2024年2月28日水曜日

束縛力のする仕事

束縛された質点の運動において,その進行方向と垂直な抗力(束縛力)が働いているとき,位置ベクトル$\bm{r}$にある質点に対して,束縛力$\bm{F}_R$がする仕事$W$はゼロになる。これは,$\displaystyle W=\int \bm{F}_{R}\cdot dr = 0\ $からくる。


図:束縛運動をするバネで結ばれた2質点系とその重心

上図のように,2つの質点がバネで結ばれ互いに内力を及ぼしている系を考える。それぞれの質点は原点を通る2本の直線上を運動するように束縛されている。2つの質点の質量が等しく,初期位置として原点から等距離に静止していたとする。このときのバネの長さが自然長より短ければ,$x$軸方向に弾性力(斥力)が働く。この斥力(内力)の直線方向の成分によって,質点は$y$軸正方向の運動成分を持つことになる。

一方,束縛された質点が直線方向に運動するのは,各質点に働く束縛力(外力)とバネの弾性力(内力)の合力が直線方向を向くからである(摩擦力はないとする)。ところで,この外力(束縛力)は,質点の移動において仕事をすることはない。仕事をするのは,内力(バネの弾性力)である。

この系における質点の重心の運動を考えてみる。重心の運動には系の内力(弾性力)は寄与せず,外力の和だけが運動を決定する。ところで,先ほど見たように外力(束縛力)は仕事をしないはずだ。それにもかかわらず重心は$y$軸方向に運動し,運動エネルギーを持つことになる。これはなぜかというのが,よく問われる定番の問題だ。

外力と内力が働く質点系の運動方程式は次のようになる。
$\displaystyle m_i \dfrac{d^2 \bm{r}_i}{dt^2} = \bm{F}^{ex}_i + \sum_{j=1}^{N} \bm{F}^{in}_{ji} \quad (i = 1 \cdots N)$
すべての粒子に対して加えると,内力が作用反作用の法則から打ち消しあうので,重心座標($\bm{r}_G = (1/M) \sum_{i=1}^N \bm{r}_i, \quad M=\sum_{i=1}^N m_i$)と相対座標($\bm{\tilde{r}}_i = \bm{r}_i -\bm{r}_G$)に対する運動方程式が得られる。
$\displaystyle M \dfrac{d^2 \bm{r}_G}{dt^2} = \sum_{i=1}^N \bm{F}^{ex}_i = \bm{F}^{ex}$,$\displaystyle m_i \dfrac{d^2 \bm{\tilde{r}}_i }{dt^2} = \bm{F}_i^{ex} +\sum_{j=1}^N\Bigl( -\dfrac{m_i}{M} \bm{F}_j^{ex} + \bm{F}_{ji}^{in} \Bigr)\ \  (i = 1 \cdots N)$
それぞれの式の両辺に,重心の速度や相対速度をかけて積分することによって,運動エネルギー(全体は$T$,重心運動は$T_G$,相対運動は$\tilde{T}$)の変化と仕事$W$の関係を表わす式(エネルギー保存則につながるもの)が得られる。

$ \displaystyle T(t_2)-T(t_1)= \sum_{i=1}^N \int_{t_1}^{t_2} \bm{F}_i^{ex}\cdot \dfrac{d\bm{r}_i}{dt} dt + \sum_{i=1}^N \sum_{j=1}^N  \int_{t_1}^{t_2} \bm{F}_{ij}^{in} \cdot \dfrac{d\bm{r}_i}{dt} dt $
$\displaystyle \hspace{2.5cm} = \sum_{i=1}^N W_i^{ex}(t_1 \rightarrow t_2) + \sum_{i=1}^N \sum_{j=1}^N W_{ij}^{in}(t_1 \rightarrow t_2)$
$\displaystyle \hspace{2.5cm} = W^{ex}(t_1 \rightarrow t_2) + W^{in}(t_1 \rightarrow t_2)  $
$ \displaystyle T_G(t_2)-T_G(t_1)  = \int_{t_1}^{t2}\bm{F}^{ex}\cdot \dfrac{d \bm{r}_G}{dt} dt = \overline{W}_G(t_1 \rightarrow t_2) $
$ \displaystyle \tilde{T}(t_2)-\tilde{T}(t_1) = W^{ex}(t_1 \rightarrow t_2) - \overline{W}_G(t_1 \rightarrow t_2) + W^{in}(t_1 \rightarrow t_2)$ 

ここで,$\overline{W}_G^{ex} =  \sum_{i=1}^N \sum_{j=1}^N \dfrac{m_i}{M} \bm{F}_{j}^{ex} \cdot \dfrac{d\bm{r}_i}{dt} dt$ は外力に由来しているが,各要素に分解してみると仕事の形はしておらず(作用する外力と座標の番号は等しくない$\ i \neq j\ $の$\ \bm{F}_{j}^{ex} \cdot d\bm{r}_i\ $が含まれる),このため擬仕事(pseudo work)とよばれることがある。

これらの式を今の問題に当てはめるとどうなるか。束縛力(外力)の和は,重心に対して仕事$\overline{W}_G^{ex}$をする。しかし,束縛力(外力)によって各粒子がなされる仕事の和$W^{ex}$は0である。重心の運動エネルギーの増加に寄与するのは,$W^{ex}$ではなく,$\overline{W}_G^{ex}$であり,これは必ずしもゼロにならないのだ。$\overline{W}_G^{ex} =\dfrac{1}{2} \Bigl( \int  \bm{F}_1^{ex}\cdot d\bm{r}_2 + \int \bm{F}_2^{ex}\cdot d\bm{r}_1 \Bigr)$

問題の設定では,束縛条件から,外力(束縛力)と内力(弾性力)の間に条件式が課されるため,外力を内力によって表すことができる。これによって,擬仕事を内力の仕事の形で表せるのだが,一般的には重心の運動エネルギーの増加を各粒子に対する内力による仕事だけで表すことはできない。

2024年2月27日火曜日

人民の敵

今日,YouTubeのお奨めに現れたのは,外山恒一のチャンネル「人民の敵」だった。

外山恒一のYouTubeというと,我々団ものがあったはずだ。今回のはプロの手が入ったのか,標準的できれいな仕上げになっておりたいへん見やすい。

2007年春の東京都知事選における外山恒一の政見放送は生テレビで見て,いたく感動したのを覚えている。これまでも,東郷健とかありましたが,外山のそれは群を抜いた仕上がりだった。彼の新しいYouTubeチャンネルではその制作裏話を聞くことができた。

(1) あの原稿は,外山が最初に鹿児島県隼人町議会議員選挙に立候補したときに原付街宣用に制作したもので,ほとんどその内容が都知事選で使われることになった。
(2) 都知事選でその原稿を政見放送に使うということは,当初は考えていなかったが後で思いついたことだった。
(3) 原稿の読み方は,カラオケボックスで一文一文周到に吟味しながら,もっとも笑える表現をつなぎあわせたものだった。ものすごい回数練習している。
(4) 政見放送の収録は,NHKと民放1社(2007年はテレビ朝日)の2つ行われ,それぞれ放送される。NHKバージョンとテレビ朝日バージョンは微妙に違うところがある。
(5) 両バージョンの前に東京で行った選挙出馬を模索する集会で試行版のVHSビデオを放映している。それによってようやく供託金の目処がつき始めた。
(6) 政見放送のインパクトは大きかったが,これによって彼の狙っていた対話が拡がることはなかった。ミーハーが集まっただけ。しかし後の教養強化合宿には繋がっていく。

久しぶりに,教養強化合宿の募集案内を眺めていた。過去の学生さん達の体験記が沢山掲載されていて,それらを眺めているとなんだか懐かしい気持ちになってくる。9泊10日正味8日×8時間=64時間講義(+2-3時間/日のメディア視聴)のテキストは,外山恒一『マルクス主義入門』,立花隆の『中核vs革マル』(上),笠井潔の『ユートピアの冒険』,絓秀実の『1968年』である。

外山恒一の政見放送におけるあのような表現が公共の電波に乗せられることが,日本の民主主義の健全性の現れだという言説がよくみられる。ファシストを自称する外山恒一にいわせれば,それはまったく逆だ。今や,日本では選挙制度の中(内側)でしか自由な言論や表現は保障されていない。日常的な活動においてある特定の組織がちょっとビラ撒きをしただけで,選択的に検挙される時代だ。もちろん選挙演説で外からやじるだけでも警察権力によって排除されてしまうのだ。

2024年2月26日月曜日

スフイアハンドブック

2024年2月26日,二・二六事件から88年。NHKはサブチャンネルも活用して国会中継をもっと放送すべきだとかぶつくさいいながら,朝9:00からNHKの国会中継が始まるとすぐテレビを消してしまう悪子の老人だ。

今日の衆議院予算委員会の国会中継のトップバッターが石破茂で,久しぶりにまともに聞こえる質疑が行われていたので思わず見入ってしまった。農林族なので食糧安保について聞いているのかな。哲学系ユーチューバ−のじゅんちゃんが笑いながら期待していたような,いわゆる裏金問題について,政治資金規正法の本義に基づいての言及などはもちろんなかった。

石破茂が,二・二六事件の蘊蓄を語った次に話したのは,避難所の在り方の話である。その説明で,スフィアハンドブックを持ち出していた。スフィアのホームページには次のようにその概要が示されていた。
スフィア運動は1997年、災害対応における人道的活動の質の向上を目指す人道専門家のグループによって始まった。この目標を念頭に、彼らは人道憲章を策定し、人道的対応に適用すべき一連の人道基準を特定した。

当初は赤十字・赤新月運動とともに非政府組織によって策定されたスフィアの基準は、国内外の NGO、ボランティア、国連機関、政府、ドナー、民間セクター、その他多くの人々にとって、主要な参照ツールとなった。今日、スフィアは、人道支援の質と説明責任を向上させるために、実務者を集め、力を与える世界的なコミュニティとなっている。

スフィアの主要出版物である「スフィアハンドブック」は、人道的対応における共通原則と普遍的な最低基準のセットとして、最も広く知られ、国際的に認知されているもののひとつである。


図:スフィアハンドブック2018日本語版の表紙

2024年2月25日日曜日

博士人材と女性理工系人材

2024年2月20日に経団連が,「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に向けた提言」を公表した。

ネット上では,いまさら,おまゆう,どのくちが,とブーイングであふれていた。まあそうなるわね。Claudeに概要版を要約させると次の通りである。つまらない。味も素っ気も反省もない。
この文書は、経団連が2024年2月に公表した「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に向けた提言」の概要版です。主な内容は以下の通りです。 
・博士人材の育成・活躍について、日本の現状は諸外国に比べて遅れていることが指摘されている。産学官が連携・協働して取り組む必要がある。
・企業が博士人材に求めるのは、高度な専門性に加え、課題解決能力や主体性などの高度な汎用的能力である。しかし企業の博士人材への採用意欲は必ずしも高くない。
・女性理工系人材の裾野拡大も重要課題である。今後5年での採用拡大する企業が6割を超える。
博士人材、女性理工系人材の育成・活躍には、産学官それぞれの取組が不可欠である。経団連として今後も教育改革の議論を深めていく。

 ただその提言の元になった経団連による調査はそれなりに面白い情報が含まれている。「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に関するアンケート結果」の調査対象は経団連の関係委員会所属企業441社であり,123社が回答している。バイアス高目かもしれない。従業員規模5000人以上が6割弱,1000〜5000人が3割で,製造業と非製造業が半々だ。

博士人材,文系修士人材などへの採用意欲は依然としてあまり強くないが,女性理工系人材については一定の採用拡大の傾向が見られた。博士人材等が選択可能なキャリアパスの事例や企業が大学と連携して取り組んでいる大学院教育プログラムの事例紹介が紹介されているところは評価できる。

2024年2月24日土曜日

東京株式市場

2024年2月21日,東京株式市場で日経平均株価が 39,098.68円(終値)となって,1989年12月29日に記録したこれまでの最高値 38,915.87円(終値) を34年ぶりに更新した。翌日の日経朝刊の一面はたいへん興奮した紙面になっていた。

さっそく,Geminiにおうかがいをたててみた(太字はGemini自身による強調部分)。

Q(koshi):東京株式市場での株価指標が最高値を記録しましたが,同じ期間で他国では株価指標が数倍から十数倍になっています。現在の日本の経済は必ずしも社会の全ての階層にとってプラスの方向にあるとはみえません。今後の日本社会はどのようになるでしょうか。

