2025年9月14日日曜日

ニュートリノレーザー

すごいパワーワードに出会って,作業中の雑用がどこかに飛んでいってしまった。ニュートリノレーザーなんだそれは。地球の裏側と通信できるだと。とんでも科学なのか。と思っていたら,一応 Physical Review Lettersレベルの論文(“Superradiant Neutrino Lasers from Radioactive Condensates” , Phys. Rev. Lett. 135, 111801, 2025 )だった。

ChatGPT-5 Thinking にまとめてもらった。
Q(koshix):
この論文の内容を物理の大学院修士レベルの初心者向けにわかりやすく解説した上で,応用の可能性を議論してください。

A(ChatGPT-5 Thinking):
了解しました。この論文 “Superradiant Neutrino Lasers from Radioactive Condensates” (Phys. Rev. Lett. 135, 111801, 2025) の内容を、物理の大学院修士課程レベルの初心者に向けて噛み砕いて説明し、さらに応用の可能性について議論します。以下の構成で進めます。

1.背景と文脈
(1) レーザーとニュートリノ
光のレーザーは「誘導放出(stimulated emission)」によって実現します。しかしニュートリノはフェルミ粒子で、1つの量子状態に1個しか入れないため、光のような誘導放出型のレーザーは実現できません。
(2) スーパーラディアンス(SR, Superradiance
ディック(R. H. Dicke)が提唱した概念で、多数の原子が協調して「自発的」に光を放出すると、放出率が個々の和ではなくN²スケールで強化される現象です。これはレーザーと違って「光子が原子を再励起する」わけではなく、原子間の量子相関による効果です。
(3) ニュートリノに応用できるか?
著者らは「ニュートリノ放出に対してもSRが働くのではないか」と考え、特に**放射性原子のボース=アインシュタイン凝縮体(BEC)**を用いることでニュートリノの「レーザー的」強化放出が実現できると主張しています。

2.論文の主なアイデア
(1) 対象粒子系
・電子捕獲崩壊(EC)やβ崩壊するアイソトープをBEC状態にする。
・例:ルビジウム83(^83Rb)は電子捕獲により崩壊し、ニュートリノを放出する。^83RbはボソンなのでBEC形成が可能。
(2) スーパーラディアンスの条件
・通常は「発光する原子間距離が放出粒子の波長以下」で必要。
・しかしBECでは全原子が同じ量子状態にあるため、「どの原子が崩壊したか区別できない」→ SRが成立。
(3) 加速効果
・通常:^83Rb の半減期は 86日。
・BECで10^6個の原子がSRを起こすと、半減期は数分に短縮される。
・数百万倍スピードアップが可能。
(4) ニュートリノ捕獲にも増幅効果
・崩壊だけでなく、ニュートリノ捕獲(例:トリチウムによる宇宙背景ニュートリノ検出)も強化され得る。
・ただし現実には10^20〜10^25個の原子を長期間保持する必要があり、宇宙背景ニュートリノの直接検出にはまだ難しい。

3. 数式のイメージ(修士初学者向け)
・ディックモデルでは多数の2準位原子を「大スピン」状態として扱う。
・放射率は $W_N \propto (J+M) (J-M+1) \Gamma$ という形になり、半分くらい崩壊した状態で最大化する。
・光子の場合もニュートリノの場合も同様に「集団的相関」で強化されるが、ニュートリノではパウリ原理の制約がある。ただしBECで素早く外に逃げれば問題なし。

4.実験的可能性
(1) BEC形成:^87Rbや^85Rbではすでに実証済み。^83Rbについても理論的には可能。
(2) 観測方法:^83Rb崩壊後の^83mKrから出るX線を計測することで崩壊進行を追える。
(3) 課題:
・放射性同位体を超低温まで冷却・凝縮する技術。
・崩壊生成物(娘核、電子、X線など)の熱的影響でBECが壊れないようにする。
・実験室安全性(大量の放射性BECを扱う必要)。

5.応用の可能性
(1) 基礎物理学への応用
・ニュートリノの性質測定
 SRニュートリノ源があれば強力な「指向性ニュートリノビーム」が得られる。従来の加速器ニュートリノ源より小型で高強度。
・ニュートリノ質量や振動研究に新しい精密実験手法を提供。
(2) 宇宙論・天体物理
・宇宙背景ニュートリノ検出
 まだ難しいが、SRによる捕獲強化があれば数十年後に実現可能性が出てくる。
・超新星ニュートリノの模擬研究源。
(3) 応用技術的展望
・ニュートリノ通信
 物質をほとんど通り抜けるニュートリノビームを人工的に制御できれば、地球を貫通する通信が可能。
・ニュートリノ天文学のキャリブレーション
 人工ニュートリノ源で望遠鏡の較正を行う。

6.まとめ
・この研究は「ニュートリノレーザー」という新概念を提案。
・光と違いニュートリノには誘導放出が使えないが、スーパーラディアンスをBECに適用することで「レーザー的」強化放出を実現できる。
・実験的には^83Rbが有望で、数百万原子規模で半減期が数分に短縮。
・将来はニュートリノ物理の精密測定や宇宙背景ニュートリノ検出の突破口になる可能性。
・実用化はまだ遠いが、「ニュートリノ工学」という新しい分野を切り拓く萌芽的研究。

ご希望なら、この内容をさらに 講義ノート風に数回のステップ(量子光学 → スーパーラディアンス → BEC → ニュートリノ応用) に分けて展開することも可能です。まずは今回を「イントロ講義」として整理し、次回から式展開を詳しく追いかける形にしましょうか。

 


図:ニュートリノレーザーのイメージ(Geminiによる)

2025年9月13日土曜日

幻の甲子園

夏の甲子園は昭和17年(1942年)から昭和20年(1945年)まで戦争のために中断している。しかし,昭和17年は朝日新聞ではなく,文部省とその外郭団体の主催によって全国中等学校錬成野球大会として1942年8月23日-29日に開催されている。

軍隊動員のため全国規模の体育大会が中止されるところ,戦意高揚を目的として朝日新聞社とは関係なしとして開催された。「勝って兜の緒を締めよ 戦い抜こう大東亜戦」という軍事スローガンが掲げられ,試合時のサイレンは進軍ラッパが代用。

打者は球をよけてはいけない。球に当たっても死球にならないという特別ルールが採用される。1回戦で四国代表の徳島県立商業学校と南関東・東京代表の京王商業学校が対戦し,延長14回2-1で徳島商が勝利し,最終的には優勝している。


写真:昭和17年の幻の甲子園(甲子園きっぷから引用)

高校野球が好きで調べたわけではなくて,某舞台の設定が事実に基づいていたことを確認したもの。

2025年9月12日金曜日

iPhone17 Pro

iPhone16からの続き

うーん,前評判もイマイチであまり期待していなかったけれど,やっぱり内容もショボかった Apple Event(日本時間 2025年9月10日 午前2時)。1時間12分のイベント紹介ビデオを見た。昔は字幕なしで真剣にスティーブ・ジョブズやティム・クックの話に集中していたけれど,今は他の作業をしながらチラ見する程度だ。

最初に登場したのは,Air Pods Pro3。期待していなかったが,Apple Intelligenceと組み合わせて異言語同時通訳会話が成立している様子は,今回の目玉かも知れない。ただ,スペックをみると手持ちのAir Pods Pro2との違いはほとんどない。ノイズキャンセリング機能が2倍(Apple公称)になって,バッテリ持続時間が2時間のびた。ただし,ケースを含めたバッテリ持続時間はAir Pods Pro2の方が長い。

続いて iPhone。iPhone17 → iPhone Air → iPhone 17 Proの順に紹介があった。自分が引きつけられているのは唯一 望遠レンズの性能だ。インスタグラムに載せる散歩写真の幅が広がるのではないかと期待している。17 Proの望遠レンズは48MPになって,8倍ズーム(12MP)まで可能になった。光学ズームとはいいながらもこれはデジタルズームじゃないのか?

