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2022年12月1日木曜日

AIロボット授業・・・

振り子の振れ幅からの続き

なんだかなぁを目にしてしまった。 

発端は,何度目かの再放送である放送大学数理・データサイエンス・AI専門講座の第5回「教育とAIロボット」の回だ。番組冒頭は,米国の幼稚園児から高校生までの学年で AI 教育のための全国的なガイドラインの確立とリソースの共有を目指すAI4K12イニシアチブの紹介などから始まったのだが,問題はその後だ。

主任講師の山口高平さんが,2016年からはじめたクラスルームAIプロジェクトの話題だ。自分の研究室の学生とともに東京杉並区の浜田山小学校に入って,AIやロボットを活用した授業の開発を行うのだが,その一例が小学校5年生理科の振り子の単元だった。当時の浜田山小学校の校長の伊勢明子さんも放送大学講座に出演して大学院生とともにこの授業の様子を説明していた。

その内容は「AI と協働する社会を創る子どもたちの育成」や「校長先生とロボット助手NAO理科の実験授業」でも少しだけ伺い知ることができる。支援スタッフの大学院生と,ロボットなど大量の装置やシステムを持ち込んで,振り子の等時性を考える授業を行うのだ。

問題は,ロボットやセンサーを使うと実験の誤差を減らして再現性を極限まで高めることができると強調しているところにある。実験における測定操作には誤差が生ずることも含めてのこの単元の学びだろう。だから教科書では,データの平均操作までさせていたはずだ。センサーを使う実験もあってもよいが,小学校で一番最初に出会う定量実験からそれを始める必要はない。

さて,実験結果の1つは,長さ40cm,おもりの重さ20gの振り子で振れ幅を変えながら,10周期の時間を測るというものだ。空気抵抗や摩擦がなく糸の重さを無視できれば,理想値は12.7秒となる。振り子の振れ幅を 20°,40°,60°としたとき,児童の実験データは振れ幅とともに微増している。一方,初期条件をかなり厳密に揃えられるロボットによる実験の10周期はいずれの振れ幅も13.0秒で完全に一致していた。えっ?

振れ幅 20°と60°の単振子の理論値によれば,周期は6%ほど増えるので,13.7秒になってもおかしくないはずだが,なぜか13.0秒がきれいに3つ並んでいた。どうしてでしょうね。で,この授業の結論は,「ロボットは正確な実験ができる」と「振り子の周期は厳密に振幅によらない(振り子の等時性)」というわけだ。なんだかなぁ。

こんな理科の実験授業で,AIロボット授業の優位性を宣伝するのは勘弁してもらいたい。


写真:AIロボット授業・・・(読売教育ネットワークから引用)

2022年10月2日日曜日

理科情報演習

プログラミング教育(5)からの続き

手元に,手作りの理科情報演習のテキストが2冊ある。奥付を見ると,一つは1988年4月1日発行で,大阪教育大学理学科情報教育検討委員会,もう一つは1989年4月1日発行の改訂版だ。平成元年,新しい学習指導要領の告示年か。ゆとり教育のピークで,小学校低学年の理科が廃止され生活科が新設されたころだ。

はじめにには次のようにあった(iPhoneの音声入力は便利)

 この情報科学の発展と,コンピュータテクノロジーの発達にともなって急速に普及しだしたパーソナルコンピュータの高性能化と低価格化は,コンピューターの利用範囲の拡大に多大な影響をもたらした。パーソナルコンピューターを教育現場へ導入しようとする試みもその1つの例であり,教育現場においてパーソナルコンピュータをどのように活用するかについての研究もその進展が望まれるところである。

 最近各地で小・中・高等学校の先生などの教育関係者が中心となって,パーソナルコンピュータを教育機器として利用するための研究グループが作られ始めた,しかし,その規模は全国的に見ても十分ではない。このような時期にあたって,理学科の専門科目として「理科情報演習」を開講することは大きな意義を持つと言うことができる。情報処理を内容とした講義はすでに昭和61年度から理学科および第二部において開始されているが,この間の実践から得られた経験をもとにして「よりよいテキストを」という意図で本書は作成された。

 このテキストでは,コンピュータシステムに関する基本的な事柄が一通り学べるように心がけたつもりである。またプログラム言語としては,初学者用の汎用言語として開発されたBASICを取り上げている。利用する立場からみたコンピュータの働き,データの流れ,あるいは計算の手順などのコンピュータ利用に係わる基本的事柄は,BASICによっても十分理解し得ると考えたからである。

 さらに,目次は次のようになっていた。

第1章 コンピュータ入門・・・・・・・・・・・・・・・・・1
  第1節 コンピュータの歴史と発展
  第2節 コンピュータの現在
第2章 コンピュータの仕組み・・・・・・・・・・・・・・・13
  第1節 ハードウェアの構成
  第2節 コンピュータの取り扱うデータ
  第3節 パーソナルコンピュータにおけるデータの流れ
  第4節 ネットワークシステム
第3章 ソフトウェアの基礎・・・・・・・・・・・・・・・・35
  第1節 ソフトウェアの概念
  第2節 アプリケーションプログラムの分類
  第3節 言語処理プログラム
  第4節 パーソナルコンピュータのオペレーティングシステム
第4章 コンピュータを動かす・・・・・・・・・・・・・・・61
  第1節 FM16πを起動する
  第2節 PC−98LTを起動する
  第3節 キーボードをそっと叩く
第5章 プログラミングの基礎・・・・・・・・・・・・・・・80
  第1節 基本文法
  第2節 基本コマンド
  第3節 グラフィック
  第4節 データの型
  第5節 入出力命令
  第6節 基本演算
  第7節 基本文型
  第8節 サブルーチン
  第9節 デバッグの概念と方法
  第10節 ファイル処理
第6章 プログラムの構成・・・・・・・・・・・・・・・・109
  第1節 アルゴリズム
  第2節 プログラムの構造化
  第3節 プログラムの解析
第7章 コンピュータの可能性・・・・・・・・・・・・・・123
  第1節 教育・研究・産業とコンピュータ
  第2節 コンピュータ利用の問題点
  第3節 コンピュータの未来
練習問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・129
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・149

自分が担当したのは,第3章ソフトウェアの基礎の26ページだった。スーパーコンピュータとしてベクトル計算機がとりあげられ,第五世代コンピュータ開発プロジェクトがまだポシャっておらず,未来のコンピュータは光子計算機だと語られていた時代。



