが,インターネット白書ARCHIVESとして公開されている。1996年のVol. 1の「インターネットと教育」という項目は,南山大学の後藤邦夫先生が執筆していた。引き続き1997年のVol. 2 から2002年のVol. 7までの間,私が執筆させていただいた。それ以後は,国際大学GLOCOMの豊福晋平さんなどが2009年頃まで担当していたと思う。

やがて,インターネット白書の中で,学校教育が話題としてとりあげられることもだんだん少なくなってきた。最近(2019年度)は,電通の人がEdTech,STEM,Society 5.0 がらみで儲け話がないかというような記事を書いていた。

2021年2月5日金曜日

PDCAサイクルに回されて(2)

 PDCAサイクルに回されて(1)からの続き

Wikipediaには「PDCA」が流行っているのは日本の特殊事情であると書いてあったので,各国政府の状況と比較してみた。前回と同様,政府関係のドメインで検索される総ページ数の内,PDCAというキーワードを含んだページ数の割合を%単位で求めたものである。

  domain URL  country  google (10^4 p)   +PDCA  ratio1(%)
 1  +site:gov      米 国     115000.0  15,700   0.001
 2  +site:gc.ca   カナダ        861.0       467   0.005
 3  +site:gob.mx  メキシコ      2840.0  15,900   0.056
 4  +site:gov.br  ブラジル     8500.0  15,300   0.018
 5  +site:gov.uk  英 国     7810.0       466   0.001
 6  +site:gouv.fr  フランス    2470.0      422   0.002
 7  +site:gov.it   イタリア       645.0   1,070   0.017
 8  +site:gob.es   スペイン     500.0       542   0.011
 9  +site:gov.ru   ロシア      654.0         83   0.001
10 +site:gov.cn  中 国     2970.0    5,730   0.019
11 +site:gov.tw  台 湾     2830.0    7,490   0.026
12 +site:go.kr    韓 国     3720.0  17,100   0.046
13 +site:gov.ph  フィリピン     921.0    6,620   0.072
14 +site:go.id    インドネシア   4850.0  67,900   0.140
15 +site:gov.in  インド      2440.0    1,180   0.005
16 +site:gov.au  オーストラリア  4790.0       934   0.002
17 +site:go.jp    日 本      4830.0 125,000    0.259

やはり,日本政府は飛び抜けて「PDCA」というキーワードの使用率が高かった。英米豪はきわめて低い。インドネシアとフィリピンを除くアジア各国でも日本よりは1桁小さくなっている。なお,ここでは,前回と同様だが,googleの使用言語を英語に設定した上で,各国の中央政府(州政府を含む)のものと思われるドメインについての検索を行なっている。

政策やプロジェクトが合理的に実施評価されていればわざわざ「PDCA」という言葉を持ち出す必要がない。そうでない場合は,「PDCA」という旗を振って合理的な政策実施を進めたくなるのだろうが,科学的・合理的・客観的な分析と反省への関心・意欲・態度が身体化されていない残念な国では,角運動量保存則で逆に自分が振り回される羽目に陥る旗を振り回そうとあがくことになるのかもしれない。

(注)主要国のうちではドイツが抜けていると思われるかもしれないが,ドイツの連邦政府と地方政府がそれぞれよくわからないドメイン名をバラバラと用いているように見えたために,まとめて投網にかけることができなかった。彼の国のインターネット名前空間はいったいどういう仕組みで構成されているのだろうか。誰か教えて下さい。

2021年2月4日木曜日

PDCAサイクルに回されて(1)

最近, PDCAサイクルでググると上位に出てくるのが,PDCAはもう古いとか,時代おくれだとかいうページである。それはそれで新しいコンサルビジネスの種なのかもしれないけれど,PDCAサイクル的なものには散々振り回され,振り回してきた苦い過去の経験があるので,いずれにせよもう勘弁してほしい。

「PDCA」という言葉がはやっているのは日本だけの特殊事情らしい。そこで,中央省庁のホームページのコンテンツ総ページ数に占める「PDCA」を含むページ数の比をgoogle検索を用いて眺めてみたところ,職員数最小の文部科学省が最悪であることがわかった。次の表を見てもらいたい。

  表 各省における「PDCA」を含むページの比率(google検索 2021.2.4)

  組織名   職員数 総ページ数(万)  +PDCA      比率(%)
 1  日本政府    275,000   5110.0    121,000   0.24
 2  内閣府       14,555       26.1       6,210   2.38
 3  総務省         4,798       70.8       5,220   0.74
 4  法務省       54,614         9.8          275   0.28
 5  外務省         6,351       28.2       2,320   0.82
 6  財務省       72,417         7.9       1,400   1.77
 7  文部科学省       2,150       39.4     12,300   3.12
 8  厚生労働省     33,103     251.0     12,300   0.49
 9  農林水産省     20,471       53.5       3,840   0.72
10  経済産業省      7,982       38.2       8,120   2.13
11  国土交通省     58,680    156.0       9,620   0.62
12  環境省         3,204      44.5       3,980   0.89
13  防衛省       20,924      19.0             274   0.14

