2019年6月24日月曜日

道徳教育(4)

(道徳教育(3)からの続き)

長田新の弟子である村井実は,今は村井純の父として名前が上ることが多いかもしれないが,1948年から1987年まで慶応義塾大学に在職していた教育哲学者である。村井実が1965年に発表した論文に「道徳は教えられるか」がある。平易な文章で明解な論理が示されており,道徳教育の原理を考える際の出発点の一つだと考えられる。

論文の内容を自分なりに要約すると次のようになる。

○「道徳を教えられるかどうか」は,ソクラテスの時代から現代の日本にいたるまで大きな課題である。道徳教育の必要性を議論し,実施のための課題の検討を進めるより前に,これを改めて問い直す必要がある。

○道徳の教育は,善悪や正義についての知識の教育と,その知識に従って行動する習慣の教育の2つの側面に分けることができる。前者が「道」に,後者が「徳」に対応する。

○道徳の知識は,(1)行為の目標や原理,(2)行為の条件や方法,(3)目標や原則に対する行為の認証,の3段階に分けられる。道徳教育を巡る最近の議論はこれらの知識の問題の吟味を欠いた情操の養成や意志の訓練に走っている。

○かつての修身教育は,行為の目標や原理の知識の注入にのみ終始し,さらに「徳」に関する教育との関係を考えていなかった。また,実際の行為の場における「道」の適用には,原則・原理の知識に加えて,歴史・社会・諸科学の知識や訓練が必要である。

○道徳教育が,歴史・社会・諸科学の知識だけでよいということにはならず,原理・原則との結びつきは必須である。また,「道」の知的要素を忘れた,心情への直接的働きかけに終始することも誤りである。

○知識がもののように授受されて教えられることはない。理解された状態をつくることが必要だ。一方,道徳に限って「教える」ことが実践的行為を保証するものでなければならないといえるのか。他の知識と同様に知的理解の上で導かれるのが実践的行為だと考えるのがよい。

○知的な理解が実践につながる例はつぎのようなものである。(1) 道徳的行為の一貫である必要条件としての目標や知識を「教える」場合。(2) 教えられるべき原理や目標が対立していて,それを克服することを「教える」必要がある場合。(3) 歴史の推移とともにある道徳的原理の廃止や変容に対処することを「教える」場合。(4) 道徳的な主体性を確立することを「教える」場合。

○道徳を「教える」ということは「道」の側面が重要な部分を占める。そのうえで,「徳」の教育は「道」を教えられた理性が,「私はそうしたくない」という矛盾から若人を救うためのものである。これらの道徳教育の必要条件を満たすことを求めるべきである。

[1]教育勅語・道徳教育に関する簡易年表(リブ・イン・ピース☆9+25)
[2]道徳の内容の歴史1890〜2015年(池田賢市・大森直樹)
[3]ラリサへの道(プラトン−ソクラテス)が,村井実の論文にある。
「メノンについては,プラトンの対話篇の中で叙述されている。そこでは,ソクラテスが正しい考えと科学の違いを,メノンを例に「ラリサへの道」として説明している。「ラリサへの道」とは、メノンが生きる道を信じて故郷のラリサを目指したように,それぞれ人間は、人生の中で真実を模索しながら、死という目的地へと生きている,と言ったのであった」(Wikipedia ラリサより引用)

2019年6月23日日曜日

道徳教育(3)

道徳教育(2)からの続き)

自分の考えを整理するために,自己流で概念を定義する(2019年版)。

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道徳の定義
 人の共同体を維持するために,社会慣習や行為基準を理念化し内面化させるもの

法の定義
 人の共同体を維持するために,構成員の行為を制約する制度的な枠組み

宗教の定義
 複雑化した社会を調停するために,超越的存在とそれへの帰依によって,
 人の共同体の矛盾を回避するための理念とこれを実現するシステム

倫理の定義
 道徳から宗教的な要素を取り除いた行為基準を客体化したもの

知識の定義
 対象や事象に関して認識された情報から抽出されたもので,他の知識との関係の中に位置づけて理解や伝達を可能にしたもの

科学の定義
 客観的に妥当する調査,観察,実験,推論などによって仮説検証を繰り返す過程から,対象世界に関する知識を獲得する活動

技術の定義
 対象の状態を変える,または創るための,再現や伝達が可能な方法や手段の体系(形式知)

技能の定義
 対象の状態を変える,または創るための,経験に根ざして個人に宿る方法や手段(暗黙知)

教育の定義
 人の共同体を維持するために,対象となる個人の技能を伸ばしながら,必要な知識や技術を伝えるための仕組み

学校教育の定義
 社会において,ある層を対象として組織的に教育を行うための制度的な枠組み

学校の定義
 学校教育を実施するための,組織・施設などのシステム

*社会システムは複雑系であることから,上記で用いられる「維持」とは保守的な概念ではなく,内外の状態や環境に対応して適応的に発展させることを含んでいる。
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ここから,学校において道徳教育が可能かどうかを考える。

道徳は普遍的なものではない。時代や民族や国あるいはそれらを構成する社会集団,例えば家族によっても異る可能性がある。あるいは,成育歴やおかれた社会環境によって,個人ごとに何が望ましい行為基準であるかは変動していておかしくない。いや,道徳は内面的な基準として作用するのであるから,本質的に個人に依存するものであり,いわゆる「価値多様化社会」においては大域的に共通な道徳概念は成立しにくい。したがって,ある道徳的な徳目が提示された場合には,それが誰にとってどんな意味を持つのか,その妥当性を局所的な視点で検討する必要がある。

道徳的な基準は,善悪,正邪,聖俗,美醜,苦楽,情理などのような行動基準に結びつく二項対立のリストに関係する。そして,ある事象に対したときの行動基準を定める上において,個人ごとに上記の項目を組み合わせた多次元の境界面の位置は異なる。一方,社会集団ごとにその境界面の構造は似通ったものとなることが想像され,集団ごとの道徳的な傾向といったものが考えられるかもしれない。そうであれば,社会集団ごとの利害関係にもとづく経済的・政治的な力関係によって,何が社会としての普遍的な基準としての道徳となるかが選択されることになる。

学習指導要領で提示されているような道徳教育の項目(徳目)は,知恵者たちによるロンダリングの結果,一見普遍的な妥当性を持つように思われる。しかし,よくみれば,それらはマクロなあるいはミクロな社会構造の中で支配的な立場にある側がその状態を維持するという目的にとって有利なものであることが見え隠れする。もちろん,社会集団が安定的に維持されることは,構成員にとっても正しいことでもあるかもしれない。しかし,その社会が矛盾をかかえていて,その矛盾を解決せずに維持しようとしている場合には,道徳は矛盾に苦しむ構成員に対する抑圧として強く作用することになる。

道徳教育は科学ではないので,時間や空間を越えた普遍的な妥当性を議論することに意味はない。もちろん,集団を維持するための生物学的なあるいは社会心理学的な知見にもとづいた傾向性が存在することまでは否定しない。だが,気をつけなければ,それらは道徳のあやしげな科学的裏付けに使われるだけだろう。問題は,道徳教育をいかにして価値観を押し付ける抑圧体系の輪廻から解脱させるかである。それは道徳という概念の枠組みでは本質的に困難ではないか。

もし,道徳教育を現在の学校教育のなかで位置づけるとすれば,安定した人間関係を築きながら社会に調和することを目指すと同時に,そこに生ずる様々な課題に立ち向かいながら解決できるようになるための具体的な技や方法を習得するとともに,その前提となる多様な視点や共感する力を獲得するための感性を養うことだろうか(結局は,教育する側が重要だと考える価値を注入するという方法論に自分自身が染まっていて,それから抜け出せていないようにも思う。現在の道徳教育推進論者たちと同じ穴に落ち込んでいるのか・・・orz)。

道徳を廃止し,生活科を解体再編して1〜6年の35時間の枠にしたい(1・2学年で各100時間余りある現行の生活科は,理科と社会に配分してあげて下さいw)。

参考文献

2019年6月22日土曜日

道徳教育(2)

道徳教育(1)からの続き)

現在のように「道徳」を特別な教科として格上げすることになったのは,2013年の3月に文部科学省に設置した「道徳教育の充実に関する懇談会」が同年12月に出した報告書,「今後の道徳教育の改善・充実方策について(報告)~新しい時代を、人としてより良く生きる力を育てるために~ 」に基づくものである。

メンバーをみると,露骨に右寄りのイデオローグは含まれていないようだ(自分が知らないだけかもしれない)。道徳教育学プロパーが中心となっている。そもそも懇談会の名前が道徳教育の充実に関する・・・なので,議論する前から方向性や結論は決まっているようなものだ。安倍総裁のもとでの自由民主党の教育再生会議の徳育と体育の充実が議論の出発点になっているので,当然といえば当然なのだが。

道徳教育の必要性が,教育基本法の教育の目的の最初のフレーズ「教育は,人格の完成を目指し,・・・(これは旧教育基本法も同じ)」に源泉するとしている。つまり,人格の完成=道徳教育の方向性であることから,道徳教育の位置づけを教育課程全体に渡る非常に高いところにおこう,というのが道徳教育プロパーをコアとした懇談会メンバーの主流意見となっている。教育課程全体が道徳のもとに再編されるというたいへん恐ろしい事態が目前に迫っている。

これを補完するように,時代の変化に対応した高度専門分野の倫理の問題や,学校におけるいじめ問題や若者の規範意識の低下への対応のためであることなどが,耳あたりのよい説明として強調されている。それに加えて,「戦前の反省を踏まえた戦後の民主主義的な流れによって道徳教育が軽視されてきたこと」を否定することが,道徳教育の充実にとっては必要であるという,強い主張がなされている。しかし,これは道徳教育の存在を当然のように前提とした議論であり,現状分析は表層的なものにとどまっている。道徳教育の本質に遡っての反省や見直しが議論された様子はうかがえない。

この全体的な流れをやさしく復習しているのがこどもまなびラボの記事。また,苫野一徳さんと竹田青嗣さんなどの議論が参考になる。

[1]道徳教育の必要性とは?「特別の教科」になった本当の理由(こどもまなびラボ)
[2]竹田青嗣×苫野一徳 全面実施目前,『道徳』の本質を問う(×哲学プロジェクト)
[3]「道徳の教科化」に潜む“愛国教育”の危うさ 国が道徳観を定め教師が評価するのは適切か(福島創太)
[4]「よりマシ」な道徳教科書を,あなたの町の小学生に届けましょう(だい)
(このなかで最も高く評価されていた光村図書の道徳教科書には,千葉大学附属中学校の三宅健次先生が編集委員として加わっていた,その節はお世話になりました。また,最も評価の低かった教育出版の道徳教科書の宣伝VTRには,武蔵野大学の貝塚茂樹が登場していた。そういうことである。)

道徳教育(3)に続く)

2019年6月21日金曜日

道徳教育(1)

1958年,昭和33年施行の学習指導要領で教科外活動の時間としての道徳が導入されたため,自分が小学校の時にはすでに毎週1回の道徳の授業があった。道徳は教科ではなかったので,当時のあの薄い教科書も教科書ではなかったのだろうか。当時の小学校道徳の目的は以下のようなものだ。

 1 日常生活の基本的な行動様式を理解し,これを身につけるように導く。
 2 道徳的心情を高め,正邪善悪を判断する能力を養うように導く
 3 個性の伸長を助け,創造的な生活態度を確立するように導く。
 4 民主的な国家・社会の成員として必要な道徳的態度と実践的意欲を高めるように導く。

小学校の道徳の時間はイヤでしかたがなかった。教訓めいた題材の中にはサイエンスやスポーツにかかわる興味深いものも若干混じっていたが(テニスの清水善造選手の話とか,電子顕微鏡の開発の話とか),自分の内面の嘘を見透かされたような学校生活をテーマとした道徳的葛藤のストーリーは,なんともがまんできず,はやくこの時間が終わればいいのにと願っていた。体育の時間と同じくらいイヤな時間だった。

