2019年12月10日火曜日

ベクトル解析の図形表現

韓国のソウル大学のグループが,arxivの物理教育の分野(physics.ed-ph)におもしろい論文を載せていた。「Boosting Vector Calculus with the Graphical Notation(図形表現によるベクトル解析のすすめ)」というタイトルだ。

ファインマンダイアグラムに限らず,物理屋さんは図形表現された式をみるとわくわくする。角運動量代数の図形表現は,大学院生の時に見つけて勉強しはじめたけれど,時間がなくて挫折してしまった。テンソル代数に関る図形表現にも様々な流儀があるようだ。

上記論文のイントロダクションだけを訳出してみる。
物理を専攻する学生にとってベクトル解析の習得は最も重要な課題の一つである。しかし,初心者には面倒な添字の扱いに困難を感じることが多いようだ。一方,テンソル代数を直観的に扱って効率的に計算する図形的表現があることが知られている。これは代数計算と同等な記憶コードに相当するものだ。
図形的表現法は,教育的な文脈ではベクトル空間の代数的な扱いについて応用されているが,これを3次元ユークリッド空間のベクトル解析におけるベクトル場の微積分に適用している文献はない。
そこで,物理学専攻の学生と教育者を対象として「ベクトル解析の図形表現」を導入し、その教育学的利点を示し,純粋な数学的な等式と物理学の実用計算の両方を含む十分な演習を提供します。図形表現は教育環境で容易に利用でき,ベクトル解析の学習と実践の障壁を下げるだけでなく,学生に興味を持たせ、ベクトル解析の構文を操作してテンソルの言語を発見的に学習して理解するようになる。
 問題は,LaTeXで簡単に書けないことかもしれない。まったくできないわけではないが。
FreeTikZとか。

2019年12月9日月曜日

膨張する個人と社会の均衡

高橋健太郎が,twitterで「膨張する個人と社会の均衡」について話題にしていた。きっかけは自民党細田派の松川るい(奈良市出身,四天王寺)の典型的な反個人主義的右翼的言論であり,米山隆一原口一博菅野完が反論を加えた。しかし,高橋の分析はさらに進んでいる。

SOGI(性的指向=Sexual Orientation・性自認=Gender Identity)や障害者・女性をめぐる問題については,ずいぶん社会的な意識がリベラル側になっている(もちろん日本会議的な反発も強いが)一方で,日本会議的な思想を十全に体現している安倍政権支持率が高い水準を維持していることの矛盾がどうも引っかかって仕方なかった。それを解きほぐす糸口の一つを提示されたような気がする。

高橋健太郎の2019.12.8の一連のツイートを以下に引用する。
「今,RTした三人のツイート,興味深いポイントだ。僕の思うところは,また違うのだが。「膨張する「個人」を抑えられなくなって社会が均衡を失いつつある」ってのは,正しいのではないだろうか。」 
「ただし,それはこれまでフツーにあったはずの「社会規範」が失われ,「社会が均衡を失いつつある」ということだ。法に定めなくても,あったような共同体の規範。あるいは,野間通易がいうところの,「だいたいの正義」でもいい。それが失われてきている。」 
「そうした個人主義の膨張が,価値相対性や新自由主義への道を辿る一方で,社会規範から解放されたいと願い,解放されたかのように感じている個人が,「社会」ならぬ「国家」と添い寝するようになったのが,今の日本の状況ではないだろうか。」 
「「膨張する個人」は,身近にあった社会規範を嫌う一方で,肉屋が好きな豚のように,国家によるコントロールなら喜んで受け入れるし,そこに同化して,他者をコントロールすることに快楽さえ見出している。そんな光景を見ているように思うのだよね,僕は。」 
「モリカケサクラもつまりは,これまでフツーにあったはずの社会規範,法に定めずともあったような共同体の規範,当たり前の正義だったり,人としての道だったりするものが,政府の中枢で完全に失われ,国家がいいように私物化されている図な訳でしょ。」 
「その意味では,安倍晋三は社会規範から解放されたいと願う「膨張する個人」の権化であり,写し鏡なんだよ。自分の力が及ぶスモール・ワールドでは,同じように振る舞いたいと思っている人々の。」 
「だから,彼らはモリカケサクラを前にしても,糾弾するどころか喝采を送り,安倍と同化して,フツーの社会規範,当たり前の正義を求める側こそを叩くわけだ。それこそ,「膨張する「個人」を抑えられなくなって社会が均衡を失いつつある」光景だよ。」
大阪での維新勢力の跋扈も全く同根であるように見える。そこには利権の顔を隠すためのうっすらと反権力的なニセ化粧さえ施されている。そして,共同体を支えてきたのが,主体的な個人間の万有引力ではなく,権威主義的な殻による社会的な斥力だったことも話を複雑化している。維新に攻撃されている学校や行政には確かに大阪人の反発を招く種もなかったとはいえない。

2019年12月8日日曜日

12月8日(Blogger 1周年)

昨年の今日,真珠湾攻撃から77年の日にこのブログを始めた。それからちょうど1年たった。途中で2回ほどお休み期間があったが,ほぼ毎日1本の記事を書いてきた。ときどき2,3日遅れになったこともあるけれど,なんとか脱落せずに続けている。

このブログの目的は,自己顕示欲の発露ということもある。統計をみれば,全期間のページビュー(PV)は4876になっているが,これは自分の分も含んでいる。参照元URL別PVが841(テイルが欠損),参照元サイト別PVが998なので,こちらがアクセス数に対応しているだろう。t.coからのアクセス(563PV)はツイッターに出したものの短縮URLだと思われる。これにm.facebook.com(202PV)やwww.osaka-kyoiku.ac.jp(159PV)が続いている。1日平均2.7PVなので,まったく顕示にはなっていない。

最もアクセスが多かったのが,自分でデータを整理した「児童・生徒の自殺(2019/10/19)」で776PV,これに続くのは「台風の運動エネルギー(2019/10/15)」の47PVでぐっと少なくなる。twitterでアナウンスすると20PV程度にはなる。

もう一つの目的は,記憶の保存や,認知症の予防だ。たぶん自分が何を考えていたのかをどんどん忘れてゆき,憶えられず思い出せない時代がくる。もしかすると自分の書いたものを理解することすらできなくなるかもしれない。それまで続けるということはアルジャーノンの日記ではないか。普通の日記ではなく,本来のブログの意味に近いものではあると思うが。

1995年に自分のホームページを始めたが,2000年初頭のブログブームには乗らなかった。それでも,2010年5月にはこのBloggerのアカウントを作っている。twitterのアカウントを作ったのは,はじめてiPhoneを買った2008年の8月なので,それよりも遅い。Bloggerの方はその後ずっと放置してきたが,年賀状をやめるときにその代替としてアナウンスする必要があったため,12月8日というタイミングで始めたのだった。

2019年12月7日土曜日

3.11のトラウマと現実否認の政治

石田英敬さんは,1953年生まれの東大名誉教授だけれど,自分とは知性のレベルが違うなあ。彼のtwitterで,安倍政権への興味深い見方が示されていた。後学のため引用しておく。

私の答え、その3:「いろいろ考えてきたんだが、私の答えは、いまの日本は、〈2011.3.11〉のトラウマから説明するのが一番分かりやすい、というもの。あの大地震、津波、原発事故のショック下に日本人たちは今もまだいるんだ。」 
「それで、日本人たちの半分ぐらいに、精神分析のいう、le déni de réalité の反応を引き起こした。現実を否認して出来事は全くなかったかのごとく暮らすように決めた。それで、あの出来事はまるで夢のなかで起こった出来事であったかのように、悪夢のように忘れさることに決めたのさ。」 
「そこに入り込んだのが、アベとその一味による今のアベ政権だというわけだ。3.11はとっても好都合なことに、たまたま野党がごくまれに政権についていたときに偶然起こった。災害の準備を怠ったのも原発を始めたのもあらゆる対策をネグッたのも全部自民党政権だったのにね。」 
「それで、あの出来事全体の一切合切をアベたちは全部野党のせいにすることにした。すべての現実を否認して、他者に責任を転嫁することにした。そして、あの出来事の自分たちの責任と影響をすべて否認することにした。」 
「それだけじゃなく、今の日本は世界から落伍していきつつあるし、経済もうまく行っていないし、人口を激減で衰退がせまっているのに、そんなことはいっさいない、というストーリーを組み立てることにした。お金も狸の葉っぱみたいに刷り続けて見せかけだけは株価をつりあげて経済もうまくいってる」 
「ように見せかけることにした。すべてを「現実の否認」の政治で塗り込めるようにした。それが、あのアベという男の長期政権なのさ。ウソを基調にした、ポスト・トゥルースの政治なのさ。」
[1] NULPTYX.COM 石田英敬のブログ

2019年12月6日金曜日

記述式問題見直しへ

大学入学共通テストの記述式問題について,与党公明党から延期・見直しの提言が萩生田文部科学大臣に届けられ,延期の可能性が高まってきた。柴山前文部科学大臣も「(国・数の記述式試験延期の可能性について)これは現場の状況をきちんと確認して、受験生に不利益が起きないようにすることが最優先だ」と言い出す始末である。なんなのだろう。

安倍・菅への向かい風が強くて,下村博文とその仲間たちをかばう余裕がなくなっているということか。

英語民間試験のほうも含め,まだまだ予断を許さない。延期で時間をかけることにより周到でよけいに面倒なシステムが導入されかねない。高大接続改革の御旗のもと,民営化まっしぐらをめざそうという取り巻きはごまんといるのだから。鈴木寛とか。

[1]2019.11.3 民間試験導入としての記述式問題
[2]2019.7.7 記述式問題の問題
[3]2019.7.6 大学入学共通テストの採点

2019年12月5日木曜日

不正・忖度・虚偽・隠蔽

ちっとも回転しないPDCAサイクルの欺瞞性は最近では良く知られるようになった。
一方,不正・忖度・虚偽・隠蔽のCCCCサイクル(Corruption-Conjecture-Chicanery-Concealment)は季節外れの桜吹雪をまき散らしながら高速回転している。


2019年12月4日水曜日

PISA2018

OECD生徒の学習到達度調査(PISA)は3年ごとに本調査が実施されている。このほど,PISA2018の結果が公表された。利害関係者の皆様は,戦々恐々としてこの餌に飛びつこうとしている。長期トレンドは平坦でありあまり変わっていないというのが結論のはずだが,変化分を強調して見たい向きからすれば,読解力が落ちたというのがセールスポイントになるのだろう。

読解力に関しては,6段階のレベルの上位層は前回とあまり変わらないが,中位層が減って,下位層が増えているようだ。「評価し,熟考する」能力については、2009年調査結果と比較すると,平均得点が低下しており,特に,2018 年調査から追加された「質と信ぴょう性を評価する」「矛盾を見つけて対処する」の正答率が低かった。とのことであり,そりゃあ桜を見る会を巡るこの間のグダグダな日本のマスコミと政府を見ていれば宜なるかなだろう。

一部コンピュータ型調査であることと学校におけるコンピュータ使用率の低さと絡めた議論にしたがる勢力もありそうだが,それはそれ,これはこれ。むしろスマートフォンによる断片的コミュニケーションや離散的情報取得に完全に適応しているネイティブICT人類についての分析の方が必要なのではないだろうか。

2019年12月3日火曜日

蛙飛び法

ファインマン物理学の第I巻の第9章蛙跳び法による運動のシミュレーションが取り上げられている。バネの運動の場合,運動方程式は,$m \ddot{x} = -k x$であるが,これを$\dot{x}=v$と$\dot{v}= -k/m x = -\lambda x$としてオイラー法を適用する。$\epsilon=t_{n+1}-t_n, \ f_n=f(t_n)$などとして,
前進差分は,
\begin{equation}
\begin{aligned}
x_{n+1}=x_{n}+\epsilon v_{n}\\
v_{n+1}=v_{n}- \lambda \epsilon x_{n}
\end{aligned}
\end{equation}
後退差分は,
\begin{equation}
\begin{aligned}
x_{n+1}=x_{n}+\epsilon v_{n+1}\\
v_{n+1}=v_{n}- \lambda \epsilon x_{n+1}
\end{aligned}
\end{equation}
中心差分は,
\begin{equation}
\begin{aligned}
x_{n+1}=x_{n-1}+2\epsilon v_{n}\\
v_{n+1}=v_{n-1}- 2\lambda \epsilon x_{n}
\end{aligned}
\end{equation}
中心差分の片方をずらすと蛙跳び法の表式が得られる。
\begin{equation}
\begin{aligned}
x_{n+2}=x_{n}+2\epsilon v_{n+1}\\
v_{n+1}=v_{n-1}- 2\lambda \epsilon x_{n}
\end{aligned}
\end{equation}
一方,前進差分と後退差分は,次のように表せる。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\begin{pmatrix}x_{n+1} \\ v_{n+1}\end{pmatrix} &=
\begin{pmatrix} 1 & \epsilon \\ - \lambda \epsilon & 1 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix}x_{n} \\ v_{n}\end{pmatrix} \\
\begin{pmatrix} 1 & -\epsilon \\ \lambda \epsilon & 1 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix}x_{n+1} \\ v_{n+1}\end{pmatrix}
&= \begin{pmatrix}x_{n} \\ v_{n}\end{pmatrix}
\end{aligned}
\end{equation}
陰解法となっている後退差分を解いて$ o(\epsilon^2)$まで考えると,
\begin{equation}
\begin{pmatrix}x_{n+1} \\ v_{n+1}\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}\dfrac{1}{1+\lambda \epsilon^2} & \epsilon \\
-\lambda \epsilon &  \dfrac{1}{1+\lambda \epsilon^2}\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}x_{n} \\ v_{n}\end{pmatrix}
\end{equation}
前進差分と後退差分の平均をとると,中心差分に相当するものが得られる。
\begin{equation}
\begin{pmatrix}x_{n+1} \\ v_{n+1}\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}1 - \lambda \epsilon^2 /2 & \epsilon \\
-\lambda \epsilon &  1 -\lambda \epsilon^2 /2 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix}x_{n} \\ v_{n}\end{pmatrix}
\end{equation}