写真:理科情報演習テキスト1989年度版

2022年10月1日土曜日

プログラミング教育(4)

プログラミング教育(1)からの続き

一昨年に文部科学省が出した「小学校プログラミング教育の手引き(第3版)」をもう一度確認する。
はじめに ~ なぜ小学校にプログラミング教育を導入するのか ~

 今日、コンピュータは人々の生活の様々な場面で活用されています。家電や自動車をはじめ身近なものの多くにもコンピュータが内蔵され、人々の生活を便利で豊かなものにしています。誰にとっても、職業生活をはじめ、学校での学習や生涯学習、家庭生活や余暇生活など、あらゆる活動において、 コンピュータなどの情報機器やサービスとそれによってもたらされる情報とを適切に選択・活用して問題を解決していくことが不可欠な社会が到来しつつあります。 
 コンピュータをより適切、効果的に活用していくためには、その仕組みを知ることが重要です。コンピュータは人が命令を与えることによって動作します。端的に言えば、この命令が「プログラム」であり、命令を与えることが「プログラミング」です。プログラミングによって、コンピュータに自分が求める動作をさせることができるとともに、コンピュータの仕組みの一端をうかがい知ることができるので、コンピュータが「魔法の箱」ではなくなり、より主体的に活用することにつながります。 
 プログラミング教育は子供たちの可能性を広げることにもつながります。プログラミングの能力を開花させ、創造力を発揮して、起業する若者や特許を取得する子供も現れています。子供が秘めている可能性を発掘し、将来の社会で活躍できるきっかけとなることも期待できるのです。 
 このように、コンピュータを理解し上手に活用していく力を身に付けることは、あらゆる活動においてコンピュータ等を活用することが求められるこれからの社会を生きていく子供たちにとって、将来どのような職業に就くとしても、極めて重要なこととなっています。諸外国においても、初等教育の段階からプログラミング教育を導入する動きが見られます。 
 こうしたことから、このたびの学習指導要領改訂において、小・中・高等学校を通じてプログラミング教育を充実することとし、2020 年度から小学校においてもプログラミング教育を導入することとなりました。 
1980年代半ば,大学の研究室にPC-8801やPC-9801やSHARP MZ-2000系などが入りはじめた頃,これからの学校教育にはコンピュータが絶対必要になるということで,大阪教育大学の理学科をあげての取り組みが始まった。データステーション(後の情報処理センター)にあって全学共通に使えるパソコンはほんの数台しかなかったので,理科の教員が研究費を持ち寄って2人に一台のラップトップPCを整備することになった。

最初は,CP-M/86が搭載されたFM-16π が2人に1台+教員用の計21台,やがてMS-DOSPC-98LTが1人1台に置き換わっていった。これが物理教室の並びにある階段教室のロッカーに設置されることになる。理科情報演習という授業名を冠したテキストは,山口先生,家野先生と自分が編集作業を担当した。休日まで集まって各教員からの分担原稿を整理していた。

あるとき,このプロジェクトの音頭をとっていた,X線実験を専門とする高木義人先生が,小中学校教員向けの公開講座でコンピュータの使い方=プログラミングをやってはどうかと発案した。理科の教員に呼びかけたのだが,必ずしもよい返事が得られなかった。結局,物理教室のメンバー=加藤先生・仲田先生(高木研究室の助手)・自分だけでやろうということになった。もしかすると,山口先生や家野先生も参加していたいたかもしれない。

反対意見の代表的なものとして,福江先生の意見があった。「これからはコンピュータが当たり前のように学校にはいって活用される時代はくることは確かだ。しかし,その段階で,教員が自分でプログラミングによって授業で活用できる教材をつくるとか,データ処理をBASICで行うということはなく,様々なソフトウェアを活用したり組み合わせることが中心になるはずだ」。

いや,まったくそのとおりなのだが,その当時,学校の先生にコンピュータを体験してもらう場合,実質的には内蔵されているBASICインタープリタを使うしかなかったのである。もちろん,マルチプラン,松,jx-word太郎,dBASEなどのアプリケーションソフトは登場していたが,1本数万なので,とても台数分賄う予算はなかったのである。

そんなわけで,じりじりと太陽が照りつける夏休みの天王寺キャンパスの旧校舎の,冷房もない階段教室で汗だくになりながら,よくわからない学校の先生を相手に,BASICプログラミングを懇切丁寧に指導する3日間というのを数年続けたのだった。

それが40年近く前の話である。やがて,インターネットへの接続がはじまり,大学は柏原キャンパスに統合移転し,キャンパスネットが整備され,コンピュータ実習室も複数室もうけられ,キャンパス全域に無線LANアクセスポイントができたら,全学生BYODの時代になってしまい,学校現場でもGIGAスクール=一人一台の環境整備が進んでいる。

で,いま再びプログラミング教育というわけだ。どう考えても上の第2段落にあるプログラミングでコンピュータの仕組みを知ることが主体的活用につながるというのが正しい考えであるとは思えない一方,前回述べたように,コンピュータを創造的ツールとして使うという観点でみれば,それはそれでありうるのかとも思われる。


図:プログラミングからのパラダイム転換(人工知能研究の新潮流から引用)

2022年9月25日日曜日

ひまわりキッズ

1994年に100校プロジェクトがはじまってしばらくしたころ,理科教育メーリングリストに次のような話題を提供したことがある。

インターネットを活用した学校間コラボレーションのアイディアだ。全国の学校で,日時を定めて校庭から一斉に真上の空にデジタルカメラを向けて撮影し,その画像をつなぎ合わせて,下から見た日本列島の天気の全体像を調べようというものだ。

気象衛星ひまわりは赤道上の静止軌道から日本上空の雲の分布を撮影することができるが,逆に下から見るとこれがどう見えるかを,インターネットコラボレーションの力で確かめてみたい。名付けて「ひまわりキッズ」プロジェクト。

残念ながら,口先だけで実行力がともなわなかったので,実現には至らなかった。そうこうしているうちに内田洋行がデジタル百葉箱(現,IoT百葉箱)を売り出して,そちらに注目が集まることになる。そういえば,すでにteiten2000という渡辺先生がはじめたプロジェクトがあったからかもしれない。

ひまわりキッズで検索すれば,いまは天理市の子育てサークルなどが出てくるのであった。


写真:ひまわり8・9号のイラスト(Wikipediaから気象庁の画像を引用)

2022年9月22日木曜日

同志社大学京田辺キャンパス(2)