そんな道徳の時間は, 教育基本法の改正で地ならしされたところへ,2015年に特別な教科として再定義されることになった。それ以来,学校および社会の支配層のツールとしてその内容に磨きがかけられつつある。そう,道徳が声高に語られるときはその主体と目的と対象を明確に意識しておいたほうがよい。

道徳は,宗教に替わって,あるいは宗教を補完して,高度に複雑化した人間の共同体を安定的に維持するための規範を定義するものなのだろう。しかし,それが学校教育の教科という形で実現できるのかどうかはよくわかっていない。Wikipediaの道徳教育には対応する英語項目がなく,それに相当するものとしては,Character Education (人格教育)が示されている。これは,民主主義社会における市民の育成という観点から、子どもの人格の発展に働きかけ、子どもを取り巻く諸問題を解決することを目指した教育のこと,であるとされる。しかし,それは成功していないともある。また,英国では,Personal, Social, Health and Economic (PSHE) Education という概念で与えられるものに相当するようだ。

[1]道徳教育(文部科学省)
[2]道徳教育アーカイブ(文部科学省)
[3]総合的道徳教育プログラム(東京学芸大学)
[4]日本道徳教育方法学会
[5]日本道徳教育学会

道徳教育(2)に続く)

2019年6月20日木曜日

テストは変わる

今日は観察実習の日なので,非常勤の授業も休講。NHKの番組「ウワサの保護者会」のタイトル「テストは変わる」の回の再放送をみていた。尾木直樹さんが出演している。

日本の教育における学力概念が変化するとともに,学校での成績評価が相対評価から絶対評価に変わり,記述式のテスト問題が増えてきた状況を,番組に参加している保護者の方々の子どものテストへの対応の悩みとともに話し合っていた。

そのなかで,次のような算数の記述問題が示され,参加者一同首をひねって困っていた。
「今まで算数を学んできたなかで,実生活において算数の考え方が活かされて感動したり,面白いと感じた出来事について簡潔に説明して下さい」
ほほう,これは簡単だ。自分の回答は次のようになる。

高校3年のときの秋の文化祭の仮装行列のクラスの出し物が,ギリシャ神話のパンドラの箱の物語だった。パンドラが神様からもらった箱を,開けてはいけないといわれていたのに開けてしまった結果,それまで世界には存在していなかった様々な悪の魑魅魍魎がわき出した。これによって,世界がそれまでの平和な状態から,様々な不幸があふれる悲惨な状態に変わってしまう。パンドラは慌てて蓋を閉めたが,もう逆戻りはできない。悲しんだパンドラが,最後に箱の中から呼ぶ声にしたがって,開けてみるとそこからは最後の救いとなる「希望」が出てくるのであった。

話がすすまない。

このパンドラの箱の製作担当グループになった。設計図をかいて,木材とベニヤ板を組み合わせて,長方形+半円柱の蓋からなる数m×数m(中に数名入ることができる)の構造物を造るのが我々の任務だ。箱の表面には金紙を貼ることになり,尾張町辺りの紙問屋につてがある友達と3人で,秋の寒い夕方に武蔵が辻までバスで向った。店に着くともうあたりは暗くなっている。受付で紙の見本をみせられ紙の大きさはそれほど大きくない長方形だったので,何枚必要ですかと尋ねられた。

大急ぎで,円柱の表面積と直方体の表面積を与えるとともに,長方形の金紙の向きをどちらに向けると最も枚数を節約できるかの計算をはじめた。あとの二人(増永君と東出君かなあ)は唖然として見守っていた。たぶん,そのお店には当時まだ珍しかった電卓があって,それを借りて計算したような気がする。高校では,CASIOのプログラム電卓を使っていたので,まだ世の中に普及していない電卓であろうが,こわくはない。もし,これが正しい記憶ならば,このような電卓(で1971年に存在しているもの)だったのではないか。

このときほど,小学校のときやや苦手だった面積の計算が役に立ったことはない。
(やや苦手というのは小学校4年生ででてきた面積や体積の単位の換算の部分なのだけど)

20分ほどで無事に計算は終了し,金紙の束を購入して帰路についたのであった。たしかにその金紙はちょうど箱の外側の必要な面積を覆うことができた。計算は正しかったのだ。ところが残念ながら,米島君に「いいけども,色がもうちょっと金色だったらよかったのに」とダメ出しされた。紙問屋さんが出してきたのは普通の折り紙のきらきらした金紙ではなくて,もう少し上品で表面が地味に加工されている大人向けの金紙だったのだ。なお,パンドラの箱の半円柱の蓋の内側の構造もベニヤ板をはってペンキを青く塗っただけだったので,こちらもダメ出しされている。

さて,このような個人的な体験をきいて,教師は何を考え,子どもたちに何を伝えることができるのだろうか。このなんだかメタな算数の記述問題は,やはりあまり筋がよくないように思われるのであった。

P. S. 2019.12.29 もしかしてこの紙問屋は十間町の中島商店だったかもしれない。その建物は昭和7年の村野藤吾のモダンな建築である。

2019年6月19日水曜日

松下ガーデン

金沢の広小路から有松の交差点に向かう道路(南端国道あるいは南大通)の途中に,今は駅西の合同庁舎内に移転した金沢地方気象台があった。その横には松下ガーデン(松下種苗店)が昔からそして今もある。子どもの時にときどきいったことがある。友達と遊びに行って朝顔の種が数粒10円だったので,安いなーと声をあげていたら,おばさんがやってきて,「あんたらなにゆうとるが,こんな高いもんあるかいね」という趣旨のことをいわれた。それはそうだ,そのへんに朝顔はたくさん咲いているので,種はただで取り放題だったのだから。

高校時代に同じ理数科の増永壮平君が,有松の近くの北陸病院に入院していたことがある。見舞いにいった帰りの夕方,もう暗くなるころに,病院に住み着いている迷い猫の首輪が必要なんだという話になって,みんなで探しに行くことになった。北陸病院から猫の首輪を探しながら松下ガーデンあたりまで歩いたがそんなものを売っている店はない。猫の首輪は毛糸を結んだようなものでいいのではないかということで,問題解決は先送りされた。病院で猫を飼うことが可能だったのか。猫の部分は想像だったのか。よくわからない話である。

なぜ,この話を思い出したかというと,今朝,朝顔(秋の季語)の双葉をみかけたから。

「朝顔に 釣瓶とられて もらひ水」(千代女 1703-1775)



2019年6月18日火曜日

Wolfram Alpha 日本語版

Wolfram Alphaの日本語版がオープンして1周年になる。ただし,日本語化されているのはまだ数学分野だけだ。科学の他の分野についても日本語化が待たれる。Wolfram|Alpha は2009年の5月15日に公開されたが,わくわくしながらライブ中継のカウントダウンを見ていた。しかし,なかなか大仰な宣伝だったわりには,実際に使ってみると今一つすごいと感じなかった。それまで約20年間Mathematicaを使い続けてきていたのであまり有難みを感じなかったからなのか,本当のインパクトがまだ感じられない。そうこうしているうちによりオープンなJuliaが登場した(もちろんカテゴリーが違うものなので比較するのもどうかと思うが)。MathematicaやWolfram Alphaはどうしてもその高額な有償部分にひっかかるのであった。

大阪教育大学の理科専攻の1回生向けの選択科目「科学のための数学」では,昨年度はWolfram Alpha(計算知能)での計算を出席課題として課していたが,今年ははじめに紹介するにとどめることにした。このようなシステムがあることは知っておいてほしいが,微分積分の導入教育でどこまで使うべきなのかどうかはよくわからないまま定年を迎えてしまった。

図 Wolfram Japanより引用


2019年6月17日月曜日

Mathematicaについて

Mathematicaのことをはじめて知ったのは,The BASIC(技術評論社, 1983-1996)の紹介記事だったように思う。吉田弘一郎さんが西海岸からの最新情報を定期的にレポートする「バークレイ通信」という連載の中だったのではないか。Mathematicaは,1988年にNeXTにバンドルする形でリリースされた後,1989年にはMacintosh用のMathematica1.2が登場する。さらに,1991年には,Mathematica NotebookやMathLinkが実装される。Mathematicaとはそのころからのつきあいである。 くだんの紹介記事では,アメリカの物理屋さんが,Mathematicaノートブックでどんどん教材を開発しているという話があって,これはすごい!絶対に購入しなければ!と一人でエキサイトしたのだった。

大阪教育大学のリポジトリでMathematicaを検索すると,私の紀要論文が2つだけ見つかる。1993年の「Mathematicaによる1次元量子力学的散乱問題の可視化」と,1995年の「ネットワーク環境のMathematicaを用いた2次元量子力学的散乱問題」だ。このころが自分の能力とMathematicaの機能向上のスピードがマッチしていて,いちばん楽しかったように思う。MathLinkを使うということでは,体育の赤松先生のお友達の宮地力先生が,1998年に岩波コンピュータサイエンスから「Mathematicaによるネットワークプログラミング」を出版され,体育の先生はなんとすごいのかと感心したのだった。

さて,フロッピーディスク版からはじまり,CD-ROM版/DVD-ROM版を経由し,オンライン・ダウンロード版のMathematica 12まで順調にバージョンアップを繰り返しながら使ってきた。数理科学講座にもユーザがいたので,以前には大阪教育大学の情報処理センターでもキャンパスライセンスを取得していた。ところが,21世紀にはいってMathematicaのライセンス料が高騰し,とてもキャンパスライセンスを維持することができなくなってしまい,限定された数の端末だけのライセンスに替わっていった。今ではそれすらなくなっているのかもしれない。自分の研究室のMacにキャンパスライセンスを乗せるのは継続性に不安があったので,研究費や私費で購入したライセンスで運用していた。

最近は,Premeierライセンス更新で毎年5万円近く払ってきたが,この3月にリタイアしたので,これもおしまいだ。もしバージョンが古くて耐えられなくなったら,何年かに一度ホームライセンスで更新しようかとも思うが,どうだろう。Juliaのシンボル計算周りが進化すれば,もうMathematicaは使わなくなるのかもしれない。

写真:Mahtmematica25周年を記念して,Stephan Wolframから送られてきた,私のユーザ登録証のコピー。1989年7月11日に受理されているので,今年の7月で30周年になる。


2019年6月16日日曜日

Software 2.0

テスラのAI部門長アンドレイ・カルパシー(1986-)が,2017年,MediumSoftware 2.0 という記事を書いた。

問題解決のために用いられる従来のプログラム(C++,Java,・・・)をソフトウェア1.0とよび,ニューラルネットワークによる問題解決を1つのツールとして見るのではなく,ソフトウェア2.0として考えようということを提案している。

すなわちニューラルネットワークの重みがプログラムに相当すると考えるのである。この重みの数(ニューラルネットワークのノード数)は膨大な数になることから,従来のプログラムのようにアルゴリズムを考えて人間がコード化するプログラミングとは質的に違ったものになっている。そして,その適応範囲が,画像認識,音声認識,機械翻訳,ゲームと広がっている。

もちろん,ソフトウェア2.0がすべてのソフトウェアによる問題解決をカバーすることはできないので,ソフトウェア1.0と共存することになるが,ニューラルネットワークについての一つの見方を提供するものである。そして,これが,サイエンスにおいてニューラルネットワーク(ディープラーニング)を利用することが持つ意味について,再考させることにつながるのかもしれない。

図 Software 2.0のイメージ(Medium Software2.0から引用)


2019年6月15日土曜日

Discipline-Based Education Research

日本物理教育学会の理事会で,Discipline-Based Education Research:DBERという言葉をはじめてきいた。PER(Physics Education Research)=物理教育研究についても,何年か前に聞いたときに単なる普通名詞だと誤解して査読意見をつけたくらいによくわかっていない自分なのであった。

