2022年5月11日水曜日

理想気体のエントロピー

 (1)熱力学的なエントロピー$S(U,V)$を,$dS=\frac{d'Q}{T}\ $で定義する。これを熱力学第一法則の中に埋め込むと$\ dU=TdS-pdV$,すなわち,$dS=\frac{dU}{T}+\frac{p dV}{T}$ となる。

ここに,理想気体の状態方程式$\ pV = nRT = N k_B T\ $と,単原子分子気体の内部エネルギーの表式,$U = n C_v T = n \frac{3}{2} R T = N \frac{3}{2} k_B T\ $ を代入する。

$dS= N k_B \Bigl( \frac{3}{2} \frac{dT}{T} + \frac{dV}{V} \Bigr )\quad \therefore \int dS = N k_B \Bigl( \frac{3}{2} \int \frac{dT}{T} + \int \frac{dV}{V} \Bigr )$ 

$S = S_0 + N k_B \Bigl( \frac{3}{2} \log \frac{T}{T_0} + \log \frac{V}{V_0} \Bigr) = S_0 +  N k_B \log \frac{T^{3/2}V}{T_0^{3/2}V_0}$

(2)一方,統計力学において,自由粒子の小正準集団のエントロピーは,ボルツマンの原理から,$S = k_B \log W(E) = k_B \log \frac{\partial}{\partial E} \Omega_0(E)\  \delta E$となる。

質量$m$の$N$粒子系のエネルギー$E$までの状態数$\ \Omega_0(E)\ $は,$N$粒子系の$6N$次元の位相空間の体積を$6N$次元細胞の体積$\ h^{3N}\ $と同一粒子が区別できないことによる因子$N!$で割ったものになり,運動量空間での半径$\ \sqrt{2mE}\ $の$3N$次元超球の体積の式を使うと,

$\displaystyle \Omega_0(E) = \frac{1}{h^{3N} N!} \int d{\bm q} \int _{\Sigma p_i^2/2m < E} d{\bm p} = \frac{V^N (2\pi m E)^{3/2}}{h^{3N}\Gamma(3N/2+1)}$

$ W(E) = \frac{3N}{2} \frac{V^N}{N! (3N/2)!} \Bigl( \frac{2\pi m E}{h^2} \Bigr)^{3/2} \frac{\delta E}{E} =  \frac{3N}{2} \Bigl(\frac{V}{N}\Bigr) ^N\Bigl( \frac{2\pi m E}{3N/2} \Bigr)^{3N/2} e^{5N/2} \frac{\delta E}{E}$

$\therefore S(E) = k_B \log W(E) = N k_b \Bigl\{\frac{3}{2}\log \Bigl( \frac{4\pi m E}{3 h^2 N}\Bigr)  + \log \frac{V}{N} +\frac{5}{2} \Bigr\}$

$=N k_B  \log \frac{(2\pi m k_B T)^{3/2} V e^{5/2}}{N h^3} $

ここで,$\frac{1}{T} = \frac{\partial S}{\partial U}= \frac{\partial S}{\partial E} = \frac{3 N k_B }{2  E}$より,$\frac{E}{N}=\frac{3}{2}k_B T$を用いた。$S(E)$の式の$\log$の中身は無次元であり,$V/N$があるので,全体として示量変数ではないことが保証されている。

理想気体の熱力学的エントロピーと統計力学的エントロピーは,ともに $N k_B \log T^{3/2}V + const. $の形をしているが,定数部分まで含めて同じかどうかがよく理解できていない。

2022年5月10日火曜日

摩擦のあるカルノーサイクル(3)

 摩擦のあるカルノーサイクル(2)からの続き

摩擦のあるカルノーサイクルでクラウジウスの不等式を説明するためには,前回のように$W'$のなかの摩擦力による仕事$\delta w$として表現するかわりに摩擦力で生じた熱$\delta_{\rm q}=-\delta w < 0$として扱うこともできる。

仕事として表現すると:
等温過程 A$\rightarrow$B:($Q_{\rm H}>0, \quad \delta w_{\rm AB}>0$)
$W'_{\rm AB}=\int_{V_{\rm A}}^{V_{\rm B}} pdV -\delta w_{\rm AB}=W_{\rm AB} -\delta w_{\rm AB}=Q'_{\rm H}$
等温過程 C$\rightarrow$D:($Q_{\rm L}<0, \quad \delta w_{\rm DC}>0$)
$W'_{\rm CD}=\int_{V_{\rm C}}^{V_{\rm D}} pdV -\delta w_{\rm DC}=W_{\rm CD} -\delta w_{\rm DC}= Q'_{\rm L}$
熱として表現すると:
等温過程 A$\rightarrow$B:($Q_{\rm H}>0, \quad \delta q_{\rm H}<0$)
$W'_{\rm AB}=\int_{V_{\rm A}}^{V_{\rm B}} pdV + \delta q_{\rm H} = Q_{\rm H} +\delta q_{\rm H} = Q'_{\rm H}$
等温過程 C$\rightarrow$D:($Q_{\rm L}<0, \quad \delta q_{\rm L} < 0$)
$W'_{\rm CD}=\int_{V_{\rm C}}^{V_{\rm D}} pdV + \delta q_{\rm L} = Q_{\rm L} + \delta q_{\rm L}= Q'_{\rm L}$

カルノーサイクルにおいては,系に入る熱量を温度でわった,エントロピーに対応する状態量$\frac{Q}{T}$の和が保存していた。すなわち,$\dfrac{Q_{\rm H}}{T_{\rm H}}+\dfrac{Q_{\rm L}}{T_{\rm L}} = n R \log \dfrac{V_{\rm B}}{V_{\rm A}} + n R \log \dfrac{V_{\rm D}}{V_{\rm C}} = 0$

一方,摩擦のあるカルノーサイクルで,出入りする熱量に対して,温度で割ったものの和を考えると,$\dfrac{Q'_{\rm H}}{T_{\rm H}}+\dfrac{Q'_{\rm L}}{T_{\rm L}}=\dfrac{Q_{\rm H}+\delta q_{\rm H}}{T_{\rm H}}+\dfrac{Q_{\rm L}+\delta q_{\rm L}}{T_{\rm L}} = \dfrac{\delta q_{\rm H}}{T_{\rm H}}+\dfrac{\delta q_{\rm L}}{T_{\rm L}} \le 0$

これを一般化すると,可逆過程だけのサイクルについては $\displaystyle{ \oint \dfrac{d'Q}{T_{\rm ex}} = 0}$,不可逆過程を含むサイクルについては,$\displaystyle{\oint \dfrac{d'Q}{T_{\rm ex}} \le 0}$,ここで,$d'Q$は系が受け取る熱量で,$T_{\rm ex}$はその熱量を与えた熱源の温度である。これがクラウジウスの不等式。


図:不可逆過程におけるクラウジウスの不等式


2022年5月9日月曜日

準静的過程がわからない

エントロピーがわからないからの続き

熱力学の入門的教科書を手元に並べて呻吟している。

そういえば,教養課程で物理学科の専門科目として大学1年のときにクラス担任の国富信彦先生が担当したのが「物理学要論?」だった(科目名も忘れてしまった)。そこで,最初につまづいたのが応力テンソル準静的過程だった。熱力学の初歩のところでは,覆水盆に返らずの話をしながら準静的過程の説明があったので,これは可逆過程なのか不可逆過程なのかどうなっているの?と混乱したのだった。

さて,並べているやさしい教科書は以下のとおり
1.フェルミ熱力学(エンリコ フェルミ,三省堂 1973)
2.熱・統計力学(戸田盛和,岩波書店 1983)
3.熱・統計力学の考え方(砂川重信,岩波書店 1993)
4.熱学入門(藤原邦男・兵藤俊夫,東京大学出版会 1995)
5.ゼロからの熱力学と統計力学(和逹三樹・十河清・出口哲生,岩波書店 2005)

フェルミには準静的過程というワードは出てこない。それに相当するものは熱平衡状態をつないでいく可逆過程で考えるという立場だ。戸田さんは,この本(熱力学)で扱う可逆過程は準静的過程に限定すると注意している。砂川さんは,力学的な過程も可逆過程に含め,可逆過程は必ずしも時間反転してたどる必要がないとしている。準静的過程は可逆過程の集合に含まれる。藤原さんや和逹さんは,可逆過程=準静的過程としている。

