2020年3月10日火曜日

各国の感染者比(1)

各国の新規確定感染者数の累計(Confirmed)が100名または200名となった時点を1としてその前後の感染者数累計を対数プロットしたものがtwitter上でいくつか紹介され,日本だけが異なった振る舞いを示していることが指摘されている。日本の感染者数の統計が不自然ではないかということはこれまでも話題になってきた。

ところで国によって人口は大きく異なるのにもかかわらず基準を100名などの固定した人数にするのはどうかと思う。そこで,新規確定感染者数の累計(Confirmed)を各国/地域の人口で割った感染者比が1ppm(百万分の一)となるところを基準にしてそれらの時間経過を比較してみよう。データはWHOのCoronavirus disease (COVID-2019) situation reportsを用いる。感染者数が多い次の6つの国や地域(日本を含む),(1) 中国(13億9500万人)(2) 湖北省(武漢以外)(4800万人),(3) 韓国(5200万人),(4) 日本(1億2700万人),(5) イタリア(6000万人),(6) イラン(8100万人)を選んだ。

それぞれの国の現在(グラフの終端 3/9/2020)の感染者比と感染者が1ppmになる日時はおおむね次のようになっている。(1) 中国(58ppm,1月25日),(2) 湖北省(武漢以外)(370ppm,1月21日*),(3) 韓国(140ppm,2月19日),(4) 日本(3.8ppm,2月23日),(5) イタリア(120ppm,2月27日),(6) イラン(81ppm,2月25日)その結果は次の図で示される。

図 各国の感染者比(基準日は1ppm時点,縦軸はppmの常用対数)

(1)各国の1ppm以下のデータはバラつきが大きく,感染症の数理シミュレーションの基礎データとして用いるには不適当である。今後,さらに各国の比較を行う場合は感染者比1ppm以上のデータで議論することが望ましい。

(2)感染者数が多い国おける1ppm以上の感染者比の増加カーブの様子はこれまでのところよく似ている。韓国では中国と同様の飽和が始まっているようだ。韓国,イタリア,イランは現在まで湖北省と中国全土に挟まれたデータ領域で推移している。

(3)感染源近傍の湖北省(武漢以外)に比べ中国全土の感染者比の飽和値は約1/6となっている。中国における湖北省の封じ込めが成功しているのだと考えられる。各国や地域の社会構造(政治・経済・文化)や感染対策効果に依存して感染者比の飽和値が定まっていく。

(4)この中では日本のデータだけが他の国や地域と異なった振る舞いをしている。しかしまだ飽和に達している様子は見られない。なお,1ppmに達していない国のデータを混ぜて議論するべきではない。人口密度の低いオーストラリアなども日本と同様の傾向ではないかとの指摘があり,引き続き原因の分析が必要である。


(注1)日本のデータはWHOのデータの扱いと同様で,ダイヤモンド・プリンセス号の部分は除かれている。

(注2)湖北省(武漢以外)はWHOのデータからは直接得られないので,湖北省(武漢以外)のデータによる考察とモデル計算に基づいている。

(注3)WHOの日本のデータ2月5日分には奥村晴彦さんのCOVID-19が指摘するような誤記があるので修正した。なお,中国のデータも奥村さんのcsvファイルを利用させていただいた。

(注4)中国全土のデータの2月17日の段差は集計方法の変更によるものである。

(注5)1/30 -> 1/21 に訂正(グラフにはまだ反映されていない 3/15/2020)

[1]感染症の数理シミュレーション(6)

各国の感染者比(2)に続く

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