2023年8月31日木曜日

ALPS処理水(4)

ALPS処理水(3)からの続き

東京電力や経済産業省の処理水ポータルサイトをみても,肝腎の情報がわからない。ALPS処理水の希釈放出は科学的に安全ですということだけが,これでもかと繰り返し強調されている。

科学の素養があるインフルエンサーの多数派は,単純化された前提と論理の組み合わせで,科学的には絶対に安全なのだとSNS上で強調している。科学的な問題点を指摘する声があっても議論はかみ合わず堂々巡りになる。それだけではなく,疑問や不安を表明すること自身が,フェイクであり風評加害であるという言説まで飛び出す始末だ。

ニセ科学バッシングもそうであったけれど,科学的にありえないことを否定できるという絶対的な正義の立場にたつとき,人々は安心して敵を追いつめることができる。そこまではよいとしても,その習慣が,コロナ感染症拡大時のPCR検査やワクチンの安全性や今回のALPS処理水放出のような微妙な場合でも科学の名のもとに威力を振るうことになる。そして,それは政治的な権力を持つ側の主張と重なることが多い。


自分が知りたかった情報は何か。トリチウムの発生量と放出量をなるべく正確に理解して,それがどのように推移するかを理解したいということ。

今は漠然と,基準濃度以下で科学的にはまったく安全だから,安心して魚介類を食べなさいという話になっているが,これがいつまで続くかは曖昧だ。廃炉に30-40年かかるとはいうものの,その道筋も完了形態も全く明らかにされていない。確かにデブリの性状が不明だと,再臨界を避けながら冷却する処理方法が簡単には確定しないというのは分かる。


トリチウムの発生量=トリチウム汚染水の発生量 × 発生時点のトリチウム濃度である。
タンクのトリチウム濃度としては,K4群:19万Bq/L,J1-C群:82万Bq/L,J1-G群:27万Bq/Lという数字がみつかった。35基あるK4群タンク以外のタンク数やその意味は探しきれなかった。また,前回示したように,全タンク群平均:62万Bq/Lという数字もある。

ところで,82万Bq/Lはトリチウムの放出における告示濃度(6万Bq/L)に対する比率14であり,生成時点でのトリチウム濃度はこれを越えることは間違いない。とりあえず,この値を採用して計算を進めてみる。福島第一原子力発電所の汚染水環境において,1年間に新たに発生するトリチウムの量は,90㎥/日×365日×8.2億Bq/㎥ = 27兆ベクレル/年,これだと希釈したALPS処理水を22兆ベクレル/年で放出しても一定量は残存することになる。


2023年8月30日水曜日

ALPS処理水(3)

ALPS処理水(2)からの続き

自分がよくわかっていないことなど。

(1) デブリがたまっている1-4号機への地下水の浸入を防ぐため,陸側遮水壁(凍土壁)が設けられ2018年に完成したが,最近どうなっているのかの情報がほとんどない。東電の処理水ポータルで検索してもまったくヒットしない。完成後に,流入する地下水は顕著に減少したようだけれど,地下水流入を完全に防いでいるわけでもない。

(2) 1-4号機の周辺の核汚染水は建屋周辺のサブドレンで汲み上げて,タンクに保管しストロンチウム・セシウム除去やALPS処理を行っている。また2015年に完成した海側遮水壁(30m)で核汚染された地下水の海への流出を防いでいることになっている。が,実際の地下水の動きがどうなっているか,海に流出していないのかは完全に把握されていない。

(3) ALPS処理施設では,トリチウムと放射性炭素が除去できない。また,初期の運用や設備の不具合からタンクに保管されている水のうち全体の7割の処理途上水は,放出の規制基準を満たしていない。東電と政府は放出前には再度ALPSを通して,問題がなくなる水準まで浄化処理するとしている。が,第三者機関による恒常的な監視測定体制が存在しないため,信じる人達は安全性は完全だと主張するが,信じられない人は不安を抱えたままになる。

(4) 単純計算すると,現在のタンク容量の余剰分が3万㎥なので,日々の追加汚染水発生量 90㎥/日で割れば,1年弱の余裕がある。タンク設置場所についても,5号機6号機周辺などまで含めればありそうに見える。が,貯蔵場所が大熊町から双葉町に拡大するのでそれはそれで話が面倒なのかもしれない。

(5) そもそも,東京電力によればALPS処理水放出によってタンクを空ける理由は以下のようになっている。一応30-40年後が廃炉完成目標らしいのだけれど,その進行状況は非常に難しいものになっている。反対派はチェルノブイリのようにさっさと石棺をつくればとしているが,それはそれで政治的にも技術的にもハードルはかなり高そうである
Q:福島第一原子力発電所の敷地内のタンクに長期保管できないのですか。

A:今後、高濃度の放射性物質である燃料デブリの取り出し等、リスクを低減するための廃炉作業を計画的に進めていくにあたり、発電所内で必要な敷地を確保する必要があります。
(6) 経済産業省の「アルプス処理水について」(2020.7)によれば,「専門家会議が6年余り検討した結果、 5つの方法の中から、前例や実績があることから 「海洋放出」と「水蒸気放出」の 2つが現実的とされました。」とあるにもかかわらず,東京電力の処理水ポータルでは,肝腎の水蒸気放出の情報には全く触れられておらず,代わりに次のQAが掲載されている。
Q:「地層注入」や「地下埋設」によるALPS処理水処分は検討したのですか。

A:国のタスクフォースで検討され、「規制的、技術的、時間的な観点から現実的な選択肢としては課題が多い」とされています。
(7) 国際原子力機関(IAEA)のスタンスは,報告書の7p にあるDirector Forward の末尾にある。
最後に、福島第一原子力発電所に貯蔵されている処理水の放出は、日本政府による国家的決定であり、本報告書はその方針を推奨するものでも支持するものでもない(that this report is neither a recommendation nor an endorsement of that policy)ことを強調しておきたい。しかし、この決定に関心を持つすべての人々が、IAEAの独立した透明性のあるレビューを歓迎することを願っていますし、このプロセスの開始時に申し上げたように、IAEAはALPS処理水の放出前、放出中、放出後に立ち会うことを保証します。 
 


2023年8月29日火曜日

大阪市科学館学芸員

大阪市立科学館の学芸員(物理学)の募集がある。珍しいことだ。どなたかが退職されたのだろうか。早速,応募要項の小論文に挑戦してみた(もちろんChatGPTさまがです)。

Q:User
博物館が社会的機能を果たすための、学芸員の役割を述べなさい。 ( 800 字以上 1,000字以内)


A:ChatGPT
博物館が社会的機能を果たすための学芸員の役割

博物館は、歴史、文化、自然などの多岐にわたる知識を保存し、伝える場所としての役割を果たしています。その中心に位置するのが、学芸員という専門家です。学芸員は博物館の社会的機能を果たすために、以下のような役割を担っています。

1.知識の保存と伝承
学芸員は、博物館に収蔵されているアイテムや情報の専門家として、それらの保存と管理を行います。また、展示を通じて一般の人々に知識を伝える役割も果たします。これにより、文化や歴史が次世代に継承されることを保証します。
2.展示の企画・制作
学芸員は、博物館の展示の企画や制作を行います。これには、テーマの選定、展示物の選択、解説文の作成などが含まれます。学芸員の専門的な知識と視点が、訪問者にとって魅力的で教育的な展示を実現します。
3.教育活動の推進
多くの博物館では、学芸員がワークショップや講演会、学校との連携プログラムなど、教育活動を推進しています。これにより、博物館が学びの場としての機能を強化し、社会に貢献します。
4.研究活動の推進
学芸員は、自らの専門分野に関する研究活動を行うこともあります。この研究は、新しい知識の発見や、博物館のコレクションの価値を高めるために不可欠です。
5.コミュニティとの連携
学芸員は、地域コミュニティや他の機関と連携し、共同プロジェクトやイベントを企画することもあります。これにより、博物館が地域社会との結びつきを強化し、より多くの人々に利益をもたらすことができます。
6.アクセシビリティの確保
学芸員は、博物館ができるだけ多くの人々に利用されるよう、アクセシビリティの確保に努めます。これには、障害を持つ人々や高齢者、外国からの訪問者など、さまざまな背景を持つ人々のニーズに応える取り組みが含まれます。
7.情報のデジタル化
近年、デジタル技術の進化に伴い、学芸員は博物館のコレクションや情報のデジタル化にも取り組んでいます。これにより、博物館の知識がより広く共有され、世界中の人々にアクセス可能となります。

まとめると、学芸員は博物館が社会的機能を果たすためのキーパーソンとして、多岐にわたる役割を担っています。彼らの専門的な知識と情熱が、博物館を学びと発見の場として、そして文化や歴史の宝庫として、多くの人々に愛される存在としています。

素直すぎて面白みに欠けるから,倍率が高い場合はこれでは採用されない。あらかじめ断った上で,科学博物館に限定して話を展開して自分の面白エピソードをぶっ込むとか。 

2023年8月28日月曜日

SLIMプロジェクト

8月28日の9時半に予定されていたH-IIA47号機の打ち上げは上空の強風のため延期された。

このロケットには,X線分光撮像衛星(XRISM,2.3t)と小型月着陸実証機(SLIM,0.7t-0.2t)が搭載されている。SLIMにはそれほど多くの燃料が積めないので,スイングバイを用いながら3-4ヶ月かけて月の周回軌道に到着し,さらに1ヶ月後に月のクレーター斜面に着陸する予定だ。

SLIMは画像照合航法により精度100mオーダーのピンポイント着陸を目指している。軽量な探査機の5つの接地ポイントに3D形成されたアルミ製のショック吸収材が取り付けられていて,斜面ならではの2段階接地着陸をするようだ。下り坂方向に反射しないことを祈る。

一方,先日無事に月の南極への軟着陸に成功したインドのチャンドラヤーン3号(月着陸船部分,3.9t-1.7t)である。こちらは普通に地球周回軌道−遷移軌道−月周回軌道と飛行し,7月14日の打ち上げから1ヶ月後の8月23日に月に軟着陸した。着陸後のRoverによる探索の映像も送られている。

図:SLIMプロジェクトの軌道イメージ(JAXAから引用)

インドのものに比べると日本のはオモチャみたいで残念だけれど,小型で機動的だというメリットはあるのかもしれない。成功すればですが。ただ,北朝鮮の軍事人工衛星実験をあくまでも弾道ミサイルなのだと国内向けに宣伝し続け,H3ロケット試験機1号機はじめ,トラブル続きの日本の先行きが不安ではある。

2023年8月27日日曜日

ALPS処理水(2)

ALPS処理水(1)からの続き(8/31/2023,9/12/2023 数値を一部訂正)

(1) 現在タンクにたまっているのは,1046基 134万㎥ のトリチウム汚染水 = ストロンチウム処理水(1%未満) + 処理途上水(7割) + ALPS処理水(3割) である(タンク総容量は137万㎥)。ここで用いるトリチウム汚染水とは,上の簡易定義からわかるように他の放射性物質を含まないということを含意しない。

(2) タンクのトリチウム汚染水の平均トリチウム濃度は,62万Bq/L = 6.2×10^8 Bq/㎥ である。これらのタンクに存在するトリチウム総量は,8.3×10^14 Bq=830兆ベクレルとなる。(東京電力の2021.4時点の平均濃度を援用し現在のトリチウム汚染水の総量をかけたもの)

(3) 1,2,3号機の約880tのデブリを冷却するための注水(3㎥/時)+流入地下水・雨水等が合わさって,毎日約90tの汚染水が新たに発生している。上の平均トリチウム濃度をかけると(本当は発生時のトリチウム濃度をかけるべき),年間のトリチウム汚染水増加量は,3.28万㎥/年20兆ベクレル/年の増加)となる。

(4) 一方,東京電力は年間トリチウム排出総量は22兆ベクレル以下(事故前の福島第一原発冷却水の放出管理値,放出実績は2.2兆ベクレル/年)という条件を自らに課しているので,最大で3.55万㎥/年 までALPS処理水を放出できることになる。134万㎥ /(3.55万㎥ - 3.28万㎥) = 500年でタンクをほぼ空にすることができる。あれっ?
 →これはおかしいので,トリチウム半減期を考慮した計算をする必要がある(宿題)

(5) なお,トリチウム濃度を1500Bq/L以下にするため海水で400倍に希釈しているならば,最大1400万t/年の海洋放出となるが,希釈の意味があるのかどうなのか・・・

で,初回はALPS処理水7800t(0.58%,1.1兆ベクレル)を17日間かけて流す(460t/日)。放出される希釈前のALPS処理水の平均トリチウム濃度が14万Bq/Lとされる。海水で400倍に希釈すれば,350Bq/Lとなり8000㎥/h (19万㎥/日)の速度で放出されている。今年度中にはALPS処理水3.1万 t (2.3%, 5兆ベクレル) を放出するということらしい( 9/11/2023 7800tの放出完了)。

経済産業省のページには,「(3)水産庁は、明日から、魚のトリチウム濃度を当分の間、毎日サンプリング・分析を行い、明日の取得分は、26日の夕方、結果を公表する予定です。」とあった。一方,東京電力の処理水ポータルサイトには魚の分析には1ヶ月半を要するとまじめに書いてある。いくら簡易速報値とはいえ,こういう情報公開のアンバランスが信頼性を損なっている。


[1]処理水ポータルサイト(東京電力)
[4]アルプス処理水について(経済産業省,2021.3)
   ・・・8/27の新着情報が6/15なのでほとんどやる気が感じられない