文部科学省内閣府経済産業省は「PDCA」がお好きなようである。日本のシステムが壊れていくのが最も顕著に現れている分野を担当していることによる焦りなのだろうか。しかし「PDCA」にしがみついている限り,未来は暗そうな気がする。まあ,旗振りキーワードをIT改めDXにスイッチしても,仏作って魂入れず状態を繰り返すだけかもしれませんが。

なお,google検索は,使用言語を日本語にして,キーワードを +site:xx.go.jp とした件数と,
+site:xx.go.jp "PDCA" で表示される件数を用いている。日々の変動はかなりあるので,再現性をチェックする場合は注意したほうがよいかもしれない。日本政府とあるのはxx.を除いた+site:go.jpである。内閣だけでなく,国会や裁判所等も含まれている。

2021年2月3日水曜日

clubhouse と dabel

 セカイカメラからの続き

Clubhouseという言葉がちらちら聞こえ始めたのは1月の26,7日頃だったろうか。Hさんが1月28日のFacebookで,「話題のClubhouseで、貴重な2枠の「招待」を私に使ってくれるキトクな方がいらっしゃればぜひよろしくお願いします」といってたのをみて,はじめてClubhouseがなにものかを認識した。

Clubhouseは2020年の4月からサービスを開始しているが,アメリカでブレイクしたのは2020年の12月になってからだ。日本では2021年の1月23日にベータ版の運用が開始され,招待枠2名という希少価値が鍵になって急速に拡大しているようだ。

とりあえず,仮登録して名前空間だけは確保したものの,誰か友達を探して招待枠の提供をお願いするのは,引きこもりの自分にはハードルが高すぎて放置している。TwitterやFacebookで様子をみていると,アーリーアダプターの皆様方はどんどん参入しているようだ。

この「オーディオソーシャル」というコンセプトには既視感があると思っていたが,なんのことはない,セカイカメラ井口尊仁さんのダベルじゃないか。2019年の1月にear.lyとしてスタートしたダベルの前身のベイビー(2016)やボール(2017)などもチラチラと見ていたけれど,なかなかブレイクしなかった。そして,残念ながらダベルを差し置いてClubhouseがあっという間に広まってしまった。

音の文化というと,ラジオからポッドキャストだったが,いよいよSNSに移ってきた。テキストと時間差が鍵であるインターネットは,コミュニケーションが苦手だった自分にとってはある種の支援ツールになったが,これがリアルタイム音声コミュニケーションに回帰することによって,再び住みにくい世界に戻ってしまうのかもしれない。立食パーティは苦手なのであった。

[1]トレンドの最新SNS「clubhouse」に感じる違和感(阪本明日香,2021.1.28)
[2]『声のインターネット』がもたらすフラットな世界(井口尊仁,2020.9.16)
[3]Clubhouseだけじゃない。“音声SNS戦争”の行方はいかに?(Wired,2021.1.28)
[4]「Clubhouse」はソーシャルメディアなのだろうか?(遠藤諭,2021.2.3)


図 clubhouseで予約した名前空間の点(2021.1.31)




2021年2月2日火曜日

セカイカメラ

頓智ドット株式会社井口尊仁さんが赤松正行さんとつくったセカイカメラのプレゼンテーションは衝撃的だった。自分がはじめてiPhoneを入手したのは2008年の8月11日である。その約1か月後のTechCrunch50における井口さんの英語でのプレゼンテーションは,何のきっかけでいつ頃見たのかはっきり覚えていないが,爆笑の連続だった。

1年後の2009年9月24日にiPhoneのAppStoreで,Sekai Cameraがダウンロードできるようになったときは,やったーと思ったが・・・実際に使ってみるとそこまででもなかった。それでも,世界が情報ゴミであふれるのではないかとそのころは真剣に心配していた。

結局,当時のARやSNSの状況から,残念なことにセカイカメラは1年半ほどで潰れてしまった。いつかまたなんらかの形で復活してもらいたいものだけれど。井口さんは,その後,ウェラブルデバイスのテレパシージャンパーを作ったけどこれもうまく行かなかった。そして,2014年にはDOKI DOKI Inc. をつくって声のソーシャルを目指すことになる。

clubhouseとdabelに続く

2021年2月1日月曜日

CFR(致命率)(5)