スッキリしたデザインと色調のiPhone Air にも興味を引かれた。瀬戸弘司によれば,音声がモノラルとか,A19Proチップを使っているのに後述のiPhone Pro 17 でさんざん強調した廃熱はどうなっているのか,MagSafeでAirの背中に着けるバッテリが紹介されたが,本体のバッテリ持続時間はどうなのかとか,いろいろと怪しい点が多いようだ。

自分的な本命の iPhone 17 Proは,最小構成の256GBが179,800円から。アルミの一体ボディのあまりパッとしないデザインで,色合いも含めてなんだか重苦しそうだ。純正ケースと純正ひもがそれぞれ1万円弱もする。熱問題かなりをさんざんアピールしていたけれどかなり微妙・・・。アップルの株価も先週から4%下落している。

iPhone17 Pro      iPhoneSE2      
2025 Sep        2020 Apr      
179,800円         69,800円      

A19Pro          A13 Bionic     
4.40GHz          2.66GHz       
6コアCPU          6コアCPU      
6コアGPU          4コアGPU      
16コアNE          8コアNE       
256GB          128GB        

6.3インチOLED      4.7インチLCD    
2622×1206ピクセル     1334×759ピクセル  
460dpi          326dpi  
2,000,000:1        1,400:1       
1000-3000ニト     625ニト       

48MPメイン|超広角|望遠  12MPシングル    
18MPフロント     7MPフロント     
ズーム .5× 1× 2× 4× 8×  ズーム 1×      

USB-C/USB3        Lightning/USB2   
FaceID          TouchID       
5G/LTE/Wi-Fi7     4G/LTE/Wi-Fi6    
BlueTooth6.0         BlueTooth5.0    
MagSafe Qi2 Qi       —         

33時間ビデオ       13時間ビデオ    
150.0×71.9×8.75      138.4×67.3×7.3  
206g           148g 


図:iPhone17 Pro (Appleから引用,Gemini Nano Bananaで編集)


P. S.  これまでは,物理SIMとeSIMのデュアルSIMだったが,17シリーズから日本向けiPhoneでは物理SIMが廃止されることになったので,老人は注意が必要らしい。


2025年9月11日木曜日

フルスペック総裁選

石破茂(1957-)総理の辞任表明にともない自由民主党の総裁選挙がフルスペックで行われる。フルスペック総裁選なんていう表現これまで使われたことがあったっけ。google trends によれば,2018年や2021年に微かな痕跡があるが,爆発したのは今回がはじめて。

ニュースによれば,衆参両院の国会議員票(295)と全国の党員票(295)の合計で決まるらしい。全国の自民党員は100万人くらいいるので,どうやってこれを国会議員票数と等しく揃えた党員票数に換算するのかというと,ドント方式だとのこと。なるほどね。

総裁公選規程を紐解くと,党員投票は都道府県ごと集計し・・・とあったので,最初は都道府県別に国会議員数と等しい枠でドント方式を適用するのかと理解したけれど,ChatGPTに聞いて見ると比例代表議員の所属都道府県はどうしますかと尋ねられた。もっともだ。

そんなわけで読み直すと,集計した都道府県票は党本部に集めて衆参両院の自民党議員数までドント方式で算定する。それはそうか。なお,党員投票ができる選挙人の資格は,前2年間の党費を払っている党員と会費を払っている自由国民会議会員などの会友である。

議員投票と同数の党員投票の合計の有効投票の過半数を得たものが当選者になるが,いずれも過半数に達しない場合は上位2名で決選投票を行う。この場合は,国会議員票+都道府県票(47)となって,各都道府県票は2名の上位者に1票が割り当てられる。

なお,党則によれば,特に緊急を要する場合は党大会に代わる両院議員総会において後任総裁を選任することができ,その場合は国会議員票+各都道府県支部連合会代表者3票の合計による。フルスペックでない総裁選とはこれを指している。



図:都道府県別の自民党員割合(ChatGPT-5のコードによる)


[1]自由民主党 党則(84p)
[2]自由民主党 総裁公選規程(13p)

2025年9月10日水曜日

次期学習指導要領(3)

次期学習指導要領(2)からの続き

9月5日に,中央教育審議会の初等中等教育部会の教育課程部会の教育課程企画特別部会から,上記の諮問に対する12回の議論における論点整理の素案が出てきた。4.8MB 113ページもある。ぱらぱらと見ただけで,その文科省構文的なポンチ絵の複雑さに圧倒されて読む気が失せる。

確認すると,ChatGPT-5はこのpdf全文を読み込めるといって,実際それなりの要約もしてくれた。ところが最近「ChatGPTは全文ちゃんと読んでいない疑惑」が持ち上がっている。どうしよう。読む気がしないけど,えらい人たちはみなこれを参照せよとつぶやいているし。

しかたがないので,とりあえず目次と第一章の次期学習指導要領に向けた基本的な考え方を写経してみる。古来,困ったときは音読と写経が一番だ。ということで,中教審資料から引用。もちろん写経といってほとんどはコピペで整形するだけのインチキ写経。

第一章 次期学習指導要領に向けた基本的な考え方(5)
第二章 質の高い、深い学びを実現し、分かりやすく使いやすい学習指導要領の在り方(18)
(1)中核的な概念等を活用した一層の構造化・表形式化・デジタル化
(2)「学びに向かう力、人間性等」の再整理
(3)「見方・考え方」の再整理
(4)デジタル学習基盤を前提とした学びの在り方
   学習指導要領と「個別最適な学びと協働的な学び」の関係の在り方
第三章 多様な子供たちを包摂する柔軟な教育課程の在り方(22)
(1)検討の前提(児童生徒の実態と現行制度の枠組み)
(2)義務教育段階(「調整授業時数制度」の創設等)
(3)高等学校段階における教育課程の柔軟化
(4)個別の児童生徒に係る教育課程の編成・実施の仕組み
第四章 情報活用能力の抜本的向上と質の高い探究的な学びの実現(15)
(1)情報活用能力の抜本的向上
(2)質の高い探究的な学びの実現
第五章 「余白」の創出を通じた教育の質の向上の在り方(8)
第六章 豊かな学びに繋がる学習評価の在り方(9)
第七章 その他諮問で提起された事項の在り方(21)
(1)カリキュラム・マネジメントの在り方
(2)高等学校入学者選抜
(3)産業教育
(4)特別支援教育
(5)幼児教育
(6)子供のより主体的な社会参画に関わる教育の改善
第八章 今後の検討スケジュールや検討の在り方等(3)

第一章の内容は以下のとおり 
令和6年12月の文部科学大臣による諮問やこれまでの検討を総合的に踏まえ、次期学習指導要領に向けた今後の検討の基盤となる基本的な考え方として、以下を提起する。

1.改訂論議を貫く三つの方向性
生涯にわたって主体的に学び続け、多様な他者と協働しながら、自らの人生を舵取りすることができる、民主的で持続可能な社会の創り手を「みんな」で育むため、
①「主体的・対話的で深い学び」の実装(Excellence)
② 多様性の包摂(Equity)
③ 実現可能性の確保(Feasibility)
の3つの方向性を踏まえて議論を行う。これらの3つの方向性に基づく改善は、教育課程内外のあらゆる方策を用いつつ、三位一体で具現化されるべきものである。
 このうち、
「主体的・対話的で深い学び」の実装は、現行学習指導要領が目指している、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善を通じた資質・能力の育成について、一層の具現化・深化を図るものである。
 このため、学習指導要領の目標・内容の構造化・表形式化・デジタル化、学びに向かう力、人間性等の重要概念の整理等により、分かりやすく、使いやすい学習指導要領を目指す。思考力、判断力、表現力等を発揮する中で、知識の概念としての習得や深い意味理解を促すこと、他の学習や生活の場面でも活用できるような、生きて働く「確かな知識」を習得すること、学びに向かう力、人間性等を育成することが一層重要となる中、「主体的・対話的で深い学び」の実装は、次期学習指導要領に向けた第一の方向性とすべきものである。
 このような授業改善に不可欠であるデジタル学習基盤の効果的活用は、育成すべき資質・能力が十分に意識されず「深い学び」に繋がっていない事例もあるなど道半ばである。また、デジタルの負の側面への対応も含め情報活用能力の育成にも様々な課題が見られる。このため、小学校の総合的な学習の時間への「情報の領域(仮称)」の付加、中学校での「情報・技術科(仮称)」の創設等の具体的方策を示した上で、情報活用能力を各教科等における探究的な学びを支える基盤と位置付け、抜本的な向上を図る。こうしたことを進めるに当たっては、知・徳・体のバランスや、人間ならではの身体性や実体験の重要性を十分に踏まえる必要がある。 (※)「Excellence」は、「主体的・対話的で深い学び」の実装により実現される質の高い教育を意味する。

 ② 多様性の包摂は、多様な個性や特性、背景を有する子供が多くなっている実態に向き合うとともに、こうした多様性を個人及び社会の力に変える観点から、一人一人の意欲が高まり、可能性が開花し、個性が輝く教育の実現を目指すものであり、第一の方向性と両立させることが不可欠な第二の方向性である。
 このため、「裁量的な時間」をはじめとする「調整授業時数制度」の創設、学年区分の取扱いの柔軟化、高等学校段階における単位制度の柔軟化、不登校児童生徒や特定分野に特異な才能のある児童生徒のための特別の教育課程編成を可能とする制度の創設等により、教育課程全体を包摂的な仕組みに改め、その具現化を図る。
こうした取組は、一人一人の個性や特性、背景を踏まえた対応が可能な仕組みを整えるという意味で、公正性(equity)の拡大と言える。 3