同志社大学京田辺キャンパス(1)からの続き

はやいもので,あれからちょうど2年経った。同志社大学の京田辺キャンパスを訪れるのは2回目だが,来週からいよいよ非常勤の対面授業(2コマ連続…orz)が始まる。

今日は,教室のAV設備の説明を受けるため,智真館1号館2FのAV準備室前に10:00に集合の予定だった。正門を入ってすぐ左に交隣館という建物があり,最初はここが目的地かと思っていた。受付の方にきくと,この1Fは非常勤講師の控室になっており,コピー機やロッカーの使用方法など説明を聞くことができた。

目的地の講義棟である智真館1号館は同じような教室が一様に並んでいてAV準備室がどれだかわからないし誰も人が見当たらない。案内板には教室番号しか書いていない。あせってウロウロしているとようやくスタッフの方に発見された。自分の講義予定の教室は電気工事中だったので,同様の設備の教室で説明を受けた。

教卓にはカセットテープと音声入出力端子からなる,30年前の設備がきれいに保存されていてまだ使えるとここと。大阪教育大と似ているが,鍵のかかっていないボックスにAV設備がある。60人規模の教室には60インチの液晶テレビが1台だけで,天吊りプロジェクターはなかった。ワイヤレスマイクもなし。そのかわり,常勤スタッフは2名配置されているらしい。

15分ほどでていねいな説明が終ったので,理工学部の担当の先生へ挨拶にうかがったが,不在のようだった。

平端から北に大和西大寺まで15分,大和西大寺−平城−高の原−山田川−木津川台−新祝園−狛田−近鉄宮津−三山木−興戸が30分,興戸から上り坂を10-15分で京田辺キャンパス

平端から南に大和八木まで15分,大和八木−真菅−松塚−大和高田−築山−五位堂−近鉄下田−二上−関屋−大阪教育大前が30分,大阪教育大前から上り坂を10-15分で柏原キャンパス

非常に対称的なルートになっている。高の原と大和高田が対応し,新祝園と五位堂が対応する。キャンパスまで上り坂のところも同じだ。果たしてあと1年半体力が続くかな・・・


写真:同志社大学京田辺キャンパスの図書館(2022.9.22撮影)


2022年9月20日火曜日

ウェルビーイング

日本の国がどうにもこうにもうまくいかなくなって30年。経済(円・GDP)も,科学技術(製造業・大学)も,学校教育も共倒れの様相を呈している。そんなわけで,政府自民党はスローガンをウェルビーイング(GDW)に持ってきたようだ(ブータンか)。これに例の怪しさ満点の持続可能な開発目標(SDGs)と,デジタルトランスフォーメーション(DX)を組み合わせた三本の矢的な合わせ技のことを思うと何が何だか状態になる。

中央教育審議会の教育振興基本計画部会(第7回)が9月20日15:00-17:00に開催されるが,その会議資料がめずらしく事前に公開されていた。それによると,次期の教育振興基本計画のコンセプトは次のようなものである。
〇予測困難な時代の象徴としての新型コロナウイルス感染症拡大による影響とロシアのウクライナ侵略による国際情勢の不安定化,浮き彫りになった課題と学校・教育の役割,学びの変容
〇誰一人取り残さず,すべての人の可能性を引き出すための教育の実現に向けて,個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実,学習者(学修者)主体の学び等の充実を図り,日本型ウェルビーイングの概念整理を踏まえた上で,多様な個人のウェルビーイングの実現を目指す。また,共生社会の実現・地域コミュニティの再構築に向けて,個人と社会のウェルビーイングの実現をつなぐ学校や社会教育施設の役割・機能を重視する。
〇少子化・人口減少の中で、持続可能な社会の発展を生み出していく人材を育むため,主体的に社会の形成に参画し,生涯にわたって学び続ける学習者としての基盤を学校教育において培うとともに,社会や時代の変化に応じて課題を発見・解 決するための学びをいつでも受けられる教育・社会環境を整備する。
〇コロナ禍を契機としてデジタルが飛躍的に社会に浸透。将来の社会基盤に変化を もたらすデジタルトランスフォーメーションを教育・学習全体の中に組み込む。 
〇これらを通じた価値創造により,人間中心社会としての Society 5.0 の実現を目指す。
クラクラしますね。教育の目標が日本型ウェルビーイングに設定されていた。例の3本の矢がみごとに組み合わさり,経産省へのゴマ擂りキーワードSociety 5.0 に着地させている。経産官僚に支えられていた安倍官邸はもう終ったはずなのに。

ウェルビーイングで検索してみると,いつの間にかすごいことになっている。そもそも主観的な概念を政策決定の中心に据えるというのも,客観的指標の改善がほとんど不可能になっているのを認めているようなものだ。しかも内閣府はWell-beingという英語表現をそのまま使っている。まあ,2000年のITが発端だったかもしれないが,SDGs,Society 5.0,カタカナ語でも間に合わず,そのうち政策キーワードは英単語だらけになりそうだ。

ある意味,東京オリンピック2020,大阪万博2025や来週の国葬儀だけにとどまらず,電通的なマーケティング・パブリシティ第一の思想が政府全体に浸透しきっているということなのかもしれない。日本会議・統一教会の反ジェンダー・男権家族思想の自民党宗教右派への浸透に匹敵するような話である。そんなわけで,ほとんど悪びれもせずに,提灯持ち的なウェルビーイング関連論文が量産され始めており,この方向性を正当化しているのが見て取れる。


写真:Memeplex(画像生成AI)が吐き出したイメージ
(keywords-> Well Being, Sustainable Development Goals and Digital Transformation of Japan)


2022年9月15日木曜日

学制百五十年

内田洋行の大久保さんが,9月5日の学制150年の式典に出席されたことをFaceBookに書いていた。この式典は地味なものだったのであまり大きなニュースにはならなかった。たぶん,みんな日本の教育の歴史的意義には関心がないのだろう。金儲けの道具として以外の側面には。

学制百五十周年記念式典次第

国歌演奏
開式の辞  文部科学副大臣 簗  和生
式  辞  文部科学大臣  永岡 桂子
教育者表彰 文部科学大臣表彰状授与
      (被表彰者 百五十五名)
       被表彰者代表 石崎 規生
天皇陛下おことば
祝  辞  内閣総理大臣  岸田 文雄
      衆議院議長   細田 博之
      参議院議長   尾辻 秀久
      最高裁判所長官 戸倉 三郎
閉式の辞  文部科学副大臣 簗  和生
待ち時間は長かったらしいが,式自体は簡素なものですぐに終ったとのこと。国立教育政策研究所では,明治150年のときには国立教育政策研究所教育図書館明治150年記念事業を行っていたが,今回はスルーしているようだ。