A(Gemini):東京株式市場の株価指標が最高値を更新している一方で、他国の株価指標との比較で、日本の経済状況が必ずしも全ての階層にとってプラスの方向にあるとは言い切れない状況ですね。確かに、一部の指標は過去最高値を更新していますが、日本社会全体が豊かになっているとは言い難い現状は、多くの方が感じていることでしょう。

 今後、日本社会がどのように変化していくのか、いくつかの観点から考察してみましょう。

 1. 人口減少と高齢化社会

 日本は世界でもトップクラスの人口減少と高齢化社会に直面しており、労働力人口の減少は経済成長の大きな阻害要因となります。このまま何も対策を講じなければ、社会保障制度の崩壊や経済の停滞など、様々な問題が発生する可能性が高いです。

 2. イノベーションの加速

 一方、AIやロボットなどの技術革新は、労働力不足を補うだけでなく、新たなビジネスチャンスを生み出す可能性を秘めています。これらの技術を積極的に活用することで、日本の経済活性化に繋がる可能性があります。

 3. 格差拡大

 近年、日本社会では所得格差や富の格差が拡大しており、社会の不安定化を招く懸念があります。格差拡大を抑制するためには、教育や社会保障制度の改革など、様々な取り組みが必要となります。

 4. グローバル化

 グローバル化が進む現代において、日本は国際社会における競争力を強化していく必要があります。そのためには、規制緩和や外国企業の誘致など、経済活性化に向けた政策が必要となります。

 5. 地方創生

 人口減少が進む地方では、地域経済の活性化が喫緊の課題となっています。地方創生に向けた取り組みとしては、観光業の振興や新規事業の創出などが挙げられます。

 これらの課題を克服し、持続可能な社会を実現するためには、政府、企業、そして国民が一体となって取り組んでいくことが必要不可欠です。

 今後の日本社会は、様々な課題を乗り越え、より良い方向へ変化していく可能性を秘めています。

 以下、いくつかの可能性を挙げます。

・AIやロボットなどの技術革新により、労働力不足を補い、経済成長を実現する。
・格差拡大を抑制し、全ての人が豊かさを享受できる社会を目指す。
・国際社会における競争力を強化し、世界に貢献する国となる。
・地方創生により、地方と都市の格差を縮小し、活気ある地域社会を実現する。
 これらの課題は決して簡単ではありませんが、解決に向けて努力することで、より良い未来を築くことが可能となるでしょう。

 未来は私たちの手で創り出すものです。

 一人一人が積極的に社会に関心を持ち、行動していくことが、日本社会の未来を形作る重要な鍵となるのです。

昔,眉村卓の短編SFで,インチキ未来予測師の話があったような気がする。本棚を探しても見つからない。未来が予測できますという触れ込みで,核戦争で世界が終るというニセビデオを見せる商売をしているうちに,社会全体にその意識が浸透してしまい,本物の核戦争が到来しそうになるというものだ。もしかすると著者名も概要も若干?間違っているかもしれないのだが,自分の記憶の中ではそのように格納されている。

なにをいいたいかというと,上のGeminiの回答における太字の調子がそれを想起させてしまったということ。みんながAIに頼るようになると,自分たちの無意識の集合が危険なフィードバックループを作ってしまうかもしれないということ。テレビや週刊誌などのマスメディアやSNSなどのネットメディアだってそれに負けない作用をしているのだろうが,必ずしも具体的で十分な検証はされていないような気がする。

2024年2月23日金曜日

お水おくり

東大寺修二会からの続き

東大寺二月堂修二会のお水取りは3月12日の深夜に行われる。二月堂前の若狭井(閼伽井)という井戸から観音菩薩にお供えする「お香水」を汲み上げる儀式である。

この「お香水」は若狭国から10日かけて地下を通って若狭井へ届くという伝説がある。福井県小浜市の若狭神宮寺では毎年3月2日に若狭井へ水を送る「お水おくり」の神事が行われている。

若狭井というのは聞いたことがあったけれど,小浜で「お水おくり」しているというところまで考えが及ばなかった。写真をみるとばかなり本格的な神事が行われていた。


写真:3月2日に行われる「お水おくり」(おばまナビから引用)

[1]「若狭井」から香水をくみ二月堂本尊にお供え(読売新聞オンライン)
[2]二月堂の謎の井戸「若狭井」(東大寺・御朱印)
[3]お水おくり(おばまナビ)

2024年2月22日木曜日

東大寺修二会

工場跡事務室からの続き

工場跡事務室の前の道路をそのまま東にまっすぐ進むと,奈良公園管理事務所を左手に見ながら,東大寺の大仏殿の裏を通り過ぎて,東大寺の二月堂まで十分弱で到着する。石畳の階段をたらたらと上ると二月堂の入り口だ。


写真:修二会(お水取り)のお松明(撮影 2024.02.18)

入り口の前の広場には,3月1日から始まる修二会で使われるお松明の長い竹が並べられていた。寄進者の名前などが書かれている。二月堂の階段を上がると,ニュースでよくみる練行衆がお松明を持って走り回る回廊に至る。東大寺の修二会は,お水取りの3月12日ではない平日に一度だけ見に来たことがあった。冷え込んだ夜だったような気がするが,今日は暖かい。

帰宅してテレビをつけると,東大寺修二会の油量りの行事のニュースがあった。修業中にともす燈油を計量する行事だ。3つの桶に合計63Lの専用の油が量り取られていたけれど,お松明の火もこれで点火するのだろうか。この燈油を納めているのが,愛知県岡崎市の太田油脂株式会社で,宮内庁・伊勢神宮・東大寺御用達,日本の灯り お灯明油「和灯(わあかり)」というものらしい。過去の写真では一斗缶5缶(72L)が並べられていた

お松明に使われる竹は京田辺市の講社などから納められる。その真竹は長さ7m,太さ10cm,重さ40kg程度である。毎日10本,3月12日だけ11本使われる。ChatGPTやGeminiに尋ねてみても正しい答えは得られない。

[2]<お水取り>「お松明」用 二月堂へ直進(読売新聞オンライン)
[3]修二会(東大寺二月堂お水取り)(奈良観光通信)
[4]東大寺二月堂のお水取り、修二会(しゅにえ)(東京木材問屋協同組合)



2024年2月21日水曜日

工場跡事務室

このあたりの梅の名所はどこかしらとGeminiに聞くと,一番に出てきたのが片岡梅林(奈良市高畑町1149)だった。Google mapで確認すると,奈良公園の浮御堂の隣である。早速向かった。人類はますますコンピュータに支配されつつある。知識も行動も感情も戦争も。

片岡梅林は梅の香りがして,白梅,白梅,紅梅,白梅とまばらに花盛りだった。さらに歩くと奈良国立博物館の裏手の仏教美術資料研究センターの横を抜けて東大寺の参道入口までやってくる。ここまでくるとあたりは冬枯れの鹿と外人観光客でいっぱいだ。鹿のフンを掃除してくれているおばさんと,中国語のピンポンの中をかき分けて南大門をくぐり,右に曲がり丘を越えて左に曲がると,喫茶スペース工場跡事務室に到着した。

普段はあまり営業していないらしいが,無事にそこで昼食にありつけることになった。乳酸菌飲料のフトルミンの製造や,食料菌類の研究をしていた工場が製造を中止して30年後,今から15年ほど前に工場跡のカフェとしてオープンしたものだ。外観は今にも壊れそうな昔ながらの古びた建物である。

奈良市の登録有形文化財喜多家住宅(主屋・蔵・離れ)と旧長壽會細菌研究所(工場・製品庫)から成り立っている。大正末期から昭和初期に立てられた建物だ。主家の方はモダンなデザインの洋館だが公開していないのかもしれない。


写真:喫茶スペース工場跡事務室立ち入り禁止区画

2024年2月20日火曜日

Bluesky(4)

Bluesky(3)からの続き

昨年の話になるが,Zennでshinyakatoさんが,blueskyのAPIをコマンドラインから操作するコマンド bluesky_cliを作っていた。

この機会に(どの機会?)インストールしてみる。
% brew install dart-sdk
% dart pub global activate bluesky_cli
# .zprofile に環境変数を登録
  export BLUESKY_IDENTIFIER=abcdefg
  export BLUESKY_PASSWORD=opqrstu
特に問題ない。そこで,例題を試してみよう。

(1) 投稿
% bsky post --text="Hello, Bluesky Test"
{"uri":"at://did:plc:fljdpylgk7zeyuq4sbzmucmt/app.bsky.feed.post/3klqjl3fovb2p","cid":"bafyreifmxadvjnjfh4dvo7ee2rey525s554xrwnxktktuini57lzqakuxy"}

(2) 削除
% bsky delete --uri=at://did:plc:fljdpylgk7zeyuq4sbzmucmt/app.bsky.feed.post/3klqjl3fovb2p
postしたときのat://did をそのままuriとして指定すれば良い。

(3) 画像の投稿
% bsky post --text "TEST: post text & img from bluesky_cli" --images /Users/koshi/Desktop/test.jpg
{"uri":"at://did:plc:fljdpylgk7zeyuq4sbzmucmt/app.bsky.feed.post/3klqmskp4vi2d","cid":"bafyreiacxpejbsr7wbknl6wu34qvq75ay4uewiqzhaltxms3bvfjkzqfxe"}
複数イメージならば,カンマで区切れば良いらしい。

(4) タイムラインの取得
% bsky timeline --limit=1  (1-100 default 50)
結構大きなデータがJSON形式で出てくる。そのサイズは,limitで変更できる。

(5) ユーザのプロファイル
% bsky profile --actor=koshix.bsky.social --pretty
{
    "did": "did:plc:fljdpylgk7zeyuq4sbzmucmt",
    "handle": "koshix.bsky.social",
    "displayName": "Kunio Koshigiri",
    "avatar": "https://cdn.bsky.app/img/avatar/plain/did:plc:fljdpylgk7zeyuq4sbzmucmt/bafkreibqot3zxwaxerx2cdeund3qm4stvmj35bufdipuehpfd3homixk7e@jpeg",
    "viewer": {
        "muted": false,
        "blockedBy": false
    },
    "labels": [],
    "description": "koshix.blogspot.com\ninstagram.com/koshix7\nmstdn.jp/@koshix",
    "indexedAt": "2024-01-26T00:53:03.445Z",
    "followersCount": 80,
    "followsCount": 293,
    "postsCount": 16
}
オプションのprettyはJSONデータを整形するだけの話だ。

Blueskyの登録者数はもうすぐ500万人に届きそうだ。


図:deck.blueでbluesky_cliからのテストポストをキャプチャしたもの


2024年2月19日月曜日

デブリ除去衛星


2月18日,ニュージーランドで,日本のベンチャー企業のアストロスケールが,商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」を打ち上げ軌道投入に成功した

どうしてニュースでは知りたいと思う肝腎の情報を伝えてくれないのだろうか。

(1) 日本にそんな会社があったのか? → 2013年に設立され本社は東京だが,世界各地の子会社で500名がグローバルに働いている。

(2) ニュージーランドは人工衛星を打ち上げられるのか? → 2006年にニュージーランドで設立された民間企業のロケット・ラボ(現在の本社はカリフルニア州ロングビーチ)が,ニュージーランドの北島東にあるマヒア半島にロケット発射施設をもっていて,そこから打ち上げたものだ。

打ち上げに用いられたのは,小型2段式液体燃料ロケットのエレクトロンで,750万ドル(12億円)で300kgの衛星を低軌道に打ち上げられる。2017年以来31回の打ち上げを行い,28回成功している。年に6-7回の打ち上げだから,日本のH3の2倍のペースだ。

このロケットエンジンは,ニュージーランド出身の物理学者アーネスト・ラザフォードにちなんで,ラザフォードエンジンと名付けられている。推力は小さいが,技術的には高度なものが採用されている。


デブリ除去衛星ADRAS-Jは,JAXAとの契約で低軌道にあるH2Aロケットの第2段にランデブーして,比較軌道離脱のための実証データを収集する。今回はデブリ=非協力物体に接近してその様子を観測撮影するだけのようだ。