 ③ 実現可能性の確保は、第一・第二の方向性の両立を支え、実現可能とする観点であり、教育課程以外の勤務環境整備とも相まって審議全体に通底させるべき第三の方向性である。
 このため、教育課程の枠組みや教科等横断的な事項、今後行われる教科等WGを含む審議全般にわたって、教育課程の実施に伴い教師に過度な負担・負担感が生じにくい、持続可能な在り方を追求し、教師と子供の双方に「余白(※)」を創出することで、豊かな学びに繋げる方向を踏まえた検討を行う必要がある。 (※)教育の質の向上のための時間的余裕
● こうした3つの方向性を現時点で端的に表現すれば、「多様な子供たちの『深い学び』を確かなものに」と言える。第一の方向性は「深い学び」、第二の方向性は「多様な子供たち」、第三の方向性は「確かなもの」という言葉に主に託されている。
● さらに、「みんな」が示す主体は、学校教育の未来を切り拓く中心的存在である学校の教職員はもとより、学びの当事者である子供、人口減少の中で学校を支える主体でもある、保護者や地域住民、地方公共団体の職員、民間の担い手も含まれ、「社会に開かれた教育課程」の理念とも深く関わる。今後、各WG等を中心に具体の議論を進める中で、こうした考え方もさらに深めていく必要がある。

2.自らの人生を舵取りする力と民主的な社会の創り手育成
 諮問で「正解主義」や「同調圧力」への偏りから脱却し、民主的かつ公正な社会の基盤としての学校を機能させる必要性が指摘された背景には社会全体の構造変化がある。生成AIなどデジタル技術の発展が相まって、皆と同じことができることも重要だが、それ以上に独自の発想や視点に価値が置かれるようになってきている。現在の学校教育の中で主体的に学びに向き合えていない子供も多くなっている。少子化に伴う入試による動機付けの変化、学習時間の減少等も踏まえ、学びの動機づけをアップデートする必要もある。予測困難な時代に、労働市場の流動化や就業期間の長期化、マルチステージの人生モデルへの転換が進む中、しなやかに「自らの人生を舵取りできる力」が不可欠となりつつある。また、内なる国際化で人口の多様性が増すとともに、SNSや生成AIの負の側面の影響もあり社会分断の可能性等も指摘される中、デジタル時代に主体的に社会参画する「民主的な社会の創り手」の育成も喫緊の課題である。
 このため、全ての児童生徒に育むべき資質・能力育成の具体化・深化と並行して、一人一人の「好き」(興味・関心)を育み、「得意」を伸ばしながら、それらを原動力として学び全体への動機づけを図っていく取組と、当事者意識を持って、自分の意見を形成し、多様な他者と対話や合意を図る取組を同時に進め、これらが有機的に関わり合い高まっていく教育課程に変革していく必要がある。
 こうした問題意識の下、本部会では、学びに向かう力、人間性等の概念の再整理、総合的な学習・探究の時間を中心とした質の高い探究的な学びの実現、デジタル化の負の側面への対応を含む情報活用能力の抜本的向上、特別活動を中心とした主体的な社会参画に関わる教育の改善、個性・特性に応じた学びの充実に繋がる裁量的な時間の創設等を主な具体策として議論してきた。今後、各WG等で更に検討を深める必要がある。

なお、これらは、 ①「主体的・対話的で深い学び」の実装、②多様性の包摂、という方向性について、社会全体の構造変化を踏まえて具現化するものであり、①②の一部を構成するものである。また、「よりよい学校教育」を通じて「よりよい社会」への移行を図るという意味で、「社会に開かれた教育課程」の理念とも深く関わる。

補足イメージ:
次期学習指導要領に向けた検討の基盤となる考え方
多様な子供たちの「深い学び」を確かなものに
あらゆる方策を活用し、三位一体で具現化

生涯にわたって主体的に学び続け、多様な他者と協働しながら、自らの人生を舵取りすることができる 自らの人生を舵取りすることができる民主的で持続可能な社会の創り手をみんなで育む

①主体的・対話的で 深い学びの実装(Excellence) 主に第2,3,4,6章
(生きて働く「確かな知識」の習得、資質・能力育成の具体化・深化、「好き」を育み「得意」を伸ばす、情報活用能力の抜本的向上、個別最適な学び・協働的な学び 等)
②多様性の包摂(Equity) 主に第3,7章
(調整授業時数制度、裁量的な時間、個別の児童生徒に係る教育課程の仕組み、デジタル学習基盤を活用した学習環境デザイン、個別最適な学び・協働的な学び 等)
③実現可能性の確保(Feasibility) 主に第5,7章
(授業時数の適正化・平準化、教科書の精選、構造化、裁量的な
時間など様々な方策による教師・子供双方の「余白」の創出 等)

・学びをデザインする高度専門職としての教師
・「裁量的な時間」をはじめ柔軟な教育課程による余白
・デジタル学習基盤
・教育課程以外の勤務環境整備
ごちゃごちゃしていると思ったけれど,主張の骨格は結構明確でスッキリしていた。

P. S. やっぱりごちゃごちゃしているのはなぜかというと,たぶん前回の学習指導要領改定で教育課程課長の合田哲雄が教育内容だけでなく教育方法までやたらめったら書き込みすぎて,収集がつかなくなってきたのをそのまま捨てきれず,これを整理して見やすくするために表形式の学習指導要領にするということだと推察できる(三角関数(3)から)。なんだかなあである。

本当に余白を設けたいならば,まず,学習指導要領に理念部分を十分書き込んだ上での大幅な単純化からだと思う。構造化でも表形式化でもデジタル化でもない

[2]AIが読むのは記事の一部だけだった!?(SEO研究チャンネル)

2025年9月9日火曜日

次期学習指導要領(2)


昨年の12月末に,新しい学習指導要領の策定に向けて,文部科学大臣(代理)から中央教育審議会に諮問がされた。タイトルは「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」だ。当日は文部科学大臣の阿部俊子が海外出張中で,内閣府法10条によって,こども家庭庁担当の国務大臣中根順子(三原じゅん子)が代行に指名されたとChatGPTが教えてくれた。

それでは,諮問の本文も要約してもらおう。
A(ChatGPT-5):
要約
少子高齢化や国際情勢の不安定化、気候変動、生成AIをはじめとするデジタル技術の急速な発展など、社会の大変動に直面する中で、2040年代を担う子どもたちにふさわしい教育課程を再設計する必要がある。
これまでの学習指導要領の理念(社会に開かれた教育課程、資質・能力の三本柱、主体的・対話的で深い学び)は一定の成果を上げたが、子どもの幸福度の低さ、不登校の増加、学ぶ意欲や自律性の不足、デジタル活用の遅れ、教師への過度な依存や負担などの課題が残っている。

このため文科省は、中教審に対して以下を中心に検討を諮問する。
1.学習指導要領の質と構造改革
・教科の目標・内容を分かりやすく構造化し、AI時代に対応した深い学びを実現。
・デジタル活用を前提にした指導要領・評価方法の改善。
2.多様な子どもを包摂する柔軟な教育課程
・不登校や特異な才能を持つ子への対応を含め、多様性に応じた教育課程編成。
・授業時数や単位制などの柔軟化。
3.これから必要な資質・能力の明確化
・情報活用能力、AI・デジタルリテラシー、探究的学び、文理融合教育、外国語教育の意義の再整理。
・特別支援教育、幼保小連携、社会参画教育の充実。
4.持続可能な教育課程実現の方策
・教師の過重負担を軽減しつつ、教科書・評価・教育DXを見直し。
・学校・家庭・地域との協働を強化し、カリキュラム・マネジメントを実質化。

つまり、「AI・デジタル時代と多様化する社会を見据え、深い学びと柔軟な教育課程を実現するため、学習指導要領を全面的に再構築し、教師負担を軽減しつつ持続可能な教育を確立する」ことが諮問の核心です。

ChatGPTのまとめが怪しいので,文部科学省が何を課題としているのかを自力でもう一度読み直してみた。社会の動きや学校現場の現状をざっとサーベイした後に,3つの課題が示されている。
(1)学ぶ意義を見いだせない子ども,不登校,特別支援,外国人,特異の才能などの多様性を包摂し,正解主義や同調圧力から脱して共生社会を支える必要があること。
(2)習得した知識を現実の事象と関連付けて理解すること、生成AI には扱えない概念としての知識の深い意味理解をすること,自律的に学ぶ自信を持つこと,などに欠けること。
(3)GIGAスクール構想が端緒についたばかりで,デジタルとリアルの対立もある。デジタル競争力は他国の後塵を拝していて,デジタル人材育成の強化は喫緊の課題であること。

