2020年2月23日日曜日

特集−量子コンピュータ(4)

特集−量子コンピュータ(3)からの続き

13.大黒岳彦(哲学)
   量子力学・情報科学・社会システム論(22p ☆☆☆☆)
   量子情報科学の思想的地平
著者は次のようにいう。量子情報科学(量子計算−量子暗号−量子通信の三位一体)は次世代の情報社会(N. ルーマンの社会システム論=コミュニケーションの連鎖的接続)の要をなす技術であり,パラダイム変革的ではなくパラダイム完成的テクノロジーであると。その後,情報科学の誕生から情報科学と現象学の対比をへて,物的世界像を逆転させた情報的世界観を提示する。さらに,物理学におけるモノと情報の相克が量子力学に現れることから,量子情報科学の誕生からその思想的地平までに及ぶ。哲学者の議論は往々にして深い迷い道に誘い込まれるのだが,大黒さんはとても明解である。ルーマンの社会システム理論への過剰な肩入れが気になるのだが(ここは自分の勉強不足か?),それを除けばとても実り多い論考だった。

14.河島茂生(情報倫理)
   未来技術の倫理(13p ☆)
「倫理(ethics)」とはもともと「慣習(ethos)」を表す言葉である。ここまでは良かったが,オートポイエティック・システム(自分自身で自分をつくるシステム)やアロポイエティック・システム(他のものによってつくられ他のものをつくるシステム)あたりからついていけなくなり,転調してから,社会−技術システムと功利主義的計算が何なのかさっぱり分からず,すっ飛ばしながら終了した。チーン。

15.斉藤賢爾(インターネットと社会)
   デジタル署名,ブロックチェーンと量子アルゴリズム(10p ☆☆☆)
   新たなるサイファーパンクの夜明け
フィンテックが専門の斉藤賢爾さんは以前から独特の発想がおもしろくてときどきウォッチしてきた。「サイファーパンク」とは「強力な暗号技術やプライバシー強化技術を社会的・政治的変化への道として広く利用することを提唱する活動家」のことであり,斉藤さん自身のことかもしれない。暗号技術の本質は記録の真正性を保つことにあるとして,ブロックチェーンの話につなげていく。ただ,量子計算との関係はあまり深まらなかったのが少し残念だった。

16.羽根次郎(中国近現代史)
   チャイバースペース(Chyberspace)の出現について(10p ☆☆)
   中国の「サイバー主権」論の背景にあるもの
話は2000年の九州・沖縄サミットの沖縄IT憲章から始まる。結論は,サイバースペースの「国家からの独立性」が存在しないのは,中国のみに限定される話では最初からない,である。もうひとつのキーポイントは,次の部分だ。確率上稀にしか起せないイノベーションを,「ベンチャー支援」という名の「失敗時のコスト最小化作業」を通じてまで支援する所以が・・・(割に合わないイノベーションにかくも期待するのは)・・・イノベーションを起すための不可欠な条件として新自由主義的諸改革への白紙委任を正当化するためだ,というところ。

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