2019年12月2日月曜日

大仏迴国

京都みなみ会館典座を見に行く途中の近鉄電車内で検索作業中の妻に,大仏迴国という映画もやっているようだよ,と教えてもらった。典座の方は昨夜みた評判にちょっと不安があったので,私だけあわててそちらに切り替えた。近所のル・ブランで昼食をすませ,新装されたみなみ会館の1Fで開始までの時間待ち。

あとで調べたところ,京都みなみ会館は怪獣映画の聖地とよばれていたそうだ。それならば,日本の怪獣映画の原点としての大仏迴国リメイクが上映されている意味も大きい。ところで,そのリメイクは残念ながらリメイクではなかった。なんといえばいいか。よくわかりませんでした。宝田明,久保明,小林夕岐子,螢雪次朗は日本の怪獣映画のオマージュということらしい。大槻義彦とたま出版の韮澤潤一郎の対談もその派生物か。製作費が300万円なので,立ち上がった聚楽園大仏(じゃないのか,茨城県の大仏だった)のCGもかなり制限されていた。脚本はまあ支離滅裂といったところだろうか。よくわからないがオカルト風味と東京の地震の終末感風味で終わってしまった。

P. S. 典座のほうもちょっと残念だったようだ。

2019年12月1日日曜日

アドベントカレンダー

さあ12月,師走がやってきた。アドベントカレンダーの季節だ。12月1日からはじまり,クリスマスまでの毎日(24日または25日)をカウントダウンする目的のカレンダーのことだが,インターネット上ではプログラミングや様々なテーマについてのブログを毎日書いていくというものだ。Qiita Advent Calendar 209には702テーマがあり,参加者も1万人を越えている。アドベントカレンダーを作れるサイトとしては,Adventar などもある。これはちょっと一覧性に欠けているが,仲間内だけにサーキュレートするためならこれで十分なのか。数理物理 Adventar Calendar 2019 とか。日曜数学 Advent Calendar 2019 とか。数値計算 Advent Calendar 2019とか。

2019年11月30日土曜日

楕円軌道と内心の軌跡

楕円の軌跡は焦点からの線分の長さの和が一定という条件で描くことができる。楕円の長半径を$a$,短半径を$b$,焦点の座標を${\rm O}_1=(-c,0)$,${\rm O}_2=(c,0)$,楕円上の点Pの座標を$(x,y)$とする。例えば,$\ell_1={\rm O}_1{\rm P}$,$\ell_2={\rm O}_2{\rm P}$として,$\ell_1+\ell_2=2 a$と一定となる。

このとき,三角形${\rm O}_1{\rm O}_2 P$の内心(内接円の中心)Qの軌跡はどんな図形を描くだろうか。twitterでアニメーションをみかけたが,楕円に見えたので確かめてみよう。点Pは次の楕円の方程式の上を動く。
\begin{equation}
\dfrac{x^2}{a^2} + \dfrac{y^2}{b^2} = 1 \quad a^2=b^2+c^2
\end{equation}
このとき,$\ell_1, \ell_2$を求めてみる。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\ell_1 &= \sqrt{ (x+c)^2 + y^2 } = \sqrt{(x+c)^2 + b^2 (1 - (x/a)^2 ) }\\
&= \sqrt{(x+c)^2 + (1-c^2/a^2) (a^2 - x^2) } = a + \dfrac{c x}{a}\\
\ell_2 &= \sqrt{ (x-c)^2 + y^2 } = \sqrt{(x-c)^2 + b^2 (1 - (x/a)^2 ) } \\
&= \sqrt{(x-c)^2 + (1-c^2/a^2) (a^2 - x^2) } = a - \dfrac{c x}{a}
\end{aligned}
\end{equation}
次に,内心Qの座標を,$(p,q)$とする。$q$は内接円の半径と等しい。三角形の内接円の半径$r$は,三角形の面積$S$と$2S=(\ell_1+\ell_2+2c) r$の関係がある。ヘロンの公式より,
\begin{equation}
\begin{aligned}
s &= (\ell_1+\ell_2+2c)/2 = a+c \\
S &=\sqrt{s(s-2c)(s-\ell_1)(s-\ell_2)}=\sqrt{(a+c)(a-c)(c - c x/a)(c + c x/a)}\\
\therefore q &= r= \dfrac{S}{a+c}=c\sqrt{\frac{a-c}{a+c}(1-x^2/a^2)}= \dfrac{c y}{b}\sqrt{\frac{a-c}{a+c}}\equiv  \dfrac{c\ y\ \varepsilon}{b}
\end{aligned}
\end{equation}
また,角${\rm PO_1 O_2}=\phi$,角${\rm PO_2 O_1}=\theta$とすると,余弦定理から,
\begin{equation}
\begin{aligned}
\cos\phi = \dfrac{\ell_1^2+(2c)^2-\ell_2^2}{4\ell_1 c}=\dfrac{x+c}{\ell_1}\\
\cos\theta = \dfrac{\ell_2^2+(2c)^2-\ell_1^2}{4\ell_1 c}=\dfrac{c-x}{\ell_2}
\end{aligned}
\end{equation}
内心の性質から,角${\rm QO_1 O_2}=\phi/2$,角${\rm QO_2 O_1}=\theta/2$であり,半角の公式から,
\begin{equation}
\begin{aligned}
\tan{\frac{\phi}{2}} &=\sqrt{\dfrac{1-\cos\phi}{1+\cos\phi}} =\sqrt{\dfrac{\ell_1-(x+c)}{\ell_1+(x+c)} }\\
&=\sqrt{\dfrac{a+cx/a-(x+c)}{a+cx/a+(x+c)}} = \varepsilon \sqrt{\dfrac{a-x}{a+x}}\\
\tan{\frac{\theta}{2}} &=\sqrt{\dfrac{1-\cos\theta}{1+\cos\theta}}=\sqrt{\dfrac{\ell_2-(c-x)}{\ell_2+(c-x)} }\\
&=\sqrt{\dfrac{a-cx/a-(c-x)}{a-cx/a+(c-x)}} = \varepsilon \sqrt{\dfrac{a+x}{a-x}}\\
\end{aligned}
\end{equation}
${\rm O_1}$から角度$\phi/2$で望む内心Qのy座標が,${\rm O_2}$から角度$\theta/2$で望むものと等しいことから,
\begin{equation}
\begin{aligned}
(p+c) \tan \dfrac{\phi}{2} &= (c-p) \tan \dfrac{\theta}{2} \\
p \bigl( \tan \dfrac{\phi}{2} +  \tan \dfrac{\theta}{2} \bigr) &= c \bigl(  \tan \dfrac{\theta}{2} - \tan \dfrac{\phi}{2} \bigr) \\
p \varepsilon \Bigl( \sqrt{\dfrac{a-x}{a+x}} + \sqrt{\dfrac{a+x}{a-x}} \Bigr)
& = c \varepsilon  \Bigl( \sqrt{\dfrac{a+x}{a-x}} - \sqrt{\frac{a-x}{a+x}} \Bigr) \\
2 a p \varepsilon &= 2 x c \varepsilon\\
\therefore p &= \dfrac{c}{a} x
\end{aligned}
\end{equation}
これから,内心Qの満足する軌跡の方程式は,Pが描く楕円の軌跡の式を用いて以下のように求まった。
\begin{equation}
\dfrac{p^2}{c^2} + \dfrac{q^2}{(c \varepsilon)^2} = 1
\end{equation}

図 楕円の軌跡(青)と内心の軌跡(赤)


2019年11月29日金曜日

公転速度と公転周期

万有引力定数は,G=6.7 × 10^-11 m ^3 kg^-1 s^-2 である。高等学校の物理の教科書にのっているように,質量 M kg の天体の周りを質量 m kg の天体が速さ v m/s の速度で半径 R m の等速円運動するとき,$ \dfrac{G M m }{R^2} = \dfrac{m v^2}{R}$ から,$ v= \sqrt{\dfrac{GM}{R}} $,周期は$ T = \dfrac{2 \pi R }{v}$であった。これで,ブラックホール(BH)のまわりの"惑星"の公転速度と公転周期が求まる。だからどうしたといわれても。

地球−月(M = 6.0 × 10^24 kg, R = 3.8 × 10^8 m)→(v= 1 km/s, T= 0.76 y)
太陽−地球(M = 2.0 × 10^30 kg, R = 1.5 × 10^11 m)→(v= 30 km/s, T= 1.0 y)
銀河中心-太陽(M = 2.2 × 10^41 kg,R= 2.6 × 10^20 m)→(v= 240 km/s, T= 2.0 × 10^8 y)
BH−"惑星"(M = 8.2 × 10^36 kg,R = 1.0 ×10^17 m)→(v=74 km/s, T=2.7 × 10^5 y)

[1]国立天文台,最新の観測による銀河中心〜太陽系の距離や回転速度を発表
[2]超大質量ブラックホール(Wikipedia)

2019年11月28日木曜日

ブラックホールの周りの惑星

物理ではなかなかびっくりする話がない。いや,あるのだが,驚嘆するためにはそれなりの基礎知識が必要なのでたいへんだ。数学でもそうかもしれない。その意味では望月新一さんのIUTはとても大きなトピックだった。一方,天文学では結構な頻度で,驚きのニュースが飛び込んでくるような気がする。最近のそれは,ブラックホールの周りの惑星だ

ブラックホールの周りには降着円盤があることは,福江先生の得意分野でもあるので知っていた。そこに原始太陽系の形成モデルのシミュレーションを適用すると,銀河中心にあるような太陽の1000万倍の質量を持つ巨大ブラックホールのまわりのミクロな塵から,数億年をかけて,ブラックホール中心から10光年ほどのところに,地球質量の10倍程度の惑星が1万個以上形成されるというものだ。となりの惑星との距離は0.1光年のオーダーかな。生命が誕生するような熱源は確保できるのだろうか。SF作家の夢が広がるだろうか。

[1]K. Wada, Y. Tsukamoto and E. Kokubo,  Planet Formation around Supermassive Black Holes in the Active Galactic Nuclei(2019.11.26)

2019年11月27日水曜日

児童生徒1人1台PC

11月13日の経済財政諮問会議で,経済対策(未来投資)として義務教育の児童生徒1人1台のPCを配備するという考えが示された。経済再生担当大臣の西村康稔は,1995年から1997年にかけて通産省からの出向で石川県の商工課長を務めていた。そのころ父が亡くなり,葬儀後の挨拶で県庁もまわった際に名刺だけを置いてきた。西村は2003年に衆議院議員になったが,その前後からしばらく後援会からの案内が届いていたことがあった。選挙区は離れているのであまり効果はないと思うのだが,とりあえず関西圏なので。

さて,児童生徒1人1台PCに話を戻す。これが,小学校5年生から中学3年生までとなると,小学校 5, 6 年が 213万人程度,中学校1, 2, 3 年が 322万人なので,合計540万人。現在あるPCの普及率は 5.4 人に1台なので,人数として現有のもので必要数の 19% 程度がカバーされているとするなら,540万 × 81%で 440万台新たに必要になる(現有機器がデスクトップならばもっと必要かもしれない)。1台10万円として,4400億円だ(いつまでに実行するのだろう?)。その後,更新を続けるとすれば,毎年数百億円が必要になる。で,これを学校で管理できるのだろうか。活用できるのだろうか。どこかでBOYDにスライドできるのだろうか。謎は深まるが,あまりまともな制度設計がされることは期待できないように思う。

P. S. 読売新聞によると,2022年までに小5〜中3,2024年までに小1〜小4という説もあるようだ。

P. P. S. 12/3 PISA2018結果発表を前に,日経新聞によると2023年が目標年度であり,5000億円を児童生徒1人1台のPCまたはタブレットにつっこむそうだ。初年度は1500億円とか。南無阿弥陀仏。

2019年11月26日火曜日

山羊問題

山羊問題(Goat Problem)は次のような問題である。中心A,半径$r=1$の草の生えた円形の土地Sがある。その周の1点Oから長さ$a$のヒモにつながれた山羊を放し飼いにすると,Sのうち,半径$a$のOを中心とし半径$a$の円内の草が食べられてしまう。その面積がSの半分になるようなヒモの長さ$a$はいくらか?図形はOAを結ぶ線に対称なので,半分だけ考えてみよう。

図 山羊問題
山羊が食べた草地の面積は,扇型O-BP+扇型A-OP-三角形AOPであり,これが$\pi r^2/4$になればよい。角POA=$\phi$とすると,角PAO=$\pi-2\phi$である。これを式で表すと,
\begin{equation}
\begin{aligned}
\dfrac{\pi r^2}{4} &= \dfrac{r^2}{2}(\pi - 2 \phi) + \dfrac{a^2}{2} \phi - \dfrac{r^2}{2} \sin 2 \phi \\
a &= 2 r \cos \phi
\end{aligned}
\end{equation}
したがって,
\begin{equation}
4 \phi \cos^2 \phi = \sin 2 \phi +2 \phi -\dfrac{\pi}{2}
\end{equation}
これをMathematicaで解くと,$a/r = 1.15873$となった。
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In[1]:= Clear[x]; sol1 = FindRoot[4 Cos[x]^2  x == Sin[2 x] + 2 x - Pi/2, {x, 1}]; x = x /. sol1
Out[1]= 0.952848
In[2]:= a = 2 Cos[x]
Out[2]= 1.15873
In[3]:= Clear[x]; sol2 = FindRoot[Sqrt[1 - (x - 1)^2] == Sqrt[a^2 - x^2], {x, 1}]; b = x /. sol2
Out[3]= 0.671326
In[4]:= c = NIntegrate[Sqrt[1 - (x - 1)^2], {x, 0, b}] + NIntegrate[Sqrt[a^2 - x^2], {x, b, a}]
Out[4]= 0.785398