なかなか苦労したけれど,今一つピンと来ない。生成AIに頼りすぎで,自分の読解力とまとめる力が衰えていることがはっきりわかる。あるいは原文がおかしいのかもしれない。


「これまでの学習指導要領(2017)の理念(社会に開かれた教育課程、資質・能力の三本柱、主体的・対話的で深い学び)」というのがあるが,自分が大学教員を退職する頃の学習指導要領なので,いまひとつ頭に入っていない。これは,ChatGPTに整理してもらう。


観点:2008年告示(学力の三要素)|2017年告示(資質・能力の三本柱)|主な変化点
第1:基礎的・基本的な知識・技能|知識及び技能|ほぼ継承。用語を簡潔化。
第2:思考力・判断力・表現力|思考力・判断力・表現力等|「等」を加え、創造力や批判的思考など幅を広げた。
第3:学習に取り組む態度|学びに向かう力・人間性等|「態度」から「力」+「人間性」へ。意欲・協働・社会性などを強調。
理念位置づけ:「生きる力」を支える要素として提示|学習指導要領全体の基本構造に明示|よりカリキュラム・ベースに直結。
授業改善の方向性:基礎学力の定着と活用|「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」|教育方法の改革を強調。


第三カテゴリーの意欲・関心・態度が評価にまで進出して,何これ状態だったのだけれど,ついに人間性ということになっていたのか。

2025年9月8日月曜日

アルツハイマー病

認知症の原因の7割弱がアルツハイマー病だ。そのアルツハイマー病の機序の話がNHKの知的探求フロンティア タモリ・山中の!?「認知症克服のカギ」で取上げられていて,たいへん勉強になった。吉岡里帆の合いの手も良く理解しているようで気持ちがいい。

アルツハイマー病ではアミロイドβの蓄積が問題だといわれているが,それだけでなくてタウタンパク質APOE遺伝子など他のプレーヤーがどんな役割を果たしているかの現在の仮説がとてもわかりやすかったので,番組で紹介されたキーワードを投入してChatGPT-5にストーリーを整理してもらった。
Q(koshix):
シナプスと免疫細胞とアミロイドβとタウタンパク質とAPOE遺伝子 e2,e3,e4 の関係を整理して教えてください。
A(ChatGPT-5):
(回答略)

Q(koshix):
その中間のレベル(一般の理系大学院生向け)で,認知症というキーワードで全体構造がわかるよう丁寧な論理展開によって説明してください。
A(ChatGPT-5):
(回答略)

Q(koshix):
一般の理解(大学学部生向け)のレベルに下方修正して,専門用語はその意味を補足してください。
A(ChatGPT-5):
(前略)

認知症の仕組み ― シナプス・免疫細胞・アミロイドβ・タウ・APOEの関係

1.出発点:シナプス(神経細胞どうしの“つなぎ目”)
シナプスとは、神経細胞が信号をやり取りする“接続部”です。学習や記憶はシナプスの強さを変えることで成り立っています。
認知症では、このシナプスが壊れたり減ったりします。実は「認知機能が落ちる大きな原因はシナプス喪失だ」と研究で分かっています。

2.アミロイドβ:小さなたんぱく質の“かけら”
アミロイドβ(Aβ)は、脳の中でつくられるたんぱく質の一部です。通常は分解されて排出されますが、うまく処理できないと脳にたまります。特にオリゴマー(少数が集まった粒子)は毒性が強く、シナプスに結合して信号のやりとりを邪魔します。
→ 言いかえると、「電気配線にさびがついて信号が通りにくくなる」ようなものです。

3.免疫細胞:脳の“掃除係”が裏目に出る
脳にも免疫細胞(主にミクログリア)がいます。ミクログリアはゴミを食べて掃除する“清掃員”の役割です。ところが、アミロイドβがたまるとミクログリアが過剰に活性化し、炎症(免疫反応が暴走する状態)を起こします。その過程で、シナプスに「壊してよい」という印をつけて、本来必要なシナプスまで除去してしまいます。
→ 結果として、神経回路はますます弱っていきます。

4.タウたんぱく質:神経細胞内部の“骨組み”の崩壊
タウたんぱく質は神経細胞の内部で軸索(信号の通り道)を安定させる“骨組み”です。認知症ではタウが異常にリン酸化(化学修飾)され、神経原線維変化と呼ばれる固まりを作ります。タウの異常は神経細胞を直接壊し、症状(記憶障害・思考力低下)と強く相関します。
→ つまり、「アミロイドβが火種、タウが延焼の主役」と言えます。

5.APOE遺伝子:病気のなりやすさを決める“体質”
APOE(アポリポタンパクE)は脂質(コレステロールなど)を運ぶ遺伝子で、アルツハイマー型認知症の発症リスクを大きく左右します。
APOEには3種類の型(e2, e3, e4)があり、人は2つの型を持っています。
e2:まれ。病気にかかりにくい(保護的)。
e3:最も一般的。中間的なリスク。
e4:病気のリスクを大きく高める。アミロイドβを処理する力が弱く、炎症も強まりやすい。
つまり、APOEは「体質を決める遺伝的スイッチ」のようなもので、スタート地点から燃えやすい森(e4)か湿った森(e2)かが決まってしまうわけです。

6.全体像(流れで整理)
APOE遺伝子が「Aβを処理しやすいか/ためやすいか」の体質を決める。
アミロイドβがたまり、シナプスを直接傷つける。
免疫細胞(ミクログリア)が反応して炎症を起こし、シナプスを余分に壊す。
・この慢性炎症がタウ異常を誘発し、神経細胞そのものが死んでいく。
・結果としてシナプス喪失が進み、記憶や思考力が低下する。

7.まとめ
認知症、とくにアルツハイマー型は 「アミロイドβ → 免疫細胞の暴走 → タウ異常 → シナプス喪失」という流れで進行する。
APOE遺伝子型がこの流れの進みやすさを大きく左右する。
一番のキーポイントは、シナプスがどれだけ守られるか。ここが症状の重さと直結する。

(後略)

図:アルツハイマーの機序(慶応義塾大学病院から引用

2025年9月7日日曜日

YL

暇な老人は,韓国ドラマとか映画とか面白い番組がない場合,バックグラウンドに放送大学番組を流している(フォアグラウンドはMakBook Air M1の画面)。ときどきおもしろいし,辰己先生や奈良先生や山田先生など知った顔もよくみかける。この前は大教大の(え〜っと)石橋正浩先生も出ていた。

その放送大学の特番で中南米文化の話(音の出る土器が5%もある)に驚いた後,YLがどうのこうのという話をしていた。どうやら英語の本の読みやすさのことらしい。調べてみると,
YL = Yomiyasusa Levels とは,SSS英語多読研究会(旧SSS英語学習法研究会)が定義する,
読解レベル(YL)は、2003年にSSSグループの古川昭夫によって創設された、英語書籍の読解レベルを測定する新たな方法である。SSSグループは日本エクステンシブ・リーディング協会と協力し、外国語としての英語学習者にアピールするため、100段階のYLシステムを開発した。
というものである。 よくわからないでしょ。ChatGPT-5に聞いたほうがはやい。
A(ChatGPT-5):
YL(Yomiyasusa Levels=読みやすさレベル) は、日本の英語多読教育に特化した難易度指標で、TOEIC や CEFR のような「試験基準」ではなく、日本人学習者にとってどれくらい“すらすら”読めるか を基準にしています

1.基本的な考え方
機械的な計算式(語数・語彙数だけ)で決めるものではない。
実際には、英語教育関係者や多読研究会の教師陣が、多数の日本人学習者に読ませて体感を集約し、段階化した経験的スケール です。
したがって「YL 2.5だから単語数○○語」という単純対応ではなく、語数・文法・文体・内容の分かりやすさ・文化的背景 などが総合的に加味されます。

2.主な評価要素
(a) 語彙のやさしさ
コア語彙中心か?(中学レベルの語彙か、それ以上の抽象的な語か)
例えば「dog」「house」はYL低め、「contemplate」「legislation」はYL高め。
(b) 文法構造
文の長さ・従属節の多さ・仮定法や関係代名詞の使用頻度など。
短文・単純文が多ければYLは低く、複文や学術的な表現が増えれば高くなる。
(c) 文体の読みやすさ
口語的でシンプルか、抽象的・比喩的か。
児童向け絵本は低YL、小説の叙述や詩的表現は高YL。
(d) 語数(総単語数)
多読教材カタログでは、1冊あたりの語数(word count)も並記される。
ただし YLは「語数の多さ」ではなく「難しさ」に対応。同じ10,000語でも YL2 と YL5 の本がありうる。
(e) 背景知識・文化的負荷
「英語の物語」として背景が理解しやすいもの(例:日常会話・冒険もの)はYL低め。
歴史的背景や文化的文脈が必要なもの(例:シェイクスピア、政治小説)はYL高め。