 CFR(致命率)(4)からの続き

前回採用した致命率(CFR)の近似値。「致命率*=死亡数累計(t)/新規感染数累計(t-14)」と定義し,感染報告時に対して死亡報告時には2週間(14日)の遅延があると仮定した値を採用した。今回もこの定義を用いて,最新のデータを再分析してみる。各国の値は累計の効果で収束に向かっているが,優等生だと考えられてきたドイツが増加したのが目についた。東京は日本平均よりも小さいことにも注意したい(大阪は逆に大きい)。武漢と中国は当初の混乱の後にほとんど収束へ向かったために,インフレーションの記憶が凍結された値が残っている。

アジアの致命率*:

武漢 6.6%,中国 4.9%,イラン 4.4%,インドネシア 3.3%,フィリピン 2.1%,韓国 2.0%,香港 1.9%,日本 1.8%,インド 1.5%,東京 1.0%,台湾 0.9%(2021.1.31 現在)


図1 アジアの致命率*(2020.5.1〜2021.1.31

欧米の致命率*:

メキシコ 9.7%,イタリア 3.7%,英国 3.1%,ドイツ 2.8%,フランス 2.7%,ブラジル 2.7%,スペイン 2.6%,ロシア2.1%,米国 1.9%,トルコ 1.1%(2021.1.31 現在)


図2 欧米の致命率* (2020.5.1〜2021.1.31)


2021年1月31日日曜日

YouTube(6)

YouTube(5)からの続き

 例のスクレイパープログラムを動かしてみたところ,登録者数と再生回数の両対数グラフできれいに分離した2つの塊が見えた。おお,これはスゴイ発見をしたのかと思ったが,なんのことはない,単なるプログラムのバクだった。修正すると1つの塊に戻った。

ユーチュラから得られた登録済みランキングデータ(p=1からp=1500まで)のうち,登録者数非公開のものを除いた27,557個のデータについて,両対数グラフで散布図を書いてみた。

図1 YouTubeチャンネルの再生回数 vs 登録者数(2021.1)

図2 YouTubeチャンネルの再生回数/動画数 vs 登録者数/動画数(2021.1)

チャンネル再生回数を$y$,チャンネル登録者数を$x$とすると,次のような回帰式が得られる。
$\displaystyle \log_{10} y = 1.17 \log_{10} x +1.83 \ \rightarrow \ y = 67.6 x^{1.17}$

また,チャンネル再生回数/チェンネル動画数を$\bar{y}$,チャンネル登録者数/チャンネル動画数を$\bar{x}$とすると,次のような回帰式が得られる。
$\displaystyle \log_{10} \bar{y} = 1.00 \log_{10} \bar{x} +2.50 \ \rightarrow \  \bar{y} = 316 \bar{x}$


2021年1月30日土曜日

YouTube(5)

 YouTube(4)からの続き

ユーチュラのランキングからYouTuberの分析をするため,手動のデータスクレイパーをPerlで書いてみた。迷惑にならないように,1秒のsleepを入れながらHTMLファイルにアクセスしている。取得したデータを眺めてみた結果についてはもう少し考えてから報告する予定。

HTMLファイルから必要なデータだけ抜き出したCSVファイルを作るのだけれど,その後はExcelで解析する。面倒なのは,ExcelがUTF-8のCSVファイルを読んでくれないこと。ごちゃごちゃすれば回避できそうだが,それくらいなら事前にShift-JISに変換したほうが早い。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
#!/usr/local/bin/perl
# 1/30/2021 K. Koshigiri
# usage: yutura.pl 1 10
# extract data from p=1 to p=10
# original data = https://ytranking.net/ranking/?p=x

\$ytr = "https://ytranking.net/ranking/";

\$p1=$ARGV[0];
\$p2=$ARGV[1];
\$tmp="tmpy-\$p1-\$p2";
system("touch \$tmp");
\$out = "ytr-\$p1-\$p2.csv";

for(\$p=\$p1; \$p<=\$p2; \$p++) {
#  system("lynx -source \$ytr\?p=\$p | fsp -u >> \$tmp");
#  sleep 1;
print "\$p,\n";
}

open(OUT, ">\$out");
open(IN, "<\$tmp");
while(
) {

  if(/\t<p class="title">(.*)<\/p>\t<aside>/
) {

2021年1月29日金曜日

都道府県人口当たりのCOVID-19(3)

都道府県人口当たりのCOVID-19(2)からの続き

東北大学の大隅典子さんが,感染者に対する死亡率のデータがみつからないとおっしゃっていたので,前回のデータを1月28日版データに更新してみた。確かに宮城県はトップではないにせよ,その値がかなり低く抑えられていた(他の東北諸県と対比させるとよいかも)。