In[5]:= g1 = Plot[{Sqrt[a^2 - x^2], Sqrt[1 - (x - 1)^2],
   Sqrt[a^2 - b^2]/b x, -Sqrt[a^2 - b^2]/(a - b) (x - a), -Sqrt[a^2 - b^2]/(1 - b) (x - 1)}, {x, 0, 2},
  AspectRatio -> Automatic, PlotStyle -> {, , Dashed, Dashed, Dotted}, PlotRange -> {0, 1.2}]
In[6]:= g2 = Graphics[{Text[O, {0.05, 0.03}], Text[A, {0.95, 0.03}],
   Text[B, {1.20, 0.03}], Text[P, {0.69, 1.0}]}];
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2019年11月25日月曜日

パラメータ励振(5)

(パラメータ励振(4)からの続き)

\begin{equation}
\begin{aligned}
\ddot{x}+\dfrac{g-\ddot{\ell}}{\ell}x &= 0\\
\ell &= \ell_0(1-\epsilon \cos(\omega t + \delta))\\
g/\ell_0 &= \omega_0^2\\
\end{aligned}
\end{equation}
このブランコのモデルで,エネルギーが励振項から供給される様子を調べてみる。
微分方程式を変形すると次のようになる。
\begin{equation}
\ddot{x}+\omega_0^2 x = - \epsilon(\omega_0^2-\omega^2) \cos (\omega t + \delta ) x
\end{equation}
$\dot{x}$を微分方程式の両辺にかけると,
\begin{equation}
\dot{x} \ddot{x}+\omega_0^2 \dot{x} x = - \epsilon(\omega_0^2-\omega^2) \cos (\omega t + \delta ) \dot{x} x
\end{equation}
したがって,
\begin{equation}
\dfrac{d}{dt} (\dot{x}^2+\omega_0^2  x^2 )  = - \epsilon(\omega_0^2-\omega^2) \cos (\omega t + \delta ) \dot{x} x \equiv {\rm R}
\end{equation}
つまり,左辺は運動エネルギー+位置エネルギーの微分となるため,右辺がこれに対するエネルギーソースの働きをしている。そこで,右辺Rの符号を調べる。

ここで,$\omega=2\omega_0, \lambda = \dfrac{-3\epsilon \omega_0^2}{4\pi} < 0$とする。また,$\delta =(0, \pi/2, \pi, 3\pi/2)$に対して,$\varphi = (\pi/4, \pi/2, \pi/4, 0)$に注意する。
\begin{equation}
\begin{aligned}
x &= C_1 e^{\lambda t} \cos(\omega_0 t + \varphi) + C_2 e^{-\lambda t} \sin (\omega_0 t + \varphi)\\
\dot{x} &= \lambda \{ C_1 e^{\lambda t} \cos(\omega_0 t + \varphi) - C_2 e^{-\lambda t} \sin (\omega_0 t + \varphi) \} \\
&+\omega_0 \{ -C_1 e^{\lambda t} \sin(\omega_0 t + \varphi) + C_2 e^{-\lambda t} \cos (\omega_0 t + \varphi) \}
\end{aligned}
\end{equation}
初期条件として,$x(0)=c >0, \dot{x}(0)=0$とする。
\begin{equation}
\begin{aligned}
c &= C_1  \cos \varphi + C_2 \sin \varphi\\
0 &= \lambda \{ C_1 \cos \varphi - C_2 \sin \varphi \} \\
&+\omega_0 \{ -C_1 \sin \varphi + C_2 \cos \varphi \}
\end{aligned}
\end{equation}
これを解いて,
\begin{equation}
\begin{aligned}
C_1 &= c \dfrac{\lambda \sin \varphi - \omega_0 \cos \varphi}{\lambda \sin 2\varphi -\omega_0}\\
C_2 &= c \dfrac{\lambda \cos \varphi - \omega_0 \sin \varphi}{\lambda \sin 2\varphi -\omega_0}
\end{aligned}
\end{equation}
近似解は,$x(t)=c cos(\omega_0 t)$であるから,$\dot{x} \ x = -\dfrac{c^2}{2} \sin(2\omega_0 t) $ である。したがって,$\delta=\pi/2の場合$
\begin{equation}
{\rm R}= \epsilon(\omega_0^2-\omega^2) \cos (2\omega_0 t + \delta ) \dfrac{c^2}{2} \sin(2 \omega_0 t) = \dfrac{3 \omega_0^2 c^2}{2} \sin^2 (2\omega_0 t) > 0
\end{equation}
となって,エネルギーが増加することがわかる。また,$\delta = 3\pi/2$では符号が逆転する。


2019年11月24日日曜日

パラメータ励振(4)

以下のブランコのモデルに対する解析的な近似解を考える。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\ddot{x}+\dfrac{g-\ddot{\ell}}{\ell}x &= 0\\
\ell &= \ell_0(1-\epsilon \cos(\omega t + \delta))\\
g/\ell_0 &= \omega_0^2\\
\end{aligned}
\end{equation}
もとの微分方程式を $x(t), y(t)$ の1階連立微分方程式の形に表す。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\dot{x} &= y\\
\dot{y} &= -\{\omega_0^2+\epsilon(\omega_0^2-\omega^2)\ \cos(\omega t + \delta)\}\ x
\end{aligned}
\end{equation}
ここで,$x=a(t) \cos (\omega_0 t + \phi(t)), y= -a \omega_0 \sin (\omega_0 t + \phi(t))$とおいて,
上の連立微分方程式を$a(t), \phi(t) $の連立微分方程式に書き直す。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\dot{a} \cos (\omega_0 t + \phi) -a \dot{\phi} \sin (\omega_0 t + \phi) &= 0\\
\dot{a} \sin (\omega_0 t + \phi) +a \dot{\phi} \cos (\omega_0 t + \phi) &= \dfrac{ \epsilon(\omega_0^2-\omega^2)}{\omega_0}\ \cos(\omega t + \delta) a \cos(\omega_0 t + \phi )\\
\end{aligned}
\end{equation}
整理すると次のような2式となる。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\dot{a} &= \dfrac{ \epsilon(\omega_0^2-\omega^2)}{2\omega_0}\
\cos(\omega t + \delta) \sin(2 \omega_0 t + 2 \phi ) \ a \\
\dot{\phi} &= \dfrac{ \epsilon(\omega_0^2-\omega^2)}{2\omega_0}\
\cos(\omega t + \delta) \{ 1 + \cos(2 \omega_0 t + 2 \phi ) \} \\
\end{aligned}
\end{equation}
ここで,$\omega = 2 \omega_0$とし,$a(t),\phi(t)$の時間変化が緩いとして上式の右辺を$t=0$から周期$T=2 \pi/\omega$まで時間で積分した量を周期で割った量で置き換える。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\dot{a}  &= \dfrac{\omega}{2\pi} \int_0^{2\pi/\omega} \dfrac{\epsilon (\omega_0^2-\omega^2)}{2 \omega_0} \cos(\omega t + \delta) \sin(2 \omega_0 t + 2 \phi ) \ a dt\\
\dot{\phi} &=  \dfrac{\omega}{2\pi} \int_0^{2\pi/\omega} \dfrac{\epsilon (\omega_0^2-\omega^2)}{2 \omega_0} \cos(\omega t + \delta) \{ 1 + \cos(2 \omega_0 t + 2 \phi ) \} dt
\end{aligned}
\end{equation}
このようにして平均化された$\dot{a},\dot{\phi}$に対して次式が成り立つ。
\begin{equation}
\begin{aligned}
\lambda &= \dfrac{\omega}{2\pi}\dfrac{\epsilon (\omega_0^2-\omega^2)}{4 \omega_0}\\
\dot{a} &= - \lambda \sin (\delta - 2 \phi) \ a \\
\dot{\phi} &= \lambda \cos (\delta - 2 \phi) \\
\end{aligned}
\end{equation}
さらに,$u=a \cos \phi, v= a \sin \phi$と置き上式を代入して加法定理を用い,さらに整理すると,
\begin{equation}
\begin{aligned}
\dot{u} &= \dot{a} \cos \phi - a \dot{\phi} \sin \phi = -\lambda a \sin (\delta - \phi)
= -\lambda (u \sin \delta - v \cos \delta)\\
\dot{v} &= \dot{a} \sin \phi + a \dot{\phi} \cos \phi = \lambda a \cos (\delta - \phi)
= \lambda (u \cos \delta + v \sin \delta)
\end{aligned}
\end{equation}
結局,
\begin{equation}
\dfrac{d}{dt}\begin{pmatrix} u \\ v \end{pmatrix}
= \lambda \begin{pmatrix} - \sin \delta & \cos \delta \\ \cos \delta & \sin \delta \end{pmatrix} \begin{pmatrix} u \\ v \end{pmatrix}
\end{equation}
さらに,$(u,v)=(A,B)e^{p \lambda t}$と置くと,
\begin{equation}
\begin{pmatrix} p+ \sin \delta & -\cos \delta \\ -\cos \delta & p-\sin \delta \end{pmatrix} \begin{pmatrix} A \\ B \end{pmatrix}=0
\end{equation}
自明でない解を持つ条件から,$p^2-\sin^2 \delta -\cos^2 \delta =0$より,$p=\pm 1$
$p=1$の場合
\begin{equation}
(1+\sin \delta)A -\cos\delta B=0 \quad \therefore (A,B)=(\sqrt{\dfrac{1-\sin \delta}{2}}, \sqrt{\dfrac{1+\sin \delta}{2}})\\
a=e^{\lambda t}, \quad \cos\phi = \sqrt{\dfrac{1-\sin \delta}{2}}, \quad \sin \phi = \sqrt{\dfrac{1+\sin \delta}{2}}
\end{equation}
$p=-1$の場合
\begin{equation}
(-1+\sin \delta)A -\cos\delta B=0 \quad \therefore (A,B)=(\sqrt{\dfrac{1+\sin \delta}{2}},
-\sqrt{\dfrac{1-\sin \delta}{2}})\\
a=e^{-\lambda t}, \quad \cos\phi = \sqrt{\dfrac{1+\sin \delta}{2}}, \quad \sin \phi =
 -\sqrt{\dfrac{1-\sin \delta}{2}}
\end{equation}
したがって,$x=a \cos (\omega_0 t + \phi)$の一般解は,2つのモードの重ね合わせとして表現される。
\begin{equation}
x(t)=\ell(t) \theta(t) =  C_1 e^{\lambda t} \cos (\omega_0 t+ \varphi)
+ C_2 e^{-\lambda t} \sin (\omega_0 t+ \varphi)\\
\varphi = \tan^{-1}\sqrt{\dfrac{1+\sin \delta}{1-\sin \delta}}
\end{equation}
$\omega = 2\omega_0$としたので,$\lambda = -\dfrac{3 \epsilon \omega_0^2}{4 \pi} < 0$である。$\delta=\pi/2$の場合,指数関数的に増大する項は,$C_2 e^{-\lambda t} \cos(\omega_0 t)$という形になる。

参考文献
[1]対話・非線形振動楽しい物理ノート KENZOU
[2]Parametirc Oscillator(Wikipedia en:)

2019年11月23日土曜日

パラメータ励振(3)

ブランコのモデルでは,重心の位置が振動の両端で最も高くなるのが良いのだと思い込んでいた。そのため,前回のモデルでは,$\epsilon=a/\ell_0 > 0$として,$\ell=\ell_0 (1-\epsilon \cos \omega t)$と考えた。つまり,$t=0$と$t=2\pi/\omega$で,$\ell=\ell_0 (1-\epsilon)$と重心が高くなり,$t=\pi/\omega$で,$\ell=\ell_0 (1+\epsilon)$と重心が低くなるわけだ。

しかし,どうやらそうではなかった。$\ell=\ell_0 (1-\epsilon \cos (\omega t + \pi/2))$のときに,最も励振が大きくなるのだ。前半の1/4周期に重心の落ちる速度が正,後半の1/4周期に重心の落ちる速度が負になるような運動の場合で,こちらの方が実際のブランコの漕ぎ方に直感的に一致しているような気がする。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
d = Pi/2; e = 0.05; w0 = Pi; w = 2 w0;
Table[sol[i] = NDSolve[{x''[t] +
       2 e w Sin[w t + d*i] /(1 - e Cos[w  t + d*i]) x'[t] +
       w0^2/(1 - e Cos[w t + d*i]) x[t] == 0, x[0] == 0.1,
     x'[0] == 0}, x, {t, 0, 150}], {i, 0, 3}];
f[i_, t_] := x[t] /. sol[i][[1]]
Plot[Evaluate@Table[f[i, t], {i, 0, 3}], {t, 0, 10},
PlotRange -> {-0.4, 0.4}, PlotStyle -> {Red, Gray, Blue, Black}]
#
# 振幅をPi/4に強調した重心の軌跡
g1=ParametricPlot[ Evaluate@Table[{(1 - e Cos[w  t + d0*i]) Cos[w0 t], -(1 - e Cos[w  t + d0*i]) Sin[w0 t]}, {i, 0, 3}], {t, 0, 2 Pi/w}, PlotStyle -> {Red, Gray, Blue, Black},
  PlotRange -> {{-0.8, 0.8}, {-1.2, 0}}]
g2 = Plot[-Abs[x], {x, -1/Sqrt[2], 1/Sqrt[2]},   PlotRange -> {{-0.8, 0.8}, {-1.2, 0}}]
Show[g1,g2]
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
 図 パラメタ励振(支点と重心の距離は $\ell_0(1-\epsilon \cos (2 \omega_0 t + d)$ )

図 パラメタ励振(位相d = 0赤,Pi/2灰,Pi青,3Pi/2黒)


2019年11月22日金曜日

パラメータ励振(2)

