2019年8月19日月曜日

加藤恭子と田島道治

NHK特集の昭和天皇(1901-1989)に関するテーマは,夜7:00のニュースにまであふれ出して,国民に何らかの変化をもたらせようとしている。8月17日に放映された,NHKスペシャル「昭和天皇は何を語ったのか −初公開・秘録拝謁記」である。初代宮内庁長官を務めた田島道治(1885-1968)の昭和天皇とのやりとりを記録した手帳やノートが発見されたということで,昭和天皇のこれまで伝えられなかった考えを伺い知ることができる。

これに対してさっそく,昭和天皇と田島道治のことは既に知られていたとのコメントがあった。その内容は,フランス文学者で伝記著者である,加藤恭子(1929-)が不思議な因縁で田島家から受け取った資料の一部によって知られ,書籍としても出版されていた内容だということである。具体的には「近現代日本の政策史料収集と情報公開調査を踏まえた政策史研究の再構築」という科研費の報告書にある2003年の講演記録から分かる。

ただ,フランス文学者の加藤恭子は「田島メモ」を直接見てはおらず,それがゆえに,歴史学者である茶園義男(1925-)からその推論(天皇の謝罪詔書の草稿の位置づけ)を強く否定されていた。しかし,今回NHKが報道した田島メモが本当ならば,茶園のほうが誤っていたということなのだろう。

天皇の戦争責任と憲法改定と再軍備をめぐるいくつかの重層的なテーマが含まれており,NHKがこれを報じたのが,どのような意図のもとでなのか,あるいは安倍政権がどうやってこれを改憲スケジュールに編み込んでいくのか,不安で不確実な暗雲がただよっている。

そうこうしているうちにも,れいわ⊗韓国⊗あいちトリエンナーレ⊗N国をめがけて,杉田水脈,橋下徹,東国原英夫らが続々と右からの工作に励んでおり,マスコミは反韓国で一色の報道。それにしても,金正恩があれほど文在寅に対して敵意を表明するのはなぜなのだろうか。板門店でのトランプ+金正恩+文在寅(あるいは最初の段階の会談)からどうしてこんなに遠くに来てしまったのだろうか,どんな理や利があるのかよくわからない。

2019年8月18日日曜日

ひろしま

NHKが深夜に映画「ひろしま」を放送していた。日教組が関川秀雄の監督で製作し,1953年8月に完成しているので,誕生してからちょうど自分の年齢と同じだけの時を経ている。はっきりしたストーリーはなく,岡田英次と広島出身の月丘夢路が主人公かと思っていたら,そうでもなかった。様々なエピソードの積み重ねで原爆投下前後の悲惨な状況をリアルに描写しているが,現実の重みがそれらのエピソードを支えている。また,原爆投下後8年目に,地元広島市民の協力の下に製作されており,監督の視点ではなく市民や被爆者の呻きのような空気も感じられる。

広島大学の教育学者である長田新が原爆を体験した子どもたちの作文を編集した文集「原爆の子」がもととなっている。当初は,日教組が新藤兼人を監督として製作を進めるはずだったが,両者は意見があわなかった。新藤兼人は「ひろしま」とは別に「原爆の子」という映画を乙羽信子主演で製作し,1952年8月6日に公開した。こちらのほうは見たことがない

1953年9月には,国際物理学会が日本(東京・京都)で開催されている。海外からはノーベル賞学者17名を含む55名が参加しているが,そのうち8名がこの映画を見ているらしい。いつ誰が観たのかについての情報はみつからなかった。映画には仁科芳雄博士が原子爆弾であることを確認した話と,原爆であることを秘匿しようとする軍部とのやりとりが出てくる。

2019年8月17日土曜日

(夏休み7)

にんけんハあざないものであるからに
すゑのみちすじさらにわからん
(おふでさき通訳 芹澤茂 より)

2019年8月16日金曜日

(夏休み6)

どろうみのなかよりしゆごふをしへかけ
 それがたん〻さかんなるぞや 
(おふでさき通訳 芹澤茂 より)