ある時点での死亡数累計/感染数累計は,致命率(CFR)の近似値だと考えられる。以下では直近3ヶ月の累計比(CFR-3m)と全期間の累計比(CFR-total)を,前者の降順に並べてみた。日本全国では,これらの値は1.4%前後であり,アジア各国の値とほぼ同水準である。欧米でも,その値は2-3%程度であり,本質的に大きな違いはないように見える。

一時的に医療崩壊に近い事象が起きているとき,この値は増大するので,第1波や第2波を除く直近3ヶ月では,過去のこの部分を差し引いた現在の状況がわかりやすい。北陸三県や徳島県では過去の死亡数急増時の部分を除けば,現在は相対的に落ち着いていることがわかる。

宮城県を除く東北地方ではそもそもの感染数の絶対値が大きくないので,大阪府,兵庫県,広島県などで高い値を示していることとは違う環境的な原因で"CFR"が大きいのかもしれない。

東京都や沖縄県は人口あたりの感染数や死亡数の人口比は大きな値を示しているが,感染者に対しては適切な処置が施されているの"CFR"は大きくない。


都道府県名 CFR-3m CFR-total
 岩手県  5.77%  5.45%
 北海道  3.38%  3.43%
 山形県  3.05%  2.71%
 福島県  2.76%  2.48%
 兵庫県  2.48%  2.37%
 福井県  2.40%  3.36%
 香川県  2.33%  2.27%
 青森県  2.26%  1.86%
 大阪府  2.16%  2.09%
 広島県  2.11%  1.92%
 熊本県  2.03%  1.79%
 静岡県  1.91%  1.69%
 徳島県  1.83%  3.40%
 長崎県  1.79%  1.70%
 群馬県  1.72%  1.82%
 愛知県  1.67%  1.64%
 岐阜県  1.66%  1.66%
 長野県  1.56%  1.51%
 高知県  1.45%  1.68%
 愛媛県  1.41%  1.86%
 三重県  1.40%  1.36%
 石川県  1.40%  4.01%
 大分県  1.36%  1.43%
 京都府  1.32%  1.37%
 新潟県  1.27%  1.01%
 鳥取県  1.25%  1.01%
 滋賀県  1.25%  1.35%
 栃木県  1.25%  1.11%
 山口県  1.23%  1.18%
 埼玉県  1.21%  1.36%
 奈良県  1.19%  1.24%
和歌山県  1.19%  1.26%
 宮崎県  1.12%  0.95%
 茨城県  1.09%  1.30%
 山梨県  1.02%  1.45%
 千葉県  0.91%  1.06%
神奈川県  0.89%  1.12%
 岡山県  0.82%  0.87%
 沖縄県  0.78%  1.22%
 宮城県  0.75%  0.66%
 福岡県  0.72%  1.12%
 東京都  0.59%  0.87%
 佐賀県  0.58%  0.43%
鹿児島県  0.54%  1.14%
 秋田県  0.52%  0.39%
 富山県  0.23%  3.13%
 島根県  0.00%  0.00%

 全 国  1.34%  1.45%

(情報:NHKまとめ 2021/1/28現在)

2021年1月28日木曜日

YouTube(4)

 YouTube(3)からの続き

NHK夕方の番組シブ5時で,教育系YouTuberの特集をやっていた。ヨビノリたくみさんと,葉一(はいち)さんが取り上げられ,葉一さんがオンラインインタビューに答えていた。たくみさんは,横国大の物理工学から東大工学研究科の沙川研(修士)だが,葉一さんは東京学芸大学の初等数学のひとなのか。コロナ禍にともなうオンライン授業の普及や,GIGAスクール構想の展開などから,教育系YouTuberに注目が集まっている。ただ,それにしては日本の教育系YouTubeのコンテンツはほとんど未開拓だ。まあ,塾・予備校などのクローズドコンテンツはたくさんあるのだろう。

Webhackによれば,教育系YouTuberにもいくつかのカテゴリがある。(1) スキル・教養・ビジネス,(2) 本・書籍の要約,(3) 学生向け,(4) クイズ・脳トレ,(5) 英語・英会話 である。ユーチューブチャンネル登録数順に代表的な教育系ユーチューブを並べてみた。受験メタ知識が中心のものは除外している。大学や教育委員会(細々としたものはあるが)がもっと力を入れてもよいかもしれないが,そういうのはたいていおもしろくないので難しいところ。

1 とある男が授業をしてみた(129万人)

2 予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」(61万人)

3 授業映像TryIT(47万人)

4 Stardy -河野玄斗の神授業(35万人)

5 PASSLABO in 東大医学部発「朝10分」の受験勉強cafe(25万人)

6 「ただよび」文系チャンネル(18万人)