ブランコのパラメータ励振単振子モデルをMathematicaで解いてみる。
$\epsilon = a / \ell_0$は,重心の上下振幅$a$ともとの振り子の長さ$\ell_0$の比であり,$\omega_0= \sqrt{g/\ell_0}$は重心が動かない場合の振り子の固有角振動数だ。
\begin{equation*}
\ddot{\phi} + \epsilon \sin \omega t \ \dot{\phi}  + \omega_0^2 (1+\epsilon \cos\omega t) \phi = 0
\end{equation*}
重心の上下振動の振動数を振り子の振動数の2倍にしたときに励振が起こる。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
e = 0.05; w0 = 3; w = 2 w0;
sol = NDSolve[{x''[t] + 2 e w Sin[w t] x'[t] 
    + w0^2 (1 + e Cos[w t]) x[t] == 0,
    x[0] == 0.1, x'[0] == 0}, x, {t, 0, 30}];
f[t_] := x[t] /. sol[[1]]
Plot[f[t], {t, 0, 20}]
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

図 パラメータ励振の数値計算例

2019年11月21日木曜日

パラメータ励振(1)

物理Ⅲの授業は来週中間テストでいよいよ後半戦に向う。テーマは振動と波動で,小形正男さんの裳華房の振動・波動をテキストにしている。第5章の減衰振動と強制振動のところだ。小学校5年生の振り子の単元でもブランコを説明に遣うが,ここでも強制振動の説明にブランコをイメージしてもらう。ところが他人に押してもらわない自分で漕ぐブランコは,パラメータ励振で説明しなければならない。

ブランコのモデルとしてひもの長さが与えられた時間の関数として変化する単振り子を考える。運動を記述する変数として,鉛直方向からの振り子のなす角度を $\phi(t)$ とする。支点のまわりの角運動量は,$L=m\ell ^2 \dot{\phi}$ であり,支点のまわりの重力のモーメントは $N=-mg\sin \phi$  から,運動方程式$\dfrac{d}{dt}L=N$ は,$m \dfrac{d}{dt}(\ell^2 \phi) = -m g \sin \phi$ となり,微小振動を仮定して整理すると,$\ddot{\phi} + 2\dfrac{\dot{\ell}}{\ell}\dot{\phi} + \dfrac{g}{m} \phi = 0$ を得る。

例えば,$\ell(t) = \ell_0 - a \cos \omega t$ に対して,この方程式が簡単に解ければ,初等的な力学の教科書に例題としてどんどん載せればいいようなものだけれど,そうは問屋が卸さないのだった。ちなみにこの場合の近似運動方程式は,$\epsilon = a / \ell_0$,$\omega_0
= \sqrt{g/\ell}$として,次のようになる。
\begin{equation*}
\ddot{\phi} + \epsilon \sin \omega t \ \dot{\phi}  + \omega_0^2 (1+\epsilon \cos\omega t) \phi = 0
\end{equation*}


2019年11月20日水曜日

眉村卓

11月3日に眉村卓が亡くなった。中学生のころからSFを意識して読み始めるようになった。その当時の日本のSF作家では,小松左京筒井康隆星新一に次いで読んでいたのが眉村卓かもしれない。阪大経済学部で柔道部というところにもちょっと引っ掛かったかもしれない。眉村の作品で書棚に並んでいるものを調べてみた。燃える傾斜(ハヤカワ文庫),準B級市民(ハヤカワSFシリーズ),万国博がやってくる(ハヤカワSFシリーズ),幻影の構成(世界SF文学全集),EXPO87(日ハヤカワ文庫),滅びざるもの(徳間文庫),消滅の光輪(ハヤカワ文庫),司政官全短編(創元文庫)などであり,1960年から70年代にかけての作品に集中している。

眉村卓といえばインサイダー文学論だ。コリン・ウィルソンのアウトサイダーは大学に入ってから非常に興味深く読んだ。ただ,この実存主義的なアウトサイダーとインサイダー文学論のインサイダーはベクトルの向きが正反対というわけではないかもしれない。それでもSF読者としては,アウトサイダーという立場がなぜかしっくり来ることが多い。そう,自分が普通の人類と違っていたらどうだろうというあの感覚だ。

インサイダー文学論は,SFの対象として,そのようなアウトサイダー的傾向に親和的な層だけではなく,社会組織の中で歯車として生きているインサイダー層にフォーカスするような作品が必要であるという眉村自身の創作の立場を説明するものだ。それは初期作品にも見られたし,中期から後期にかけての司政官シリーズで端的に表現されていたのだと思う。

[1]私の失敗「眉村卓さん」(産経新聞文化部)
[2]眉村卓『司政官 全短編』あとがき(2008年1月)
[3]眉村卓『消滅の光輪』あとがき(2008年7月)
[4]眉村卓「霧を行く」(橄欖追放,東郷雄二)


2019年11月19日火曜日

スピン

日本の主な国語辞典のスピンの項目には,まだスピン(パブリック・リレーションズ)としての語意が載っていない。英語版のWikipediaでは,Spin(Propaganda)となっていて,日本でよく用いられるスピン報道とは若干ニュアンスが違うような気もする。

マスコミは基本的に読者の目を引いてメディアへのアクセスを増やし,広告の獲得や購買につながるニュースを仕立てている。その事情を熟知していて,かつ,自由に情報発信を制御できる政府は,あたかも自然現象のようにニュースを作ることができるかもしれない。

[1]「桜を見る会」と芸能報道から考える「結果スピン」の効能(荻上チキ)


2019年11月18日月曜日

公共財としての教育ビッグデータ(2)

例えば,JAPAN e-Portfolio は関連大学が構成員となる一般社団法人教育情報管理機構が運用主体となっている。その会員についてのページを見ると,正会員は大学である。国立大学が6法人,公立大学が3法人,私立大学が18法人となっている。賛助会員には教育産業の企業が名を連ねている。ベネッセが含まれる特別賛助会員が4社,指定賛助会員が4社,賛助会員が1社である。年会費300万円特別賛助会員の説明は以下の通り。
当該会員が運営する学習支援システム事業,ポートフォリオ事業,SNS事業,データベース事業等これらに類する事業において取得したデータ又は本機構が運営する高大接続ポータルサイト「JAPAN e-Portfolio」(以下、「JeP」という。)が所有するデータ等,JePに連携し,蓄積した情報を活用して事業を行う会員が支払う会費
*『「JAPAN e-Portfolio」(以下、「JeP」という。)が所有するデータ等」』とは「JAPAN e-Portfolio」の入力項目などシステム本体の情報を指します。生徒が「JAPAN e-Portforio」に入力し,蓄積された個人情報は,一切共有されることはありません。
ベネッセの個人情報漏れが起こったときには,これでもうおしまいだなと思ったのだが,あっという間に,復活を果たしただけでなく,ありとあらゆる教育公共事業案件に首を突っ込み,この優位性を背景に各学校への攻勢を強めている。これまでは,全国学力テストだったが,これに加えて,大学入試共通テストや,高校生のポートフォリオなど膨大なデータを手中に収めようとしている。このままでいけば文部科学省は民営化されて,ベネッセに取って代わられる日も近い。


2019年11月17日日曜日

公共財としての教育ビッグデータ(1)

日経朝刊で,公正取引委員会の杉本和行委員長が,「医療や金融分野などのビッグデータは多くの事業者が利用可能な「公共財」になりうるとの考え方を示した」。ここには教育分野が含まれていないが,まさに公共財として位置づけて,広く公開と流通を図ることが必要な部分は含まれているはずだ。もちろん,個人情報の機微に関る部分も多いため,その取り扱いにも注意は必要だが,それは医療や金融でも同じことだ。

数年前から清和会・政府の進めている教育政策の特徴は,一つには右翼的イデオロギー貫徹による教育支配であり,もう一つが,公共財としての教育を売り払う利権支配である。そして,その矛盾が噴出したのが,森友・加計・大学入試問題だ。巷では,モリ・カケ・サクラとして安倍の不正をあげつらっているが,本当にこわいのは,もてあそばれている日本の教育システムの破壊ではないのか。

岡山という地域をベースにしたベネッセ加計学園グループの深い結びつきについては,いろいろとネット上に情報が流れているが,そこに様々な公益法人や文部科学省からの天下りなどが絡み合い,複雑な病巣を構成している。そこに巣食う企業人や大学人や官僚崩れが,トップダウンの準公的な諮問会議や私的なワーキンググループを隠れみのに互いの利権を貪りながら,十分に吟味されておらず,当事者や専門家を排除した政策を立案している。

[1]教育情報管理機構JAPAN e-Portfolioの実施大学の団体+特定賛助会員など)
[2]進学基準機構佐藤禎一が理事長のベネッセ系一般財団法人)
[3]学力評価研究機構(ベネッセグループの株式会社)
[4]福武教育文化振興財団(ベネッセグループの公益財団法人)
[5]高校生のための学びの基礎診断(文部科学省)

2019年11月16日土曜日

米山保三郎

日経朝刊の連載小説が伊集院静の道草先生だ。最初はフォローしていなかったが,漱石の話だったことに気づき時々読んでいる。夏目金之助(1867-1916)の大学予備門(第一高等中学校)での友人として金沢出身の米山保三郎(1869-1897)がでてきた。金沢といえば宇ノ気町出身の西田幾多郎(1870-1945)も同時代の空気を吸っている。

米山保三郎については,Yahoo!知恵袋に北國・富山新聞の情報として,生没年と生誕地が野町2丁目であること,父が加賀藩の算用侍であったことなどが記されていた。東京帝大の哲学科で学び,かなりの秀才だったようだ。「吾輩は猫である」では米山をモデルとした天然居士=曾呂崎が登場している。米山は実際に天然居士という号を持っている。米山の助言によって金之助=漱石が建築ではなく文学を目指すことになった。
まだ子供のとき,財産がなかったので,一人で食わなければならないという事は知っていました。忙がしくなく時間づくめでなくて飯が食えるという事について非常に考えました。しかし立派な技術を持ってさえいれば,変人でも頑固でも人が頼むだろうと思いました。佐々木東洋という医者があります。この医者が大へんな変人で,患者をまるで玩具か人形のように扱う,愛嬌のない人です。それではやらないかといえば不思議なほどはやって,門前市をなす有様です。あんな無愛想な人があれだけはやるのはやはり技術があるからだと思いました。それだから建築家になったら,私も門前市をなすだろうと思いました。丁度ちょうどそれは高等学校時分の事で,親友に米山保三郎という人があって,この人は夭折しましたが,この人が私に説諭しました。セント・ポールズのような家は我国にははやらない。下らない家を建てるより文学者になれといいました。当人が文学者になれといったのはよほどの自信があったからでしょう。私はそれで建築家になる事をふっつり思い止まりました。私の考は金をとって,門前市をなして,頑固で,変人で,というのでしたけれども,米山は私よりは大変えらいような気がした。二人くらべると私が如何にも小ぽけなように思われたので,今までの考をやめてしまったのです。そして文学者になりました。(夏目漱石「無題」,大正三年一月十七日東京高等工業学校において
[1]落第(夏目漱石,青空文庫)
[2]無題(夏目漱石,青空文庫)
[3]処女作追懐談(夏目漱石,青空文庫)
[4]明治二十四,五年頃の東京文科大学選科(西田幾多郎,青空文庫)
[5]漱石と自分(狩野亨吉,青空文庫)
[6]吾輩は猫である(夏目漱石,青空文庫)
[7]漱石の悼む大怪物(かわうそ亭)
[8]漱石とメリメ : 『吾輩は猫である』における『カルメン』の水浴(高木雅恵)
[9]漱石覚え書補篇(柴田宵曲)


(写真:夏目漱石と米山保三郎,熊本市広報記事「漱石とくまもと」より引用)




2019年11月15日金曜日

東大寺七重塔

奈良東大寺の創建当時,東西に七重塔があったようだ。最近の東塔の発掘調査でも東塔を囲む回廊の東門の跡が見つかっている。塔の高さは70mとも100mともいわれており,東大寺はその再建を目標としているとのこと。ほんとですか。

日本で一番高い木造の塔は,54.8mの東寺の五重の塔だ。世界で一番高い木造建築物は,58.5mのカナダのブリティッシュコロンビア大学の学生寮だ。70mとか100mは可能なのだろうか?建築基準法上は燃えなければ可能みたい

その東大寺の七重塔は,1970年の大阪万博の際に古河グループの古河パビリオンとして復元されたことがある。ただしこれは木造ではなくプレハブ構造で1年で作ったようだ。その際に作られた七重塔相輪のレプリカは,東大寺大仏殿の横に設置されている。

金沢から大阪まで,雷鳥の臨時特急に乗って万博に行ったのは高校2年の夏休みだった。が,古河パビリオンにはあまり印象がない。岡本太郎のデザインで,小松左京のコンセプトによる内部展示を楽しみにしていただけにちょっと期待外れだった70mの太陽の塔には登ったけれど。


2019年11月14日木曜日

哲学 v.s. 物理学

勁草書房の〈現在〉という謎:時間の空間化批判(森田邦久編著)における哲学者と物理学者の論争は,場外にまで発展した。

第4章 客観的現在と心身相関の同時性[青山拓央
 コメント:哲学者に考えてもらいたいこと[谷村省吾
 リプライ:まず問いの共有を[青山拓央]

第5章 時間に「始まり」はあるか――哲学的探究[森田邦久
 コメント:物理学者が哲学者の時間論を読むとこうなる[谷村省吾]
 リプライ:哲学者も物理学を無視しない――形而上学と物理学の関係性[森田邦久]

これを受けて,名古屋大学の谷村省吾は,『〈現在〉という謎』をめぐる議論 のページで,『一物理学者が観た哲学』 2019年11月6日公開 PDFファイル 総ページ数 110
(書籍『〈現在〉という謎―時間の空間化批判』への補足ノート 増補版)を書いた。

かなり刺激的に哲学者(青山拓央)に喧嘩を売っている。谷村の論点はほぼ理解できる。しかし,谷村と同様に自分にも哲学者の方の言い分はよくわからない。これまでに何冊も科学哲学の本を読んでいるが,哲学者の基本用語がほとんど〈それ〉として理解できないままだ。どうしたものだろうか。

[1]物理学者と哲学者は「時間」を語ってどうすれ違うのか。(重ね描き日記)
[2]哲学者は物理学者の本気の拳をどう受け止めるか…谷村省吾「一物理学者が観た哲学」を読んで(丸山隆一 note)