発端は,今年2019年の3月2日に東北大学で開催された国際シンポジウム「ノーベル賞受賞者が主導した科学・技術教育の科学的変革-カール・ワイマン博士とインペリアル・カレッジ・ロンドンの取組-」だ。あの(冨田先生のお友達で橋下時代に活躍された)大森不二雄さんが仕掛け人なのか・・・orz。笹尾真実子さんが日本学術会議の物理教育委員会の物理教育研究分科会の委員長である。そんなわけで,今年の9月末に学術会議が主催する学術フォーラムで物理教育改革をテーマをした集まりが開かれる予定だそうだ。

Discipline-Based Education Researchとは,主にSTEM教育領域の個々の学術分野の知識や世界観に基づいた視点による学習や教育の方法を研究するものである。具体的には,
天文学   Astronomy education research (AER)
生物学   Biology education research (BER)
化学    Chemistry education research (CER)
計算機科学 Computer science education research (CSER)
工学    Engineering education research (EER)
地球科学  Geoscience education research (GER)
数学    Mathematics education research (MER)
物理学   Physics education research (PER)
などの集合であり,PER(物理教育研究)がもっとも早くから研究されているようだ。

PER(物理教育研究)でいえば,物理学−科学哲学−物理学史−認知心理学−教育方法学−&(社会学−言語学−人類学−倫理学)などが関係する学際的な研究分野が物理教育研究になる。

STEM教育の文脈あるいは教育方法学的な立場では,DBERの共通項を議論することに価値があるだろうが,要点は個別の学問領域の固有の関心やアプローチに基づく「学問分野別教育研究」の推進が必要であるということ。

関連した情報はまだそれほど多くない。
[1]Discipline-Based Education Research(Wikipedia:en)
[2]Physics Education Research (Wikipedia:en)
[3]Discipline-Based Education Research: Understanding and Improving Learning in Undergraduate Science and Engineering(Singer, Nielsen and Schweingruber,2012)
[4]研究領域としての物理教育(新田英雄,2016)
[5]物理教育研究 PER・学問領域に根ざした教育研究 DBER とは何か?(村田隆紀・笠潤平・覧具博義,2017)
[6]日米におけるアクティブ・ラーニング論の成立と展開(西岡加名恵,2017)
[7]米国STEM教育におけるDBER(discipline-based education research)の勃興 ―日本の大学教育への示唆を求めて―(大森不二雄・斉藤準,2018)

2019年6月14日金曜日

総務省の家計調査報告

金融庁のホームページからの続き)

金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」の主目的は,金融業界のための個人投資の推進にあると思われる。結果的には,これを巡る混乱状態のニュースによって国民の注目を集めることができ,金融コンサルティングへと足を向かわせた段階で成功したことになるのかな。官邸や政権与党執行部が大慌てで糊塗しようとしている一方で,金融庁のホームページは削除されていない。

ここで問題とされた内容(=年金だけでは2000万円の生活費が不足する)は,ワーキンググループが検討過程で収集した総務省による「家計支出調査(2017)」に基づくものであって,すでに公表済みのデータにすぎない。最新版は,家計調査報告 家計収支編 2018年(平成30年)平均結果の概要として,総務省統計局から公表されていて,本質的には2017年度の結果と変わっていない。

何故こうなったかというと,麻生財務大臣が6月4日の記者会見で雑な対応をしたのが切っ掛けだった。政府の方針と違うも何も,公表済みの公文書である客観的なデータをないものにすることはできない。それでも取り繕ってしまおうとするのが現在の政権与党とそれを支えるマスコミだ。NHKも金融庁に媚を売るようなストーリーでお茶を濁していた。


2019年6月13日木曜日

金融庁ホームページより


まだ,この内容が削除されるには到っていない。

金融審議会 「市場ワーキング・グループ」報告書 の公表について
(令和元年6月3日 金融庁)

麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要
(令和元年6月4日 金融庁)

以下引用
わが国では、バブル崩壊以降、「失われた 20 年」とも呼ばれる景気停滞 の中、賃金も長く伸び悩んできた。年齢層別に見ても、時系列で見ても、 高齢の世帯を含む各世代の収入は全体的に低下傾向となっている。公的年 金の水準については、今後調整されていくことが見込まれているとともに、 税・保険料の負担も年々増加しており、少子高齢化を踏まえると、今後も この傾向は一層強まることが見込まれる。
支出もほぼ収入と連動しており、過去と比較して大きく伸びていない。 年齢層別に見ると、30 代半ばから 50 代にかけて、過去と比較して低下が 顕著であり、65 歳以上においては、過去と比較してほぼ横ばいの傾向が見 られる。
60 代以上の支出を詳しく見てみると、現役期と比べて、2~3割程度減 少しており、これは時系列で見ても同様である。
しかし、収入も年金給付に移行するなどで減少しているため、高齢夫婦 無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。 この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる。
・・・・・
老後の生活においては年金などの収入で 足らざる部分は、当然保有する金融資産から 取り崩していくこととなる。65 歳時点に おける金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯、単身男性、単身女性のそれぞれで、2,252 万円、1,552 万円、1,506 万円となっている。なお、 住宅ローン等の負債を抱えている者もおり、 そうした場合はネットの金融資産で見ることが 重要である。
 (2)で述べた収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合 には、20 年で約 1,300 万円、30 年で約 2,000 万円の取崩しが必要になる。支出については、特別な支出(例えば老人ホームなどの介護費用や住宅リ フォーム費用など)を含んでいないことに留意が必要である。さらに、仮に 自らの金融資産を相続させたいということであれば、金融資産はさらに必要 になってくる。(2)と合わせ、早い時期から生涯の老後のライフ・マネー プランを検討し、老後の資産取崩しなどの具体的なシミュレーションを行っ ていくことが重要であるといえる。
総務省の家計調査報告に続く)



2019年6月12日水曜日

戦争・革命・崩壊・疫病

オーストリアの歴史学者,ウォルター・シャイデルの The Great Leveler: : Violence and the History of Inequality from the Stone Age to the Twenty-First Century が「暴力と不平等の人類史」として翻訳されている。

平成に入ってから,バブルの崩壊とともに日本の成長は終焉し,人々の格差は拡大し続けている。しかし,これを政策的に逆転させることは難しいのかもしれない。すべての人間社会は時間とともにある方向に変化し,それをリセットして平等化を可能にするのは,戦争・革命・崩壊・疫病によるしかないというのがこれまでの歴史からわかった事実であるという主旨らしい(未読なのでわからない)。

「崩壊」とは国家の崩壊であり,昔のブログでは,飢饉と訳していたものもある
ジャレド・ダイアモンド(1937-)
ジャック・アタリ(1943-)
ダロン・アシモグル(1967-)
トマ・ピケティ(1971-)

2019年6月11日火曜日

余部鉄橋「空の駅」

例年高齢の3ファミリー旅行の目的地の1つが余部鉄橋「空の駅」だった。かつて転落事故があったあの余部鉄橋の一部がエレベータで上る展望台となって,新しい橋梁と駅ができていて,無料で見学することができる。地上にはカメの駅長の「かめだ・そら」ちゃんもいてなかなか楽しかった。

2019年6月10日月曜日

三平方の定理(2)

(三平方の定理(1)からの続き)

ところでこの問題は初等幾何でより簡単に証明できることがyoutubeで示されていた。
それを図形で表したものが下記である。
○は45度を表している。△AOPを時計回りに90度回転すると△BOP'となる。△P'OQ≡△POQがすぐに見て取れるのでQP'=QP=zであり,BP'=xである。また∠QBP'は90度なので△QBP'は直角三角形であることから題意が示される。

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\begin{tikzpicture}
\draw(0,0) rectangle(4,4);
\draw[thin, -] (0,4)--(4,0) node at(-0.15,-0.15){O};
\draw[thin, -] (0,0)--(1.464,2.536) node at(1.64,2.72){P};
\draw[thin, -] (0,0)--(3.155,0.845) node at(3.28,1.02){Q};
\draw(0.20,3.55) circle(0.08) node at(-0.15,4.15){A};
\draw(0.38,0.28) circle(0.08);
\draw(3.55,0.20) circle(0.08) node at(4.15,-0.15){B};
\draw[dotted] (0,4) to [out=335,in=115] (1.464,2.536) node at(1.05,3.5) {$x$};
\draw[dotted] (1.464,2.536) to [out=335,in=115] (3.155,0.845) node at(2.7,1.9) {$z$};
\draw[dotted] (3.155,0.845) to [out=340,in=110] (4,0) node at(3.75,0.7) {$y$};
\draw[dotted] (0,0) to [out=110,in=250] (0,4) node at(-0.2,2) {$a$};
%\draw[dotted] (0,0) to [out=340,in=200] (4,0) node at(2,-0.2) {$a$};
\draw[thin, -] (0,0)--(2.536,-1.464)--(4,0) node at(2.6,-1.6){P$^{'}$};
\draw(3.55,-0.20) circle(0.08);
\draw(0.48,-0.05) circle(0.08);
\draw(2.536,-1.464)--(3.155,0.845);
\draw[dotted] (4,0) to [out=240,in=30] (2.536,-1.464) node at(3.5,-1.0) {$x$};
\draw[dotted] (2.536,-1.464) to [out=90,in=240] (3.155,0.845) node at(2.5,-0.3) {$z$};
\end{tikzpicture}
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2019年6月9日日曜日

三平方の定理(1)

twitterで次の問題をみかけた。

正方形の対角線に2点${\rm P, Q}$を取り,$∠{\rm POQ}=\frac{\pi}{4}$として,$\overline{\rm AP}=x, \overline{\rm PQ}=z,  \overline{\rm QB}=y$ とすると,$x^2+y^2=z^2$が成り立つことを示せ。


Mathematicaでこれを解いてみた。
∠APOと∠OPQ,および,∠BQOと∠OQPに対する余弦定理を等置した式に,△POQに対する余弦定理から得られた式を用いて z を消去する。ただし,PO=√p,QO=√qと置いた。
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In[1]:=  sol =  Solve[{(a^2 - x^2 - p)/(2 x Sqrt[p]) == (z^2 + p - q)/(2 z Sqrt[p]), 
     (a^2 - y^2 - q)/(2 y Sqrt[q]) == (z^2 + q - p)/(2 z Sqrt[q])}, {p, q}]

Out[1]:= {{p -> a^2 - x y - x z, q -> a^2 - x y - y z}}

In[2]:= (z^2 - p - q)^2 == 2 p q /. sol[[1]]

Out[2]= (-2 a^2 + 2 x y + x z + y z + z^2)^2 ==  2 (a^2 - x y - x z) (a^2 - x y - y z)

In[3]:= % /. {z -> Sqrt[2] a - x - y}

Out[3]:= (-2 a^2 + x (Sqrt[2] a - x - y) + (Sqrt[2] a - x - y)^2 + 2 x y + (Sqrt[2] a - x - y) y)^2 
   == 2 (a^2 - x (Sqrt[2] a - x - y) - x y) (a^2 - x y - (Sqrt[2] a - x - y) y)

In[4]:= Simplify[%]

Out[4]:= (a^2 - x y) (a^2 + x y - Sqrt[2] a (x + y)) == 0

In[5]:= z^2 - x^2 - y^2 /. {z -> Sqrt[2] a - x - y} // Simplify

Out[5]:= 2 (a^2 + x y - Sqrt[2] a (x + y))
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余弦定理を組み合わせて得られた式 Out[4]と三平方の定理からzを消去した式Out[5]は一致したので,問題は解決する。