P. S. 某国葬儀の場合は,午前11時35分集合で,儀場内は缶・ペットボトル等手荷物持ち込み禁止,送迎バス乗車から献花終了まで5時間程度は食事ができないらしい。

[1]「学制150年記念シンポジウム・記念展示」の開催について(文部科学省,9/4/2022)
[2]学制150年 −学校がはじまる−(国立国会図書館)
[3]我が国の学校制度の歴史(国立教育政策研究所)
[4]学制百五十年史(文部科学省)
[5]学制百二十年史(文部科学省)
[6]学制百年史学制百年史 資料編(文部科学省)

2022年9月10日土曜日

未来人災ビジョン

デジタル社会の実現に向けた重点計画からの続き

経済産業省が今年5月にまとめたのが,未来人材ビジョンだ。ブログのタイトルは,指が勝手に人災に変換してしまったものだけれど,訂正するに忍びない。

このレポートは「DXと脱炭素」の両キーワードを前提に,AIの浸透による労働市場の両極化が進み,外国人労働者にも選ばれない国になっているという認識に立っている。そこで企業ができることは何かという問題設定をしながら,企業ができることというより,社会システム特に教育システムをぶっ壊せというNHK党的なメッセージを送るものだった。

日本の経済が凋落化をはじめたのは1990年代,経済産業省(METI)がまだ通商産業省(MITI)を名乗っていた時代からだ。経済再生政策の決定打に欠ける経済官僚たちは,100校プロジェクトを嚆矢として,硬直的な日本の教育システムに手を突っ込みたくてうずうずしていた。その気持ちはよくわかる。

この未来人材ビジョンでも,あいかわらず企業がまっとうな人材育成システムや多様性を持つ雇用システムを持たないことをこれでもかとデータで示しつつ,その課題を日本の教育システムに責任転嫁しようとしている。いや,世襲が続く日本の社会システムの硬直性が問題であるのはそのとおりなので,だから新自由主義右翼利権移転集団の日本維新の会がこれだけの隆盛を保っていられるわけだ。

その社会の硬直性に穴をあけて,一瞬光が差し込んだのが,20世紀から21世紀にかけてのインターネット革命だった。しかし,社会的な同調圧力が強すぎる日本では,これが逆に作用した。フロムの自由からの逃走というキーワードを情報選択困難症候群と組み合わせて使いたくなる。参議院選挙の結果も推して知るべしだった。

2022年9月9日金曜日

デジタル社会の実現に向けた重点計画

教育データ利活用ロードマップからの続き 

2022年6月7日,デジタル社会形成基本法(2021-)の第37条1項にもとづいたデジタル社会の形成に関する重点計画が,政府(デジタル庁)から「デジタル社会の実現に向けた重点計画」として国会に報告された。なんで日付は入っているのに作成主体名が書いてないのだろう。もうそれだけで,アウトのような気がする。

さて,この中には教育についての記述が4ページ弱にわたってまとめてあるので,これまでのややこしい話を概観するには都合がよい。最初に気になったのが教育を準公共分野と位置づけているところだ。おかしくないか。

現在の日本政府の見解では,政府の役割が大きな,安全保障と治安維持は公共分野であり,防災−健康・医療・介護−教育−こども−インフラ−港湾(港湾物流)−モビリティ−農林水産業−食関連産業がこの濃淡で準公共分野と位置づけられている。その定義は,国・独立行政法人,地方公共団体,民間事業者等といったさまざまな主体がサービス提供にかかわっている分野とのこと。

とにかく,公共の概念をできるだけ小さくしてしまいたいらしい。昔,高橋邦夫さんが私学も公教育を担っているのだと強調していたけれど,政府が見ているのは学校以外の教育サービスなのだろうか。それならばわざわざ重点計画に取り上げる必要はない。学校へ導入されるEdTech提供企業のことなのだろうか。それもおかしな話だ。防衛整備品を納入しているのも民間企業なのだから。

次に気になったのは,経済産業省のSTEAMライブラリー。 「SDGs の社会課題などを入口に探究的・教科横断的な学びを始めるきっかけになる,63 テーマの「動画・資料コンテンツ群」を作成し、無料で公開しているもの」らしいが,理科ねっとわーくの反省は生きているのだろうか。大金をばらまいて作成した理科デジタル教材の多くが,FLASHの滅亡とともにアクセスすらできなくなっており,鬼怒川温泉の廃虚群のような様相を呈していた。

2022年9月8日木曜日

教育データ利活用ロードマップ

学習eポータル & 教育ダッシュボード からの続き

2022年1月に,デジタル庁,総務省,文部科学省,経済産業省によって,教育データ利活用ロードマップがつくられた。公表時に炎上したらしく(もう忘れている),中室牧子が弁明していた。

あらためてロードマップを眺めてみると,どうもすっきりしないのだった。理念が明確でないままに,細かなことを書き込みすぎていてちょっと食傷気味となる。さらに,この大きな利権めがけて,総務省や経済産業省まで手を突っ込んできているので,これが混乱に更に拍車がかかる。

わかりやすかったのは,ロードマップの2022年迄の短期目標の部分だ。

・教育現場を対象にした調査や手続が原則オンライン化
・事務等の原則デジタル化など,校務のデジタル化を進め,学校の負担を軽減
・インフラ面での阻害要因(例:ネットワーク環境)の解消
・教育データの基本項目(全国共通の主体情報)が標準化

ここまではよい。その後はログ収集やPDS(Personal Data Service?)が中心テーマとなって,とにかくデータを標準化して蓄積すればよいという思いが先走りすぎている。この情報の網によって個人(児童・生徒・保護者・教員)はあるいは学校はがんじがらめに搦め捕られそうだ。あるいは,どうせ中途半端なシステムができるので,心配しなくていいということか。

2022年9月7日水曜日

教育ダッシュボード

教育データ標準からの続き

豊福晋平さんが,ダッシュボードという言葉をちらっと口走っていた。何のことかと調べてみた。

ダッシュボードとは,自動車は飛行機の計器盤のことであり,システムの刻々と変化する状態を一目で把握できるもののことだ。これをメタファーとしたビジネス管理ツールが登場して進化していくことになる。