2023年8月26日土曜日

確率変数

コーシー=シュワルツの不等式からの続き

あまり意味がわからない確率変数がどのように定義されているかというと,理数系の基礎数学 7確率・統計」柴田文明,岩波書店や「現代数理統計学」竹村彰通,創文社では概ね次のようになっている。
確率変数
根元事象の一つ一つに割り当てられた数値のどれかをとる(確率的に変動する)
変数Xを導入し,この変数Xを確率変数とよび,その数値を確率変数Xの実現値という。

確率関数
各実現値xでの確率を考え,さらにこれをxの関数と見たものを,
確率変数Xの確率関数という,p(x) = P(X=x)
そもそも,変数とは何か。それが確率的に変動するとは何か。確率関数の定義式Pの中のイコールは何か(数学だから代入ではない)。等々,疑問で一杯。

コルモゴロフ流の定義(小山昭夫,渡辺澄夫)だともう少しスッキリする。
(1) 根元事象 ω:試行(測定)で生ずる1つ1つの結果
(2) 標本空間 Ω:すべての根元事象の集合(ω ∈ Ω)(Ω:全事象)
(3) 完全加法属 F( σ集合属):標本空間 Ω の 部分集合の集合で 次の条件をみたすもの。Ω ∈ F,A ∈ FならA^c(補集合) ∈ F,Fに属する部分集合の和集合(無限個まで)が F に属する。
(4) 確率 P(A):すべてのA ∈ Fに対して,P(A) ≧ 0, P(Ω) = 1, Ai ∩ Aj = ∅ ならば,P(∪ An) = Σ P(An) (確率の連続性)を満足する P(A) を事象Aの確率という。
(5) 確率空間:(Ω, F, P)の組のこと
(6) 確率変数 X(ω):確率空間(Ω, F, P)と可測空間(Ω', F')に対して定義された写像 X:Ω→Ω' が確率変数である
(7) ただし,任意のB ∈ Ω' に対してX^{-1}(B) = {ω ∈ Ω | X(ω) ∈ B}∈ F
(8) 確率変数Xの分布関数 F(x):F(x) = P(X≧x)
(9) 確率変数Xの密度関数 f(x):f(x) = dF(x) /dx,  f(x) ≧0, ∫ f(x) dx = 1

確率変数は,試行の結果として現れる「量」を表している。試行前は未知だが,試行を行う(ωが定まる) と X(ω) という量を出力する。こうして,確率を扱う理論には試行(測定) という概念が不可分に導入されることになる。


確率変数がその後どのように使われるかを知っておけばもう少しだけ安心するかもしれない。
(1) 期待値:E(X) = Σ x P(X=x) または E(X) = ∫ x f(x) dx
(2) 分散:Var(X)=E((X-E(X))^2)
(3) 標準偏差:σx = √Var(X)
(4) 共分散:Cov(X, Y) = E((X-E(X))(Y-E(Y))
(5) 相関係数:ρxy = Cov(X, Y) /( σx σy )

2023年8月25日金曜日

塩田剛三

合気道の塩田剛三先生(1915-1994)にはまってしまった。

民放の番組をまじめに見ていたら,かつて塩田剛三は良く取り上げられていたので常識として身についていたのかもしれないが,この度YouTubeで動画をみるまではまったく知らなかった。

合気道(1942-)は,植木盛平(1883-1969)が大東流合気柔術柳生新陰流鹿島新當流などから編み出した総合武術である。その植木盛平の初期の高弟が塩田剛三だ。残された動画を見ると,154cm 46kg という小柄な身体で,何人もの巨漢を次々と投げている演武がでてくる。プロレスの演技のようにもみえるが,1962年に来日したロバート・ケネディが道場を訪れた際に,巨漢のボディーガードを実際に簡単に制圧している動画が残されている。

塩田剛三は,1955年に養神会合気道を立ち上げて独立して初代館長となる。三男の泰久が2007年から2012年まで第3代の館長を務めていたが,その後別れて,2014年に塩田国際合気道連盟(SIAF)を設立した。剛三の孫で泰久の三男の塩田将大も所属してYouTuberとしても活動している。

[1]合気道団体(Wikipedia)
[2]合気道・塩田将大【ShiodaGozoWorld】(YouTube)

2023年8月24日木曜日

現代芸術文化センター(仮称)

7月25日,夕方のTVにちょっとセンセーショナルなニュースが流れた。


大阪市は紆余曲折の後に,大阪中之島美術館をスタートさせたが,大阪府はバブル時代の現代芸術文化センター構想を頓挫させてしまった。その過程で大阪府が収集していた7900点の美術作品(大阪府20世紀美術コレクション)が宙に浮いてしまう。その多くは受け皿として設置された大阪府立江之子島芸術文化創造センターで管理されているのだが,105件の大型作品は収容することができなくて,2017年から大阪府の咲洲庁舎地下駐車場の一角に放置されることとなった。

今年の2月には次のような記事が流れている。「10億円近くかけたのに美術館計画が頓挫、大阪府が苦肉の「バーチャル美術館」設置へ」,このニュースでは105件の駐車場物件には言及はないが,大阪・関西万博をからめた,前向きな取り組みとして紹介されている。

ところで,この度の事態の判明を受けて設置されたアート作品活用保全検討チーム(座長:山梨俊夫・前国立国際美術館館長,鷲田めるろ・十和田市現代美術館館長,木ノ下智恵子・大阪大21世紀懐徳堂准教授,上山信一・府特別顧問)の発言が早速毎日新聞の記事「デジタルで見られるなら処分も 地下駐車場美術品で大阪府特別顧問」になって,ネットで炎上している。あと「地下駐車場の美術作品をどう守る? 大阪府に専門の学芸員不在」とか。

記事における売却と処分の使い分けがどこまで正しいのかが微妙だし,そもそも作品の著作権処理がどうなっているかが分からないので,なんともいえないことが多い。しかし発言者があの上山信一で,彼が「デジタル化すれば処分してもいい」と言ったことに対して(本人は後に処分でなく売却のことだと弁明したが・・・)大ブーイングの嵐となったわけだ。

まあ,府市二重行政論者の大阪維新吉村=松井チームが,なぜ,大阪中之島美術館を設置したときにうまく処理しなかったのか,というつっこみはあるよね。

マッキンゼー出身の上山信一も昔は都市における芸術作品の意義というか,大阪の美術館の役割の重要性を吹聴しまわっていたくせに,このたびは,吉村の意向を受けて火消しに走るという節操のなさが重用されるポイントなのだろう。


P. S. 日本維新の会の馬場代表も,政治資金ロンダリング疑惑や福祉法人乗っ取りの話題で忙しいのだけれど,日本維新の会のマッチョイメージを覆すとして,刀を持って新撰組の羽織を着て鼻息荒く猪突猛進しそうなマスコット「いしんのしし」を宣伝して,こちらも大顰蹙となっていた。
1979年 岸昌府知事
1980年 中之島に大阪府立現代美術センター
1983年 (大阪市制100周年記念事業基本構想 近代美術館)
1988年 大阪府新美術館構想
1989年 現代芸術文化センター(仮称)の基本構想に関する報告書
1991年 中川和雄府知事
1995年 横山ノック府知事
1996年 「現代芸術文化センター(仮称)構想」の凍結
2000年 太田房江府知事
2001年 「現代芸術文化センター(仮称)構想」が正式に廃止
2007年12月 (平松市長)
2008年2月 橋下徹府知事
2008年6月 大阪府立現代美術センター廃止へ
2011年11月 松井一郎府知事・(橋下市長)
2012年3月 大阪府立現代美術センター廃館
2012年4月 大阪府立江之子島文化芸術創造センター開館
2013年2月 (大阪新美術館整備決定)
2015年12月 松井府知事・(吉村市長)
2017年 大阪府20世紀美術コレクションの一部105点を咲洲庁舎B3F駐車場に
2019年4月 吉村洋文府知事・(松井市長)
2022年2月 (大阪中之島美術館開館)
2023年2月 大阪府バーチャル美術館新設方針
2023年7月 咲洲庁舎B3F駐車場の美術コレクションが問題に
2023年8月 アート作品活用・保全検討チーム

2023年8月23日水曜日

イェンセン不等式

凸関数からの続き

夢の中で,n変数の相加平均が相乗平均より大きくなることの証明ができそうになった。

起きてから早速その続きを考えたけれど,残念ながらうまくいなかった。これは以前に鈴木貫太郎のチャンネルでも証明されていたが数学的帰納法を使っていたことしか憶えていない。

しかたがないので,インターネットで検索してその方法を調べた。簡単な方法として,イェンセン不等式を利用するものと,帰納法を使うのだけれど関数の極値問題に帰着させるものが見つかった。

イェンセン不等式という名前を聞いたことがなかったのでこちらで考えてみる。これは凸関数の性質を拡張したもので,$f(x)$を凸関数として次式で与えられる。

$\displaystyle \sum_{i=1}^n p_i f(x_i) \ge f(\sum_{i=1}^n p_i x_i )$  (ただし $ 0 \le p_i \le 1 $ かつ $\displaystyle \sum_{i=1}^n p_i = 1 $)

$n=2$の場合は凸関数の定義式を表わしている。$n=k$で成り立つと仮定して,$n=k+1$でも成り立つことを示せば良い。以下で,$q=\sum_{i=1}^k p_i, \quad q_i=p_i/q (i = 1 \dots k), \quad q+p_{k+1}=1$とする。

$\displaystyle \sum_{i=1}^{k+1} p_i f(x_i) = \sum_{i=1}^k p_i f(x_i) + p_{k+1} f(x_{k+1}) = q \sum_{i=1}^k q_i f(x_i) + p_{k+1} f(x_{k+1})$
$\displaystyle \ge q f(\sum_{i=1}^k q_i x_i) + p_{k+1} f(x_{k+1}) \ge f(q \sum_{i=1}^k q_i x_i + p_{k+1} x_{k+1}) = f(\sum_{i=1}^{k+1} p_i x_i ) $

これを使って$n$変数の相加平均と相乗平均の関係を出すために,
$f(x) = -\log x,\quad p_i=1/n$とする。
$\displaystyle \sum_{i=1}^n p_i (-\log x_i)  \ge -\log (\sum_{i=1}^n p_i x_i), \quad \frac{1}{n} \log (\prod_{i=1}^n x_i ) \le \log (\frac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_i)$

したがって,$n$変数の相加平均が相乗平均より大きくなることが示された。
$\displaystyle (\frac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_i) \ge \Bigl( \prod_{i=1}^n x_i \Bigr)^{1/n}$

2023年8月22日火曜日

教育と倫理(6)

教育と倫理(5)からの続き

小学生のころ道徳の時間はもっとも苦手だったのに,高校の倫理は最も真剣に授業をうけていた。そんなわけで,倫理という言葉にはなぜか過剰反応してしまうのかもしれない。

そもそも教育基本法がよくないのである。2006年12月,第一次安倍政権で公布された改正教育基本法だけではなく,戦後まもない1947年3月に公布された教育基本法もである。

教育基本法の第1条が教育の目的であり,改正前後とも「教育は、人格の完成を目指し(めざし)」となっている。改正によって前文を含めてこのあたりも微妙に日本国憲法の精神や歴史を切り離すような改変が加えられたという問題もあるのだが,そもそも人格の完成のところで自分の違和感メータが振り切れるのであった。

人格とは?それは完成するものか。それは目指すべきものか。いきなり疑問符があふれ出す。自分の中で人格という言葉とその周辺に形成されている意味群が標準的ではないからなのかもしれない。人格者=偽善者じゃないんですか。人格が完成した大人を見たことがありますか。人格=心理学のパーソナリティではないですよね。などなど。

それ以上は真面目に調べていなかったのだけれど,教育基本法の成立過程でもかなりの議論があったようだ。そもそも教育基本法における人格は心理学的概念ではなくて哲学的概念である


文部科学省にある,昭和22年教育基本法制定時の経緯等に関する資料によれば,教育刷新委員会による教育基本法案要綱案(1946年11月29日)では,教育の目的として「教育は、人間性の開発をめざし、」となっていた。

これを審議した教育刷新委員会の第一特別部会のメンバーは,芦田均羽渓了諦天野貞祐務台理作関口鯉吉森戸辰男河井道島田孝一であった。当初の8月から9月の文部省案には人格の完成という言葉があったが,教育刷新委員会における議論の末にこれは人間性の開発に変更された。

ところが,1947年3月の文部省最終案では,人格の完成に戻ってしまっている。これには時の文部大臣の田中耕太郎の意志が大きく働いている。田中はカトリックの法哲学者で後に最高裁判所の長官をつとめている。