3.スケール例(おおよそ)
YL 0.0–0.9:絵本、英単語に絵が添えてあるレベル。
YL 1–2:Graded Readers 初級。語彙は中学英語レベル。
YL 3–4:Graded Readers 中級。文法も高校レベル程度。
YL 5–6:英語圏のYA小説ややさしめの一般書。
YL 7–9:英米文学原書。例えばハリーポッター(YL 6.5–7あたり)。

4.まとめ
YLは「数式で自動算出するスコア」ではなく、教育現場での経験と学習者のフィードバックに基づく「実践的・経験的な指標」。
語数・語彙レベル・文法・文体・文化的背景を総合的に見て、教育者が段階づけています。
したがって、同じ語数でも YL が異なることがあるのが特徴です。
さらに,テキストをいれると自動でYLレベルを推定するpython コードまで作ってくれたけれど,そもそもの定義がアバウトなので,これはもうさわらずにそっとしておこう。



図:英語多読学習法のイメージ(ChatGPT-5による)



2025年9月6日土曜日

辞任確率

サントリー新浪のニュースに干渉して行方不明になっている自民党の総裁選前倒し圧力の話。石破がこけてもその周りに見える景色が微妙なのだ。我が奈良二区のあの方が参政党と日本維新の会を両手に引き連れて颯爽と登場するのだけはやめてほしい。

報道19:30でもスシローなんかがでてきて石破おろしに向けた印象操作に必死だった。他の政治記者たちも本当に政局屋的な発言しかしない。が,たまにはエコーチェンバーの外の空気を吸わないと自分の目がどんどん曇っていくし・・・。もう一押しで臨時総裁選がスタートしそうな相転移前のゆらぎが感じられる今日この頃。

そこで,もう少し客観的な分析をChatGPTにお願いしてみた。

Q(koshix):
最新の日本の様々な政治経済文化状況を幅広く分析し,石破総理の辞任確率を時間の関数として推定してグラフにして表現してください。期間は2025年9月から1年間でお願いします。この間に様々な政治・外交イベント等も予定されているはずなのでそれらも考慮してください。

A(ChatGPT-5,2m57s):
(回答略,1年後の累積辞任確率は約60%)

Q(koshix):
情報源が英語なので,日本のメディアの政治担当の生々しい声があまり反映されていないような印象を受けました。石破がやめることにメリットを感じている旧安倍派や麻生派や茂木グループの動向,衆議院議員と参議院議員の違い,参政党,国民民主党,日本維新の会,立憲民主党などと自民党の各グループの関係,石破政権首脳陣が退任した場合の人事の可能性などの情報も含めて,再度考慮してみてください。結果は先ほどと同様にグラフのcsvでいただければありがたいです。

A(ChatGPT-5 Thinking,3m44s):
(図を与えるpythonコード,略)
まず前提と考え方を共有します。今日は2025年9月3日(日本時間)です。直近の事実として、7月20日の参院選で自公が過半数を失い、党四役(森山幹事長、鈴木総務会長、小野寺政調会長、木原選対委員長)が相次いで辞意を表明。麻生派は総裁選の前倒し要求を正式に打ち出し、茂木グループ(旧茂木派)も公然と退陣論を展開。石破首相は当面続投の意向を明確にしています。これらの日本メディアの政局報道を核に、衆参の制度差・与野党関係・派閥力学を織り込み、月次ハザード(当該月の辞任条件付き確率)を設定し、累積辞任確率を算出しました。

1.いま起きていること(日本メディア中心)
(1) 党四役の「ドミノ辞意」。森山幹事長は「進退は首相に一任」と表明。石破首相は「しかるべき時期に判断」と続投姿勢。
(2) 麻生派:研修会で麻生太郎氏が総裁選の前倒し要求を明言。派内結束を背景に“石破おろし”を押し上げる材料。
(3) 旧安倍派の再起模索と“石破おろし”の駆け引き:解散報告会後も党内で影響力を残し、前倒し論の中核の一角。
(4) 茂木グループ:茂木敏充氏が退陣を公然要求。「ポスト石破」名乗りの先頭格の一人。
(5) 与野党の“実利”関係:
・2025年度予算は「自公+維新」で修正・年度内成立(現憲法下で初の参院修正→衆院同意)。維新は高校無償化等で実利を獲得。一方で、恒常的な連立には後ろ向き。
・企業・団体献金を巡っては自公国で「5万円超公開」などの合意形成が進み、国民民主は個別案件での接近余地を残すが、連立入りは否定的なトーンが続く。
・立憲民主は主導的野党として対決色を強め、労組側(連合)も自民との大連立を牽制。
・参政党は参院で存在感を拡大し与党に圧力(政策争点が右派色に寄る)を与えるが、与党安定化のパートナーではない。
(6) 衆参の制度差:不信任は衆院のみ(可決で総辞職か解散)。参院は問責の政治的圧力が強く、会期末戦術の焦点。衆院の優越・予算先議など制度要因が政局ハザードの山を作る。

2.「いつ危ないか」の山(イベント × 力学)
・9月:四役辞意、麻生派の前倒し要求、8日前後の意思確認などでハザード急騰。
・10–11月:APEC釜山(10/31〜)・G20南ア(11/22–23)。外交大型日程は“凍結圧力”が働きがちだが、前倒し総裁選が走れば10月も高止まり。
・1–3月:通常国会の予算審議(とくに2–3月の山場)。少数与党ゆえに審議停滞・スキャンダル・問責/不信任の仕掛けが集中しやすく、最大の崖。

3.ハザードモデル(2025年9月〜2026年8月)
・月次ハザード(当該月に辞任する条件付き確率)を設定し、累積辞任確率を算出。ロジックは上記イベント群+衆参制度差+党内派閥インセンティブ(旧安倍派・麻生派・茂木グループ)と、維新・国民民主との“案件ベース協力”の持続可能性で重み付け。
・巨視的整合性:参院選敗北後の“石破おろし”が強い9–10月、会期と予算政治で2–3月を第二の山、外交大型日程の11月と年末の12月はやや低めに設定。
・CSVとグラフを作成しました:(略,下図参照)

4.主要ドライバー(日本の「政治部の肌感」を反映)
・旧安倍派:解散後も復権を模索。裏金問題の“けじめ”を石破側に迫る力学。石破続投よりも“保守再結集”の絵を描ける後継(高市・茂木・小泉ら)を歓迎しやすい。
・麻生派:首長経験者を含む選挙巧者の塊。次の衆院選で「勝てる顔」を求め、前倒し総裁選での主導権狙い。
・茂木グループ:茂木氏が公然と退陣要求。“政高党低”の修正や経済再建で「自分がやる」構図を作る動機が強い。
・衆議院 vs 参議院:衆は不信任→(解散or総辞職)という“実弾”があり、衆院議員は次の解散に敏感。参は問責の政治的効果で「国会出席止め」など実務を止めやすく、会期末の圧力手段。
・維新・国民:
→維新は予算で与党と合意形成も、連立は回避の構え。是々非々の“スイッチ”が政局の天秤。
→国民は政治資金透明化などで与党側と合意形成の実績あり。ただし連立は労組(連合)サイドも含め慎重。
・参政党:右派色の強い争点設定で保守票を分散させ、与党の議会戦術を難化させる“外圧”。

5.人事の見取り図(四役退任時の観測)
・幹事長後任の軸:解散・選挙を読む選挙管理能力、派閥横断の調整力、カネと人事の“火消し”。“旧安倍派ど真ん中”は世論的逆風を受けやすく、(1)非スキャンダル系実務家、(2)衆院の当選回数重ねた重鎮、(3)参院は党運営の要職で配し衆院優先が基本線。
・「ポスト石破」:党内世論・世論調査で名前が挙がるのは高市早苗、小泉進次郎、茂木敏充ら(順不同)。路線は対中・防衛・成長戦略で差があり、誰が四役を握るかで政権色がガラリと変わる。※ここは各社観測記事の範疇であり、確定情報ではありません。

6.感度分析(こう動けば確率はこう変える)
・総裁選の前倒しが正式決定 → 10月の月次ハザードを+0.05程度上方修正。
・維新が2026年度予算で“反対”に転じる/是々非々が崩れる → 2–3月のハザードを+0.05程度上方修正。
・国民民主が恒常的協力を明確化 → 1–3月のハザードを−0.03程度下方修正。
・参院で問責→実務停滞が深刻化 → 2–3月のハザードを+0.03上振れ。