2019年8月15日木曜日

(夏休み5)

 ほそみちをだん〻こせばをふみちや
これがたしかなほんみちである
(おふでさき通訳 芹澤茂 より)

大東亜戦争終結の詔書(裕仁)
3.1独立運動100年光復節記念演説(文在寅)

2019年8月14日水曜日

(夏休み4)

一れつにあしきとゆうてないけれど
一寸のほこりがついたゆへなり
(おふでさき通訳 芹澤茂 より)


2019年8月13日火曜日

(夏休み3)

よろずよにせかいのところみハたせど
あしきものハさらにないぞや
(おふでさき通訳 芹澤茂 より)


2019年8月12日月曜日

(夏休み2)

よろずよのせかいぢふうをみハたせバ
みちのしだいもいろ〻にある
(おふでさき通訳 芹澤茂 より)

2019年8月11日日曜日

(夏休み1)

このよふハりいでせめたるせかいなり
(おふでさき通訳 芹澤茂 より)

2019年8月10日土曜日

原発危機と「東大話法」:安富歩

(「安富歩さん」からの続き)

この本を買ったのはいつのことだったろうか。長いこと積ん読状態だったけれど,安富さんのれいわ新選組の参議院選比例区候補としての演説を聞いているうちに再読しようという気になった。

典型的な東大話法者として,池田信夫があげられている。彼は,福島第一原発災害の後,一瞬だけ正気になったブログ記事を書いたことがあったが,その後は安定の新自由主義反動路線の人で,安富をボロクソにけなしている。「京都生まれで東大卒で新左翼崩れでNHKで青木昌彦の下でドクターをとるとこんな結末を迎えるのか」という差別的な言辞を吐きたくさせる方である。

話がそれた。ブログ記事を再編集したものが中心になっているので,とりたてて新鮮な感想は持たなかったが,第4章の「役」と「立場」の日本社会というのは,自分もその考え方にどっぷりと染まっていたので,よくわかった。また,第5章の槌田敦のエントロピー論に立脚した議論も素直に納得できるものだ。

安富歩は,既存の学の枠組みに束縛されず自由に考えることができる希有の人だと思う。2011年の3月に発行された(たぶん東日本大震災以前の対談)京都大学大学院人間・環境科学研究科の雑誌人環フォーラムNo.28に,「<対談>生きるための経済学:安冨歩,間宮陽介, 司会 阪上雅昭」という記事が掲載されている。阪上君は阪大理学研究科で,森田研のとなりの内山研で3〜4学年下の院生だったが,その後,福井大学教育学部を経て京大人間・環境科学研究科の教授となっている。安富さんとは親しいようだった。

この対談では,間宮陽介が典型的な東大話法型の人間であることが透けてみえる。間宮は岩波文庫でケインズの「雇用・利子および貨幣の一般理論」を翻訳しているが,山形浩生経済のトリセツボロクソに叩かれていた(まあ,山形のことなので,どこまで真剣に受け止めるべきかは留保したほうがよいのかもしれない)。間宮は物知りで引出をたくさん持っている人であり,安富の考えを正面から受け止めず,既存の知識で斜めにバンバン打ち返していた。その点,阪上君は安富さんを理解した上で対応している。