2019年11月13日水曜日

大学改革の迷走:佐藤郁哉

ちくま新書1451の「大学改革の迷走」を読了した。478ページでかなり分厚い新書本だが2日で読むことができた。ほとんど,自分が体験してきたことと並行しているので,容易に頭に入ったからだ。著者は東北大学の大学院で心理学を専攻した後にシカゴ大学で社会学の Ph. D. を取り,一橋大学の教授から現在は同志社大学の商学部の教授である。社会調査方法論や組織社会学が専門であり,大学改革の真っただ中でのご自分の経験をも踏まえつつ,社会学者らしい視点が随所に見られる。

各章のタイトルではなくサブタイトルとキーワードを並べたほうがその内容が分かる。
第1章 —和製シラバスの呪縛(シラバス,画一化)
第2章 —和製マネジメント・サイクルの幻想(PDCA,経営ごっこ)
第3章 —残念な破滅的誤解から創造的誤解へ(選択と集中,KPI)
第4章 —実質化と形骸化のミスマネジメント・サイクル(慢性改革病,改革ごっこ)
第5章 —大学院拡充政策の破綻と「無責任の体系」(集団無責任体制)
第6章 —改革劇のドラマツルギー(作劇術)を越えて(道徳劇)
第7章 —「大人の事情」を越えて(エビデンス,EBPM,GIGO)

自分も大学の中で,この壮大なインチキを支えて自他を半ば騙しながら改革ごっこの推進側でもがいていた。したがって,あたかも第三者のように大学改革の迷走の犯人・悪者探しをすることはできないはずなのだが,あらゆる場面で道徳劇への参加の誘惑は強い。

5万人の学生調査で問題を抱えたまま,60万人を対象とする調査を繰り返すという話があったが,41万人の全国学習調査のことだろうか。あるいは,大学3年生60万人を対象とした授業評価調査のことだろうか。

2019年11月12日火曜日

桜を見る会

桜を見る会は,例年4月に新宿御苑で行われる内閣総理大臣主催の公的行事である。1700万円の予算を大幅に超過する支出が続いたことが問題視されたかと思ったら,逆に実態を追認して来年度予算を3倍の5700万円にする始末。何年か前に,安倍を批判していた爆笑問題がよばれて安倍と並んでいたときにいやーな感じはしたよね。11月8日の参議院予算委員会での日本共産党の田村智子議員の質疑が注目されている。最初,大手マスコミはほとんど沈黙したままだったが,少しだけ流れが変わったか。これも新しい燃料がなければすぐに沙汰やみになるのだろう。

P. S. 2019.11.13 橋下−NHK−菅 ラインで,燃料を除去(来年度中止)して火消しに走った模様。安倍晋三後援会のホテルニューオータニ前夜祭+富士急行バスツアーの問題も政治資金報告書の問題も何も解決していないはずだけど・・・

P. P. S. 2019.11.15 NHK社会部も結構攻勢をかけていたが,安倍が説明するといっているので(実際,夕刻に記者のぶらさがりで実施),つっぱねるための言い訳の作文ができたのだろう。追求側は証拠が足りず今回も詰めが甘かったということか・・・(今場所の遠藤の相撲みたい)

[1]「桜を見る会」を全部見る!テレ東NEWS:テレビ東京

2019年11月11日月曜日

英語民間試験の国会質疑から


京都工芸繊維大学の羽藤(はとう)由美先生は,京都工芸繊維大学の「大学入試への英語スピーキングテスト導入プロジェクト」のリーダーである。京都工芸繊維大学では,入試改革の一環として,英語スピーキングテスト導入に向けた学際的な研究グループを立ち上げており,国内でも最も先進的な取り組みをしている外国語教育の専門家である。先日の衆議院の文部科学委員会の参考人意見陳述に感銘を受けたので,ここに文字起した。

羽藤由美 参考人(京都工芸繊維大学教授)
意見陳述 11/5 衆議院・文部科学委員会
高大接続改革[英語民間試験]9:08-10:32
英語四技能の育成は重要です。しかし教育のインフラともいえる共通テストを民間に委ねるということは,国にとって重大な判断です。それによって得られるものと失なうものの大きさの比較検討が一切なされていません。
財や名を成した素人が,どこか高いところに集まって,個人的な経験や感想を言いあい,その中で決めた現実味のない教育政策が,推進に無批判に協力するごく少数の研究者や教員を利用する形で,そのまま現場に降りてきます。この現状こそどうぞ改善して下さい。
この国には,英語教育,言語テスト,テスト理論など能力の高い研究者がたくさんいます。教育現場にも地味に研鑽を積み,着実な成果をあげている先生方がいらっしゃいます。どうかその人たちの専門知を結集して,入試に頼らない教育の在り方も含めて,実現可能な最適解を探す努力をして下さい。
今回の検討会議が,そういう会議となるようなご配慮をお願いいたします。
[1]東京大学入学者選抜方法検討ワーキング・グループ答申(2018.07.12)


2019年11月10日日曜日

仮名手本忠臣蔵(八段目より十一段目まで)

先の金曜日,国立文楽劇場の仮名手本忠臣蔵(八段目から十一段目)をみてきた。大ホール前の台風19号などの水害募金チャリティで,吉田玉男さんが珍しく姫の人形を持って募金者との記念写真に応じていたので,記念撮影してもらった。

八段目は,道行旅路の嫁入りだ。どうも道行きは苦手なので途中半分は寝ていたかもしれない。加古川本蔵の妻の戸無瀬と娘の小浪が許嫁の大星力弥に会うため京都の山科まで向う冬の場面。浄瑠璃の出発点は薩埵峠(現在の由比町と静岡市と境で富士山がよく見える)。なにやらなまめかしいセリフがつづくなあと思っていたら,どんどん進んで行って,背景も琵琶湖にかわり,そろそろ山科につくところで終了。道行のトップを務めていた竹本津駒太夫は来年からは六代目竹本錣太夫になる。竹澤宗助の三味線の裏拍子がうまいなあと思った。人形は戸無瀬が吉田和生,小浪が吉田一輔。

九段目は,雪転しの段。雪達磨になぞらえながら祇園一力茶屋から帰ってきた大星由良之助が息子の力弥と禅問答をする。そして,いよいよ山科閑居の段。これは松竹座の歌舞伎も含めて何回かみている。戸名瀬と小浪が山科の大星家に到着し,大星由良之助の妻のお石が二人に冷たく,ピリピリとしたやり取りが延々と続くのであった。竹本千歳太夫はあいかわらずうなっていたけれど,豊澤富助はセーブしている感じ。確かにご無用の出所がふめいだった。豊竹藤太夫は,結構重い球を投げていて良かったのではないか。三味線の鶴澤藤蔵がうなりすぎるのをなんとかしてほしいという家人の説に同感である。歌舞伎で見たときに,雪が積もった竹で戸を開ける仕掛けの場面が印象深かったので,今か今かと待っていたら,この段の最後にやっとでてきた。しかも今回はちょっといまいちの戸の外れ方で,期待の方が外れてしまった。加古川本蔵は重要な役なのに,大星由良之助の仕掛けの披露に紛れていつの間にか死んでしまいかわいそうである。もう少しスポットを当てればよかったのに>並木宗輔?。で,はっきり天河屋に続くことを宣言してこの段は幕を閉じる。

十段目の天河屋の段が,今回のスペシャル趣向になっている。住太夫の相三味線だった野澤錦糸師匠が復曲して,102年振りに原作通りの口・奥の形で上演された。前半は以前も見ているけれど,天河屋義平も怒るよね。竹本小住太夫は迫力はないかもしれないけれど,登場人物の語り分けがうまいし,心配なしで聞くことができる。今回の豊竹靖太夫はまあボチボチか。後半のストーリーがなかなか大変で,子どもを持つお母さん達にはキツイのではないか。桐竹勘介の足の黒子だけ,ちょっと高さが他とずれていたので改善してほしい。吉田簑紫郎は丁稚伊吾の役であり,人形が人形を遣うという珍しいものだった。

十一段目は花水橋引揚げより光明寺焼香の段。普通はどちらか一方だけでおしまいなのだが,今回は両者が続く。女性の人形遣いが登場したのかと思ってよく見ると,千崎弥五郎の吉田玉延君だった模様。若い人が増えるのはいいですね。それにしても太夫の層が薄いのが気になる。豊竹咲太夫師匠が7月に人間国宝の認定を受けたが,最近あまりメジャーな役をしないのは,若手育成のためだとおっしゃっている。これはこれでありかもしれない。なお,騒動のそもそもの原因である桃井若狭之助が最後に騎馬で登場して,エエカッコしているのはどうなのよという文をどこかで見たが,その通りだと思う。

2019年11月9日土曜日

興福院特別公開

奈良市法蓮町の興福院(こんぶいん)は奈良時代に創建された浄土宗知恩院派の鄙びた尼寺だ。奈良高校の裏手辺りの佐保山の丘陵地に立地し,本堂からは奈良の町並みが一望できる。普段は一般公開されていないのだが,今年20年ぶりの特別公開が行われ,予約無しで拝観することができた。秋晴れの日に参詣客がそぞろ訪れていたが,さすがにここまでは外国人観光客が到達していない模様。

国重要文化財の客殿には,襖絵や袱紗などが展示されていた。雨ざらしになりそうな渡り廊下の階段を登って,足を踏み抜きそうな橋部を慎重に踏み渡っていくと本殿に至る。本殿にあるご本尊は,国重要文化財である天平時代の阿弥陀三尊像だ。木心乾漆阿弥陀如来の印相は珍しい中品下生のもので,両脇侍は観音菩薩と勢至菩薩。庭も美しく手入れされており,くちなしの若芽が養生中だった。


写真:興福院の大門と本堂(2019.11.08撮影)


2019年11月8日金曜日

TEAC LP-R550

TEACターンテーブル/カセット付きCDレコーダー LP-R550が壊れてしまった。先日,新大阪にあるTEAC修理センターに持ち込んだところ,修理不能のため,有料で新品のLP-R550USBに交換され送られてきた。家にあるレコードを聴くためのミニマムのセットである。

大学時代の下宿ではSONYのラジカセを愛用し,レコードを聴くのは自宅に帰省したときに限られていた。あ,そうではない。妹が隣棟の2Fに下宿していて,SONYのオーディオセットを買っており,レコードはそこで聴いていた。あれは,たぶん1978年に彼女が結婚した際に持って行ったはずだ。

1981年に自分が結婚したときには,テクニクスのシンプルなコンボを買った。父が亡くなる前にこれを金沢に持って行ったのは,レコードを聴いてもらうためだっただろうか。その後,廃棄して後継はSONYにしたのだが,こちらのほうは記憶にすらない。このころから購入したSONY製品の劣化が進んで,テレビやビデオなども軒並みにすぐ調子が悪くなった。

CDの時代になってレコードは聴かなくなったと思ったら,iPod全盛期を迎え,家族全員が持っていた。そのうちCDも買わなくなり,レンタルCDをダビングする時代になった。iPodはiPhoneに移行し,ついにstreamingの時代になってしまった。CDの全盛期は1985年から2005年までしか続かなかった。で,再びアナログレコードの復権である。かな?


    

写真:テクニクスの1980年頃のモデル(Technicsより),TEAC LP-R550USB(TEACより)

2019年11月7日木曜日

子ども提灯行列

中原中也の「金沢の思い出」には次の文があった。

「今以てそれは不思議といへば,一度町内の子供が全部揃つて,忠臣蔵の真似をして練り歩いたことがある。長い列であつた。その先頭ではホラ貝を吹いてゐた。子供達ばかりでやつたことゝしては統制があり過ぎた。あれは親達も手を貸したのであらうか? それともあゝした習慣が金沢にはあつたのであらうか?」

これ,百万石まつりのときに行われる小学生の子ども提灯太鼓行列のことかと思った。しかし,金沢百万石まつりが始まったのは,1952年の商工まつりから。あるいはルーツを辿っても,尾山神社での封国祭に合わせて,1923年(大正12年)から1945年(昭和20年)まで金沢市祭として行われてきた奉祝行事ということなので,中原中也が金沢にいた1912-1914年とはあわない。

自分たちが提灯行列に参加したのは小学校5年のときだったのではないかと思う。泉野小学校の校庭に集まり,兼六園の付近まで全員で移動する。そこには市内の小学生が終結しており,夕方になると各校下にむけて,赤い提灯を掲げながら行進した。寺町通りをある程度進むと自宅が近くなるので,流れ解散となったような気もするし,もう暗くなった夜道を小学生がばらばらと帰って行くのも危ないと思うがどうだったのか。

行列の行進の際は,金沢市民の歌(金沢市歌のほうではない)石川県民の歌など(小学校でよく練習している)をみんなで声を張り上げてうたい気勢をあげるのであった。たぶん,何かのDNAで中也の思い出と結ばれているような気がした。


2019年11月6日水曜日

中原中也と金沢

NHKEテレの「にほんごであそぼ」は良い。今は亡きうなりやベベン(国本武春)や文楽の竹本織太夫(豊竹咲甫太夫)や鶴澤清介,野村萬斎など豪華出演陣とよく練られた構成が相俟ってたまに見るととても良い。

昨日は,中原中也(1907-1937)の「サーカス(山羊の歌)」の一部を織太夫・清介コンビが朗読していた。朗読というのかな「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」だけなので。

この詩「サーカス」は中也の金沢時代(1912-1914)の印象がヒントになっているといわれている。青空文庫には「金沢の思ひ出」という小文があり,中也が父に連れられて軽業の興行を見に行った神明館横の空地で,映画館神明館の弁士の息子とやりとりする場面が記されている。この神明館は犀川を寺町台地側に渡ったすぐにある今の神明宮にあった。