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\begin{tikzpicture}
\draw(0,0) rectangle(4,4);
\draw[thin, -] (0,4)--(4,0) node at(-0.15,-0.15){O};
\draw[thin, -] (0,0)--(1.464,2.536) node at(1.64,2.72){P};
\draw[thin, -] (0,0)--(3.155,0.845) node at(3.28,1.02){Q};
\draw(0.20,3.55) circle(0.08) node at(-0.15,4.15){A};
\draw(0.38,0.28) circle(0.08);
\draw(3.55,0.20) circle(0.08) node at(4.15,-0.15){B};
\draw[dotted] (0,4) to [out=335,in=115] (1.464,2.536) node at(1.05,3.5) {$x$};
\draw[dotted] (1.464,2.536) to [out=335,in=115] (3.155,0.845) node at(2.6,1.9) {$z$};
\draw[dotted] (3.155,0.845) to [out=340,in=110] (4,0) node at(3.75,0.7) {$y$};
\draw[dotted] (0,0) to [out=110,in=250] (0,4) node at(-0.2,2) {$a$};
\draw[dotted] (0,0) to [out=340,in=200] (4,0) node at(2,-0.2) {$a$};
\end{tikzpicture}
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2019年6月8日土曜日

アップルと私

なんだかこの40年間ずっと影響・翻弄され続けてきたような・・・

1980年代初頭,私はPC-9801ユーザで研究室のコンピュータもPC-9801シリーズ(まわりを見回してもみんなそうだった)。ところが,1988年に大阪教育大学に40台のMacintoshII (Mathematica, Fortranつき)+ LaserWriterが導入されたのをきっかけとして,マックユーザに転向してしまった(PC-9801RAくらいまではフォローしていた・・・)。

最初にMacintoshを見たのは日本橋の上新電機の1階だった。PC-9801本体+8087プロセッサが30万円の時代に,小さなモノクロディスプレイ一体型のMacintoshPlusが60万円以上していた。これはコストパフォーマンスが悪いと思い,その後近づかないようにしていた。それでも何か気になって,Mac+(1986-)やMacLife(1987-)などの雑誌を買い始めたところに,各国立大学へ貿易黒字対策のための外国製コンピュータ導入の話が降ってわいた。

いまから思えば,これが日米貿易戦争の端緒であり,半導体産業やコンピュータ産業の凋落の第一歩であったように思う。この米国の作戦に自ら進んで飛び込んで成長力を失った日本は,さらに竹中マジックで骨の髄まで外資にしゃぶられる今日の体たらくになるのであった。当時はバブルとも重なって毎週のようにDRAM技術の革新が報じられ,日本の半導体は少なくとも量的には完全無敵の状態に見えていたにもかかわらず。

さて,大学にMacintoshIIが導入されてからは,ジョブズのいないアップルの業績は下り坂で,その方針も混迷を極めた。日本経済新聞は何かある度にこれでもかというようにアップル叩きに勤しんでいた。その後の手のひら返しをみて,つくづくジャーナリズムにいやけがさすのであった。

なにやかやいっても,おおむねアップルの動きに追随してきたつもりだった。ところがApple Watchを見送ったあたりから,様々な技術や製品についていけなくなった。アーリーアダプターとしてiPhoneを卒業生らに見せびらかしていた時代がなつかしい。

P. S. 池田分校の新しい情報科学専攻に1教室分のMacintoshIIが設置され,ここでMathemacaの授業を1コマ持っていた。毎週朝早く到着して,全台手作業でDisinfectantでウイルス除去をするのが私の仕事だった。

年代 事項    製品      私は       
1976 創業 Apple I 大学院進学
1977 アップルコンピュータ設立 Apple II
1978
1979 Lisaプロジェクト
1979 Macintoshプロジェクト
1981
1982 大阪教育大学
1983
1984 Macintosh PC-9801導入
1985 ジョブズ追放→NeXT
1986
1987 Newtonプロジェクト HyperCard
1988 MacintoshII×40台
1989 MacintoshIIfx導入
1990 (NeXTstation)
1991
1992 Newton MP NeXTstation導入
1993
1994 PowerMacintosh PowerBookDuo270導入
1995
1996 NeXT買収
1997 ジョブズ復帰 漢字Talk7 PowerBook2400購入
1998 iMac/AppleWorks
1999 iBook
2000
2001 アップルストア MacOSX/iPod
2002 iPod購入
2003 iTunes Music Store
2004
2005 スタンフォード卒業式
2006 Apple TV
2007 iPhone
2008 iPhone購入
2009
2010 iBookstore iPad
2011 ジョブズ死去
2012 MacBookPro購入
2013
2014 Apple Pay開始
2015 Apple Watch
2016
2017 ApplePark
2018 定年退職
2019 iPadPro購入
2020

2019年6月7日金曜日

組体操の危険性

NHKをみていたら,大阪経済大学名誉教授の西山豊先生(数学者)が,卵はなぜ卵形なのかの解説をしていた。角度5度以下の斜面で転がり落ちず,振動しながら下ることで,卵がわれないようにするからだ。ところで,西山先生のホームページには他にも重要な論文があった。「組体操・人間ピラミッドの巨大化を考える」である。各教育委員会ではこれを熟読して早急に対策する必要がある。

[1]西山豊:2016年広島移動ピラミッド死亡事故を検証する,大阪経大論集,第69巻5号1-32,2019
[2]西山豊:都道府県別組体操事故統計(2018 年版)


2019年6月6日木曜日

WWDC19(3)

WWDC19(2)からの続き)

Gizmodo Japanで,林信行(1967-)と松村太郎(1980-)が対談していた。
AR kitの話,AppleTVとゲームコンソールの話,Apple Watchの話など興味深い。
Appleの #WWDC19 を著名ジャーナリスト2人とギズ編集長が語る動画ができました

ARグラス=電脳メガネが実用化されるまではまだ時間がかかりそう。でもそれまでに社会の分断化が進んでしまって,この技術は誰のためのものということになるのか。

nobiさんからプログラミング教育で,Swiftを使ったらどうかという提案があった。それで思い出したが,大阪教育大学の新しい理事・事務局長(名称復活...orz)の新津勝二さんは,文部科学省初等中等教育局教育課程課課長補佐の時代にプログラミング教育に関わっていたようだ

2019年6月5日水曜日

WWDC19(2)

WWDC19(1)からの続き)

macOS 10.14 Mojaveはインストールしていない。まだ,High Sierraのままである。当初の不具合に加えて,ダークモードが好きじゃないのだ。もちろんモバイル環境で節電できるというメリットはあるのかもしれないが,この歳になると暗い背景では字が読みにくいのです。

macOS 10.15 Catalinaについての情報もいろいろと入ってきた。ベータリリースノートには,正式版ではScript言語のランタイムが同梱されなくなるとあるようだが,どうなんだろうか。Homebrewさえインストールできれば問題ないのかな。

あと,ハードウェアもソフトウェアもデザイン的な統一感が失われていることが残念。

WWDC19(3)へ続く)

2019年6月4日火曜日

WWDC19(1)

毎年,WWDCなどアップルの発表がある度にkeynotesを見ている。最初に見たのは,スティーブ・ジョブズがアップルに戻ってきて,1998年にiMacを発表したときだったろうか。その約10年後の2007年に最初のスマートフォンであるiPhoneが発表されたときははっきり憶えている。それから1年後に日本で発売されて1ヶ月後にiPhoneを購入したときの高揚感も忘れられない。

残念なkeynotesもあった。iMacの最終段階で,ろくな製品がなくJobsが水玉模様のiMacで一瞬お茶を濁していたのがその最たるものだ。最近のWWDCもそれに匹敵すると言えるかもしれない。OSやアプリケーションの細かな改良とハードウェアの漸進的な更新が続き,場合によっては,改良ではなく後退や悪化にもみえるものもあった。

今回のWWDC19はどうだったろうか。iPadOSができてMacのサブディスプレイや入力となるのはよいかもしれないが,どこまで使うだろうか。新しいMacProはデザインと価格は最悪だが,拡張性が高いことは評価できる。ただし,プロユースでフルセットにすれば数百万円のシステムになるので,我々一般ユーザにはもう関係のない世界に入ってしまった。iOS13のセキュリティ関連やApple SignInはちょっと面白いかもしれない。あとは,TwitterのネイティブアプリがMacに帰ってくるかもしれないことかな。


2019年6月3日月曜日

ウルフラムとペレス

辰己さんが,Jupyterの発音は,ジュパイターではなく,ジュピターじゃないのとFacebookでつぶやいていた。これに対して中野さんは,普通はジュピターでしょと。あれ・・・,pythonオリジンだからジュパイターだと思い込んでいた私はどうしよう・・・

ということでさっそくYouTubeに尋ねてみると,いきなりIPythonJupyterの開発者のフェルナンド・ペレス2017年のJupyterConの講演にぶちあたった。はい,正解はジュピターでした。Project Jupyterにもちゃんと Jupyter=/ˈdʒuːpɪtər/ と書いてある。

ところで,そのペレスは,Pythonの対話型環境であるIPythonを,Wolfram Notebookにインスパイアーされて開発したとある。つまり,ノートブック型インターフェースの始まりは,スティーブン・ウルフラムによるMathematicaであった。その後,IPythonからスピンオフしたプロジェクトがJupyterを創り出す。Jupyterの意義は単に特定の言語の対話型環境をつくることではなく,「Project Jupyterは,オープンソースソフトウェア,オープンスタンダード,そして何十ものプログラミング言語にわたるインタラクティブコンピューティングのためのサービスを開発するために存在します」であった。Jupyter+Julia+α連合軍をみて,Wolfram言語も開放政策に舵をきったのではないか。

スティーブン・ウルフラム(1959-)はイギリス生まれで,17歳でオックスフォードに入学し,ゲルマンに誘われて18歳でカリフォルニア工科大学に入り,1979年に20歳でPh. D.をとる。専門分野は素粒子物理学の理論であったが,1981年にはMathematicaの前身のSMP(Symbolic Manupilation Program)を商業化し,複雑系の物理学の研究(Celuller Automata)を進めた。

一方,フェルナンド・ペレスはコロンビア生まれで,コロンビアのアンティオキア大学で物理学を学び,コロラド大学で素粒子物理学(格子QCD理論)のPh. Dをとる。それ以前には,フラクタル,半古典カオスなども研究しているようだ。2008年にはカリフォルニア大学バークレー校に移り,ソフトウェア開発に主軸を置くことになる。

なんだかよく似たところがある2人である。

2019年6月2日日曜日

AI Feynman(4)

AI Feynman(3)からの続き)

2018年に発表されたウーとテグマークの論文 "Toward an AI Physicist for Unsupervised Learning"は,AI Feynman 論文に先行するものだ。2018年のインターネットでは,AI物理学者が仮想現実の物理法則を発見したものとして話題になっていた。

その要約は次のようなものである。
物理学でよく用いられる4つの戦略を使用して,教師なし機械学習を改善するという課題に挑戦する。その4つは,分割統治,オッカムのかみそり,統一,そして絶え間ない学習である。1つのモデルを使ってすべてを学ぶのではなく,学習と「理論」の操作を中心に置いた新しいパラダイムを提案する。それは(過去の観測から)将来を予測し,その予測が正しい領域を定めるものだ。特に,各理論がその比較的有利な領域に特化するための新しい一般化平均損失,および不良データを除いて理論を単純な数式にまとめることを目指す区別可能な記述長を導入する。理論は「理論ハブ」に格納され,そこでは学習された理論を継続的に統合し,新しい環境に出会ったときに理論を提案することができる。我々は,実装した「AI Physicist」学習エージェントを,しだいに複雑化する環境でテストする。重力,電磁気力,調和運動,弾性衝突などのランダムな組み合わせを含む仮想世界における物体の軌道の教師なし学習を行う。我々の学習エージェントは,同等の複雑さの順伝搬型ニューラルネットより速く学習し,約10億分の1の平均二乗予測誤差を与える。また,整数や有理数の理論パラメータを正しく予言する。この学習エージェントは区分的に一定の力が働く場における非線形カオス二重振り子についても,異なる運動則をもつ領域をうまく同定することができた。

2019年6月1日土曜日

AI Feynman(3)

