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2019年7月20日土曜日

アポロ11号

1969年の7月20日の20:17(UTC)にアポロ11号の月着陸船が人類初の月面着陸に成功した。日本時間では7月21日の5:17(JST=UTC+9)になるのだけど,高校1年の自分はこれをテレビの実況中継で見ていたのだろうか?あまりはっきり記憶にないし,それほど感動しなかったような気もする。当時は早川書房のSFマガジンの定期購読者であり,月をテーマとした短編の特集がその前後1〜2年にあったのははっきり憶えている。いずれにせよ,1年後の1970年の夏休みには大阪万博のアメリカ館で,そのアポロ11号が持ち帰った月の石を見ることになるのだった。ソ連館に比べるとその曇りの日夕方の行列の待ち時間はたいしたことはなく,月の石の感動もそれほどのものではなかった。

宇宙開発のこれまでの歴史で最も感動したのは,1970年2月11日の13:25に内之浦から打ち上げられた日本初の人工衛星おおすみの方である。建国記念の日は1966年に制定されており,当日は祝日だったはずなので,家でテレビの中継にかじりついていた。夕方のニュースなどを繰り返して見続けた。各国独自のロケットによる打ち上げでは,ソ連1957,アメリカ1958,フランス1965,につづいて4番目,その後すぐに中国1970,イギリス1971が続いた。1966年から始まった東大宇宙航空研究所のラムダ4Sシリーズで,4回も失敗を重ねて新聞を賑わしていたので,やっと達成できたという喜びが大きかった。

次に感動したのは,1972年3月2日にケープカナベラルから打ち上げられた惑星探査機パイオニア10号である。3月3日から5日までが,国立大学一期校の大学入試であり,前日に金沢から大阪に向った雷鳥の中で新聞記事を見てすごいと思った。それ以前にもこのニュースは伝わっていたが,いよいよ現実のものとなったのかと感慨深かった。そのときに金属銘板に刻まれた図を以下に引用した。果たして,人類の存在に気付く地球外知性体は存在するのかというテーマであり,地球と人類の自己紹介を刻んだものであった。

図 探査機に取り付けられた金属板(Wikipediaより)

2019年5月24日金曜日

キロノヴァ

原子核物理でつむぐrプロセスからの続き)

冨永さんの話に「キロノヴァ」というキーワードが登場し,疑問符のままにしていたが,やはり気になるので調べてみた。

新星(nova):白色矮星と主系列星の近接した連星で,主系列星からの水素が降着円盤を経由して白色矮星の表面に蓄積している。その核融合連鎖反応によって白色矮星の表面が爆発して光度が千倍から数百万倍に急激に増光するもの。銀河系内の発生頻度は年に数十例(観測は数例)とされている。

超新星(supernova):大質量の恒星の中心部の核反応が進んだ結果,中心核の圧力が低下し中心部に中性子星やブラックホールを形成する最に,爆発的に外層を吹き飛ばすことできわめて大量のエネルギーを放出するもの。新星の1万倍から十万倍の明るさとなる。銀河系内の発生頻度は数十年に1度(観測頻度は数百年に1度)とされている。他の銀河系も含めると年に数百例程度観測される。

キロノヴァ(kilonova):中性子星の連星,または中性子星とブラックホールの連星が融合する際におこる大規模な爆発。新星の千倍程度の明るさになる。超新星の10分の1から100分の1の明るさである。これまでに数例観測されている。元素合成のr過程を担う重要な現象だと考えられるようになった。

追伸:「ノヴァ」といえばサミュエル・R・ディレーニーのSFですね。地中海に響くシリンクスの音色が今も記憶に残っている。

2019年5月23日木曜日

原子核物理でつむぐ r プロセス

元素合成のr過程からの続き)

原子核物理でつむぐ r プロセス 」という研究会が,5/22-24の日程で京都大学の基礎物理学研究所で開催されている。国広さんのtwitter情報によれば,四月以降グレードアップしたLIGO-Virgo O3が,多いときには毎日1個の割合で重力波を観測しているらしい。京大の久徳浩太郎さんの資料「多粒子観測から原子核物理へ:ブラックホール・中性子星連星を例に」を参照のこと。

(キロノヴァへ続く)

2019年5月18日土曜日

重力波天文学

日本物理教育学会近畿支部総会が阪大全学教育推進機構で行われた。記念講演は,甲南大学理工学部物理学科冨永望さんの「重力波天文学」。(参考:重力波天文学:名古屋大学西澤篤志