7 超わかる!授業動画(18万人)

8 鈴木貫太郎(13万人)

9 Historia Mundi(10万人)

10 eboard channel(8万人)

番外 中田敦彦のYouTube大学(351万人)




2021年1月27日水曜日

趣味

 趣味は何ですかと問われて困ることが多い。しばらく前は,「文楽鑑賞」と「読書」だったはずなのだが,コロナの影響で観劇もままならず,かといって読書力が筋力に比例して衰えているため,鉄棒にぶら下がっても1回も懸垂ができないようなざまである。

昨日,YouTubeではどんな内容が多いのか,はたまたYouTubeを教育で利用することができるのかどうかを調べるために,ランキングサイトであるユーチュラのタグをざっとながめていた。趣味でいうと,音楽と鉄道と料理と車とスポーツが目についた程度であり,どうも,まだ見残しがあるような気がしてならない

そもそも世の中の趣味にはどんなものがあるのだろう。ググっていると「趣味探し図鑑」にたどり着いた。しかし,どうもYouTubeにはここにでてくる趣味に該当する大きな集団は(先程の例以外では)見当たらなかった。

さて,その趣味探し図鑑に,60代男性のおすすめ趣味ランキングなるものがあったので,ここに紹介する。うーん,なんだかとても微妙なのだ。趣味の「数学」のランクの高さと,よくわからない「大人の塗り絵」に驚いてしまった(塗り絵会社の宣伝だろう)。10代女性のおすすめとかになると,かなり雰囲気が違うのだけれども,ついていけない感は,60代男性のおすすめの場合と大差はない。

1 ひとり旅
2 楽器演奏
3 ツーリング・バイク
4 歴史
5 大人の塗り絵
6 電子工作○
7 数学○
8 絵画
9 彫刻
10 散歩・ウォーキング○
11 貯金・節約
12 家庭菜園・ベランダ菜園
13 レザークラフト
14 写真・カメラ
15 登山・トレッキング
16 ドライブ
17 プラモデル○
18 パークゴルフ
19 習字・書道
20 漬物づくり
21 ドローン・レース
22 DIY
23 株式投資
24 語学(英語以外)
25 アーチェリー
26 陶芸
27 麻雀
28 天体観測
29 釣り
30 料理
31 筋力トレーニング
32 コーヒー(珈琲)
33 瞑想・座禅
34 蕎麦打ち
35 ガーデニング
36 ゴルフ
37 温泉巡り
38 ペン字
39 読書○
40 盆栽
41 ボウリング
42 日本酒・地酒○
43 果実酒づくり
44 作曲・DTM
45 自動車競技
46 競馬
47 卓球
48 ファッション
49 マスターズ陸上
50 海外ドラマ鑑賞
51 クロスワードパズル
52 LEGO(レゴ)○
53 ヨガ
54 乗馬
55 小説執筆
56 熱帯魚飼育
57 テレビゲーム
58 日記
59 スキューバダイビング
60 俳句・川柳・短歌○
61 ボードゲーム
62 水泳
63 国内旅行・海外旅行
64 世界遺産巡り
65 Q&Aサイト回答
66 社交ダンス
67 合唱
68 劇団・舞台演劇
69 ダーツ
70 映画館・映画鑑賞
71 MMORPG
72 動画編集○
73 囲碁
74 FX
75 競艇
76 ドッグスポーツ
77 将棋
78 昆虫飼育
79 ワイン
80 科学・科学実験○
81 ビリヤード
82 トライアスロン
83 ミュージカル鑑賞
84 アニメ鑑賞
85 ゲートボール
86 トレーディングカード
87 野球
88 スポーツ観戦
89 オートレース
90 競輪
91 チェス
92 サッカー
番外 プログラミング○
(丸印○は自分が興味を持ったもの)

2021年1月26日火曜日

YouTube(3)

YouTube(2) からの続き

YouTubeチャンネルのコンテンツについて,タグをざっと眺めてみた。

1位 ゲーム実況(5994),2位 音楽(3111),3位 女性(2519),4位 やってみた(1761),5位 芸能人(1477),6位 企業(1149),7位 鉄道(748),8位 商品レビュー(665),9位 スポーツ(626),9位 Vocaloid(573),10位 お笑い芸人(557)だったが,十分検索しきれていない可能性はある。ここには現れていないが,子ども・おもちゃ関係も関連も合計すれば735以上,その他では,料理が495,車が458などが目立つかもしれない。