それをさらに学校教育の分野に転用したものが,教育ダッシュボードである。以前は学習カルテや学習ポートフォリオというコンセプトで,個人ごとの学習記録をデジタル化して集約しよう流れがあった。

実のところ,大阪教育大学に導入された電子ポートフォリオは,学生の学びの様子を把握して指導することにはほとんど役立たなかった。それは,大学評価のための実績(エビデンス)を作文するというその一点だけで価値がある取り組みだった。いまはどうか知りませんが。

そのダッシュボードの活用例を探していて,真っ先に飛び込んで来たのが大阪市の取り組みだ。大阪市における次世代学校 支援事業の中心にあるのがダッシュボードで,校務系データと学習系データを組み合わせて分析した結果を一画面に可視化するというものだ。説明は,生活指導系の事例に重きが置かれていた。

それを真似たのが,東京都だ。東京都教育委員会と慶應義塾大学SFC研究所との教育ダッシュボード開発に伴う共同研究に関する協定が締結されている。これに関する情報が請求によって公開されていた。あらら,中室牧子じゃないか。非認知情報アンケートとあれやこれやを結びつけようとしていた。

共通するのは,成績などの定量化が可能な従来型の情報ではなく,生活態度や非学習行動など把握しにくい部分を可視化しようというものだ。まあ,保健室を訪れた回数はわかるわね。

2022年9月6日火曜日

学習eポータル

教育データ標準からの続き

教育データの標準化の具体的な活用イメージとして,文部科学省CBTシステム(MEXCBT: Computer Based Testing)を含む学習eポータル があげられている。

MEXCBTは,児童生徒がコンピュータからオンラインで問題演習ができるシステムだ。家庭からも学校からも使え,選択問題や短答式問題は自動採点される。システムの開発は文部科学省が事業者連合コンソーシアムに委託していてすでにプロトタイプが稼働している。

MEXCBT用の問題は,国や地方自治体などの公的機関が作成したものを使う。教師が指定した問題を児童生徒が解いて,その結果は自分と教師が確認できて,フィードバックする。子どもが自分で勝手に問題を選んで自由に学びを進めていくようにはできていないのかもしれない。

さて,その学習eポータルだ。日本の初等中等教育に適した共通の学習管理機能を備えたソフトウェアシステムであり,(1) 学習(学習リソース)の窓口機能,(2) 連携のハブ機能(シングルサインオン),(3) MEXCBTへのアクセス機能,の3つの機能を果たすことになる。

いまは亡きインターネットと教育(1996-2002)や教育情報ナショナルセンター(NICER: 2001-2011)の考え方をリニューアルして再現したものだ。前者は自分の個人的な取り組みを越えられなかったので仕方がないが,文部科学省が国立教育政策研究所を使って鳴り物入りで立ち上げた教育情報ナショナルセンターがあっという間につぶれてしまったのは残念だった(再立ち上げも失敗)。

そのデータは,GENES 全国学習情報データベース(学習ソフトウェア情報研究センター)と教育の情報化支援サイトNICER-DB(パナソニック教育財団検索システム研究会)に引き継がれることになっていたが,前者は廃虚と化し,後者に至ってはドメインがマイナー業者に乗っ取られてしまった。

さて,この度の学習eポータルはその轍を踏まずに離陸することができるのだろうか。昔,芳賀さんといっしょに活動していた内田洋行の伊藤博康さんがリーダーとなって,一般社団法人ICT CONNECT 21の学習eポータルSWGが取り組んでいるので,まあ前回よりはましなのかもしれない。

学習 e ポータルの仕様は、検討と実 証を繰り返しながら、学習 e ポータル標準モデルとしてまとめられる。MEXCBT は国が開発、 運営を担うのに対し、学習 e ポータルは複数の民間企業が標準モデルに基づいて開発、提供し、小中高校などの教育機関がその中から選択して利用することを想定している

なるほど,そういうことか。さらに,MEXCBTとの連携は必須要件だが,デジタル教科書やデジタル教材との連携は推奨となっている。しかしながら,LRS(Learning Record Store)学習履歴は必須とされているのだった。各社が開発して提供する学習eポータルはなんらかの形で認証されることになるのだろうか?

中央集権的なデータセンターモデルから,複数のポータルが統一規格のもとに連携するモデルに進化しているが,それでも話は面倒にみえる。やはり,パーソナルAIアシスタントを子ども・保護者・教師一人一人が所有して,必要な情報や協働はこのAIアシスタントが探し出して持ってくれるというシステムを目指したほうがいいのかもしれない。GIGAの次のステージだ。

[1]学習eポータル標準モデル(2022.2.22,Ver. 2.00,ICT CONNECT 21 学習 e ポータル サブワーキンググループ)
[2]文部科学省CBTシステム運用支援サイト(文部科学省)
[3]子どもの学び応援サイト−学習支援コンテンツポータルサイト(文部科学省)
[4]STEAM ライブラリー(経済産業省・未来の教室プロジェクト
[5]EdTEchライブラリー(経済産業省・未来の教室プロジェクト
[6]学習eポータルまとめサイト(ICT CONNECT 21)

2022年9月5日月曜日

教育データ標準

GIGAスクール構想からの続き 

まず復習。GIGAスクール構想とは,2019年から文部科学省が取り組んでいる施策である。GIGAはGlobal and Innovation Gateway for All の略であり,全国の児童・生徒に一人一台のコンピュータと高速ネットワークを整備しようというものである。2021年3月には,全自治体の96%以上で整備が終っており,いちおう小中学生一人一台という目的が完了したということらしい。

高等学校については,2022年度中に1学年は100%,2024年度までに高校生一人一台を実現する目標となっていて,すでに半数の府県では100%が達成されている。まあ,小中学校も含めてそれらがうまく機能しているかどうかはまた別の話。

これは25年前の100校プロジェクトを嚆矢とした学校へのインターネット導入の動きに匹敵する大きな変化には違いない。ようやくあのころの理想が具体化できる条件が整いつつあるということか。

ところで,この構想を支えるために,教育データの標準化が取り上げられている。教育データを,(1) 主体情報(児童生徒・教職員・学校の各属性等の基本情報),(2) 内容情報(学習内容の情報),(3) 活動情報(生活活動,学習活動,指導活動などの情報)に区分する。これらをすべて網羅的に扱うわけでなく,データの相互運用性を図るという観点で全国的に統一が必要なものに限り,その使用を強制せず,政策的に誘導するというものだ。