必要なら、週次分解や「イベント日ベース」の滑らかなハザード(例:9/8、10/31、11/22、1/召集日、2–3月予算ピークなど)に拡張してCSVを再出力します。
日本メディアの“政治部の肌感”をより強く反映した追加補正も可能です(例えば、特定選挙区の補選や知事選の潮目を入れる等)。



図:石破総理の辞任確率の推移(ChatGPT-5による)

上図は,ChatGPT-5 Thinking が出力したコードを手元のjupyterで実行し,エラーをGeminiやChatGPTで潰しながら手動で修正したものである。エラーコードに適確に対応してくれる安心感はたいへんありがたいけれど,これでプログラミングの経験や知識がいらなくなるわけではない。

P. S. 9月7日に石場首相は辞任の意向を表明した。まあそんなものである。

2025年9月5日金曜日

ビー玉

孫のムギちゃん(4)もカザちゃん(2)もビー玉が大好きだ。佐藤雅彦(1954-)のビー玉ビースケの冒険のおかげかも知れない。

日経新聞の8月27日朝刊の文化欄に「ビー玉大国日本、輝く産業史 近代化を支えた美しく小さなもの」というビー玉研究家の鈴木藍子さんの記事が掲載されていた。ビー玉の中でも透明ガラスの中で花が咲く羽根が美しい錦玉をつくっているのは日本が発祥で,いまでは大阪の松野工業一社だけが作っているとのこと。

松野工業のホームページにアクセスしてみると,取り扱っているビー玉サンプルを有料で提供してくれているではありませんか。早速勇んで注文したところ,写真のような見本が届いた。想定していた子ども達がいつも遊んでいるサイズと模様のビー玉は1個くらいで,あとはおはじきだったり,小さすぎたり,大きすぎたり・・・失敗。



写真:松野工業のビー玉サンプル


2025年9月4日木曜日

教員養成の行方

中央教育審議会の初等中等教育分科会の教員養成部会から,「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を加速するための方策に関する論点整理(案)」が出てきた。

ChatGPT-5に,上記の論点整理の概要案 1p を添付して「ここ30年の日本の教員養成の推移や社会の現状を踏まえ,添付ファイルにおける日本の教員養成改革の論点を批判的に分析して,その本質的な問題点と現実的な課題を適示してください」と聞いた結果は,こんな感じ

まあまあなのだけれども再度,別の聞き方をしてみた。
Q(koshix):
(論点整理本文(案)の 25p を添付)
報告書の肝の部分やそれが意味する背後関係(真の意図や関係する組織への利害得失)についてを分析してまとめてください。

A(ChatGPT-5):
了解しました。いただいた報告書(中央教育審議会教員養成部会「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を加速するための方策に関する論点整理(案)」)の「肝の部分」と、それが意味する「背後関係(真の意図や関係する組織への利害得失)」を分析してまとめます。

1.報告書の肝の部分
大きく分けて4本柱があります。
(1)教職課程・免許制度の再編
・各大学の自由度を増やしつつ、コアカリキュラムや共用試験で「質保証」する仕組み。
・学部段階で基礎、大学院段階で高度専門性という「二段階モデル」へ。
・特別支援・ICT活用など新課題に対応できる資質能力を必須化。
(2)採用制度の改変と広報戦略
・教員採用試験の「共同実施」や日程早期化。
・国主導での広報・ブランディング。
・「サプライティーチャー」(退職教員活用)の仕組み。
(3)現職教員の学び直し・研修改革
・サバティカル導入、研修履歴データベース(Plant)の活用。
・管理職研修を外部リソースで強化。
・在職型大学院支援。
(4)社会人・企業人材の活用
・特別免許や認定試験を活性化。
・シニア人材から始める「在籍型出向」を推奨。
・企業側に税制優遇などインセンティブを与える。

総じて「従来の教育学部・単科大を中心とした閉じた養成→大学横断・社会人参入を前提とした開かれたシステム」への転換が核心です。

2.真の意図と背後関係
表向きは「多様な専門性の確保」ですが、裏にいくつかの政策意図が見えます。
(1)教員不足への対応
少子化にも関わらず、現場では教員不足が深刻。免許取得・採用のハードルを下げ、社会人・企業人材を柔軟に導入することで人材プールを広げたい。
(2)大学制度改革との接続
「大学院段階で高度専門性」という設計は、教職大学院の存在意義を強化する一方で、地方の単科教員養成大学には統廃合や他大学との連携を迫る布石。
(3)中央集権的統制の強化
「共用試験」「コアカリキュラム」「共同採用試験」によって、大学や自治体の独自性よりも国基準を優先させ、質保証と同時に国の統制力を拡大。
(4)産業界との利害調整
企業人材の派遣を教育現場に組み込むことで、企業は「社会貢献+人材育成の機会」を得られ、国は教育予算を大幅に増やさずに人材を補填できる。企業への税制優遇が議論されているのもこの文脈。

3.関係組織ごとの利害得失
(1)文部科学省・中央教育審議会
・得:質保証と採用を「国主導」で握れる。教員不足への即応策を示せる。
・失:地方大学・自治体の反発リスク。
(2)国立の単科教員養成大学
・得:フラッグシップ大学化すれば権限と予算増。
・失:規模が小さい大学は統廃合や役割縮小の圧力を受ける。
(3)教育委員会(自治体)
・得:共同採用試験で負担軽減。社会人導入で人手不足緩和。
・失:国主導により採用の裁量が減少。人材流動性増で定着率低下リスク。
(4)民間企業
・得:人材育成・社会貢献アピール、税制優遇。
・失:人材流出リスク、教育現場との文化摩擦。
(5)教師・志望学生
・得:柔軟な免許取得ルート、ICTや社会人交流を通じた専門性の多様化。
・失:共用試験導入による負担増、従来型「教育学部出身者」の独占的優位性の低下。

4.全体的な評価
この論点整理は、表向きには「多様性と質保証」を掲げながら、実質的には ①教員不足への緊急対応、②大学制度改革(特に教員養成系統の再編)、③産業界を巻き込んだ教育人材供給システムの設計 を同時に進めようとする戦略文書です

つまり「教育改革」というよりは、「教育人材市場の構造改革」として読むべきものです。

ご希望であれば、これを 「国・大学・教育委員会・産業界・現場教師」別にシナリオ分析(得する組織/失う組織の未来像)として整理することもできますが、そちらも必要でしょうか?

元教員養成単科大学の関係者としては,なかなか大変な状況だという印象だ。これまでは,教員が余っているということで,1988年に大教大では教養学科(ゼロ免許=非教員養成コース)を設置し暫くは落ち着いていたが,2003年に国立大学が法人化され教員養成単科大学の統合再編話がひとしきり盛り上がった。

そしてその後も学生定員削減と組織改革が頻繁に繰り返されてきた。2006年の教育基本法改正,2007年の専門職大学院としての教職大学院制度の創設。2009年に教員免許更新制が教員の資質能力の向上(自民党右派の本音は不適格教員の排除)を目的に導入など,てんてこ舞いで振り回され続けたのだ。

大教大には夜間学部があったために,機能がやや重複する教職大学院設置になかなか踏み切れなかったが,2015年には関西大学,近畿大学とともに連合教職大学院を設置することになった。2012年から設置に向けた仕事をしていました。あ〜あれからもう10年も経ったのね。

定年退職後も,2022年に教員養成フラグシップ大学に選定され(同時期には免許更新制も廃止),2024年には大阪市総合教育センターを含むみらい教育共創館もオープンして一息ついたと見えていた。そこのところにまたこの荒波がくるのか。



図:ChatGPTが生成した大教大連合教職大学院のフェイク画像


2025年9月3日水曜日

ループ量子重力理論

ChatGPTとGeminiを往復させることで,ループ量子重力理論の解説を作成した。Geminiの方が日本語としてわかりやすいテキストを作ってくれる。ChatGPT-5 Thinking を用いると,より高度な解説情報が得られるのだけれど,日本語としての筋がみえない。そこで,このChatGPT-5 Thinkingの回答をGemini に補足して得られたものが,下記のテキストになる。

日本語版のWikipediaはほとんど情報がないので,それよりはずっとましなのだけれど,英語版のレベルには達していない(もっとも英語版は,This article may be too technical for most readers to understand. Please help improve it to make it understandable to non-experts, without removing the technical details. (September 2024) なんちゃってだけれど)。自分が必要な情報にフォーカスしてまとめることはできそうだが,結構レベルの調整が難しくもある。