広島大学の戸田昭彦さんは準静的過程と可逆過程に対してもっと細かな議論を展開していた。

2022年5月8日日曜日

摩擦のあるカルノーサイクル(2)

 摩擦のあるカルノーサイクル(1)からの続き

「エントロピーについての理解を図るため,不可逆過程の具体的な例を構成したい。そのためカルノーサイクルの等温過程においてのみピストンに散逸のある抵抗力=摩擦力が働くモデルを考える。この摩擦力は,ピス トンの運動方向と逆向きに作用し,その仕事はピストンに熱として放出され,カルノーサイクル の作業物質である理想気体には影響を及ぼさないものとする。この考察において作業物質の系=理想気体がする仕事は,ピストンを用いて測定されることに留意する。すなわち,ピストンに働く力の総和とピストンの変位の積によって作業物質系が「する」仕事や「される」仕事(=負の「する」仕事)が定義される」

ということで,前書きをかいて計算をはじめてみたもののなかなか難渋するのであった。


図:摩擦のあるカルノーサイクルの散逸過程

等温過程 A $\rightarrow$ B:($\delta_{\rm AB}>0$)
$W'_{\rm AB}=\int_{V_{\rm A}}^{V_{\rm B}}p dV - \int_{d_{\rm A}}^{d_{\rm B}} f dx = nRT_{\rm H} \log \frac{V_{\rm B}}{V_{\rm A}} - \delta w_{\rm AB} = Q_{\rm H} - \delta w_{\rm AB} = Q'_{\rm H}$
断熱過程 B $\rightarrow$ C:
$W'_{\rm BC}=\int_{V_{\rm B}}^{V_{\rm C}}p dV = \int_{\rm B}^{\rm C} -dU = U_{\rm B}-U_{\rm C} = n C_V (T_{\rm H}-T_{\rm L})$
等温過程 C $\rightarrow$ D:($\delta_{\rm DC}>0$)
$W'_{\rm CD}=\int_{V_{\rm C}}^{V_{\rm D}}p dV - \int_{d_{\rm C}}^{d_{\rm D}} f dx = nRT_{\rm L} \log \frac{V_{\rm D}}{V_{\rm C}} - \delta_{\rm DC} = Q_{\rm L} - \delta w_{\rm DC}= Q'_{\rm L}$
断熱過程 D $\rightarrow$ A:
$W'_{\rm DA}=\int_{V_{\rm D}}^{V_{\rm A}}p dV = \int_{\rm D}^{\rm A} -dU = U_{\rm D}-U_{\rm A} = n C_V (T_{\rm L}-T_{\rm H})$

したがって,この摩擦のあるカルノーサイクルの効率は次の式で与えられる。
$W'_c = W'_{\rm AB}+W'_{\rm BC}+W'_{\rm CA}+W'_{\rm AD}$
$= nRT_{\rm H}\log \frac{V_{\rm B}}{V_{\rm A}} -\delta_{\rm AB}  + nRT_{\rm L} \log \frac{V_{\rm D}}{V_{\rm C}} - \delta_{\rm DC} = Q_{\rm H} -\delta_{\rm AB} + Q_{\rm L} - \delta_{\rm DC}$
$\eta' = W'_c/Q'_{\rm H}=1-\frac{-Q'_{\rm L}}{Q'_{\rm H}} \approx 1-\frac{-Q_{\rm L}}{Q_{\rm H}} \bigl( 1+\frac{\delta w_{\rm DC}}{-Q_{\rm L}} \bigr) \bigl(1+\frac{\delta w_{\rm AB}}{Q_{\rm H}} \bigr) $
$ \le 1-\bigl( \frac{-Q_{\rm L}}{Q_{\rm H}}\bigr) =  1-\frac{T_{\rm L}}{T_{\rm H}} = \eta_c$

こうして,摩擦のあるカルノーサイクルの効率$\eta'$は,カルノーサイクルの効率$\eta_c$より小さくなる。しかし,このままでは,$\int \frac{d'Q}{T} \le 0$の説明にうまくつながらない。

(注)ここではサイクルに入る熱量をすべて正,サイクルが外部にする仕事を全て正にとる。

2022年5月7日土曜日

摩擦のあるカルノーサイクル(1)

エントロピーがわからないからの続き

熱力学の第二法則と仮に導入したエントロピーの違いを明らかにしたい。普通の教科書ではクラウジウスの原理やトムソンの原理によるわけだが,そのためには,不可逆過程の考察が必要となる。その一番簡単な例は,力学でもなじみのある摩擦現象だと思う。

摩擦現象は力学的に細かく詰めて考えると何だか複雑で面倒なことになるが,とりあえず,摩擦現象は運動や仕事が熱に変換されて,力学的エネルギーが熱エネルギーとして環境中に散逸する過程だと考えることにする。環境中の熱エネルギーが直接集まってきて力学的エネルギーになるような現象は,巨視的には観察されないので,摩擦現象は不可逆過程である。

そこで,これまで練習してきたカルノーサイクルに摩擦を導入すれば,理解がしやすいのではないかと考えた。どの教科書をみてもそんな具体的な議論はされていない。クラウジウスやトムソンにしたがって,より抽象的な熱機関(可逆機関,不可逆機関)の組み合わせでの議論が進んでいくわけだ。

というわけで,より具体的な摩擦のあるカルノーサイクルを構成してみることに(続く)。

2022年5月6日金曜日

エントロピーがわからない

カルノーサイクルからの続き

エントロピーについての熱力学的な導入の論理がすっきりしないと,統計力学の授業が進めにくい。もちろん天下りでボルツマンの原理を導入してしまえばあとは計算だけになる。でも,それでは熱力学との関係もうやむやになりそうだ。

熱力学の第一法則で,$dU=d'Q+d'W=d'Q-pdV$のd'Qの部分も状態量の組み合わせで書けるとありがたい。$p$は示強変数,$V$は示量変数であり,その積がエネルギーの次元を持つ示量変数になっている。使える状態量として示強変数である温度$T$があるので,これに相補的な示量変数で温度との積がエネルギーの次元を持つ状態量をエントロピー$S$として導入して,$d'Q=TdS$とおくことにする。

もしこれができれば,状態量空間中の点を$A$,基準点を$O$として,$S(A)=\int_O^A \frac{d'Q}{T}$は状態量になる。この積分が状態量であるということは,平衡状態Aのみに依存して積分の経路にはよらないはずである。

そこで,カルノーサイクルの断熱過程で実際にこの量を計算してみれば,断熱過程ではエントロピー$S$が一定になる。つまり,カルノーサイクルというのは,エントロピーと温度を2軸とする状態図において,等温線と等エントロピー線に囲まれた長方形領域になる。

ここまでの議論は,準静的過程=可逆過程について成り立つ話である。不可逆過程だとどうなるのか。肝腎の熱力学の第二法則との関係がついていないわけなのでさらなる検討が必要だ。


2022年5月5日木曜日

クローニッヒ・ペニーモデル(4)

クローニッヒ・ペニーモデル(3)からの続き

これまでの結果を用いて,具体的な数値を代入したグラフを作成する。与えられた$k_n$の値に依存して,$-1 \le \cos(k_n a) \le 1$の条件から,1電子のエネルギー$E$がとりうる範囲についての条件が定まる。このとき,電子が取り得るエネルギー領域を許容帯(allowed band),取りえないエネルギー領域を禁制帯(forbidden band)とよぶ。相互作用のない電子の多粒子系では,これらの離散化された許容帯に電子が充填されることになる。