教育データ標準として,すでに次のようなものが定められている。学校コード,教育委員会コード,学習指導要領コード。学校は,位置情報(緯度・経度・標高)や時間情報(開設年月,統合年月,廃止年月)がほしいところだ。教育委員会には事務局の住所・連絡先すらない。学習指導要領コードは,NDCとの対応があれば・・・というか,知識を網羅的にコード化することはそもそも可能なのだろうか。普遍性に欠ける学習指導要領の文章を切り出してコード化するというのはどうにも気持ちが悪い話である。

[1]StuDX Style(文部科学省)GIGAスクール構想の実践事例

2022年9月3日土曜日

UML

中学生もUML(Unified Modeling Language,統一モデリング言語)を学ぶ時代だというのであわてて追いかけてみる。なんだか統一ばやりの今日この頃。

UMLは,1997年ごろからOMGによって管理されるようになったモデリング言語である。プログラミングの手前で,問題とする対象や過程の構造や処理フローなどを整理して可視化する機能を持っている。何種類かのダイアグラムに分類されているが,そのうちのアクティビティ図が従来のフローチャートに概ね対応する。

いろいろツールはあるようだが,PlantUMLというテキストベースでダイアグラムを作成するツールが便利そうだ。brew install graphviz と brew install plantuml で必要なソフトをインストールする。hoge.umlというUMLファイルをつくって。plantuml hoge.uml とすれば hoge.png というUML図が得られる。よくある見本は次のようなものだ。


図:UMLのシーケンス図のサンプル

最近のバージョンでは,モノトーン表示になっているが,skin rose とすると以前のカラリングで表示することができる。 この図を出力するためのumlファイルは次のようなものだ。

@startuml

skin rose

title PC入出力シーケンス
header テストシーケンス
footer ページ %page% / %lastpage%

actor ユーザ
box PC
participant USB
participant CPU
participant ディスプレイアダプタ
end box

alt キーボード
ユーザ -> USB : キー入力
else マウス
ユーザ -> USB : マウス入力
end
USB -> CPU : 入力データ
activate CPU
note over CPU : 処理中
CPU -> ディスプレイアダプタ : 表示データ
deactivate CPU

participant ディスプレイ
ディスプレイアダプタ -> ディスプレイ : 表示データ
ディスプレイ -> ユーザ : 表示

@enduml
[1]PlantUML概要

2022年9月2日金曜日

プログラミング教育(3)

プログラミング教育(2)からの続き

高等学校に情報という教科が新設されたのは,平成10年(1998年)告示の学習指導要領からだった。これを受けて2003年度から高等学校での必履修科目の情報の授業が始まった。

そのころ,まだ大阪教育大学に在籍していた田中博之さんに誘われて,日本文教出版の教科情報の教科書編集に参画することになった。関西大学総合情報学部の水越敏行先生をトップに,新潟大学の生田孝至先生,水越先生の弟子の黒上晴夫さん(阪大オケでチェロをやっていた)などにひきいられた20名ほどのチームだった。慶応義塾幼稚舎の田邊則彦さんの引きで,看板には村井純さんも据えられた。

田中博之さんは,その後いろいろあって編集チームをやめ,大阪教育大学から早稲田大学の教職大学院に移った。1998年指導要領では,情報A(入門),情報B(理系),情報C(文系)の3つの選択科目が設定されており,関西大学の江澤義典先生,富山大学の黒田卓さんら数名による情報Bチームに配属された。情報Bチームは次の学習指導要領改訂で情報の科学チームに再編され,辰己丈夫さんなども加わって Javascript 路線を進むことになる。なお,自分も本業が忙しくなったので,2012年ごろには水越先生にお願いして抜けさせてもらった。

全く新しい科目が立ち上げられたということで,手探りで教科書づくりがすすんでいくのだが,プログラミングは教科「情報」の中心に据えないというのが共通了解事項であった。当時の大学では,コンピュータ教育=プログラミング教育という暗黙の刷り込みがあったので,なかなか大きな発想の転換であり,メディア教育を専門とする水越先生はこの点を強調していた。

そしていま,再びプログラミング教育に重点が移ってきたのだが,高等学校の学習指導要領では小学校や中学校のようなことはなく,これまでとあまり変わらないようなニュアンスになっている。2020年学習指導要領の必履修科目の情報Iと選択科目の情報IIと解説編では次の程度である。小学生,中学生,高校生に渡るプログラミング教育の積み上げについて検討された雰囲気があまり感じられないのはなぜ。
情報Ⅰ
(3)コンピュータとプログラミング
ア(イ)アルゴリズムを表現する手段,プログラミングによって
コンピュータや情報通信ネットワークを活用する方法について
理解し技能を身に付けること。
イ(イ)目的に応じたアルゴリズムを考え適切な方法で表現し,
プログラミングによりコンピュータや情報通信ネットワークを
活用するとともに,その過程を評価し改善すること。

情報Ⅱ
(4)情報システムとプログラミング
ア(ウ)情報システムを構成するプログラムを制作する方法について
理解し技能を身に付けること。
イ(ウ)情報システムを構成するプログラムを制作し,その過程を
評価し改善すること。

例えば,グループで掲示板システムを構成するプログラムを制作する学習を
取り上げ,サーバ側のプログラムについて適切なプログラミング言語の選択,
設計段階で作成した設計書に基づくプログラムの制作を扱う。その際,
自分が制作したプログラムと他のメンバーが制作したプログラムの統合,
テスト,デバッグ,制作の過程を含めた評価と改善について扱う。なお,
プログラムを制作しやすくするために組み込み関数やあらかじめ用意した
関数などを示し,これらを利用するようにすることも考えられる。

[1]高等学校学習指導要領解説 情報編(平成30年告示,文部科学省)
[2]高等学校情報科に関する特設ページ(文部科学省)
[3]プログラミング教育実践ガイド(文部科学省)
[4]高等学校普通科の教科「情報」の変遷と課題(川瀬綾子,北克一)
[5]高等学校共通教科情報科の知識体系に関する一考察(電気通信大学 赤澤紀子他)

2022年9月1日木曜日

プログラミング教育(2)

