2024年4月9日火曜日

国立大学法人化20年

2004年4月に国立大学が法人化されてから20年がたった。

各新聞では,国立大学法人化20年の功罪をとりあげている。大半は,正確な分析や反省を抜きにして,研究を強化しようというなまぬるい無内容なスローガンを掲げたものだ。

驚いたのは朝日新聞の国立大学学長アンケートだ。86国立大学の79人が回答し,その7割が法人化によって大学は教育研究機関として悪い方向に進んだと回答した。記事のタイトルもそのようになっている。びっくりしたのはそうではなくて,3割26人がよくなったと回答していることのほうだ。すごいよね。

中日新聞でも同様の傾向が出ていた。中部圏16大学の学長の4割が法人化を評価しているというものだ。現体制の勝者としての学長達の多くはこのシステムを評価しているのか。なるほど,闇が深いわけだ。

日本経済新聞の4月8日朝刊教育面では,ボストンカレッジのフィリップ・アルトバック名誉教授を引っ張り出してきて,日本の大学の国際競争への課題を語らせていた。いいのだけれど,明らかな誤認が含まれていた。「日本の問題は,学生の80%近くが私立大学の通っていることだ。これらの多くは規模が小さく,人口が急速に減る地方に位置している。・・・」

前段は正しいが,後段は誤り。日本の私立大学の学生定員の多くは都市部にある。地方にはそもそも私立大学も少ないのだ。確かめた結果が以下の表。

国公立大学私立大学合計(%)
北海道0.600.921.53 
青森県0.660.571.23 
岩手県0.540.360.90 
宮城県0.611.522.13 
秋田県0.760.150.91 
山形県0.740.351.09 
福島県0.370.430.80 
茨城県0.610.340.96 
栃木県0.210.861.07 
群馬県0.610.861.47 
埼玉県0.111.351.47 
千葉県0.181.541.72 
東京都0.374.514.88 
神奈川県0.141.761.90 
新潟県0.680.601.28 
富山県0.960.101.06 
石川県0.921.532.45 
福井県0.800.501.30 
山梨県1.030.931.97 
長野県0.630.220.85 
岐阜県0.340.661.00 
静岡県0.380.540.92 
愛知県0.352.002.35 
三重県0.360.410.77 
滋賀県0.491.782.27 
京都府0.834.885.71 
大阪府0.362.292.64 
兵庫県0.371.732.10 
奈良県0.371.081.45 
和歌山県0.570.370.94 
鳥取県1.170.061.23 
島根県1.090.001.09 
岡山県0.661.362.02 
広島県0.621.321.94 
山口県1.090.271.36 
徳島県0.890.711.59 
香川県0.630.310.94 
愛媛県0.630.641.27 
高知県1.250.121.37 
福岡県0.531.602.13 
佐賀県0.710.240.95 
長崎県0.800.481.27 
熊本県0.560.831.39 
大分県0.450.891.34 
宮崎県0.560.330.89 
鹿児島県0.590.390.98 
沖縄県0.680.551.23 
平均値0.610.961.58
標準偏差0.260.970.93

平成5年度の各都道府県の本部所在大学の学部学生数を,当該自治体の人口で除したもの(%)。上位は黄色,下位は水色で示した。明らかに私立大学学生の割合が高いのは首都圏,近畿圏と名古屋なのである。なお,国公私立全大学生数の対人口比は,京都-東京-大阪-石川-名古屋の順で高い。江戸時代の都市の文化度順なのか?


図:各都道府県の国公立大学の学生率(横軸)と私立大学の学生率(縦軸)

東京と京都が私立大学の突出した2点に対応している。私立大学の全国での偏りは非常に大きい。国立大学は関東圏の数県を除けば,高々1:3の範囲に収まっている。


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