2つの独立な自由度からなる系の別の例として,1つの粒子が軌道角運動量Lとスピン角運動量Sを持つ場合を考える。これらを合成した全角運動量を J=L+Sとする(2粒子系の場合と同様,より正確には通常の3次元空間とスピン空間に作用する演算子のテンソル積 J=L⊗1S+1L⊗S)。
軌道角運動量Lの固有状態を|ℓm⟩,スピン角運動量Sの固有状態を|s⟩とし,その積|ℓm⟩|s⟩を考える。このとき,次の関係が成り立っている。
L2|ℓm⟩=ℓ(ℓ+1)ℏ2|ℓm⟩,S2|s⟩=34ℏ2|s⟩,Lz|ℓm⟩=mℏ|ℓm⟩,Sz|s⟩=sℏ|s⟩,L±|ℓm⟩=√ℓ(ℓ+1)−m(m±1) ℏ|ℓm±1⟩,S±|s⟩=√34−s(s±1) ℏ|s±1⟩
また,合成角運動量Jも一般の角運動量の交換関係,[Ji,Jj]=iℏϵijkJkを満足するので,J2とJzの同時固有状態を|jμ⟩とすると,次の関係が成り立つ。
J2|jμ⟩=j(j+1)ℏ2|jμ⟩,Jz|jμ⟩=μℏ|jμ⟩
[J2,L2]=0,[J2,S2]=0,[Jz,Lz]=0,[Jz,Sz]=0などが成立するので,|jμ⟩を|ℓm⟩|s⟩から構成することができる([J2,Lz]≠0や[J2,Sz]≠0なので,一般には単独の|ℓm⟩|s⟩はJ2の固有状態ではない)。
(1)Jzを|ℓm⟩|s⟩に作用させる。
Jz|ℓm⟩|s⟩=(Lz+Sz)|ℓm⟩|s⟩=(m+s)ℏ|ℓm⟩|s⟩
したがって,|ℓm⟩|s⟩は,Jzの固有値μℏ=(m+s)ℏの固有状態である。以下,m=μ−sと表記することもある。
(2)J2を|ℓμ−s⟩|s⟩に作用させる。
J2=L2+S2+2L⋅S=L2+S2+2LzSz+L+S−+L−S+J2|ℓμ−s⟩|s⟩={ℓ(ℓ+1)+34+2(μ−s)s}ℏ2|ℓμ−s⟩|s⟩+√ℓ(ℓ+1)−(μ−s)(μ+s) ℏ2|ℓμ+s⟩|−s⟩={j2+2sμ} ℏ2|ℓμ−s⟩|s⟩+√j2−μ2 ℏ2|ℓμ+s⟩|−s⟩
ここで,j=ℓ+12とし,s2=14を用いた。これから,J2の固有状態を構成するために,|jμ⟩=α|ℓμ−12⟩|12⟩+β|ℓμ+12⟩|−12⟩ とする。ただし規格化条件より|α|2+|β|2=1である。この2つの独立な状態に対する固有値方程式は J2|jμ⟩=λℏ2|jμ⟩ であり,α,βを用いると次のように行列形式で表される。
(j2+μ√j2−μ2√j2−μ2j2−μ)(αβ)=λ(αβ)
このα,βに対する連立方程式が自明でない解を持つための条件は,右辺を移行して0にしたときの左辺の行列式が0になることであり,(j2+μ−λ)(j2−μ−λ)−(j2−μ2)=0というλの2次方程式になる。∴(λ−j(j+1))(λ−j(j−1))=0からJ2の固有値λℏ2は,j(j+1)ℏ2とj(j−1)ℏ2である(したがって,j=j と j−1)。
(3)固有状態の構成
上記のαとβの連立方程式に,固有値λを代入して,規格化条件とともにαとβを求めると次のようになる。
λαβαβj(j+1)√j+μ2j√j−μ2j√ℓ+m2ℓ+1√ℓ−m+12ℓ+1j(j−1)√j−μ2j−√j+μ2j√ℓ−m+12ℓ+1−√ℓ+m2ℓ+1
まとめると,
| j μ⟩=√j+μ2j|ℓμ−12⟩|12⟩+√j−μ2j|ℓμ+12⟩|−12⟩(λ=j(j+1))|j−1μ⟩=√j−μ2j|ℓμ−12⟩|12⟩−√j+μ2j|ℓμ+12⟩|−12⟩(λ=j(j−1))
0 件のコメント:
コメントを投稿