この神明宮で私の父の芳一が小林小児科の院長と若いときに喧嘩したと聞いたことがある。その院長の息子の小林博人君は皮膚科医になったが,小学校から高等学校までの同級生だ。野田中の2年のときは同じクラスだったので,特に仲よくしていた。マジカルミステリーツアー,ハローグッドバイ,レディマドンナの時代のビートルズに感化されたのは彼からだった。寺町で小林小児科のあとに皮膚科医として開業していたが,後に病院勤務になっていた。

中原中也の金沢でのゆかりの場所について,金沢の思い出の文を辿りながらたいへん詳しく調べているのがこちらのブログ記事「中原中也の金沢の思い出」である。若干付け加えるとするとタカジアスターゼの弟やその三男の話がある。タカジアスターゼとは高峰譲吉のことである。「高峰譲吉博士③ルーツ高峰譲吉博士④金沢の所縁の地を歩く」によれば「高峰家の菩提寺は,金沢市寺町5丁目の臨済宗国泰寺で,高峰家のお墓には、譲吉博士の父、母、弟3人、妹3人がまつられています」,また「譲吉博士は、大正2年(1913)5月2日,亡き両親の法要のためこの国泰寺を訪れ,金沢第一中学で講演もしています。当時,寺町,大桜向いに弟の家が有ったと聞きます」とのことで,中原中也はちょうどこの時に,高峰譲吉のその弟の家の隣に住んでいたと思われる。

2019年11月5日火曜日

南円堂と北円堂

家人に勧められて,興福寺国宝特別公開【南円堂,北円堂】に行った。秋晴れの爽やかな朝,すでに30人ほどが興福寺に設置された特別展の ticket counter に並んでいた。重要文化財南円堂では,東向きの国宝木造不空羂索観音菩薩座像(康慶作)のまわりに国宝木造四天王立像(康慶作)が多聞天(北東)持国天(南東)増長天(南西)広目天(北西)と囲んでおり,本尊の左手と右手の脇に国宝木造法相六祖座像(康慶作)が玄賓,行賀,常騰と玄昉,善集,神叡が据えてあった。南円堂よりひとまわり小さな国宝北円堂には国宝木造弥勒如来座像(運慶作)の背後に国宝木造無著菩薩立像と世親菩薩立像(運慶作)が,脇の左右に法苑林菩薩と大妙相菩薩が,そして国宝木心乾漆造四天王立像が囲んでいる。

運慶の無著菩薩は前回見たときは凄い印象があったが今回は弥勒如来ともども,康慶の迫力に負けてしまった。南円堂は何周もして四天王像の特徴を観察した。両足の上げ方や火焔光背の炎の向きの対称性,両手に持つ武具と宝物,衣装や兜,体型などすべてが緻密に計算されて形造られて本尊の周りを囲んでいた。一般に,四天王は持国天(東)増長天(南)広目天(西)多聞天(北)とそれぞれの守護範囲が決まっているのだが,本尊の向きとこの四方を護持する関係で実際の方位は異なる場合もあるようだ(見張りのお坊さんに尋ねてみた応答からの推測)。

その後,再建された中金堂にも回ってみたが,こちらは着飾った新婚外国人カップルがプロカメラマンを従えて中金堂を背景に記念スチール写真の撮影会をやっているような状況で,これはこれで大変雰囲気にマッチしていたが,中に収められた江戸時代の釈迦如来座像などは今一つだった。国宝木造四天王立像や重要文化財薬王・薬上菩薩立像なども再建された中金堂の空間の雰囲気になじめず,残念な状況だった。


写真:南円堂と北円堂(撮影 2019.11.05)

2019年11月4日月曜日

反対称テンソルと対称和

ある量の対称和が必要な場合がある。これを,レヴィ=チヴィタ記号$\varepsilon_{ijk}$で表現する例をいくつか考えてみた。$\varepsilon_{ijk}^2 = (1-\delta_{ij}) (1-\delta_{jk}) (1-\delta_{ki})$が成り立つような気がする。
\begin{equation}
\begin{aligned}
A_1 B_2 C_3 + A_2 B_3 C_1 + A_3 B_1 C_2 &= \dfrac{1}{2} \sum_{ijk} (\varepsilon_{ijk} + \varepsilon_{ijk}^2) A_i  B_j C_k\\
A_1 B_2 B_3 + A_2 B_3 B_1 + A_3 B_1 B_2 &= \dfrac{1}{2} \sum_{ijk} \varepsilon_{ijk}^2 A_i  B_j B_k\\
A_1 + A_2 + A_3 &= \dfrac{1}{2} \sum_{ijk}\varepsilon_{ijk}^2 A_i
\end{aligned}
\end{equation}

2019年11月3日日曜日

民間試験導入としての記述問題

大学入学共通テストへの英語の民間試験導入は,幅広い層の反対論をベースに萩生田のオウンゴールがアシストとなって,11月1日の共通ID提出開始のタイミングで延期となった。『11月1日に文部科学大臣から、令和3年度大学入学者選抜から導入予定であった英語民間試験活用のための「大学入試英語成績提供システム」の導入を見送るとの発表がありました

しかし,文部科学省は,もう一つのベネッセ案件である国語・数学における記述試験はこのまま進めると主張している。その問題点については,「大学入試改革「炎上」の裏に潜むもう1つの火種英語のみならず数学と国語でも民間試験導入」で指摘されている。結局すべてが,公共財を私企業へ売り渡たす利権モデルということか。大阪維新と完全に相似形の安倍政権。

[1]高校も大学も頭を抱える「センター試験改革」あまりにも多すぎる問題点(2019.1.19)
[2]高等教育局大学振興課説明資料(2019.2.12)
[3]英語だけじゃない…大学入試改革の「国語記述式問題導入」の害悪(2019.11.01)
[4]残る選択肢は「センター試験」続行?英語の次は国語……大学入試改革で起こるドミノ倒し(2019.11.06)

2019年11月2日土曜日

Makie.jl

Juliaのパッケージ Grassmann.jl がリニューアルされたというニュースが伝わってきたので,早速調べてみたら, Makie.jl を用いたベクトル場の流線表示の図形が載っていた。Makieは日本語の蒔絵に由来してネーミングされた,GPUを用いる高機能なjulia用グラフィックスのパッケージのようだ。

さっそく,Makie.jlをPkg.add("Makie") してみたがなかなかうまくいかない。そもそも例題が実行できないのだ。あの物性理論の永井祐紀さんが,「Juliaで綺麗なプロットを作る:Makie.jlのインストールと使い方」という記事を2018年12月に書いていたので,早速試してみた。

まず,AbstractPlotting.jlとMakie.jl と GLMakie.jl をインストールせよとある。そうなのか。
サンプルはすべて,FileIO.jl を使って,save("filename.png", scene)としている。そうなのか。ちなみに,ファイルに保存せずに直接画面に出力しようとすると,No renderer could be found for output. It has the following MIME types: というエラーが出てしまう。

とりあえず,指示に従うと,サンプルファイルはほぼ再現できたが,残念ながら,minimum( ) があるものはすべて,収束しないエラーで挫折してしまった。あと,streamplotの中のvectorfieldやlinesの中のpointなどがないといわれる。何が足りないのか?

成功した例は次のようなもの。
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using AbstractPlotting

 x = range(0, stop = 2pi, length = 80)
 f1(x) = sin.(x)
 f2(x) = exp.(-x) .* cos.(2pi*x)
 y1 = f1(x)
 y2 = f2(x)

 scene = lines(x, y1, color = :blue)
 scatter!(scene, x, y1, color = :red, markersize = 0.1)

 lines!(scene, x, y2, color = :black)
 scatter!(scene, x, y2, color = :green, marker = :utriangle, markersize = 0.1)
 save("graph.png",scene)
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図 Makieを用いた関数のプロットの例



2019年11月1日金曜日

ブルーシート

ブルーシートの記事があった。日本のトップメーカーで,岡山県にある萩原工業が,化学繊維のフラットヤーン技術を確立して,1965年にブルーシートの原型の万能シートを売り出す。最初はオレンジ色だったのが,カドミウムが含まれるという誤ったウワサを払拭するため,1970年代にブルーになった。国産シートの9割のシェアを持つが,最近は中国産が主流となっているなど,興味深い話だった。耐久性等,品質の観点からは輸入品には負けないらしい。
米国ではカラーコードによって強度と厚みが共通化されており
 青=ライト・デューティ=0.13-0.15 mm
 黄色/オレンジ=ミディアム・デューティ0.18-0.20 mm
 緑=ミディアム・デューティ=0.23-0.25 mm
 シルバー=ヘビーデューティ=0.28-0.30 mm
 茶=スーパーヘビーデューティ=0.41mm
ということで,アシスト瓦のシルバーはこれに相当するということなのだろうか。

2019年10月31日木曜日

沖縄

沖縄に旅行したことが2回ある。

1度目は1977年に,神戸港から真鍋さんペアに見送られながら船で与論島へ向かう米島誠二君との二人旅。与論島に2泊した後の那覇は,沖縄返還後間もない時期で,到着した晩は食べたステーキはアメリカのように?安かった。船を降り,当日の宿泊先を決めていない我々のような旅行者に宿を案内する人が集まってきた。1500円でいいよというおじさんの言葉に誘われて,国際通りの北(辻のあたりだったろうか)の民宿に2泊ほどした。当時は,返還後の1975年に沖縄復興のてこ入れとして沖縄国際海洋博覧会が開かれた後の沖縄旅行ブームが終わり,民宿の経営はたいへんだったのだろう。首里城跡の博物館や,守礼の門まで歩いたような気がする。まだ,首里城の復元は始まっていなかった。帰りも牧志市場から国際通りに向けて歩いて下った。毒のある大きなカタツムリは触らないように注意しなければならない。

2度目は 家族旅行だ。1992年に復元が完成して数年後の首里城を訪れた。子どもたちが小学生の頃だったと思う。宿泊は沖縄中部にあるビーチ(かりゆしビーチ?)のリゾートホテルで,子どもたちと午後から半日海水浴をしただけで,南国の強い日光にやられてしまった。夕食後どんどん体調が悪くなり,水風呂で癒そうとしたが,皮膚呼吸ができずに苦しんだ。翌日,首里城観光へ向ったが,太陽光線を浴びると苦しいので,日陰を選びながらやっとの思いでたどりついた。そんなわけで,首里城の印象より,日焼けで苦しんだ思い出の方が強いのであった。


2019年10月30日水曜日

アシスト瓦

今年の秋は豪雨の被害が続いている。特に千葉から北関東や東北にかけてがたいへんだ。暴風で屋根瓦が破損した状態で,豪雨が襲うという状況のようだ。昨年の大阪北部地震での屋根瓦の被害はまだ回復しておらず,ブルーシートがかかったままの家屋が非常に多い。こうした屋根瓦の破損にたいする応急的な措置として,ブルーシート張に加え,簡易なアシスト瓦で欠けた瓦を補完するアイデアが考えられた。

特定非営利活動法人レスキューアシストの中島武志さんが考案したもので,30cm角の段ボールを防水・対紫外線仕様のシルバーシートでくるみ,防水テープで周囲を止めたものだ。千葉の台風15号の被害に対して緊急支援を募ったところ,全国からアシスト瓦が集まった

[1]アシスト瓦の作り方(レスキューアシスト)

2019年10月29日火曜日

船弁慶

NHKの「にっぽんの芸能」で船弁慶をやっていたので,これは,義経千本桜とどんな関係になっているのか調べようとしたところ,滋賀県立大学能楽部にたどりついた。農学部ではない。これはなかなか素晴らしいサイトだ。謡曲三百五十番集入力やたがらすナビもよい。

2019年10月28日月曜日

ディオファントス方程式 $x^3+y^3+z^3=n$(3)

ディオファントス方程式$x^3+y^3+z^3=n$(2)からの続き)

3つの立方数の和について

 Andrew Bookerが,$x^3+y^3+z^3=n$の$n=33$の解を求めたというニュースを聞いたのは今年の3月のことだった(33は3つの立方数の和で表される)。その時点で未発見で残っていた2桁の解は,$n=42$だけだった。先月のはじめに,彼らのチームがこれを発見したようだ。1000以下で残された$n$は,114, 390, 579, 627, 633, 732, 921, 975の8つとなった。

(-80,538,738,812,075,974)^3 + (80,435,758,145,817,515)^3 + (12,602,123,297,335,631)^3 = 42

[1]ディオファントス方程式$x^3+y^3+z^3=n$(1)(2019.3.13)
[2]Sum of three cubes for 42 finally solved – using real life planetary computer
[3]Craking the problem with 33
[4]On Searching for Solutions of the Diophantine Equation $x^3 + y^3 + z^3 = n$

2019年10月27日日曜日

仏説阿弥陀経

阿弥陀経の極楽の描写がおもしろかった。要約するとこんな感じ。

「極楽國土クラブには,金銀宝石がちりばめられた高級ボトルがずらっと並び,周囲の階段を登って上層階から見下ろすと,お酒を満たしたプールの中で蓮の形をした赤・黄・青・白の発光ダイオードのミラーボール照明が怪しく輝き,室内にはカラフルな紙吹雪が天井から舞い落ちているようだ。このクラブは昼から夜まで24時間,高級服で着飾ったお客さん達でいっぱいだが,ここに来られなかった人達のことをザマアと思っている自分自身に嫌悪している偽善者だ。食事は自宅で済ましてきているので,ここでは呑んで騒いで功徳を積むだけだ。クラブには奇抜なデザインの鳥の扮装をしたコンパニオンが大勢いて,皆で共にカラオケのオーケストラを楽しんでいる。この選曲がサイコーであり,とても心に響く。」

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又舍利弗,極樂國土,七重欄楯 七重羅網 七重行樹。皆是四寶,周帀圍繞。是故彼國,名曰極樂。

(欄楯らんじゅん=玉垣,羅網らもう=四寶でできた網,行樹ごうじゅ=寶果をつけた樹の並木)
四寶とは,金・銀・瑠璃・玻璃)