2015年9月のLIGOによる初めての重力波の観測は,太陽質量の30倍程度のブラックホールの合体であり,その後も2ヶ月に1度程度の割合で観測されている。LIGOのハンフォードとリビングストンに加えて,2017年からはイタリアのVIRGOが加わったために,重力波源をより狭い範囲で特定できるようになった。2019年の日本のKAGRAのスタートが楽しみだ。

この期間に1度だけ中性子星の合体が観測された(GW170817)。その重力波はブラックホール合体の場合とは異り,57秒という長時間にわたって続いた。その後,すばる望遠鏡などでの光学的な観測が行われた。その結果,これが中性子星合体であり,それによる元素合成の可能性がより確かなものになった。というあらすじだった。

中性子星合体のほうが発生確率が高いが,ブラックホール合体の方が発生エネルギーが大きいため,10倍の距離まで観測できることから,有効体積が1000倍の範囲で観測しているので,地球で観測されるのはブラックホール合体が多くなるとのこと。超新星爆発によるニュートリノの観測は1987年に一度あったきりだが,重力波の方がどんどん観測されている。おまけにブラックホールシャドウまで観測された。すごい時代になったものだ。

元素合成のr過程に続く)

2019年4月11日木曜日

ブラックホールシャドウ(1)

国立天文台によると,国際研究チームによるイベント・ホライズン・テレスコープのプロジェクトが,地球から5500万光年にあるおとめ座銀河団の楕円銀河M87にある太陽質量の65億倍の質量を持ったブラックホールによる,ブラックホールシャドウの画像撮影(イメージング)に成功したとのこと。
引用:EHT Cllaboration の公開画像より

APEX(チリ),アルマ望遠鏡(チリ),IRAM30m望遠鏡(スペイン),ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(米国ハワイ),アルフォンソ・セラノ大型ミリ波望遠鏡(メキシコ),サブミリ波干渉計(米国ハワイ),サブミリ波望遠鏡(米国アリゾナ),南極点望遠鏡(南極)のデータを合成して地球サイズの口径の電波望遠鏡を実現した。

その分解能は 2 μas($2 \times 10^{-6}arcseconds$)であり,これから得られた1.3mm (230GHz)のサブミリ波における数ペタバイトのデータがドイツのマックスプランク電波天文学研究所とアメリカのマサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所に設置された専用のスーパーコンピュータで処理された。

日本のニュースではちょっと日本人の活躍にウェイトがかかっていた。アルファベット順の論文の著者の最初には日本人の名前があったけど・・・。画像処理についてもアメリカチームと日本チームなど4チームが独立に取り組み,従来の分析方法2チームとスパースモデリングなどの新しい分析方法2チーム(この一つが日本チーム)がコンシステントな結果を出した。複数のパターンについて平均化されたものが,今回公表されている画像のようだ。

(注1)「Event Horizon Telescopeによる 超大質量ブラックホールの 事象の地平面スケールの観測」(秋山和徳・本間希樹 天文月報第111巻第6号 358-367 2018)


(注2)「How to Take a Picture of a Blackhole」(Katie Bouman TEDxBeaconStreet 2016)

(注3)幻冬舎文庫の「重力とは何か(大栗博司)2012」の一部が公開された。なお,事象の地平線〜シュワルツシルド半径 $R$ は,ニュートン力学の脱出速度が光速 $c$ になる場合の計算と一致する。
\begin{equation}
\dfrac{m}{2}v^2 = \dfrac{GM}{R}\hspace{1cm}
\therefore R = \dfrac{2GM}{c^2}
\end{equation}
(注4)「ブラックホールはどう視えるか」(福江純 大阪教育大学)

(注5)「ブラックホールの見え方」(広江克彦 EMANの物理学 相対性理論)



2019年2月23日土曜日

はやぶさ2

2019年2月22日の午前7時半ごろ,小惑星探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウへの最初の着陸(タッチダウン)に成功した。2010年の6月,はやぶさイトカワからサンプルを持ち帰った。これに関して,当時大阪大学理学研究科宇宙地球科学専攻惑星物質学グループ教授だった土山明先生(2012年から京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻鉱物学講座教授)に,日本物理教育学会近畿支部の講演でお話をうかがったことを思い出した。