Mathematicaによって,この様子を確認してみれば次のようになる。

a = 2; b = 0.04; hc = 1973; m = 1.022*10^6; p = 2*1.05017;
v = 2*hc^2*p/(1.022*10^6*a*b)
(hc)^2/(m a^2)
200.001
0.952233


\[Alpha][e_] := Sqrt[m*e]*(a - b)/hc;
\[Beta][e_] := Sqrt[m*(v - e)]*b/hc;
\[Gamma][e_] := Sqrt[m*e]*a/hc;
X[e_] := Cos[\[Alpha][e]] Cosh[\[Beta][ e]] + ((\[Beta][e]/b)^2 - (\[Alpha][e]/(a - b))^2)/(2*\[Alpha][ e]/(a - b)*\[Beta][e]/b) Sin[\[Alpha][e]] Sinh[\[Beta][e]]

Plot[{ X[e], 1, (Cos[\[Gamma][e]] + p*Sin[\[Gamma][e]]/\[Gamma][e]), -1, Cos[\[Gamma][e]]}, {e, 0, 200}, PlotRange -> {-1.5, 3.5}, PlotStyle -> {Red, Gray, Blue, Gray, Orange}]
Table[FindRoot[X[e] == 1, {e, (hc a n )^2/(2 m) }], {n, 1, 5}]
{{e -> 2.95059}, {e -> 37.6031}, {e -> 45.1073}, {e -> 150.412}, {e -> 158.267}}
Table[ FindRoot[X[e] == -1, {e, 0.9*(hc a n )^2/(2 m) }], {n, 1, 6}]
{{e -> 9.40077}, {e -> 16.0036}, {e -> 84.6069}, {e -> 92.3771}, {e -> 242.886}, {e -> 242.886 + 0. I}}

d0 = Plot[{10^6 (e - 2.95059), 10^6 (e - 9.40077), 10^6 (e - 16.0036), 10^6 (e - 37.6031), 10^6 (e - 45.1073), 10^6 (e - 84.6069), 10^6 (e - 92.3771), 10^6 (e - 150.421), 10^6 (e - 158.267)}, {e, 0, (4 Pi)^2}, PlotStyle -> Table[{Gray, Dotted}, 9], PlotRange -> {0, 13}];
f0 = Plot[{0, Pi, 2 Pi, 3 Pi, 4 Pi}, {e, 0, (4 Pi)^2}, PlotStyle -> Table[{Green, Dotted}, 5]];
g0 = Plot[\[Gamma][e], {e, 0, (4 Pi)^2}, PlotStyle -> {Orange, Dashed}];
g1 = Plot[ArcCos[X[e]], {e, 0, Pi^2}];
g2 = Plot[2 Pi - ArcCos[X[e]], {e, Pi^2, (2 Pi)^2}];
g3 = Plot[2 Pi + ArcCos[X[e]], {e, (2 Pi)^2, .98 (3 Pi)^2}];
g4 = Plot[4 Pi - ArcCos[X[e]], {e, .98 (3 Pi)^2, .95 (4 Pi)^2}];

Show[{d0, f0, g0, g1, g2, g3, g4}, PlotRange -> {-1, 15}]

図1:境界条件から決まる(energy-cos(ka))のグラフ

図2:図1から決まる分散関係(energy-ka)のグラフ

ポテンシャルの幅$b$を格子周期$a$の2%に設定したため,$b \rightarrow 0$の近似がよく当てはまる。そこで,$X(pa)$と$\cos \gamma(e) + P \sin \gamma(e)/\gamma(e)\ $の誤差は1%以下となり,グラフ上では区別できなくなっている。

なお,$e=\frac{(\hbar k)^2}{2m}=\frac{(\hbar c)^2}{2mc^2 a^2}\cdot (ka)^2 = 0.952233 (ka)^2\ $であることに注意する。

2022年5月4日水曜日

クローニッヒ・ペニーモデル(3)

クローニッヒ・ペニーモデル(2)からの続き

1次元ポテンシャルに周期性があるときに,ブロッホの定理から$\psi(x)=e^{ikx}\varphi(x)$と表わせて,$\psi(x+a)=e^{ik(x+a)}\varphi(x+a)=e^{ika} e^{ikx}\varphi(x)=e^{ika}\psi(x)$が成り立つ。このときの波動関数は運動量演算子の固有状態なのだろうか?違います。前回やったように,このハミルトニアンは有限の並進操作に対して不変だけれど,運動量に対応する無限小並進操作については不変ではないから。

ところで,この長さ$L=N a$の1次元周期ポテンシャルモデルの両端を同一視する周期境界条件をつけると($N$はポテンシャルステップの数=原子数,$a$はポテンシャルの周期=原子間隔),$\psi(L)=\psi(0) \quad \psi(L)=e^{i k a \cdot N}\psi(0) \quad \therefore e^{i k a N}=1$

これから$k$に対する条件,$k_n = \frac{2\pi n}{a N}\quad (n=0,\pm 1, \pm 2 \cdots)\ $が得られる。$k_n$は量子数 $n$ で特徴づけられるこの状態の波数という意味をもつ。

前回得られた境界条件は,系のエネルギーを$E$,ポテンシャルの深さと幅を$V_0, b$,ポテンシャル周期を$a$として,$p=\frac{\sqrt{2mE}}{\hbar}$,$q=\frac{\sqrt{2m(V_0-E)}}{\hbar}$とおくと,$  \cos k a  =  \cos p(a-b) \cosh qb + \frac{q^2-p^2}{2 p q} \sin p(a-b) \sinh qb $ である。これは,与えられた$k = k_n$に対して,系のエネルギーを決定する式になる。

(1) $b \rightarrow 0$ の極限では$p_n=k_n$となり,$E_n=\frac{\hbar k_n^2}{2m} = \frac{2 \hbar^2 \pi^2 n^2}{m a^2 N^2}$となる。

(2) 次に,$V_0 b$を一定に保ちながら,$b \rightarrow 0,\ V_0 \rightarrow \infty$とするδ関数型極限を考える。このとき,$\sinh qb \rightarrow qb$であり,右辺第2項は,$\frac{(q^2-p^2)ba}{2} \frac{\sin p(a-b)}{p a} $となる。最終的に,$  \cos k a  =  \cos p a + \frac{m c^2 V_0 b a}{(\hbar c)^2} \frac{\sin pa}{pa}$ という近似式が得られる。


例えば,$a=2$ Å,$b=0.04$ Å,$mc^2 = 0.511 \times 10^6$ eV,$ \hbar c =1973$ eV Å, $V_0=100$ eVとすると, 無次元のポテンシャル強度パラメータは,$\frac{m c^2 V_0 b a}{(\hbar c)^2}=1.05$となる。


2022年5月3日火曜日

日本國憲法前文

憲法記念日だが,ウクライナへのロシアの侵略戦争が続いている。先の見えない円安で疲弊した我々の心の隙に,右翼デマゴーグ達の好戦的なイデオロギーが陽に陰に染み込んでいく。こんなときは,日本國憲法の前文を写経して心を鎮めるしかない。若者は「最高法規の意志~ 憲法の本質と改正の動向 ~」をチラ見する方が役に立つかも。

   日本國憲法 

 日本國民は、正當に選擧された國會における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸國民との協和による成果と、わが國全土にわたつて自由のもたらす惠澤を確保し、政府の行爲によつて再び戰箏の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主權が國民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも國政は、國民の嚴肅な信託によるものであつて、その權威は國民に由來し、その權力は國民の代表者がこれを行使し、その福利は國民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

 日本國民は、恒久の平和を念願し、人間相互の關係を支配する崇高な理想を深く自覺するのであつて、平和を愛する諸國民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、專制と隷從、壓迫と偏狹を地上から永遠に除去しようと努めてゐる國際社會において、名譽ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の國民が、ひとしく恐怖と缺乏から免かれ、平和のうちに生存する權利を有することを確認する。

 われらは、いづれの國家も、自國のことのみに專念して他國を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に從ふことは、自國の主權を維持し、他國と對等關係に立たうとする各國の責務であると信ずる。

 日本國民は、國家の名譽にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

2022年5月2日月曜日

クローニッヒ・ペニーモデル(2)

クローニッヒ・ペニーモデル(1)からの続き

前回,周期ポテンシャル中で正のエネルギーを持った電子の運動について考えた。自由電子とはいえ,金属中に束縛されているのだからポテンシャルの上端に対して負のエネルギーを持った電子を考えなければならなかった。