プログラミング教育(1)からの続き

IT革命第1波が来ていた1998年告示の学習指導要領では,中学校の技術・家庭の技術分野の内容が,A 技術とものづくりとB 情報とコンピュータの2項目に整理された。つまり内容の50%がICTということだ。ところが,2007年告示では,揺り戻しが起こり,A 材料と加工に関する技術,B エネルギー変換に関する技術,C 生物育成に関する技術,D 情報に関する技術,になった。情報とコンピュータの内容は30%程度になってしまった。2016年告示の学習指導要領にもこれが引き継がれたままだ。

その直近の中学校技術・家庭学習指導要領の解説編をみると,プログラミングに関しては次の記述がある。とっても高度な内容になっている。

D 情報の技術

(2)生活や社会における問題を,ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによって解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

(3)生活や社会における問題を,計測・制御のプログラミングによって解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

計測・制御の方はこれまでもあったが,ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングってどうするのだろうか。しかも,次の補足説明が入っている。

なお,課題の解決策を構想する際には,自分の考えを整理し,よりよい発想を 生み出せるよう,アクティビティ図のような統一モデリング言語等を適切に用い ることについて指導する。

えーっ,中学生からUMLをやるんですか・・・もうフローチャートの時代は終ったのか。

具体的にはどんなプログラム言語で実施するのかを調べてみたら,ここにあった[1]。基本は,小学校でも使われているScratchだ。Scratch 1.4では,Meshというネットワーク上の端末間の情報交換の機能があるので,ネットワークを利用した双方向という条件を満たせる。後はよくわからないマイナーなプログラム言語や環境がわさわさと湧いていた。

[1]中学校技術・家庭科(技術分野)内容「D 情報の技術」研修用教材(文部科学省)
[2]PIC GUI Programming Environment(鳴門教育大学 菊池章)
[3]Studuino(Artec)
[4]Scratch1.4(MIT,Meshが使える)
[5]ねそプロ岩手県一関市立花泉中学校 奥田昌夫)
[6]なでしこ(kujirahand)
[7]Leaflet(埼玉大学 谷謙二,Javascript Web地図サービスライブラリ)
[9]拡張AIブロック(TECH PARK)
[10]ピョンキー(Scratch互換,Mesh対応)
[11]ドリトルではじめるプログラミング(大阪電気通信大学兼宗研究室)
[16]中学校プログラミング教育の実態調査(日本産業技術教育学会)


2022年8月31日水曜日

プログラミング教育(1)

これまでも小学校におけるプログラミング教育への違和感を述べてきた。

  コンピューテーショナル・シンキング(4)

特に,小学校学習指導要領の解説編にある下記の「プログラミング的思考」がどうにも気持ち悪いのだ。

また,子供たちが将来どのような職業に就くとしても時代を越えて普遍的に求められる「プログラミング的思考」(自分が意図する一連の活動を実現するために,どのような動きの組合せが必要であり,一つ一つの動きに対応した記号を,どのように組み合わせたらいいのか,記号の組合せをどのように改善していけば,より意図した活動に近づくのか,といったことを論理的に考えていく力)を育むため,小学校においては,児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動を計画的に実施することとしている。その際,小学校段階において学習活動としてプログラミングに取り組むねらいは,プログラミング言語を覚えたり,プログラミングの技能を習得したりといったことではなく,論理的思考力を育むとともに,プログラムの働きやよさ,情報社会がコンピュータをはじめとする情報技術によって支えられていることなどに気付き,身近な問題の解決に主体的に取り組む態度やコンピュータ等を上手に活用してよりよい社会を築いていこうとする態度などを育むこと,さらに,教科等で学ぶ知識及び技能等をより確実に身に付けさせることにある。
いろいろな論点はあるけれど,AI応用アプリケーションがICT環境活用の中心になろうという時代に,(1) 手続き型プログラミングの想定が透けて見える「プログラミング的思考」という怪しい概念を振りかざしていること,(2) たぶんこのプログラミング教育では身につかない「論理的思考力」をゴールとすること,等への拒否反応が先にきてしまうのだ。

そこで,久しぶりに小学校のプログラミング教育でよく用いられているScratchをのぞいて見た。なんだがすごく進化していた。プログラム開発環境画面の左下のボタンを押すと,拡張機能が選択される。その項目は,音楽,ペン,ビデオモーション,音声合成,翻訳,Makey Makey,micro:bit,LEGO MINDSTROMS EV3,KEGO BOOST,LEGO Education WeDo 2.0,Go Direct Force & Accelerationというもので,おもわずワクワクしてくる。

小学校プログラミング教育をバカにしていてごめんなさい。これを学習指導要領のように捉えてはいけなかった。コンピュータを単なる情報受像機定型業務処理機としてではなく,IoTを含む情報創造機として使うための第1歩だった。プログラミング思考なんて実はどうでもよかったのだ。

そして,大規模言語モデル+ディープラーニングを背景とした新しいAIのトレンドは,この情報創造の意味合いそれ自身を大きく変えてしまうことになるかもしれない。


2022年8月29日月曜日

情報検索から情報生成へ

1ヶ月半前の話題だけれど,GPT-3という大規模言語モデル(Large Language Model)に対して,自分自身に関する学術論文を書くようプロンプト入力して出力された論文が,査読にかかり出版されたらしい。

GPT-3については,2年ほど前にもこのブログで GPT-3というタイトルの記事を書いた。出版された論文は,open science のHALアーカイブにある Can GPT-3 write an academic paper on itself, with minimal human input? であり,共著者のトップに,Gpt Generative Pretrained Transformer, としてAIの名前がのっている。

論文は,GPT-3が書いた部分と,青字の注釈枠内に人間の研究者が入力したプロンプト構文とコメントが付加された複合的構造になっている。GPT-3が自分自身で書いたGPT-3を対象とする論文の結論は次のようなものだ。

Conclusion

It is clear that GPT-3 has the potential to write for an academic paper about itself. However, there are some limitations to consider. First, GPT-3 may not be able to capture all of the nuances and subtleties of human language. Second, GPT-3 may not be able to generate new ideas or perspectives that humans could bring to the table. Overall, however, GPT-3 seems like a promising tool for academic writing.

これに対して,人間の共著研究者がつけた青字枠のプロンプトとパラメータとコメントがこちら。

 Prompt: Write a conclusion section about letting GPT-3 write for an academic paper about itself.

Temperature: 0.77 / Maximum length 458 / Top P 0.9 / Frequency Penalty 0.95 / Presence Penalty 0.95 / Best of n=5 / Second prompt output chosen, first output similar but incomplete sentence.