この続編が,「幻影からの脱出−原発危機と東大話法を越えて(明石書店,2012)」であり,上西充子さんの「呪いの言葉の解き方(晶文社,2019)」にも続いている。

2019年8月9日金曜日

中田敦彦のYouTube大学

ヨビノリが話題になっていると思っていたら,オリエンタルラジオ中田敦彦YouTube大学の話が飛んできた。チャンネル登録者は65万人を越え(277位),動画再生数は3700万回に達している。2019年4月から青山学院大学経営学部の客員講師に就任して,「エンターテインメントビジネス実践経営学」を担当するともに,教育系YouTuberとして,日本史,世界史,経済,政治,文学,などをテーマとした番組を配信している。タイトルは次のようなものであり,わりといい感じ。
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【政治】なぜ増え続ける?「消費税増税」〜裏に隠された歴史編〜①
25万 回視聴
【政治】消費税増税は本当に必要なのか!?〜不都合な真実編〜②
22万 回視聴
【政治】まだ解決していない「原発問題」〜原発の歴史編〜①
17万 回視聴
【政治】国家や大企業の利権が絡む「原発問題」〜真相追求編〜②
12万 回視聴
【政治】憲法改正問題を中田がわかりやすく解説!〜基礎知識編〜①
20万 回視聴
【政治】憲法改正問題(第9条)の本質に中田が切り込む!〜核心編〜②
19万 回視聴
【政治】投票に行かないと損する!?「選挙〜入門編〜①」
27万 回視聴
【政治】国家予算100兆円の使い道は!?「選挙〜入門編〜②」
17万 回視聴
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中田敦彦は,茂木健一郎の発言をめぐる議論で,松本人志を批判し,吉本興業から圧力が加わったとの話があった。中央や地方の政権との癒着でポストTV時代の延命を目指しているよしもとが差別の温床になっていることを考えると,中田敦彦には頑張ってもらいたい。が,一方でヨビノリや中田敦彦のYouTube大学の隆盛がはらむ危険性も少し感じる。ポピュリズムであるにしても,山本太郎のようなはっきりとした原理が必要なのだろうと思う。

追伸:結局中田敦彦のそれはチャンネル登録から外してしまった。

2019年8月8日木曜日

ヨビノリ(1)

ヨビノリは,予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」というYouTubeのチャンネルである。教育系ユーチューバのヨビノリたくみ(松本拓巳)さんが運営している。予備校講師の経験をもとに,大学院生であった2017年からYouTubeを用いたアウトリーチ活動として始め,2018年に大学院(あの沙川研だ)を中退してYouTuberとして専念しているらしい。

大阪教育大学で担当していた「科学のための数学」は,理科教育専攻の1回生を対象とした専攻専門の選択科目であり,60名程が受講している。大教大理科の個別学力検査では,数Ⅲが必須ではなく,理科の教員を目指すといっても,小学校,中学校,高等学校と幅広いスペクトルの学生が集まっていることから,数学の基礎知識や基本技能には大きな開きがある。

そこで,この授業は,微分積分入門(初等関数,関数の極限,微分法,積分法,偏微分,重積分)ということで,数Ⅲ+αの内容をカバーしている。高校時代の数Ⅲが未習の学生にはハードルが高く,既習の学生には物足りないという絶妙の内容で毎年苦労していた。

一昨年のある日,この授業の受講生が研究室に「先生,ヨビノリって知ってますか」といってきた。ウェブ上の様々な学習コンテンツは,ある程度リサーチしていたので,「知ってるけど」と答えると,「来年度から是非これを授業に取り入れたらどうでしょう」との提案があった。学習進度がまちまちなので,反転学習の教材として使えるかもしれなかったのだが,定年1年前でちょっと元気が足りなくて断念した。

2019年8月7日水曜日

戦時性暴力の問題(1)

サイゾーウーマン というのはウェブ版の女性週刊誌のようなものなのかな?
特集「慰安婦問題」を考える第1回として,「今さら聞けない「慰安婦」問題の基本を研究者に聞く――なぜ何度も「謝罪」しているのに火種となるのか」が取り上げられていた。
関東学院大学教授の林博史先生のたいへんていねいな解説である。いわゆる「慰安婦」問題は,日本における最近のすべての民族・歴史・性差別・表現問題の中心点だと思われる。

一番の戦犯は小林よしのりだろうか。そして,中川昭一と安倍晋三とNHKだ。安倍に重用される極右女性議員たちと安倍を支える日本会議とその周辺の文化人。橋下徹と維新グループや大都市の首長たち。気づかないふりでスルーを決め込むどころか,反韓気分の火に油を注ぐ勢いのマスメディア。それによって燃え上がるネトウヨ工作員。信じ込む高齢者たち小人閑居して不善をなす。