上智大学名誉教授の清水清孝さん(元有馬研)が,電子情報通信学会の知識ベース知識の森12群5編量子力学・電子物理・相対論を執筆していて,そこにバンド理論入門についての話もあった。

そこで,前回のポテンシャルの符号を $-V_0 \rightarrow V_0$としたモデルで$0<E<V_0$の場合を考える。すなわち,ポテンシャルは,つぎの形を繰り返したものになる。
領域 Ⅰ:$V(x) =  \ 0 \ \cdots \ (0 < x < a-b)\ $
領域 Ⅱ:$V(x) = V_0 \ \cdots \ (-b < x < 0)$

自由電子のエネルギーは正だが,ポテンシャルの高さより小さいので,領域Iでは解は平面波,領域IIでは指数関数になる。$p=\frac{\sqrt{2mE}}{\hbar}, q=\frac{\sqrt{2m(V_0-E)}}{\hbar}$とおいて一般解は,
領域 Ⅰ:$\psi_{\rm I}(x) = A e^{i p x} + A' e^{-i p x} \ \cdots \ (0 < x < a-b)\ $
領域 Ⅱ:$\psi_{\rm II}(x) =  B e^{q x} + B' e^{- q x} \ \cdots \ (-b < x < 0)\ $

前回のように波動関数とその導関数が,領域Iと領域IIの境界で連続である条件から,
$\psi_{\rm I}(0) = \psi_{\rm II}(0);\ \psi_{\rm I}'(0) = \psi_{\rm II}'(0)$,$\psi_{\rm I}(a-b) = e^{i k a }\psi_{\rm II}(-b);\ \psi_{\rm I}'(a-b) = e^{i k a }\psi_{\rm II}'(-b)$
$A+A'=B+B'$
$i p(A-A')=q(B-B')$
$A\ e^{ip(a-b)}+A'e^{-ip(a-b)}=(B\ e^{-qb}+B'e^{qb})e^{ika}$
$i pA\ e^{ip(a-b)}-i pA'e^{-ip(a-b)}=(qB\ e^{-qb}-qB'e^{qb})e^{ika}$

ここで,$\alpha = p(a-b)$,$\beta = q b$と置くと,
$\left( \begin{array}{cccc} 1 & 1 & -1 & -1 \\ i p & -i p & -q & q \\ e^{i\alpha} & e^{-i\alpha} & -e^{-\beta}e^{ika} & -e^{\beta}e^{ika} \\ i p e^{i\alpha} & - i p e^{-i\alpha} & -q e^{-\beta}e^{ika} & q e^{\beta}e^{ika} \end{array} \right)  \left( \begin{array}{c} A\\ A' \\ B \\ B' \end{array} \right) = 0 $

4元連立方程式が自明でない解を持つためには,行列式が0であり,列の加減により等価な行列式を求める(3行目から$e^{ika}$を,2列目から$i$を外にくくり出した)。

$i e^{ika} \cdot \left| \begin{array}{cccc} 1 & 0 & -1 & 0 \\ 0 & p & 0 & q \\ \cos \alpha \ e^{-ika} & \sin \alpha \  e^{-ika}& -\cosh \beta & - \sinh \beta \\ -p\ \sin \alpha & p\ \cos \alpha & q\ \sinh \beta \ e^{ika} & q\ \cosh \beta \ e^{ika} \end{array} \right|  = 0 $

これから4x4行列式の値$|M|$を計算する。
$|M|=  p\ q\ e^{i k a} \left | \begin{array}{cc} -\cosh \beta  & - \sinh \beta  \\ \sinh \beta & \cosh \beta \end{array} \right | + q \left | \begin{array}{cc}  \sin \alpha e^{-i k a } & - \cosh \beta \\  p \cos \alpha & q \sinh \beta e^{ika} \end{array} \right |$
$\qquad \quad - q\ p\ e^{-i k a}\ \left | \begin{array}{cc} \cos \alpha  &  \sin \alpha \\ - \sin \alpha & \cos \alpha  \end{array} \right | - p \left | \begin{array}{cc} - \sinh \beta  & \cos \alpha e^{-ika} \\ q \cosh \beta e^{ika} & -p \sin \alpha \end{array} \right | $
$\quad = -2 p q \cos ka + q( q \sin \alpha \sinh \beta + p \cos \alpha \cosh \beta ) -p (p \sin \alpha \sinh \beta -q \cos \alpha \cosh \beta )$
$\quad = -2 p q \cos ka +2 p q \cos \alpha \cosh \beta +(q^2-p^2) \sin \beta \sinh \beta = 0$

最終的に得られる関係式は,次のとおりである。
$ \cos ka  = \cos \alpha \cosh \beta -\frac{p^2-q^2}{2 p q} \sin \alpha \sinh \beta$
$\qquad = \cos p(a-b) \cosh qb -\frac{p^2-q^2}{2 p q} \sin p(a-b) \sinh qb$

(付)この式は,$E>V_0$の場合は次のように変形できるので,このまま使うことができる。$q=\frac{\sqrt{2m(V_0-E)}}{\hbar} \rightarrow i \frac{\sqrt{2m(E-V_0)}}{\hbar} \equiv i\bar{q}\ $として,$\sinh ix = i \sin x,\ \cosh ix = \cos x$を用いると,

$ \cos ka  =  \cos p(a-b) \cos \bar{q}b -\frac{p^2 + \bar{q}^2}{2 p \bar{q}} \sin p(a-b) \sin \bar{q} b\ $となる。これは(1)で得られた式と同等なもの。

図:クローニッヒ・ペニーモデル



2022年5月1日日曜日

クローニッヒ・ペニーモデル(1)

クローニッヒ・ペニーモデルは周期性を持った1次元井戸型ポテンシャルのモデルであり,結晶のバンド構造の定性的な特徴を説明することができる。


図:クローニッヒ・ペニーモデルの設定(Wikipediaより引用)

電子の質量を$m$として,1粒子の1次元シュレーディンガー方程式は,$-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}\psi(x) +V(x) \psi(x) = E \psi(x)$である。ポテンシャルは周期性を持ち,$n$を整数として$V(x+n a)=V(x)\ $であり,ブロッホの定理から波動関数は,$\psi(x) = e^{i k x} \varphi(x)$ かつ $\varphi(x + n a)=\varphi(x)$を満たす。

ポテンシャルは,つぎの形を繰り返したものになる。
領域 Ⅰ:$V(x) =  \ 0 \ \cdots \ (0 < x < a-b)\ $
領域 Ⅱ:$V(x) = -V_0 \ \cdots \ (-b < x < 0)$

波動関数の周期性からは,$\psi(x+a) = e^{i k (x+a)}\varphi(x+a) = e^{i k (x+a)}\varphi(x) = e^{i k a} \psi(x) \ $が成り立つ。その導関数は$\psi'(x+a) = e^{i k a}\psi '(x)$となる。なお,$\psi'(x) = i k e^{i k x}\varphi(x) + e^{i k x}\varphi'(x) = i k \psi(x) + e^{i k x}\varphi'(x)$である。

自由電子のエネルギーは正であり,ポテンシャルが定数であるため,どちらの領域でも解は平面波になる。$p=\frac{\sqrt{2mE}}{\hbar}, q=\frac{\sqrt{2m(E+V_0)}}{\hbar}$として一般解は,
領域 Ⅰ:$\psi_{\rm I}(x) = A e^{i p x} + A' e^{-i p x} \ \cdots \ (0 < x < a-b)\ $
$\qquad \quad = e^{i k x} (A e^{i (p-k) x} + A' e^{-i (p+k) x} ) $
領域 Ⅱ:$\psi_{\rm II}(x) =  B e^{i q x} + B' e^{-i q x} \ \cdots \ (-b < x < 0)\ $
$\qquad \quad = e^{i k x} (B e^{i (q-k) x} + B' e^{-i (q+k) x}) $

波動関数とその導関数が,領域Iと領域IIの境界で連続であるという条件を書く。
$\psi_{\rm I}(0) = \psi_{\rm II}(0);\ \psi_{\rm I}'(0) = \psi_{\rm II}'(0)$,$\psi_{\rm I}(a-b) = e^{i k a }\psi_{\rm II}(-b);\ \psi_{\rm I}'(a-b) = e^{i k a }\psi_{\rm II}'(-b)$