遠距離では対象の地上観測とデブリ除去衛星のGPSを組み合わせて接近する。対象が見つかった後は,可視光・赤外光・LIDARの3種類で対象を捉えることになる。


写真:ADRAS-Jのイメージ図(アストロスケールのウェブサイトから引用)

2024年2月18日日曜日

H3ロケットとお気持ち主義

2月17日9時22分過ぎ,種子島宇宙センターからH3ロケット2号機(H3・TF2)が打ち上げられ,成功裏に2個の小型副衛星(CE-SAT-IE/TIRSAT)を軌道に投入することができた(ロケット打ち上げ計画書)。

前回2023年3月7日のH3ロケット1号機では,2段目のエンジンに点火することができず,陸域観測衛星大地3号の軌道投入に失敗していた

YouTubeを見ていると,JAXAからライブ映像が配信されていた。その段階ではすでに第2段への点火が完了し,説明を聞いているところで第2段の燃焼が終了して,衛星が分離されていた。

JAXA配信中の解説で新しくわかったことは,H3ロケットが従来のH2Aのコストを半分の50億圓にしたというだけでなく,第1段のエンジンを2または3基,固体燃料ブースターの数を0,2または4基と,様々な組み合わせで,ペイロードにあわせた最適化ができるというところだった。今回のは,第1段エンジンが2基,固体燃料ブースターが2基のH3-22Sである。最大の組み合わせH3-24Wでは,6.7tの衛星を静止トランスファ軌道に投入できる。



写真:H3ロケットの1/20模型(Wikipedia「H3ロケット」から引用)

JAXAの記者会見では,記者たちのクオリティの低さが目立つ。最後の南日本新聞の女性記者が,第1段のエンジンを3基(このとき固体燃料ブースターは使わない)にするのはいつになるかを聞いていた。まだ,検証が必要なので次回ではないという説明をうまく引きだしていた。このような事前学習がされている少数例を除くと,ほとんどみんなお気持ち主義なのである。曰く「○○のときはどんなお気持ちでしたか云々」。こればっかり。平安文学からの伝統が連綿と受け継がれている。

参考:
『栄花物語』では、文学的な興趣によって感覚的に歴史を把握しており、個々の歴史事象の背後に潜む歴史の真実を描くよりも、事件をめぐって生起する人々の心情や人の世の哀感を、事実を主観的に潤色したり、虚構を用いたり、さらには、『源氏物語』の文章を模倣するなどして描いていて、作り物語的性格が濃厚であり、冷徹な目で人間を直視し、その内面へ踏み込んで描く態度が希薄である。(Wikipedia「栄花物語」から引用)

2024年2月17日土曜日

ZEN大学

大学どこへからの続き

日本記者協会の記者会見「大学どこへ」シリーズの第2回は,ドワンゴ顧問の川上量生(1968-)によるZEN大学の話だった。

ZEN大学は,現在設置認可申請中で,2025年4月に開学予定の新しいオンライン大学である。昨年の夏に,IUGC(宇宙際幾何学研究センター)が話題になったとき初めてその名前を意識した。ところが参加メンバーを見て,そのままパソコンの蓋をそっと閉じてしまい,詳細までは理解していなかった。

川上さんは,実業家として着メロやニコニコ動画を産み出し,さらにはオンラインのN高等学校を立ち上げて,いずれも成功している。その彼がどういう考えでZEN大学を立ち上げたかを直接聞くことができて参考になった。

まず,彼は教育に特に思い入れを持っているわけではなく,教育者になろうとしたこともなかった。あくまでも教育分野への参入をビジネスとして捉えている。N高校とかZEN大学というネーミングに当たっては,まさに,その実業家としてのマーケティングの観点で手あかのついていない言葉を,国内向けと海外向けにそれぞれ考えたものだとのことだ。なお,『学びあい』の西川純(1959-)もN高校やオンライン教育の重要性を速くから理解していた。


彼が考える現在の大学の問題点としては,(1) 進学率の地域格差が非常に大きいこと,最高の東京都(69.8%)と最低の鹿児島県(36.1%)では2倍近い差がある。(2) 経済格差が進学に大きな影響をしていて,家庭の所得と進学率におおきな相関がある。これに,地域から大都市へ進学して生活することによる負担が加わってくる。(3) 地方に顕著な男女の進学率格差が存在する。

これらを解決するため,これまで大学に進学していない層の人々が誰でも入学できることを目指して授業料38万円のオンライン大学を設立するというものだ。N高校の毎年の卒業生は1万人いる。その半分が進学するとしたら5000人だ。この値を当初の入学定員と想定して設置申請している。それによる収容定員は2万人となり,年間収入は76億円と見込まれる。アメリカ合衆国ではアリゾナ州立大学が最も大きなオンラインコースを設置している。8万人の通常コース学生に加えて,6万人のオンライン学生がいる。なお,放送大学のターゲットはむしろ社会人である。

ZEN大学の授業(知能情報社会学部)はすべてオンラインで提供され,実体験としてはドワンゴとともに設立に加わる日本財団のリソースを活用した様々なプログラムが用意されている。教員は約100名程度を予定していて,これに300-400人のサポートスタッフ(教育内容指導,就職指導,授業参加指導)を抱えることになる(だからそれほど儲かるわけではない)。なお,設置審で要求される就職先調査データとして,すでにN高校の卒業生を受け入れている企業を中心にアンケートしており,地方で不足しているIT/AI人材の供給元となることを想定している。

たぶん,大阪教育大学の教育協働学科も教育共創学科としてオンラインコースに重点を置きつつ,教員免許資格が取得できる付加価値をつけることで,生き残りを目指すべきだった。ZEN大学の授業は,N高校でも単位取得可能で,単位参入できそうな話だった。そのへんの履修期間を4年から広げるというモデルもおもしろい。

ZEN大学で提供される授業は,135科目である。とても少ないような気がするが,1学部なのでそんなものなのかもしれない。卒業要件単位数は124単位(1科目2単位で62科目)となっている。外国語科目は設けない。なお,教育内容については芦田宏直(1954-)さんが人間環境大学に新設される環境情報学科で目指しているものが一番興味深い。



2024年2月16日金曜日

大学どこへ

日本記者クラブの主催する記者会見で,「大学どこへ」というシリーズがあった。半分は総長クラスなのでそれほど聞く気にもならない。第8回は,東京理科大学嘱託教授の宮武久住(1957-)さんだった。共同通信の記者を25年務めた後,著作権関係の実務家教員として横浜国立大学や東京理科大学の教授として勤めた人だ。

今の大学は変わらなければならないということを主張していた。しかし変化の時代に対応できない日本の組織というのは,なにも大学に限った話ではないような気がする。改革の提案として,在学期間や入学年齢,社会人学生と地域連携など六項目があげていたが,どの立場から何を大学の問題として認識しているのかがもう一つ明確ではない。その結果,自分の体験に照らした経験主義的な感想から敷延した結論に留まってしまう。

彼は,大学教員が互いをセンセイと呼び合うことへの違和感を強く表明していた(さん付け文化を持った分野も存在するが)。大学の自治という言葉がお蔵入りして久しいが,基本的には大学が,専門職による職能団体的な自律性と同僚性を持った組織としての側面があることを十分に理解していないような気がする。

その点,第5回の大庭良介さんの話は,データに基づいて基礎研究分野の研究費では,有望とされる分野への集中投下より,分散化が望ましいことを立証していて,おもしろかった。それにもかかわらず,講演後の質問者(退職ジャーナリスト)は予算がなくなった日本では選択と集中が必要だとしつこく自己主張していた(金融資産への投資が重要だという経験を繰り返し強調しながら…orz)。

日本記者クラブの会見はどうしていつもちょっと気持ち悪いのだろうか。ロートルおじさん記者達が,自慢話を交えながら,旧来の価値観と凝固した世界観でぐだぐだと質問を続ける様はどうみても気分が良くない。どうしてジャーナリストはあんな空気を醸し出すのだろうか。まあ,じぶんだって頭の干からびたおじさん(おじいさん)であり,同様の質問をしがちなので,持って他山の石とすべし。


[1]「大学どこへ」(1) 大野英男・東北大学総長(2023.11.28)
[2]「大学どこへ」(2) ドワンゴ顧問 川上量生さん(2023.12.08)
[3]「大学どこへ」(3) 原晋・青山学院大学陸上部監督(2023.12.14)
[4]「大学どこへ」(4) 高橋裕子・津田塾大学学長(2024.01.16)
[5]「大学どこへ」(5) 大庭良介・筑波大学准教授(2024.01.22)
[6]「大学どこへ」(6) 杉山直・名古屋大学総長(2024.01.30)
[7]「大学どこへ」(7) 伊藤公平・慶應義塾長(2024.02.07)
[8]「大学どこへ」(8) 宮武久佳・東京理科大学嘱託教授(2024.02.15)

2024年2月15日木曜日

歯医者

2月14日,バレンタインデー。ようやく去年の5月から通っていた歯医者が一段落した。

右上の4番目の歯に亀裂が入っていたのは,2-3年前から気がついていたのだけれど,それがだんだん悪化してきてついに歯がそこから分裂し始めたので,あわてて近所の歯医者さんに電話したのが,去年の5月中ごろだ。

予約をとってから行った旅行先で,カレーライスを食べていたら,とうとうその歯が半分折れかかってしまった。あわてて,洗面所でうがいして,元通りに押さえ込んだ。せっかくの旅行中なのに堅いものや刺し身が食べられず,残念なことになってしまった。歯医者に電話して予約の日を変更してもらい,帰宅後すぐに向かうことになった。

近所の歯医者は,昔から二階堂の駅前で開業していた地味な西川歯科なのだが,息子さんの代になり,線路脇の空き地に移転して,「にしかわ歯科・口腔外科クリニック」として新装開店したのだ。設備はきれいだし,こども向けのギミックも満載で(二階堂駅のホームから楽しそうな絵が描かれたはいしゃさんがみえるのだ),患者さんでにぎわっている。

治療は2-3回で終了したのだが,その後の,歯茎の検査とゆっくりと進められる歯石除去で半年以上かかってしまうことになった。さらに,今後は約3ヶ月に1回のサブスクリプションまでついてくることになった。まあ,行かなければ終了するのだけれど。歯をやられてものを食べられなくなるのが心配なので,とりあえず通うことにしょうか。


歯医者に通うのは30年ぶりだった。前回は西川歯科を敬遠して,近鉄郡山駅前の伊藤小児歯科にお世話になった。当時は歯周病が進行して下の歯を2本抜いてブリッジを入れることになってしまったのだ。前々回は,学生のときで,阪急宝塚線蛍池駅前の田中歯科である。これは,こどものときの虫歯治療のアマルガムが脱落したためであり,簡単な治療だけで終った。

最初の歯医者は,小学校4-6年ごろかな。学校の歯科検査で虫歯がたくさん見つかって,寺町2丁目のバス停前の白石歯科に何年か通った。そのとき初めてアマルガムという水銀の合金を虫歯の詰め物に使うことを学んだ。アマルガムをこねる作業も見ていたような気がする。こどものときから甘いお菓子ばかり食べていたのがよくない。もらったお菓子を引き出しにたくさん溜めながら,ちびちびと食べ続けていたのである。ろくな子供ではない。


写真:にしかわ歯科の受付で配布されたバレンタインチョコ


2024年2月14日水曜日

曾根崎心中

 文楽の曾根崎心中は何度か観ているが,歌舞伎では初めてだった。

生玉社前の段。油屋九平次とその取り巻きらにいじめられる手代徳兵衛の場面がある。冷たい視線を送る群衆がフリーズしているのが,妙に現代劇のような演出になっている。いいようなわるいような。尾上右近の徳兵衛も,中村壱太郎のお初もセリフがやや聞き取りにくいのでちょっともやもやする。

天満屋の段。徳兵衛の叔父の醤油屋の平野屋久右衛門が登場する。これは文楽にはなかった。久右衛門は,徳兵衛がお初に騙されていると思い,その徳兵衛を諌めるために来たのだ。その後,天満屋の主人吉兵衛がお初に説教するところも文楽にはなかったものだ。九平次が現れるのはそのままだけれど,吉兵衛とからんで揉める部分が追加されている。