戦時性暴力の問題(2)に続く)

2019年8月6日火曜日

原爆のイメージ

小学校5年か6年のころに,教室にアサヒグラフ(だったのか?)の原爆写真がやってきたことがあった。先生が持ってきたのか,教室の誰かが持ってきたのかははっきり憶えていないが,一面に焼けただれた市街地の白黒のあらいホワイトノイズのようなイメージがぼんやりした恐怖とともに鮮明に印象づけられた。このとき被爆者の写真があったのかはよくわからない。

中学生になったころか,近所の会館で原爆資料映像の公開があって見に行った。たしか,社会党の市会議員か県会議員の方がお世話していたものだったと思う。その後,NHKでも同様の映像がはじめてテレビで放映されることになり,家族でみいった記憶がある。

広島平和記念資料館をはじめて訪れたのは,大学2年の夏休みのちょうど原爆記念日を前後するころだった。友達と巡った山陽・山陰・北陸の旅の途中に広島に立ち寄った。資料館の展示物の印象は強烈で声も出なかった。平和記念公園では中核派などのデモがあり,我々はそれを横目で見ながら,夕方の灯籠流しまで広島にとどまり,それから夜行で島根・鳥取に向った。

[1]原爆映像の経緯(日映映像)



2019年8月5日月曜日

表現の自由

日本国憲法

第二十一条 集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する。
○2 検閲は,これをしてはならない。通信の秘密は,これを侵してはならない。
日本国憲法の下でも,表現行為が他者とのかかわりを前提としたものである以上,表現の自由には他人の利益や権利との関係で一定の内在的な制約が存在する。内在的制約とは,第一には人権の行使は他人の生命や健康を害するような態様や方法によるものでないこと,第二には人権の行使は他人の人間としての尊厳を傷つけるものであってはならないことを意味する。 (Wikipedia 日本語版「表現の自由」より)


2019年8月4日日曜日

あいちトリエンナーレ

あいちトリエンナーレ2019は,愛知県で開催される現代美術の国際芸術祭である。2010年から3年おきに開催されており,今回が4回目になる。芸術監督はツダるでおなじみの津田大介。2015年1月18日〜2月1日に東京練馬のギャラリー古藤で「表現の不自由展」という企画が開催された。これまで,組織的な検閲や忖度によって展示を拒否あるいは撤回された作品を集めたもので,澤地久枝さんのトークなどもあった。

あいちトリエンナーレ2019では,この「表現の不自由展」の続きとして,「表現の不自由展・その後」が企画された。慰安婦問題を契機とする少女像,昭和天皇の肖像を燃やす映像,安倍政権への警鐘を掲げるかまくら等を展示していた。これに対して抗議や脅迫が殺到するとともに,松井大阪市長に教唆された河村名古屋市長や,菅官房長官の企画に対する否定的発言が,抗議・脅迫側を支持して煽っために,企画は8月3日に中止に追い込まれてしまった

日本には,安倍政権の中核に存在する極右的(含むネトウヨ)な見解に反対する表現の自由(特に戦時の性暴力や徴用や虐殺等に関して)の余地が極めて乏しいことが改めてはっきりと可視化されてしまった。また,それを補完するように,脅迫側の存在や警察による不対応を所与の前提として出典企画側の非をとなえる江川紹子のような言論が幅をきかせている。表現の自由をあからさまに攻撃することはまずいと考える手合は,一定の集団に不快を催す企画を公金でまかなうことについて異を唱えるという作戦に出ている。

なお,表現の自由は無制限・無限定に認められるとは考えない。生存に関る人権と抵触する場合は認められるべきではないと思う。つまり,国際人権規約の次の条項が議論の出発点になるということ。その上で今回の抗議・脅迫・弾圧側にはなんの理も認められない。

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自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約 B規約)