量子重力理論(LQG):発展、現状、そして未解決の課題

ループ量子重力理論(Loop Quantum Gravity: LQG)は、一般相対性理論の正準量子化というアプローチを現代的なゲージ理論の言語で復活させ、時空の背景独立な量子記述を目指す理論です。その発展は、困難な概念的課題への挑戦と、画期的な数学的ツールの導入の歴史でもあります。

1.黎明期:Wheeler-DeWitt方程式からアシュテカ変数へ (1960年代~1980年代)

量子重力の探求は、時空全体の状態を記述する波動関数 Ψ[g_μν​] が満たすべきWheeler-DeWitt方程式の研究から始まりました。しかし、この方程式は数学的に極めて扱いにくく、時間パラメータが方程式から消えてしまう「時間の問題」など、深刻な概念的困難を抱えていました。

この停滞を打破したのが、1986年にアバイ・アシュテカによって導入されたアシュテカ変数です。これは、時空の計量をSU(2)ゲージ理論の「接続(connection)」と「三脚場(triad)」で置き換える変革的な再定式化でした。この変数の利点は、一般相対性理論の拘束条件(物理的な状態を定義する方程式)が、複雑な非線形関数から単純な多項式で表現できるようになった点にあります。これにより、量子化への道が大きく開かれました。

2.基礎の確立:スピンネットワークと幾何学の量子化 (1980年代後半~1990年代)

アシュテカ変数という新たな土台の上で、カルロ・ロヴェッリとリー・スモーリンは、ゲージ不変な物理状態を構成する方法を模索しました。彼らは、接続の情報を閉じた経路(ループ)に沿って積分したウィルソンループを基本変数として採用しました。

そして、彼らは数学者ロジャー・ペンローズが純粋に組み合わせ論的な空間のモデルとして提唱していたスピンネットワークが、この理論の量子状態を記述する自然な基底を提供することを発見しました。

スピンネットワークは、ノード(点)と、SU(2)の既約表現(スピン j=0,1/2,1,...)でラベル付けされたリンク(線)から構成されるグラフです。この枠組みでは、空間の幾何学は根源的に離散的になります。面積演算子や体積演算子を構成すると、その固有値スペクトルは離散的になり、プランクスケールで最小単位を持つことが示されました。これは、時空が滑らかな背景ではなく、量子的な「原子」の集まりとして存在する、というLQGの核心的描像を確立しました。

重要な理解の前進ポイント:

・背景独立性の実現:スピンネットワーク状態は、特定の時空座標や計量に依存せず、抽象的なグラフとして存在します。これは一般相対性理論の精神である「背景独立性」を量子レベルで実現したものです。

・幾何学の量子化::面積や体積が離散的なスペクトルを持つという具体的な予測は、理論の検証可能性を示唆する重要な成果です。

3.ダイナミクスの探求と応用的成果 (2000年代~)

静的な空間の量子状態(スピンネットワーク)が確立されると、次なる課題は時間発展、すなわちダイナミクスを記述することでした。これには二つの主要なアプローチがあります。

(1) 正準理論とスピンフォーム理論

・正準アプローチ(Canonical Approach):時空を空間+時間に分解し、ハミルトニアンを用いて時間発展を記述します。LQGにおける最大の難関は、ダイナミクスを司るハミルトニアン拘束を量子演算子として矛盾なく定義することです。これは未だ完全には解決されていません。

・共変的アプローチ(Covariant Approach / スピンフォーム):こちらは時空を一体として扱い、量子状態間の遷移振幅を計算する経路積分的なアプローチです。スピンネットワークの時間発展の歴史は、2次元の面(フェイス)が組み合わさった泡のような構造、すなわちスピンフォームとして記述されます。スピンフォームの各頂点(vertex)での振幅を定義することで、遷移確率を計算します。EPRLモデルなどの具体的なモデルが提案され、低エネルギーで一般相対性理論の伝播関数(プロパゲーター)を再現する試みが進められています。

(2) 物理現象への応用

・ブラックホールのエントロピー: LQGは、ブラックホールの事象の地平面を貫くスピンネットワークのリンクをミクロな自由度と見なすことで、ベッケンシュタイン・ホーキングのエントロピー公式を導出します。ただし、この計算では理論に含まれる未定の定数であるイムルジ・パラメータ (γ) の値を、エントロピー公式に合うように人為的に固定する必要があります。このパラメータの物理的意味は、今なお議論の対象です。

・ループ量子宇宙論 (LQC):LQGの原理を対称性の高い宇宙モデルに適用することで、ビッグバン特異点がビッグバウンスに置き換わるという強固な結果が得られます。時空の離散性により、曲率に上限が生まれ、宇宙が無限の密度に潰れることを防ぎます。

4.未解決課題と最前線:

LQGは多くの成功を収めましたが、依然として多くの根本的な課題を抱えています。

・古典極限 (The Classical Limit):プランクスケールでの量子的な記述から、低エネルギー(マクロなスケール)で滑らかな時空と一般相対性理論(およびその量子場理論的補正)がどのように再現されるのかを完全に示すことは、理論の最重要課題です。特にスピンフォーム理論の低エネルギー極限の妥当性が厳しく問われています。

・ハミルトニアン拘束問題:正準理論において、物理的に正しく、かつ量子論的な矛盾(アノマリー)のないハミルトニアン拘束演算子を定義する問題は、未だ決定的な解決を見ていません。

・物質場との結合:標準模型の素粒子(フェルミオンやゲージ場)をスピンネットワークの枠組みにどのように自然に組み込むかは、活発な研究分野ですが、まだ完成には至っていません。

・観測的検証:理論の正しさを証明するには観測的証拠が不可欠です。現在、高エネルギー天体現象(ガンマ線バーストなど)からの光子のエネルギーによる到達時間のずれを測定し、「ローレンツ不変性の破れ」の痕跡を探す試みや、LQCが予測する初期宇宙のゆらぎが宇宙マイクロ波背景放射(CMB)に残す特徴的なシグナルを探す研究が進められています。

・他の量子重力理論との関係:超弦理論やホログラフィー原理といった他のアプローチとの関係性は未だ不明瞭です。これらの理論が同じ究極理論の異なる側面を見ているのか、あるいは全く相容れないものなのかを探ることは、今後の大きなテーマです。

総じて、LQGは時空の量子的な性質を解明するための強力かつ数学的に厳密な枠組みを提供していますが、ダイナミクスの完全な理解と実験的検証という高いハードルが残されており、今なお発展途上にある挑戦的な理論であると言えます。



図:ループ量子重力理論のイメージ(Gemini 2.5 flash)

2025年9月2日火曜日

一銭五厘の旗

お昼のNHKで(テレビばっかり見ているよね),2016年の「とと姉ちゃん」の再放送をしており,いよいよ「暮しの手帖」が始まりそうになっている。大橋鎮子(1920-2013)とか花森安治(1911-1978)を検索しているうちに,見よぼくら一銭五厘の旗という花森安治の1970年の文章(400行,6000字)にたどりついた。

これを生成AIに入力して作者当てをしてもらった。ファイルをペーストした上で「以下の文は誰のものでしょう」としたときの答えがこれ。読売と朝日と日経にいじめられているPerplexity以外は完全にハルシネーションだった。日本語の学習がまったく足りていない。

ChatGPT-5:
この長文は、**山本有三(やまもとゆうぞう)**のものです。
正確には、彼の随筆「一銭五厘の旗」(1970年、岩波新書)に収められた文章です。

Gemini 2.5 flash:
これは小沢昭一の文章です。
ラジオやテレビで活躍した俳優であり、芸能研究家でもあった小沢昭一は、エッセイストとしても知られていました。この文章は、彼の著書『べんけい』に収録されている「一銭五厘の旗」というエッセイです。

Claude 4.0 Sonnet:
この詩は寺山修司の作品「見よぼくら一銭五厘の旗」です。

Grok:
この詩は石川啄木のものではなく、大江健三郎の作品「見よ、ぼくら一銭五厘の旗」からの引用です。

DeepSeek V3:
この文章は、日本の詩人・作家である井上ひさしの作品です。特に、1970年に発表された「見よぼくら一銭五厘の旗」というエッセイまたは詩的な散文として知られています。

Perplexity:
この文「見よぼくら一銭五厘の旗」は、花森安治のものです。

作者について
花森安治(はなもりやすじ)は、『暮しの手帖』の創刊編集長であり、戦後に民主主義や庶民の暮らしの大切さを訴え続けた編集者です。
本作は1970年に発表され、「一銭五厘」とは戦時中の召集令状の郵便料金(ハガキ一枚の値段)に由来し、庶民の命の象徴として使われました。
(以下略)



図:花森安治の一銭五厘の旗のイメージ(左 ChatGPT-5,右 Gemini 2.5 flash)