イトカワは直径390 m(体積0.018 km^3),質量3.5 × 10^10 kgであり,その密度は1.9 g/cm^3 である。地球表面に持ってくればグズグズにくずれそうな物体である,と聞いたような気がする。

リュウグウはどうかと思い Wikipediaをみると,直径 700 m(この辺が日本のWikipediaの限界か,英語版では 865±15 mとして参考文献も示されている),質量が 4.5 × 10^11 kgであり,イトカワより一回り大きいことがわかる。体積や密度は記載されていないので,体積を直径の3乗の半分だと仮定すると(立方体の周囲を半分だけ削ったような形だと想像)0.7 g/cm^3となる。おかしいな,水より軽い。やはり体積の式が間違っているので,その結果が報告されるのを待つほうがよろしい。

リュウグウは炭素質コンドライトからなるC型小惑星であり,それらの平均の密度は1.38 g/cm^3 程度のようだ。M型小惑星はニッケルや鉄などの金属からできていて,その平均の密度は 5.32 g/cm^3 になる(Wikipedia のStandard asteroid physical characteristics より,これも中文版はあるが日本語版はまだない)。

写真:小惑星リュウグウ(Wikipedia 英語版より)


2019年1月8日火曜日

ラグランジュ点(3)

ラグランジュ点(2)の続き)

$\rm{L}_3$についての補足:

ウィキペディア日本語版のラグランジュ点では,$\rm{L}_3$について次のように書かれている。「3 番目のラグランジュ点である $\rm{L}_3$ は地球から見て太陽の裏側にあり、太陽からの距離は太陽から地球までよりもやや遠い。」

ウィキペディア英語版のLagrangian Pointsではどうだろうか。
L3 in the Sun–Earth system exists on the opposite side of the Sun, a little outside Earth's orbit and slightly further from the Sun than Earth is. (This apparent contradiction is because the Sun is also affected by Earth's gravity, and so orbits around the two bodies' barycenter, which is, however, well inside the body of the Sun.)
いずれも,地球の軌道の外側ということになっている。しかし,太陽と地球の距離を$R$とすると,太陽と$\rm{L}_3$の距離は$R$より小さくなる。英語版の説明にあるように,太陽−地球系の重心から地球までの距離と比較すれば,太陽と$\rm{L}_3$の距離のほうが大きいという意味のようだ。

なお,太陽−地球系の重心は太陽の中心から 449km 地球寄り(太陽内部)にあり,$\rm{L}_3$は太陽を挟んだ地球の対蹠点から 262km 太陽寄り(太陽を中心として太陽-地球距離$R$を半径とする円内)にある。

2019年1月6日日曜日

ラグランジュ点(2)

ラグランジュ点(1)の続き)

地球−月系のラグランジュ点の位置を実際に計算してみる。$x \equiv \frac{r}{R}$,$a \equiv \frac{M_2}{M_1}$ とすると,次の式の解がそれぞれ $\rm{L}_1, \rm{L}_2, \rm{L}_3$ を与える。
\begin{equation*}
\begin{aligned}
\frac{1}{(1-x)^2}=\frac{a}{x^2}+ 1 -x*(1+a)\\
\frac{1}{(1-x)^2}+\frac{a}{x^2}= 1 +x*(1+a)\\
\frac{1}{(1-x)^2}+\frac{a}{(2-x)^2}= a +(1-x)*(1+a)
\end{aligned}
\end{equation*}
これは$x$の5次方程式であるが,Mathematicaならば,NSolve[]でもよいけれど,複素数解は不要なので,FindRoot[]を使うところだ。

Juliaではどうするのか調べてみたところ,NLsolveという非線形方程式の求解パッケージがあったが,GitHubのオリジナルサイトをみてもJacobian がなんたらかんたらでと五月蝿くて分かりにくい。阪大サイバーメディアセンターの降旗大介さんのページがたいへん親切な解説をつけてくれていたので参考にする。

using NLsolve

function nls(func, params...; ini = [0.0])
    if typeof(ini) <: Number
        return nlsolve((vout,vin)->vout[1]=func(vin[1],params...), [ini]).zero[1]
    else
        return nlsolve((vout,vin)->vout .= func(vin,params...), ini).zero
    end
end

function lagrange(x,a,i)
    if i==1
        1.0/(1.0-x)^2-a/(x^2)-1.0+x*(1+a)
    elseif i==2
        1.0/(1.0+x)^2+a/(x^2)-1.0-x*(1+a)
    elseif i==3
        1.0/(1.0-x)^2+a/(2-x)^2-a-(1-x)*(1+a)
    end
end