そして,一番大きな違いは,九平次の悪事が久右衛門に露見するという話が追加されていることだ。お初と徳兵衛が暗闇の中,天満屋を脱出した後,油屋九平次の手代の市兵衛が急用でやってきた。九平次が無くしたと嘘の届け出をして隠していた印判を役人に持っていってしまい,嘘がばれそうになっているとあわてて九平次に知らせに来たのだ。その話を久右衛門が聞いて,天満屋主人吉兵衛にも伝わってしまう。

天神森の段。ここは,ほぼ竹本の語りで進んでいくので,違いはないような気がする。
この世の名残り」夜も名残り。
死に行く身を」たとふれば」あだしが原の」道の霜。
一足づつに」消えて行く」夢の夢こそ」哀れなれ。
あれ数ふれば」暁の」七つの時が」六つ鳴りて」残る一つが」今生の」鐘の響きの」聞き納め。
寂滅為楽と」響くなり。
鐘ばかりかは」草も木も」空も名残りと」見上ぐれば」雲心なき」水の面」北斗は冴えて」影うつる」星の妹背の」天の河。
梅田の橋を」鵲の」橋と契りて」いつまでも」われとそなたは」女夫星。
必ず添ふと」すがり寄り」二人がなかに」降る涙」河の水嵩も」勝るべし。

竹本住太夫が,近松は五七調からズレるのがあまり好きじゃないといっていたが, この冒頭の部分だとずれているのは一箇所だけだ。


写真:お初天神(露天神社)のお初徳兵衛の像(Wikipediaから引用)

2024年2月13日火曜日

柿の葉寿司

新しくなったGeminiに「美味しい柿の葉寿司のお店を紹介してください。」と尋ねてみた。

質問者の位置情報を勝手に把握した上で,天理市の美味しい柿の葉寿司のお店を紹介してくれたが,その結果は極めて妥当なものでした。いいようなわるいような。

天理市周辺で美味しい柿の葉寿司のお店をいくつかご紹介します。

柿の葉ずし平宗 便利館
住所:日本、〒632-0097 奈良県天理市中町217−2
営業時間:9時30分~19時00分
評価:4.2
口コミ:Googleマップ 
ゐざさ 大和吉野 柿の葉寿司 田原本店
住所:日本、〒636-0226 奈良県磯城郡田原本町唐古80−5
営業時間:9時30分~18時00分
評価:4
口コミ:Googleマップ 
柿の葉ずしのみよし野 奈良コープ産業
住所:日本、〒632-0082 奈良県天理市荒蒔町96−1
営業時間:8時30分~17時00分
評価:0
口コミ:Googleマップ 
柿の葉ずしヤマト 天理店
住所:日本、〒632-0046 奈良県天理市三昧田町90−1
営業時間:8時00分~19時00分
評価:3.9
口コミ:Googleマップ 
柿の葉寿司本舗たなか 西和店
住所:日本、〒639-0205 奈良県北葛城郡上牧町下牧2丁目8−85
営業時間:8時30分~19時00分
評価:3.9
口コミ:Googleマップ 
これらのお店は、いずれもGoogleマップ上で高評価を得ています。また、営業時間も長いので、お好みの時間に訪れることができます。

ぜひ、天理市で美味しい柿の葉寿司を味わってみてください。 


図:GeminiがGoogle Mapを呼び出して表示した近辺の柿の葉寿司ベスト5

2024年2月12日月曜日

スマートキャップ

スマートへルメットからの続き

神戸大学の塚本昌彦先生ではないけれど,コンピュータはウェラブルへの道を進んでいる。Appleを例にとれば,MacBookから,iPhone・iPad経由して。Apple Watchや Apple Vision Pro(空間コンピューティング)と来ている。

その本命が電脳コイルのような眼鏡型なのかどうなのかはまだわからない。ただ,ゴーグルタイプではないような気がする。とはいってもリスト型もちょっと違う。視聴覚へのインターフェースを考えれば,頭の周辺で常時身に付けるものになるので,帽子か眼鏡の2択になる。

GoogleのGeminiに「ほとんどの人が常時身に付けることになるAIデバイス(ウェラブルコンピュータ)の形態としてはどんなものが考えられるでしょうか。ゴーグル型,メガネ型,帽子型,腕時計型,それぞれの長所や短所を整理した上で有望な順に並べてください。」と尋ねたところ,1位:腕時計型,2位:メガネ型,3位:ゴーグル型,4位:帽子型ということだ。


図:DiffusionBeeでは適当なイメージが出てこない。


重ねて聞いてみた。「帽子型は,キャップの鍔の部分に格納されている表示用パネルを降ろすことによって,XR機能を持たせることができますし,帽子の周囲に光学センサー(カメラ)を配置することで,視線+手指入力も可能になるのですが。」

Geminiが空気を読んだ結果がこれだ。自分の考えていたことをほぼ説明してくれている。
帽子型ウェアラブルコンピュータは、キャップの鍔に格納された表示用パネルや帽子の周囲に配置された光学センサー(カメラ)を活用することで、XR機能や視線+手指入力など、ユニークな機能を実現できる可能性があります。以下、詳細な考察と、具体的な活用例をいくつかご紹介します。
 1. XR機能
  鍔部分に格納された有機ELパネルなどを利用し、AR/VRコンテンツを表示可能
  透過型ディスプレイを用いることで、現実世界の情報とシームレスに融合
  バイザーを降ろすことで、没入感の高いVR体験を実現
  頭部の動きに追従するヘッドトラッキング機能を搭載することで、より自然な操作感を実現

・具体的な活用例
  ナビゲーション:目的地までの道順を視覚的に表示
  教育:歴史上の人物や建造物を3Dで再現
  エンターテイメント:映画やゲームをより臨場感豊かに体験
  情報表示:ニュースや天気予報などを常に視界に表示

 2. 視線+手指入力
  帽子周囲に配置されたカメラで視線を捕捉
  指先ジェスチャーと組み合わせることで、直感的な操作を実現
  ハンズフリー操作により、作業効率を向上

・具体的な活用例
  スマートフォン操作:画面を見ずに電話をかけたり、メッセージを送ったり
  音楽再生:曲の再生、停止、音量調整などをジェスチャーで行う
  ゲーム操作:視線でキャラクターを操作し、指先で攻撃を行う

 3. その他の機能
  マイクを搭載し、音声認識による操作も可能
  太陽光発電パネルを搭載し、バッテリーの充電を可能
  頭部の温度や湿度を測定し、健康管理に役立てる

 4. 課題
  デザインと機能性の両立
  軽量化とバッテリー持続時間の向上
  プライバシー保護

 5. 将来展望
 技術の発展により、帽子型ウェアラブルコンピュータは、より小型化、軽量化、高機能化が進み、ファッションアイテムとしても広く普及していく可能性があります。また、医療や介護、教育など、様々な分野での活用が期待されています。

 6. まとめ
  帽子型ウェアラブルコンピュータは、XR機能や視線+手指入力など、独特な機能を備えることで、従来のウェアラブルデバイスとは異なる新しいユーザー体験を提供することができます。課題を克服し、技術開発が進めば、将来的に人々の生活に大きな影響を与える革新的なデバイスとなる可能性を秘めています。

2024年2月11日日曜日

プール

泉野小学校にはプールがなかった。

戦後の引き揚げ者が平和町に多く住むようになって,十一屋小学校の校区の人口が急増し,その分校として設置されたのが泉野小学校である。昭和34年(1959年)に独立した小学校として創立された。自分が入学したのは昭和35年(1960年)なので,第2期生というわけだ。

歴史のある十一屋小学校にはプールがあったのではないか。体育の水泳の授業は近くの野田中学校や,歩いて30分ほどの市営グラウンドに併設されている市営プールに半日がかりで行くことになる。

小学校1年のころには父親の会社の海水浴で千里浜に行ってばしゃばしゃしていたり,母親の実家の滑川は海のすぐ近くだったりしたのだけれど,小学校のころはほとんど泳げなかった。そんなわけで,例の勉強も良くできる大杉君が50メートルプールの短辺をバタフライで力強く泳いでいるのを指をくわえて見ているような子供だった。

その後の経緯は,金沢泉丘高等学校のプールで書いていた。


写真:思い出の金沢市営総合プール

2024年2月10日土曜日

Bluesky(3)

Bluesky(2)からの続き 

Blueskyの招待コードをもらって登録したのはかれこれ9ヶ月以上前のこと。2月6日にようやく,Blueskyは招待制から公開登録制に移行した。これにより,300万人だった登録者は,1-2日のうちに400万人を越えるに至った。 


図:BlueSkyの登録者の相転移(Jaz統計[5]から引用)

2024年2月における自分のSNSの現状を復習してみた。
SNS名   URL         フォロー中:フォロワ 登録日
--------------------------------------------------------------------------------------------------
X(https://twitter.com/koshix/)           934:971  2008.8-
Facebook(https://www.facebook.com/koshix/)  396:396  2009.5-
Mastodon(https://mstdn.jp/@koshix)        280:328  2017.4-
Instagram (https://www.instagram.com/koshix7/)   352:359  2019.10-
Bluesky (koshix.bsky.social)         26:  57  2023.5-
Threads (https://www.threads.net/@koshix7)    446:147  2023.7-
--------------------------------------------------------------------------------------------------

Instagramは自分の写真の記録用だし,Facebookは友人知人の様子を知るためのものだから除く。それでも4つも残っている。最近評判が悪いX(旧Twitter),Mastodon,Bluesky,Threadsと4つのSNSを巡回するとなると,面倒で困る。どれかに集約するならば,Blueskyかな。Mastodonを予備として。しかし,問題は貴重な情報源の何人かがまだXに残ったままになっていることだ。いずれにせよ,情報を発信する頻度はかなり減ってしまった。


2024年2月9日金曜日

直角

理科クラブと算数クラブからの続き

小学校4年の算数の時間のことだ。折り紙を2回折ると直角をつくることができるという話になった。そこで,先生がみんなに尋ねた。折り方によって直角はいくつくらい作ることができるでしょう。さっそく折り紙をもちながらクラスでわいわいと議論がはじまった。

クラスの中でもよくできて運動も得意で発言力のあった中田君が3000くらいかなあといった。それに賛同する子が多かった。選挙で自民党に票が集まるのと同じ原理だ。強いものが正義であり真理なのである。これに対して,転校生でちょっとみんなからはずれていた眼鏡の松村さんと自分が,それはおかしい,ほんの少しでも折り線をずらせば可能なので,無数にできるはずだと主張した。

教訓1:真理はかならずしも多数決では決まらない
教訓2:力(権威)が大衆の正義になることは多い

自分が苦手だった沢崎先生はどうやってその結果を集約したのだろうか。そのあたりははっきり覚えていない。


写真:おりがみで直角をつくる方法


2024年2月8日木曜日

理科クラブと算数クラブ

中国の小学生の数学からの続き

1964年,泉野小学校では,5年生になるとクラブ活動が始まった。モーターを使って自動車をつくる工作クラブもおもしろそうだったが,理科クラブのほうに入った。初回は担当の先生がこどもの名前を確認していくのだけれど,腰切と板書されて話がなかなか遠かった。上級生の活動発表では,水酸化ナトリウム水溶液で煮出した木の葉から葉脈標本を作るというのが印象的だった。

ともだちと数人のグループで何をテーマにしようかと相談した。その結果,ビーカーに入れた食塩水の濃度をかえたものをいくつか用意して,おたまじゃくしがどこまで大丈夫かを確かめようというとんでもない実験をすることになった。このあたり,先生の指導はほとんどいきとどいていない。結局食塩水の濃度計算だけ上達することになった。おたまじゃくしは結構の濃度まで耐えていたかもしれない。

さて,6年生になると学年のクラス数がこれまでの3組から4組に増えた。そこまで児童の数は増えていなかったはずなのだがどうしてだろう。5年2組の南毅先生(社会)から,6年4組の前多光子先生(理科)に担任は変わった。隣の6年3組には中薮先生(算数)が新しく着任した。どうやらかなり厳しく怖い先生だという噂がすぐに伝わってきた。

ある日,その中薮先生が新しく算数クラブを作ることになったというアナウンスがあった。思わずハイハイハイ,そのクラブに入りますと大きな声で訴えた。算数クラブには10人あまりのこどもたちが集まっただろうか。毎週一回のクラブの時間はとても刺激的で楽しかった。