$A+A'=B+B'$
$p(A-A')=q(B-B')$
$A\ e^{ip(a-b)}+A'e^{-ip(a-b)}=B\ e^{-iqb+ika}+B'e^{iqb+ika}$
$pA\ e^{ip(a-b)}-pA'e^{-ip(a-b)}=qB\ e^{-iqb+ika}-qB'e^{iqb+ika}$

ここで,$\alpha = p(a-b)$,$\beta = q b$と置く。
$\left( \begin{array}{cccc} 1 & 1 & -1 & -1 \\ p & -p & -q & q \\ e^{i\alpha} & e^{-i\alpha} & -e^{-i\beta}e^{ika} & -e^{i\beta}e^{ika} \\ p e^{i\alpha} & - p e^{-i\alpha} & -q e^{-i\beta}e^{ika} & q e^{i\beta}e^{ika} \end{array} \right)  \left( \begin{array}{c} A\\ A' \\ B \\ B' \end{array} \right) = 0 $

波動関数の係数に対するこの4元連立方程式が自明でない解を持つためには,行列式が0でなければならない。この条件をつかって,2列と1列の和と差,4列と3列の和と差から等価な行列式を求めれば,次のようになる(3行目から$e^{ika}$を外にくくり出した)。

$e^{ika} \cdot \left| \begin{array}{cccc} 1 & 0 & -1 & 0 \\ 0 & p & 0 & q \\ \cos \alpha \ e^{-ika} & i \sin \alpha \  e^{-ika}& -\cos \beta & -i \sin \beta \\ i p\ \sin \alpha & p\ \cos \alpha & i q\ \sin \beta \ e^{ika} & q\ \cos \beta \ e^{ika} \end{array} \right|  = 0 $

これから4x4行列式の値$|M|$を計算する。
$|M|= p\ q\ e^{i k a} \left | \begin{array}{cc} -\cos \beta  & - i \sin \beta  \\ i \sin \beta & \cos \beta \end{array} \right | + q \left | \begin{array}{cc} i \sin \alpha e^{-i k a } & - \cos \beta \\ p \cos \alpha & i q \sin \beta e^{ika} \end{array} \right |$
$\qquad \quad - q\ p\ e^{-i k a}\ \left | \begin{array}{cc} \cos \alpha  & i \sin \alpha \\ i \sin \alpha & \cos \alpha  \end{array} \right | - p \left | \begin{array}{cc} -i \sin \beta  & \cos \alpha e^{-ika} \\ q \cos \beta e^{ika} & i p \sin \alpha \end{array} \right | $
$\quad = -2 p q \cos ka + q( -q \sin \alpha \sin \beta + p \cos \alpha \cos \beta ) -p (p \sin \alpha \sin \beta -q \cos \alpha \cos \beta )$
$\quad = -2 p q \cos ka +2 p q \cos \alpha \cos \beta -(p^2+q^2) \sin \beta \sin \beta = 0$

最終的に得られる関係式は,次のとおりである。
$ \cos ka  = \cos \alpha \cos \beta -\frac{p^2+q^2}{2 p q} \sin \alpha \sin \beta$
$\qquad = \cos p(a-b) \cos qb -\frac{p^2+q^2}{2 p q} \sin p(a-b) \sin qb$

4行4列の行列式は,Mathematicaを使えば手軽に計算できるのだけれど,手計算でもなんとかなる場合があるということを学ぶ。

2022年4月30日土曜日

1次元周期ポテンシャル

 月曜日の予習シリーズ。

1次元の周期ポテンシャル中を運動する粒子の問題を考える。

(1) 並進演算子:$\psi(x+\delta x) \approx \psi(x) + \delta x \cdot \frac{d}{dx} \psi(x)  = (1 + i \ \delta x \cdot p_x / \hbar ) \psi(x)$から,運動量演算子は微小並進操作と関係している。そこで,ユニタリ演算子,$U(a) = \exp( i\ a \cdot p_x / \hbar )$が,有限の並進操作を行う演算子となる。つまり,$U(a) \psi (x) = \sum_{k=0}^\infty \frac{1}{k!} (\frac{i\ a \cdot p_x}{\hbar})^k \psi(x) =  \sum_{k=0}^\infty \frac{a^k}{k!} (\frac{d}{dx})^k \psi(x) = \psi(x+a)$

(2) 1次元周期ポテンシャル:1次元のポテンシャル$V(x)$中を運動する質量$m$の粒子に対する定常状態のシュレーディンガー方程式は,$H \psi(x) = \{ -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}+V(x) \}\psi(x)  = E \psi(x)$ である。このポテンシャルが周期$a$を持つとき,すなわち,$V(x+a)=V(x)$のとき,$U(a)V(x)\psi(x)=V(x+a)\psi(x+a)=V(x) U(a)\psi(x)$なので,$[U(a), V(x)]=0$,また,$U(a)$は演算子$p$から構成されるので,$[U(a),\frac{p^2}{2m}]=0$である。

(3) 固有関数の並進対称性:したがって,$[U(a),H]=$であり,$H$の固有関数は,$U(a)$との同時固有関数(絶対値1の複素固有値)になるから,$U(a) \psi(x)  = \exp(ika)\psi(x)$とかける。つまり,$\psi(x+a) = \exp(ika) \psi(x)$であり,$\psi(x)=\exp(ikx) \phi(x)$とすると,$\phi(x+a)=\phi(x)$を満足することになる。すなわち,ブロッホの定理「周期ポテンシャルの固有関数は同じ周期性を持つ関数と平面波の積となる」が成り立つ。

うーん,ここからクローニッヒ=ペニーモデルに持ち込むにはちょっと覚悟が必要だということがわかったので,宿題にする。


2022年4月29日金曜日

フェルミ分布

月曜の授業の予習シリーズ。

位相空間($\mu$空間)の細胞に含まれる状態数は,プランク定数を$h$として,$dn=\frac{1}{h^3} dx dy dz dp_x dp_y dp_z$である。電子のようなスピン1/2のフェルミ粒子を考えると,位相空間の各状態にスピンアップとダウンの2状態がともなう。そこで,単位体積をとって,運動量空間細胞に含まれる状態数は $dn' = \frac{2}{V_0} \int_V dn = \frac{2}{h^3}dp_x dp_y dp_z  = \frac{8 \pi}{h^3} p^2 dp$となる。ただし,$p^2=p_x^2+p_y^2+p_z^2$。粒子の質量を$m$,エネルギーを$w=\frac{p^2}{2m},\ p=\sqrt{2mw}$とすると,$dw=\frac{p}{m}dp\ $より,$dn'=\frac{8 \pi}{h^3} \sqrt{2m^3 w}\ dw\ $となる。

この系のフェルミ分布関数は,$f(w_i)=[\exp(\frac{w_i - w_F}{kT}) + 1]^{-1}$である。ただし,$k$はボルツマン定数,$T$は系の絶対温度,$w_F$はフェルミ準位を表わす。これから,エネルギーの分布関数は,$N(w)dw= \frac{8 \pi}{h^3} \sqrt{2m^3 w} [\exp(\frac{w - w_F}{kT}) + 1]^{-1} dw$となる。これを速度空間の表式にひきもどして,$v_x,v_y$で積分すると$\ v_z$の分布関数が得られる。

そこで,次の関係式に留意する。$\int_{-\infty}^{\infty}dv_x\int_{-\infty}^{\infty}dv_y\int_{-\infty}^{\infty}dv_z f(v_x,v_y,v_z) = 4\pi \int_{0}^{\infty} f(v^2)\ v^2 dv $

$w=\frac{m}{2}v^2$,$dw = m v\ dv$なので

$4\pi \int_{0}^{\infty}f(v^2)  v^2 dv = 4\pi \int_{0}^{\infty} f(v^2)  \frac{v}{m} dw =  \int_{0}^{\infty} 4\pi f(v^2)  \sqrt{\frac{2w}{m^3}} dw$