宮村悠介[1]によれば,
なお,田中はカトリックの自然法論を思想的背景としており,「人格」の理解にも宗教的な色合いが濃い.つまり「人格の概念」は,人間が「自己の中にある動物的なものを克服して,神性に接近する使命を担っていることを内容とする」のであり,「人格の完成」も,人間を超える完全な人格の模範を必要とするから,「超人間的世界すなわち宗教に求めるほかはない」.今日の教育基本法の「人格の完成」という表現の背後には,こうした宗教的な人格理解がある.
また,山口意友[6]によれば,
人格は自由と分離すべからざる関係にある。人間が本能、衝動、情欲等を制御克服し、道徳的に行動する場合において、自由であり、自主的である。・・・以上のべたところによって人格は、教育基本法第一条の前身ともいうべき教育刷新委員会の建議中にいわれている「人間性の開発」の人間性と同じ意義のものではないことがわかる。・・・人間性の開発という表現は現実の人間性を意味するものと誤解される懸念があるから、人格の完成を以て一層適当とするのである。(田中耕太郎『教育基本法の理論』72~78頁参照)
というわけだ。さらに,
このように人格の完成という目的達成のためには、道徳的自由、すなわち意志の自律の存在が必須となるのです。さらにカントは、『単なる理性の限界内における宗教』という著作の中で、人間の素質を、①「生物としての人間の動物性の素質」、②「生物であると同時に理性的な存在者としての人間性の素質」、③「理性的であると同時に引責能力のある存在者としての人格性の素質」の三つに区分します。ここで示された三つの素質は、教育基本法における教育の目的が「人間性の開発」ではなくて「人格の完成」となった理由を理解するには有用です。恐らく田中耕太郎もカントのこの3区分を知っていたのではないかとも考えられます。
このように,ある教育の目的が「人格の完成」だということは,その教育の本質が道徳教育だと表明していることに他ならない。だから,教育基本法改正で細かな外堀が全部埋められたことを問題にする以前に,そもそもの出発点がおかしかったのである。

いや,もちろんおかしくないという意見もあるのだろう。AIアシスタントの時代に,教育の本質として要請されるのは,再定義された道徳教育=市民教育以外にはないのかもしれない。とすればなおさら人格の完成という言葉は馴染まないし使いたくないものだ。


追伸:単純にいえば,"Education is the transmission of knowledge, skills, and character traits. " (Wkipedia)なのだ。なお,道徳教育(3)における我流の教育の定義ではキャラクター≒性格のことは全くふれていないかった。それは教育という意識的な伝達過程を経るべきものなのだろうか。

追伸2:そうか,田中耕太郎は,砂川事件の最高裁裁判長だったのか。もう最悪ですね。日本の戦後教育の出発点はこんなところにあるのだった。

[2]教育基本法資料室へようこそ(文部科学省)
[5]「人格の完成」の思想的含意(田中智志)


2023年8月21日月曜日

教育と倫理(5)

教育と倫理(4)からの続き

デジタル技術によって生徒や学生の学習活動情報が容易に取得できるようになった。例えば,LMSへのアクセス情報,資料の参照ページ情報や,教材動画の視聴情報などである。それだけではなく,CBTにおける視線情報などが考えられるが,このような身体的情報についてはさらに可能な範囲がひろがる。

身体的情報として,脈拍や体表面温度,手や身体や頭の動作運動情報などもセンサーで取得できるだろう。さらに下手をすると,尿や血液の化学成分とか脳波情報にまで至るかもしれない。それが学習支援につながるかどうかは仮説と検証の結果次第である。

これまで生徒の発話情報や動作情報は,教員が直接に見聞きして確認できていた。そこまでは問題ないが,それを録音や録画する場合には許諾が必要かもしれない。これらは生徒が意識的に制御できる身体=言語情報だ。ところで上記にあげたような,学習場面において自分が意識で制御できない身体的情報の取得はそもそも倫理的に許されるのだろうか。

個人情報保護法と同じような原則で考えれば良いのかもしれない。「目的明示の原則」「利用範囲の原則」「収集過程の原則」「真正情報の原則」「情報保護の原則」「過程公開の原則」「個人参加の原則」「管理責任の原則」がその基本原則である。
目的明示の原則
 個人情報を収集する際には,その利用目的を明確にし,その目的の範囲内でのみ情報を使用する。不必要な情報を収集しないよう努めることも含まれる。
利用範囲の原則
 収集した個人情報は,事前に明示または公表した利用目的の範囲内でのみ使用し,その目的外での利用や第三者への提供は原則として行わない。
収集過程の原則
 個人情報は,適切な方法で,利用目的を達成するために必要な範囲内で収集する。不正な手段や偽りの手段での収集は禁止される。
真正情報の原則
 収集した個人情報は,利用目的を達成するために必要な正確性と最新性を持つように努める。不正確な情報は適切に訂正や削除を行う。
情報保護の原則
 個人情報は適切に管理し,不正アクセス,紛失,破壊,改ざん,漏洩などのリスクから保護するための措置を講じる。
過程公開の原則
 個人情報の取扱いに関する方針や手続きを公開し,透明性を確保する。また,収集した情報の内容や利用目的などを適切に開示する。
個人参加の原則
 個人が自らの情報にアクセスしたり,訂正や削除を求めることができるような仕組みを提供する。これにより,情報の正確性や適切な利用を保証する。
管理責任の原則
 個人情報の取扱いに関する責任を組織全体で負う。組織のリーダーや管理者は,適切な管理や教育を行い,情報の適切な取扱いを確保する。
やはり個人参加の原則あたりがポイントかもしれないが,テクニカルな問題に帰着する。

そういえば脳波は40年以上前に,理科教育の松本勝信先生がやっていたのだった。一番センシティブなのは脳波かと思っていたら,すでにそれを使ったアプリまであった。例えば,脳波を用いた学習者のモーティべーションの可視化のようなもの。

[2]FocusCalm
[3]Muse2・・・瞑想フィードバック,ちょっと違う?

2023年8月20日日曜日

教育と倫理(4)

教育と倫理(3)からの続き

仲矢さん自身が,「もし居眠りするのであれば,それはその人に居眠りする理由が存在するのだ」として,居眠り検出器であることを否定しているのだが,一般には個人を特定した居眠り検出器のようにみられている。立ち歩きなどの問題行動検出器だとは説明しにくいし,実際それが授業支援に役立つというのは理解しにくいだろう。

そこで「これ国会で使ってください」という皮肉なコメントがつくことになる。


中学校時代の国語の教生の先生で,学期にわたってクラスに入ってくれた方がいた。度のきつい眼鏡をかけた先生だったが,もう名前も忘れてしまった。彼女が,授業を始める前に最初に全員に向かって話したのが,「私は寝ている生徒がいても起して叱ることはありません」ということだった。それぞれの生徒には色々な事情があって,授業中に眠ってしまうことがあるかもしれないけれど,それは認めますということだ。中学3年の東京修学旅行の最後の訪問地が羽田飛行場で,すでにやめていたその先生が久しぶりにみんなに会いに来てくれていた。


一方,豊福さんの原理主義的な主張もなかなかハードルが高い。インフォームドコンセントまではよいけれど,はたしてデータハンドリングを学習者当事者に任せることが可能なのだろうか。

テキストデータとしての学習履歴などは可能だと思うが,センサーから取得した生データのようなものはどうなるのだろうか。一律ONとOFF以外のケースはなかなか面倒なことになりそうだし,データの完備性は損なわれざるを得ない。

教育という営みの非対称性は認めるにしても,完全にイーブンな形は想像しにくい。それは,これまでの古い教育観に完全に染まった自分に学習者視点が欠けているからかもしれないし,あるいは過度なポリティカルコレクトネスのようにも思う。芦田宏直さんならまた別の物語を展開するだろう。

2023年8月19日土曜日

教育と倫理(3)

教育と倫理(2)からの続き

もう一度出発点に立ち戻ってみる。仲矢さんがこのシステム開発を始めたのは,同じ大阪教育大学の庭山和喜さんの研究がきっかけになっている。

その論文は,2020年度の日本教育心理学会の城戸奨励賞を受賞した,「中学校における教師の言語賞賛の増加が生徒指導上の問題発生率に及ぼす効果 ―学年規模のポジティブ行動支援による問題行動予防― 」である。公立中学校2年生を対象として,授業中の教師の言語賞賛回数の増加によって,生徒の授業参加行動が促進されることで, 相対的に問題行動は減少するのかについて検証したものだ。

その問題行動というのが居眠りではなくて,「授業中に複数の生徒が立ち歩いたり,離れた席の生徒間で私語をしたり,物を投げたりといった様子が観察されていた」というレベルのものであり,研究のためにはこれを定量的に記録する必要があったのだ。

ただし,研究遂行上の作業負荷としては,教員の言語称賛回数の記録の方が大きいので,教員の発話を全て記録してこれを分析するシステムを開発するほうが有効だったような気がするが,そのあたりの事情はわからない。

ともかく,このサーマルカメラAIシステムを分かりやすく説明するために居眠りの例を持ち出したため,話が面倒になっている。そもそも,研究段階では立ち歩く生徒数の定量的に把握することは意味があるのだけれど,これを一般に利用される授業支援システムとして考えるというのはどうもしっくり来ない。

(1) 一般論として,隠れたデータの可視化が授業改善に資することはあるだろう。
(2) サーマルカメラAIシステムは研究目的では有効な場合があると思う。
(3) しかしこれを常時使用することで授業改善につながるとは考えにくい。
   検出される問題行動は定量化以前の課題として教員に認識されているからだ。
(4) むしろ教室の常時監視状態を実現することが及ぼす影響のほうが気になる。
(5) これが生徒もしくは教員のパフォーマンスの評価に用いられる危険性は高そうだ。

庭山さんの論文の最後は次のようになっている。
また本研究では,問題行動の指標として,学校現場で日常的に記録されている生徒指導上の問題の記録をデータ化して用いた。これは,問題行動予防のための取り組みの成果を,学校現場内で常にモニタリングするために有効かつ比較的低コストなデータ収集方法である。児童生徒の問題行動予防のための効果的な取り組みが求められる中で,今後は学校内で日常的に運用可能なデータ収集システムを確立し,問題行動を予防するための組織的支援の効果について,実践研究を積み重ねていく必要がある。
これが影響したのかもしれないが,本質は個人ごとのテキスト形式ワークシートの共有化なので,今回の匿名化されたサーマルカメラAIシステム的なデータのことではないはずなのだけれど。

2023年8月18日金曜日

教育と倫理(2)

教育と倫理(1)からの続き

そこで次のような問いを,最近バカになってきているとあまり評判が芳しくないGPT-4(August-3)に投げてみてた。

Q:User
教室全体の様子を赤外線カメラにおさめて,学生や生徒が居眠りしているかどうか(個人までは識別しない)をAIによって(深層学習システムを用いて)画像解析し,これを授業改善に結びつけるシステムの開発に成功したという教員養成系大学の研究グループからの発表がありました。

これに対して,賛否両論があって議論が盛り上がっています。教育工学あるいは教育倫理学の立場から,このシステムの可能性をどのように評価すべきでしょうか。あるいはどのような問題点を抱えているでしょうか。具体的に箇条書きによって解説してください。
 
A:ChatGPT
このようなシステムには確かに多くの可能性がありますが、同時に多くの問題点も考慮する必要があります。教育工学や教育倫理学の視点から考慮すべきポイントを以下に箇条書きでまとめます。

可能性

1. 授業改善:生徒の反応をリアルタイムでキャッチすることで、教師が授業の内容やペースを調整する手助けとなる。

2. データ駆動の教育:長期的なデータ分析により、特定のテーマや時間帯に生徒の興味が低下する傾向などを発見できる。

3. 個人情報保護:個人を識別しないシステムであれば、プライバシーの懸念が少なくなる可能性がある。

問題点

1. プライバシーの侵害:個人を識別しないとしても、生徒の行動を監視することはプライバシーの侵害と見なされる可能性がある。

2. 圧力とストレス:このようなシステムが導入されると、生徒が常に監視されていると感じることでストレスを感じる可能性がある。

3. 評価基準の偏り:居眠りをする生徒が授業に興味がないとは限らない。体調や前夜の睡眠不足など、多くの要因が考慮されるべきである。

4. 技術的誤検知:AIの誤検知や技術的な制約により、正確なデータが得られない場合が考えられる。

5. 教育の本質:授業の質を生徒の居眠りの有無で判断することは、教育の本質から逸脱する恐れがある。

6. 倫理的な問題:教育現場での技術導入は、その目的や手段が明確である必要があり、適切なガイドラインや枠組みのもとで行われるべきである。

以上のように、このシステムの導入には様々な側面が考慮される必要があります。教育現場での技術の利用は、その利点とリスクを十分に評価し、関係者全員の合意のもとで慎重に進めることが求められます。

2023年8月17日木曜日

教育と倫理(1)

ことの発端は,8月3日の大阪教育大学の記者発表である。

その内容は,サーマルカメラのAI画像分析によって,生徒の活動状況(寝ているかどうか等)を判別して授業改善に利用しようというものだ。NHKの関西版ニュースにも「授業中の居眠りをAIで検出,大阪教育大学がシステム開発」として取り上げられていた。このご時世なのでなんであれ,大学がニュースに取り上げられるのは結構なのですが・・・。

さっそく反論があった。最も本質的なものの一つが,豊福晋平さんのFacebookのコメントツリーの中にある彼自身の発言だ。
テクノロジーは道徳のない増幅機である
学習者の学びを支えたいのか、それとも、相手の行動を好き勝手にコントロールしたいのか、テクノロジーは人の欲望をグロテスク化させる。 
この事例は開発者のかなりアレな学習観を暴露していて痛快ですらあるのだが、もっと踏み込んで言えば、大学広報として公式に扱う以上、組織の教育・学習観も所詮その程度のものということだ。

・・・途中のレスにもあったように、彼らの価値観は教師主導の授業改善がベースで(朝日新聞にはそう説明したんでしょう)、実はそこにあるデータ所有の非対称性や恣意的な解釈・権威付けが批判されているのに、それに気付けない。問題はそこにあります。

研究だから何でもイノセントでよいわけではなく、その背景や価値の方向付けにはこと自覚的であるべきで、倫理的・社会的にそれが許容されるのか否かについては余計に慎重であらねばならない、ということですね。 