As we did very little to train the model, the outcome was not, contrary to GPT-3s own assessment, well done. The article lacked depth, references and adequate self analysis. It did however demonstrate that with manipulation, training and specific prompts, one could write an adequate academic paper using only the predictive nature of GPT-3.

GPT-3(AI) は自分の書いた論文?を自画自賛しているが,共著研究者(人間)の評価によれば学生のレポートの域をでないものである。しかし,これができるということは,大学の学部教育レベルのレポートはすべてAIに代行させることが可能だ


大学の授業で課せられるレポートを,インターネット上のテキストの切り張りで作って提出するという事例が横行しているらしい。引用ルールに則っていれば問題ないが,場合によっては丸ごとコピーして使うケースも(卒論レベルになれば代行業者という手もあるが)。

これに対抗するために多くの大学では,テキストのコピー部分を発見するツールが導入されている。大阪教育大学でも,Turnitin Feedback Studio という剽窃チェックツールがあって,何度も利用説明会が開催されている。自分は,これはそもそも出題側の問題だと思っていて,馬鹿馬鹿しいので使ったことはない。

今後,プロンプト職人の技でAI≒機械学習システムにレポート生成・下書き作成を頼むことが容易になれば,これを人間が書いたレポートと区別することは原理的に難しいような気がする。この話題をとりあげた番組 [1] では,松田卓也先生が,英語を母語としない研究者の書く英文論文のプロトタイピングには使えるかもしれないと話していた。まあそれだけならば,DeepLを使えば済むような気もする。

いずれにせよ,インターネット空間では,情報検索から情報生成へと時代の大きな変化の流れが生じているらしい [2]。


画像:阿弥陀経の極楽の一節を入力したmemeplex.app

極樂國土 七重欄楯 七重羅網 七重行樹 皆是四寶 周帀圍繞 是故彼國 名曰極樂 有七寶池 八功德水 充滿其中 池底純以 金沙布地 四邊階道 金銀瑠璃 玻瓈合成 上有樓閣 亦以金銀瑠璃 玻瓈硨磲 赤珠碼碯 而嚴飾之 池中蓮華 大如車輪 青色青光 黄色黄光 赤色赤光 白色白光 微妙香潔 舍利弗 極樂國土 成就如是 功德莊嚴

In the land of bliss, there are seven rafters, seven nets, seven walking trees, all surrounded by the four jewels. There are seven precious pools filled with the eight virtuous waters. And there was a tower decorated with gold and silver, and glass, and silver, and glass, and aluminum, and agate, and red pearls. 
The lotus in the pond is as large as a wheel, green and blue, yellow and yellow, red and red, white and white, and of a subtle fragrance, Shakyamuni.  The Land of Ultimate Bliss is a place of great virtue


[1]GPT-3がGPT-3について論文を書いた~学術誌に投稿され現在査読中らしい(シンギュラリティサロン・オンライン)

[2]緊急対談!今AI業界に何が起きてるのか?!shi3zさんに聞いてみた! スペシャルゲスト:西川善司(shi3z & drikin のAIドリフト)

[3]MidjourneyやDreamStudioなどの画像生成AIの仕組みについて(IT navi)

[4]創るためのAI 機械と創造性のはてしない物語 (徳井直生)

2022年8月11日木曜日

国立大学のLMS一覧

高等教育研究センター(2)からの続き

阪大全学教育推進機構教育学習支援部の村上正行さんによれば,今回の京都大学の高等教育研究開発推進センターの廃止は,予算の問題というよりむしろ学内政治の問題に起因するらしい。そこで気になったのが競合するシステムが京大内に存在するのかということ。

京都大学の情報基盤を管理・運用しているのは,情報環境機構である。沿革によれば,2002年に大型計算機センターと総合情報メディアセンターを統合した,学術情報メディアセンターが設置された。その後,2005年に京大の5機構の1つとして,情報環境機構が設けられ,徐々に組織整備が進められた。組織図によれば,学術情報メディアセンターとは別組織だが,機構の一部はその建物を利用している。

しかし,高等教育研究開発推進センターは,情報環境機構の組織図に明示的には現れてこない。情報環境機構では,LMSのSAKAIを利用したPandAなどが運用されていて,授業資料の配付などはこの中に閉じこめられていた。そもそも,OCWやMOOCとは別方向のベクトルになっている。

なお,国立大学のLMS一覧がまとめられていたので,紹介する。大阪教育大学は,多数派の(無料で安上がりの)moodleを使っている。SAKAIを使っているのは,京大と名大,


図:国立大学が導入しているLMS(たれにゃんこさんの資料から引用)

[1]国立大学のLMSの一覧(たれにゃんこ)

2022年8月8日月曜日

高等教育研究センター(2)

高等教育研究センター(1)からの続き

8月4日,京都大学の高等教育研究開発推進センターの廃止のお知らせが公開された。2022年9月30日を持って廃止されたあと,コンテンツの一部は,教育学研究科高等教育学コースのHPに移管されるとあるが,ほとんどはそのまま無残にも捨てられるようだ。廃止されるセンタースタッフの所属は上記の教育学研究科に確保されている。

今後のICT活用教育関連の各プラットフォームの対応について,は,JMOOC(gacco)のうち,国際高等教育院附属データ科学イノベーション教育研究センターから提供する講義のみ継続ということで,その他は全滅なのである。

(1) 京都大学OCW

(2) MOOC(edX)

(3) SPOC(KoALA

(4) JMOOC(gacco)

(5) サポートサイト(CONNECT)

(6) 高大接続を促進するためのポータルサイト(KNOT)

確かに,あれもこれもと欲張ってゴチャゴチャしていたので,整理が必要であったかもしれない。OCW閉鎖への対応についてはアナウンスがでているが,以下の回答に関係者の無念さがにじんでいる。

京都大学のOCWは今後どうなるのですか

10月以降の状況については当センターではお答えしかねます。OCWは今世紀に入りオープンエデュケーション/教育のオープン化と呼ばれるムーブメントの中で広がってきた取り組みで,2019年にはユネスコでOER*勧告(ICTを利用した教育のオープン化に関わる教材のグローバルな普及促進に関する勧告)が全加盟国の一致でなされています。今後、国内でも教育のオープン化に関わる取り組みが広がってくると思われます。2005年の立ち上げ以降,その一端を担ってきた本学のOCWがこのような形で失われることは残念でなりません

[1] 京大OCW閉鎖の件に寄せて:これからの可能性だったものの一つ(digitalnagasaki)