又舍利弗,極樂國土,有七寶池。八功德水 充滿其中。池底純以 金沙布地。四邊階道,金銀琉璃 玻瓈合成。上有樓閣,亦以金銀琉璃 玻瓈硨磲 赤珠碼碯,而嚴飾之。池中蓮華,大如車輪。青色青光,黄色黄光,赤色赤光,白色白光。微妙香潔。舍利弗,極樂國土,成就如是 功德莊嚴。

七寶とは,金・銀・瑠璃・玻璃・硨磲・珊瑚・瑪瑙)
八功徳水とは,甘・冷・軟・軽・清浄・不臭・飲時不損喉・飲已不傷腹)

又舍利弗,彼佛國土,常作天樂。黄金爲地。晝夜六時,而雨曼陀羅華。其國衆生,常以清旦,各以衣裓,盛衆妙華,供養他方 十万億佛。即以食時,還到本國,飯食經行。舍利弗,極樂國土,成就如是 功德莊嚴。

復次舍利弗,彼國常有 種種奇妙 雜色之鳥。白鵠孔雀 鸚鵡舍利 迦陵頻伽 共命之鳥。是諸衆鳥,晝夜六時 出和雅音。其音演暢 五根五力 七菩提分 八聖道分 如是等法。其土衆生,聞是音已,皆悉念佛念法念僧。舍利弗,汝勿謂此鳥 實是罪報所生。所以者何。彼佛國土,無三惡趣。舍利弗,其佛國土,尚無三惡道之名。何況有實 是諸衆鳥。皆是阿彌陀佛,欲令法音宣流,變化所作。舍利弗,彼佛國土,微風吹動 諸寶行樹 及寶羅網,出微妙音。譬如百千種樂 同時倶作。聞是音者,皆自然生 念佛念法念僧之心。舍利弗,其佛國土,成就如是 功德莊嚴。

(極楽浄土の六鳥とは,白鵠・孔雀・鸚鵡・舎利・迦陵頻伽・共命)
五根とは,解脱を得るための五つの能力,信,動,念,定,慧)
五力とは,個人の中で主導的な力となった上記の五つの能力)
(七菩提分=七覚支とは,悟りを得る為に役立つ七種の行法,念覚支・択法覚支・精進覚支・喜覚支・軽安覚支・定覚支・捨覚支)
(八聖道分=八正道とは,戒(正語・正業・正命),定(正精進・正念・正定),慧(正見・正思惟)
三惡趣=さんまくしゅ,とは,悪業を重ねた人間が死後に趣く3つの下層世界,餓鬼趣,畜生趣,地獄趣)
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聖教電子化研究会仏説阿弥陀経から引用して注釈)




2019年10月26日土曜日

大学入学共通テスト

大学入学共通テストでの英語民間試験の利用や国語・数学への記述問題の導入はともに大きな問題をはらんでいる。ここにきて様々な反対運動が立ち上がっているが,安倍側近の萩生田光一文部科学大臣は,反対意見を無視して突っ走る構えである。極右の刀を右手に振りかざし,グローバル資本主義のハンマーを左手に掲げ,日本社会を破壊しながら階層の分断化を推進する政策が進んでいく。

筑波大学附属駒場高等学校の2年生がAERAのインタビューに答えた記事「筑駒生、大学入学共通テスト中止を訴える 「ぼくたちに入試を受けさせてください」」はtwitter上で共感を集めている。みわよしこの「貧困高校生を顧みない、大学入試新テストと英語民間試験の「非情」」は共通テストの問題点に迫っている。

国会での英語民間試験活用導入延期法案の動きについては賛否があるが,どうなるだろうか。[6]を見ると,これはもうどうしようもなくて,もっと先に進んでしまうのか。

[1]大学入試英語ポータルサイト(文部科学省)
[2]英語4技能検定の延期及び制度の見直しを求める要望書(全国高等学校校長会)
[3]2019.07.03 TOEIC撤退
[4]2019.07.06 大学入学共通テストの採点
[5]2019.07.07 記述式問題の問題
[6]大学入試改革を民間に丸投げする文科省の狙い(東洋経済オンライン)



2019年10月25日金曜日

量子超越性

先日の日本経済新聞の1面トップ記事でも取り上げられたのが,googleによる初の量子超越性の実験的証明にかかわるNature論文。論文の査読には Scott Aaronson や 藤井啓介さんも関わっている。今日(10/25)の日経朝刊も前のめりになっていた。量子計算の専門家のコメントもなく,いきなり応用と暗号化リスクの話に持ち込んでいる。NHKも同様。これが典型的な日本のメディアの反応だ。まあ,マスメディアというのは本質的にそういうものなのかもしれない。

【タイトル】
プログラム可能な超伝導素子を用いた量子超越性
Quantum spremacy using a programmable superconducting processor
【出典】
23 October 2019 Nature 574, 505-519 (2019)
【著者】
Frank Arute, Kunal Arya, Ryan Babbush, Dave Bacon, Joseph C. Bardin, Rami Barends, Rupak Biswas, Sergio Boixo, Fernando G. S. L. Brandao, David A. Buell, Brian Burkett, Yu Chen, Zijun Chen, Ben Chiaro, Roberto Collins, William Courtney, Andrew Dunsworth, Edward Farhi, Brooks Foxen, Austin Fowler, Craig Gidney, Marissa Giustina, Rob Graff, Keith Guerin, Steve Habegger, Matthew P. Harrigan, Michael J. Hartmann, Alan Ho, Markus Hoffmann, Trent Huang, Travis S. Humble, Sergei V. Isakov, Evan Jeffrey, Zhang Jiang, Dvir Kafri, Kostyantyn Kechedzhi, Julian Kelly, Paul V. Klimov, Sergey Knysh, Alexander Korotkov, Fedor Kostritsa, David Landhuis, Mike Lindmark, Erik Lucero, Dmitry Lyakh, Salvatore Mandrà, Jarrod R. McClean, Matthew McEwen, Anthony Megrant, Xiao Mi, Kristel Michielsen, Masoud Mohseni, Josh Mutus, Ofer Naaman, Matthew Neeley, Charles Neill, Murphy Yuezhen Niu, Eric Ostby, Andre Petukhov, John C. Platt, Chris Quintana, Eleanor G. Rieffel, Pedram Roushan, Nicholas C. Rubin, Daniel Sank, Kevin J. Satzinger, Vadim Smelyanskiy, Kevin J. Sung, Matthew D. Trevithick, Amit Vainsencher, Benjamin Villalonga, Theodore White, Z. Jamie Yao, Ping Yeh, Adam Zalcman, Hartmut Neven & John M. Martinis
【概要−拙訳】
 量子コンピュータへの期待は,ある種の計算が従来のコンピュータより指数関数的に速く実行できるかもしれないというところにある。根本的な挑戦は指数関数的に大きな計算空間で量子アルゴリズムを走らせることができる高信頼プロセッサをつくることである。
 この論文で我々は2^53ビット(10^16ビット)の計算空間に対応する53量子ビットの量子状態を作れるプログラム可能な超伝導キュービット素子について報告する。
 反復された実験の測定は確率分布を与え,それは古典的なシミュレーションでも確認された。我々のシカモアプロセッサは1つの量子回路を100万回動かして1つのインスタンスをとり出すのに200秒かかった。これは,従来型のスーパーコンピュータが1万年かけて計算する仕事に匹敵するものである。
 すべての既知のアルゴリズムに対するこの量子コンピュータの劇的な高速化は,特定の計算において量子超越性を実験的に実証したものであり,予想されていた計算パラダイムの転換の先駆けとなるものである。

[1]グーグルが主張する「量子超越性の実証」にIBMが公然と反論した理由(Wired.jp)
[2]Googleが量子超越を達成−新たな時代の幕開けへ(Qmedia)
[3]量子コンピューティングの次のステップ:コンピュータサイエンスの役割(Qmedia)
[4]Quantum supremacy: the gloves are off(The Blog of Scott Aaronson)


2019年10月24日木曜日

まちライブラリー

先日訪れた東大阪市文化創造館に,「まちライブラリー」という民営のライブラリーが入館していた。まちライブラリーをはじめた,礒田純充(いそだよしみつ)さんの略歴などがここにある。だれでもがどこにでもライブラリーをつくって集うというものらしい。

第1号は礒田さんが天満ではじめたISまちライブラリー(ここはメンバーシップ制だ)。まちライブラリー@東大阪は, No.715 だった。全く好きではないTSUTAYA風にデザインされた本棚に,テーマ別に選書された本が並んでいた。本には寄贈した人のメッセージカードがあって,借りた人がそれを繋ぐことができるようになっていた。

2019年10月23日水曜日

豆玩舎ZUNZO

奈良から近鉄奈良線の八戸ノ里へ行くには,生駒から先は準急で進み,東花園で普通電車に乗り換える必要がある。諸般の事情でこれに失敗すると河内小阪で降りて歩いて戻る羽目に陥る。なお,近畿大学本部の最寄り駅は,近鉄大阪線の弥刀であることに注意する。

東大阪市は,人口50万人の中核市だ。花園ラグビー場と技術を持った中小企業が集積する町として知られているはずだ。なんと,江崎玲於奈と山中伸弥も輩出しているようだ。

司馬遼太郎や田辺聖子の記念館・文学館や,大阪商業大学アミューズメント産業研究所という,囲碁・将棋・麻雀などのゲームや娯楽についての研究や常設展示をしている施設もあり,見どころは多いと宣伝されていた。

荒本にある東大阪市の教育委員会を訪ねたことがあるが,そこは高層ビルで堺市役所の次に立派な市庁舎の中にあった。東大阪市は儲かっているのだろうか。最近,東大阪市文化創造館という複合施設も完成し,非常に立派なホールができていた。

さて,八戸ノ里駅前には,グリコのおまけを開発で知られている宮本順三が設立した宮本順三記念館(別名豆玩舎ZUNZO)が小さなビルの4Fにあった。宮本順三は,1935年に江崎グリコに入社しており,グリコのおまけのアイディアを求めて世界を回って収集したおもちゃがたくさんあった。

自分がグリコのおもちゃで遊んだ時代は,プラスチック製のものが主流となる少し前だったように思う。木でできた電化製品や乗り物や道具などがあったはずなのだか,展示されているグリコのおまけの中であまり記憶にぴったりはまるものはなかった。江崎記念館に行く必要があるのかな。



写真:豆玩舎ZUNZO(2019.10.22撮影)

2019年10月22日火曜日

1次元井戸型ポテンシャル(2)

1次元井戸型ポテンシャル(1)からの続き)

テレビは朝から即位の礼のニュースで埋めつくされているのでなかなか気持ちが悪い。ラグビーワールドカップが終わった(実はまだ終わっていないの)と思ったらこれだ。オリンピックかIRカジノまでこの調子なのだろうか。

Mathematicaによる1次元井戸型ポテンシャルの解法をjuliaに移植してみた。Mathematicaプログラミングは土地勘があるので,簡単なガイドがあれば大丈夫だ。juliaプログラミングはそこまで熟達していないので,地図とガイドとネットでの評判を駆使して歩き回ることになる。ポイントは2つ。非線形方程式を解くFindRootや代数方程式を解くNSolveをどうするか。グラフをどうするか。それさえクリアすればよいのだが,なかなか難しかった。

非線形方程式を解くパッケージ NLsolve,1次元の数値積分を実行するパッケージQuadGKを導入した。図形描画のためのPlotとGRは既に導入済みである。こういうときに助けになるのが阪大のサイバーメディアセンターの降旗大介さんのページ(Applied Mathematics 9)。NLSolveは生で使うと非常にわかりにくい仕様になっているので,降旗さんがシンタックスシュガーを作ってくれている。おかげで比較的簡単に使うことができるが,MathematicaのFindRootの方がわかりやすいと思うのは気のせいか。規格化条件から波動関数の振幅を求める連立方程式も,MathematicaのNSolveに対応するものが見当たらなかったので,NLsolveを使うことにした。

問題はグラフだ。MathematicaのPlotルーチンにはなじんでいるので,およその様子はわかるが,juliaの方はさっぱりで難渋した。データを離散的なリストの形にするところまでは問題なかったが,そうすると横軸がデータ数でプロットされる。これをもとの変数に変換するためには,Plotの引数にxのリストを与える必要があることに気付くまで半日要した。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
using NLsolve
using QuadGK
gr()

function nls(func, params...; ini = [0.0])
#
#スカラー変数 x スカラー関数 f(x,params)=0
# nls( f, params, ini = xの初期値 )
#ベクトル変数 x ベクトル関数 f(x,params)=0
# nls( f, params, ini = xの初期ベクトル )
#
    if typeof(ini) <: Number
        r = nlsolve((vout,vin)->vout[1]=func(vin[1],params...), [ini])
        v = r.zero[1]
    else
        r = nlsolve((vout,vin)->vout .= func(vin,params...), ini)
        v = r.zero
    end
#    return v, r.f_converged
    return v
end

function heaviside(t)
  0.5 * (sign(t) + 1)
end

function r2(v0,a)
  r=10^6*v0*a^2/(2000)^2
  return r
end

function h1(x, p)
  a,b = x # x[1] とか x[2] と書くのは面倒なので,a,b で代用
  c,d = p # p[1] とか p[2] と書くのは面倒なので,c,d で代用
  return [b+a/tan(a)+c, a^2+b^2-d]
end

function h2(y, q)
  a,b = y # y[1] とか y[2] と書くのは面倒なので,a,b で代用
  c,d = q # q[1] とか q[2] と書くのは面倒なので,c,d で代用      
  (f,hf) =quadgk(x -> sin(c*x)^2, 0, 1)
  (g,hg) =quadgk(x -> exp(-2*d*x),1,10)
  return [a*sin(c)-b*exp(-d), a^2*f+b^2*g-1]
end

function wf(x,s,t)
  (pa,qa)=s
  (a,b)=t
  return [heaviside(1-t)*a*sin(pa*t)+heaviside(t-1)*b*exp(-qa*t) for t in x]
end

r = [0, r2(50, 2)]
ini_v = [2.0, 1.0]
s = nls(h1, r, ini = ini_v)
ini_u = [1.0, 1.0]
t = nls(h2, s, ini = ini_u)
x = 0:0.01:3
plot(x,wf(x,s,t))
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
図 1次元井戸型ポテンシャルの波動関数