ただ,覚えているのは,一筆書き三角数と四角数,図形の面積のパラドックスくらいだ。一筆書きでは,奇数点が0個か2個のときだけ可能だということを学んだ。三角数の規則性について説明があった後で,四角数はどうなるだろうかという設問に,わかったと思って挙手して答えたけれど,どうもうまくことばで説明することができなかった。中薮先生は,算数クラブではたいへんやさしく指導してくれた。


図:三角数と四角数(イミダスからの引用)

(注)大杉君は,中薮先生のクラスだったが,6年3組の算数の時間には,台形の対角線を結んでできた左右側の三角形の面積が等しいことを説明させるという授業が展開されていたことを教えてくれた。

2024年2月7日水曜日

Apple Vision Pro(2)

Apple Vision Pro(1)からの続き

2月2日にAppleのVision Proが発売になって,数日が経過した。アメリカ国内だけの限定発売であり,日本語にもまだ対応していないが,YouTubeでは日本人によるファーストインプレッションも沢山あがってきた。

最低の256GBモデルでも3499ドル(52万円),多少オプションを付ければ60万円のシステムなので,おいそれとは手が出ない(昔の為替レートなら30万円なのだけど)。その上現地までの航空費や宿泊費を含めると,仕事関係の人か,収益化につながるYouTuberかよほどのアップルフリークでないと参戦していない(米国の連絡先/配送先住所と米国のAppleIDが必要)。

なおかつ,アップル製品への関心が高くてテクノロジーに関する経験の深い人々による印象なので,割り引いておかないと本当のところはなかなかわからないかもしれない。それでも,その評判はなかなかよいものだった。

視野角は左右90度で上下も狭いが,外部カメラからとりこまれる環境映像が自然にパススルーされている。そこに非常に高精細なVision OSのUI画面が重ねられ,丁寧に個人向けに調整された視覚環境は申し分ないようだ。ユーザインタフェースも視線と指による(音声は英語がひつようなのであまりレビューされていない)もので,まったく違和感なしに使えている。自分が2008年8月に最初に手にしたiPhoneのタッチ画面を楽々と使いこなせたのと同じようだ。

手元にMacbookがあればその画面を表示できて,マウスコントロールやデータのやりとりがVision OS固有アプリとの間で簡単にできるところも素晴らしい。

外付けになるバッテリは妥協できそうだが,問題は,650gの重さのようだ。あと,人によっては眼がつかれるとのこと。ブラウザのYouTubeは問題なく視聴できるらしく,Apple のVisionOS ネイティブアプリもあって,iOSアプリも利用できるらしいからほとんど問題はなさそうだ。

ただ,空間コンピューティングを実現する新しいディスプレイとコンピュータだと考えた場合は,macOSのように,Xcode環境はターミナルが動いて,JuliaとMathematicaまで動かなければちょっとためらわれる。もしそれが可能になれば,いまのMacBook Airとディスプレイを完全におきかえるものとなる(スペック上はM1 MacBook Airを越えられる)。ただし,G5とGPSが使えなければ,モバイル端末としてのiPhone/iPadを代替するまでにはならない。



写真:店頭のApple Vision Pro (Wikipediaから引用)

[4]Apple Vision Pro - できること全て(大川優介)

2024年2月6日火曜日

中国の小学生の数学

中国の小学生が解いている数学の問題という触れ込みで次の面積を求める問いがあった。

図1:4分円と半円の交わる部分の面積を求める

小学生にも出来るはずだということで,いろいろ考えたけれど,どうしても解けない。いや,$ \tan^{-1} \alpha = 1/2, \tan^{-1}\beta = 2$によって,図の2つの角度さえ求めてよいならば,扇型AOEGの面積が $S_1=\alpha a^2$,扇型DOEGの面積が$S_2=\beta (a/2)^2$,そして四角形OAGDの面積が,$S_3=a^2/2$であることを用いて,求める面積は $S = S_1+S_2-S_3$となる。

あるいは,解析幾何学を使ってよいのならば,2つの円の式の交点からG$=(4a/5, 2a/5)$となり,面積は積分を使って,$S=\displaystyle \int_0^{4a/5} \Bigl( \sqrt{(a/2)^2-(x-a/2)^2}-a+\sqrt{a^2-x^2} \Bigr)\  dx$となる。

いずれにせよ,答えは,正方形OABCの一辺を$a=4$として,$S \approx 3.847$ である。
結局,中国の小学生はどうやってこの問題を解いているのだろうか


小学生のとき,似たような問題で長いこと未解決でクラスのみんなであれこれ議論したものがあった。それは図2右のようなもので,正方形の中の四つの四分円の交わる領域の面積を求めるものだ。図2左は授業でもよく出てくる問題であり,これならみんな解ける。

図2:小学校のときの未解決問題(右図)

あるとき,塾に通っていた友人たちが,塾の先生から答えを聞いてきて披露したことがあった。それはだめでしょう。せっかくみんなで自分たちで答えをだそうとがんばっていたのに。その解法には正三角形の面積を求める過程がふくまれていて平方根が登場する。小学生には無理な問題だったのだ。

いや,じつはそれほど無理でもない。小学校5,6年のときだろうか,学校で一番頭の良いことで有名だった大杉君というのが,平方根の筆算による計算法(開平法をどこかで学んできて,みんなに教えてくれたことがあった。なるほど,そういうことかと計算できるようになった友達は多い。たぶん,ピタゴラスの定理もどこかで聞きかじっていたかもしれないので,実はもう少しで解けるあたりまでの知識は蓄積していたはずなのだ。

2024年2月5日月曜日

三角分布と変数変換

一様分布と変数変換からの続き

2つの確率変数の三角分布があったとき,これを変数変換したときの確率分布を考える。

与える分布は,$p(x)=2x\ \theta(x) \theta(1-x),\ q(y) = 2y\ \theta(y) \theta(1-y)\ $とする。したがって,$0 \le x \le 1,\ 0 \le y \le 1 \ $を満足する。このとき,$\displaystyle \int_0^1 \int_0^1 p(x) q(y)\ dx dy =1$
これは,$\displaystyle \int_0^1 dx \int_0^x dy\ p(x) q(y) + \int_0^1 dx \int_x^1 dy\ p(x) q(y) =1$とも書ける。


(1)$\underline{X = x+y,\ Y = x-y \quad (0 \le X \le 2,\ -1 \le Y \le 1)\ }$の場合
このとき,$x = (X+Y)/2, \ y=(X-Y)/2, \ J(X,Y)=\frac{1}{2}\ $
$p(x) q(y) = 4 p q = (X+Y)(X-Y) = X^2-Y^2$

積分領域は, $-X \le Y \le 2-X$ かつ $X \le Y \le X-2$
$f(X,Y)\ $の期待値は,$\langle f \rangle = \int_0^1 dX \int_{-X}^{X} f(X,Y) \frac{X^2-Y^2}{2} dY + \int_1^2 dX \int_{X-2}^{2-X} f(X,Y)  \frac{X^2-Y^2}{2} dY$

(1-1) $\langle 1 \rangle =  \int_0^1 dX \Big\lbrack X^2 Y - \frac{Y^3}{3} \Big\rbrack_{0}^{X} + \int_1^2 dX \Big\lbrack X^2 Y - \frac{Y^3}{3} \Big\rbrack_{0}^{2-X} $
$\quad = \int_0^1 \frac{2}{3}X^3 dX + \int_1^2 \frac{2}{3}(2-X)(X^2+2X-2) dX $
$\quad =  \Big\lbrack  \frac{1}{6}X^4 \Big\rbrack_0^1 +\Big\lbrack  -\frac{X^4}{6} + 2X^2-\frac{8}{3}X \Big\rbrack_1^2 = 1$

(1-2) $\langle |Y| \rangle =  \int_0^1 dX \int_0^X (X^2Y-Y^3) dY + \int_1^2 dX \int_0^{2-X}(X^2Y-Y^3) dY$
$\quad = \int_0^1 \Bigl(\frac{X^4}{2}-\frac{X^4}{4} \Bigr) dX +  \int_1^2 \Bigl\{ \frac{X^2(2-X)^2}{2} - \frac{(2-X)^4}{4} \Bigr\} dX $
$\quad =  \Big\lbrack \frac{1}{20}X^5 \Big\rbrack_0^1 +   \Big\lbrack  \frac{1}{20}X^5 -\frac{4}{3}X^3 + 4X^2 -4X  \Big\rbrack_1^2 = \dfrac{4}{15} \ $


(2)$\underline{X = x+y,\ Y = xy \quad (0 \le X \le 2,\ 0 \le Y \le 1)\ }$の場合
このとき,$x = (X \pm \sqrt{X^2-4Y})/2, \ y=(X \mp \sqrt{X^2-4Y} )/2, \ J(X,Y)=\frac{1}{\sqrt{X^2-4Y}}$
$p(x) q(y) = 4 p q = (X \pm \sqrt{X^2-4Y})(X \mp \sqrt{X^2-4Y} ) = 4Y$

積分領域は, $0 \le Y$ かつ $X-1 \le Y \le X^2/4$
$f(X,Y)\ $の期待値は,$x>y$と$y>x$の場合をそれぞれ加えることで,
$\langle f \rangle = 2 \int_0^1 dX \int_0^{X^2/4} f(X,Y) \frac{4Y}{\sqrt{X^2-4Y}} dY + 2 \int_1^2 dX \int_{X-1}^{X^2/4} f(X,Y) \frac{4Y}{\sqrt{X^2-4Y}} dY$

(2-1) $\langle 1 \rangle = 2 \int_0^1 dX \int_0^{X^2/4} \frac{4Y}{\sqrt{X^2-4Y}} dY + 2 \int_1^2 dX \int_{X-1}^{X^2/4}  \frac{4Y}{\sqrt{X^2-4Y}} dY$
$\quad = 2 \int_0^1 dX \Big\lbrack -\frac{X^2+2Y}{3} \sqrt{X^2-4Y}  \Big\rbrack_0^{X^2/4} + 2 \int_1^2 dX  \Big\lbrack -\frac{X^2+2Y}{3} \sqrt{X^2-4Y} \Big\rbrack_{X-1}^{X^2/4}$
$\quad = \int_0^1 \frac{2 }{3}X^3 dX + \int_1^2 \frac{2}{3}(2-X)(x^2+2X-2) dX$
$\quad =  \Big\lbrack \frac{1}{6}X^4 \Big\rbrack_0^1 +  \Big\lbrack  -\frac{1}{6}X^4+ 2 X^2-\frac{8}{3}X  \Big\rbrack_1^2= 1$

(2-2) $\langle \sqrt{X^2-4Y} \rangle = 2 \int_0^1 dX \int_0^{X^2/4}  4Y dY + 2 \int_1^2 dX \int_{X-1}^{X^2/4} 4Y dY$
$\quad = 2 \int_0^1 dX \Big\lbrack 2Y^2 \Big\rbrack_0^{X^2/4} + 2 \int_1^2 dX  \Big\lbrack 2Y^2 \Big\rbrack_{X-1}^{X^2/4}$
$\quad = \int_0^1 \frac{1}{4}X^4 dX + \int_1^2 \Bigl\{ \frac{1}{4}X^4-4(X-1)^2 \Bigr\} dX  $
$\quad = \Big\lbrack \frac{1}{20}X^5 \Big\rbrack_0^2 +  \Big\lbrack -\frac{4}{3}(X-1)^3  \Big\rbrack_1^2 = \dfrac{4}{15}$ 

2024年2月4日日曜日

一様分布と変数変換

確率変数の積からの続き

2つの確率変数の一様分布があったとき,これを変数変換したときの確率分布を考える。

与える分布は,$p(x)=\theta(x) \theta(1-x),\ q(y) = \theta(y) \theta(1-y)\ $とする。したがって,$0 \le x \le 1,\ 0 \le y \le 1 \ $を満足する。このとき,$\displaystyle \int_0^1 \int_0^1 p(x) q(y)\ dx dy =1$
これは,$\displaystyle \int_0^1 dx \int_0^x dy\ p(x) q(y) + \int_0^1 dx \int_x^1 dy\ p(x) q(y) =1$とも書ける。


(1)$\underline{X = x+y,\ Y = x-y \quad (0 \le X \le 2,\ -1 \le Y \le 1)\ }$の場合
このとき,$x = (X+Y)/2, \ y=(X-Y)/2, \ J(X,Y)=\frac{1}{2}\ $

