カーリングの原理(3)からの続き
問題を現象論的な微分方程式で扱えれば簡単なのだが,動摩擦力だけではカールがうまく説明できない。もちろん,進行方向前後で動摩擦係数が異なり,進行方向後部の摩擦が大きいとすればよいのだけれど,物理的な理由づけが難しい。
村田さんの精密実験の結論は「摩擦=微小な衝突の重ね合わせとして,離散的な摩擦支点中心の旋回が,左右非対称な頻度で起こる」というもので「従来の左右非対称摩擦説を支持するものであった」とまとめられている。
実験データの分析や結論は問題ないが,最後のまとめ方がちょっと納得できない。というのも普通の動摩擦力であれば,物体の速度と逆方向に働くのだけれど,摩擦支点中心の旋回力=動摩擦力(旋回)の向きは通常の動摩擦力(並進)とは異なる。もちろん広義の摩擦ということではくくることはできるだろうが,現象論的には動摩擦力(並進)および動摩擦力(旋回)として区別して取り扱う方がよいと考えられる。
そこで,x軸方向に速度uで進む質量M,半径Rの環状ストーンモデルを考える。このリングの進行方向からθの部分とアイスシートの間に衝突/固着点 P が生じ,これを中心に重心が角速度Ωで旋回運動を始めた場合の旋回力の大きさと方向を求めてみる。
衝突/固着点Pで働く抗力はこの点の回りの角運動量に寄与しないので,点Pの回りの衝突/固着前後の角運動量が保存される。ただしリングの重心の回りの自転角速度は小さいのでその寄与は無視した。保存される角運動量は,L=MuRsinθ=IPΩ=2MR2Ωである。したがって,Ω=usinθ2Rとなる。ここで,IP=2MR2 はP点の回りのリングの慣性能率である。
衝突/固着後に重心は運動量 p=MV=MRΩ(sinθ,−cosθ) で動き出す。なお,運動量の大きさは p=MRΩ である。微小時間Δtの後,重心は ΩΔt だけ反時計回りに回転し,これにともなって,運動量ベクトルは Δp=pΩΔt(cosθ,sinθ)=MRΩ2Δt(cosθ,sinθ) だけ変化する。
したがって,衝突/固着時の旋回力は F=ΔpΔt=MRΩ2(cosθ,sinθ)=Mu2sin2θ4R(cosθ,sinθ) である。これについても,幾何学的な対称性によって,このまま一様に角度平均をとればその寄与は0になってしまい,ストーンのカールの原因にはなれない。
そこで,衝突/固着の確率がアイスシートに対する衝突/固着点Pの速度v(θ)に逆比例すると考え,無次元化したuv(θ)をかける。つまり,旋回力 F=Mu3sin2θ4Rv(t)(cosθ,sinθ) を導入すれば,リングの回転方向にカールすることが説明できることになる。
前回と同様に,Mathematicaで試してみると次のようになる。
mg\[Mu] = 2; mcl = 1; ux = 1; uy = 0; w = 0.1; r = 0.1; q = 0.944;v[t_] := Sqrt[w^2 - 2*w *(ux*Sin[t] - uy*Cos[t]) + ux^2 + uy^2]
k[t_] := mg\[Mu]/v[t]^1.5 *(1 - q*Cos[t])
F[t_] := -k[t]*{ ux - w * Sin[t], uy + w*Cos[t]}
G[t_] := mcl ux^3/(4 r*v[t])*Sin[t]^3
T[t_] := -r * k[t]*(w + uy*Cos[t] - ux* Sin[t])
Plot[{v[t], F[t], G[t]}, {t, 0, 2 Pi}, PlotRange -> {-3, 3}]
NIntegrate[{F[t], G[t]}, {t, 0, 2 Pi}]
{{-12.5427, 0.592575}, 0.592504}
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