# earth - moon system  M2/M1=0.0123
L1=nls(lagrange, 0.0123, 1, ini=0.1)
L2=nls(lagrange, 0.0123, 2, ini=0.1)
L3=nls(lagrange, 0.0123, 3, ini=0.1)
println([L1,L2,L3]," ",[L1,L2,L3]*38.4)

# sun - earth system  M2/M1=0.000003
S1=nls(lagrange, 0.000003, 1, ini=0.1)
S2=nls(lagrange, 0.000003, 2, ini=0.1)
S3=nls(lagrange, 0.000003, 3, ini=0.1)
println([S1,S2,S3]," ",[S1,S2,S3]*14960)


[0.150934, 0.167833, 0.00708792] [5.79587, 6.44477, 0.272176]
[0.00996655, 0.0100332, 1.74999e-6] [149.1, 150.097, 0.0261799]

ということで,無事に鵲橋のハロー軌道の元になる地球−月系の$\rm{L}_2$点の6.4万kmが得られた。ここでは,ラグランジュ点の安定性の議論はすっとばしているが,京大の三宅雄紀さんの「ラグランジュ点の安定性を調べてみた」もたいへん参考になる。



「わが十指われにかしずく寒の入り」(岡本眸 1928-2018)

ラグランジュ点(3)に続く)

2019年1月5日土曜日

ラグランジュ点(1)

嫦娥4号月裏面着陸からの続き)

ラグランジュ点Lagrangian Points)というのは,天体力学における制限3体問題の平衡解を表している。つまり,2つの天体がその重心の回りに回転運動しているときに,その2つの天体との相対位置を保ったままで運動できる5つの点である。これらの点は,回転座標系において小物体に働く2天体の重力と遠心力の合力が0になるという条件で求めることができ,3つの直線解と2つの正三角形解から成り立つ。下図に基づいて考えてみよう。



まず2天体の重心の周りの角速度$\omega$を求める。質量$M_1$と$M_2$の2つの天体がOとPの位置にあり,距離$R$を保ちながら重心Gの周りを回転している。換算質量を$\mu=\frac{M_1 M_2}{M_1+M_2}$とすると,相対運動に対する運動方程式 $\mu R \omega^2 = \frac{G M_1 M_2}{R^2}$ より,$\omega^2 = \frac{G (M_1+M_2)}{R^3}$である。

次に,小物体の質量を$m$とすると,$\rm{L}_i$における各遠心力は$\ell \equiv \rm{GL}_i$として$m \ell \omega^2$で与えられる。また,重心から各天体までの距離は,GO=$\frac{M_2 R}{M_1+M_2}$,GP=$\frac{M_1 R}{M_1+M_2}$である。

【直線解について】
$a \equiv \frac{M_2}{M_1}$とおき,力の釣り合いの式を求めた後,両辺を$GmM_1$で割る。
L1:  $\rm{PL}_1=r$とすると,$\omega$での回転系における力の釣り合いの式より,
\begin{equation}
\begin{aligned}
\frac{G m M_1}{(R-r)^2}=\frac{G m M_2}{r^2}+ m(\frac{M_1 R}{M_1+M_2}-r)\omega^2\\
\frac{1}{(R-r)^2}=\frac{a}{r^2}+ \frac{1}{R^2}-\frac{r(1+a)}{R^3}
\end{aligned}
\end{equation}

L2: $\rm{PL}_2=r$とすると,$\omega$での回転系における力の釣り合いの式より,
\begin{equation}
\begin{aligned}
\frac{G m M_1}{(R+r)^2}+\frac{G m M_2}{r^2}=m(\frac{M_1 R}{M_1+M_2}+r)\omega^2\\
\frac{1}{(R-r)^2}+\frac{a}{r^2}= \frac{1}{R^2}+\frac{r(1+a)}{R^3}
\end{aligned}
\end{equation}

L3: $\rm{OL}_3=R-r$とすると,$\omega$での回転系における力の釣り合いの式より,
\begin{equation}
\begin{aligned}
\frac{G m M_1}{(R-r)^2}+\frac{G m M_2}{(2R-r)^2}=m(\frac{M_2 R}{M_1+M_2}+R-r)\omega^2\\
\frac{1}{(R-r)^2}+\frac{a}{(2R-r)^2}= \frac{a}{R^2}+\frac{(R-r)(1+a)}{R^3}
\end{aligned}
\end{equation}