積分領域は, $-X \le Y \le 2-X$ かつ $X \le Y \le X-2$
$f(X,Y)\ $の期待値は,$\langle f \rangle = \int_0^1 dX \int_{-X}^{X} f(X,Y) J(X,Y) dY + \int_1^2 dX \int_{X-2}^{2-X} f(X,Y) J(X,Y) dY$

(1-1) $\langle 1 \rangle =  \int_0^1 dX \Big\lbrack \frac{Y}{2}\Big\rbrack_{-X}^{X} + \int_1^2 dX \Big\lbrack \frac{Y}{2}\Big\rbrack_{X-2}^{2-X} = \int_0^1 X dX + \int_1^2 (2-X) dX = 1$

(1-2) $\langle |Y| \rangle =  \int_0^1 dX \Big\lbrack \frac{Y^2}{2} \Big\rbrack_0^{X} + \int_1^2 dX \Big\lbrack \frac{Y^2}{2} \Big\rbrack_0^{2-X} = \int_0^1 \frac{X^2}{2}dX +  \int_1^2 \frac{(2-X)^2}{2} dX $
$\quad =  \Big\lbrack \frac{X^3}{6} \Big\rbrack_0^1 +   \Big\lbrack \frac{(X-2)^3}{6} \Big\rbrack_1^2 = \dfrac{1}{3} \ $


(2)$\underline{X = x+y,\ Y = xy \quad (0 \le X \le 2,\ 0 \le Y \le 1)\ }$の場合
このとき,$x = (X \pm \sqrt{X^2-4Y})/2, \ y=(X \mp \sqrt{X^2-4Y} )/2, \ J(X,Y)=\frac{1}{\sqrt{X^2-4Y}}$

積分領域は, $0 \le Y$ かつ $X-1 \le Y \le X^2/4$
$f(X,Y)\ $の期待値は,$x>y$と$y>x$の場合をそれぞれ加えることで,
$\langle f \rangle = 2 \int_0^1 dX \int_0^{X^2/4} f(X,Y) J(X,Y) dY + 2 \int_1^2 dX \int_{X-1}^{X^2/4} f(X,Y) J(X,Y) dY$

(2-1) $\langle 1 \rangle = 2 \int_0^1 dX \int_0^{X^2/4} \frac{1}{\sqrt{X^2-4Y}} dY + 2 \int_1^2 dX \int_{X-1}^{X^2/4}  \frac{1}{\sqrt{X^2-4Y}} dY$
$\quad = 2 \int_0^1 dX \Big\lbrack -\frac{1}{2} \sqrt{X^2-4Y}  \Big\rbrack_0^{X^2/4} + 2 \int_1^2 dX  \Big\lbrack -\frac{1}{2} \sqrt{X^2-4Y} \Big\rbrack_{X-1}^{X^2/4}$
$\quad = \int_0^1 X dX + \int_1^2 (X-1) dX  = 1$

(2-2) $\langle \sqrt{X^2-4Y} \rangle = 2 \int_0^1 dX \int_0^{X^2/4}  dY + 2 \int_1^2 dX \int_{X-1}^{X^2/4}  dY$
$\quad = 2 \int_0^1 dX \Big\lbrack Y \Big\rbrack_0^{X^2/4} + 2 \int_1^2 dX  \Big\lbrack Y \Big\rbrack_{X-1}^{X^2/4}$
$\quad = \int_0^1 \frac{X^2}{2} dX + \int_1^2 (\frac{X^2}{2}-2X + 2) dX  = \Big\lbrack \frac{X^3}{6} \Big\rbrack_0^2 +  \Big\lbrack -X^2 + 2X \Big\rbrack_1^2 = \dfrac{1}{3}$ 

2024年2月3日土曜日

円の長さ

正方形の長さからの続き

ある図形の大きさの指標となる長さを,図形内に一様分布する2点の距離の期待値として定義することで,都道府県の形や大きさを,面積や周長だけでなく"長さ"で特徴づけるという話をしている。

練習として,正方形内のランダムな2点の距離の期待値$\ d \ $を計算できることを確認した。次にトライするのが円であるが,ネットで検索しても生成AIにきいてもあまり適切な解答が得られない。一番近いのが,Yahoo知恵袋の「半径1の円内の任意の2点間の距離の期待値は?」だ。これも結局解析的な答えがでなくて,数値計算で $\ d=0.9054\ $という値を出している。

$d = \int_0^{2\pi} (\frac{1}{2\pi}) d\theta_1 \int_0^{2\pi} ( \frac{1}{2\pi}) d\theta_2 \int_0^1 (2 r_1) dr_1 \int_0^1 (2 r_2) dr_2 \sqrt{r_1^2+r_2^2-2r_1 r_2 \cos(\theta_1-\theta_2) }$
ただし,各積分の()内がそれぞれの変数に対応する確率密度関数,$p(\theta_1)$,$ p(\theta_2)$,$q(r_1)$, $q(r_2)\ $であり,それぞれの変数で積分すると1になるように規格化されている。

これを計算するためには,与えられた4変数の確率分布関数から変数変換によって,積分可能な形に持ち込む必要があるが,なかなか難渋する。しかたがないので,とりあえずJuliaとMathematicaで数値計算してみる。
a=zeros(Float64,1000001,2)

function ju(a,n)
  k = 0
  for i in 1:n
      x = 2*rand()-1
      y = 2*rand()-1
      if x^2+y^2 < 1.0
        k = k + 1
        a[k,1] = x
        a[k,2] = y
      end
  end 
  return k
end

function su(a,n)
  m = div(n,4)*3
  sum = 0
  for i = 1:m
    for j = i:m
      sum = sum + sqrt((a[i,1]-a[j,1])^2+(a[i,2]-a[j,2])^2)
    end
  end
  return sum/binomial(m,2)
end

n=300000

@time su(a,n)
235821
24.223278 seconds (7.18 k allocations: 500.875 KiB, 0.07% compilation time)
0.9055523

生成AIの2つが答えた,$\dfrac{4}{\pi}=1.27324$はたぶん誤っていたということだろう。

解析的に計算できないかと思うのだが,角度積分が完全楕円積分の形になるので,これをさらに積分するのはちょっと難しそうだった。角度積分を後回しにしてもさらに面倒か。Mathematicaに投げてみたが,忍耐可能時間内には答えが出なかった。

2024年2月2日金曜日

確率変数の積

将来必要になりそうな,確率変数の積の確率分布関数を求める。

2つの確率変数$X$と$Y$が確率密度分布関数$p(x),\ q(y)$に対応している。このとき,確率変数$Z=X*Y$はどのような確率分布をするか,再び,緑川章一さんのノートで勉強する。

確率変数 $Z=X*Y$の確率分布関数を $r(z)$とすると,$r(z) = \int_0^1  \int_0^1  p(x) q(y) \delta(z- x*y) \ dx\ dy =  \int_{0}^{1} \dfrac{1}{|y|} p(z/y) q(y) \ dy $となる。ここでデルタ関数の性質,$\delta(a x) = \delta(x)/|a|$を用いた。この$\ z \ $の範囲は,$ 0 < z < \infty$ である

(1)$X$と$Y$が,それぞれ一様分布,$p(x)  =  1 \ (0 \le x \le 1)$ ,$q(y)  =  1 \ (0 \le y \le 1)$を満足している場合。ここで,$0< z/y<1\ $より,$z<y<1$である。したがって,

$r(z) = \int_z^1 \frac{1}{y} 1*1 \ dy= -\log z$

(2)$X$と$Y$が,それぞれ三角分布,$p(x) = 2x \ (0 \le x \le 1)$,$q(y) = 2y \ (0 \le y \le 1)$をしている場合(単位円内の点の一様分布の動径変数)。

$r(z) = \int_z^1 \dfrac{1}{y} \dfrac{2z}{y} (2y)\ dy = \int_z^1 \dfrac{4z}{y} \ dy = - 4z \log z$

うーん,あんまりうれしくないかもしれない。後々$\log$の計算が残るので。

2024年2月1日木曜日

曖昧な弱者

1月30日の日経朝刊の経済教室の伊藤昌亮(1961-)の記事が目を引いた。

「弱さ」を競い合う社会 「曖昧な弱者」存在認識をという表題である。



図:今日の左右対立の構造(伊藤昌亮 日本経済新聞から引用して改変)

日本経済新聞に掲載された伊藤の図を引用するが,自分の理解を深めるために若干修正している。一番気になっているのは,マスメディアは政治経済エリート側に包摂されてしまっているのではないかということ,リベラル・保守,左派・右派の従来の定義とスコープが機能しているのかということであり,それぞれ?を付けている。

オカケンさん[1]の助けを借りて,伊藤昌亮の論説を解読すると次のようになる。

左派やリベラル派にとって明白な弱者とは,搾取された労働者や貧困化の女性・若者であり,アイデンティティポリティックスの対象とされる,在日外国人,被差別部落,沖縄・アイヌ,障害者,LGBTQなどである。文化エリートはこれらとの連帯を強く主張する。

一方で,OECD諸国の中でも著しく「小さい」日本政府(OECD諸国最低レベルの社会福祉費と教育費)は,その福祉・教育機能を,企業や家庭に投げてきたが,グローバリズムの嵐の中でそのシステムは崩壊し,いわゆる中流階級は消滅して,激しい二極分化が生じた。

この結果,大量に生じているのが,従来の明白な弱者カテゴリーでは十分にすくい上げられない,曖昧な弱者である。社会的にはっきりと認知・共感されない彼らは,そのフラストレーションを,「あいつらだけ認知されるのはずるい(在日特権言説,生活保護・高齢者バッシング)」と明白な弱者に対して牙をむく。

それは,アメリカのトランプ現象やヨーロッパの移民排斥右翼の台頭とまさに軌を一にする動きになっている。こうして,ネットワーク上には,政治的な意図を持ってDAPPIなどが着火すれば容易に燃え上がるネトウヨ的な素地が醸成されてきたのだ。

ただ,これらに保守・右派というレッテルを貼ってよいかどうかは疑問だ。たしかに,リベラル勢力に対抗するためだけに,宗教右派は明白な弱者たたきを繰り返しているが,日本維新の会に代表されるようなネオリベラリズムは保守とはいえない。むしろ,既存秩序を崩壊させる中で,新しい権益を掠め取ろうという作戦に立っているので話は複雑だ。



2024年1月31日水曜日

三体

昨年12月に録画してあったWOWOWのテレビSFドラマ「三体」(全30話)をようやく視聴した。霊河影視制作(上海)有限公司の作品だ。

原作の三体(第一部)の著者は劉慈欽(1963-)であり,2015年にアジア作家の作品で初めてヒューゴー賞(1953-)の長編小説部門に輝いた。第三部まで出版翻訳されていて,読みたい本リストのトップレベルに置いてある。

最初の10回の前半は,それほどでもなかったけれど,三体のVRゲームのイメージや文化大革命後の紅岸基地のあたりから急に面白くなる。ドラマ三体は,中国の配信プラットホームであるテンセントの作品なのだが,開放改革以前の中華人民共和国の様子をあれくらい描写していてもOKなのか。紅岸基地での物理学的な謎解きやサスペンスの部分がよかった。SFXも素晴らしい。今の日本だとせいぜいがゴジラであって,これほどの骨太の作品はちょっと無理だ。

Netflix版の三体(三部作を予定か)も近々公開されるはずだけれど,どんなものなのだろうか。予告編を見たが,これはこれでいいけれど,やはりいつものアメリカナイズされすぎた映像と世界観が少し鼻につく。中国版の方が主人公もいいし新鮮な感じがする。




2024年1月30日火曜日

Apple ID

朝起きていつものようにMacbook Airを立ち上げると,何だかエラーが出ている。

iCloudにアクセスできないとかなんとか。パスワードを入力してもその先に進めない。パスワードの変更もできない。困った。とても困った。Appleのサポートページには,「iCloud に接続またはサインインできない場合」には丁寧な説明がある。が,そこからIDを入れて,CAPTCHAを通ったのに,そこではねられてしまう。どうやらApple IDがロックされていることに気がついた。

思い当たる節がある。いよいよ非常勤講師も最後なので,金曜日に大学のMacbookAirの掃除をしていた。iCloudにログインしたままだったので,ログアウトしようとした。OSが古くてきびきび動かないのでパスワードも何度か間違えてしまう。授業が始まりそうになったので,途中で作業を中断したまま放置してきた。どうもこれがあやしい。

