2020年6月18日木曜日

XENON1T暗黒物質実験

イタリアの山中1400mの深さに世界最大級の地下素粒子研究施設グラン・サッソ国立研究所がある。そこに設置された超高純度低バックグラウンド液体キセノン測定器XENON1Tによる実験結果がarxivに報告(Observation of Excess Electronic Recoil Events in XENON1T)されており,IPMUからもプレスリリースが出ている。

本来は宇宙にある暗黒物質の測定を目的としているが,この報告では標準理論からずれた新しい物理学の探索に興味がある。つまり,暗黒物質の候補としてのアクシオンを考えた場合,宇宙論的な制約から暗黒物質候補としてのアクシオンはKeVオーダー以下でなければならない。一方この装置では,1〜100KeVのオーダーのアクシオン(太陽アクシオン)を観測することができるというわけだ。さっそくアブストラクトを訳してみた

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XENON1T検出器で測定された低エネルギー電子反跳データを用いて,新しい物理学の探索を行った結果を報告する。0.65トン年の被ばくと1-30keVの間の76±2(stat)イベント/(トン×年×keV)という前代未聞の低バックグラウンド率により,太陽アクシオン,太陽ニュートリノの磁気モーメント,ボソニック暗黒物質の競合的探索が可能となった。

7 keV以下で観測される既知のバックグラウンドを超える過剰は,低エネルギーに向かって上昇し,2-3 keVの間で顕著になる。太陽アクシオンモデルは3.5σの有意性を持ち,電子・光子・原子核へのアクシオン結合については3次元の90%信頼度曲面が報告されている。この曲面はg_ae<3.7×10^-12, g_ae g_an^eff<4.6×10^-18, g_ae g_aγ<7.6×10^-22 GeV-1で定義された立方体に内接しており,g_ae=0またはg_ae g_aγ=g_ae ge_an^eff=0のいずれかを除く。

ニュートリノ磁気モーメント信号は3.2σでバックグラウンドよりも同様に有利であり,μ_ν∈(1.4,2.9)×10^-11 μ_B (90% C.L.) の信頼区間が報告されている。どちらの結果も恒星からくる制約とは緊張関係にある。

また、当初は考慮されていなかったトリチウムのβ崩壊も,キセノン中のトリチウム濃度が(6.2±2.0)×10^-25 mol/molに対応する3.2σの有意性で説明できる。このような微量な量は、現在の生産・還元メカニズムの知見では確認も排除もできない。制約のないトリチウム成分をフィッティングに含めると,太陽アキシオン仮説とニュートリノ磁気モーメント仮説の有意性はそれぞれ2.1σと0.9σに減少する。この解析によれば,疑スカラーとベクトル型のボソニック暗黒物質について,1〜210keV/c^2の間のほとんどの質量について,これまでで最も制限的な直接の制約を与える。
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論文のアペンディックスにはβ線スペクトルのモデリングとして2ページを越えて懐かしい式が並んでいた。鉛やクリプトンからのバックグラウンドの計算で必要らしい。べーレンズ・ビューリングのβ線スペクトルの式や,スペクトル補正関数,クーロン補正の係数,スクリーニング補正の効果などおなじみの表式のオンパレードである。低エネルギーにおける反跳電子の測定が肝なので,このあたりを丁寧に押さえておく必要があるのだと思われる。






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