AI Feynman(2)からの続き)

機械学習と物理で紹介したように,日本物理学会誌では,人工知能と物理学というシリーズが始まっている。第1回目に神嶌敏弘さんが,機械学習の分野の全体像と歴史の概観をしているが,データマイニング・機械学習分野の概要という資料もわかりやすい。

神嶌さんの物理学会誌の特集記事に「変わりゆく機械学習と変わらない機械学習」というのがある。機械学習の自然科学での活用の節で,ドミンゴの "The Master Algorithm" からの引用として,自然科学の研究をブラーエ,ケプラー,ニュートンの業績になぞらえて三段階に分類してとらえることができると紹介している。なんのことはない武谷三男の三段階論ではないか。

「実験データを集めるブラーエの段階, 経験則を発見するケプラーの段階,そしてその経験則の背後の理論を見つけ出すニュートンの段階である」というのは武谷三段階論の現象論,実体論,本質論に対応している。それぞれに対して,データマイニング・機械学習・深層学習・AI(それぞれの分野の概念的な構造関係が十分理解できていないので暫定的に並列にしている)で何ができるかを考えることができる。

テグマークのAI Feynmanは,実体論なのだろうか,本質論なのだろうか。あるいは階層の異る現象論なのだろうか(広重徹ならばそのような三段階論による当嵌めの構図それ自体に意義をとなえるかもしれない)。

AI Feynman(4)に続く)


2019年5月31日金曜日

AI Feynman(2)

AI Feynman(1)からの続き

ニューラルネットワークあるいはディープラーニングを自然科学とくに物理学に応用するという話は昔からあった。30年近く前にもニューラルネットワークで原子核の結合エネルギーを分析するような話題を見かけたことがあるような気がする。

物理科学でのニューラルネットワーク/ディープラーニングの利用というと次のようなものが想像できた。望遠鏡や加速器で得られたデータを分析してシグナルを発見する。物質の合成過程の膨大なデータから目的の性質を持つ組み合わせを推定する。などなど。

で,最近は こんな本が出版されるまでに至る。

ディープラーニングと物理学 原理がわかる、応用ができる(田中・富谷・橋本)

 もう一歩進めると,いわゆるAI(機械学習)で物理学の法則を発見することができるのかが問題になる。理論が予め存在しその方程式のパラメータを探すのではなく,理論それ自身を作り出すことができるかだ。テグマークの論文はその方向の試みなのだろう。

(AI Feynman(3)に続く)

2019年5月30日木曜日

AI Feynman(1)

2019年5月29日にarxivのphysics.comp-phに,MITのTegmarkとUdrescuの論文がアップロードされた。そのタイトルは,"AI Feynman: a Physics-Inspired Method for Symbolic Regression"である。なんだかおもしろそう。

さて,その要約は,次のようなものだった。
物理学と人工知能(AI)の双方にとって核心的な課題の一つは数式回帰である。つまり,未知関数からのデータに一致する数式表現を発見することである。 この問題は原理的にNP困難である可能性が高いが,実用的な興味の対象となる関数はしばしば対称性,分離性,合成性および他の単純化できる特性を示す。 この精神のもとで,我々は,ニューラルネットワークと物理学に着想を得た技術を組み合わせた再帰的多次元記号回帰アルゴリズムを開発した。 我々はそれを「ファインマン物理学講義」からの100の方程式に適用し,そのアルゴリズムはすべてを発見する。従来のソフトウェアでは71だけが見つかった。より困難なテストセットでも,到達水準を15%から90%に向上させた。
AI Feynman(2)に続く)

2019年5月29日水曜日

ラテン語の独習

インターネットでラテン語を独習できるかどうか調べてみた。なぜそんなことを思いついたのだろうか。twitterにソクラテスについての話題があったからだ。無知の知と不知の知は違うのかどうか云々・・・。ソクラテスは高等学校の倫理の時間に出てきたが,なぜ毒杯を仰がなければならなかったのか,どうしても理解できないままだった。いまでもそのレベルです。それがなぜラテン語に結びついたのかはよくわからない。

ラテン語
Wikipediaラテン語版
ラテン語の世界にようこそ
山下太郎のラテン語入門

などがあったので,まあ,根気さえあれば多少はできるのかもしれない。それよりも韓国語・中国語がさきだろうか。

昨日の事件の学校法人カリタス学園カリタスはラテン語のcaritasから来ており,キリスト教の愛や慈善を表している。チャリティ(charity)=慈善の語源である。

2019年5月28日火曜日

「加賀」と「かが」

昔(昭和30年代後半),「少年」か「ぼくら」の付録に帝国海軍連合艦隊の紙模型がついてきたことがあった。月間漫画雑誌の付録なので,イ号潜水艦から空母,戦艦大和までのミニ模型の数は揃っていてもそれほどたいしたものでない。だがなんだかワクワクした。まだ戦後20年もたっていないころである。逆コースは始まっているにせよ,子ども向けの雑誌の付録にこれというのは今ではなかなか想像しにくいかもしれない。合衆国海軍の空母エンタープライズ(1961年就役)の大きな紙模型がついてきたこともある。

プラスチックモデルでも戦争物は多く,小学生の時分にはいろいろ買ってもらった。大きな木の模型の戦艦大和にも1度挑戦したが,低学年だったので最後まで作りきれなかった。一回り小さい70-80cmクラスのプラスチックモデルの戦艦大和やもう少し小振りの航空母艦大鳳などは最後までちゃんと作って水槽に浮かべることもできた。戦車のプラモデルも作ったような気もするが,友達のを手伝っていたのかもしれない。

そんなわけで,昭和30年代の子どもを取り巻く環境はなかなか楽しいものであった。それは一方で,憲法九条や防衛費GNP1%以下などの枠組みに守られた中のサンドボックスのようなものだった。

ところが,いつのまにか,ミッドウェー海戦で沈没した空母加賀(238m,29500トン)はヘリコプター搭載護衛艦かが(248m,26000トン)に生まれ変わり,さらに昨年度末はF35Bを搭載できるよう改修されることが決定し,事実上の空母化といわれるようになった。1年前には恐る恐る「かが」全容を報道していたマスメディアは安倍内閣のもとで変質した。いまや,トランプ大統領の視察にあわせてその内部でTV中継までするはしゃぎよう。過去の長期にわたって積み重ねられてきた政府の説明とはまったく異る,攻撃能力を持った空母の所有と運用が大手を振ってまかり通る時代になってしまった。


(写真:「艦船の戦い〜ミッドウェー海戦(NAVERまとめ)」から引用)


2019年5月27日月曜日

古墳密度


大阪の百舌鳥・古市古墳群が2019年の登録審査候補に推薦され世界遺産に登録されることになった。NHKのブラタモリでも堺市の古墳が取り上げられており古墳ブームかもしれない。

ところで,kofun.jpの埋蔵文化財包蔵地数(古墳・横穴数)の全国ランキングでは,兵庫県が1位で大阪府は13位である。面積が広ければ古墳の数も多くなるので,古墳の面密度で比較する必要があるのではないのか。Wikipediaに都道府県の面積一覧があった。山や森林は対象にはならないので,それらを除いた可住地面積で比べることにしよう。

ExcelのVLOOKUPで両方のテーブルを比較して計算してみた。
大阪府は13位から10位に上昇して多少順位は入れ替わるが,大勢に影響はなかった。
奈良・京都はやはり密度が高い。特徴的なのは,鳥取県(なぜ出雲の島根県ではないの?)及びそれにつながる岡山県と広島県と兵庫県に古墳が多いこと。

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順位 県名 古墳数 可住面積 古墳密度
2 鳥取県 13486   912 14.79
8 奈良県 9700   851 11.4
3 京都府 13016 1155 11.27
1 兵庫県 18851 2756 6.84
5 岡山県 11810 2210 5.34
6 広島県 11311 2255 5.02
7 福岡県 10754 2737 3.93
4 千葉県 12765 3488 3.66
9 三重県 7025 2022 3.47
13 大阪府 3427 1314 2.61

10 岐阜県 5140 2145 2.4
18 香川県 2256   991 2.28
17 島根県 2571 1256 2.05
11 群馬県 3993 2295 1.74
19 石川県 2107 1383 1.52
12 静岡県 3829 2731 1.4
21 和歌山県1486 1097 1.35
15 埼玉県 3100 2566 1.21
23 徳島県 1120 1022 1.1
14 愛知県 3101 2952 1.05

16 長野県 2831 3334 0.85
24 神奈川県1098 1460 0.75
28 滋賀県   897 1289 0.7
32 山梨県   651   950 0.69
25 愛媛県 1083 1670 0.65
31 東京都   714 1396 0.51
36 福井県   541 1066 0.51
29 大分県   893 1769 0.5
22 熊本県 1364 2746 0.5
20 茨城県 1862 3976 0.47
30 宮崎県   832 1835 0.45
34 佐賀県   566 1340 0.42
26 栃木県 1081 2946 0.37
35 山口県   552 1749 0.32
39 長崎県   470 1617 0.29
27 福島県 1041 4218 0.25
40 高知県   229 1168 0.2
37 鹿児島県  529 3243 0.16
38 宮城県   508 3130 0.16
33 新潟県   632 4481 0.14
41 富山県   216 1850 0.12
42 山形県   134 2850 0.05
43 岩手県     64 3710 0.02
44 北海道       0 21899 0
45 青森県       0 3203 0
46 秋田県       0 3155 0
47 沖縄県       0 1159 0
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(1) 順位は都道府県別の古墳・横穴数
(2) 古墳数=古墳・横穴数は埋蔵文化財包蔵地数のこと
(3) 可住地面積=総面積−林野面積−湖沼面積 の単位はkm^2
(4) 古墳密度=古墳数÷可住地面積

(注1)結婚してまもない頃神戸の五色塚古墳を訪れた。日本ではじめて復元整備されたもので,古墳が造られた当時の森に包まれていない状態を見ることができる。
(注2)奈良県天理市にも古の重要な古墳が多いが,天理駅前広場にはコフフンというものがあって子どもたちが遊べる。

写真:天理駅前広場 CoFuFun のページから引用


2019年5月26日日曜日

Wolfram Engine

MathematicaWolfram|Alphaでおなじみのウルフラム(昔はウルフラム・リサーチだった)が,それらのコアになる計算エンジンをWolfram Engineという名前で,開発者向けに無償で開放した。すごい。pythonやC++で開発するアプリにライブラリとして組込むことができ,Wolfram Knowledgebaseへのアクセスができるとのこと。

各プラットフォーム用に3GB程度のアプリケーションをダウンロードし,Wolfram IDを取得すれば使用ライセンスが得られる。Mathematicaをコマンドラインから利用できるだけでなく,jupyter notebookから使える。これらのノートブック・インターフェースも元々は,Mathematica Notebook に習ったものではないかと思う。

さて,twitterで教えてもらったjupyterを使えるようにする手順は次の通り。まずWolfram Engineをインストール,ライセンスを取得しコマンドラインで起動することを確認する。
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git clone github.com/WolframResearch/WolframLanguageForJupyter.git
cd WolframLanguageForJupyter
./configure-jupyter.wls add
jupyter notebook
 または
jupyter lab
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黒木さんの「Free Wolfram EngineをJupyterで使う方法」が例題紹介も含めて詳しい。


2019年5月25日土曜日

マレー・ゲルマン

クォーク模型の提唱者の一人で「クォーク」の命名者であるマレー・ゲルマン(1929-2019)が亡くなった。

リーとヤンによる弱い相互作用におけるパリティ非保存の提案とウーによるコバルト60のベータ崩壊における実験的検証を受けて,ゲルマンはファインマンとともに弱い相互作用のV−A理論をつくる。大学院では原子核の弱い相互作用(ベータ崩壊)をテーマとしていたので,このV−A理論を出発点として計算を進めることになった。ワインバーグ・サラムの電磁相互作用と弱い相互作用の統一理論はようやく実験的なエビデンスが固まって確立しつつある時期だったが,原子核の低エネルギーの電弱過程でかつ中性カレントも関係ないとすれば,V−A理論で十分なのであった。