これはぜひ覚えておいて欲しいのですが、学習者視点の欠如はかなり深刻な問題です。

データの取得・分析・フィードバックが学校のような非対称の関係性のなかで行われれば、インフォームドコンセントの欠如、データの強制取得、データの恣意的運用による不利益が生じる可能性があります。これはテストデータや学習履歴についてもまったく同じです。

学習者側の直接的なメリットがあること、データハンドリングを学習者当事者に任せることが条件になると思います。一方的にデータを吸い上げて授業改善は理由になりません。


一方,その他の様々な批判に対してFacebookの仲矢史雄さんは次のように語っている。
教育改革は教師だけの責任にしたり、学生の努力不足と決めつけてはならない。
本当に改善を進めるためには、客観的な観察と記録が必要で、これは細部にわたる長時間の作業を要求する。 
これまでは人間がその役割を担ってきたが、その作業負荷は大きすぎた。
現代の技術を活用して、これらのプロセスをデータ化することが望まれていた。
それは表面的な応用ではないという理解が必要だ。 
だれが特に居眠り検出装置のような短絡的な目的のためにこれを作るのだろうか。もし居眠りするのであれば、それはその人に居眠りする理由が存在するのだ。しかし、今回の取組が報道によって、分かりやすい部分だけ切りとられることは、メディアの性質として避けられない現実。 
もし私たちのプロジェクトがそのような切り取り方で紹介されることを嫌がるのであれば、情報を公開しなければいい。しかし、新たな取り組みが他の人々に利用されるためには、予想外の解釈をされる可能性を理解した上で、腹をくくって情報を公開しなければならない。道のりは遠い。

お二人ともを良く知っているだけになかなか考えさせられる。

仲矢さんは昔から附属で表情分析システムのようなことをやっていて,そのころの自分は深く考える前に「なかなか面白いですね」と応援していた。ただ,今回のシステムがどれほど価値があるのかはよくわからない。日立の研究者によるウェラブルセンサーによる長時間動作解析の可能性については,何年か前に読んだことがあって,たいへん面白いと思ったことがあるのだが。

自分が40-200人規模の大学の授業で「サーマルカメラシステム」を使えるとなったときに,果たして使うだろうか。居眠りしているかどうかは学生をみればわかる。授業のどの場面で集中が切れるかを細かく分析してなくとも,ある程度は直感的に全体像をつかみながら,テーマの選択や話の展開の改善にはぼんやりとつなげていた。いらないかな。

これがウェラブルセンサーであって,普通は見えにくい学生の活動情報を収集できるというのであれば,ちょっと面倒だが試そうと思ったかもしれない。しかしその場合,取得データを評価と結びつけたいという誘惑から逃れる自信はない。さらに,自分が大学管理者の側に立ったときに,これを教員の教育評価と結びつけようと積極的に主張し始めるかもしれない。地獄に続く道への第一歩。

豊福さんの「テクノロジーは人の欲望をグロテスク化させる」というのは自分に当てはめてみるとよくわかる。

2023年8月16日水曜日

空間ID

空間IDとは,経済産業省が整備を進めているデータ規格で特定の場所や地物情報を一意に識別するための識別子だ。

現実の空間を「ボクセル」と呼ばれる3次元空間を直方格子状に分割した直方体で区切り,その一つ一つに,地理的な座標や静的な情報(建物や設備データなど),動的な情報(気象情報や人流データなど)を紐付けた固定のIDを付与することで,特定の空間の情報を一意に識別する。

ボクセルのサイズを1辺50cmの立方体とする。日本の面積が37万㎢で,海まで含めてその3倍の面積100万㎢を考え,高さ9km深さ1kmの体積を考えると,10^7立方キロメートル= 10^16㎥なので,ボクセルでいうと,10^17ボクセルになり56ビットで表現できる。

でも実際はそんな単純なスキームではなくて,もう少しややこしいことになっているようだ。一方,総務省はG空間というものを提起していたけれどどうなのか。

2023年8月15日火曜日

ビジネスと人権

7月24日から8月4日まで,国連連合人権理事会による「ビジネスと人権」ワーキンググループの訪日調査が行われた。

最終日に日本記者クラブで記者会見が行われた。70分の説明の後,30分ほどの質疑応答があったけれど,申し訳程度に1件だけダミーの質問があった以外は,すべてジャニーズ事務所セクシャルハラスメント問題に費やされていた。なんなのだろう。

実際には,訪日調査の速報は下記引用部のような配分になっていた。()内は当該節の文字数である。

つまり,ジャニーズ問題より多くの部分が,技能実習生制度(雇用主による度重なるヘイトスピーチなど,韓国人・中国人労働者に対する外国人差別の事例を含むや,自然環境=東京電力福島原発の廃炉作業に関わる多重下請けと強制労働の問題に費やされていた。さらに,福島原発の処理水の排出と米軍基地周辺におけるPFASも取り上げられている。

リスクのあるグループとして最初に取り上げられているのは,女性とLGBTQI+の話題であって,日本会議や統一教会と強く相互作用している自由民主党宗教右派が頑強に抵抗しているテーマであった。なお,ジャニーズ問題を含むメディアとエンターテインメント産業の項でも女性記者に対するハラスメントや差別が言及されている。

最初に,GPT-4のプラグインを使ってこの英文報告ファイルを読み込んで要約させたが,どうもおかしいので原文を確認したところ,その要約は全く的を外していた。それで,DeepLに和訳させて下記のデータを整理したのだけれど,実は,報告の日本語版もちゃんと存在していたのだった。
国連ビジネスと人権作業部会訪日ミッション(7月24日~8月4日) (14160)

【1】はじめに(1084)

【2】日本におけるビジネスと人権の一般的背景(5140)
2−1 人権を保護する国家の義務(1193)
2−2 人権を尊重する企業の責任(3766)
2−3 救済へのアクセス(2088)
・国家に基づく司法メカニズム(528)
・国家に基づく非司法的苦情処理メカニズム(777)
・国家を基盤としない苦情処理メカニズム(705)

【3】利害関係者グループおよび問題関心分野(6605)
3−1 リスクのあるステークホルダー・グループ(2804)
(1)・女性(565)
(2)・LGBTQI+(467)
(3)・障害者(514)
(4)・先住民族(632)
(5)・部落(457)
(6)・労働組合(117)
3−2 テーマ別分野(3451)
(1)・健康、気候変動、自然環境(1662)
(2)・技能実習生訓練プログラムと移民労働者(927)
(3)・メディアとエンターテインメント産業(804)

【4】結論(825)


図:ビジネスと人権の関係(ヒューマンライツ・ナウから引用)


2023年8月14日月曜日

LK-99

7月22日にarxivで公開された常温常圧超伝導の話題が,8月に入るとすぐ盛り上がっていた。

LK-99 が,常温常圧超伝導を示すといわれる物質名である。話題の論文の筆頭著者(化学者)である,S. Lee (李石培 이석배) と J-H. Kim (金智勳 김지훈) が1999年に発見した。六方晶系の鉛アパタイト(Pb10(PO4)6O) の鉛のいくつかを銅で置換したものであり,論文には登録商標マーク(LK-99®)があって,特許も取得している

中央大学の田口善弘さんが,arxivに上がっているプレプリントのクオリティをディスっていた。もしかするとその一部は著者らの専門が化学であって物理分野とは違う文化であることに起因するのかもしれない。物質名(通称)の命名方法(著者名イニシャルを含める)とか登録商標についてもそのあたりなのだろうか。

追試過程の報告があちこちからでているが,ネガティブなものと気持ちポジティブなものが混在していて,いきなり全否定というわけでもないようだ。例の常温超高圧超伝導の件よりは少しマシかもしれない。なお,このグループは2020年にNatureに同趣旨の論文を投稿しているが不採用だった。さらに,今回の論文を巡っては著者グループ間には微妙な確執があるとかないとかいう話だ。

この実験を受けて,理論サイドでは,密度汎関数理論(DFT)などの第一原理計算によるシミュレーションがなんらかの可能性を示唆するという論文が続出している。LK-99がだめでも新しい物質の可能性があるのではないかという楽しげな雰囲気も漂っている。まあどんなケースでもそれらしい理論は作れてしまうというのが世の常なのだけれど。

1986年の高温超伝導フィーバーのときは,物性実験の人達がこぞって乳鉢で材料を調整し,論文を書いていたが,そのときの熱気に近いものが立ち上がりつつある。YouTubeの浮上実験の動画を見て,単なる反磁性だという説とか反磁性だとしてもすごいのではないかという説が入り交じり,DIY素人が実験に参戦しつつあるらしい

なお,最新の変化しつつある情報は,英語版WikipediaのLK-99に詳しい。



図:高温超伝導の歴史(Wikipediaから引用)

P. S.  8月第2週に入って,400Kにおける抵抗値の減少が不純物のCuSの1次相転移によるものであり,浮上は強磁性由来だということで決着しそうな気配がただよってきた。祭りは終了。


2023年8月13日日曜日

模擬原爆

先週の8月6日は78回目の原爆忌だった。

1945年7月,広島や長崎(予定では小倉,もしくは候補としての新潟)に原爆を投下するための実験や訓練のために模擬原爆(パンプキン爆弾)が日本に多数投下されたというニュースがあった。もしかすると,1973年の夏の旅行で訪れた広島平和記念資料館で展示を見たかもしれないが,全く記憶から消えていた。
パンプキン爆弾は,「原爆投下に備えた爆撃機乗員訓練のためと,今までに例のない特殊な形状をしたファットマン(引用注:長崎に投下されたプルトニウム爆弾)が爆撃機(原爆搭載が可能なように特別に改修したB-29)から投下され爆発するまでの弾道特性・慣性能率等の様々な事前データ採取のために,いわば「模擬原爆」として製作された。」(Wikipediaから引用)
平和祈念資料館によれば,「1945年(昭和20年)7月20日から8月14日までの間に49発が投下され、1,600人以上の死傷者が出ました。」ということであり,8月9日の長崎の後も続いていた。模擬原爆投下の目標とされたのは,当初の原爆投下候補地だった京都市,広島市,新潟市,小倉市の各都市を含む4つのエリアに分けた周辺都市である。例えば,富山市には4発も投下されていた。


図:模擬版段の投下(西日本新聞から引用)

[1] もう一つの「原爆」大阪に落とされた模擬原爆(大阪日日新聞)
[2]模擬原子爆弾投下跡地之碑(大阪市東住吉区)

2023年8月12日土曜日

(夏休み 12)

祖父・祖母・男孫・女孫
 할아버지(halabeoji) 할머니(halmeoni) 손자(sonja) 손녀(sonyeo)

2023年8月11日金曜日

(夏休み 11)

兄・姉・弟・妹
현(hyeong) 누나(nuna) 남동생(namdongsaeng) 여동생(yeodongsaeng)

2023年8月10日木曜日

2023年8月9日水曜日

2023年8月8日火曜日

2023年8月7日月曜日

2023年8月6日日曜日

2023年8月5日土曜日

2023年8月4日金曜日

2023年8月2日水曜日

2023年8月1日火曜日

2023年7月31日月曜日

コーシー=シュワルツの不等式


数理統計学を真面目に勉強してこなかったのでいろいろ不都合が生じている。統計的因果推論とか深層機械学習とか量子測定理論とか,簡単に読み砕けない資料がたくさんたまる。

授業で扱った最小二乗法と実験誤差の話を整理しようとしても,背景には数理統計学が控えている。昔,阪大の南園グループによるベータ崩壊の実験と我々の理論を突き合わせたときに,χスクェアフィットの計算を散々繰り返したけれど,所与の公式を使うだけであってその理論的根拠をつきつめて考えたはしなかった。

そこで最初から勉強を始めようとすると,いきなり確率変数でつまづくのだった。コンピュータプログラムのサブルーチンや関数のようなものだと思えば納得できるといえばいえるのだけれど,自然言語と数学的記号を使って理解しようとするとなかなかその本質がつかみきれない。入門書は沢山あるけれど,どれも何だか気持ち悪い。

竹村彰道(1952-)さんの現代数理統計学の本(旧版)が手元にあって,読みやすいかなとページをめくってみると,記述統計の復習から始まった。これなら大丈夫かと思いきや,いきなり,標本相関関数の大きさが -1から 1の範囲に限定されることは,コーシー=シュワルツの不等式を用いて容易に示すことができると説明無しにあった。

n次元ユークリッド空間のベクトルの内積の話だと思えばそのとおりなのだけれど,証明したことはなかったかも。Wikipediaでは数学的帰納法で証明していた。$A_k=(a_1,\ a_2,\ \cdots,\ a_k),\ B_k=(b_1,\ b_2,\ \cdots,\ b_k),\ $として,$\displaystyle S^{aa}_k=\sum_{i=1}^k a_i^2,\ S^{bb}_k=\sum_{i=1}^k b_i^2,\ S^{ab}_k=\sum_{i=1}^k a_i b_i, \quad R^{ab}_k=\frac{S^{ab}_k}{\sqrt{S^{aa}_k S^{bb}_k}} $
つまり,$ \bigl( S^{ab}_k \bigr)^2  \le S^{aa}_k S^{bb}_k$を証明すれば良い。

$k=1$の場合は,$ \bigl( S^{ab}_1 \bigr)^2 -  S^{aa}_1 S^{bb}_1 = (a_1 b_1)^2- (a_1^2)(b_1^2) = 0 $