一方,YouTubeの教育利用可能性はどうだろうか。同じくタグ数を数えてみた。勉強(178),教育(88),受験(50),プログラミング(44),大学(23),学校(22),資格(20),学習(10),授業(6)など。また,STEAM関係キーワードでいえば,数学(30),科学(28),実験(24),宇宙(23),化学(10),哲学(8),物理(5),統計(5),天文(4),生物(3)。まだまだ開拓されつくしていないようにもみえる。

2021年1月25日月曜日

YouTube(2)

 YouTube(1)からの続き

昨日のチャンネル登録者人数で気持ちがわるかったのは,両対数グラフの順位がユーチュラ掲載数の上限近くで急速に減少していることである。普通ならば,ジップの法則が当てはまりそうなもので,両対数グラフではほぼ直線となり,なんらかの冪乗則が成立してもよいところだ。直感的には,登録者数の少ないチャンネルもある程度の数が存在しているが,これらはユーチュラへの登録動機がないため,ロストされているからと考えられる。実際,ユーチューブチャンネル人気ランキングを出しているTUBERS(ユーチューブ活動支援コンサルティング)では,13万件の日本語チャンネルが存在すると書いているのでユーチュラの捕捉率は1/4程度なのかもしれない。

さて今日は,ユーチュラにおける日本のユーチューブチャンネルの累計動画再生回数である。1位は,Fisher's −フィッシャーズ− (110億回),2位:キッズライン♡Kids Line,3位:avex(88億回),4位:HikakinTV(79億回),5位:はじめしゃちょー(hajime)(78億回)などとなっている。

(1位,110億回),(18位,30億回),(107位,10億回),(506位,3億回),(1514位,1億回),(3923位,3千万回),(7123位,1千万回),(12590位,3百万回),(16760位,百万回),(20794位,30万回),(23690位,10万回),(26107位,3万回),(27708位,1万回),(28720位,3千回),(29262位,1千回)


図1 日本のユーチューブチャンネル累計再生数分布(片対数)



図2 日本のユーチューブチャンネル累計再生数分布(両対数)




2021年1月24日日曜日

YouTube(1)

 ベネッセの「小学生がなりたい職業ランキング2020」では男子小学生の1位が「ゲームクリエータ・プログラマ」,2位が「ユーチューバー」,女子小学生の1位が「芸能人」,4位が「ユーチューバー」ということだ。もっとも,クラレの調査「小学生の将来就きたい職業」ではようやく男子の10位に顔を出している程度。

テレビはつまらないし,読書エネルギーにも欠けるため,最近は自分がユーチューブにハマった。そこで,ユーチューブランキングサイトのユーチュラを使って少し調べてみた。なお,googleのYouTubeヘルプをみれば,自分のチャンネルの作成方法その他がわかる。

まずは,ユーチュラにおける日本のユーチューブチャンネルの登録者数である。YouTubeランキングには,約33,000のチャンネルが登録されている。登録数非公開のチャンネルが1200弱あるので,それ以外のチャンネルを,登録者数と順位で並べてみた。なお,1位は,キッズライン♡Kids Line(登録者数1220万人),2位:せんももあいし−Ch Sen, Momo, Ai & Shii(939万人),3位:はじめしゃちょー(hajime)(906万人),4位:HikakinTV(884万人),5位:タキロン Takilong Kids' Toy(712万人)などとなっている。

(1位,1220万人),(38位,300万人),(304位,100万人),(1434位,30万人),(4169位,10万人),(8915位,3万人),(13863位,1万人),(18923位,3千人),(23196位,1千人),(26549位,300人),(29071位,100人),(30477位,30人),(31265位,10人)


図1 日本のユーチューブチャンネル登録者数分布(片対数)


図2 日本のユーチューブチャンネル登録者数分布(両対数)


2021年1月23日土曜日

開催都市契約

 7月23日まであと半年になった。大栄翔は12勝,正代が照ノ富士に負けて3敗となった。負け越している遠藤が久々に御嶽海に勝っている。いや,相撲の話ではなくて,正代と同様にふらふらの低空飛行を続けている東京五輪の話だ。

開催都市契約によれば,国際オリンピック委員会(IOC)と東京都(開催都市)と日本オリンピック委員会(NOC)の間で契約が締結されている。で,この契約を厳守するオリンピック大会組織委員会(OCOG)の組成(formation)が義務付けられている。

開催都市、NOC(前述の開催都市および OCOG の財務上の責務に関しては除く)、および OCOG は、いかなる性質であっても、また、直接または間接を問わず、本契約の規定違反に起因する、すべての損害、費用および責任について連帯責任を負う。IOC は開催都市、NOC、および/または OCOG に対して、IOC の単独の裁量にて、IOC が適当とみなす場合、訴訟を起こすことができる。