2025年9月1日月曜日

素粒子物理学の10年

ファイル倉庫の掃除をしていたら,萩原薫さんの2015年の「2015 年度原子核三者若手夏の学校,素粒子パート現象論講義録,素粒子物理学の現状と将来」という127pのpdf資料がでてきた。

10年間でどうなったかを,自分で読んで調べるのが面倒なので,このpdfを読み込ませた上でGemini 2.5 Pro に尋ねてみた。すると何となくそれらしい答えが返ってきた。どの程度ハルシネーションが混じっているのかはわからないけれど,現在の物理に対する自分の知識や理解の解像度では十分だと思われる。もう20年以上も物理から遠ざかっているからなあ。


この調子で自分で調べて考える力はどんどん衰えていく加齢とAIの相乗効果だ。良いのか悪いのか。宇宙の眼ディックが描いていた「加速器事故がもたらすグロテスクな個人の精神世界に飲み込まれる現象」というのがまさに今のトランプの世界である。そのチンケな先取りをしていたのは安倍晋三だ。そしてそれらを唯々諾々と受け入れてきた我々は,N国も再生の道も兵庫県も参政党も違和感なく支持している多数の人々(アホ)の隣人(アホ)であって,知力が衰えて全員で手をつないで下降の道を辿っていたとしてもしょうがない。

Q(koshix):
(萩原さんの講義録127pのpdfファイルを添付)
10年前の講義録ですが,最新の素粒子物理学の現状で,この講義録の時点の内容と大きく変わったことはなんですか。具体的エビデンスを踏まえて解説してください。
A(Gemini 2.5 Pro):
2015年の萩原薫氏による講義録は、当時の素粒子物理学の現状と将来への期待、特に標準模型を超える新しい物理への強い確信を見事に捉えています。しかし、その後の約10年、特にLHC(大型ハドロン衝突型加速器)での実験やその他の精密測定実験によって、状況は大きく変化しました。

講義録で語られた期待と、2025年現在の現実との間で最も大きく変わった点は、LHCで期待されていたTeVスケールの新しい物理(特にミニマル超対称性標準模型(MSSM)のような理論)の兆候が発見されず、多くの理論モデルが厳しい制限を受けたことです。一方で、標準模型の予言と実験結果の間のいくつかの「ほころび」は、より鮮明になり、新たな謎として重要性を増しています

以下に、具体的なエビデンスを踏まえ、主要な変化を解説します。

1.ミューオン g-2異常:謎はより深く、確固たるものに

【2015年の講義録では】
萩原氏は、ブルックヘブン国立研究所(BNL)の実験結果に基づき、ミューオンの異常磁気能率(g-2)が理論予言から約3.3σ(標準偏差)ずれていることを「新しい物理が最も見つかる可能性が高い」ヒントとして挙げています 。彼は理論計算に強い自信を示し、これが新しい物理の存在を強く示唆していると論じていました 。

【その後の進展】
この異常は、その後の実験でさらに確固たるものになりました。米国のフェルミ国立加速器研究所(フェルミラボ)で行われた新しい「Muon g-2」実験が、2021年と2023年に相次いで結果を発表しました。これらの結果はBNLの測定値と一致し、精度も向上しました。

【エビデンス】 2023年に発表されたフェルミラボの最新結果とBNLの結果を統合すると、実験値と理論予測(SM理論イニシアチブによるコンセンサス値)との乖離は5σを超えました。これは統計的に「発見」を意味するレベルであり、このずれが単なる統計的な揺らぎである可能性は極めて低くなりました。この結果、ミューオンg-2の異常は、標準模型を超える物理の存在を示す最も強力な証拠の一つと見なされています。

2.LHCでの超対称性(SUSY)探索:深まる沈黙

【2015年の講義録では】
萩原氏はミニマル超対称性標準模型(MSSM)が非常に有力な候補であると強く信じていると述べています 。その理由として、①ゲージ結合定数の美しい統一 、②重いトップクォークの予言 、③電弱対称性の自発的破れの自然な説明 、などを挙げています。特に、銀河中心からのガンマ線異常とミューオンg-2を同時に説明できる「軽いスタウ(スカラータウ粒子、約100GeV)とビーノ(約10GeV)が存在するシナリオ」に注目し、LHCで検証できるはずだと期待を寄せていました 。

【その後の進展】
LHCはその後、重心系エネルギー13TeVでのRun 2(2015-2018)と13.6TeVでのRun 3(2022-)で膨大なデータを収集しました。しかし、現在に至るまで、超対称性粒子(スクォーク、グルイーノ、そして講義で期待されたスタウなど)の直接的な証拠は全く見つかっていません。

【エビデンス】 LHCのATLAS実験やCMS実験によって、多くの超対称性粒子の質量の下限値が大幅に引き上げられました。例えば、講義で議論されたような100GeV程度の軽いスタウが存在するシナリオは、現在ではほぼ完全に排除されています。多くのモデルで、主要な超対称性粒子の質量は数TeV以上でなければならないとされ、MSSMが提唱された当初の動機であった「自然さ(階層性問題の解決)」は大きく損なわれました。この「発見されなかった」という結果は、素粒子物理学の理論研究の方向性に大きな影響を与えています。

3.暗黒物質:WIMP仮説の後退と新たな可能性

【2015年の講義録では】
銀河中心から観測されたガンマ線の超過(Galactic Center Excess, GCE)について、質量約10GeVの暗黒物質(ビーノ)がタウレプトン対へ対消滅している証拠かもしれない、というHooperらの論文に非常に感銘を受けたと語っています 。これは当時、WIMP(Weakly Interacting Massive Particle)仮説を支持する有力な間接的証拠の一つと考えられていました。

【その後の進展】
GCEの起源については、議論が続いています。暗黒物質の対消滅で説明するシナリオは依然として可能性の一つですが、ミリ秒パルサーのような分解されていない天体物理学的な起源でも説明できるという見方が有力になっています。さらに、WIMPを直接検出する実験も飛躍的に感度を向上させましたが、信号は得られていません。

【エビデンス】 地下実験であるLZ (LUX-ZEPLIN) 実験やXENONnT実験が、2022年以降に世界最高感度での探索結果を報告しました。これらの実験は、WIMPと原子核の散乱断面積に対して極めて厳しい上限を与え、特にMSSMなどが自然に予言するようなWIMPのパラメータ領域の多くを排除しました。これにより、WIMP仮説への期待はかつてより低下し、アクシオンなど他の暗黒物質候補への関心が高まっています。

4.陽子崩壊とニュートリノ:限界の更新

【2015年の講義録では】
大統一理論(GUT)の正当性の根拠として、クォークとレプトンの統一や電荷の量子化を挙げていました 。GUTは陽子の崩壊を予言しますが、当時はまだ観測されていませんでした 。また、ニュートリノに関しては、マヨラナ粒子であり、その質量はシーソー機構によって説明されるという見方を示しています 。

【その後の進展】
これらの探索も着実に進展し、理論への制限を強めています。

【エビデンス】
・陽子崩壊: スーパーカミオカンデ実験は探索を続け、陽子の寿命の下限値をさらに更新しました。これにより、最も単純なSU(5) GUTモデルなどは、ますます厳しい状況に置かれています。現在は、次世代のハイパーカミオカンデ計画が建設中で、さらなる感度向上が期待されています。
・ニュートリノ: ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊の探索実験(KamLAND-Zen、GERDA、EXO-200など)も感度を上げていますが、まだ発見には至っていません。これにより、ニュートリノがマヨラナ粒子である場合の有効質量の上限値が更新され続けています。

5.まとめ

2015年の講義録で語られた物理像は、理論的な美しさといくつかの間接的な証拠に支えられた、希望に満ちたものでした。しかし、その後の精力的な実験、特にLHCでの探索結果は、当時最も有力視されていたMSSMのようなTeVスケールの新しい物理のシンプルな描像を厳しく制限しました。

その結果、素粒子物理学の現状は、確固たる謎(ミューオン g-2)と、深まる沈黙(LHCでの新粒子不在)が共存する、より複雑で挑戦的な局面に入ったと言えます。研究の焦点は、特定のモデルから、より広範な可能性(より重い粒子、より弱い相互作用、アクシオンなど)の探索や、精密測定を通じて標準模型のほころびをさらに探求する方向へとシフトしています。


図:素粒子物理学10年のイメージ(Geminiによる,式は出鱈目)

P. S. 久しぶりにテレビで流れていたパプリカの録画をみると,さすがに素晴らしいアニメーションだった。平沢進の白虎野を含めて。これがまさにディックの宇宙の眼的なイメージの表現だ。その主役があの林原めぐみだったのか。残念至極。