第十九条
1 すべての者は,干渉されることなく意見を持つ権利を有する。
2 すべての者は,表現の自由についての権利を有する。この権利には,口頭,手書き若しくは印刷,芸術の形態又は自ら選択する他の方法により,国境とのかかわりなく,あらゆる種類の情報及び考えを求め,受け及び伝える自由を含む。
3 2の権利の行使には、特別の義務及び責任を伴う。したがって,この権利の行使については,一定の制限を課すことができる。ただし,その制限は,法律によって定められ,かつ,次の目的のために必要とされるものに限る。
(a) 他の者の権利又は信用の尊重
(b) 国の安全,公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護

第二十条
1 戦争のためのいかなる宣伝も,法律で禁止する。
2 差別,敵意又は暴力の扇動となる国民的,人種的又は宗教的憎悪の唱道は,法律で禁止する。

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[1]自由権規約委員会 一般的意見34(仮訳)(日本弁護士連合会)
[2]あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」をめぐって起きたこと−事実関係と論点の整理(明戸隆浩)


2019年8月3日土曜日

ローレンツ条件

今年から非常勤で物理を教えることになり,はじめて電磁気学を担当した。45年前の自分が学部のときの電磁気学は伊達宗行先生が担当されており,授業はたんたんと進行していた。電磁気学演習はどなたが担当だったのだろう。はっきり覚えていない。

「理論電磁気学」の教科書で有名な砂川重信先生は当時の教養部の所属であり,大学院に入ってはじめて量子電磁力学の授業を3〜4人で受講するようになるまでは,ご尊顔も拝見したことがないくらいだった。大学院入試の面接で,森田正人先生,小谷恒之先生と砂川先生のチームが,物理以外の内容を質問する部屋があった。どんな物理の本を読みましたかという問に,マンドルの「場の量子論入門」と答えた。いまひとつピンとこなかったのか,他によかった本はありますかということで,砂川さんの「理論電磁気学」がとてもよかったですと,ご本人が目の前にいるとは知らずに答えていた。ただ,後半がちょっとわかりにくかったというと,それはあなたの勉強不足ではと森田先生からコメントがあり,みんな笑っていた。

さて,その電磁気学で,電場や磁場に対するマックスウェル方程式から,スカラーポテンシャルやベクトルポテンシャルの方程式を導出する際に,ローレンツ条件という,電磁ポテンシャル間の条件式を課すことがある。そのローレンツ(Ludvig Valentin Lorenz 1829-1891)は,デンマークの物理学者である。一方,電磁気学のローレンツ力でおなじみのローレンツ(Hendrik Antoon Lorentz 1853-1928)の方は,オランダのノーベル賞物理学者である。後者は,特殊相対性理論のローレンツ変換でも有名である。ところがローレンツ条件は相対論的に不変であり,電磁ポテンシャルの方程式を相対論的不変にするという特徴を持つ。ややこしいことこの上ない。

というわけで,これまでの多くの著名な電磁気学の教科書や事典は両者を混同しており,ローレンツ条件をLorentz条件と誤記している。理化学辞典,培風館の物理学事典,岩波の現代物理学の基礎,電磁気学の教科書では,パノフスキー・フィリップス,平川浩正,牟田泰三,そして砂川重信,ああ,全滅である(いずれも手元の旧版の場合)。

J. D. Jackson の Classical Electrodynamics 3edは大丈夫。Ohta-Wakamatsuの太田浩一さんは,Lorenzをローレンスと表記してLorentzと区別している。物理教育学会の大御所の霜田光一先生も正しく認識されており,注意を喚起していた。


[1]霜田光一:光速の原理と電荷保存則からマクスウェルの方程式を導く(物理教育第53巻第4号319-322,2005)
[2]霜田光一:光速の原理と電荷保存則からLorenz条件を導く(物理教育第54巻第4号286-287,2006)





















写真:Wikipediaより 左:ルードビィヒ・ローレンツ 右:ヘンドリック・ローレンツ


2019年8月2日金曜日

White List

暑い夏がさらに熱くなった日。

日本における安全保障貿易管理の枠組みの中で,大量破壊兵器及び通常兵器の開発等に使われる可能性のある貨物の輸出や技術の提供行為などを行う際,経済産業大臣への届け出およびその許可を受けることを義務付けた制度が「補完的輸出規制キャッチオール規制)」である。