そこで,$N(w)dw =  4\pi f(v^2)  \sqrt{\frac{2w}{m^3}} dw\ $とおけば,$f(v^2)=N(w) \frac{1}{4\pi} \sqrt{\frac{m^3}{2w}}\ $となるので,$\ v_z$の分布関数 $N(v_z) dv_z$は次式で与えられる。

$N(v_z) dv_z = \int_{-\infty}^{\infty}dv_x\int_{-\infty}^{\infty}dv_y f(v_x,v_y,v_z) dv_z =  \int_{-\infty}^{\infty}dv_x\int_{-\infty}^{\infty}dv_y N(w) \frac{1}{4\pi} \sqrt{\frac{m^3}{2w}} dv_z$

$= \int_{-\infty}^{\infty}dv_x\int_{-\infty}^{\infty}dv_y \frac{2m^3}{h^3} [\exp(\frac{w - w_F}{kT}) + 1]^{-1} dv_z$

$v_x, v_y$平面での積分を2次元の極座標によって実行するため,$u^2=v_x^2+v_y^2$とおいて,$dv_x dv_y = 2\pi u du$となる。

$\therefore \quad N(v_z) dv_z = \frac{4\pi m^3}{h^3} \int_0^\infty du u  [\exp(\frac{\frac{m}{2}(u^2+v_z^2) - w_F}{kT}) + 1]^{-1} dv_z$

$= \frac{4\pi m^3}{h^3} \int_0^\infty \frac{1}{2} dt  [\exp(\frac{\frac{m}{2}(t+v_z^2) - w_F}{kT}) + 1]^{-1} dv_z$

ここで,$a=\exp(\frac{\frac{m}{2}v_z^2 - w_F}{kT})$,$b=\frac{m}{2kT}$とおけば,必要な積分は$\int_0^\infty \frac{1}{a \exp(bt) + 1}dt$となり,その値は$\ \frac{1}{b}\log(1+1/a)\ $である。これより,$N(v_z) dv_z = \frac{4\pi m^2 kT}{h^3} \log (1 + \exp(\frac{w_F - \frac{m}{2}v_z^2}{kT})) dv_z$

これらの分布関数をMathematicaでプロットすると次のようになる。

f[w_, kT_] := Sqrt[w]/(Exp[(w - 1)/kT] + 1)
Plot[Table[f[w, 0.01*k], {k, 1, 10, 2}], {w, 0, 2},PlotRange -> {0, 1}]
g[v_, kT_] := kT/2 Log[(Exp[(1 - .5*v^2)/kT] + 1)]
Plot[Table[g[v, 0.01*k], {k, 1, 10, 2}], {v, 0, 2},PlotRange -> {0, 0.5}]


図1:エネルギー分布関数 N(w)

図2:速度分布関数 N(v_z)


2022年4月28日木曜日

モル比熱

かつて 中学校で熱について学んだとき,もっとも重要な基本法則は熱量と温度と比熱の関係だった。これが重要であることは,大学の熱力学でもそうなのだけれど,あくまでも熱力学第一法則と第二法則の脇役であって,電磁気学のオームの法則のようなものだ。

物質量が$\ n\ $モルの体系に熱量$\ d'Q\ $を与えたときに,温度が$\ dT\ $だけ増えたとする。系の温度を1K上げるために必要な熱量である熱容量$\ {\rm [J/K]}\ $は,$\frac{d'Q}{dT} $で与えられる。このとき,系の体積を一定にするならば定積熱容量 $C_V$,系の圧力を一定にするならば定圧熱容量 $C_p$ とよぶ。これらは物質量に比例する示量変数である。

熱力学の第一法則より $\ d'Q = dU + pdV = dU + d(pV)-V dp\ $が成り立つ。したがって,$C_V = \frac{dU}{dT}$,$C_p=\frac{dU}{dT} + \frac{d(pV)}{dT}$となる。ここで,理想気体を考えると,状態方程式 $\ pV = n R T\ $が成り立ち,$C_p=C_V + n R$と表わされる。

単位質量あるいは単位物質量あたりの熱容量が比熱容量比熱となる。定積モル比熱は$c_V=\frac{1}{n}C_V$,定圧モル比熱は$c_p=\frac{1}{n} C_p$と小文字の$c$で表わすことになるが,教科書を眺めると,そのあたりの定義や記号の使い方は必ずしもそろっているわけではなかった。

2022年4月27日水曜日

カルノーサイクル

熱力学の復習シリーズ,カルノーサイクルの練習をする。

 熱力学第一法則: $dU = d'Q + d'W = d'Q - p dV$

 理想気体の状態方程式: $pV=nRT$

 理想気体のポアソンの法則: $pV^\gamma = const,\quad T V^{\gamma-1} = const'$

 エントロピー: $dU = TdS -p dV,\quad dS = \frac{dU + pdV}{T}$

 内部エネルギー: $U = nC_{V}T$

■過程 A $\rightarrow$ B($p_{\rm A}V_{\rm A}=p_{\rm B}V_{\rm B}$)

理想気体が高温熱源$T_{\rm H}$と接触を保ちつつ,一定の温度$T_{\rm H}$の状態を保ちつつ,熱量$Q_{\rm H}$をもらって膨張し,外へ仕事$W_{\rm AB}$をする。理想気体の温度は一定なので,内部エネルギーは$U_{\rm B}=U_{\rm A}$であり,熱力学第一法則より$W_{\rm AB}=Q_{\rm H}$である。

外部にした仕事は,$W_{\rm AB}=\int_{V_{\rm A}}^{V_{\rm B}}p dV = \int_{V_{\rm A}}^{V_{\rm B}}\frac{nRT_{\rm H}}{V} dV=nRT_{\rm H}\log \frac{V_{\rm B}}{V_{\rm A}} = Q_{\rm H}$

エントロピー変化は,$S_{\rm AB}= \int_{\rm A}^{\rm B} dS = \int_{V_{\rm A}}^{V_{\rm B}} \frac{p}{T} dV = \int_{V_{\rm A}}^{V_{\rm B}} \frac{nR}{V} dV = nR \log \frac{V_{\rm B}}{V_{\rm A}} = \frac{Q_{\rm H}}{T_{\rm H}}$

■過程 B $\rightarrow$ C($p_{\rm B}V_{\rm B}^\gamma=p_{\rm C}V_{\rm C}^\gamma \quad T_{\rm H} V_{\rm B}^{\gamma-1} = T_{\rm L} V_{\rm C}^{\gamma-1}$)

断熱壁と接触する理想気体が,熱の流入なしに断熱的に膨張して外に仕事$W_{\rm BC}$をする。熱力学第一法則によって,理想気体の内部エネルギーは$U_{\rm B}$から$U_{\rm C}$まで減少し,温度は$T_{\rm L}$まで下がる。熱の出入りがないのでエントロピーは変化しない。

外部にした仕事は,$W_{\rm BC}=\int_{V_{\rm B}}^{V_{\rm C}}p dV = \int_{\rm B}^{\rm C} -dU = U_{\rm B}-U_{\rm C} = U(T_{\rm H}) - U(T_{\rm L})= n C_V (T_{\rm H}-T_{\rm L})$

■過程 C $\rightarrow$ D($p_{\rm C}V_{\rm C}=p_{\rm D}V_{\rm D}$)

理想気体が低温熱源$T_{\rm L}$と接触を保ちつつ,一定の温度$T_{\rm L}$の状態を保ちつつ,熱量$Q_{\rm L}$を放出して収縮し,外から仕事$W_{\rm CD}$がなされる。理想気体の温度は一定なので,内部エネルギーは$U_{\rm D}=U_{\rm C}$であり,熱力学第一法則より$W_{\rm CD}=Q_{\rm L}$である。

外部からされる仕事は,$W_{\rm CD}=\int_{V_{\rm C}}^{V_{\rm D}}-p dV = \int_{V_{\rm C}}^{V_{\rm D}}-\frac{nRT_{\rm L}}{V} dV=nRT_{\rm L}\log \frac{V_{\rm C}}{V_{\rm D}} = Q_{\rm L}$