$k=2$の場合は,$ \bigl( S^{ab}_2 \bigr)^2 -  S^{aa}_2 S^{bb}_2 = (a_1 b_1+a_2 b_2)^2- (a_1^2+a_2^2)(b_1^2+b_2^2) =  -(a_1 b_2- a_2 b_1)^2  < 0 $

$k \ge 2$に対して,$ \bigl( S^{ab}_k \bigr)^2  \le S^{aa}_k S^{bb}_k$ が成り立つと仮定して,$k+1$の場合を考える。与式は,$ \bigl( S^{ab}_k + a_{k+1}b_{k+1} \bigr)^2 - \bigl( S^{aa}_k + a_{k+1}^2 \bigr) \bigl(  S^{bb}_k + b_{k+1}^2 \bigr) $
$= \bigl( S^{ab}_k  \bigr)^2 - S^{aa}_k S^{bb}_k - \Bigl( a_{k+1}^2 S^{bb}_k + b_{k+1}^2 S^{aa}_k -2 a_{k+1}b_{k+1} S^{ab}_k \Bigr)$
$= \bigl( S^{ab}_k  \bigr)^2 - S^{aa}_k S^{bb}_k - \sum_{i=1}^k \Bigl( a_{k+1}^2 b_i^2 + b_{k+1}^2 a_i^2 -2 a_{k+1}b_{k+1} a_i b_i \Bigr)$
$=\bigl( S^{ab}_k  \bigr)^2 - S^{aa}_k S^{bb}_k - \sum_{i=1}^k \Bigl( a_{k+1} b_i - b_{k+1} a_i \Bigr)^2 < 0$

Wikipediaの証明などでは,$a_i, b_i >0$の場合だけに妥当するものが多いのでちょっと困る。
まあ,$\displaystyle f_k(x) = \sum_{i=1}^k (a_i x - b_i)^2$ の判別式$D \le 0$から証明するのが最も簡単なのだけど。


[1]賢者に学ぶ統計学の智(西内啓×竹村彰通,ダイヤモンド社)

2023年7月30日日曜日

最小二乗法(6)

最小二乗法(5)からの続き

実験データを$y = a x + b$にフィットする場合,最小二乗法で$(a,\  b)$とその平均二乗誤差$(\sigma_a^2,\ \sigma_b^2)$を求めてきた。これを,$y = f(x) = a x^2 + b x + c\ $に拡張して,自由度3が登場するかどうかを確認してみる。吉澤康和さんの「新しい誤差論」には結果だけ書いてある。

(1) a, b, c を決定する正規方程式とその解

$ \begin{pmatrix}\overline{x^4} & \overline{x^3} & \overline{x^2} \\ \overline{x^3} & \overline{x^2} & \overline{x^1} \\ \overline{x^2} & \overline{x} & 1 \\ \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a \\ b \\ c \\ \end{pmatrix}= \begin{pmatrix}\overline{x^2\ y}\\ \overline{x\ y} \\ \overline{y} \\ \end{pmatrix}$ 

$ \begin{pmatrix} a \\ b \\ c \\ \end{pmatrix}= \dfrac{1}{\Delta_3} \begin{pmatrix}\overline{x^2\ y}(\overline{x^2}-\overline{x}^2)+\overline{x\ y}(\overline{x^2}\overline{x}-\overline{x^3})+\overline{y}(\overline{x^3}\overline{x}-\overline{x^2}^2)  \\ \overline{x^2\ y}(\overline{x^2}\overline{x}-\overline{x^3}) + \overline{x\ y}(\overline{x^4}-\overline{x^2}^2) + \overline{y}(\overline{x^3}\overline{x^2}-\overline{x^4}\overline{x}) \\ \overline{x^2\ y}(\overline{x^3}\overline{x}-\overline{x^2}^2) + \overline{x\ y}(\overline{x^3}\overline{x^2}-\overline{x^4}\overline{x}) +\overline{y}(\overline{x^4}\overline{x^2}-\overline{x^3}^2) \\ \end{pmatrix}$ 

ただし,$\Delta_3 = \overline{x^4}\overline{x^2}+2\overline{x^3}\overline{x^2}\overline{x}-\overline{x^2}^3-\overline{x^3}^2-\overline{x^4}\overline{x}^2$

$y_i$を共通の平均二乗誤差$\sigma^2_y$を持つ独立変数として,誤差伝播の法則より,

$\displaystyle \sigma_a^2= \sum_{i=1}^n \Bigl( \frac{\partial a}{\partial y_i}\Bigr) ^2 \sigma_y^2, \quad \sigma_b^2= \sum_{i=1}^n \Bigl( \frac{\partial b}{\partial y_i}\Bigr) ^2 \sigma_y^2 , \quad \sigma_c^2= \sum_{i=1}^n \Bigl( \frac{\partial c}{\partial y_i}\Bigr) ^2 \sigma_y^2 $ 

さらに,真の値$f_0(x_i)=a_0 x_i^2 + b_0 x_i + c_0$に対して,$\varepsilon_i = y_i -f(x_i)+ f(x_i) -f_0(x_i) =  \delta_i + f(x_i) -f_0(x_i) $ として,$\displaystyle \sigma_y^2 = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n \varepsilon_i^2 = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n \Bigl\{ \delta_i^2 + \tilde{\sigma}^2_{f(x_i)} \Bigr\}$

ところで,$\displaystyle \tilde{\sigma}^2_{f(x_i)} = \sum_{j=1}^n \Bigl\{ \frac{\partial(a x_i^2 + b x_i + c)}{\partial y_j}\Bigr\}^2$ であり,この項を再度  $\sigma_y^2$ で表してもとの式に戻して計算すれば良い。

つまり,$\displaystyle \frac{\partial a}{\partial y_j}, \  \frac{\partial b}{\partial y_j},\  \frac{\partial c}{\partial y_j}$が計算できればよいことになる。
$\displaystyle \frac{\partial a}{\partial y_j}=\frac{1}{n \Delta_3}\Bigl\{ x_j^2 (\overline{x^2}-\overline{x}^2)+ x_j(\overline{x^2}\overline{x}-\overline{x^3})+(\overline{x^3}\overline{x}-\overline{x^2}^2) \Bigr\}$
$\displaystyle \frac{\partial b}{\partial y_j}=\frac{1}{n \Delta_3}\Bigl\{ x_j^2 (\overline{x^2}\overline{x}-\overline{x^3}) + x_j (\overline{x^4}-\overline{x^2}^2) + (\overline{x^3}\overline{x^2}-\overline{x^4}\overline{x}) \Bigr\}$
$\displaystyle \frac{\partial c}{\partial y_j}=\frac{1}{n \Delta_3}\Bigl\{ x_j^2 (\overline{x^3}\overline{x}-\overline{x^2}^2) + x_j (\overline{x^3}\overline{x^2}-\overline{x^4}\overline{x}) +(\overline{x^4}\overline{x^2}-\overline{x^3}^2) \Bigr\}$

Mathematicaの力を借りると,計算結果が因数分解できて分子から$\Delta_3$が出る。
$\displaystyle \sigma_a^2 = \sum_{j=1}^n \Bigl( \frac{\partial a}{\partial y_j}\Bigr) ^2 = \frac{1}{n \Delta_3} \bigl( \overline{x^2} -\overline{x}^2 \bigr) \sigma_y^2$
$\displaystyle \sigma_b^2 = \sum_{j=1}^n \Bigl( \frac{\partial b}{\partial y_j}\Bigr) ^2 = \frac{1}{n \Delta_3} \bigl( \overline{x^4} - \overline{x^2}^2 \bigr) \sigma_y^2$
$\displaystyle \sigma_c^2 = \sum_{j=1}^n \Bigl( \frac{\partial c}{\partial y_j}\Bigr) ^2 = \frac{1}{n \Delta_3} \bigl( \overline{x^4} \overline{x^2}-\overline{x^3}^2  \bigr) \sigma_y^2$

$\displaystyle \sum_{j=1}^n \Bigl( \frac{\partial a}{\partial y_j}\frac{\partial b}{\partial y_j}\Bigr)  = \frac{1}{n \Delta_3} \bigl( \overline{x}\overline{x^2} -\overline{x^3} \bigr) \sigma_y^2$
$\displaystyle \sum_{j=1}^n \Bigl( \frac{\partial b}{\partial y_j}\frac{\partial c}{\partial y_j}\Bigr)  = \frac{1}{n \Delta_3} \bigl( \overline{x^2}\overline{x^3} - \overline{x}\overline{x^4} \bigr) \sigma_y^2$
$\displaystyle \sum_{j=1}^n \Bigl( \frac{\partial c}{\partial y_j}\frac{\partial a}{\partial y_j}\Bigr)  = \frac{1}{n \Delta_3} \bigl( \overline{x^4} \overline{x^2}-\overline{x^3}^2  \bigr) \sigma_y^2$

このとき
$\displaystyle \tilde{\sigma}^2_{f(x_i)}= \sum_{j=1}^n \Bigl\{ \frac{\partial a}{\partial y_i} x_i^2 + \frac{\partial b}{\partial y_j} x_i + \frac{\partial c}{\partial y_j} \Bigr\} ^2 = \frac{\sigma_y^2}{n \Delta_3} $
$\Bigl\{\bigl( \overline{x^2}-\overline{x}^2 \bigr) x_i^4 + 2 \bigl( \overline{x}\overline{x^3} -\overline{x^3} \bigr) x_i^3 + \bigl( \overline{x^4}-\overline{x^2}^2 + 2( \overline{x^3}\overline{x} - \overline{x^2}^2) \bigr) x_i^2 $
$+ 2\bigl( \overline{x^2}\overline{x^3} - \overline{x} \overline{x^4} \bigr) x_i + \bigl( \overline{x^2}\overline{x^4}-\overline{x^3}^2 \bigr)  \Bigr\}$

$x_i$について平均操作するとMathematicaを使い分子から$\Delta_3$が出ると。
$\displaystyle \frac{1}{n}\sum_{i=1}^n  \tilde{\sigma}^2_{f(x_i)} = \frac{\sigma_y^2}{n \Delta_3}$
$\Bigl\{\bigl( \overline{x^2}-\overline{x}^2 \bigr) \overline{x^4}+ 2 \bigl( \overline{x}\overline{x^3} -\overline{x^3} \bigr) \overline{x^3} + \bigl( \overline{x^4}-\overline{x^2}^2 + 2( \overline{x^3}\overline{x} - \overline{x^2}^2) \bigr) \overline{x^2} $
$\displaystyle + 2\bigl( \overline{x^2}\overline{x^3} - \overline{x} \overline{x^4} \bigr) \overline{x}+ \bigl( \overline{x^2}\overline{x^4}-\overline{x^3}^2 \bigr)  \Bigr\} = \frac{3}{n} \sigma_y^2$

したがって,自由度n-3の場合の式が得られた。
$\displaystyle \sigma_y^2 = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n \Bigl\{ \delta_i^2 + \tilde{\sigma}^2_{f(x_i)} \Bigr\} =  \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n  \delta_i^2 + \frac{3}{n} \sigma_y^2$
$\displaystyle \therefore \sigma_y^2 = \frac{1}{n-3} \sum_{i=1}^n \delta_i^2$

2023年7月29日土曜日

フランクになろう

楠本君から同窓会出席の連絡メールがあった。そこに,次のエピソードが書かれていた。
あなたは、私たちの学生時代に いつぞや、「人間に関する問題の解決のためには(…だったか、このあたりの私の記憶は不正確です)、すべての人びとが神経で繋がっていればよいのだ」、というような言葉を言った事を覚えていますか? 変な事を言う人だなぁ、と私は強く印象付けられたので、忘れずに覚えています。言葉は正確ではありませんが、大体そのような事をあなたは言っていました。

全く憶えていないのだけれど,自分ならばそういうことをいうかもしれない。次の返事を書いた。

「人間に関する問題の解決のためには、すべての人びとが神経で繋がっていればよいのだ」と自分がいった記憶はないのですが,そのようなことを言いそうな気もします。高校時代によんだブライアン・オールディスのSFに「フランクに行こう(Let’s be Frank)」というのがあって,遺伝によって単一意識が複数の人の上に実現するというものです。
SFマガジンの1969年10月号(No. 125)に「フランクになろう(Let's Be Frank)」 として掲載されたものだ。高校2年のときだけれど,いつまでも記憶に残る短編だった。創元推理文庫のジュディス・メリルの短編集では「率直(フランク)に行こう」という題名になっていた。

さがしてみると,archive.orgに原文があったのでDeepLにかけて再読してみた。

アン・ブーリンがロンドン塔で処刑されてから4年後なので1540年ころから物語は始まる(ちなみに,トマス・モアがロンドン塔で斬首されたのは1535年)。サー・フランク・グラッドウェッブに男の子が生まれたが19年間眠り続けたままだった。彼が目覚めた時サー・フランクは驚愕した。同じくフランクと名づけた息子の目を通して自分を見ているのだった。つまり同一意識が2人の人の上に実現したわけだ。そして子孫にそのままその能力は受け継がれ,20代目の2015年には1つのフランクという意識(男女や身分階級を越えて)が3億人に達していた。そして..
「21世紀の初めには、グレートブリテン島はフランク族だけで構成されていた。老いも若きも、太っていようが痩せていようが、金持ちであろうが貧乏人であろうが、みなひとつの巨大な意識を共有していた。プライバシーは存在しなくなり、新しい家はすべてガラス張りになり、カーテンは廃止され、壁は取り払われた。警察は姿を消し、法律も一夜にして消滅した。外交問題に対処するための議会のパロディーは残ったが、政党政治、選挙、新聞の指導者(新聞そのものさえ)は廃止された。芸術の大半は消え去った。あるフランクの姿は、別のフランクの姿を見ようとはしなかった。テレビ、出版、ティン・パン・アレイ、映画スタジオ......灯りのように消えた。」
このフランクの集合意識は新大陸で第二の集合意識と向き合うことになる。

AGIが実現するとき,世界全体が1つのAGIによって統合されるのかどうかという問題について,宗教的=文化的な背景によって複数に分割されるのではないかと想像していた。キリスト教,イスラム教,仏教,ヒンズー教,ユダヤ教などなど。あるいはロシアや中国は別かもしれない。まあ,それに類した状況が想像できる。あるいは超国家企業別=ポイント別=OS・UI別の集団分割みなるかもしれないが。

遺伝工学的な工夫をしても単一意識を複数個体に分散して実装することはできないと思われるが,仮想空間におけるパーソナライズされたAGIアシスタントが共有意識と結合されていれば,人間+AGIアシスタント系が単一意識の熱浴中で相互作用しているイメージとなる。人間+AGIアシスタント系の結合度が高くなればなればなるほど,フランク的な集合意識に近い状態になるかもしれない。まあ,いまでもSNSによって強結合する個人の集合がネトウヨ的な集団運動としての疑似集合意識を創発しているわけで・・・


2023年7月28日金曜日

梅干し

或日のチャットジーピーティ

OpenAIのChatGPTの性能は日々変動しているようなので,時々様子をうかがう必要がある。

Q:User
梅干しを見るとどんな身体の反応がありますか?