仕方がないので,大学でもう一度状況を確認してから,心斎橋のアップルストアに行こうと考えた。大学のMacbookAirの方は再起動して簡単にiCloudからログアウトできた。もちろんこれだけでは,AppleIDのロックは解除されない。このため,自分のMacBook Air 2000だけでなく,iPhoneもiPadも,メールは届かないし,アップルストアの予約も出来ないし,ICOCAのチャージも出来ない

心斎橋アップルストアの予約のために電話をしてみた。これまた繋がるまでに15分以上待たされた。忍耐力あるもの達だけが通過できるシステムだ。最初に,アンケート協力用の電話番号を入れさせられ,さらに待ち時間用音楽のジャンルを選択するのだが,そんなサービスはいいからとにかく速く対応してほしい。

結局,心斎橋まで行くことはなくて電話だけでロック解除してもらえた。ただし作業は24時間以内なのでしばらく待たなければならない。月にいるSLIMの電源が復活しているかどうかは,地球から電波を送ってそのレスポンスを見る必要があるのだが,気分はこれと同じだ。30分,1時間,3時間では復活していなかったが,6時間でようやくApple IDが復活してほっとした。めでたし,めでたし。

写真:ようやくここまでたどり着いて原因がわかった地点。

2024年1月29日月曜日

SLIM(2)

SLIM(1)からの続き

SLIMは高度5mあたりで,当初予定(高度1.8m)されたように,LEV-1LEV-2(SORA-Q)という無人探査ロボットシステムを放出した。

LEV-1(2.1kg,26 × 40 × 60 cm)は,2.4m/sで月面に落ちる予定だったが,もし5mからの自由落下ならば,鉛直方向の速度は4m/sになる。自律的に跳躍移動しながら方位制御して地球との直接通信を確立する。

LEV-2(0.25kg,直径8cmの球状から変形可)は,月面のレゴリス上を移動して動作ログを保存し,着陸機SLIMの周辺を撮影して,画像データと動作ログをLEV-1経由で地球に送信する。その結果がSLIM(1)で示した画像である。途中にブロックノイズが入っていることや,解像度はもっと出ているのだが,通信上の制約で落として送信したらしい。

LEV-2別名SORA-Qは,タカラトミーとの共同開発である。この月面に行ったSORA-Qと同じサイズ,同じ変形機能,同じ走行機能・撮影カメラを持った 1/1スケールモデルを2万7千円で販売している。わぉ!思わず注文してしまいそうになる。


写真:SORA-Q実寸モデル(タカラトミーから引用)

2024年1月28日日曜日

SLIM(1)

SLIMは,JAXAの小型月着陸実証機だ。月周回衛星かぐやのデータと照らし合わせながら,月面の目的地にピンポイントで着陸し,無人小型ロボットシステムで月を探査しようというものだ。

2023年9月7日に種子島宇宙センターからH-IIAロケットで打ち上げられ,12月25日には近月点600km,遠月点2000kmの月周回軌道に投入された。1月20日に高度15kmから降下を開始し,世界で5番目の月着陸に成功した。太陽電池からの電源供給ができていないというニュースを聞いたとき,あーこれはちょっと残念かと思った。

1月25日にJAXAによる記者会見が行われた。そこで紹介されていた写真が次のものだ。


写真:LEV-2が撮影したSLIM本体が転倒している様子(JAXAから引用)

SLIMは航法カメラで月面を撮影しながら,自律的な航法誘導制御を行っている。50m上空に至ったところで,障害物を避けるモードに移行する。目標地点は,経度25.2°,緯度-13.3°の2つのクレーターの境界上の斜面である。

月面上50mまでは予定通り順調に飛行していて,この段階でのピンポイント着陸精度は3-4m程度と考えられる。従来の数キロメートルに比べて1/1000の精度である。ところが,2基搭載している500Nのメインエンジ


の1基が脱落して,推力が半分になってしまった。それでも,最終的に秒速1.4mと想定範囲よりゆっくり着陸することになる。

この異常により,横方向の速度が発生してしまい,結果的に55m東にズレた点に接地する。このため,2段階の受け身型の着陸条件を満足できずに機体はそのまま斜面に着陸した。この結果,メインエンジが上向きの転倒状態で静止した。太陽電池は正常な上向きではなく西向きになり,太陽光が当たらないため電源供給ができなくなった。


月の一日は約30日であり,今月の上弦が1月18日,満月が1月26日,下弦は2月3日である。着陸したのは1月20日で経度20°(1.5日相当)だから,下図において地球と緑の線で結ぶ位置の月面上に着地している。これは,月の一日でいえば午前9時に相当する。1月24日ごろにSLIM着地点は正午を迎え,2月1日には日没となる。月面上のSLIMに西日が差して,太陽電池が復活する可能性があるのは,2月1日までということか。



図:SLIMと太陽の位置関係(実際には経度20°の緑線まで回転)

追伸:1月29日に,ようやく西日で電源が復活したようだ。新しい画像も撮影している。

2024年1月27日土曜日

月の一日

2024年1月26日,今日は満月だ。非常勤の授業が終って平端の駅の1番ホームへ向かう午後3時半すぎ,乗客のかたまりがどんどんホームから階段を下りてきて引きも切らない。そうか,今日は天理教の春季大祭の日だった。夜は冷え込んでいるけれど空は曇っていて月は見えない。

SLIMの記事を書くためには,月の一日について調べておかなければならない。

(1)月の公転周期
ケプラーの第三法則というのか,ニュートンの運動方程式を解けば,公転周期は$T=\dfrac{2\pi}{\sqrt{GM}} a ^{3/2}$である。$G$は万有引力定数,$M$は地球の質量,$a$は月の軌道の長半径である。$\sqrt{GM}=g R$であり,重力加速度$\ g=9.82 {\rm m/s}^2$,地球半径$\ R= 6.37 \times 10^6 {\rm m}$を使えばよい。$a\ $の値は遠地点と近地点の平均値であり,$a=3.83\times 10^8 {\rm m}$。これらから,$T=27.3$日となる。

(2)月の一日の長さ
潮汐作用の結果,月の自転周期と公転周期$\ T\ $は一致し,地球から見える月は常に同じ面になる。月の周期の間に地球が太陽の回りを公転するため,月の一日,例えば日の出から次の日の出のまでの時間$\ t\ $は$\ T\ $ではなく,それよりも長くなる。地球の公転角速度を$\ \Omega$,月の公転角速度を$ \omega$ とすると,$\Omega t = \omega (t -T) $が成り立つ。これから $t=T/(1-\Omega/\omega) = 27.3/(1-27.3/365) = 29.5 $日が得られる。これを朔望月という。



図:月の一日(朔望月)

2024年1月26日金曜日

正方形の長さ

都道府県の長さからの続き

正方形の領域$\ (x, y), \ 0 \le x \le 1$,$0 \le y \le 1\ $を考えて,この中の2点を$\ (x_1,y_1),\ (x_2, y_2)\ $とする。これらの座標が$\ p_0(z)=1\ (0 \le z \le 1),\  =0\ (z <0,\  1 < z)\ $で一様分布している。

このとき,確率変数の和と差の説明により,$x=x_1-x_2\ $と$\ y=y_1-y_2\ $は,$p(z)=1+z\ (-1 \le z \le 0),\  =1-z\ (0 \le z \le 1)\ $という確率分布になる。また,$X=(x_1+x_2)/2\ $と$Y=(y_1+y_2)/2\ $の確率分布は,$q(z)=z\ (0 \le z \le 1),\  =2-z\ (1 \le z \le 2)\ $となる。

そこで,2点の期待値は,$d=\int \int \int \int \sqrt{(x_1-x_2)^2+(y_1-y_2)^2} \ p_0(x_1) p_0(x_2) p_0(y_1) p_0(y_2) \ dx_1 dx_2 dy_1 dy_2 $
$\quad = \int \int \int \int \sqrt{x^2+y^2}\  p(x) p(y) q(X) q(Y) \ dx dy dX dY$
$\quad = \int \int \sqrt{x^2+y^2} \ p(x) p(y) \ dx dy = 4 \int_0^1 \int_0^1 (1-x)(1-y) \sqrt{x^2+y^2} \ dx dy$

ここで,$y = x \sinh z \ $と変数変換して,$y\ $の積分すなわち$z\ $での積分を先に行う。このとき,$y: 0\rightarrow 1\ $より,$z:0 \rightarrow \sinh^{-1}(1/x) = z_x\ $ $\bigl( \cosh z_x = \sqrt{1 + (1/x)^2} \ \bigr)$ であり,$\sqrt{x^2+y^2}= x \cosh x\ $と$\ dy = x\ \cosh z\ dz\ $が成り立つ。

$f(x) = \int_0^1 (1-y) \sqrt{x^2+y^2} dy = \int_0^{z_x} (1 - x \sinh z ) \cdot x \cosh z \cdot x \cosh z\  dz$
$\displaystyle \quad = \frac{x^2}{2} \int_0^{z_x} (1 + \cosh 2z )\ dz -\frac{x^3}{3} \Bigl[ \cosh^3 z \Bigr]_0^{z_x}$
$\displaystyle \quad =  \frac{x^2}{2}  \Bigl( \sinh^{-1}(1/x) + \sinh z_x \cosh z_x \Bigr) -\frac{x^3}{3} \Bigl( \cosh^3 z _x -1 \Bigr)$
$\displaystyle \quad = \frac{x^2}{2} \sinh^{-1}(1/x) + \frac{1}{2} \sqrt{1+x^2} +\frac{1}{3} x^3 - \frac{1}{3} (1+x^2)^{3/2}$

次に,これに$(1-x)$をかけて,$x$で積分してから4倍すれば$d$が求まる。
$\displaystyle d= 4\int_0^1 (1-x) \Bigl\{ \frac{x^2}{2} \sinh^{-1}(1/x) + \frac{1}{2} \sqrt{1+x^2} +\frac{1}{3} x^3 - \frac{1}{3} (1+x^2)^{3/2} \Bigr\} dx$

$g_1(x)=4 \int (1-x) \frac{x^2}{2} \sinh^{-1}(1/x) \ dx $
$\quad = \frac{1}{6}(2+2x-x^2)\sqrt{1+x^2} +\frac{1}{6}(-2+4x^4-3x^4)\sinh^{-1}x$
$g_2(x)=4 \int (1-x) \frac{1}{2} \sqrt{1+x^2} \ dx = -\frac{1}{3} (2-3x+2x^2) \sqrt{1+x^2} + \sinh^{-1}x$
$g_3(x)=4 \int (1-x) \frac{1}{3} x^3 \ dx = \frac{1}{3} x^4 -\frac{4}{15}x^5$
$g_4(x)=4 \int (1-x) \frac{-1}{3} (1+x^2)\ ^{3/2} \ dx $
$\quad = \frac{1}{30} (8-25x+16x^2-10x^3+8x^4) \sqrt{1+x^2} -\frac{1}{2} \sinh^{-1}x$

$\therefore g(x) = g_1(x)+g_2(x)+g_3(x)+g_4(x) = \frac{1}{15}(5 x^4 -4x^5) +$
$\quad  \frac{1}{30}(8x^4-10x^3-9x^2+15x-2)\sqrt{1+x^2} +\frac{1}{6}(-3x^4+4x^3+1)\sinh^{-1}x$

これから,$d=g(1)-g(0)=\frac{1}{15}\Bigl\{2+\sqrt{2}+5 \log(1+\sqrt{2}) \Bigr\}= 0.521405\ $が得られた。


2024年1月25日木曜日

確率変数の和と差

都道府県の長さからの続き

2つの確率変数$X$と$Y$がある。それぞれはある確率密度分布関数$p(x),\ q(y)$に対応している。このとき,確率変数$X \pm Y$はどのような確率分布をするかという問題を考えたい。

これについては,緑川章一さんのノートが参考になった。やはり専門の近い物理屋さんが書いたものは読みやくて助かる。これをまとめてみる。

$X$と$Y$が,それぞれ一様分布,$p(x)  =  1 \ (0 \le x \le 1)$ ,$q(y)  =  1 \ (0 \le y \le 1)$をしている。このとき,確率変数$Z$を $Z=X \pm Y$として,その確率分布関数の $r_{\pm}(z)$を求める。これは,$r_{\pm}(z) = \int  \int  p(x) q(y ) \delta(z-(x \pm y)) \ dx\ dy =  \int_{0}^{1} p(z \mp y) q(y) \ dy $となる。
なお,この$\ z \ $の範囲は,$r_{+}(z) \rightarrow 0 < z < 2$,$r_{-} \rightarrow -1 < z < 1 $ である