エントロピー変化は,$S_{\rm CD}= \int_{\rm C}^{\rm D} dS = \int_{V_{\rm C}}^{V_{\rm D}} \frac{p}{T} dV = \int_{V_{\rm C}}^{V_{\rm D}} \frac{nR}{V} dV = nR \log \frac{V_{\rm D}}{V_{\rm C}} = - \frac{Q_{\rm L}}{T_{\rm L}}$

■過程 D $\rightarrow$ A($p_{\rm D}V_{\rm D}^\gamma=p_{\rm A}V_{\rm A}^\gamma \quad T_{\rm L} V_{\rm D}^{\gamma-1} = T_{\rm H} V_{\rm A}^{\gamma-1}$)

断熱壁と接触する理想気体を,熱の流入なしに断熱的に圧縮して外から仕事$W_{\rm BC}$がされる。熱力学第一法則によって,理想気体の内部エネルギーは$U_{\rm C}$から$U_{\rm D}$まで増加し,温度は$T_{\rm H}$まで上がる。熱の出入りがないのでエントロピーは変化しない。

外部からされる仕事は,$W_{\rm DA}=\int_{V_{\rm D}}^{V_{\rm A}}- p dV = \int_{\rm D}^{\rm A} dU = U_{\rm A}-U_{\rm D} = U(T_{\rm H}) - U(T_{\rm L})= n C_V (T_{\rm H}-T_{\rm L})$

■カルノーサイクルの効率

1サイクルの過程${\rm A \rightarrow B \rightarrow C \rightarrow D \rightarrow A}$において,理想気体(作業物質)が外部にする正味の仕事は,$W = W_{\rm AB} + W_{\rm BC} - W_{\rm CD} -W_{\rm DA} = W_{\rm AB} - W_{\rm CD}$

$= nRT_{\rm H}\log \frac{V_{\rm B}}{V_{\rm A}} - nRT_{\rm L} \log \frac{V_{\rm C}}{V_{\rm D}} = Q_{\rm H}-Q_{\rm L}$

このカルノーサイクルの効率は $\eta = \frac{W}{Q_{\rm H}} = \frac{Q_{\rm H}-Q_{\rm L}}{Q_{\rm H}} = 1 - \frac{Q_{\rm L}}{Q_{\rm H}}$で与えられる。

ところで,ポアソンの法則の温度と体積の関係式を組み合わせると,

$\frac{T_{\rm H}}{T_{\rm L}}=\Bigl( \frac{V_{\rm C}}{V_{\rm B}}\Bigr)^{\gamma-1}=\Bigl(\frac{V_{\rm D}}{V_{\rm A}}\Bigr)^{\gamma-1}$,

したがって,$\frac{V_{\rm C}}{V_{\rm B}}=\frac{V_{\rm D}}{V_{\rm A}} \quad \frac{V_{\rm A}}{V_{\rm B}}=\frac{V_{\rm D}}{V_{\rm C}} $

$\therefore \frac{Q_{\rm L}}{Q_{\rm H}}=\frac{nRT_{\rm L}\log \frac{V_{\rm C}}{V_{\rm D}}}{nRT_{\rm H}\log \frac{V_{\rm B}}{V_{\rm A}}}=\frac{T_{\rm L}}{T_{\rm H}}, \quad \eta = 1 - \frac{T_{\rm L}}{T_{\rm H}}$

■カルノーサイクルのエントロピー

$S = S_{\rm AB} + S_{\rm BC} +S_{\rm CD} +S_{\rm DA} = \frac{Q_{\rm H}}{T_{\rm H}} -  \frac{Q_{\rm L}}{T_{\rm L}} = nR \log \frac{V_{\rm B}}{V_{\rm A}} + nR \log \frac{V_{\rm D}}{V_{\rm C}} = 0 $

カルノーサイクルでは,${\rm A} \rightarrow {\rm B}$の等温膨張過程で熱を吸収するとともに,理想気体のエントロピーが増加し,${\rm C} \rightarrow {\rm D}$の等温圧縮過程で熱を放出するとともに,理想気体のエントロピーが減少する。その結果,1サイクルが終了後にはエントロピーの増減はなくなり,エントロピーが状態量であることが保証されている。


図:カルノーサイクルのp-V図


2022年4月25日月曜日

ミクロカノニカル分布

 ミクロカノニカル分布について。

小正準集団(ミクロカノニカルアンサンブル)とは,外界から孤立した系の熱平衡状態を記述するための統計集団。考えている孤立系と粒子数($N$),体積($V$)が等しく,エネルギー($E$)がある幅($\delta E$)の範囲で等しい系(コピー)の集団である。その数は,下記で定義される微視的な状態数$W$に等しい。

考えている$\ N\ $粒子系の位相空間($\Gamma\ $空間)とする。1粒子の位相空間($\mu\ $空間)の体積が$h^f$で表わされるとき,$\Gamma\ $空間の細胞$\ d\Gamma\ $における微視的な状態数を$\ dW = \frac{1}{h^{Nf}} d\Gamma = \frac{1}{h^{Nf}} dq_1 \cdots dq_N\ dp_1 \cdots dp_N$とする。これから,$W= \frac{1}{h^{Nf}} \int_{E}^{E+\delta E} dq_1 \cdots dq_N\ dp_1 \cdots dp_N$

等重率の原理は,巨視的に観測される全エネルギーが$E$である小正準集団がすべておなじ重みで確率的な平均操作に寄与するというものである。この確率分布を小正準分布(ミクロカノニカル分布)とよぶ。このとき,ある物理量$A(q_1 \cdots q_N, p_1 \cdots p_N)$において,これを小正準分布を用いてその観測される期待値を求めると次式のようになる。

$\langle A \rangle = \int_{E}^{E+\delta E} A(q_1 \cdots q_N, p_1 \cdots p_N) dq_1 \cdots dq_N\ dp_1 \cdots dp_N / \int_{E}^{E+\delta E} dq_1 \cdots dq_N\ dp_1 \cdots dp_N$

等重率の原理を用いて,$N$粒子系の全位相空間の点を同じ確率で扱う根拠として,かつては,エルゴート定理をその根拠とする教科書が多かった。ところが,田崎晴明さんの統計力学の教科書(2008)でこれを否定してからは,こうした教科書は少なくなった。もっとも,高橋康さんの統計力学入門(1984)には,そのあたりはていねいに書いてあったのだった。


愛の設計図

松竹座で5月から始まる「藤山寛美三十三回忌追善喜劇特別公演」に関連したイベントがなんばパークスシネマで開催された。応募ハガキが当選したので授業前の時間を利用して大阪まで出る。

藤山寛美による1983年の松竹新喜劇公演の「愛の設計図」がDVD化されていて,これを上映したあとに,渋谷天外と藤山扇次郎のトークショウがあった。DVDの音源を利用しているからか,劇場の音響がちょっときつすぎて閉口した。

曽我廼家文童が情報処理プログラマーの試験に受かるところからはじまって,建設会社の現場監督と設計士を巡るドラマが進んでいく。アドリブも沢山入っているらしい藤山寛美のセリフは必ずしも全編に渡って流ちょうというわけでもないのだけれど,要所要所で観客の心をつかむ技はさすがである。


2022年4月24日日曜日

ラザフォード

 月曜日の授業の課題を考えていた。

先週のオリエンテーションの後,ゴールデンウィーク明けまでは,現代物理学の歴史の概論を講義する予定なので,現代物理学の基礎を築いた物理学者について調べてもらうことにする。で,Wikipediaの日本語版と英語版の記述量がかなり違うことを知ってもらうというのを目的として,英語版にはあって日本語版にない情報を選んで簡単に紹介してもらうという趣旨にした。

そのため,物理学者の一覧を作るべく調べていると,ノーベル物理学賞の受賞者にラザフォードの名前がない。原子の構造にたどり着いた一番肝腎な人物なのに,いったいどうしたことでしょう。というわけで,トイレからでて落ち着いてノーベル化学賞の方に,ソディデバイなどとともに無事にリストされていた。

