2019年3月19日火曜日

運動物体からの斜方投射

昨日届いた「大学の物理教育(2019 Vol.25 No.1)」の講義室に,茨城大学工学部の坪井一洋さんが,「質点の投射角を再考する 大学の物理教育25(2019)34-37」という記事を書いていた。とてもおもしろかったので,その計算をフォローしてみることにした。


坪井さんの記事の趣旨は次のとおりである。一様重力場での放物運動では,斜方投射の投射角を45度としたときに質点を最も遠くまで投げることができる。しかし現実の現象(ゴルフ,野球,走り幅跳び,砲丸投げ)ではそうなっていない。空気抵抗で説明できる部分もあるがそうでない部分もある。スポーツ科学では初速度の大きさはが初速角に依存するという議論もある。そこで,これをモデル化して物理教育(初等力学)の題材にしようというものである。

図 運動物体からの斜方投射モデル

原点をOとする慣性系Sを考える。Sのx軸上を一様な速度$u$で正方向に運動している物体がある。この物体がS系の原点Oを通過した瞬間($t=0$)に,質量$m$の質点を,物体に固定した座標系Mからみて図のように初速度$v$,投射角$\phi$でx-y平面内に投射する。この質点には一様な重力$mg$が y 軸負方向に働いている。放物運動した質点は原点からの距離が$L$であるx軸上の点まで到達したとする。なお,S系からみた質点の速度ベクトル$\boldsymbol{w}$は図のように与えられる。

S系における原点からの距離$L$を最も大きくするにはどうすればよいか。原点における物体の初速度を$(V_x,V_y)$とすれば,高等学校の物理では次の結果を得ている。$L=\dfrac{2V_xV_y}{g}$

ところでこの$V_x$と$V_y$は今のモデルでは次のように与えられる。ただし,$0 < \phi < \pi/2$,$0 < \theta < \pi/2$とする。

\begin{equation}
\begin{aligned}
V_x = w \cos \theta = u + v \cos \phi \\
V_y = w \sin \theta = v \sin \phi
\end{aligned}
\end{equation}

つまり,$u,v$が与えられたときに,$L$を最大にする$\phi$または$\theta$を求めるのがここでの問題となる。なお,$w$は,ベクトルの図に余弦定理をあてはめた次の式に従うため,$\theta$の関数であると考えることにする($\phi$の関数とすることもできる)。
\begin{equation}
w^2+u^2-2w u \cos\theta = v^2
\end{equation}
$w$についての2次方程式を解いて具体的な$\theta$の関数形を求め,さらに$\dfrac{d w}{d \theta}$を計算しておく。
\begin{equation}
\begin{aligned}
w &= u \cos\theta + \sqrt{v^2-u^2\sin^2\theta}\\
\frac{dw}{d\theta} &= -u\sin\theta + \frac{-u^2\sin\theta \cos\theta}{\sqrt{v^2-u^2\sin^2\theta}}\\
&= -u\sin\theta \ \frac{\sqrt{v^2-u^2\sin^2\theta} + u \cos\theta }{\sqrt{v^2-u^2\sin^2\theta}}\\
&= -\frac{u\sin\theta\ w }{\sqrt{v^2-u^2\sin^2\theta}}
\end{aligned}
\end{equation}
以下では,$\gamma=\dfrac{u}{v}$とおく。

(1) $L(\phi)$を最大にする$\phi$に対する条件を求める。
\begin{equation}
L(\phi)=\frac{2\ (u+v\cos\phi)\ v\sin\phi}{g}\\
\frac{dL}{d\phi}=\frac{2v}{g}\{-v \sin^2\phi +(u + v\cos\phi) \cos\phi \}=0\\
2v \cos^2\phi +u\cos\phi -v=0\\
2 \cos^2\phi + \gamma \cos\phi + 1 = 0\\
\therefore \cos\phi = \frac{\sqrt{\gamma^2+8}-\gamma}{4}
\end{equation}
(2) $L(\theta)$を最大にする$\theta$に対する条件を求める。
\begin{equation}
L(\theta)=\frac{2\ w\cos\theta\ w\sin\theta}{g}=\frac{w^2 \sin 2\theta}{g}\\
\frac{dL}{d\theta}=\frac{2w}{g}\,\frac{d w}{d\theta}\,\sin 2\theta + \frac{2w^2}{g}\,\cos 2\theta =0\\
\frac{-u\sin\theta \ \sin 2\theta}{\sqrt{v^2-u^2\sin^2\theta}}+ \cos 2\theta =0\\
4 u^2 \sin^4\theta\,(1-\sin^2\theta) = (v^2-u^2\sin^2\theta)(1-2\sin^2\theta)^2\\
v(1-2\sin^2\theta) = u\sin\theta\\
2 \sin^2\theta + \gamma \sin\theta + 1 = 0\\
\therefore \sin \theta = \frac{\sqrt{\gamma^2+8}-\gamma}{4}
\end{equation}
従って,最大の$L$を与える$\phi$と$\theta$は,$\phi+\theta=\frac{\pi}{2}$を満足している。

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