$\therefore \ r_{+}(z) \ \rightarrow \ ( 0 \le y \le 1 \ \&\& \  z-1 \le y \le z )$,つまり,
$r_{+}(z) = z\ (0 < z < 1),r_{+}(z) = 2-z \ (1 < z < 2)$
$\therefore \ r_{-}(z) \ \rightarrow \ ( 0 \le y \le 1 \ \&\& \  -z \le y \le 1-z )$,つまり,
$r_{-}(z) = 1+z \ (-1< z <0),r_{-}(z) = 1-z \ (0 < z < 1)$

図:確率分布関数の範囲

2024年1月24日水曜日

積分漸化式

積分(3)からの続き

三角関数の積分の漸化式が教科書に載っていたことをいまごろ思い出した。これならば双曲線関数にも簡単にあてはめられるはずだ。

$I_n = \int \sin^n x \ dx =  (-\cos x) \sin^{n-1} x - \int  (-\cos x) (n-1) \sin^{n-2} x \cos x\ dx$
$\quad = (-\cos x) \sin^{n-1} x + (n-1) \int (1-\sin^2 x) \sin^{n-2} x \ dx$
$\quad = (-\cos x) \sin^{n-1} x + (n-1) (I_{n-2} - I_n )$
$\therefore I_n = -\frac{1}{n} \cos x \sin^{n-1} x + \frac{n-1}{n} I_{n-2} \quad (n \ge 2) $

$I_n = \int \cos^n x \ dx =  (\sin x) \cos^{n-1} x - \int  (\sin x) (n-1) \cos^{n-2} x (-\sin x) \ dx$
$\quad = (\sin x) \cos^{n-1} x + (n-1) \int (1-\cos^2 x) \cos^{n-2} x \ dx$
$\quad = (\sin x) \cos^{n-1} x + (n-1) (I_{n-2} - I_n )$
$\therefore I_n = \frac{1}{n} \sin x \cos^{n-1} x + \frac{n-1}{n} I_{n-2} \quad (n \ge 2) $

$I_n = \int \tan^n x \ dx =   \int  (\frac{1}{\cos^2 x} -1) \tan^{n-2} x \ dx$
$\quad = \int (\tan x)' \tan^{n-2} x\ dx -  \int \tan^{n-2} x \ dx$
$\therefore I_n = \frac{1}{n-1}\tan^{n-1} x - I_{n-2}  \quad (n \ge 2) $

$I_n = \int \sinh^n x \ dx =  (\cosh x) \sinh^{n-1} x - \int  (\cosh x) (n-1) \sinh^{n-2} x \cosh x\ dx$
$\quad = \cosh x\ \sinh^{n-1} x - (n-1) \int (1+\sinh^2 x) \sinh^{n-2} x \ dx$
$\quad = \cosh x\ \sinh^{n-1} x - (n-1) (I_{n-2} + I_n )$
$\therefore I_n = \frac{1}{n} \cosh x\ \sinh^{n-1} x - \frac{n-1}{n} I_{n-2} \quad (n \ge 2) $

$I_n = \int \cosh^n x \ dx =  (\sinh x) \cosh^{n-1} x - \int  (\sinh x) (n-1) \cosh^{n-2} x \sinh x \ dx$
$\quad = \sinh x \cosh^{n-1} x - (n-1) \int (\cosh^2 x -1) \cosh^{n-2} x \ dx$
$\quad = \sinh x \cosh^{n-1} x + (n-1) (I_{n-2} - I_n )$
$\therefore I_n = \frac{1}{n} \sinh x \cosh^{n-1} x + \frac{n-1}{n} I_{n-2} \quad (n \ge 2) $

$I_n = \int \tanh^n x \ dx =   \int  (1-\frac{1}{\cosh^2 x} ) \tanh^{n-2} x \ dx$
$\quad = -\int (\tanh x)' \tanh^{n-2} x\ dx + \int \tanh^{n-2} x \ dx$
$\therefore I_n = -\frac{1}{n-1}\tanh^{n-1} x + I_{n-2}  \quad (n \ge 2) $

2024年1月23日火曜日

藤岡作太郎

就寝中にトイレに行きたくなるとき,眠りが浅くなって夢を見る。いや,半分覚醒してまどろんでいる状態なので夢ではないのかもしれない。こうした夢と覚醒がシュレーディンガーの猫のようになって区別しにくい時間がしばしば訪れる。

昨晩のその時間は,「鈴木大拙」についての説明を誰かに一生懸命しようとしていた。ただ,名前が思い出せないのである。えーっと,金沢出身で,西田幾多郎と友達で,いるでしょう,禅の研究で(善の研究ではない)海外に名を馳せた,誰だったか,ほらあの(静かな水面のある落ち着いた記念館のイメージを想起しつつ),えーっと,三太郎とよばれていたから,本名は○太郎のはずだけれど,それではわからないし・・・

そうこうしているうちに目が覚めてトイレに行ったが名前の記憶はオフのまま。再び布団に潜ってもまだ思い出せない。そのまま眠りに入ると,明け方近くの夢の中でようやく思い出すことができた。あ,鈴木大拙だ!朝起きても思い出した量子状態は崩壊することなく維持されていた。


三太郎というのは誰だったろうかと,Wikipediaで鈴木大拙=貞太郎(1870-1966)を調べてみると「同郷の西田幾多郎(1870-1945)、藤岡作太郎(1870-1910)とは石川県専門学校( 1881- 第四高等中学校 1887-)以来の友人であり、鈴木、西田、藤岡の三人は加賀の三太郎と称された」とあった。

藤岡作太郎はどんな人かとさらに調べると,日本で最初の文学博士,国文学(国文学全史平安朝篇)の人だった。その長男が物理学者で物理教育学会の会長も務めた藤岡由夫(1903-1976),孫がレーザ工学の藤岡知夫(1935-2022),ひ孫がテレビでおなじみの指揮者の藤岡幸夫(1962-)だった。

藤岡作太郎の長女の綾が,長男の藤岡由夫の友人の中谷宇吉郎(1900-1962)と結婚しているが若くして亡くなっている。孫の藤岡知夫の妻は原子物理学の菊池正士(1902-1974)の長女であり,これをたどると箕作家(みつくりけ)を通じて初代阪大総長の長岡半太郎(1865-1950)までつながる。なお,長岡半太郎と本多光太郎(1870-1954)と鈴木梅太郎(1874-1943)は理研の三太郎だ。

2024年1月22日月曜日

積分(3)

都道府県の長さからの続き

次の積分 $I_n=\int x^n \sqrt{x^2 + y^2} \ dx $  が必要なのであった。
そこで,$x=y\ \sinh z$と変数変換して,$dx = y \cosh z\ dz $と$\sqrt{x^2+y^2} = y \cosh z$
から,$I_n = y^{n+2} \int \sinh^n z\ \cosh^2 z\ dz$となる。後で必要になるものとして,$J_n = \int \sinh^n z \ dz $を定義しておく。

$I_0 = y^2 \int \cosh^2 z\  dz = \frac{1}{2} y^2  \int (1 + \cosh 2z) \ dz $
$=  \frac{1}{2} y^2 (z + \frac{1}{2} \sinh 2 z) =  \frac{1}{2} y^2  \sinh^{-1}(x/y) + \frac{1}{2}x \sqrt{x^2+y^2} $

$I_1 = y^3 \int  \sinh z\ \cosh^2 z\ dz =  y^3 \int t^2 dt = \frac{1}{3}\bigl( \sqrt{x^2+y^2}\bigr)^3$

$I_2 = y^4 \int \sinh^2 z\ \cosh^2 z \ dz = y^4 \int (\sinh^2 z + \sinh^4 z )\ dz = y^4 (J_2 + J_4)$

$I_3 = y^5 \int \sinh^3 z\ \cosh^2 z\ dz = y^5 \int (\sinh^3 z + \sinh^5 z )\ dz = y^5 (J_3 + J_5)$

などとなる。

$J_2 = \int \sinh^2 z \ dz = \frac{1}{2} \int (\cosh 2z -1) \ dz =  \frac{1}{4} \sinh 2z - \frac{1}{2} z$

$J_3 = \int \sinh^3 z \ dz = \int (\cosh^2 z -1) \sinh z \ dz = \frac{1}{3} \cosh^3 z - \cosh z$

$J_4 =  \int \sinh^4 z \ dz = \frac{1}{4} \int (\cosh 2z -1)^2 \ dz = \int \bigl( \frac{3}{8}-\frac{1}{2}\cosh 2z + \frac{1}{2} \cosh 4z  \bigr) \ dz$
$\quad = \frac{1}{8} \sinh 4z -\frac{1}{4} \sinh 2 z + \frac{3}{8}z $

結局$J_n$がシステマティックに計算できればよいということか。続く。

2024年1月21日日曜日

双曲線関数

都道府県の長さからの続き

一様分布の確率密度関数で正方形の内部のランダムな2点の平均距離を求める際に,面倒な積分が必要になる。このとき双曲線関数への変数変換を行うのだが,久しぶりに使うと勘が鈍っていてなかなか計算が進まない。ので,復習する。

$\sinh x = \dfrac{e^x - e^{-x}}{2},\ \  \cosh x = \dfrac{e^x + e^{-x}}{2},\ \  \tanh x = \dfrac{\sinh x}{\cosh x} = \dfrac{e^x - e^{-x}}{e^x + e^{-x}}$
$\cosh^2 x - \sinh^2 x = 1, \ \ \tanh^2 x = 1 - \dfrac{1}{\cosh^2 x},\ \ \dfrac{1}{\tanh^2 x} = 1 +  \dfrac{1}{\sinh^2 x}$
$\frac{d}{dx}\sinh x = \cosh x,\ \ \frac{d}{dx}\cosh x = \sinh x, \ \  \frac{d}{dx} \tanh x = \dfrac{1}{\cosh^2 x}$
$\int \sinh x \ dx= \cosh x,\ \ \int \cosh x \ dx = \sinh x, \ \  \int \tanh x\ dx = \log( \cosh x)$


$\sinh ( x \pm y )= \sinh x \cosh y \pm \cosh x \sinh y$
$\cosh ( x \pm y )= \cosh x \cosh y \pm \sinh x \sinh y$
$\tanh ( x \pm y )= \dfrac{\tanh x \pm \tanh y}{1 \pm \tanh x \tanh y}$

$\sinh 2x  = 2 \sinh x \cosh x = 2 \sinh x \sqrt{1 + \sinh^2 x}$
$\cosh 2x = 2 \cosh^2 x - 1 = 2 \sinh^2 x + 1$

$\sinh 3x  = \sinh^3 x + 3 \sinh x \cosh^2 x$
$\cosh 3x = \cosh^3 x + 3 \cosh x \sinh^2 x$

$\sinh 4x  = 4 \sinh^3 x \cosh x + 4 \sinh x \cosh^3 x$
$\cosh 4x =  \sinh^4 x + 6  \sinh^2 x +\cosh^2 x + \cosh^4 x$

$\sinh^{-1}x = \log ( x + \sqrt{x^2+1} ) = -\log(\sqrt{x^2+1} - x)$
$\cosh^{-1} x = \log (x + \sqrt{x^2-1}) = \log(x - \sqrt{x^2-1})$
$\tanh^{-1} x = \dfrac{1}{2} \log{\dfrac{x+1}{x-1}}$

$\frac{d}{dx}\sinh^{-1} x = \dfrac{1}{\sqrt{x^2+1}},\ \ \frac{d}{dx}\cosh^{-1} x = \dfrac{1}{\sqrt{x^2-1}}, \ \  \frac{d}{dx} \tanh^{-1} x = \dfrac{1}{1-x^2}$

$\int \sinh^{-1} x \ dx= x \sinh^{-1} x - \sqrt{x^2+1}$
$\int \cosh^{-1} x \ dx = x \cosh^{-1} x  - \sqrt{x^2-1}$
$\int \tanh^{-1} x\ dx = x \tanh^{-1} x + \frac{1}{2}\log(1-x^2)$



図:双曲線関数の定義