ちなみに,宿題に出したのは60名のリストからさらに精選した以下の24名とした。


ヴィルヘルム・レントゲン W. C. Rontogen (1845-1923)
アルバート・マイケルソン A. A. Michelson (1852-1931)
アンリ・ベクレル A. H. Becquerel (1853-1908)
ジョゼフ・ジョン・トムソン J. J. Thomson (1856-1940)
マックス・プランク M. Planck (1858-1947)
ピエール・キュリー P. Curie (1859-1906)
ヘンリー・ブラッグ W. H. Bragg (1862-1942)
フィリップ・レーナルト P. Lenard (1862-1947)
ビーター・ゼーマン P. Zeeman (1865-1943)
マリ・キュリー M. Curie (1867-1934)
ロバート・ミリカン R. A. Millikan (1868-1953)
ジャン・ペラン J. B. Perrin (1870-1942)
アーネスト・ラザフォード E. Rutherford (1871-1937)
フレデリック・ソディ F. Soddy (1877-1956)
マックス・フォン・ラウエ M. von Laue (1879-1960)
ジェイムス・フランク J. Franck (1882-1964)
マックス・ボルン M. Born (1882-1970)
ピーター・デバイ P. Debye (1884-1996)
ニールス・ボーア N. Bohr (1885-1962)
エルヴィン・シュレーディンガー E. Schrodinger (1887-1961)
アーサー・コンプトン A. Compton (1892-1962)
ルイ・ド・ブロイ L. V. de Broglie (1892-1987)
ヴォルフガング・パウリ W. E. Pauli (1900-1958)
ボール・ディラック P. A. M. Dirac (1902-1984)

2022年4月23日土曜日

原子の寿命

現代物理学の導入部分で, 古典物理学(ニュートン力学+マクスウェル電磁気学)では原子の安定性が説明できないことがひとつの鍵になる。このためには,加速度運動する電子が電磁波を放出することを示す必要がある。ところが,加速荷電粒子からの電磁波の放出は,電磁気学で学ぶ最終コーナーであり,そこまで到達しない場合が多い。

お茶の水女子大学の理学部3年次編入試験では,この部分が次元解析で説明されていた。最初に,陽子($+e$)の周りを円運動している電子($-e$)の位置エネルギー$V(r)$を無限遠点を基準として求める。ただし,$r$は陽子から電子までの距離。クーロン定数は$k=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}$とするので,$V(r) = - k \frac{e^2}{r}$。

次に,この非相対論的な運動をしている電子(速度$\ v$,質量$\ m_e$)の全エネルギー$\ E\ $を求めると$\ E=\frac{1}{2}m v^2 - k \frac{e^2}{r}$。なお,円運動の向心力=クーロン力から,$m_e \frac{v^2}{r} = k \frac{e^2}{r^2}\ $を用いると,$E = -\frac{k}{2} \frac{e^2}{r}\ $であり,加速度は$\ a = \frac{v^2}{r} = \frac{k e^2}{m_e r^2}\ $。

加速度運動する電子から単位時間に放出される電磁波のエネルギー $S\ {\rm [kg \cdot m^2 \cdot s^{-3}]}$を,次元解析によって表わす。電子の加速度$\ a\ {\rm [m \cdot s^{-2}]}$,微細構造定数$\ \alpha\ $を使って$\ e^2\ k=\alpha \hbar c\ {\rm [kg \cdot m^3 \cdot s^{-2} ]}$ ,光速度$\ c\ {\rm [m \cdot s^{-1}]} \ $を用いると,$S \sim \alpha \hbar c \frac{a^2}{c^3}$ となる。以下では数係数を1とする。

円運動する電子が単位時間に失うエネルギーは,$-\frac{d E}{d t} = \frac{k e^2}{2} \frac{-\dot{r}}{r^2}=  \frac{\alpha \hbar c}{2} \frac{-\dot{r}}{r^2}$。これが上記の$S$と等しいことから,$\frac{\alpha \hbar c}{2} \frac{-\dot{r}}{r^2} = \alpha \hbar c \frac{a^2}{c^3} $,つまり,$\dot{r} = - 2 r^2 \frac{a^2}{c^3}$

ここで,$\frac{a}{c} = \frac{\alpha \hbar c}{m_e c r^2}\ $なので,$r^2 \dot{r} = - 2  \bigl( \frac{\alpha \hbar c}{m_e c^2} \bigr)^2 c\ $

初期状態で半径$r_0$の原子が電磁波を放出して半径0になるまでの時間を$\tau$とすると,

$\int_{r_0}^0 r^2 dr = \int_0^\tau - 2  \bigl( \frac{\alpha \hbar c}{m_e c^2} \bigr)^2 c\ dt\ $から,

$-\frac{r_0^3}{3} = - 2  \bigl( \frac{\alpha \hbar c}{m_e c^2} \bigr)^2 c \tau $

$\therefore \tau = \frac{r_0^3}{6 c} \bigl( \frac{m_e c^2}{\alpha \hbar c} \bigr)^2 $

$r_0=10^{-10} {\rm [m]}$,$\alpha = \frac{1}{137}$,$ \hbar c = 197 \times 10^{-15}{\rm [MeV \cdot m]}$,$m_e c^2 = 0.5 {\rm [MeV]}$,$c=3 \times 10^8 {\rm [m \cdot s^{-1}]}$ を代入すると,$\tau = 6.7 \times 10^{-11} {\rm [s]}$となる。

2022年4月22日金曜日

ファン・デル・ワールスの状態方程式

統計物理学の授業がはじまった。専門科目にしては受講者が多かったので,講義室は共通講義棟の1Fに割り当てられていた。授業の第1法則:受講者数は時間とともに指数関数的に減少する。授業の第2法則:受講者数の空間密度分布は教卓からの距離の逆数に比例して減少する。

最後にファン・デル・ワールスの状態方程式を紹介して授業を終えたところ,早速質問があった。理想気体では,$pV=n\ R\ T\ $だった状態方程式が,実在気体の場合$\bigl( p + \frac{a}{V^2} \bigl) (V - b) = R\ T\ $と書いてあるけれど,右辺にモル数の$\ n\ $が抜けているのかというものだ。

「あ,ごめんごめん,忘れてたわ」と返事して終ったものの,帰り道に380段の階段を下りながら考えてみると何だかおかしい。圧力の補正項$\ \frac{a}{V^2}\ $は分子間力によるものであり,気体密度の二乗に比例する項だと説明した。ところが,圧力は示強変数なのに,補正項の分母は示量変数の二乗になっている。つまり,$a\ $は定数ではなく示量変数の二乗に比例しなければならない。

演習課題の参考にしていた「熱学入門」(藤原邦男・兵頭俊夫)の式も同様の問題点を含んだままだった。そこで,いくつかの本などでファン・デル・ワールス方程式を調べてみると,気体のモル数を1モルに限定していたり,体積として$\ V\ $ではなく,モル当たり体積$\ V_m\ $を用いている。

ということで,正しくは,$n$モルの実在気体に対しては,$\bigl( p + \frac{a n^2}{V^2} \bigl) (V - n b) = n\ R\ T\ $としなければならない。$a, b\ $の値もこれまで考えたこともなかったが,お茶の水女子大学の理学部編入試験問題にも採用されているくらいであり,水(H2O)の場合,$a=5.54\times 10^{-1} {\rm [Pa \cdot m^6 \cdot mol^{-2}]}$,$b=3.05 \times 10^{-5} {\rm [m^3 \cdot mol^{-1}]}\ $だった。

これを使ってMathematicaで状態図をプロットしてみる。



図:水蒸気のファン・デル・ワールス状態図

a = 0.554; b = 3.05*10^-5; R = 8.314; 8 a/(27 R b)
647.331 ・・・ (臨界温度)

p[V_, T_] := R T /(V - b) - a/(V^2)
q[V_, T_] := Abs[R T /(V - b) - a/(V^2)]

LogLogPlot[{q[V, 673], q[V, 647.33], q[V, 573], q[V, 473], q[V, 373], 
  q[V, 273]}, {V, 3*10^-5, 3*10^-4}, PlotRange -> {10^5, 10^9}]
Plot[{p[V, 673], p[V, 647.33], p[V, 573], p[V, 473], p[V, 373], 
  p[V, 273]}, {V, 3*10^-5, 3*10^-4}, PlotRange -> {-10^8, 10^8}]