いきなりこれなのであった。で,これである。

いわゆる「ニューメディア」権(インターネットによるダウンロードまたはストリー ミング、IPTV、ホームビデオ、ビデオオンデマンド、モバイル・プラットフォームの権利など)を含む(ただし、それらには限定されない)、既存のまたは将来生まれる あらゆる形態の放送、上映メディアを手段とする、本大会および本大会関連イベントの放送、上映、送信、配信に関するすべての契約(以下、「放送契約」という)は、 IOC が独占的に交渉、締結するものとする。 

なんだか悪質な詐欺のように見えてしまうのは気のせいだろうか。 

本大会開催の結果として生じた剰余金があれば、以下のとおり配分するものとする。
a) NOC に 20%
b) OCOG に 60%。NOC と協議のうえで OCOG が決定する開催国におけるスポーツの全般的利益のために使用することを目的とする
c) IOC に 20%

 

2021年1月22日金曜日

赤いシリウス

 NHKのコズミックフロント☆NEXTは,非常にためになる科学番組である。先日放映された,「天狼星 シリウスのミステリー」もとても刺激的な内容だった。

シリウスは,オリオン座の三つ星を左に伸ばしたところのおおいぬ座にあり,太陽を除いて全天で最も明るい恒星(一等星)だ。地球から8.6光年の距離にあり,シリウスA(太陽と同程度の半径で太陽の約2倍の質量)とシリウスB(地球と同程度の半径で太陽と同程度の質量)からなる連星であり,明るい方のシリウスAは青白く光る主系列星である。シリウスBは非常に暗い白色矮星だ。

そのシリウスが,2千年前には赤く輝いていたという歴史的な文書がある。古代ローマの天文学者プトレマイオス(トレミー)のアルマゲストにその記載がある。超新星を除く普通の天文現象が数千年の時間スケールで起こるわけがないので,これはなんらかの比喩表現ではないかというのが定説らしい。

番組では,赤いシリウスが見えたのは事実であるという,科学的に根拠のあるいくつかの説が紹介されていた。シリウスにはシリウスCという別の三重連星があって,これがシリウスAに接近していたときに放出された物質が光を遮っていたという説や,桜井天体のように白色矮星であるシリウスBがヘリウムフラッシュによって一時的に赤くなったという説である。

シリウスは古代エジプトにおける暦の始まりを特徴づける天体であり,クフ王のピラミッドの南の回廊がシリウスが観測できる方向に伸びていたなど,いろいろとワクワクする話題が多いのだった。

2021年1月21日木曜日

直木賞

芥川賞からの続き

 ついでに,直木賞についても調べてみたところ,6冊/202冊=3.0%であった。芥川賞の半分の割合である。自分の主な読書領域はSFなので,純文学系の方がオーバーラップが大きいからだろうか。※印は受賞作は読んでいないが,それ以外の著書を複数冊読んだ作家。

第42回(1959年下半期) - 司馬遼太郎※
第47回(1962年上半期) - 杉森久英『天才と狂人の間』
第56回(1966年下半期) - 五木寛之※
第67回(1972年上半期) - 井上ひさし※
第72回(1974年下半期) - 半村良※
第80回(1978年下半期) - 宮尾登美子※
第109回(1993年上半期) - 高村薫『マークスの山』
第114回(1995年下半期) - 藤原伊織『テロリストのパラソル』
第117回(1997年上半期) - 篠田節子※
第119回(1998年上半期) - 車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』
第120回(1998年下半期) - 宮部みゆき『理由』
第121回(1999年上半期) - 桐野夏生『柔らかな頬』
第151回(2014年上半期) - 黒川博行※

なお,1970年代芥川賞の受賞数はインフレ気味だったが,直木賞の受賞数の方は逆に凹んでいる。文化的相転移はこのへんから始まって,80年代には完成したということなのだろうか。また,受賞者中に女性作家が占める割合は,直木賞の場合も芥川賞と同様で80年代に入ってから相転移したようにみえる。ただし,女性作家の割合は芥川賞では約1/2になっているのに対し,直木賞では約1/3にとどまっている。下記のテーブルは各年代の受賞者数(カッコ内は女性受賞者の内数)。

1930年代 7(0)
1940年代 19(2)
1950年代 26(4)
1960年代 24(5)
1970年代 18(1)
1980年代 30(7)
1990年代 26(8)
2000年代 27(9)
2010年代 23(9)
2020年代   2(1)

2021年1月20日水曜日

芥川賞

 第164回の芥川賞が,宇佐見りん「推し、燃ゆ」に決まった。「かか」で2019年の文藝賞と2020年の三島由紀夫賞を受賞したのに続くもので,なかなか凄そうである。

そもそも最近はほとんど本を読まなくなってしまった。情報の入力はインターネット(TwitterやYouTubeやFacebookなど)が中心になってしまい,極めて偏っている。ほとんどがデコレーションされた事実の集積物であり,創られた作品にふれる機会が激減している。あ,映画とかドラマはちょっと見ているかもしれないけれど。