ゲルマンといえば,ゲルマン=大久保の質量公式中野・西島・ゲルマンの法則など,日本人物理学者との関連も深い。もちろんクォーク模型自身が坂田模型や池田・大貫・大久保対称性などからつながるものだった。

クォークはジェイムズ・ジョイスの小説「フィネガンズ・ウェイク」の一節"Three quarks for Muster Mark!"から来ているが,ゲルマンによるクォーク模型の前段階の理論のEightfold Way(八道説)は仏教のNoble Eightfold Path(八正道)を暗示して命名されている。


(付 5/30/2019)かつてCalTechに在学していたスティーブン・ウルフラムゲルマンへの長い追悼文を書いている。

2019年5月24日金曜日

キロノヴァ

原子核物理でつむぐrプロセスからの続き)

冨永さんの話に「キロノヴァ」というキーワードが登場し,疑問符のままにしていたが,やはり気になるので調べてみた。

新星(nova):白色矮星と主系列星の近接した連星で,主系列星からの水素が降着円盤を経由して白色矮星の表面に蓄積している。その核融合連鎖反応によって白色矮星の表面が爆発して光度が千倍から数百万倍に急激に増光するもの。銀河系内の発生頻度は年に数十例(観測は数例)とされている。

超新星(supernova):大質量の恒星の中心部の核反応が進んだ結果,中心核の圧力が低下し中心部に中性子星やブラックホールを形成する最に,爆発的に外層を吹き飛ばすことできわめて大量のエネルギーを放出するもの。新星の1万倍から十万倍の明るさとなる。銀河系内の発生頻度は数十年に1度(観測頻度は数百年に1度)とされている。他の銀河系も含めると年に数百例程度観測される。

キロノヴァ(kilonova):中性子星の連星,または中性子星とブラックホールの連星が融合する際におこる大規模な爆発。新星の千倍程度の明るさになる。超新星の10分の1から100分の1の明るさである。これまでに数例観測されている。元素合成のr過程を担う重要な現象だと考えられるようになった。

追伸:「ノヴァ」といえばサミュエル・R・ディレーニーのSFですね。地中海に響くシリンクスの音色が今も記憶に残っている。

2019年5月23日木曜日

原子核物理でつむぐ r プロセス

元素合成のr過程からの続き)

原子核物理でつむぐ r プロセス 」という研究会が,5/22-24の日程で京都大学の基礎物理学研究所で開催されている。国広さんのtwitter情報によれば,四月以降グレードアップしたLIGO-Virgo O3が,多いときには毎日1個の割合で重力波を観測しているらしい。京大の久徳浩太郎さんの資料「多粒子観測から原子核物理へ:ブラックホール・中性子星連星を例に」を参照のこと。

(キロノヴァへ続く)

2019年5月22日水曜日

他力本願とは

どこかの政治家がまた「他力本願」というキーワードをもちいて,何か発言したのか,他力本願の正しい理解を促すための過去の資料に関するツイートが流れてきた。門徒?なのに自分自身が「他力本願」をちゃんと理解できていませんでした。ごめんなさい。

さて,Wikipediaの知識を切り貼りして構成すると次のようなことになる。
他=阿弥陀如来,力=如来の本願力,本願=仏や菩薩が一切の生あるものを救おうとして悟りを得て仏や菩薩になる前に立てた誓願(誓願が完成することで仏や菩薩になる)。つまり阿弥陀様を信じようというムーブメントなのだった・・・違うか(現時点での俗流理解)。

P. S. 今日は10年に1度だけ開かれるのホーランエンヤ(松江)中日祭である。

2019年5月21日火曜日

ねじまき少女:バチガルピ

ハヤカワ文庫 SF1809/SF1810の「ねじまき少女パオロ・バチガルピ)」を読了した。
奥付の日付は2011年なので,そのころに買っているはずだが,長らく積ん読く状態が続き,今年になって8年ぶりにようやく読み始めた。それでもだらだらと時間がかかってしまった。アマゾンの書評はさんざんであった。ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞・キャンベル記念賞を総なめにしているのだが,翻訳が悪いだの,世界観の欠陥だの,どとまるところを知らないコメントがついていた。

最近,細切れにしか本を読めなくなっていたのだが,この小説も,5人(レイク・アンダーソン,タン・ホクセン,ジェイディー,カニヤ,エミコ=ねじまき少女)の視点を移動しながら語られるので,その分読みやすかった。未来のバンコクのイメージや物語の設定もおもしろかったので,なんでそんなに評判が悪いのだろうか?映画化するには,エミコが暴れるシーンが最後にほしいところではあるが,それはそれ,これはこれ。


2019年5月20日月曜日

世界計量記念日

1875年5月20日にメートル条約がパリで締結されたので,今日は世界計量記念日である。そして新しいSIの定義がスタートする日でもある。長さの基準のメートル原器は1960年にはクリプトン86元素スペクトルの波長に置き換えられ,さらに1983年には真空中の光速度とセシウムの超微細遷移の振動数から決まる1秒によって置き換えられた。

一方,質量の基準のキログラム原器は,なかなか基礎物理定数を基本とするものに置き換えられなかった。2018年の11月の国際度量衡総会で質量の基準の定義はプランク定数をもとにするものとされ,今日から施行されることになった。

 
写真:シテ科学産業博物館にあるキログラム原器のレプリカ(Wikipediaより

産業技術総合研究所の計量標準総合センター関連の情報がある。

2019年5月19日日曜日

元素合成のr過程

重力波天文学からの続き)

宇宙の元素合成というと,昔は恒星の中の核反応しか知らなかった。それが,ビッグバン元素合成や超新星元素合成や中性子星合体元素合成などが加わって,元素合成の全体像が浮かび上がってきた。

昨日の甲南大学の冨永先生の講演で,疑問に思ったのが,中性子星合体にともなう元素合成のr過程のイメージだった。中性子星が合体する際の中性子捕獲の過程ということだったが,重力による束縛がゆらいだとしても中性子ばかりでは元素にならない。種になる原子核あるいは陽子はいったいどこからくるのかというものだ。

中性子がベータ崩壊して陽子ができているからだと思って自己納得したのだが,これは正しいイメージなのだろうか?ベータ崩壊といっても軽い核における相対的に精密な議論ばかり追いかけていたので,宇宙核物理学のおもしろそうな話はまったく勉強不足なのだった。

これは結局,中性子星の構造が理解できているかどうかの問題である。 その上で中性子合体反応で構造がどう時間発展して変化するかという問題に続いて,元素合成のメカニズムにつながっていく。1970年代後半に京都の原子核理論グループがやっていたπ凝縮の議論はこれにつながっていたわけだ。

図:中性子星合体による元素合成イメージ(国立天文台記事2014からの引用) 

2019年5月18日土曜日

重力波天文学

日本物理教育学会近畿支部総会が阪大全学教育推進機構で行われた。記念講演は,甲南大学理工学部物理学科冨永望さんの「重力波天文学」。(参考:重力波天文学:名古屋大学西澤篤志

2015年9月のLIGOによる初めての重力波の観測は,太陽質量の30倍程度のブラックホールの合体であり,その後も2ヶ月に1度程度の割合で観測されている。LIGOのハンフォードとリビングストンに加えて,2017年からはイタリアのVIRGOが加わったために,重力波源をより狭い範囲で特定できるようになった。2019年の日本のKAGRAのスタートが楽しみだ。

この期間に1度だけ中性子星の合体が観測された(GW170817)。その重力波はブラックホール合体の場合とは異り,57秒という長時間にわたって続いた。その後,すばる望遠鏡などでの光学的な観測が行われた。その結果,これが中性子星合体であり,それによる元素合成の可能性がより確かなものになった。というあらすじだった。

中性子星合体のほうが発生確率が高いが,ブラックホール合体の方が発生エネルギーが大きいため,10倍の距離まで観測できることから,有効体積が1000倍の範囲で観測しているので,地球で観測されるのはブラックホール合体が多くなるとのこと。超新星爆発によるニュートリノの観測は1987年に一度あったきりだが,重力波の方がどんどん観測されている。おまけにブラックホールシャドウまで観測された。すごい時代になったものだ。

元素合成のr過程に続く)