2019年10月21日月曜日

1次元井戸型ポテンシャル(1)

明後日の量子物理学の授業は,1次元井戸型ポテンシャル(復習)の続きなので,数値計算で結果を確認するためのコードをMathematicaで書いてみた。

1次元ポテンシャル $V(x)$に質量$m$の電子が束縛されているとする。$x \le 0$ で$V(x)=\infty$ ,$0 \lt x \lt a $で,$V(x)=0$,$a \le x$で$V(x)=V_0$として [eV]単位で与える。ポテンシャルのレンジ $a$は [Å]単位とする。$2mc^2=10^6$[eV],$\hbar c = 2000$ [eV・Å] と近似した。$r2= \frac{2mc^2 V_0 a^2}{(\hbar c)^2} =(\pi/2)^2$以上で束縛状態が存在する。

In[1]:= r2[V0_, a_] := 10^6*V0*a^2/(2000)^2
In[2]:= Clear[pa, qa]
In[3]:= sol1 = FindRoot[{p^2 + q^2 == r2[50, 2], q == -p/Tan[p]}, {p, 5}, {q, 3}]
Out[3]= {p -> 5.41164, q -> 4.55128}
In[4]:= {pa, qa} = {p, q} /. sol1
Out[4]= {5.41164, 4.55128}
In[5]:= Clear[A, B]
In[6]:= sol2 =NSolve[{A Sin[pa] == B Exp[-qa], A^2 Integrate[Sin[pa x]^2 , {x, 0, 1}] +
                                     B^2 Integrate[Exp[-2 qa x], {x, 1, Infinity}] == 1}, {A, B}]
Out[6]= {{A -> -1.28052, B -> 92.8589}, {A -> 1.28052, B -> -92.8589}}
In[7]:= {A, B} = {A, B} /. sol2[[1]]
Out[7]= {-1.28052, 92.8589}
In[8]:= Plot[A Sin[pa x] HeavisideTheta[-x + 1] +  B Exp[-qa x] HeavisideTheta[x - 1],
{x, 0, 3}, PlotRange -> {-2, 2}]

図 1次元井戸型ポテンシャルの波動関数








2019年10月20日日曜日

体育の授業

大学の教養課程での体育の授業は,とりあえずちゃんと出席すれば単位を取ることができた。種目は選択だったのかもしれないが,憶えているのは半期ラグビーのコースを選択したことだけだ。受講していたのは30人くらいいただろうか。高校時代にラグビーをやったものなどほとんどいないので,一から手取り足取り,スクラムやラインアウトやパスやキックを順番に体験して,ほとんど試合らしくない練習試合までいったかどうか。試験は目標を設定してそこにキックしたボールが入るかどうかだった。それなりにうまく蹴ることができたような気もしたが,結局成績はいつものように並であった。

2019年10月19日土曜日

児童生徒の自殺

先日のNHKニュースによると,児童生徒の自殺者数が増加しており,平成30年度は,昭和63年以来最多の332人に達したとあった。子どもの数は減っているのだから,実数ではなく比率で比較するべきだと思って統計データを調べてみた。

日本の統計データは,総務省統計局政府統計ポータルサイト e-Stat に集約されているとはいうものの,本当に探しにくく使いにくいものが多い。データを改ざんし,廃棄し,まともに整理できないという,さんざんな日本政府なのである。大学にAI教育を強制しているので,そのうち自動化されることを見越しているのだろう。

なんとか次の2つのデータにたどりついた。
[1]学校基本調査年次統計在学者数(e-Stat)
[2]平成30年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果(平成30年度) 7.自殺(学校から報告のあったもの)(e-Stat)

あくまでも学校から報告のあったものであり,調査対象の定義も時期によって変動しているが,傾向は捉えられているだろう。小学生の自殺数は1桁以上小さいのでこれを除き,中学生と高校生の各年度の自殺者数をその年度の在学者数で除したものをグラフ化した。

図 日本の中学・高校生の自殺率(1974-2018)

文部科学省には,生徒指導のカテゴリーに自殺予防というページがあり,児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(平成30年度)が設けられていて,それなりに対応している。しかし,この会議の基本資料であるべき児童生徒の自殺者数推移は横ばいであるという結論を誘導するグラフになっている。出発点がこんな認識なのでこの先が思いやられるのであった。

[1]10代前半の自殺,100年ぶりの高水準に。その要因は(石井志昂:不登校新聞)


2019年10月18日金曜日

プログラミング教育の欠点(2)

以前にプログラミング教育の欠点(1)を書いてそのままだった。

小学校教育現場の状況や教員の負担などを見聞きするとともに,小学校へのプログラミング教育の導入はまずかったという気持ちが強くなってくる。

小学校学習指導要領の「第1章 総則」の「第3 教育課程の実施と学習評価」の「1 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」に次の内容がある。
(3) 第2の2の(1)に示す情報活用能力の育成を図るため,各学校において,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること。また,各種の統計資料や新聞,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。あわせて,各教科等の特質に応じて,次の学習活動を計画的に実施するこ  と。ア 児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要とな   る情報手段の基本的な操作を習得するための学習活動  イ 児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動
これを受けて,「理科」の内容の取り扱いでは,
(2) 観察,実験などの指導に当たっては,指導内容に応じてコンピュータや 情報通信ネットワークなどを適切に活用できるようにすること。また,第 1章総則の第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,児童の負担に配慮しつつ,例えば第2の各学年の内容の〔第6学年〕の「A物質・エネル ギー」の(4)における電気の性質や働きを利用した道具があることを捉える学習など,与えた条件に応じて動作していることを考察し,更に条件を変えることにより,動作が変化することについて考える場面で取り扱うものとする。
また,「総合的な学習の時間」の内容の取り扱いでは,
(9) 情報に関する学習を行う際には,探究的な学習に取り組むことを通し て,情報を収集・整理・発信したり,情報が日常生活や社会に与える影響 を考えたりするなどの学習活動が行われるようにすること。第1章総則の 第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を 身に付けるための学習活動を行う場合には,プログラミングを体験するこ とが,探究的な学習の過程に適切に位置付くようにすること。
というわけだ。関連業界や学会のみなさんは,プログラミング教育の導入という燃料を投入されて大変活気づいているようだが,どう考えても無理があるような気がする。余裕のある学校や教員が取り組むことには全く異論がないけれど,学習指導要領で規定してしまうことの副作用の方が気になってしまう。結局これも社会階層の分離を推進する方向に働くのだろう。自分にはていねいに分析や批判する気力とエネルギーがないのが残念。

[1] プログラミング教育(文部科学省)
[2]小学校プログラミング教育の手引き(文部科学省)
[3]小学校プログラミング教育に関する研修教材(文部科学省)
[4]教育委員会等における小学校プログラミング教育に関する取り組み状況等(文部科学省)
[5]小学校プログラミング教育に関する指導事案集(文部科学省)
[6]小学校を中心としたプログラミング教育ポータル(未来の学びコンソーシアム)






2019年10月17日木曜日

第二室戸台風

1961年の9月16日に第二室戸台風が日本に上陸して四国・近畿・北陸を縦断した。当時,小学校2年だったが,金沢を通過したのは夜だった。父親が出張で不在であり,父の友人の七野昭治さんが家は大丈夫かと見に来てくれた。雨戸を閉め,台所などの窓を木の板でカバーしていたような気もするが,正しい記憶かどうか。停電になった暗い家の中で母親がバタバタしていた。小学校2年生にはいかんともすることができない。Wikipediaの情報を整理して下記に再掲するが,第二室戸台風はなかなか大きな台風だったようだ。

上陸直前気圧(hPa)の低い台風・・・(陸上での中心気圧の最低値ではない)
1 第2室戸台風 925 1961年 室戸岬西方
2 伊勢湾台風 929 1959年 潮岬西方
3 平成5年台風第13号 930 1993年 薩摩半島南部
4 ルース台風 935 1951年 木野市付近
5 平成3年台風第19号 940 1991年 佐世保市南
5 昭和46年台風第23号 1971年 大隅半島
5 昭和40年台風第23号 1965年 安芸市付近
5 昭和39年台風第20号 1964年 佐多岬
5 昭和30年台風第22号 1955年 薩摩半島
5 昭和29年台風第5号 1954年 鹿児島県西部

最大風速(m/s)の大きな台風・・・(最大瞬間風速ではない)
1 昭和40年台風第23号 69.8 1965年 室戸岬
2 ルース台風 69.3 1951年 細島
3 ルース台風 67.1 1951年 佐田岬
4 第2室戸台風 66.7 1961年 室戸岬
5 昭和29年台風第13号 65.0 1954年 都井岬
6 洞爺丸台風 63.3 1954年 神威岬
7 第2宮古島台風 60.8 1966年 宮古島
8 洞爺丸台風 58.8 1954年 佐多岬
9 昭和45年台風第10号 57.5 1970年 土佐沖ノ島
10 昭和5年台風 57.0推定 1930年 南大東島

(注)地球温暖化・気候変動によって近年台風の威力が増大しているという説は必ずしも正しくないかもしれないことが,上記の記録から見て取れる。

2019年10月16日水曜日

食べログ問題

食べログのスコアの得点分布の3.6点と3.8点に不自然な構造が存在することから,スコアの決定アルゴリズムに対する疑問が涌いていた。これに対して,いくつかの分析がなされていたが,食べログ3.8問題に終止符を打つという因果推論の手法を用いた決定版的な詳細分析がでた。「年会費を払う=有料会員になることはお店のスコアをどれくらいあげるのか」という点にフォーカスされているので結論は物足りない。不自然な構造の説明としては,[3]の話の方がおもしろかった。

[1]食べログ3.8問題を検証
[2]食べログEDA
[3]食べログの得点計算についてのポジティブな可能性を考える−操作されたデータを検証する難しさ−
[4]黒木玄さんの分析

インターネット上の評価システムには,運営側のアルゴリズムが不透明であること,逆に透明化することがスコアハッキングを招くこと,意図的なスコア操作(正も負も)の横行などがあり,評価システムではなくとも溢れる情報の真偽を確かめることはますます困難になっている。上からの単純な情報操作と,これに相互作用する大衆の反応が複雑な社会の意思決定に重大な影響を及ぼすようになっている。

トランプがツイッターを駆使し,政府や政権政党が金任せにネトウヨを操る広告宣伝作戦を進め,対抗側のアクションをツイッターなどSNS企業の一部が潰すという,非常に悲惨な世界への扉が開かれつつある。とりあえずは複数の信頼できる人々の情報を重ね合わせて自分なりの初期情報源とし,後は自力で考えて判断するしかないだろう。ただ,経済問題については何が理論的・実践的に正しいのかが自分にはまったく見えてこないのが残念。

[5]サクラチェッカー(やらせ・サクラレビューを見抜けるレビューチェッカー)


2019年10月15日火曜日

台風の運動エネルギー

台風の重さからの続き)

前回は台風の質量と並進運動エネルギーを求めた。次に,台風の重心に対する風の回転運動エネルギーを見積もってみる。そのために,台風の風速分布を調べてみると,中心から50kmあたりをピークとして台風の外側に向けて緩やかに,中心側にむけて急速に減少している。そこで,半径 $R$[m],高度 $h$[m]の台風の平均風速を中心からの距離$ r$[m] の関数として,$v(r)=60(1-r/R) $[ m/s]とモデル化する。中心では過剰に,周辺では過小に評価している。

これを用い,空気の密度を $\rho = 1$ [ kg/m^3] とすると,回転の運動エネルギー$T_R$は,$\int_0^R \rho \pi h r v(r)^2 dr = 5 \pi h R^2 $[J]より,R=500km  h=10km の場合,$T_R$=4×10^16 [J]となり,前回求めた並進運動エネルギー5×10^16 [J]と同じオーダとなった,というかかなり粗い見積もり。これらを加えた台風の風の運動エネルギーは 10^17[J]である。

さて,インターネットでこれがリーズナブルかどうか調べてみようとしたが,台風の運動エネルギーについてのわかりやすい情報はほとんどない。どういうことか。日本科学協会立方体地球には台風ができるの?に,台風の運動エネルギーは10^18[J]とあった。まあまあ正しかった。

Wikipediaにはエネルギーの比較というページがある。日本語版には地震の記述はあるが,台風はない。しかし英語版の Orders of magnitude (energy) には,"Energy released in 1 day by an average hurricane in producing rain (400 times greater than the wind energy)" が 5×10^19 [J]とあるので,風のエネルギーは 10^17 [J] でほぼほぼあっているのかもしれない。

2019年10月14日月曜日

台風の重さ

台風とは,熱帯の海上で発生する低気圧(熱帯低気圧)のうち
(1)北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し,(2)低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17m/s以上のものを指す。

気象庁の台風の大きさと強さの解説ページによれば,最大風速の大きさの範囲によって,台風は,無印(17m/s以上33m/s未満),強い(33m/s以上44m/s未満),非常に強い(44m/s以上54m/s未満),猛烈な(54m/s以上)の4段階に分類される。また,風速15m/s以上の半径を基準とする大きさは無印(500km未満),大型=大きい(500km以上800km未満),超大型=非常に大きい(800km以上)の3段階に分類される。

そこで,台風の半径を500km高さを10kmとすると,その体積は,10^6 km^3となる。空気は1Lで1.25gだから1m^3で約1kg 1km^3で10^9 kgであるから,台風の領域に含まれる空気の全質量は10^15 kgとなる。1辺が10kmの水の質量と同じくらいだ。

実際には空気だけの塊でなく凝結した水蒸気(雲)混じりの流体だが,飽和水蒸気圧は気圧の数%のオーダーなので,ほぼ空気の塊とした質量と変わりがないと思われる。台風の中心が時速36kmで運動しているならば,台風の重心の並進運動の運動エネルギーは5×10^16 Jとなる。

台風の運動エネルギーに続く)