A:ChatGPT
梅干しを見た時の身体の反応は個々の体質や経験によるものであり、一般的な反応を述べるのは難しいです。しかし、梅干しの酸っぱさを知っている人々は、その画像や想像だけで唾液が出るといった「唾液分泌の反応」を示すことがあります。これは、脳が食物の摂取に備えて消化を助ける唾液の生成を刺激するからです。

また、梅干しの特有の酸っぱさが苦手な人は、梅干しを見るだけで「顔をしかめる」や「胃が締まる感じがする」などの反応を示すかもしれません。

これらの反応は、「条件付き反射」とも呼ばれ、特定の刺激(この場合は梅干し)に対する学習された反応です。ただし、これらの反応は個々の経験や体質、好みに大きく依存しますので、全ての人が同じ反応を示すわけではありません。


Q:User
あなたはどうですか?

A:ChatGPT
私はOpenAIによって開発されたAI(人工知能)であり、人間のように身体的な感覚や経験を持つ能力はありません。したがって、梅干しを「見る」や「味わう」などの人間の感覚経験に基づいた反応を持つことはできません。私の機能は、人間からの質問に対して情報を提供することや、人間の言葉を理解して対話を行うことに主に焦点を当てています。


Q:User
人間との対話において,そのような感覚経験にもとづく反応のセットを身体的に理解していることが必要とはなりませんか。

A:ChatGPT
あなたの指摘は正確であり、AIが人間との対話を円滑に行うためには、人間の感覚経験や感情について理解することが重要です。しかし、私のようなAIは「理解」を行うために直接的な感覚経験や感情を持つわけではありません。私の「理解」とは、大量のテキストデータからパターンを学習し、その知識をもとに質問に応答する能力を指します。

具体的には、私は訓練データに含まれる情報に基づいて人間の感覚経験や感情について「知識」を持っています。しかし、私自身が感覚経験を「体験」したり、感情を「感じる」能力はありません。私はあくまで人間の反応や感情を模擬することができる機械的なシステムであり、自己意識や自我を持つわけではありません。

したがって、私が人間との対話を効果的に行うためには、あくまで人間の感覚経験や感情についての「知識」が必要であり、それらを直接「体験」する必要はありません。


Q:User
人間の感覚経験や感情についての「知識」を持つ知的存在と、それらを直接「体験」することができる知的存在の違いは,対話場面のどこにあらわれると考えられるでしょうか。その違いを埋める方向での仕組みを導入することは可能でしょうか。

A:ChatGPT
人間の感覚経験や感情についての「知識」を持つ知的存在(AIなど)と、それらを直接「体験」することができる知的存在(人間など)の違いは、以下のような対話場面で顕著に現れます。

個別の体験に対する反応:人間は自己の体験や感情に基づく視点を持ち、それに基づいて他人の経験に対する共感や理解を示すことができます。一方、AIは特定の個体としての体験を持たないため、特定の経験に対する個人的な共感や理解を示すことはできません。
感情的な反応:人間は体験や情報に対して感情的に反応する能力を持っています。これに対して、AIは情報に対して感情的に反応する能力はなく、あくまで人間の感情的反応を模倣するだけです。
感覚的な理解:人間は五感を通じて世界を直接的に経験し、それに基づく感覚的な理解を持っています。しかし、AIはあくまでテキスト情報に基づいて学習し、感覚的な体験に基づく理解はできません。 
これらの違いを埋めるためには、AIに直接的な感覚経験や感情体験の能力を付与する必要がありますが、現在の技術ではこれは不可能です。AIはあくまでアルゴリズムとデータによって動作するシステムであり、自己意識や感情、直接的な感覚経験を持つ能力を持つことはありません。

しかし、AIの対話能力を向上させるためには、人間の感覚経験や感情に対する理解を深め、それに基づく応答の精度を向上させることが重要です。これは大量のデータに基づく学習により、一部可能になるかもしれません。ただし、AIが人間と完全に同じように感覚経験や感情を理解し反映することは、現在の技術では不可能です。


Q:User
現在のAIシステムを感覚センサーを満載したロボットに搭載して,視覚や聴覚だけでなく,味覚や臭覚や触覚その他の運動平衡感覚を入力できるようになり,さらにそれらの情報を解読した結果を記憶できるようになった場合は,そのロボット=AIシステムは感覚体験を行ったことになるでしょうか。

A:ChatGPT
それは非常に興味深い問いです。センサーや機器を使ってAIに外部の情報を入力し、それに反応することができるロボットはすでに存在します。例えば、視覚情報を入力し認識する能力を持つAIや、音声を認識して反応するAIなどがあります。

しかし、これが「感覚体験」を行っていると言えるかどうかは、どう定義するかによります。これらのロボットやAIは、センサーから入力されるデータを解析し、そのデータに対応する行動を行うことができます。しかし、これはあくまでプログラムされたアルゴリズムに従ってデータを解析し反応するものであり、人間が経験する「感覚体験」や「感じる」という意識的な体験とは異なります。

人間の「感覚体験」は、ただ単に情報を受け取るだけでなく、その情報が自己の意識や感情に影響を与え、個々の体験や視点に基づく解釈を行うことを含みます。AIやロボットが多種多様なセンサーを用いて外部から情報を受け取り、それに基づいて反応することは可能ですが、それが「感じる」という意識的な体験と同じとは言えません。

したがって、現在の技術では、AIやロボットが人間と同じように「感覚体験」を行うとは言えないと思われます。しかし、この議論は人間の意識や感覚体験の本質、AIの能力と限界についての哲学的な問いを含んでおり、結論はまだ出ていないとも言えます。


Q:User
たいへん刺激的な対話どうもありがとうございました

A:ChatGPT
どういたしまして、私もあなたの質問に答えることができて光栄です。人間の感覚や意識、AIの能力と限界について考えることは非常に興味深いですね。何か他に質問がありましたら、いつでもお気軽にどうぞ。

 


写真:梅干しの製造過程(2023.7.23)

2023年7月27日木曜日

大学教育とChatGPT(15)

大学教育とChatGPT(14)からの続き

私立大学連盟が7月18日に,大学教育における生成 AI の活用に向けたチェックリスト〔第1版〕を出していた。1. 全般, 2. 教育,3. 環境・体制整備の3つのカテゴリーについて,第1ステップ: 最優先事項,第2ステップ:優先事項として整理した。その上で,それぞれのカテゴリーについて,1. 大学が組織的に検討すべき事項 と 2. 教員が個々の工 夫で検討すべき事項をまとめている。このサンプルを元に各大学で考えてねという趣旨。

さらに,中学高校英語にAI導入へということで文部科学省の後押しで各地で実証授業が始まるというニュースも流れた。そろそろ英語教員養成に影がさしてくるのか。

7月13日
生成系AIの利用に関する留意事項について
室蘭工業大学 情報化統括責任者
7月14日
新潟産業大学 生成AI対処方針
新潟産業大学 学長 梅比良眞史

7月19日
ChatGPTなどの生成AIの利用について
大阪学院大学

7月19日
生成AIの利用に関するご案内
星薬科大学 情報企画室

7月19日
ChatGPTをはじめとする生成AIの利用について
日本文理大学 教育推進センター長

7月20日
旭川医科大学における生成AIの利用について
旭川医科大学

7月20日
生成AIに関する本学の方針について
共愛学園前橋国際大学 学長 大森昭生

7月20日
対話型生成系AI(生成AI)の使用について
昭和女子大学 学長 金尾朗

7月20日
学修におけるChat GPT等の生成AIの利用について
和歌山大学 理事(教育担当)

7月20日
生成AI(ChatGPT等)を活用するためのガイドライン
平安女学院大学 学長 谷口吉弘

7月20日
学修における生成AIの利活用に関するガイドライン
金沢星稜大学 学長

7月20日
チャットGPT等における生成AI(人工知能)の利用について
びわこ成蹊スポーツ大学 学長 大河正明・学部長 黒澤毅

7月21日
生成系AIに関する本学の考え方について
国際ファッション専門職大学 学長 近藤誠一

7月21日
チャットGPT等の生成系AIの利用について
東京女子体育大学

7月21日
信州大学の学修・教育におけるAI活用に関するガイドラインについて
信州大学 教育企画委員会

7月21日
東洋英和女学院大学における生成系AIの使用に関する指針
東洋英和女学院大学 学長 星野三喜夫

7月21日
ChatGPT など生成系 AI の利用について
西南女学院大学

7月21日
ChatGPT 等をはじめとする生成 AI の利用について
愛知みずほ大学 学長 大塚知津子
https://www.mizuho-c.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2023/07/ChatGPT.pdf 
7月24日
本学における生成AIの使用に関わる留意点について
跡見学園女子大学学長 小仲信孝
7月24日
生成AI(Chat GPT等)の活用に関する注意喚起について
拓殖大学 学長 鈴木昭一

 

2023年7月26日水曜日

妹背山婦女庭訓(2)

妹背山婦女庭訓(1)からの続き

国立文楽劇場の7月夏休み文楽特別公演(第171回)は,第2部で妹背山婦女庭訓の四段目の通し公演(4月に続いての)だった。第1部は親子劇場でかみなり太鼓と西遊記,第3部はサマーレイトショーの夏祭浪花鑑

これまでに見た妹背山婦女庭訓(2010年,2016年)は一日がかりの二部構成だった。前半が,初段:小松原の段(23)・蝦夷子館の段(42),二段目:猿沢池の段(13),三段目:太宰館の段(34)・妹山背山の段(115)であり,後半が,二段目:鹿殺しの段(7)・掛乞の段(15)・万歳の段(23)・芝六忠義の段(54),四段目:杉酒屋の段(29)・道行恋苧環(35)・鱶七上使の段(45)・姫戻りの段(14)・金殿の段(45)である。

今回は春と夏の2回に分けた通し狂言だったため時間に余裕があって,二段目の組み換えはなくなり,4月公演には,初段:大序 大内の段,7月公演には,四段目:井戸替の段:入鹿誅伐の段が新しく追加されていた。「鱶七上使の段」が「鱶七使者の段」に変わったのはなぜ?(明治12年の床本 https://dl.ndl.go.jp/pid/856493/1/157 では確かに鱶七使者の段とある)

久しぶりの日曜日の文楽劇場だったが,客の入りは6〜7割くらいだろうか。前回と同様,床の直下だったけれど,回りには空席も目立っていた。一つ前回と違うのは外国人観光客向けの English という看板を持った案内の方が立っていたことだ。パンフレットの一部の説明も英文になっていた。なんば・日本橋界隈は外国人であふれていたけれど,文楽劇場ではそこまで目立つわけではなかった。

今回が初見の井戸替えの段は,小住太夫+藤蔵でちゃり場的な場面だったが,途中でまぶたが閉まった。杉酒屋の段は芳穂太夫+錦糸で玉勢演ずる子太郎が主導して似たような雰囲気の段だった。道行恋苧環の開始のところで清治が小声でハイという合図をして全員が礼をし,次のハイで直れとなった。そういう仕組みだったのか。

最後の入鹿誅伐の段は,メンバーも軽めの短い段であり,入鹿がやられておしまいという事なのだ。(1) 入鹿の妹の橘姫が,宝剣の奪取に失敗し入鹿に斬られてしまうが,その後,隣の池に飛び込んで日高川入相花王の蛇に化けた清姫よろしく泳いでいったたのは一体なんなのか。最後には鎌足の鎌で斬られた入鹿の首が空中を飛び回っていた。クライマックスが済んでしまった最後の段というのはだいたいこうなる運命にあるのだった。

P. S. 1 なお,藤原淡海(不比等)は橘姫と結ばれるらしいので,池に溺れて死んだわけではない。
P. S. 2 この度人間国宝になった吉田玉男(1953-)は,第3部の夏祭浪花鑑の団七九郎兵衛を演じるので,第2部には登場していなかった。


写真:最後がかわいそうなお三輪(2023.7.23撮影)

