2025年7月13日日曜日

量子コンピュータ

量子超越性からの続き

量子コンピュータは日経新聞で時々話題の薪に火をくべられているが,話半分耳日曜で受け流している。そんな簡単に実用化レベルにはならないだろうと思っているからだ。

ところがここに来て,かなり重要な論文が2編公開されて,ちょっとだけバズっている。一つは,阪大基礎工の藤井啓祐さんのグループ,もう一つは京大基研の森前智行さんのグループによるものだ。

(1) Efficient Magic State Distillation by Zero-Level Distillation(T. Itogawa, Y. Takada, Y. Hirano, and K. Fujii)
量子コンピュータの最大のネックは準備した量子ビットが,環境との相互作用で量子回路による制御からはずれた状態に遷移して計算上のノイズになってしまうことだ。このため,1つの安定した論理量子ビットを構成するためにその数百倍を超える物理量子ビットが必要になってしまう場合もある。これが誤り耐性を持つ量子計算の問題である。

このためには普通「マジック状態」と呼ばれる特別な量子ビットを用意する必要があるが,そのための新しい方法を開発し,必要な計算機資源を従来より2桁減らすことができることを示した。これは量子コンピュータ実現への大きなステップだと考えられる。

(2) Cryptographic Characterization of Quantum Advantage(T. Morimae1, Y. Shirakawa, and T. Yamakawa)
量子コンピュータは,「古典コンピュータではすごく時間がかかるけどが量子コンピュータならすぐできる」ようなタスクを解ける=量子超越性を持つとされる。その例として量子コンピュータでは通常の計算機では手が出ない複雑な暗号が簡単に解けてしまうこと=暗号の安全性があげられた。しかしながら,これらの関係は必ずしも正確に定義されていたわけではなかった。

この論文では,量子計算の優位性という物理学と計算機科学にまたがる壮大なテーマに対し,一方向パズルというものを媒介として,ある種の暗号の安全性とある種の量子優越性の存在が必要十分条件で結ばれることを厳密に証明することに初めて成功した歴史的な業績と見なせる。



図:中性原子方式の量子コンピュータのイメージらしい(ChatGPT 4oから)


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