【正三角形解について】



(1)$\underline{解は二等辺三角形の頂点にあること}$。
 遠心力は重心からラグランジュ点の方に向っているので,釣り合いが成立するためには重力の合力も重心方向に向わなければならない。
 2つの天体OとPから$\rm{L}_i$の距離を,$\ell_1$と$\ell_2$すると,OとPからの重力の大きさは,$\frac{GmM_1}{\ell_1^2}$と$\frac{GmM_1}{\ell_1^2}$となる。このとき,$\rm{L}_i\rm{P}$方向と$\rm{L}_i\rm{O}$方向の力ベクトルを合成したものがGに向わなければならない。
 この条件は,$\frac{GmM_1}{\ell_1^2} \times \frac{M_2}{M_1} \times \frac{\ell_2}{\ell_1} =\frac{GmM_2}{\ell_2^2} $であることから,$\ell_1^3=\ell_2^3$,すなわち,ラグランジュ点$\rm{L}_i$はOPを底辺とする二等辺三角形の頂点にある。

(2) $\underline{解は正三角形の頂点になること}$。
 二等辺三角形の底辺から頂点を見込む角を$\theta$として,重力の合力と遠心力をそれぞれ$\theta$の関数として表して等置する。このとき二等辺三角形の等辺$\ell$は,$\ell \cos\theta = \frac{R}{2}$となる。また,ラグランジュ点と重心の距離は,$\sqrt{(\ell \sin \theta)^2+(\frac{R}{2}-\frac{M_2R}{M_1+M_2})^2}$ である。したがって,遠心力の大きさは次式で与えられる。
\begin{equation}
\frac{Gm}{2R^2} \sqrt{(M_1+M_2)^2 \tan^2\theta + (M_1-M_2)^2}
\end{equation}
 一方,合成した重力ベクトルの成分は,$( \frac{Gm}{\ell^2}(M_1-M_2)\cos\theta, \frac{Gm}{\ell^2}(M_1+M_2)\sin \theta )$であるから,重力の大きさは次式のようになる。
\begin{equation}
\frac{Gm \cdot 8\cos^3\theta }{2R^2} \sqrt{(M_1+M_2)^2 \tan^2 \theta + (M_1-M_2)^2}
\end{equation}
 (4)式と(5)式が一致するのは,$\cos\theta=\frac{1}{2}$に限られ,そのときの角度$\theta=\pm 60^\circ$となって,ラグランジュ点$\rm{L}_4$と$\rm{L}_5$は天体Oと天体Pを頂点とする正三角形のもう一つの頂点(とそれを反転させたもの)となる。

等ポテンシャル曲面の断面図については,Lagrange Points of the Earth-Moon Systemが分かりやすい。

ラグランジュ点(2)に続く)

2019年1月4日金曜日

嫦娥4号月裏面着陸

2016年7月の国立文楽劇場夏休み特別公演午前演目(親子劇場)は,「新編西遊記 GO WEST!玉うさぎの涙」だった。月の女王が嫦娥様(じょうがさま)とよばれており,家に帰って調べてみると,中国神話あるいは道教に登場する月の女神のようである。新作文楽の脚本でうさぎと結びつけたのは,セーラームーンの月野うさぎからきているのか,いや,そもそも月にはうさぎがいるというのは,仏教説話を起源としてアジア一帯に拡がっているからか。

ということで,嫦娥様が記憶に刻印されてしまった。そうこうしているうちに,2018年12月8日に中国が打ちげた月探査機嫦娥4号が2019年1月3日に月の裏面に無事到着した。月の裏側は地球から見えないので光や電波は届かない。月探査機をどうやって制御したのかと不思議だったが,調べると,地球-月系のラグランジュ点L(地球から見て月の6.5万km遠方側)のまわりで中継衛星鵲橋がハロー軌道を周回し,地球と裏月面の通信を中継しているようだ。すごいわ。

P. S.  2019年1月4日には月面ローバの玉兎2号が動き出した。


「かささぎの 渡せる橋に おく霜の
   白きを見れば 夜ぞ更けにける」 (大伴家持 718?-785)