2019年5月17日金曜日

折形手本忠臣蔵

今日のNHKの美の壺は「進化する折り紙」ということで折り紙がテーマだった。

(1) 有澤悠河さんの和紙1枚で折るノコギリクワガタがすごかった。

(2) 折形手本忠臣蔵という江戸時代の文献がある。仮名手本忠臣蔵の場面を折り紙でつくるというものだった。

(3) 筑波大学の三谷純さんの取り組みを紹介。コンピュータグラフィックスを用いて,曲線的な折り紙を実現したもので,そのソフトウェアも公開されている。

2019年5月16日木曜日

大学等における修学の支援に関する法律案

フェイクネーム「大学無償化法案」として報道されている「大学等における修学の支援に関する法律」が衆議院参議院を通過した。

問題点1 既存の授業料免除基準との関係
既存の免除基準で認められていたものがこの法案によって,排除されることになるのではないかという懸念が示されていた。

問題点2 大学への介入
実務家教員の割合などを持ち出してくるらしい。いずれにせよ,大学はこれまで以上に文部科学省に首根っこをつかまれることになる。

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大学等における修学の支援に関する法律案
第一九八回
閣第二一号
   大学等における修学の支援に関する法律案
目次
 第一章 総則(第一条・第二条)
 第二章 大学等における修学の支援
  第一節 通則(第三条)
  第二節 学資支給(第四条・第五条)
  第三節 授業料等減免(第六条-第十六条)
 第三章 雑則(第十七条・第十八条)
 第四章 罰則(第十九条)
 附則
   第一章 総則
 (目的)
第一条 この法律は、真に支援が必要な低所得者世帯の者に対し、社会で自立し、及び活躍することができる豊かな人間性を備えた創造的な人材を育成するために必要な質の高い教育を実施する大学等における修学の支援を行い、その修学に係る経済的負担を軽減することにより、子どもを安心して生み、育てることができる環境の整備を図り、もって我が国における急速な少子化の進展への対処に寄与することを目的とする。
 (定義)
第二条 この法律において「大学等」とは、大学(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第百三条に規定する大学を除く。以下同じ。)、高等専門学校及び専門課程を置く専修学校(第七条第一項及び第十条において「専門学校」という。)をいう。
2 この法律において「学生等」とは、大学の学部、短期大学の学科及び専攻科(大学の学部に準ずるものとして文部科学省令で定める専攻科に限る。)並びに高等専門学校の学科(第四学年及び第五学年に限る。)及び専攻科(大学の学部に準ずるものとして文部科学省令で定める専攻科に限る。)の学生並びに専修学校の専門課程の生徒をいう。
3 この法律において「確認大学等」とは、第七条第一項の確認を受けた大学等をいう。
   第二章 大学等における修学の支援
    第一節 通則
第三条 大学等における修学の支援は、確認大学等に在学する学生等のうち、特に優れた者であって経済的理由により極めて修学に困難があるものに対して行う学資支給及び授業料等減免とする。
    第二節 学資支給
第四条 学資支給は、学資支給金(独立行政法人日本学生支援機構法(平成十五年法律第九十四号)第十七条の二第一項に規定する学資支給金をいう。)の支給とする。
第五条 学資支給については、この法律に別段の定めがあるものを除き、独立行政法人日本学生支援機構法の定めるところによる。
    第三節 授業料等減免
 (授業料等減免)
第六条 授業料等減免は、第八条第一項の規定による授業料等(授業料及び入学金をいう。同項において同じ。)の減免とする。
 (大学等の確認)
第七条 次の各号に掲げる大学等の設置者は、授業料等減免を行おうとするときは、文部科学省令で定めるところにより、当該各号に定める者(以下「文部科学大臣等」という。)に対し、当該大学等が次項各号に掲げる要件を満たしていることについて確認を求めることができる。
 一 大学及び高等専門学校(いずれも学校教育法第二条第二項に規定する国立学校又は私立学校であるものに限る。第十条第一号において同じ。)並びに国立大学法人(国立大学法人法(平成十五年法律第百十二号)第二条第一項に規定する国立大学法人をいう。第十条第一号において同じ。)が設置する専門学校 文部科学大臣
 二 国が設置する専門学校 当該専門学校が属する国の行政機関の長
 三 独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。以下この号及び第十条第一号において同じ。)が設置する専門学校 当該独立行政法人の主務大臣(同法第六十八条に規定する主務大臣をいう。)
 四 地方公共団体が設置する大学等 当該地方公共団体の長
 五 公立大学法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第六十八条第一項に規定する公立大学法人をいう。以下この項及び第十条第三号において同じ。)が設置する大学等 当該公立大学法人を設立する地方公共団体の長
 六 地方独立行政法人(地方独立行政法人法第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいい、公立大学法人を除く。以下この号及び第十条第四号において同じ。)が設置する専門学校 当該地方独立行政法人を設立する地方公共団体の長
 七 専門学校(前各号に掲げるものを除く。) 当該専門学校を所管する都道府県知事
2 文部科学大臣等は、前項の確認(以下単に「確認」という。)を求められた場合において、当該求めに係る大学等が次に掲げる要件(第九条第一項第一号及び第十五条第一項第一号において「確認要件」という。)を満たしていると認めるときは、その確認をするものとする。
 一 大学等の教育の実施体制に関し、大学等が社会で自立し、及び活躍することができる豊かな人間性を備えた創造的な人材を育成するために必要なものとして文部科学省令で定める基準に適合するものであること。
 二 大学等の経営基盤に関し、大学等がその経営を継続的かつ安定的に行うために必要なものとして文部科学省令で定める基準に適合するものであること。
 三 当該大学等の設置者が、第十五条第一項の規定により確認を取り消された大学等の設置者又はこれに準ずる者として政令で定める者で、その取消しの日又はこれに準ずる日として政令で定める日から起算して三年を経過しないものでないこと。
 四 当該大学等の設置者が法人である場合において、その役員のうちに、この法律若しくはこの法律に基づく命令若しくはこれらに基づく処分に違反した者又はこれに準ずる者として政令で定める者で、その違反行為をした日又はこれに準ずる日として政令で定める日から起算して三年を経過しないものがないこと。
3 文部科学大臣等は、確認をしたときは、遅滞なく、その旨をインターネットの利用その他の方法により公表しなければならない。
 (確認大学等の設置者による授業料等の減免)
第八条 確認大学等の設置者は、当該確認大学等に在学する学生等のうち、文部科学省令で定める基準及び方法に従い、特に優れた者であって経済的理由により極めて修学に困難があるものと認められるものを授業料等減免対象者として認定し、当該授業料等減免対象者に対して授業料等の減免を行うものとする。
2 前項の規定により確認大学等の設置者が行う授業料等減免の額は、確認大学等の種別その他の事情を考慮して、政令で定めるところによる。
3 前二項に定めるもののほか、授業料等減免の期間その他の確認大学等の設置者が行う授業料等減免に関し必要な事項は、政令で定める。
 (確認要件を満たさなくなった場合等の届出)
第九条 確認大学等の設置者は、次の各号のいずれかに該当することとなったときは、文部科学省令で定めるところにより、その旨を当該確認大学等に係る確認をした文部科学大臣等に届け出なければならない。
 一 当該確認大学等が、確認要件を満たさなくなったとき。
 二 当該確認大学等に係る確認を辞退しようとするとき。
 三 当該確認大学等の名称及び所在地その他の文部科学省令で定める事項に変更があったとき。
2 第七条第三項の規定は、前項の規定による届出があったときについて準用する。
 (減免費用の支弁)
第十条 次の各号に掲げる大学等に係る授業料等減免に要する費用(以下「減免費用」という。)は、それぞれ当該各号に定める者(第十二条第三項において「国等」という。)が支弁する。
 一 大学及び高等専門学校並びに国、国立大学法人及び独立行政法人が設置する専門学校 国
 二 地方公共団体が設置する大学等 当該地方公共団体
 三 公立大学法人が設置する大学等 当該公立大学法人を設立する地方公共団体
 四 地方独立行政法人が設置する専門学校 当該地方独立行政法人を設立する地方公共団体
 五 専門学校(前各号に掲げるものを除く。) 当該専門学校を所管する都道府県知事の統轄する都道府県
 (国の負担)
第十一条 国は、政令で定めるところにより、前条(第五号に係る部分に限る。)の規定により都道府県が支弁する減免費用の二分の一を負担する。
 (認定の取消し等)
第十二条 確認大学等の設置者は、文部科学省令で定めるところにより、当該確認大学等に在学する授業料等減免対象者が偽りその他不正の手段により授業料等減免を受けた又は次の各号のいずれかに該当するに至ったと認めるときは、当該授業料等減免対象者に係る第八条第一項の規定による認定(以下この条において単に「認定」という。)を取り消すことができる。
 一 学業成績が著しく不良となったと認められるとき。
 二 学生等たるにふさわしくない行為があったと認められるとき。
2 確認大学等の設置者は、前項の規定により認定を取り消したときは、文部科学省令で定めるところにより、その旨を当該確認大学等に係る確認をした文部科学大臣等に届け出なければならない。
3 第一項の規定により認定を取り消した確認大学等の設置者に対し減免費用を支弁する国等は、前項の規定による届出があった場合において、当該認定を取り消された学生等に対する授業料等減免に係る減免費用を既に支弁しているときは、国税徴収の例により、当該確認大学等の設置者から当該減免費用に相当する金額を徴収することができる。
4 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。
 (報告等)
第十三条 文部科学大臣等は、授業料等減免に関して必要があると認めるときは、この法律の施行に必要な限度において、授業料等減免対象者若しくはその生計を維持する者若しくはこれらの者であった者に対し、報告若しくは文書その他の物件の提出若しくは提示を命じ、又は当該職員に関係者に対して質問させることができる。
2 文部科学大臣等は、必要があると認めるときは、この法律の施行に必要な限度において、確認大学等の設置者(国及び地方公共団体を除く。以下この項及び次条において同じ。)若しくはその役職員若しくはこれらの者であった者に対し、報告若しくは帳簿書類その他の物件の提出若しくは提示を命じ、若しくは出頭を求め、又は当該職員に関係者に対して質問させ、若しくは当該確認大学等の設置者の事務所その他の施設に立ち入り、その設備若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
3 前二項の規定による質問又は前項の規定による検査を行う場合においては、当該職員は、その身分を示す証明書を携帯し、かつ、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。
4 第一項及び第二項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
 (勧告、命令等)
第十四条 文部科学大臣等は、確認大学等の設置者が授業料等減免を適切に行っていないと認める場合その他授業料等減免の適正な実施を確保するため必要があると認める場合には、当該確認大学等の設置者に対し、期限を定めて、授業料等減免の実施の方法の改善その他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
2 文部科学大臣等は、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた確認大学等の設置者が、同項の期限内にこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。
3 文部科学大臣等は、第一項の規定による勧告を受けた確認大学等の設置者が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、当該確認大学等の設置者に対し、期限を定めて、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
4 文部科学大臣等は、前項の規定による命令をした場合においては、その旨を公示しなければならない。
 (確認の取消し)
第十五条 文部科学大臣等は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該確認大学等に係る確認を取り消すことができる。
 一 確認大学等が、確認要件を満たさなくなったとき。
 二 確認大学等の設置者が、不正の手段により確認を受けていたとき。
 三 前号に掲げるもののほか、確認大学等の設置者が、減免費用の支弁に関し不正な行為をしたとき。
 四 確認大学等の設置者が、第十三条第二項の規定により報告又は帳簿書類その他の物件の提出若しくは提示を命ぜられてこれに従わず、又は虚偽の報告若しくは虚偽の物件の提出若しくは提示をしたとき。
 五 確認大学等の設置者が、第十三条第二項の規定により出頭を求められてこれに応ぜず、同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。
 六 前各号に掲げる場合のほか、確認大学等の設置者が、この法律若しくはこの法律に基づく命令又はこれらに基づく処分に違反したとき。
2 第七条第三項の規定は、前項の規定による確認の取消しをしたときについて準用する。
 (授業料等減免対象者が在学している場合の特例)
第十六条 前条第一項の規定により確認が取り消された場合又は確認大学等の設置者が当該確認大学等に係る確認を辞退した場合において、その取消し又は辞退の際、当該確認大学等に授業料等減免対象者が在学しているときは、その者に係る授業料等減免については、当該確認を取り消された大学等又は確認を辞退した大学等を確認大学等とみなして、この法律の規定を適用する。ただし、同項第二号若しくは第三号に掲げる事由に該当して同項の規定により確認が取り消された場合又はこれに準ずる場合として政令で定める場合における当該大学等に係る減免費用については、第十条及び第十一条の規定は、適用しない。
   第三章 雑則
 (日本私立学校振興・共済事業団を通じて行う減免費用の支弁)
第十七条 国は、日本私立学校振興・共済事業団法(平成九年法律第四十八号)の定めるところにより、第十条の規定による減免費用の支弁のうち大学及び高等専門学校(いずれも学校教育法第二条第二項に規定する私立学校であるものに限る。)に係るものを日本私立学校振興・共済事業団を通じて行うことができる。
2 前項の規定により減免費用の支弁が日本私立学校振興・共済事業団を通じて行われる場合には、第十二条第二項中「文部科学大臣等」とあるのは「文部科学大臣及び日本私立学校振興・共済事業団の理事長」と、同条第三項中「を支弁する国等」とあるのは「に充てるための資金(以下この項において「減免資金」という。)を交付する日本私立学校振興・共済事業団」と、「に係る減免費用」とあるのは「に係る減免資金」と、「支弁している」とあるのは「交付している」と、「当該減免費用」とあるのは「当該減免資金」とする。
 (文部科学省令への委任)
第十八条 この法律に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な事項は、文部科学省令で定める。
   第四章 罰則
第十九条 第十三条第一項の規定による報告若しくは物件の提出若しくは提示をせず、若しくは虚偽の報告若しくは虚偽の物件の提出若しくは提示をし、又は同項の規定による当該職員の質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者は、三十万円以下の罰金に処する。
2 第十三条第二項の規定による報告若しくは物件の提出若しくは提示をせず、若しくは虚偽の報告若しくは虚偽の物件の提出若しくは提示をし、又は同項の規定による当該職員の質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、三十万円以下の罰金に処する。
3 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して同項の刑を科する。
   附 則
 (施行期日)
第一条 この法律は、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律(平成二十四年法律第六十八号)附則第一条第二号に掲げる規定の施行の日の属する年の翌年の四月一日までの間において政令で定める日から施行する。ただし、次条及び附則第十四条の規定は、公布の日から施行する。
 (施行前の準備)
第二条 この法律を施行するために必要な確認の手続その他の行為は、この法律の施行前においても行うことができる。
 (検討)
第三条 政府は、この法律の施行後四年を経過した場合において、この法律の施行の状況を勘案し、この法律の規定について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の見直しを行うものとする。
 (政府の補助等に係る費用の財源)
第四条 次に掲げる費用の財源は、社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律附則第一条第二号に掲げる規定の施行により増加する消費税の収入を活用して、確保するものとする。
 一 学資支給に要する費用として独立行政法人日本学生支援機構法第二十三条の二の規定により政府が補助する費用
 二 減免費用のうち第十条(第一号に係る部分に限る。)の規定による国の支弁又は第十一条の規定による国の負担に係るもの
 (独立行政法人日本学生支援機構法の一部改正)
第五条 独立行政法人日本学生支援機構法の一部を次のように改正する。
  第十七条の二第一項中「は、」の下に「大学等における修学の支援に関する法律(令和元年法律第▼▼▼号)第二条第三項に規定する確認大学等(以下この項において「確認大学等」という。)に在学する」を、「認定された者」の下に「(同法第十五条第一項の規定による同法第七条第一項の確認の取消し又は確認大学等の設置者による当該確認大学等に係る同項の確認の辞退の際、当該確認大学等に在学している当該認定された者を含む。)」を加える。
  第十七条の四第一項中「一部」の下に「を徴収するほか、その徴収する額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額」を加える。
  第二十三条の見出しを削り、同条の前に見出しとして「(補助金)」を付し、同条中「経費」を「費用」に改める。
  第二十三条の二を次のように改める。
 第二十三条の二 政府は、毎年度、機構に対し、第十三条第一項第一号に規定する学資の支給に要する費用を補助するものとする。
  第二十三条の三を削る。
  第三十条第三号を削る。
 (独立行政法人日本学生支援機構法の一部改正に伴う経過措置)
第六条 前条の規定による改正後の独立行政法人日本学生支援機構法(以下この項において「新機構法」という。)の規定は、この法律の施行後に新機構法第十七条の二第一項の規定により認定された者に対して支給される同項に規定する学資支給金について適用し、この法律の施行前に前条の規定による改正前の独立行政法人日本学生支援機構法(以下この条において「旧機構法」という。)第十七条の二第一項の規定により認定された者に対して支給される同項に規定する学資支給金(以下この条において「旧学資支給金」という。)については、なお従前の例による。
2 旧機構法第二十三条の二第一項に規定する学資支給基金(以下この条において単に「学資支給基金」という。)は、旧学資支給金の支給が終了する日までの間、存続するものとする。
3 前項の規定によりなお存続する学資支給基金については、旧機構法第二十三条の二、第二十三条の三及び第三十条(第三号に係る部分に限る。)の規定は、次項の規定により国庫に納付するまで(残余がない場合にあっては、前項の支給が終了する日まで)の間は、なおその効力を有する。
4 独立行政法人日本学生支援機構は、旧学資支給金の支給が終了した場合において、学資支給基金に残余があるときは、政令で定めるところにより、その残余の額を国庫に納付しなければならない。
 (罰則に関する経過措置)
第七条 附則第五条の規定の施行前にした行為及び前条第三項の規定によりなおその効力を有することとされる場合におけるこの法律の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。
 (独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律の一部改正)
第八条 独立行政法人日本学生支援機構法の一部を改正する法律(平成二十九年法律第九号)の一部を次のように改正する。
  附則第四条及び第五条を削る。
 (地方財政法の一部改正)
第九条 地方財政法(昭和二十三年法律第百九号)の一部を次のように改正する。
  第十条に次の一号を加える。
  三十五 都道府県知事の確認を受けた専門学校(地方公共団体又は地方独立行政法人が設置するものを除く。)に係る授業料等減免に要する経費
 (地方税法の一部改正)
第十条 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の一部を次のように改正する。
  第三百四十八条第二項第十三号中「第三項」を「第四項」に改める。
 (地方税法の一部改正に伴う経過措置)
第十一条 前条の規定による改正後の地方税法第三百四十八条第二項(第十三号に係る部分に限る。)の規定は、この法律の施行の日の属する年の翌年の一月一日(当該施行の日が一月一日である場合には、同日)を賦課期日とする年度以後の年度分の固定資産税について適用し、当該年度の前年度分までの固定資産税については、なお従前の例による。
 (日本私立学校振興・共済事業団法の一部改正)
第十二条 日本私立学校振興・共済事業団法の一部を次のように改正する。
  第十八条第二項中「同じ」の下に「。)又は交付業務(同条第四項の業務をいう。第二十五条第一項において同じ」を加える。
  第二十三条中第四項を第五項とし、第三項の次に次の一項を加える。
 4 事業団は、前三項の規定により行う業務のほか、大学等における修学の支援に関する法律(令和元年法律第▼▼▼号)第十条に規定する減免費用(私立学校である大学及び高等専門学校に係るものに限る。)に充てるための資金(以下この項及び第二十七条において「減免資金」という。)を交付するために必要な国の資金の交付を受け、これを財源として、学校法人に対し、減免資金を交付する業務を行う。
  第二十五条第一項中「同じ」の下に「。)(交付業務を含む。第三十七条第一項及び第四項を除き、以下同じ」を加える。
  第二十七条中「第二十三条第一項第一号」の下に「及び第四項」を、「交付する補助金」の下に「及び減免資金」を加える。
  第四十八条第一項第七号中「第三項」を「第四項」に改める。
  附則第十三条中「第二十三条第一項第一号」の下に「及び第四項」を加える。
 (内閣府設置法の一部改正)
第十三条 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。
  第四条第三項第二十七号の五の次に次の一号を加える。
  二十七の六 大学等における修学の支援(大学等における修学の支援に関する法律(令和元年法律第▼▼▼号)第三条に規定するものをいう。)に関する関係行政機関の経費の配分計画に関すること。
  第十一条の三及び第四十一条の二第一項中「第二十七号の五」を「第二十七号の六」に改める。
 (政令への委任)
第十四条 この附則に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。
     理 由
 我が国における急速な少子化の進行及び大学等における修学の重要性に鑑み、総合的な少子化対策を推進する一環として、真に支援が必要な低所得者世帯の者に対し、社会で自立し、及び活躍することができる豊かな人間性を備えた創造的な人材を育成するために必要な質の高い教育を実施する大学等における修学に係る経済的負担の軽減を図るため、学資の支給及び授業料等の減免の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。