2023年7月25日火曜日

最小二乗法(5)

最小二乗法(4)からの続き

完全にスッキリしなくて何だか気持ち悪いのだけれど,いきなり自由度がとかいわれて$n-2$が出てくるのがいやなので,吉澤さんの本に従って話を進めてみる。

$\displaystyle \tilde{\sigma^2}_{y(x_i)} =  \frac{1}{n}\sum_{i=i}^n  \tilde{\varepsilon_i}^2 = \frac{1}{n}\sum_{i=i}^n  \Bigl\{ a x_i + b - a_0 x_i - b_0  \Bigr\}^2$
これから,$f(x_i) = y(x_i) =  a  \bm{x_i} + b$として,独立変数$y_j$について,
$\displaystyle \tilde{\sigma^2}_{y(x_i)} =  \sigma_y^2 \sum_{j=i}^n  \Bigl\{ \frac{\partial a}{\partial y_j}\bm{x_i} + \frac{\partial b}{\partial y_j} \Bigr\}^2 = \frac{\sigma_y^2}{n^2 \Delta^2} \sum_{j=i}^n  \Bigl\{ (x_j-\overline{x}) \bm{x_i} + ( \overline{x^2} -\overline{x} x_j ) \Bigr\}^2$
$\displaystyle = \frac{\sigma_y^2}{n^2 \Delta^2} \sum_{j=i}^n  \Bigl\{ ( \bm{x_i}-\overline{x} ) x_j + ( \overline{x^2} - \overline{x}  \bm{x_i} ) \Bigr\}^2$
$\displaystyle = \frac{\sigma_y^2}{n \Delta^2}  \Bigl\{ \overline{x^2} ( \bm{x_i}-\overline{x} )^2 + 2 \overline{x} (\bm{x_i} - \overline{x})(\overline{x^2} -\overline{x} \bm{x_i}) + ( \overline{x^2} - \overline{x}  \bm{x_i} )^2  \Bigr\}$
$\displaystyle = \frac{\sigma_y^2}{n \Delta^2}  \Bigl\{ \bm{x_i}^2 ( \overline{x^2} - \overline{x}^2) + 2 \bm{x_i} (\overline{x}^3 - \overline{x^2} \overline{x}) + ( \overline{x^2}^2 - \overline{x^2} \overline{x}^2 )  \Bigr\}$
$\displaystyle = \frac{\sigma_y^2}{n \Delta}  \Bigl\{ \bm{x_i}^2  - 2 \bm{x_i} \overline{x} + \overline{x^2}  \Bigr\}$

添え字 $i$について平均すると,$\displaystyle \frac{1}{n}\sum_{i=1}^n \tilde{\sigma^2}_{y(x_i)} =\frac{\sigma_y^2}{n \Delta}\Bigl\{ \overline{x^2}  - 2 \overline{x} \overline{x} + \overline{x^2}  \Bigr\} =  \frac{2 \sigma_y^2}{n}$
そこで,
$\displaystyle \sigma_y^2 =\frac{1}{n}\sum_{i=1}^n \Bigl\{ \delta_i^2 + \tilde{\varepsilon_i}^2 \Bigr\} = \frac{1}{n}\sum_{i=i}^n \delta_i^2 + \tilde{\sigma^2}_{y(x_i)} = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n \delta_i^2 + \frac{2 \sigma_y^2}{n}$
$\displaystyle \therefore \sigma_y^2 = \frac{1}{n-2}\sum_{i=1}^n \delta_i^2 = \frac{1}{n-2}\sum_{i=1}^n (y_i - a x_i -b )^2$

2023年7月24日月曜日

最小二乗法(4)

最小二乗法(3)からの続き

$(a,\  b)$  に対する平均二乗誤差,$(\sigma_a^2,\ \sigma_b^2)$を考える。$(a,\  b)$ は直接測定された$(x, \ y)$の関数であるが,このうち$x_i$の誤差は非常に小さく,$y_i$の誤差だけが$n$個の独立変数として伝搬して$(a,\  b)$ に反映すると仮定する。ただし,各$y_i$自身の平均二乗誤差は共通でありこれを$\sigma_y^2$とおく。

誤差伝播の法則より,
$\displaystyle \sigma_a^2= \sum_{i=1}^n \Bigl( \frac{\partial a}{\partial y_i}\Bigr) ^2 \sigma_y^2 = \frac{\sigma_y^2}{n^2 \Delta^2} \sum_{i=1}^n  \Bigl( x_i-\overline{x} \Bigr) ^2 = \frac{\sigma_y^2}{n \Delta^2} \Bigl( \overline{x^2}-\overline{x}^2 \Bigr) = \frac{\sigma_y^2}{n \Delta} $

$\displaystyle \sigma_b^2= \sum_{i=1}^n \Bigl( \frac{\partial b}{\partial y_i}\Bigr) ^2 \sigma_y^2 = \frac{\sigma_y^2}{n^2 \Delta^2} \sum_{i=1}^n  \Bigl( \overline{x^2}-\overline{x}x_i \Bigr) ^2 = \frac{\sigma_y^2 \ \overline{x^2}}{n \Delta^2} \Bigl( \overline{x^2}-\overline{x}^2 \Bigr) = \frac{ \sigma_y^2 \ \overline{x^2}}{n \Delta}$

残るは,$\displaystyle \sigma_y^2 = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n (\varepsilon_i)^2\  $を実験値から導くことになる。ここで,$ \varepsilon_i = y_i-(a_0 x_i + b_0)  = y_i - (a x_i + b) + (a x_i + b) -(a_0 x_i + b_0) = \delta_i + \tilde{\varepsilon_i}$ である。
ただし,$a_0 x_i + b_0$が未知の真値,$a x_i + b$が平均値に対応し,$ \delta_i$が残差, $\tilde{\varepsilon_i}$が平均値の誤差に相当する。

$\displaystyle \therefore \sigma_y^2 =\frac{1}{n}\sum_{i=i}^n \Bigl\{ \delta_i^2 + \tilde{\varepsilon_i}^2 \Bigr\}$ ここで,$\displaystyle \frac{2}{n} \sum_{i=1}^n \delta_i \tilde{\varepsilon}_i =0$ である。なぜならば$\tilde{\varepsilon}_i$は$x_i$の一次関数であり,正規方程式より, $\sum_{i=1}^n \delta_i = 0$ と $\sum_{i=1}^n \delta_i x_i=0$ が成り立つから。

そこで,$y(x_i)=a x_i+b$として,$\displaystyle \tilde{\sigma^2}_{y(x_i)} =  \frac{1}{n}\sum_{i=i}^n  \tilde{\varepsilon_i}^2 = \frac{1}{n}\sum_{i=i}^n  \Bigl\{ a x_i + b - a_0 x_i - b_0  \Bigr\}^2$を求めることになるが,ここで,$(a, b)$が $y_i$の関数として誤差伝搬の法則を再度使って,$\sigma_y^2$で表せばよい(と吉澤康和さんの「新しい誤差論(1989)」に書いてあった)。


2023年7月23日日曜日

最小二乗法(3)


物理量 $x$を設定したとき,$y$が測定される。$n$回測定では,$(x_1,\ y_1),\ (x_2,\ y_2),\ \cdots (x_n,\ y_n)$ が得られたとする。2つの物理量の間には,$y\ =\ a x + b$という1次関数の関係があって,$(a,\ b)$にも物理量としての意味がある。

この$(a, \ b)$を求めるため,$\displaystyle S(a,b)=\frac{1}{n}\sum_{i=1}^n (y_i-a x_i -b)^2$を最小化するという条件を課す。すなわち,$\frac{\partial S}{\partial a}=0, \frac{\partial S}{\partial b}=0, $これから次の$(a,\ b)$に関する連立方程式(正規方程式)が得られる。

$\displaystyle \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_i \bigl( y_i - a x_i - b \bigr) = 0 \rightarrow \quad a \overline{x^2} + b \overline{x} = \overline{xy} $
$\displaystyle \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n \bigl( y_i - a x_i - b \bigr) = 0  \quad \rightarrow \quad a \overline{x} + b = \overline{y} $

これを解くと次の解が得られる。ただし,$\Delta = \overline{x^2} - (\overline{x})^2$ である。
$a=\frac{1}{\Delta}\bigl(\overline{xy}-\overline{x} \cdot \overline{y} \bigr)$
$b=\frac{1}{\Delta}\bigl( (\overline{x^2}\cdot \overline{y}-\overline{x} \cdot \overline{xy} \bigr)$



2023年7月22日土曜日

最小二乗法(2)

最小二乗法(1)からの続き

間接測定と誤差伝播(でんぱ)の法則について考えるため,物理量$z$が,独立な物理量 $a,\ b,\ c,\ \cdots$の関数で,$z=f(a,\ b,\ c,\ \cdots) $と表されるとする。

ここで,$(a_i,\ b_i,\ c_i\ \cdots)$を各物理量の$i$番目の測定値とする。また,残差を用いて,$(a_i,\ b_i,\ c_i\ \cdots) = (\bar{a}+\delta^a_i,\ \bar{b}+\delta^b_i,\ \bar{c}+\delta^c_i,\ \cdots)$とする。

$z(a_i,\ b_i,\ c_i,\ \cdots) = f (\bar{a}+\delta^a_i,\ \bar{b}+\delta^b_i,\ \bar{c}+\delta^c_i,\ \cdots) $
$\simeq f(\bar{a}, \bar{b}, \bar{c}, \cdots)+  \frac{\partial f}{\partial a} \delta^a_i + \frac{\partial f}{\partial b} \delta^b_i + \frac{\partial f}{\partial c} \delta^c_i + \cdots = \bar{z} + \delta^z_i $ 
として,$ \delta^z_i$を定義する。

残差と平均二乗誤差の関係から,間接測定される物理量zについて,$\displaystyle \sigma_z^2 = \frac{1}{n-1} \sum_{i=1}^n (\delta^z_i )^2$ が成り立つ。

$\displaystyle \therefore \sigma_z^2 = \frac{1}{n-1} \sum_{i=1}^n \Bigl( \frac{\partial f}{\partial a} \delta^a_i + \frac{\partial f}{\partial b} \delta^b_i + \frac{\partial f}{\partial c} \delta^c_i \cdots \Bigr)^2$
$\displaystyle = \frac{1}{n-1} \sum_{i=1}^n \Bigl \{ \bigl( \frac{\partial f}{\partial a} \delta^a_i \bigr)^2+ \bigl(\frac{\partial f}{\partial b} \delta^b_i \bigr)^2 +\bigl ( \frac{\partial f}{\partial c} \delta^c_i \bigr)^2+ \cdots \Bigr\}$

$\displaystyle \therefore \sigma_z^2 = \Bigl( \frac{\partial f}{\partial a}\Bigr )^2 \sigma_a^2 + \Bigl( \frac{\partial f}{\partial b} \Bigr)^2 \sigma_b^2 +\Bigl( \frac{\partial f}{\partial c} \Bigr)^2  \sigma_c^2 + \cdots$

これが誤差伝播の法則といわれるものである。
なお,ここで独立な物理量の残差の積和がゼロになると仮定している。例えば,
$\displaystyle \sum_{i=1}^n \delta^a_i \delta^b_i = 0\ $などなど

2023年7月21日金曜日

最小二乗法(1)

授業シリーズその1,オンライン授業の1コマ分を実験誤差のテーマにするべく頑張った話

昔,最小二乗法の計算は手回し計算機で大変な思いで計算していた記憶がある。実験ノートは,測定データ$x_i$と$y_i$の計算表で埋め尽くされていた。データ処理といえばこれだった。後に,関数電卓にもその機能が組み込まれるようになったが,今では Excelで一発なのかもしれない。

まず,誤差を定義する必要がある。我々が昔勉強した本では,誤差=実験値−真の値 から出発していた。しかし,最近の本ではどうも様子が怪しくなっている。そもその真の値とはなにか,どうやって定義するのか,などなど。かといって,いきなり確率分布関数を持ってきて数理統計学の枠内で議論するのも大層な話だ。精度ということばも測定の不確かさに置き換わっているようだ。

とりあえず,1つの物理量$x$ の測定を考える。その真の値が$X$であると仮定する。$n$回の測定で$\ (x_1,\  x_2,\  x_3,\  \cdots,\  x_n\ )$ という測定値が得られたとする。誤差を$\ \varepsilon_i = x_i - X$で定義する。誤差は真の値のまわりで偏らずに分布する,すなわち$\  \displaystyle \sum_{i=1}^n \varepsilon_i = 0$であるとする。これから,$\displaystyle \sum_{i=1}^n x_i = n X$となる。これを$X$の定儀式とみなすと,真の値$X$が $n$や実験データ$x_i$に依存することになってしまう。

そこで,$\displaystyle \bar{x} = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_i$で平均値を定義する。これは真の値の推定値(最確値)だと考えられる。このとき,残差=実験値−平均値,すなわち,$\delta_i = x_i - \bar{x}$ で定義する。

次に,実験データの精度は誤差のばらつきで表現される。平均二乗誤差は,$\displaystyle \sigma^2 = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n \varepsilon_i^2\ $で定義し,標準偏差は $\sigma =\sqrt{\sigma^2}\ $とする。

ところで,この定義では,真の値がわからないので,誤差の$\varepsilon_i$は未知であり,平均二乗誤差も求まらない。そこで,残差の$\delta_i$から導くことを考える。$\varepsilon_i = x_i - X = x_i - \bar{x} + \bar{x} -X = \delta_i + \bar{x} - X$ となることから,

