2019年1月5日土曜日

ラグランジュ点(1)

嫦娥4号月裏面着陸からの続き)

ラグランジュ点Lagrangian Points)というのは,天体力学における制限3体問題の平衡解を表している。つまり,2つの天体がその重心の回りに回転運動しているときに,その2つの天体との相対位置を保ったままで運動できる5つの点である。これらの点は,回転座標系において小物体に働く2天体の重力と遠心力の合力が0になるという条件で求めることができ,3つの直線解と2つの正三角形解から成り立つ。下図に基づいて考えてみよう。



まず2天体の重心の周りの角速度$\omega$を求める。質量$M_1$と$M_2$の2つの天体がOとPの位置にあり,距離$R$を保ちながら重心Gの周りを回転している。換算質量を$\mu=\frac{M_1 M_2}{M_1+M_2}$とすると,相対運動に対する運動方程式 $\mu R \omega^2 = \frac{G M_1 M_2}{R^2}$ より,$\omega^2 = \frac{G (M_1+M_2)}{R^3}$である。

次に,小物体の質量を$m$とすると,$\rm{L}_i$における各遠心力は$\ell \equiv \rm{GL}_i$として$m \ell \omega^2$で与えられる。また,重心から各天体までの距離は,GO=$\frac{M_2 R}{M_1+M_2}$,GP=$\frac{M_1 R}{M_1+M_2}$である。

【直線解について】
$a \equiv \frac{M_2}{M_1}$とおき,力の釣り合いの式を求めた後,両辺を$GmM_1$で割る。
L1:  $\rm{PL}_1=r$とすると,$\omega$での回転系における力の釣り合いの式より,
\begin{equation}
\begin{aligned}
\frac{G m M_1}{(R-r)^2}=\frac{G m M_2}{r^2}+ m(\frac{M_1 R}{M_1+M_2}-r)\omega^2\\
\frac{1}{(R-r)^2}=\frac{a}{r^2}+ \frac{1}{R^2}-\frac{r(1+a)}{R^3}
\end{aligned}
\end{equation}

L2: $\rm{PL}_2=r$とすると,$\omega$での回転系における力の釣り合いの式より,
\begin{equation}
\begin{aligned}
\frac{G m M_1}{(R+r)^2}+\frac{G m M_2}{r^2}=m(\frac{M_1 R}{M_1+M_2}+r)\omega^2\\
\frac{1}{(R-r)^2}+\frac{a}{r^2}= \frac{1}{R^2}+\frac{r(1+a)}{R^3}
\end{aligned}
\end{equation}

L3: $\rm{OL}_3=R-r$とすると,$\omega$での回転系における力の釣り合いの式より,
\begin{equation}
\begin{aligned}
\frac{G m M_1}{(R-r)^2}+\frac{G m M_2}{(2R-r)^2}=m(\frac{M_2 R}{M_1+M_2}+R-r)\omega^2\\
\frac{1}{(R-r)^2}+\frac{a}{(2R-r)^2}= \frac{a}{R^2}+\frac{(R-r)(1+a)}{R^3}
\end{aligned}
\end{equation}

【正三角形解について】



(1)$\underline{解は二等辺三角形の頂点にあること}$。
 遠心力は重心からラグランジュ点の方に向っているので,釣り合いが成立するためには重力の合力も重心方向に向わなければならない。
 2つの天体OとPから$\rm{L}_i$の距離を,$\ell_1$と$\ell_2$すると,OとPからの重力の大きさは,$\frac{GmM_1}{\ell_1^2}$と$\frac{GmM_1}{\ell_1^2}$となる。このとき,$\rm{L}_i\rm{P}$方向と$\rm{L}_i\rm{O}$方向の力ベクトルを合成したものがGに向わなければならない。
 この条件は,$\frac{GmM_1}{\ell_1^2} \times \frac{M_2}{M_1} \times \frac{\ell_2}{\ell_1} =\frac{GmM_2}{\ell_2^2} $であることから,$\ell_1^3=\ell_2^3$,すなわち,ラグランジュ点$\rm{L}_i$はOPを底辺とする二等辺三角形の頂点にある。

(2) $\underline{解は正三角形の頂点になること}$。
 二等辺三角形の底辺から頂点を見込む角を$\theta$として,重力の合力と遠心力をそれぞれ$\theta$の関数として表して等置する。このとき二等辺三角形の等辺$\ell$は,$\ell \cos\theta = \frac{R}{2}$となる。また,ラグランジュ点と重心の距離は,$\sqrt{(\ell \sin \theta)^2+(\frac{R}{2}-\frac{M_2R}{M_1+M_2})^2}$ である。したがって,遠心力の大きさは次式で与えられる。
\begin{equation}
\frac{Gm}{2R^2} \sqrt{(M_1+M_2)^2 \tan^2\theta + (M_1-M_2)^2}
\end{equation}
 一方,合成した重力ベクトルの成分は,$( \frac{Gm}{\ell^2}(M_1-M_2)\cos\theta, \frac{Gm}{\ell^2}(M_1+M_2)\sin \theta )$であるから,重力の大きさは次式のようになる。
\begin{equation}
\frac{Gm \cdot 8\cos^3\theta }{2R^2} \sqrt{(M_1+M_2)^2 \tan^2 \theta + (M_1-M_2)^2}
\end{equation}
 (4)式と(5)式が一致するのは,$\cos\theta=\frac{1}{2}$に限られ,そのときの角度$\theta=\pm 60^\circ$となって,ラグランジュ点$\rm{L}_4$と$\rm{L}_5$は天体Oと天体Pを頂点とする正三角形のもう一つの頂点(とそれを反転させたもの)となる。

等ポテンシャル曲面の断面図については,Lagrange Points of the Earth-Moon Systemが分かりやすい。

ラグランジュ点(2)に続く)

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