そこで,自分がこれまでの芥川賞作品をどれほど読んできたのかをチェックしたところ,13冊/175冊=7.4%であった。ほとんど読んでいませんでした。なお,※は受賞作は読んでいないものの受賞作以外の作品を複数冊読んだ作家である。1970年代はほぼ立ち読みであったが,三田誠広のものはちょっとひどい作品だったと思う。1970年代は受賞者のインフレも起こってるし,選考委員どうなんだよ状態である。

第4回(1936年下半期) - 石川淳※
第25回(1951年上半期) - 安部公房「壁 S・カルマ氏の犯罪」
第28回(1952年下半期) - 松本清張※
第32回(1954年下半期) - 小島信夫※
第39回(1958年上半期) - 大江健三郎「飼育」
第43回(1960年上半期) - 北杜夫「夜と霧の隅で」
第51回(1964年上半期) - 柴田翔「されどわれらが日々──」
第56回(1966年下半期) - 丸山健二※
第61回(1969年上半期) - 庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」
第64回(1970年下半期) - 古井由吉「杳子」
第75回(1976年上半期) - 村上龍「限りなく透明に近いブルー」
第77回(1977年上半期) - 三田誠広「僕って何」
第84回(1980年下半期) - 尾辻克彦「父が消えた」
第98回(1987年下半期) - 池澤夏樹「スティル・ライフ」
第110回(1993年下半期) - 奥泉光「石の来歴」
第115回(1996年上半期) - 川上弘美「蛇を踏む」
第123回(2000年上半期) - 町田康「きれぎれ」
第146回(2011年下半期)- 円城塔※

なお,受賞者中に女性作家が占める割合は80年代に入ってから相転移したようだった。かつては男性作家が受賞者のほとんどを占めていたが,いまではほぼ半数が女性である。下記のテーブルは各年代の受賞者数(カッコ内は女性受賞者の内数)。なお,1945年から1948年は終戦前後の混乱のために中止されている。

1930年代 12(1)
1940年代 13(2)
1950年代 17(0)
1960年代 18(4)
1970年代 27(6)
1980年代 16(8)
1990年代 22(8)
2000年代 22(9)
2010年代 25(12)
2020年代   3(2)


2021年1月19日火曜日

PHITS

 PHITS(Partcle and Heavy Ion Transport code System)は,「あらゆる物質中での様々な放射線挙動を核反応モデルや核データなどを用いて模擬するモンテカルロ計算コードです」ということで,さらに「物質や人体内での放射線の動きをシミュレーションする計算コードです。原子力だけでなく,医学や理学など様々な分野で活用されています」なので,開発者の仁井田浩二さんは,とうとうCOVID-19のモンテカルロシミュレーションに踏み出した。

酔歩するエージェントと散乱断面積の概念はおもしろいけれど,地理状況が人口密度しか反映されていないのであれば,本質的には,微分方程式と変わらないのではないか。それにしても,中野さんといい大西さんといい原子核物理屋のコロナ好きはどこから来るのだろうか。放射性崩壊系列によく似ていて,ちょうど手頃な複雑さを持ったシミュレーションの対象だということなのかな。

2021年1月18日月曜日

日本語版ウィキペディア(2)

 北村紗衣(saebou)さんが,佐藤由美子さんの意見に若干の反論をしていた。彼女のウィキペディアンとしての経験に基づくものであって,事実としては概ね問題ないと思われる。が,本質はやはり歴史修正主義の跋扈である。

2001年1月15日にスタートしたウィキペディアは,今年で開設20周年を迎えることになる。記念イベントとしてオフラインミーティングが東京+サテライト会場で催されるようだ。

退職前の数年の大学院の授業では,ウィキペディアの教育利用を話題にしたことがあって,2008年頃からの動きは少しだけ眺めたことがあるが,その後はほとんど盛り上がらないまま推移していたようだった。

2021年1月17日日曜日

日本語版ウィキペディア(1)

 佐藤由美子さんの「日本語版ウィキペディアで歴史修正主義が広がる理由と解決策」という記事を見たが,まったくそのとおりだと思われる。自然科学の分野でも日本語版ウィキペディアの記事にムラがあると同時に,英語版と比較して非常に内容が薄いことが気になっていた。オープン性に欠けるコミュニティがディスインフォメーション(故意に流す虚偽情報)の温床になっているということだが,右派(あるいは準政府団体)の組織的な活動がSNSに加えてウィキペディアをターゲットにしているということだろう。