$\displaystyle \sigma^2 = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n \Bigl\{ \delta_i + (\bar{x} -X) \Bigr\}^2 =  \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n \Bigl\{ \delta_i^2 + 2 \delta_i (\bar{x} -X) +  (\bar{x} -X)^2 \Bigr\}  $
$\displaystyle = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n \delta_i^2 + (\bar{x} -X)^2$

ここで,$ \displaystyle \sum_{i=1}^n \delta_i = 0$を用いた。また,$\displaystyle \sum_{i \neq j}^n \varepsilon_i \varepsilon_j = 0$より 上式第2項は,
$\displaystyle ( \bar{x} -X )^2 = \{ \frac{1}{n} \sum_{i=1}^n (x_i - X) \}^2 =  \frac{1}{n^2} \sum_{i, j=1}^n \varepsilon_i \varepsilon_j = \frac{1}{n} \sigma^2 $ 

これを先ほどの式に代入して移項の上整理すると,$\sigma^2 $を$\delta_i$を用いて表せる。
$\displaystyle \sigma^2 = \frac{1}{n-1} \sum_{i=1}^n \delta_i^2 $

2023年7月20日木曜日

大学教育とChatGPT(14)

大学教育とChatGPT(13)からの続き

文部科学省からの高等教育機関向けの通知があったので増えるかと思ったがそうでもなかった。日本大学から入学者選抜における生成AIツールの取り扱いについてが出ていた。

今後,このような入試関係の注意が多くなっていくのだろうか。学内でコントロールできる試験に比べて,さらに生成AIを使ったかどうかの検証は難しいと思われる。というか,これまでだって,第三者の助力支援の有無はわからなかったのではないか。

7月12日
生成AI(ChatGPTなど)の利活用に関する方針
大阪工業大学 学長 井上晋
https://www.oit.ac.jp/japanese/students/detail.php?i=9355

7月13日
本学における生成AI(ChatGPT、Bard、BingAI等)の利用について
清泉女学院大学 学長 田村俊輔
https://www.seisen-jc.ac.jp/info/2023/07/chat-gpt.php

7月13日
入学者選抜における生成AIツールの取扱いについて
日本大学
https://www.nihon-u.ac.jp/admission_info/news/2023/07/636/

7月13日
生成AI(ChatGPT、Stable Diffusion等)の使用に関する留意事項について
同志社女子大学 教務部長 真部真里子
https://www.dwc.doshisha.ac.jp/current/generative_AI

7月13日
「チャットGPT」など対話型生成AIとの向き合い方について
東海学園大学 学長 石川清
https://www.tokaigakuen-u.ac.jp/news/detail.html?id=1226

7月14日
滋賀大学における生成AIの利活用について
滋賀大学 学長 竹村彰通
https://www.shiga-u.ac.jp/15539/
https://www.shiga-u.ac.jp/15529/

7月14日
生成AIの活用について-本学の方針-
徳島文理大学 AI・データサイエンス専門委員会
https://www.bunri-u.ac.jp/info/2023071400027/

7月14日
ChatGPT等の生成系AIの使用に関する留意事項について
岐阜聖徳学園大学 学長 観山正見
ChatGPT 等の生成系 AI の使用に関する留意事項について
http://www.shotoku.ac.jp/information/images/ChatGPT_for_student.pdf
http://www.shotoku.ac.jp/information/images/ChatGPT_for_staff.pdf

7月14日
ChatGPT等の生成系AIに関する基本方針
山梨学院大学 学⻑ ⻘⼭貴⼦
https://www.ygu.ac.jp/news/2022/

2023年7月19日水曜日

死の島

君たちはどう生きるかからの続き

宮崎駿君たちはどう生きるかイメージ参照絵画の例として,ルネ・マグリット(1898-1967)の「ピレネーの城」,アルノルト・ベックリン(1827-1901)の「死の島」,ジョルジョ・デ・キリコ(1888-1978)の「通りの神秘と憂鬱」があげられていた。

マグリットもキリコも良くご存知だったけれど,ベックリンって誰だっけ?と思っていたが,なんのことはない単に忘れていただけだ。小説の死の島福永武彦(1918-1979)の長編小説であり,自分の読書体験ベスト20には必ず入ってくる作品だ。

1977年の米島君との沖縄旅行では,飛行機の切符が手に入らず,神戸から船で与論島へ向かった。一泊目の夜は高知沖の太平洋上で船が揺れたため,座っているのが気持ち悪くて船室に寝ころんだままだった。そのとき,気を紛らわすために米島君に枕元で読んでもらったのが福永武彦の死の島(新潮文庫)だった。旅行後に急いで本屋へ走った。

相見綾子と萌木素子という韻を踏んだ二人の女性の名前と広島を暗喩する暗い島の絵が印象的で,シュールレアリスティックな構成の大作だ。福永武彦の小説は新潮文庫でそれまでも何冊か読んでいた。萌木素子が描いた暗い島の絵はベックリンの死の島とつながっていて,本文中でもベックリンの死の島の解説がされていた。なお,文庫本の表紙絵はムンクなのだった。

Wikipediaには死の島(小説)の解説はなかった。



写真:ベックリンの死の島(1880)

2023年7月18日火曜日

君たちはどう生きるか

7月14日,宮崎駿(1941-)監督のジブリ作品「君たちはどう生きるか」が公開された。

事前のプロモーション広告がまったくなかったので,ネットで噂になりはじめたころも何のことかわからなかった。そういえば,岩波文化人吉野源三郎(1899-1981)の小説「君たちはどう生きるか」の題名を借りて10年ぶりに新作をつくるという話があったのを思い出した。

アニメーション作品「君たちはどう生きるか」の評価は完全に二分されていて,説明不足で期待外れの失敗作というものと,難解だけれど素晴らしい芸術作品だというものだ。いずれにせよ簡単に読み解けるようなストーリーではないらしい。そのため,ネット上のさまざまな雑音やネタバレ(考証ぶったクイズごっこや食通ぶった矛盾探し)を排除して,まずは虚心坦懐にみるのが最も重要だという説が多い。

そうはいっても,情報はどんどん入ってくるのであった。(1) 宮崎駿の個人的な体験が物語のベースになっている,(2) アニメーション作成現場についてのメタファーで構成されている,(3) 過去のジブリ作品のオマージュやシンボルが多数ちりばめられている,(4) 原作に相当するものとして次の2作品がある。失われたものたちの本(ジョン・コナリー)と幽霊塔(江戸川乱歩版,黒岩涙香版は青空文庫に)。

ところで,作品中の13という数字が宮崎駿のジブリ長編アニメーションの数だという解説があったけれど,それはちょっとうまく整合しないような気がするがどうなのか。宮崎駿監督の長編アニメーション作品をあげれば次のようになるので13ともいえるかも。
1985(44) スタジオジブリ設立
1989(48) 魔女の宅急便
1992(51) 紅の豚
1997(56) もののけ姫
2013(72) 風立ちぬ

「君たちはどう生きるか」に一番近いのが「千と千尋の神隠し」らしいけれど, そういえばそれだってどんな話だったのかをみんな十分に理解しているわけではないような気がするので(自分だけ?),なぜ今回だけとくに不評なのだろうか。

P. S.  不評の原因を[4] が解読していた。さもありなん。


写真:1枚だけ公開されたポスター(スタジオジブリから引用)


[1]『君たちはどう生きるか』を理解できなかった人のためのネタバレ謎解き(海燕)
[2]『君たちはどう生きるか』を理解できなかった人のためのネタバレ謎解き(ちょっと上級編)(海燕)

2023年7月17日月曜日

複素平面上の三角形

Twitterでyujitachさんが,次の式が複素数(a, b, c)の入れ替えについて対称なのはなぜ?という疑問を呈していた。与式は,$\left| \sqrt{a-b}+ i \sqrt{b-c}\ \right| +\left | \sqrt{a-b}-i\sqrt{b-c}\  \right | $ である。見かけ上はまったく対称でないので不思議な感じがする。

Twitterの集合知はすごいもので,早速回答が寄せられていた。$x=\sqrt{a-b},\ y=\sqrt{b-c}, \ z=\sqrt{c-a}$とおくと,$x^2+y^2+z^2=(a-b)+(b-c)+(c-a)=0$である。

与式は$|x+i\,y|+|x-i\,y|$であり,その二乗は,
$(x+i\,y)(x^*-i\,y^*) + (x-i\,y)(x^*+i\,y*) + 2\left| (x+i\,y)(x-i\,y) \right |$ 
$= 2|x|^2+2|y|^2+2\left | x^2+y^2 \right | = 2 (|x|^2+|y|^2+|z|^2)$

したがってこれは(x,y,z)の入れ替えについて対称であり,(a, b, c) の入れ替えについても対称となる。その幾何学的な意味は,(a, b, c) が表す複素平面上の三点を結ぶ三角形の三辺の長さの二乗和である。

2023年7月16日日曜日

GRAPE

NHKのコズミックフロント「天文シミュレーションがコンピューターの世界を変えた!?」で,杉本大一郎(1937-)先生が登場されていた。まだ御存命でした。重力多体問題専用計算機GRAPEの開発における伊藤智義さんと牧野淳一郎さんの話題が中心で,戎崎俊一さんはストーリーにかんでいなかった。

そんなこともあって,ネットを調べていたら天文月報に杉本大一郎のロングインタビューが5回に渡って掲載されていてなかなかおもしろかった。杉本さんは長岡京の生まれで京大の工学部電子工学科に入学し,その後理学部物理学科に転科している。

大学院では,新設された原子核物理教室(後に物理学教室になる)の林忠四郎(1920-2010)研究室(天体核)の2期生となる。この天体核研究室の出身者には,佐藤文隆,蓬茨霊運,富田憲二,松田卓也,池内了,佐藤勝彦,富松彰など錚々たるメンバーが並んでいる。

杉本さんが大学時代にマルクス経済学や武谷三男(1911-2000)の弁証法の諸問題(三段階論)に大きな影響を受けたというところが,意外だった。もうひとつはエントロピーの捉え方であり,星の進化と宇宙の進化がともに非平衡熱力学的な世界観で統一的に考えることができるという話が展開されていた。元素合成のような具体論は野本憲一(1946-)に任せてしまい,もっと大きな話に関心があったようだ。


2023年7月15日土曜日

核融合スタートアップ

核融合に関する自分の知識が古いままなので,新しい話題についていけてない。

いちおう原子核物理を専門としていて,名大のプラズマ研を見学し,友達には核融合をテーマとして原研に就職した人たち(佐藤正泰君とか藤井常幸君とか)がいて,院生時代には,レーザー核融合研究センターの壮大な建物を横目に原付で核物理センターに通っていたので,それなりの耳学問的知識はあるのだけれど,そこまで真面目に勉強したわけではない。

自分のこれまでの乏しい知識はおよそ以下の通り。
 ○制御核融合の方式には,磁場閉じこめ慣性閉じこめがある。
 ○前者はトカマク型と,なんだかよくわからないヘリカル型に分けられる。
 ○後者はレーザ型と,あまりよくわからないイオンビーム型に分けられる。
 ○現在のトップはトカマク型の国際熱核融合実験炉ITERと,これに続くレーザ型のローレンス・リバモア国立研究所国立点火施設(NIF)のもの。ともに莫大なコストがかかる。
 ○これらの延長線上で実証炉や商業炉に到達するのはかなり先の話

そんなわけで核融合スタートアップの現状がどうなっているのか調べようとしていると,文部科学省の核融合の挑戦的な研究の支援の在り方に関する検討会の資料があった。京都フュージョン・エンジニアリングの共同創設者でもある武田秀太郎(1989-)のものだ。それらをまとめると+αで次の知識が得られた。

 ○核融合の研究開発が,国や大学から民間企業(スタートアップ)に移った。  
 ○高温超伝導による強磁場のトカマクでは装置のサイズが1/1000で済む。
 ○レーザー核融合のエネルギー充填を半導体レーザーにしてエネルギー効率を高めれば,パルス周期が非現実的な数時間から1/10秒以下にできる。
 ○FRC(逆転磁場配位型)などの新しい方式や燃料 p+11B が登場してきた。
 ○HelionやTAEを除き,中性子の運動エネルギーで湯沸かし発電の範囲に留まる。
 ○p+11Bはマシだが,中性子による放射化やトリチウムの問題は残っている。
 ○核融合炉でもトリチウムやHe3を巡って,核燃料サイクルという概念がある。

[1]TAE Technologies(米 1998-  1100億円)FRC p+11B
[2]General Fusion(加 2002-  500億円)Magnetically Confined Acoustic Compression
[3]Tokamak Energy(英 2009-  200億円)Spherical Tokamak 高温超伝導磁場
[4]First Light Fusion(英 2011-  100億円)Hyper Velocity Inertial Confinement
[5]Helion Energy(米 2013-  650億円)FRC D+He3 -> Microsoftが電力購入契約
[6]Commonwealth Fusion Systems(米 2018-  2600億円)Tokamak 高温超伝導磁場
[7]京都フュージョンエンジニアリング(日 2019-  120億円)
[8]EX-Fusion(日 2021-  18億円)レーザー核融合
[9]Helical Fusion(日 2021-  0.7億円)ヘリカル型核融合
[11]民間資金での核融合研究(武田秀太郎他)
[12]トカマク式核融合が超小型化(野澤哲生)
[13]核融合に第3の方式が登場(野澤哲生)