その中の,グループA(輸出管理優遇措置対象国=27カ国)が,いわゆるホワイトリストに載っている国。韓国をこれから外してグループBにするというのが本日の日本政府の閣議決定の内容である。8月7日に公布,8月27日から施行予定。

自分の立場は,文在寅(ムン・ジェイン)支持,安倍内閣不支持である。経済産業省がコアになっている現政権は,どんなメリットを求めてこの措置へと踏み出したのだろうか。普通に考えると経済的なメリットは全くないので,政治的・軍事的な判断であるが,なにか不思議な気がする。

北朝鮮との緊張緩和路線を進める韓国への対抗。建前としても安全保障上の問題から今回の措置を取ったという説明をしている。今回の北朝鮮の短距離ミサイル実験にJアラートも出さずゴルフに勤しんでいた安倍だが,韓国と北朝鮮が主導し米国(トランプ)と中国とロシアが支持する朝鮮半島の緊張緩和は困るので,それを妨害するための一手と考えられる。

朝鮮半島の緊張状態は,拉致被害者を利用した国内世論の喚起や,軍事的脅威をあおって米国の軍事産業への協力の言い訳に使えることなどから,安倍にとってこれを維持することには価値がある。これはトランプに取っては困った日本の行動なのだが,ポンペオ国務長官の取り成しもいまいち迫力がなく,もしあったとしても日本はこれを蹴っている。反トランプの米国内対北朝鮮強硬派との繋がりや両者の力関係がなせる技かもしれない。

ホワイトリストからの削除は,韓国との間に軍事的な信頼関係はないと日本側が宣言したことと同じだから,日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)を韓国側が破棄しても,当然ということになる。この協定は,日本と韓国のどちらにとってよりメリットがあったのだろうか。最近の北朝鮮のミサイル実験については明らかに韓国側の情報が優位なので,今後,日本はそれが米国経由でしか得られないことになる。いずれにせよ,米軍が圧倒的な情報をもっているということであれば,日本にとってのデメリットは相対的に小さいかもしれないが・・・GSOMIA破棄は北朝鮮と韓国を接近させる方向に作用する。

10月の消費税増税を見越し,国民の関心をそらし,きたる衆議院議員選挙のための反韓気分を醸成することが目的なのだろうか。れいわ新選組の効果を無効化し,右寄りで排外主義的な気分を煽ることが,日本会議や維新をはじめとしたコアな安倍支持層を元気づけ,政権の浮揚や安倍4選あるいは憲法改正への道を開くという考えがあるのかもしれない。ハイテク産業やインバウンド需要などへの経済的なダメージがどれだけあろうが政権支持率にはほとんど影響ないという判断なのだろうか。

長期的に見て,日本の高度素材産業への影響がどうなるかは,正確な情報が読み切れない。数ヶ月で韓国は新しいサプライチェーンを構築できるという説と,日本の技術的な蓄積はそんな短期間では乗り越えられないという説がある。結局は時間スケールの問題なのであって,グローバルなハイテクサプライチェーンからの日本の剥落は進むだろう。あるいは,高度素材提供企業が倒産して,韓国企業に買収されるというオチなのかもしれないが。

[1]安全保障貿易管理(大学研究機関向け)…orz なんと生き苦しい世界なのか

2019年8月1日木曜日

暗黒通信団

書店で暗黒通信団の「円周率1000000桁表」や「自然対数の底100万桁表」などを見かけたことがあって名前は知っていた。偶然に,古典不変式論のpdfファイルをみかけたのがきっかけで,そのホームページにたどり着いた。なかなか面白そうなテキストがたくさん並んでいる。天羽優子氏や左巻健男氏がメンバーに入っているのか。教育大改革論もすべての議論を支持するわけではないが興味深い。