2019年5月15日水曜日

金沢市立西南部中学校

JR西金沢駅を西に約1kmほど行くと,金沢市立西南部中学校がある。昭和40年だから自分が小学校6年生のときだ。地域の3中学校が統合して創立した新しい中学校だった。金沢市立野田中学校の応援団員だったので,運動部の試合の応援で行ったことが一度ある。泉中は野球,兼六中にはバスケットの応援にいったのだが,西南部中が何の競技だったかはよく憶えていない。陸上競技かな。応援に行っても恥ずかしくて声が出せず,友達と一緒にモジモジしているだけで全く役に立たない中学生であった。

西南部中学校には全国大会でも優勝したことのある相撲部があって,その卒業生が次の3名の大相撲力士だ。
遠藤聖大(1990.10.19,184cm 154kg,追手風部屋) 2005年度卒業
輝大士(1994.6.1,193cm 170kg,高田川部屋) 2009年度卒業
炎鵬晃(1994.10.18,168cm 99kg,宮城野部屋) 2009年度卒業

石川県は何故か相撲が盛んで,たいていの中学校や高等学校には相撲の土俵があった。近所の金沢市立工業高校の土俵で子どもの時から良く遊んでいた。高校生になると,今ごろの季節に卯辰山で催される高等学校相撲金沢大会の応援に1年生全員が駆り出されていた。七尾商業の舛田茂=後の舛田山(1951.4.10-)が個人優勝していたころである。

2019年5月14日火曜日

重力界

電磁気学の勉強をしていて,なかなか良い本が見つからない。静電場をクーロンの法則から始めるるところは問題ないが,静磁場の場合にこれをビオ・サバールの法則と対応させるのはどうも気に入らない。そういう意味では,まずアンペールの法則をもってきた前野昌弘さんの「よくわかる電磁気学」や高橋和孝さんの「電磁気学基礎」,独自路線で進む岡部洋一さんの「電磁気学」がありがたい。

さて,岡部先生のテキストでは,導入部分に次の話題がある。
「電磁気学(electro-magnetism)は電荷(electric charge)同士に働く力と、磁石(magnet)の磁極(magnetic pole)同士に働く力の解析から形成されていった。前者は電場(electric field)、後者は磁場(magnetic field)である。また合わせて電磁場(electro-magnetic field)という。なお、これらは物理系の呼び方であって、工学系では電界(electric field)、磁界(magnetic field)、電磁界(electro-magnetic field)という。私は工学系なので、電界・磁界と呼びたいところであるが、個人的趣味によって電場・磁場を用いる。分野によって用語が異なるは不幸なことであるが、分野ごとに長い歴史を背負っているので、簡単には統一できないのが実状である。」
高等学校の教科書では,電場・磁場と電界・磁界は併記され,我々が作る問題では,必ず電場・磁場を使うようにしていた。ところで,工学系の人は,重力場を重力界とよぶのだろうか?どうやらそうではないようだ。重力界を google やCiNii で検索してみると次のことがわかった。

(1) 「重力界と電磁気界の完全統一理論: 進化したアインシュタインの等価性理論」などのような怪しい物理学の関連書では使われることがある。また,こうしたフレーバーを持つ文芸作品(ライトノベル,SF)にも影響しているようだ。

(2) 日本物理教育学会では,1983年の物理教育委員会の物理教育用語集最終報告で,当分の間使ってもよい用語とされた(物理教育 1983 年 31 巻 3 号 p. 132-157)。
 重力場,〈重力界〉  gravitational field

(3) 古い時代の方々で若干の使用例がみられた。
・柏木聞吉(東京学芸大学附属高等学校):高校生のための「相対性理論」
物理教育学会誌第11巻第3号 93-99(1963)
・オットー・シュピィクラー:エジプトの天びんにおける平衡状態の決定
計量史研究 第1巻第2号 59-63 (1979) (これは翻訳者の用語選択の問題だ)
・松下重悳(まつしたしげのり 1936-):ヒモ理論(うつせみ 2004年12月5日)

松下さんは,日本のコンピュータのパイオニア70名にも選ばれている元東芝の技術者であり,1995年から現在まで,毎月1回のペースで続いている随筆シリーズ「うつせみ」が何だか面白い。インターネットマイニングの醍醐味はこうした珍しい原石を発掘することである。

2019年5月13日月曜日

Piecewise関数

スリンキーの自由落下の問題で,独立変数の条件によって異る関数形を当てはめたい場面があった。具体的には,自然長より長い場合と短い場合でバネ定数が異る非対称バネのモデルを使いたかった。

このような場合,MathematicaではPiecewise関数を使うことができる。
Piecewise[{{式1,条件1}, {式2,条件2}, …}]
制約条件(条件i)によって定義された区域に値(式i)を持つ区分関数を表す。
[例1]Plot[Piecewise[{{x^2,x<0},{x,x>0}}],{x,-2,2}]
[例2]D[Piecewise[{{x^2,x<0},{x,x>0}}],x]

Juliaを調べてみるとPiecewiseに相当するものはない。組み込み関数のsign(x) を用いて,変数xの正負の符号をとりだし,これからHeaviside関数をつくり,さらにInterval関数を作るという手順になる。あとは適当な関数にInterval関数を掛ければよいだけだ。
function heaviside(t)
   0.5 * (sign(t) + 1)
end
function interval(t, a, b)
   heaviside(t-a) - heaviside(t-b)
end

ところで,StackOverflowのDefine Piecewise Functions in Julia には上記の方法に加えて,より一般的なPiecewise関数をユーザ定義した例が示されている。確かめてみると,若干の修正が必要で,Vector{Function}(n)に undef を加えればよいことがわかった。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
function piecewise(x::Symbol,c::Expr,f::Expr)
  n=length(f.args)
  @assert n==length(c.args)
  @assert c.head==:vect
  @assert f.head==:vect
  vf=Vector{Function}(undef,n)
  for i in 1:n
    vf[i]=@eval $x->$(f.args[i])
  end
  return @eval ($x)->($(vf)[findfirst($c)])($x) 
end
pf=piecewise(:x,:([x>0, x==0, x<0]),:([2*x,-1,-x]))
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
pf(1) # => 2
pf(-2) # => 2
pf(0) # => -1