2023年6月19日月曜日

ローラー式すべり台(1)

カーリングの原理(1)からの続き

カーリングの原理で有名になった立教大学の村田次郎さんが,第2段としてすべり台の滑降時間に関する論文を書いた。しばらく前にマスコミでも話題になっていた。

問題意識は次のようなものだ。自由落下する物体の落下時間はその物体の質量によらない。摩擦のない斜面を滑降する場合も同様だ。ガリレオが長い斜面を作って実験したやつだ。ところが,実際のすべり台では大人と子供で滑る時間がちがう。重い人ほど速いらしいのだ。これはなぜか。

重いものが速く落ちる現象は実は良く知られている。雨だ。大きな雨粒ほど速く落ちる。これは大学の物理の授業で良く取り上げる,速度に依存する抵抗が働いているときの終端速度の問題だ。慣性抵抗が働く場合,終端速度 $v$ は次式 $k\,v^2=m\, g$ を満たすので,$v= \sqrt{g/k \cdot m}$となって,雨粒の質量$m$の平方根に比例する。

村田さんとその卒論学生の塩田君は,学生の探究実験としてこれをとりあげて,丁寧に工夫された実験と測定を行っている。これを分析した神戸大学の牧野淳一郎さんによると,ローラー式すべり台の場合も終端速度の平方根に比例するとのことで,ローラーの回転にエネルギーが散逸するとしてほぼ説明できるという新たな解釈を行った。

面白い話なので,自分でも計算してみることにする。まず,終端速度$v$と質量$m$の関係だ。村田チームは,動摩擦係数$\mu$を経由させながら,終端速度$v$の一次に比例する動摩擦係数$\mu = K v$を導入し,終端速度を$v=\frac{\tan \theta}{K}$ としている。ここで$\theta$はすべり台の斜度である。物理教育 Vol. 71 No.2 95-100 (2023) に投稿された「すべり台の動摩擦係数の実測研究」の図5 に $K$と$m$の関係があって,単調現象の質量依存性を指摘するにとどまっている。牧野さんはこの図から,終端速度$v$の質量依存性を $v=0.58 \sqrt{m}$ とした。

さて,図を読み取ると,資料{A,B,C,D}に対して,質量は$m$={1.0,2.2,4.2,6.2}であり,パラメタは$K$={0.395,0.255,0.175,0.145}となった。斜度の実測値を入れた終端速度の式,$v=\frac{\tan 13^\circ}{K}$にあてはめると,$v$={0.582, 0.902, 1.314, 1.586}となる。これを最も良く再現するのは $v \propto m^{1/1.8}$の場合であり,$v \propto m$ではなく,$v \propto m^{1/2}$のモデルの妥当性を示している。村田さんの論文の図から得られたのは,$v = 0.62 \sqrt{m}$であり,牧野さんの値より少しだけ大きくなった。


写真:ローラー式すべり台の完全に誤ったイメージ
(Bing=DALLE作,何度説明しても全く理解してもらえなかった,
人間のコミュニケーション能力が真剣に問われる・・・)


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